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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:44:08 (5638d)

96 名前:86[sage] 投稿日:2006/05/09(火) 23:06:23 ID:zI4yt6d4
才人×アンリエッタのSS…ようやく序章\(^o^)/オワタ
凄まじく長いだけのエロ無し駄文ですが、お時間があればどうぞ。
ちなみに全体の構成はこんな感じになっております。

序章 女王の関心(エロ無し)
一章 女王の親友(エロ無し)
二章 女王の恋人(エロ有り)
三章 女王の蜜月(エロ有り)
終章 女王の??(????)

つまり次もエロ無しが確定しているわけですね。ごめんなさいorz

97 名前:Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/05/09(火) 23:07:18 ID:zI4yt6d4
序章 女王の関心

『先日は大変お世話になりました。
 つきましては今度、お休みの日に城へいらして頂けませんか。
 護衛をしていただいた御礼も兼ねて、あなたのお話を伺いたいのです』

劇場での事件から数日後。
アンリエッタから来た手紙の内容は、短く用件だけが述べられていた。
便箋には、組み合わせて『サイト』と読む四つの文字が書かれている。
「…だ、そうよ」
『魅惑の妖精』亭の屋根裏、簡易ベッドの上で、不機嫌そうにルイズは言った。
才人はこの世界の文字が読めないので、ルイズに読んでもらうしかないのだ。
ルイズは心の中で愚痴った。
どうして、わたしがこいつ宛の手紙を読んであげなきゃいけないのよ。
そもそもなんで姫さまが、こいつに手紙なんて寄越すのよ。
「ふーん…俺の話ねぇ。何が聞きたいんだろな」
「わたしが知るわけないでしょ」
ぼけーっとして答える才人の態度に、更にルイズは不機嫌になる。
姫さま、こんなバカを呼ぶなんて何考えてらっしゃるのかしら。
平民に姫さま自ら手紙を綴るなんて、とんでもないことなんだから。
それも招待状?こここんな、こんな犬を。一人で。
姫さま大丈夫?こいつ、姫さまにキスしたのよ?
し、しかも二回も。三回も。キキ、キスを…そんな相手を一人で呼ぶって、これは危ないわ。
危険だわ。姫さま、貞操の危機だわ。
「なに震えてんだ?…おい、もしかして風邪か?」
珍しく優しい才人の声も、ルイズには届いていない。

98 名前:Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/05/09(火) 23:08:12 ID:zI4yt6d4
なにせアンリエッタは、ルイズにとって数少ない『決して頭の上がらない相手』なのだ。
万が一彼女が恋敵になったら、もう諦めるしかないのである。
ルイズ自身は「姫さまの身を案じてるだけよ」と否定するだろうが、
とにかくそういう理由で、今回の招待に危機感を抱いていたのだった。
「…わたしも一緒に行くわ」
結局、どうしても不安なルイズは同行することに決めた。
別に構わないわよね。わたし、姫さまのお友達だし。サイトのご主人様だし。
手紙には別に一人で来いとは書いてなかったし。こいつ宛の手紙だけど。
「ん?最初からそういう話じゃなかったの?」
手紙を直接見たわけでない才人は、脳内補完でそういう方向に理解していたらしい。
そもそも主人と使い魔は一心同体。それなりに長い使い魔生活の中で、
才人にも「ルイズとはいつも一緒にいて当然」といった認識ができていたのだった。
「えっ…そ、そうよ!」
「変なヤツ」
呆れたような才人の言葉には腹が立ったが、これ幸いと同行を決めたルイズであった。

99 名前:Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/05/09(火) 23:09:11 ID:zI4yt6d4
「ダメよん」
一緒に休みをもらいたい、という二人の申し出は、店長のスカロンによってバッサリ斬り捨てられた。
「ど、どうしてよ?この前は大丈夫だったじゃない!」
いきなり出鼻をくじかれたルイズが食って掛かる。
ちなみに"この前"とは、二人で芝居を見に行った時のことである(ゼロの使い魔5参照)。
「あの時はね。でも最近は忙しくてねぇ〜。猫ちゃんの手も借りたいくらいなの」
くねくねくねくね。
才人は胃の不快感を抑え込むため、腹に手をやった。
キモい。仕事には慣れたが、これだけは今も慣れない。多分一生慣れないだろう。
「だから二人同時は無理。休むなら順番にしてね」
「…うぅ」
「ま、しょうがないよな」
ルイズはまだ何か言いたそうだったが、黙った。才人の諦めは早かった。
最近店が繁盛して忙しいことは、そこで働いている自分達が肌で感じて知っていたからだ。
「それで、どちらが先にお休みするの?」
「えっと…」
才人はルイズを見た。ルイズは俯いたまま答える。
「あんた、先に休みなさいよ」
「え、いいのか?」
「そうしなさいって言ってるでしょ」
今一つ腑に落ちない顔で才人はわかった、と言った。
主従に拘るルイズがどうしたんだろう。使い魔に主人より先に暇を取らせるなんて。
ルイズはと言えば。
「……」
怖い顔をしていた。

100 名前:Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/05/09(火) 23:10:13 ID:zI4yt6d4
才人を先に休ませたのは、次に来る自分の休みに、思う存分彼を問い詰めるつもりだからだ。
アンリエッタと何をしたか、その内容如何によっては、丸一日躾を喰らわせる必要があるかもしれない。
「…な、なんだ!?」
背後からのプレッシャーに怯えながら、才人は休みの日程をスカロンに伝えた。
そしてやってきた登城の日。才人は城までの道をてくてく歩いていた。
「そう遠い距離でもないからいいけど…いったい何の話を聞きたいんだろうな」
背中に吊ったデルフリンガーに話しかける。一応鞘も持ってきてはいるが、
話し相手が欲しい才人は、抜き身を革紐で巻いて吊り下げていた。
「知らね。案外、色気のある話かもな」
「はは。ないない、それはないって」
「いやー、それだったら、面白いことになりそうなんだがね…」
「お前なぁ」
仲良く会話を交わしながら、王城へ近付いていく。
門が見えた。
この日に来ることは、アンリエッタに送った返事で伝えていた。
代筆を頼まれたルイズはなぜか嫌そうにしていたが、
「姫さまも忙しいんだし、ちゃんと決めた日に行かないと迷惑だろ?」
と才人に説得され、仕方なく筆を取った。
衛兵は才人の特徴的な服装から、事前に知らせを受けていた人物だと確認し、
アンリエッタから送られた手紙と、そこに押された花押も確認した。
「では、どうぞ」
「くれぐれも女王陛下に粗相の無いように」
左右の衛兵から別々に言葉をかけられながら、才人は開かれた城門を通った。
「ご案内いたします」
城内に入ると、すでに待機していた侍従が駆けつけ、先導してくれる。
「あ、そのお背中の剣はこちらで預からせていただきます」
背中のデルフリンガーに手を伸ばされる。

