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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:47:25 (5645d)
474 :名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 00:28:38 ID:G3dPTleT
「貴族が魔法使えないなんてありえなくない?」
「下級貴族ならまだしもヴァリエール家の名前もってるのにねー。落ちこぼれってやつ?」
「きゃはは♪正直、学園来ていみあんの?ってね」
廊下を歩いていたらそんなことを聞いた。
私は魔法が使えない。
毎日魔法の練習をしている。
昨日は『アイスニードル』を必死に木に向かって唱え続けた。呪文は完璧に覚えてるし、杖の振り方だって問題はないはず。
でも出来ない。
出てくるのは訳のわからない爆風だけで氷なんて一つもできなかった。
周りからクスクス笑いが聞こえる。
毎日本を読んでいる。
図書館の初歩的な魔法に関する本をすべて読破し、いくつかは暗唱できるくらいにまで読み返した。
昨日は『連金』の基本概念について書いてある本を読みなおしてみた。
物質自体の元となっているものの形を理解し、変換するものの形を想像し、それを魔力にのせて物質を返還する。
概念は理解できた。
ためしに土を青銅に変えようとしてみた。もう何度もやって、すべて失敗してきたこと。
それでも次は成功するかもしれない。そう信じて呪文を唱える。
でも出来ない。
地面に穴が空いた。
「この穴開けたのだれだ?まさか誰かさんが魔法を使おうとしてふっ飛ばしちゃったのかなぁ?」
「いやいや、この学園に初歩的な連金すらも出来ない魔法使いなんているわけないって」
「だよなーそんな魔法使いいるわけないよなぁ〜」
気にしない。
「やぁゼロ。魔法の調子はどうだい?」
「昨日の大穴でなにを作ったんだい?」
無視。こんな奴ら相手にしたってしかたがない。
私はヴァリエ−ル家の三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール。
周りの人間は全員敵だ。だれも信じない。
「友達なんか…いらないんだから」
少しだけ視界が滲んだ。
475 :名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 00:29:16 ID:G3dPTleT
馬鹿な平民が現れた。
そいつは変な服、変な顔。
貴族がなにかもわかってなかったし、おまけに「俺はこの世界の人間じゃない」とか言い出した。
こいつが自分の使い魔だという。やっぱり私はゼロだ。
でも自分より何もできない人間ができてくれた。
せっかく手に入れた自分が見下せる人間。これまでさんざん見下されてきたんだ、きっとブリミル様は魔法が使えない自分のために奴隷を用意してくれたんだ。
私はそいつをこき使った。掃除、洗濯、身の回りのことすべてをこいつに押し付け、ご飯も最低限度のものしか与えなかった。
逃げ出したければ逃げ出せばいい。
これは期間限定の優越感。生まれ以外平民と大差ない自分が人間をこき使って許されるはずがない。
こんな気持ちはこの男が逃げだすまでだけでいい。
ある日、その男が貴族と喧嘩をすると言い出した。
間違いなく男が死ぬ。自分が最初から『逃げてもいい』と言わなかったせいだ。
自分の我儘で人が死ぬ。そんなのは絶対に嫌だ。だから止めた。でも…
「メイジだが貴族だがしんねえけどよ。お前ら揃いも揃って威張りやがって。魔法がそんなにえらいのかよ。アホが」
一度吹っ飛ばされながらもそんなことを、貴族に向かって吐いた。
うれしかった。とってもうれしかった。
魔法っていう大きな力に負けたのに。でも立った。魔法なんか偉くもなんともないって言ってくれた。
一番誰かに言って欲しかった言葉だった。
彼はまた何度も殴られた。右腕は変な方向に折れ曲がり、顔は原型を留めていない。
でも立った。
「お願い。もう止めて」
まだ謝ってない。あなたを自分のイライラのはけ口にしたこと謝ってない。だから死んで欲しくない。
それでも彼は立った。そして…
「ま、参った」
私の代わりに魔法に勝ってくれた。
それからも私は彼をこき使った。
彼がいつ自分のもとを去ってもいいように。
自分から「どこへ行ってもいい」だなんて言えない。
だってあったかいから。人といるのはあったかいから。
自分から手放すなんてこともう出来ないから。
事件がおきた。
学院秘宝の杖が盗まれてしまった。
私は杖の奪還に立候補した。
他にも二人の女の子が立候補。
ゴーレムに襲われた。
大きい大きい、私どころか他の二人のメイジも勝てないくらいそのゴーレムは強かった。
それでも立ち向かう。彼だって勝てたんだ。
私だって勝ちたい。彼みたいに立ち向かえばきっと…
ボンボン
ダメだった。まるで意味がなかった。
私はやっぱりゼロのルイズだ…
あいつみたいにはなれない…
ゴーレムの腕が私を潰そうとしたとき。
『死ぬ気か!お前!』
また彼が救ってくれた
だからね。あなたが望むことならなんでも叶える。
それが私からのお礼。