15-683
Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:46:43 (5639d)
683 名前:1/6[sage] 投稿日:2007/05/24(木) 01:42:02 ID:wovT7SyO 「すげーなぁ……」 うっとりと地球上には存在しない生物『竜』を見上げるサイトの目には、 「何が凄いの?」 耳まで良いらしいシルフィードは、 『もっと誉めて、もっと誉めて!! きゅいきゅい』 逃避行の途中で、喋る事を再度禁じられたシルフィードが、態度でそう示した。 喋る事が出来る。 「誉めると調子に乗る」 シルフィードは空から、タバサとサイトは陸から。 「俺の地元じゃさ……『竜』って伝説の生き物なんだ」 始めて聞くサイトの故郷の話に、興味を持ったらしいタバサが、 「そうだな……例えば……さ……」 二人の話は何時までも帰ってこないことを心配した、ルイズの差し向けたギーシュとマリコルヌが迎えに来るまで、 684 名前:2/6[sage] 投稿日:2007/05/24(木) 01:42:51 ID:wovT7SyO 周りを警戒しながら進む旅は遅々として進まず、日によっては野宿する事もあった。 「気にならないのか? ギーシュ」 夜は交代で眠って、怪しい人物が近づいてこないか注意する。 『夜更かしは乙女の敵よ?』 以上の理由で、この仕事は自動的に男性陣の役目になった。 「ちゃんと見張ってないと、後で怒られるぞ?」 キュルケは怖い。 「いや、それ所じゃないだろ?」 タバサとサイトを迎えに行く途中、風の乗って聞こえてきた不思議な話。 『俺の故郷の伝説でさ、竜の血を浴びたものは不死身の英雄になるって……』 他にも色々な話が聞こえてきたが、マリコルヌの印象に強く残ったのはそれだった。 「サイトも……きっと、サイトも竜の血を……」 見張りの間中マリコルヌの頭には、シルフィードの血を浴びて…… 「英雄になれば……英雄になれば……」 マリコルヌの脳内では、下級生に囲まれた自分がちやほやされていた。 「……英雄になれば……」 ギーシュには、国を出てからずっと続く心配があった。 どちらとも無く立ち上がった二人は、何も言わずに眠るシルフィードを探し始める。 ……起きているのは彼ら二人だけで…… …………止めてくれるものは誰も居なかった。 685 名前:3/6[sage] 投稿日:2007/05/24(木) 01:43:48 ID:wovT7SyO 竜の姿だと遠くからでも発見されやすいから。 「おねーさまはわがままなのっ、きゅいきゅい」 でも、そこがいいのー 「おねーさまがもっと頑張って、サイトに優しくしてあげたら、きっとイチコロなの」 タバサが他の人と仲良くるのは、ほんの少し寂しいけれど。 「もっと、おねーさまの笑顔が見たいの……きゅい」 いつもはタバサと並んで寝ていたけれど、今日はタバサをルイズとサイトに押し付けてきた。 「サイトは昼間誉めてくれたから、おれ〜なの〜」 二人の邪魔にならないように……タバサなら一人で眠ろうとするだろうけれど、 「今日は無理なのー」 サイトとルイズの所に向かう途中、たっぷりと怪談をタバサに聞かせた。 「おねーさまは、もうちょっと我侭になるべきなの、きゅいきゅい」 桃色髪をもっと見習うべきなの。 人間ならば真っ暗な森は恐怖の対象なのだろうが、 「静かで良い夜なの」 彼女は竜だった。 「……あれ?」 そんなシルフィードの目に、見覚えのある影がゆっくり近づいてくるのが写った。 686 名前:4/6[sage] 投稿日:2007/05/24(木) 01:44:44 ID:wovT7SyO 隠れていた筈なのに、あっさりと見破られた二人が杖を握ったまま、 「どーしたの? 何か有ったの? でも今日はおねーさまの邪魔しちゃだめ! きゅいきゅい」 見張りの二人が来た事で、シルフィードは不安に成った。 「……いや……なにもない」 暗い目で美しい女の姿をとっている『竜』を見つめながら、 「立派な墓を立ててやる……」 まったく警戒しないシルフィードに、悪人に成り切れない二人はかえって手が下せない。 「……っち」 舌打ちしたギーシュが地面に杖を向けると、いつかサイトに渡した剣が錬成された。 「……魔法は……詠唱が要るけど……これなら……」 決心し、思い切って振り下ろすだけ。 「この……先を……ほんの少しだけ……」 シルフィードの細い首から、視線を外さずギーシュは呟いた。 「先を、ほんの少し埋め込むだけで……血……が……」 どこか鈍いシルフィードも、二人の様子がおかしい事に気付き始めた。 687 名前:5/6[sage] 投稿日:2007/05/24(木) 01:45:51 ID:wovT7SyO そう思ったシルフィードは、じっと二人の行動を待った。 「……ギ、ギーシュ早くしろよ」 帰る場所の無い緊張感や、現状に対する不満が、見張りによる睡眠不足で加速されていた二人だったが、 「……や、止める……か?」 こうしてシルフィードは一切事態を把握しないまま、 「シ、シルフィード、野営地から離れすぎているから僕たちが送ろう」 暢気なシルフィードが、二人に連れられるまま野営地に戻ると、 「居たっ……」 人目を忍んでいた筈なのに煌々と明かりが灯されて、眠っていた筈のタバサも、サイトも、ルイズも、 「あれ? どーしたの? おねーさま」 駆け寄ったタバサは、シルフィードを睨みながら短い言葉をぶつけた。 「えと……森の奥の方に」 シルフィードの不在に気が付いたタバサが、サイトやルイズのみならず、全員を起こして辺りの捜索を始めていた。 「もうしない?」 心配してくれた事を悟った、シルフィードはニコニコとタバサに抱きついた。 「ありがとう」 そんなタバサを、サイトもルイズもキュルケもモンモランシーも、 688 名前:6/6[sage] 投稿日:2007/05/24(木) 01:47:04 ID:wovT7SyO 「いや、気にしないでくれたまえ、見張りとして当然さっ」 謙遜するギーシュを、モンモランシーは誇らしげに見つめていた。 ギーシュの心は結構重傷だ。 『……ぼ、僕は?』 マリコルヌも傷ついた。 ともあれ、全ては丸く…… 「ねーねー、おねーさま、『ハカ』ってなに?」 ギーシュとマリコルヌは思わず首を竦めていた。 「んとね、森の奥でギーシュさま達が……『立派なハカ』って」 静かな森の空気が凍りついた。 「まさか……『破瓜』?」 『『ちょっ、まぁぁぁ、その言い方はぁぁぁぁぁ』』 ギーシュとマリコルヌは言葉に成らない絶叫を上げるが、本当の事は更に言えなかった。 「……とりあえず」 風と水が静かに杖を構え、怯える土と風に向き直る。 「「しんぢゃえぇぇぇぇ」」 お前ら、人目忍んでるんじゃなかったのか? それはまた、別のお話。 |
|