101 名前:Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/05/09(火) 23:11:19 ID:zI4yt6d4
「え?だめなの?」
「はい…申し訳ありませんが」
いくら女王直々に招かれた客人とはいえ、武装したままの謁見はできない。
仕方なく才人は革紐を解いて、デルフリンガーを持った。
「こら、触んな!」
「きゃっ!」
手を伸ばして才人から剣を受け取ろうとしていた侍従は、いきなり男の声で怒鳴られ、尻餅をついた。
「脅かすなよ」
そう言いつつ、才人がデルフリンガーを鞘に収めようとする。
「待て相棒、おい!畜生、面白いことになりそうだってのにy……」
刀身が完全に鞘に収められると、声はピタリと止んだ。
「どうも、驚かせてすんません。はいコレ」
そう言って愛想笑いを浮かべる才人から、侍従はポカンとした表情のまま、剣を受け取った。
「こちらです。どうぞ」
「あ、ここか」
通された部屋は、以前来たことのある、アンリエッタの居室だった。
即位してからの彼女は、父王の居室に移っていたのだが…
才人はそこまでは知らない。才人にとってアンリエッタのイメージは、今も「お姫様」だった。
扉が開かれる。
「あ…」
部屋の中、椅子の腰掛け、テーブルに肘をついていたアンリエッタが立ち上がる。
「ようこそおいでくださいましたわ」
相変わらず、丁寧すぎるというかなんというか、味のある喋り方をするお姫様である。
「お忙しい中お呼び立てしてしまって…馬車も回さず、申し訳ないと思っておりますわ」
「いや、いいっすよ」
「すみません…あまり目立つのは、よろしくないと思いまして…」
「気にしてませんってば」
「ありがとうございます。さ、どうぞ」
勧められた椅子に座る。さすが、高級な作りだけあって座り心地は良かった。

102 名前:Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/05/09(火) 23:12:15 ID:zI4yt6d4
「では、失礼いたします」
才人を案内してくれた侍従が退室しようとする。
「あ、どうもー」
お礼を言いつつ、才人は侍従に手を振った。
侍従も軽く会釈を返し、扉を閉めて出て行った。
「さて…」
アンリエッタに向き直る。彼女もすでに着席していた。
「えーと、俺になんか話を聞きたいとか」
「はい」
「なんの話ですか?」
「あなたの世界の、為政者の話ですわ」
才人は思い出した。この前、ボロ宿の一室でそのような話をした。
「様々な治世の方法を知ることで、参考にさせていただきたいと思いまして」
「なるほど…いいですよ。つっても、俺はあまり良く知らないんですけど」
「お願いします」
「まずですね、俺の世界は六つの大陸と、他にも島がたくさんあって」
わかりました、話しますとは言ったものの、
才人はそんなに政治や世界情勢に関心があるわけではないので、説明はしどろもどろだった。
「はい」
それでも、アンリエッタは真面目に聞いてくれる。
才人は少し嬉しくなって、熱を入れて話した。
「国は何百もあって、使う言葉もそれぞれ違ってて…政治の方法もバラバラなんです。
 一応、国同士の連盟みたいなものもあるけど」
「では、あなたの国について教えてください」
「うーん、民主主義ってヤツで」
「民主主義?」
「政治をする偉い人を、国民みんなで選ぶんです」
実際の日本は政党制、その内部の派閥等の要因が絡み合い、
とても国民の意思が反映された人事とは呼べない形で権力者が決まっている。
だがそこまで話すとややこしくなるし、民主主義を正確に説明する知識も才人には無い。
かなり簡略化した説明となった。

103 名前:Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/05/09(火) 23:15:10 ID:zI4yt6d4
「それは…」
「え?」
「まるで、夢のような国ですわね」
憧憬を抱いた声で、アンリエッタが呟く。
「そうですか?まぁ、平和だとは思うけど」
「そのような国に生まれて、生きることができたなら…本当に素敵だと思いますわ」
才人は何も言えなかった。
今自分の目の前にいる人は、望んだわけでもないのに偉い立場に就かされ、責任を負っている。
その生まれのせいで愛する人と結ばれず、一時は政略結婚まで覚悟しなければならなかった。
「あなたの国なら、わたくしも…」
夢見るような表情でそこまで言い、アンリエッタはハッとしたように口元を押さえた。
「……」
恥じ入るように俯く。
「…すんません」
才人は謝った。何に謝ったか、自分でもはっきりとはわからない。
民主主義の話をしたことにだろうか。それとも、あの雨の日、彼女を止めたことにだろうか。
わからなかった。
「いえ。お気になさないで下さい」
顔を上げたアンリエッタの顔には、悲しげな微笑が浮かんでいた。
…ここは本当に気にしない方がいいよな。
本心ではもう少し気の利いたことを言って、彼女を慰めたいと思った才人だが、
そんなことをしても自己満足に終わるだけだ。
…よし。頑張って話そう。
才人の話は続く。
自分の意志で立候補し、大衆に選ばれたからといって、必ずしも優秀な者が権力を握るわけではないこと。
権力者ではないが、才人の国には生まれた時から象徴として運命を決められた人もいること。
途中に雑談も挟みながら。徐々に緊張の取れた才人とアンリエッタは軽く笑い合い、話続けた。
しばらくして、一気に喋り、喉が渇いた才人は、用意された飲み物をがぶがぶ飲んだ。

