1-565
Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:43:57 (5639d)
565 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/07/29(土) 18:06:43 ID:cYuFN/UY
捕縛された翌日の晩、フーケの押し込められている座敷牢を訪れるひとりの男がいた。
「やぁ、ミス・ロングビル…いやさ、土くれのフーケ。ご気分はいかがですかね?」
この中年の男は確かここの教師で、コルベールとかいったはずだ。
「こんな処に閉じ込められたわたしを笑いにでもきたのかしら?」
「まさか。ここは問題を起した生徒を入れるための場所で、
居心地はそれほど悪くない筈ですぞ」
男はやれやれ、といった仕草で一笑に付したあと、徐に小脇に抱えていた箱を取り出した。
「貴女は明日、チェルノボーグの監獄へ移送されるそうです。
なので私が意趣返しをするチャンスが今宵限りなワケなんですよ」
動揺する表情を読まれないよう、顔を僅かに伏せて聞き返す。
「意趣返しって、わたしを拷問にでもかけようっていうの?」
男はさも心外とばかりに大きく首を振ってわたしの言葉を訂正して見せた。
「私の発明品、愉快なヘビくんEXの被験者になってもらうだけですよ。
私の支持者である、さる使い魔くんがヒントを与えてくれましてね。
女性を喜ばす道具としてこのヘビくんが絶大なる威力を発揮するのだと」
わたしはこの日の出来事を忘れる事ができない。
日付が変わるまでの数時間、わたしは道具に蹂躙され尽された。
そして夜明けまでこの男に抱かれた。
優しく、激しく、機械ではない人の温もりにわたしは溺れたのだった。
アルビオンへ渡った今でも思い出す。
あの男に再び会うのをわたしは楽しみにしているのも本当なのだ。
607 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/07/31(月) 21:40:30 ID:LeAdWCIy
目が醒めたキュルケは自分が薄暗い牢獄のような部屋にいる事に気がついた。
いや、むしろ石壁に打ち付けられた手鎖によって吊るされている、のが正しい状態だった。
「なっ、なんであたしがこんなところに…??」
身につけているのはいつもの寝巻き。大胆なそれは男を誘惑するためのような代物。
キュルケとしては自分に相応しいから、という理由に過ぎないのだが。
薄暗い室内は、ひんやりとして湿り気を帯びて少し澱んだ空気が流れていた。
僅かに風を感じるのはどこかに出口か通風孔が開いているからか。
まだ少し朦朧とした頭でそんな事を考えていると、古びてはいるが見るからに頑丈で
重厚な扉が嫌な音を立てて開いた。
「やぁ、ミス・ツェルプストー。やっとお目覚めのようだね」
いつもの調子でコルベールが挨拶をする。
「あたしをっ、こんなことして、どうしようっていうのっ!?」
吊るされているとはいえ、足は床に届いている。
石畳の冷たさも忘れて叫ぶキュルケだが、手鎖のせいで詰め寄るのもままならず、
鎖の耳障りな音が響くだけだった。
「こんなこと?」
コルベールは本当に不思議そうに、首を僅かに傾げてみせた。
それは生徒を相手する時の自然な仕草と何ら変わりない。
「教師に反抗する生徒に、簡単なお仕置きをしようとしているだけだよ?
何、君がいつもしているようなコトを、私が君にするだけ」
いつも教室で生徒の質問に答える口調。
石壁に響くコルベールの声は、聞きなれたそれとは違うものだった。
「私も昔はやんちゃをしていてね、もっと直接的なコトもしていたものだが…
まぁ、今からの記憶は後で消してあげるから、思う存分楽しんでくれたまえ」
徐に懐に入れていた筒状の道具を取り出すコルベール。
それはかつてキュルケが“妙なカラクリ”と呼んだ物に酷似していた。
彼女は自身の火遊びが、児戯に均しいことだと知るのはすぐのことである。