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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:49:03 (5642d)

131 名前: 1/5 [sage] 投稿日: 2007/09/19(水) 03:44:08 ID:V6NdQuWM
 誰かに愛されて、誰かを愛して、人は自分を形作ってゆく。
 一人で生きていくとは出来ない人間が、ごく自然に身に付ける周りとの繋がり。

「さあベアトリス、今日もお話しましょうか?」
「……はい……ミス・ウェストウッド」

 ほんの数週間前まで溢れていた覇気が微塵も感じられなくなった少女がそこに居た。
 ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフ
 かつて誇りを持って語られた彼女の名前。

「お友達だから、テファでいいよ? ベアトリス」
「は……い……テファ……」

 何かがおかしい、つい先日までそんな事で悩んだりもした。
 それでも最早……

「おいで、ベアトリス」

 ティファニアの抱擁から、その暖かさから逃れる事は出来ない。
 自分が壊れ始めているのが分かっているのに、理性は逃げろと囁くのに。

 彼女の望みを叶える度に、また一つ自分は自分じゃなくなってしまうのに。

「ベアトリスを好きになってくれた人の話しをしようね」
「…………はい」

 思い出が、また一つ消えていくというのに。
 テファニア以外の自分を愛してくれた人の記憶が失われ、
 ベアトリスはまた一歩、ティファニアから離れられなくなる。

『お友達だから、一度ゆっくりお話しましょう』

 ティファニアの無知を嘲笑おうと、あわよくば弱みに一つも握ろうと、
 その誘いに乗った翌日から、ベアトリスは自分が保てなくなっていった。

 昼過ぎから話していた筈なのに気付くと日が落ちていた事。
 胸の奥で何かが欠けてしまった、不思議な感覚。

 ――そんな”些細”な事が気にならなくなるほどの衝撃。

『またね』

 優しく回されたテファニアの腕の中。

 ”記憶に残る限り、生まれて始めて”優しくされたベアトリスは……

「ひっ……あっ……うああぁぁぁぁぁぁ」

 泣き崩れながら……ティファニアの腕の中に絡め取られてしまった。
132 名前: 2/5 [sage] 投稿日: 2007/09/19(水) 03:44:51 ID:V6NdQuWM
 サイトを馬鹿にした。きっかけはそれだけの事。

『みんなに迷惑が掛かるから』

 サイトは本当は強いのに、黙って頭を下げてくれた。
 それが本当にうれしかったのに、皆はあれからサイトの事を馬鹿にした。

 腰抜けだって噂して、
 嘘吐きだって見下した。
 臆病者だと、サイトに聞こえる様に笑ってた。

 ――それでもサイトは平気だった。

『テファが無事でよかったな』

 そう言ってくれたから……他の子が馬鹿にしても、
 サイトは<一番大切な>お友達。

 それに変わりは無かったのに、

「ミス・ウェストウッド、貴方のお抱えの騎士は頼りに成りますわね」

 他の子が教えてくれるまで、ベアトリスのその言葉が嫌味だって気付かなかった。
 だってサイトは本当に頼りに成るから。

「うん、サイトは凄いんだよ」

 そう言った時の周りのざわめきが理解できなかった。
 不思議そうな顔をしていると、ベアトリスが気持ち良さそうに笑っていて……

 それは何度も繰り返されて、
 見かねたお友達が教えてくれるまで、
 わたしはサイトを傷付ける手伝いをしていた。

 ――わたしを使ってサイトを馬鹿にしていると教わった時、

 ベアトリスがどうしても理解できなかった。

 どうして?
 どうして平気で人を傷付ける事が出来るの?

 どうすればあんな風に育つのか、わたしにはどうしても理解出来なくて……
 だから……

「あの子達みたいに、優しくなってもらおう」

 そう……思った。
 
 わたしが育てていたあの子達みたいに。
 いろんな子が居たけれど、あんなに自信に溢れた子は居なかった。
 でも……真逆の子なら居た。

 お父さんも、お母さんも、わたしの事が嫌いなんだ、そう言って、泣いていた子。
 優しい記憶を何も持っていなくて、無数の痣を抱えていた子。

 あの子はとても素直で……優しかった。

「……ベアトリス、貴方の優しい記憶……貰うね」

 それは復讐でもなんでもなく、ただ……不器用な親切。
133 名前: 3/5 [sage] 投稿日: 2007/09/19(水) 03:45:24 ID:V6NdQuWM
「あ……の……あの……あのね、テファ」
「なあに? ベアトリス、お話はまだかな?」