104 名前:Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/05/09(火) 23:16:17 ID:zI4yt6d4
「ぐほっ!」
ワインだった。
「…うー」
一気に酔いがまわる。
「どうかなさいました?」
見ればアンリエッタも結構な量を飲んでいるが、顔色は変わってない。
「…姫さま、結構強いんすね」
「はい?」
「酒」
「あ、えぇ、まぁ…最近、少し嗜む程度ですが」
嘘である。ストレスが増えるばかりの生活で、アルコールの摂取量も比例して増えている。
「…あの、はしたないとお思いにならないでくださいまし」
既に空になった瓶が並んでる状況で嘘をつくことの無駄を悟ったのか、
酔いではなく羞恥で顔を染めたアンリエッタが不安げに呟く。
「なにもはしたなくはないと思いますけど」
対して、才人は素で返した。頭がグラグラしている。
酒に惑わされた頭で、それでもハッキリと言った。
「いえ、こんなにお酒を空けてしまって…さぞ荒れた女だとお思いになったのでは?」
「そんなことありません。ワインがどうとか関係ない。姫さまは綺麗だし…その、勇敢ですよ」
「えっ…」
その言葉に、胸が高鳴った。
下手をすれば酔っ払いの、三流口説き文句にしかならない言葉に。
早くなる鼓動をそのままに、才人を見る。
真っ赤になった顔の中、二つの瞳だけは澄んでいた。

――勇敢ですよ

普通、こんな言葉を女性に対して遣う者はいない。少なくとも、褒め言葉としては

105 名前:Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/05/09(火) 23:17:44 ID:zI4yt6d4
「あなたは…」
「?」
「覚えていてくれたのですね。あの日、わたくしが誓ったことを。
 わたくしでさえ、忘れかけていた…いえ、踏みにじろうとした、あの誓いを」
『ならば、わたくしは…勇敢に生きてみようと思います』
今は亡き想い人、ウェールズの形見に誓った言葉。
それを覚えていたからこそ、才人は"勇敢"と言ったのだ。
「…はい。覚えてます」
「本当にそう思いますか?今のわたくしが、勇敢だと」
才人の瞳には嘘の色など見えない。それをわかっていながら、聞かずにはいられなかった。
「思います」
少しも迷わない答えが返ってくる。だが、それでも信じることができない。
信じられないのは才人ではなく、自分自身。許せないのも、自分自身。
「ですが、あの夜のわたくしは…」
「もう、いいじゃないっすか」
若干強い口調で遮られる。
「そりゃ、あん時は姫さまに怒りましたよ。勇敢に生きるって言葉は嘘だったのかよ、とか、
 色々言ってやりたかったです。でも姫さまの気持ちもわかるっつーか…ぐちゃぐちゃんなって、
 たたっ斬るなんて脅ししか言えなかった」
酒のせいか饒舌になり、砕けた話し方になる才人。アンリエッタはじっとその話を聞く。
「でも、今は違うじゃないですか。姫さま、今は自分が間違ってたって認めて、
 王子さまの仇を討とうって頑張ってるじゃないですか」
「…それは」
「自分が間違ってたのを認めるのは、すごく勇気が要ることだ。
 俺は誰が何と言おうと、今の姫さまは勇敢だと思います」

106 名前:Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/05/09(火) 23:18:43 ID:zI4yt6d4
勢いでそこまで喋って、才人は黙った。感情に任せるまま言ってしまったが、思い返してみれば、
自分はなんてクサイことを言っちゃったんだろうか。急に恥ずかしくなったのだ。
でも、今のは本心だった。恥ずかしくても、後悔はしない。
あの安宿で過ごした夜。雨の音に脅えるアンリエッタの肩を抱きながら、才人は感じた。
『この人はたぶん、誰よりも弱い』
誰かが支えてやらなければ、と思ったのだ。そして…
綺麗だと思った。最弱でありながら、重荷を背負う姿を。
勇敢だと思った。自分の弱さを受け入れ、耐える姿を。
「そんな姫さまのことを、俺は尊敬してます。ルイズも」
「…ありがとう」
本心から礼が言えたことに対し、アンリエッタは驚かなかった。
目の前にいる少年は、自分にへつらう重臣たちとは違う。
わたくしが心の底より信頼できる、数少ない人。
…決めた。
「ねぇ」
「はい?」
今まで重い話をしていたとは思えない、いきなりの砕けた態度に戸惑う才人。
アンリエッタはそれに構わず話しかけた。
「わたくしも、あなた…サイトのことを尊敬してます」
「えぇっ!?いや、それはないでしょ」
「いいえ、尊敬してます」
そんな強く言われてもー、と才人は思った。俺が?こんな立派な人に尊敬されてる?
さっぱり実感が無い。姫さま、なんでこんなモグラを?
「だって、元いた世界を離れて、見知らぬ場所で生きるなんて…
 わたくしなら寂しくてとても耐えられませんわ」
「うーん」

107 名前:Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/05/09(火) 23:20:02 ID:zI4yt6d4
才人は困ってしまった。そんなことを褒められたって、本当に自分は大したこと無いのだ。
単に、こちらの世界では自分の存在が多少なりとも必要とされてることが嬉しくて、
なんとか期待に応えられたらと思っているだけである。
家族が心配してるかも、と考えると少し心が痛むが、寂しいとか悲しいとか、
そういった気持ちは無いのである。別に耐えてるわけでもない。
「…信じていただけませんか?」
「あぁいや、信じます、はい」
とはいえ、美人に褒められて悪い気はしなかった。
それに信じないと言ったらアンリエッタは悲しむだろう。
「本当ですか?」
「姫さまも、俺のこと信用してくれてんでしょう」
「あら…ふふ、そうですわね。聞き返す必要はありませんでした」
二人して軽く笑ったあと、アンリエッタが切り出した。
「あのね、サイト。わたくしと、おともだちになってくれる?」
「へ?」
「だって、あなたとわたくしはお互いを尊敬し、信頼しあってる仲ですもの」
「はぁ」
それに…と心の中で付け足す。今日は楽しかった。
しばらく笑顔を忘れていた自分を、才人はたくさん笑わせてくれた。
荒れた心を穏やかにしてくれた。
…また会いたい。また会って、話をしたい。
なんでもいい、次に繋がるための証が欲しかった。
「それを、おともだちと言うのではなくて?」
「えぇと…」
そうなんだろうか。そう言われれば、そんな気もする。
元の世界のことを思い返す。
学校の友達はみんな馬鹿っぽくて、尊敬とかそういうのは無かったと思うが…
…まぁ、いいか。
「うん…そうですね。姫さま…あ、じゃなくて、アン」
「…!ありがとう、サイト」
才人はアンリエッタをあだ名で呼んだ。以前、彼女と二人で街を歩いた時に決めた呼び名で。
なんとなく、そうした方がいいと思ったからだ。
そして、アンリエッタは喜んでくれた。

108 名前:Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/05/09(火) 23:21:18 ID:zI4yt6d4
「それじゃあ、そろそろ帰ります」
「…名残惜しいですわ」
部屋の入り口で別れの挨拶を交わす才人とアンリエッタ。
二人が"おともだち"になってから、しばらくの時が過ぎ、窓からは赤い夕日の光が差し込んでいる。
あれから、才人の世界の政治とは関係ない話で二人は盛り上がった。
アンリエッタは城内の愚痴。才人は仕事の愚痴。
愚痴ばっかりだった。
「また来てくださる?」
「はい。…休みがもらえればですけど」
「こちらからお店の方にお願いしておきますわ」
「それなら大丈夫っすね」
笑いつつ、才人がドアノブに手をかける。
風のスクウェアにより、空気の振動を封じる魔法が永続的にかけられた特別制の防音扉。
この扉が少しでも開けば、ここでの立ち話はすぐ近くに控える衛兵にも聞こえるだろう。
「あれ?」
その前にまだ言いたいことがあって、アンリエッタはその手を抑えた。
「姫さま?」
「…もう一度、アンと呼んでくださいまし」
「アン?」
「…今日は本当にありがとう。あなたのおかげで楽しいひと時を過ごせました」
手を握ったまま、才人にお礼を言った。
「俺も楽しかったですよ」
ワインも高級だったし。
別にキスとかしなかったから、ルイズも怒らないだろう。
うん、楽しい休日だった。

109 名前:Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/05/09(火) 23:22:25 ID:zI4yt6d4
「…じゃ」
「えぇ。では、また…」
その言葉をと共に二人の手が離れる。扉が開く。
出口の両脇に控えた衛兵が頭を下げた。
アンリエッタが手に持ったベルを二、三度振って音を鳴らすと、遠くから侍従が一人、
全く慌しさを感じさせない早歩きで近付いてきた。
「この方のご案内を」
「かしこまりました。どうぞこちらへ…」
侍従に案内されて、才人は帰っていった。
「…はぁ」
扉を閉め、椅子に戻ったアンリエッタは、右手を胸に押し当てて一息吐いた。
才人と触れ合った手に残る感触を確かめながら、今日のことを思い返す。
ヒラガ サイト。異世界から来た少年。親友の使い魔で、自分を尊敬してると言ってくれた。
…おともだち。
「ふふ」
彼のことを思い出すと自然に笑みが浮かんでしまう。
「ダメね、こんな調子では」
そろそろ仕事に戻らないと。楽しい思い出にひたってばかりはいられない。
わたくしは勇敢に生きるのだ。サイトの期待を、裏切ってはいけない。
「……」
数秒でいつも通り女王の顔を作ると、アンリエッタは毅然とした調子で部屋を出て行った。
今日は久しぶりによく眠れそうだと思いながら。

110 名前:86[sage] 投稿日:2006/05/09(火) 23:24:47 ID:zI4yt6d4
ここまでで一区切りです。丁寧に書くとか言いながら、長いだけです。ごめんなさい(;´Д`)
最後にタイトルについての補足を…

英語×仏語の形になってるのは仕様です。
二人は元々別の世界に存在してた者同士、ということで。
ゼロの世界観っていうか人名はなんとなくフランス寄りだし、仏語で統一しても良かったんですが、
Reine(女王)ではパッと見でわからない人もいるかな、と思いました。
それに英語で異邦人を意味するForeignerは「よそ者」的ニュアンスがあって、あまり良い言葉じゃない。
まぁ、そんな理由です。

…gdgdと無駄なこと言ってすみません。それでは失礼します。

138 名前:◇Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:30:10 ID:jPMQ5D89
一章 女王の親友

最初に才人がアンリエッタの招待を受けてから一週間が経った。
その間二度、才人は登城している。
こうも頻繁に貴重な男手が抜けると店としては大変なのだが、スカロンは
「ん〜っ!女王様に目をかけてもらえるなんて光栄なことだわん」
こんな感じで大喜びである。一方、娘のジェシカは
「ねぇ、どんな話した?女王様ってどんな方?やっぱあんたって只者じゃないね」
こんな感じで才人を質問責めにしていた。
その度に体を押し付けられる才人はたまったものじゃない。
嬉しいのだが、後でルイズから受けるお仕置きが怖いのである。
「犬!あんたはご主人様をちゃんと見てなきゃダメでしょ!」
とか。それ以外の理由でも色々理不尽なお仕置きを受けている。
「むかつく客に因縁つけられたわ。あんた代わりに殴られなさい」
みたいな。一番キツイのは登城した日だ。
「……」
城であったことを話す才人の顔を、無言で蹴り回すのである。
ルイズに理由を聞くと、顔が気に入らないからよ、という答えが返ってくる。
これにはルイズとの付き合いに慣れた才人も頭にきた。
顔が気に入らないって、なんだよ。
俺の話聞いたんだろ?姫さまも大変ね、私達も頑張らないとね…こんな風に思えんのか。
ルイズだって、大切な友人であり、尊敬する主君でもあるアンリエッタのことは心配なはずである。
だがどういうわけか、才人がアンリエッタの話をすればするほど、ルイズは不機嫌になるのだ。
話を聞いてくるのはルイズの方だと言うのに、喋る度これではたまらない。
才人がどう宥めても、ルイズは荒れるばかりだった。

「はぁ…」
「どうかなさいましたか?」
四度目になる登城の日。
もう顔見知りになった侍従に案内される途中、才人は今日の出掛けのことを思い出し、鬱になった。
「いや、なんでもないっす…」
明らかになにかありそうな顔で否定する才人に、侍従は気遣うような目を向けたが…
やがて、何も言わず先に立って歩みを再開した。
その後をうな垂れながらついていく才人。
頭の中はルイズに対する色々な感情でぐちゃぐちゃだった。

139 名前:◇Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:31:09 ID:jPMQ5D89
「じゃ、行ってくる」
「……」
前回までは「さっさと行ってくれば」と、そっけないながらも見送りの言葉があったのだが、
今度はそれすらもない。顔も向けない。完全に無視である。
「おーい。行ってくるってば」
意図的に無視されてるのはわかるが、それを受け入れるのも癪である。
才人はルイズの背から手を回し、その眼前でわざとらしく手を振ってみた。