 更に数日がたって、ベアトリスの記憶の限りの愛された記憶をティファニアは消滅させてゆく。

 ――愛された記憶を持たない少女は、すっかり別の性格へと変貌を遂げ、
 ティファニアと言う名の麻薬に溺れきっていた。

「あ……の……え……と……」
「お話が無いなら、今日はもうこれまでかな?」
「いやっ! いやだっ……テファ、待って……お、思い出すからっ
 頑張って思い出すから、ベアトリスを部屋に追い返さないでっ!」

 今のベアトリスはティファニアの側に居るためになら何でもした。
 誰ひとり信じるものの居なくなった少女にとって、唯一残された聖域。

「あ、……そ、そうだ……あのね、3歳の時、おじいさまがプレゼントをくれて……」
「……本当よね? ベアトリス、嘘だったら……」
「ほ、本当だよ、テファ、本当だから……もう嘘つかないから……
 ア、アレは……嫌……アレだけは……許して……」

 彼女がここまで恐れる罰の正体は、単に数時間彼女を無視する。
 それだけ。

 ベアトリスの世界はティファニアを中心に回っていて、
 冷たい視線一つで、何もかもを崩壊させた。
 
 授業中にワザと視線を一度も合わせなかった時等は、
 休み時間と共に泣きながらティファニアにすがったし、
 就寝時間で部屋に送られる度に、毎日抗った。

「そう……じゃあ、目を瞑っててね、ベアトリス」
「はい、テファ」

 短い呪文が部屋に流れると、また一つベアトリスが壊れた。
134 名前: 4/5 [sage] 投稿日: 2007/09/19(水) 03:45:56 ID:V6NdQuWM
 ――シュヴァリエ・サイトが居る。

 あの人の事を話す度にテファが笑う。
 弱い騎士だと言ったら、口を聞いてくれなくなって、
 優しい人だと誉めたら、抱きしめてくれた。

『サイトが居なかったら、わたしは学院に来てなかったわ』

 テファがそう言ったから、ベアトリスはサイトを凄い人だと思う。

 だって、テファがそう言うんだから間違いない。
 生まれて始めてわたしに優しくしてくれた人。
 
 皆に嫌われて、誰にも愛されないわたしを包んでくれる天使。

 わたしは知ってる。
 わたしの居ない所で、皆がわたしを何て呼んでいるか。
 わたしの騎士達も、我侭娘のお守りなんてごめんだって言っている事を。

 テファだけがわたしに嘘をつかない。

 そのテファが信じる人。
 もうすぐ授業だと言うのに、広場の隅で昼寝している変な人。

 テファが居る教室に、わたしも早く帰らなきゃ。

 あ……でも……

『そのうちサイトにちゃんと、お詫びしようね?』

 テファがそう言っていた。
 一人でお話できたら、テファはベアトリスの事誉めてくれるかな?

 そんな事を考えてしまうと、その場から離れられなくなる。
 
 でも……

(し、知らない人に話しかけるのいやだなぁ……)

 昔は平気だったはずなのに、最近のわたしは人間が怖い。
 信じられるのはテファだけだ。

 騎士とかクラスメイトになら、どう『命令』すれば良いのか分かるのに。
 テファの大切なお友達相手に、『命令』なんて出来ないし。

 そうやって悩んでいると、相手のほうがわたしに気付いた。

「ん? あーお前は……」

(お、お前……お前って言われた……)

「テファ苛めてた、馬鹿か?」

 …………心の深い所に、鋭い何かが刺さる。
 そう、わたしはほんの少し前までテファを……あの素晴らしい人を苛めていた。

 忘れたいのに忘れられない事実、その事を思うたびに辛くて、悲しくて……

 ――涙が……溢れる。
135 名前: 5/5 [sage] 投稿日: 2007/09/19(水) 03:46:31 ID:V6NdQuWM
 声も立てずに泣くわたしの頭に、ごつごつした手がポンと乗せられた。