が ぶ り

「んぎゃあああああああっ!」
才人の絶叫が狭い部屋に響き渡る。
効果音でお察しのことと思うが、ルイズが目の前で動く手に噛み付いたのである。
「いだっ、おま、いてっ!おまえ、なにすんだこのばか!いてえぇ!」
噛まれたところを押さえ、ふーふーと息を吹きかける。古典的リアクションだった。
「うるさいわね!とっとと姫さまのところに行ってきなさいよ!」
「ふざけんな!何が気に入らないんだか知らないけど、いい加減にしろよ!」
「はぁ?なにをいい加減にしろってのよ!」
「その態度だよ!」
「ご主人様のやることでしょ、いちいち文句つけないの!」
「やっていいことと悪いことがあるだろ!
 理由も説明しないでこんな扱いされたんじゃたまんねぇよ!」
堰を切ったように、怒涛の口論を始める二人。
エクスクラメンションマークが飛び交って、うるさいことこのうえない。
「−−−−−−−−−−−−−−−−−−−!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

「はいはい、そこまでよ」
「もう、うるさいなぁ…」
もはやただの騒音と化していた二人を止めたのは店長親子、スカロンとジェシカだった。
夜明けまで働き、午前中は泥のように眠っている彼らだったが、
さすがにこうもぎゃあぎゃあと喚かれては眠り続けることができなかったらしい。

140 名前:◇Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:32:01 ID:jPMQ5D89
そういうわけで、消化不良の才人は精神的にかなりよろしくない状態なのである。
「はぁあぁぁ…」
あーちくしょうルイズの奴、なんなんだよ。
そりゃ俺も最近はあいつの面倒見るのが苦じゃなくなってきたよ?でもあれはさすがにどうよ。
まぁ、ぶっちゃけ好きだし。惚れてるし。近くにいられるのが楽しかったけど…
今はそれが無い。一緒にいてイライラするだけだ。つーかルイズがイライラの元だ。
「くはー…」
本当に、なんでこんなことになったんだろう。
この城に呼ばれた時からおかしくなった。姫さまに呼ばれた時から。
…姫さま。アン。
彼女といる時は心が落ち着く。柔らかい空気に包まれて、穏やかな気持ちになる。

ルイズといる時は違う。
ドキドキしてピリピリした感じ(今はどっちかというとビキビキしてギリギリした感じだが)だ。
シエスタといる時も違う。
ふわふわしてて、それでいてどこか危なっかしい。
すぐテンパるうえに大胆一直線なシエスタとの時間は、いつアブナイ状況になるかわからない。
つまり落ち着かない。
キュルケは、まぁ、からかってるだけだろうし。

そんなことを考えていると、急にアンリエッタに会いたくてたまらなくなった。
うん、急ごう。
…と思って視線と思考が現実世界に戻ると
「……」
ひきつった笑みを浮かべた侍従と目が合った。
彼女は度々溜め息をもらす才人を心配し、何度か話しかけていたのだが、
才人は自分の思索に夢中で気付かなかった。
「あの、お客様にこのようなことを言うのは大変失礼だとは存じているのですが」
「は、はい」
100%自分が悪いので才人は神妙に頷いた。
「女王陛下の前ではそのような真似を 決 し て なさらないでくださいね?」
「はひぃ…」
固めた笑顔で告げる侍従。眉のあたりがひくついてる。ていうかピグピグしてた。ジョジョっぽく。
そのような真似ってどんな真似?などと聞く余裕は無い。才人は縮こまりながら頷いた。
侍従はしばらく才人の意思を確かめるかのように睨んでいたが、前に向き直り歩き出した。
その後を追いながら、才人はよし、と気合を入れるように顔を軽く叩く。
アンリエッタに会えば、この陰鬱な気持ちから解放されるだろう。
さぁ、今日はどんな話をしよう?

142 名前:◇Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:34:06 ID:jPMQ5D89
一方のルイズは『魅惑の妖精』亭、屋根裏部屋の粗末なベッドに横たわりながら、
才人以上に沈鬱な顔で壁を見つめていた。
別に壁の中に人が埋まっているとか、壁が誰かの仇というわけではない。
ただ目を閉じるのが嫌なだけだ。朝のことを思い出してしまうから。
窓から外を見るのも嫌だ。
城へ行った才人のことと、今彼に会っているであろうアンリエッタのことを考えてしまうから。
そんなわけで、才人が出て行った後、ジェシカに説教されてから、天井と壁以外を見てなかった。
「うっ…ぐす…ひっ…く…」
枕で隠した口元から嗚咽が漏れる。
なんで、わたしはあんなことを言っちゃったんだろう。
なんで、わたしはあんなことをしてしまったんだろう。
…なぜ、こんなことになったんだろう。
答えはわかっていた。自分が荒れた理由も、自分が悪いことも。
でも、そのどちらも受け入れるわけにはいかなかった。

才人がアンリエッタを語る時の顔が嫌いだ。
あんな顔、わたしと話す時には見せなかったじゃない。ご主人様に隠し事していいと思ってんの?
アンリエッタが才人を何度も呼ぶのが耐えられない。
姫さま、わたしは姫さまのおともだちでしょう。ご相談なら、何故わたしにしてくださらないのですか?
二人が一緒にいて、会話し、笑ってる姿を想像すると胸が痛い。
なんでそこにわたしがいないの?
違う。才人と二人でいていいのはわたしだけなのに、どうして姫様なの?
絶対違う。わたしはそんなこと思ってない。嫉妬なんかしていない。

……そんな思いがルイズの中で渦巻き、更にその胸中を乱していった。

143 名前:◇Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:35:25 ID:jPMQ5D89
アンリエッタは自室で椅子に座り、テーブルに肘を着いて足をぶらぶらさせていた。
およそ女王にふさわしくない格好だが、その動作の中にもやはり隠せない気品が見えている。
が、そんなことは彼女にとってはどうでもよく…
「サイトはまだかしら」
才人の到着が予定より遅いので焦れていた。
出掛けの喧嘩や案内される途中の考え事や侍従の注意などで時間を喰ってるのが原因だが、
部屋でずっと彼を待ち続けるアンリエッタがそれを知るわけも無い。
「せっかく特別な品を用意して、サイトを驚かせようと思ってましたのに…」

「…女王陛下は」
アンリエッタの部屋に続く廊下に入る角の手前、侍従がいきなり立ち止まった。
「?」
「あなたの来る日が近くなると、とても明るいご様子になるんですよ」
「はぁ…」
よくわからないが、自分が来ることを喜んでもらえているなら嬉しい。
「評判のお菓子をお取り寄せしたり、ワインをご自分で選んだり…」
あぁ、たしかに前々回来た時から随分つまみが豪勢になったような気がする。
「お部屋の模様替えをなされたり、お花を取り替えたりもしておられます」
そういえば前回来た時は部屋の様子が少し違った気もする。
「あなたが陛下とどのようなご関係か、私達は知りません」
「……」
「でも、陛下は、あなたを信頼されてます」
侍従は才人の方を向き、姿勢を正した。
「どうか、あの方を支えて差し上げてください」
そして、腰を直角に曲げ、深い礼をした。
才人は戸惑った。突然そんなことを言われましても、と思った。
だが、それも少しの間だけだ。
才人の気持ちは決まっている。
「任してください」
強い意志を込めて言った。
侍従が顔をあげる。
「俺も、姫さまを支えたいと思ってます」
侍従は無言で才人の手を握った。その目が感謝に潤んでいる。
才人は嬉しくなった。別に女性に手を握られたからではない。
姫さま。ここにもいたよ、姫さまの味方が。
きっと、俺やルイズや、アニエスの他にもいるんだ。
姫さまが頑張ってることを知ってて、応援したいって思ってる人間が。
再び歩き出した侍従に案内され、辿り着いた部屋の扉を開ける才人の心は弾んでいた。

144 名前:◇Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:36:20 ID:jPMQ5D89
「サイト!お待ちしてましたのよ」
扉を開けると同時に駆け寄ってきたアンリエッタを見て、才人の心はもっと弾んだ。
いや、違う。
跳ねた。心臓が。今も音を立てている。
「あ…すんません、遅れて」
なんでだろう。さっきから会いたい会いたいと思っていたからか、
アンリエッタを目の前にして、これまでに無いくらい切ない気持ちになっていた。
「もう。このまま来てくださらないのかと思ってましたわ」
「そんな…さすがにそれはないっすよ。いや、ないです」
まだ侍従が残っているので、才人は言葉を正した。
「それでは、どうぞごゆっくり…」
そんな才人の様子を見てくすりと笑った後、侍従は部屋を出て行った。
「まぁ、こうして来てくださったのですから、遅れたことは許してあげます」
侍従を見送り、才人に向き直ったアンリエッタは、そう言っていたずらっぽく微笑んだ。
その美しさに見惚れ、才人の胸が更に高鳴る。
「さ、お掛けになって」
促されるまま、ふらふらと椅子に腰掛けた。
「今日はこんなものをご用意しましたのよ」
アンリエッタはポットから薄い緑色の液体をカップに注ぎ、才人の前に差し出した。
彼女にしては随分とはしゃいだ様子である。
「これは…」
「なんでも、『お茶』という、東方の飲み物だそうですわ」
あぁ、そういえばこっちの世界にも緑茶があるんだった。
才人はシエスタと風呂で飲んだことを思い出し、なんだか微妙な気分になる。
「わたくし、この渋味と香りがすっかり気に入ってしまって。
 サイトにも味わっていただきたいと思って、残しておきましたの」
少し照れながらそう言われ、才人は二重の意味で嬉しくなった。
自分の故郷の飲み物を気に入ってくれた。それを自分と一緒に飲みたいと思ってくれた。
「…じゃ、いただきます」
「えぇ。どうぞ」
そのお茶は、いつか飲んだものより、ずっと美味しかった。

145 名前:◇Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:38:09 ID:jPMQ5D89
「どうかしら?」
「すごく…おいしいです…」
ここで某漫画を思い出した方は負けである。何との勝負かは分からないが負けである。
「よかった…!」
ぱあっ、と、花が咲いたような笑顔で手を合わせるアンリエッタ。
彼女も一口茶を飲んで、また笑う。
それを受けて、才人も笑った。
「いいもんですね、こういうのも」
才人が窓を向きながら何気なくそう言うと、アンリエッタもそれに習って空を見た。
「はい。本当に」
数ヵ月後にアルビオンとの戦争が迫り、城内は緊張に包まれているというのに。
この部屋にいる二人だけは、そんなこととはまるで関わりが無いようだった。
それはきっと、お互いの存在が安らぎを与えてくれているから。
アンリエッタは視線を戻し、才人を見た。まだ窓の方を向いている。
本当に信頼できる『おともだち』…親友。
二人はなんでも話せるけれど、別に何も話さなくたっていい。
こうして同じ時間を過ごすだけで、心が幸せに満たされていく。
そんなことをぼんやりと考えながら、アンリエッタは才人の顔を眺めていた。
そこでふと気づく。才人の様子がいつもと違うことに。
いつもはなんだか締まりのない顔なのに…
才人が本気になった時の凄みを知るアンリエッタは、そのユルい顔を見て和んだりしたものだ。
でも今日は違う。表情は微笑んでいるのに、どこか翳りを感じる。
彼がそんな顔をする理由。それはおそらく一つしかない。
もう一人の親友、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
彼女はいつも才人の側にいる。当然、その心に及ぼす影響も大きいはずだ。
ルイズとなにかあったのだろうか?なぜ?その原因がわかれば、才人の気分を晴らすことができるのに。
アンリエッタは記憶を探り、才人と一緒にいる時のルイズの様子を思い浮かべた。

146 名前:◇Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:39:57 ID:jPMQ5D89
あの忌まわしい雨の夜。ルイズは才人に杖を向けた自分に対して『虚無』を放った。
最初は自分とウェールズを見逃そうとしていたのに。
才人が立ちはだかり、彼に対して自分が魔法を使うと、烈火の如く怒った。
そして、こう言った。
「姫さまといえども、わたしの使い魔には指一本たりとも触れさせませんわ」
それは直前にアンリエッタが言った「ウェールズさまには、指一本たりとも触れさせないわ」
という台詞に対する、揶揄の意味もあったのかもしれない。
けど、きっとそれだけではなかった。ルイズは本心から、自分よりも才人のことを大切にしていた。

リッシュモン高等法院長の事件があった後、協力の礼を伝えるため、二人の職場を訪れた日。
一緒に祝杯をあげる予定だったのに、才人の顔を見た途端、急に恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。
才人も同じように顔を真っ赤にしていた。それを横目で確認したアンリエッタは、
なんだかこういうのも嬉しい、と思ってしまったものだ。
サイトもわたくしと同じで、あの夜のことを覚えていたのね、と。
あの時ルイズはどんな顔をしていた?急に態度の変わった二人に、怪訝な顔をしていただろうか。
いや、あれは事実を知っていて、二人の間にこれ以上秘密が無いか探る目だった。
…そして、少し悲しそうな目だった。

そうだ。ルイズは、サイトのことが好きなのだ。

「――あぁ」
わたくしはなんてことをしてしまったんだろう。
思いがここに至り、心が悔恨の念で埋め尽くされる。
アンリエッタは顔を両手で覆った。
「…アン?」
声に反応し、才人が振り向く。
「どうかしたんですか」
心配してくれる声が辛い。肩に置かれた手が重い。
「いいえ。いいえ…」
言葉が上手く出ず、否定だけを繰り返した。何を否定しているのかもわからないまま。
涙が溢れてくる。
自分のことに精一杯で、周りの気持ちに気がつかなかった。
そんなことは言い訳にならない。

147 名前:◇Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:40:53 ID:jPMQ5D89
自分は、幼い頃からの親友を二度までも苦しめたのだ。
一度目は、国主としての姿を捨て、その忠誠を裏切った。
二度目は、想いを寄せる相手を奪おうとした。
     たとえ自分にそのつもりがなくとも、そう思わせたのならば同じことだ。
アンリエッタは、自分が才人に対し好意を抱いていることを自覚していた。
しかし、それを誰かに打ち明けようなどとは思っていなかった。
ウェールズとの別れの日、他の誰かを愛すると誓ったものの、
こんなに早く別の人を好きになる自分は不実だと思ったし、
それを認めてしまえば長年のウェールズへの愛も嘘になると思った。
才人とは、このまま、こうして穏やかに過ごせればそれでいい。
そう思っていた。
だが、きっとルイズは気づいたのだ。アンリエッタの気持ちに。
そして自身の想いと、アンリエッタへの忠誠の間で相当悩んだに違いない。
才人の様子がおかしいのもそれが原因だろう。
悩むルイズを心配しているのか、それとも不安定になった彼女と喧嘩したのか。
思えば、ルイズは昔から意地っ張りで素直じゃない。
自分の気持ちを隠そうとするあまり、才人にキツイことでも言ったのかもしれない。
「いったいなにがあったんですか?」
明らかにおかしい様子のアンリエッタに、才人は不安になり、その肩を両手で掴んだ。
そこまでしてようやく、顔を覆っていた両手が開かれる。
目は少し赤いものの、涙はすでに止まっていた。
「ごめんなさい。もう大丈夫です」
「…なんかあるなら、相談してくださいよ」
少し不満そうにしながらも、才人は優しくそう言ってくれる。
その声にアンリエッタはぐらっときてしまう。
…もしかすると、自分の推測は全然的外れなのかも。
才人の調子がおかしいのは仕事でミスをしたとか、ルイズ以外が原因なのかも。
この時間を続けたいという気持ちが、そんなことを考えさせた。
でも。たとえそうだとしても、ルイズの気持ちに気付いた今、それは許されない。
もう終わらせなければ。

148 名前:◇Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:41:57 ID:jPMQ5D89
「本当に大丈夫ですから」
「……」
才人は全然納得いかないという表情だ。そりゃ当然である。
いきなり目の前で泣き出して、何も無いなんてあからさまな嘘、誰が信じるというのか。
「…それより、あなたにこれから伝えないといけないことがあります」
居住まいを正して、アンリエッタは言った。
「え?」
才人は今度こそわけがわからなくなった。さっきまで泣いていたというのに、この変わり方はなんだ。
今のアンリエッタの顔は『おともだち』に向ける親しげな顔ではない。
為政者として、下々の者に命令を告げる顔…女王・アンリエッタの顔だ。
「…今日まで色々と有意義な話を聞かせてくださって、ありがとうございました」
「あ、はぁ」
「ご多忙の中時間を空けていただき、さぞ迷惑だったかと思います」
「いや、そんなことは…」
「ですが、それも本日で終わりです。
 以後はあなたの時間を拘束するようなことはありませんので、どうかご安心を」
「え、…って、はぁあ?」
「もうあなたを呼ぶことはない、ということです」
アンリエッタは毅然と言いきった。だが、その手がきつく握り締められているのを才人は見逃さない。
「なんで、そんなこと言うんですか…」
「…」
悲しげな才人の声に、アンリエッタの仮面が少しだけ剥がれる。
「俺は…俺は、そんな迷惑だったとか思ってないし、むしろ楽しかったというか…
 最初は、姫さま…アンにおともだちだ、尊敬してますって言われて混乱したけど、
 本当はすごく嬉しかった。あれは嘘だったんですか?」
胸が痛い。とても痛い。好きな人に、自分の言葉を信じてもらえないのは胸が痛い。
アンリエッタはその痛みに堪え、きゅ、と唇を噛んだ後、才人から顔を背けて言い放つ。
「もう話すことはありません。わたくし達の関係も…終わり、ですっ…」
最後は泣き声が混じり、消え入るような言葉だった。
「なんでですか…なんでそんな…」
どう見ても嘘を吐いているとしか思えない態度だ。こんな状態で言われたって、信じられるわけがない。
「……」
だが、才人は黙って扉に向かった。
アンリエッタは無理をしている。それはわかっている。
でも、今はそのばればれな嘘に騙されてあげなければならない。
彼女がそれを望んでいるから。
「それじゃ…」
なるべく普通に聞こえるような声で、別れを告げる。
「…また」
だが、これで終わりにするつもりはなかった。
「また」。その言葉を背で聞いたアンリエッタは、何を感じただろうか。

149 名前:◇Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:42:49 ID:jPMQ5D89
女王の見送りもなく部屋から出てきた客人に、衛兵は妙だな、という顔をした。
「あの、陛下に頼んで侍従を呼んでいただいては」
二人の衛兵のうち、年長の方がそう言って気を遣った。
「あぁ、そういえば…」
才人は無表情で頷く。
いつもは、アンリエッタが笑顔で見送ってくれた。
また来てくださいねって、言ってくれた。
そして手に持ったベルで案内を呼んでくれたのだった。
「いや、大丈夫です」
でも今は無理だ。彼女と話すことはできない。
「道なら覚えてますから」
そう。何度も通った道だ。
侍従はいつもベルが鳴ってからすぐ来ていたし、近くで仕事しているに違いない。
歩き出した才人を、衛兵は黙って見送った。
才人の姿が見えなくなり、二人は短い会話を交わす。
「なにかあったんだろうか…」
「あったとしても、だ。陛下と客人の間に詮索を入れるのは、我々がすべきことではない」
「……」

侍従はすぐに見つかった。洗濯物を取り込みに行く途中だろうか、大きな籠を抱えている。
「あ…」
「すいません。帰るんで剣返してもらっていいっすか」
彼女はしばらく才人の顔を見つめた後、
「…わかりました」
そう言って頷いた。
それからしばらく歩き、アンリエッタの居室から充分に距離を取ったところで、
「なにがあったんですか?」
やはり疑問に思っていたのか、才人が一番聞かれたくないことを聞いてきた。
「…俺にもよくわかりません」
「……」
「もう、来なくていいって言われました」
「そんな…」
数時間前、この少年は女王様を支えると誓ったばかりなのに。
なんと声をかければいいのかわからず、侍従が迷っていると、才人は別段落ち込んだ様子もなく言った。
「でも」
「?」
「俺はまた来るつもりですよ」
そうだ。こんな終わり方は納得できない。
少し時間を置くだけだ。今度はちゃんと理由を聞いて、アンリエッタの悩みを取り除く。
「そうですか…」
侍従は嬉しそうに笑った。よかった。この少年はまだ諦めていない。
「ちゃんと支えてみせますよ」
「…立場上、私は陛下が望まないことをお助けするわけにはいきません。
 ですが…個人的には、あなたを応援しています」
「はは…どうも」
一人でも、励ましてくれる人がいるのはありがたかった。

150 名前:◇Queen×Etranger(女王と異邦人)[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:44:04 ID:jPMQ5D89
城を出た後、才人はデルフリンガーを抜き、今日の出来事の始終を話して聞かせた。
この伝説の剣はたまに役立つ助言を言うので、それをアテにしてのことだった。
「ふーん。相棒は女泣かせだねぇ」
「え!?俺が悪いの?」
自分にもう来るなと言ったあたり、無関係ではないと思っていたが…
まさか自分が直接の原因ってことになると、単純に嫌われた?
あれ絶縁宣言?それじゃ意味が無い。悩みを取り除くも何も、自分が嫌われてるだけだったら…
「うわぁあ…そりゃ解決法は俺が消えるしかないじゃん…」
「落ち着け相棒。そういう意味じゃねぇよ」
「そなの?」
頭を抱えていたと思ったら、すぐ立ち直る才人。
落ち込むとどこまでも落ちるが、回復はきっかけさえあれば早い。
「あぁ。でもまぁ、詳しく教えることはできねぇな。
 これは相棒とあの女王サマと、貴族の娘っ子が解決するこった」
才人は今日あった出来事のほとんどをデルフリンガーに話した。
それはつまり朝の喧嘩のことも含む。そこから、デルフリンガーは事態の全体像を推測したのだ。
「なんだよそれ。なんでルイズが関係あるんだよ」
しかし才人は気付いていないようだった。
デルフリンガーは心の中で溜め息を吐きつつ、軽い調子で諭す。
「それもお前さんが自分で気付くこった」
「はぁ…ちくしょう。なぁ、デルフ」
「なんだい」
「女の子ってわけわかんねー」
才人がそう言うと、デルフリンガーは爆笑した。

すでに太陽は山陰に身を隠し、空は茜色に染まっている。
店に着くのは、ちょうど一番忙しい時間帯だろう。
その状況で聞き入れてもらえるかわからないが、才人は休ませてもらおうと思っていた。
今日は考えなければならないことが多過ぎる。
しばらく一人の時間が必要だった。
それはきっと、他の二人も同じだ。

才人は考えるため。
アンリエッタは落ち着くため。
ルイズは   ため。

時間は流れる。だがその先、三人の未来はまだ見えない。

151 名前:86[sage] 投稿日:2006/06/12(月) 03:47:43 ID:jPMQ5D89
えーと…ルイズの扱い酷いですね。
最後の伏字っていうか抜字はそれほど重要なこと書いてません。気分で隠しました。
自分は主人公×サブキャラのSS書く場合、本ヒロインが主人公への好意を諦める過程をかなり書くので…
ルイズファンの方ごめんなさい(´・ω・`)

ゼロ8巻は6月24日発売予定でつか。それまでにエロ有りの話を書くと宣言してるので、
三章までの期限は残り二週間足らず。これまで以上に気合入れます(`・ω・´)
筆がのってくると一日で10レス分くらい書けるんですが…
もうとにかく頑張るしかないですね。はい。頑張ります。

>>132
ペンタブが無いので鉛筆描き(丸ペンとインクはあるけど…)
スキャナも無いので携帯で写真撮ってそれをPCにメール→うp
聞くだけで画質の酷さ(元の絵からして大したことありませんが)がわかる絵です。
わざわざご覧になるほどのものじゃありませんよ。

>>133
ありがとうございます。一応絵描きの方が本分なので、上手いと言っていただけると嬉しいです。
>>134

>>134
ありがとうございます(・∀・)ゝ
すでに一ヶ月お待たせしてる状態で、
更に一ヶ月待っていただけるほどのものが書けたか自信はありませんが…、
そう言っていただけるのはとてもありがたいです。
…最終章は本当に一ヶ月以上後になりそうですけど。

>>135
好きかどうか微妙な描写だったので、妄想の育つ余地がありました。
そしてこんなものができました。

>>136
カトレア…いいキャラなんですがね。
登場する部分が少なすぎて、どう書けばいいものやら、未熟者の自分には扱いきれません。
体つきがエロいので絵心は刺激されますけど。
他の職人さん方に期待。


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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:44:08 (5638d)

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