「悪いな、泣くほど反省してるんなら、もう言わない、ごめん」

 びっくりして……涙が止まる。
 テファが……誉めるのが分かる。

 『始めて』男の人に優しくされた。

 わたしの胸が高鳴る。

「泣き止んだか?」

 そう言いながらわたしの顔を覗き込もうとするけれど、泣いている顔を見られるのが恥ずかしくてつい俯いてしまう。
 多分、まだ泣いていると思われたんだと思う。

「言い過ぎたか? ごめんな」

 優しい言葉と一緒に、人目の無い木陰まで連れて行ってくれた。
 無骨だけど優しい腕が、宥めるように背中を叩く。

「年下の女の子だもんな、俺、もうちょっと気を使わないといけないんだろーなぁ」

 この人の事……悪く言ってたんだ……
 わたし、皆に嫌われて当然だ……

 また……涙が溢れる。

 なかなか泣き止まないわたしを、シュヴァリエ・サイトがおろおろと慰めるのが楽しくて……
 つい……いつまでも……いつまでも泣き続けてしまう。

 いつの間にか授業が始まっていたけれど、気が付くと始まっていたシュヴァリエ・サイトとのお話が楽しくて、
 その時間はずっとお外でお話をした。

 ――凄く凄く楽しい時間だった。

 わたしは知らなかった。
 そんな事をしたら、噂になるなんて。

 大切な思い出だから、テファにも話さなかったこの事が、
 皆の口からテファに伝わっているなんて……

 ――その時は……まったく知らなかったんだ。

501 名前: 1/7 [sage] 投稿日: 2007/09/25(火) 02:16:50 ID:qOHZlljg
 ざわめいていた教室が、一瞬で静まり返る。

「?」

 皆がわたしを見て話を止めた気がしたけど、どうかしたのかな?
 テファの側に何人か女の子が居る。
 わたしが居ないと、テファの周りにはいつも人が沢山集まる。
 
『うれしいんだけど、一度に沢山の人って緊張しちゃうから、ベアトリスが居てくれて助かるわ』

 どんな形でもクルデンホルフの名前が役に立つのなら、うれしかった。

 でも、今日はなんだか違った。
 テファの周りの女の子たちは、わたしの姿を見ても逃げない。
 テファの陰に隠れるようにして、わたしの方を見ている。

 ――嫌な目だ。

 冷たい目、覗き込むような、見下すような……わたしを突き放した目。
 その視線に押されて、わたしはテファの側に近寄れない。
 少し前までは人の視線なんて。気にもならなかった。
 でも、今は少しだけ怖い。
 
 人がわたしをどう見ているのか、それがとても気に掛かるから。

「ベアトリス?」

 テファがわたしの名前を読んでくれると、テファの陰に隠れていた女の子たちが慌てて逃げ出す。
 
 ――テファはやっぱり優しい、わたしの一番のお友達。

 他の子が羨ましそうに見守る中、わたしはわたしの特等席に……テファの隣に座る。

「何かいい事有った? 凄くうれしそう」
「えっ……う、ううん、何も……何も無いよ……テファ」

 シュヴァリエに優しくしてもらった事を話すのが、ちょっと恥ずかしくて、ついテファにも内緒にしてしまう。

 …………教室の空気が揺れた。

 教室中の視線がわたしに集まる。
 今、気付いた。
 皆テファとわたしの会話を聞いていた事に。

 わたしの返答を聞いた皆が、ヒソヒソと話を始める。
 ――冷たい目、嘲笑うかの様な唇。
 何か……間違えたのかな?

「そう……何も……無かったんだ」

 テファが笑ってる。
 わたしはそれだけで少し安心できた。
 他の子なんか要らない、テファだけ居れば良い。

「後でわたしの部屋に来てね? ベアトリス」
 
 テファが笑っていれば、他に何も要らなかった。
502 名前: 2/7 [sage] 投稿日: 2007/09/25(火) 02:17:25 ID:qOHZlljg
「いらっしゃい、ベアトリス」

 テファの部屋はいつも良い香りがする。
 好きだから、落ち着くからって、近くの森や広場で花や野草を摘んで、
 部屋のあちこちに飾られていたし、
 お薬にもなるんだよって、綺麗に並べて干してあったりする。
 そのお陰で、テファの部屋に入るといつも森の奥に踏む込んだような不思議な気分になった。

「お邪魔します、テファ」
「お友達ですもの、邪魔になんかしないわ」

 穏やかに笑うテファが大きく腕を広げてくれると、わたしは耐え切れなくなってテファに向かって駆け出す。

「テファァッ……テファ、テファテファっ」
「あら、ベアトリスは甘えん坊さんね」

 子供をあやす様なテファの声。
 他の子にされたらきっと不快になるに違いないけど、テファに言われると別。

「テファ――、ずっと、甘えたかったのっ、今日も一日我慢したんだからっ、
 誉めて……誉めて、ねぇっ、誉めてよぅ」
「ええ、良い子ねベアトリス」

 だってわたしは本当に子供みたいになってしまうから。

 森の中のような部屋の中で、華の様なテファに抱かれていると、
 幸せで、幸せで、幸せで、なーんにも考えられなくなる。

「ベアトリスは良い子よね?」
「ん……良い子だよ」

 目を瞑ったまま、テファの胸に頬を擦り付ける。
 柔らかくて、暖かくて、きっと世界中の優しいものの詰まっている世界一のおっぱい。
 今ハルケギニアで一番幸せなのは、間違いなくわたし。
 自分の胸はまだ膨らまないけれど、テファのが有るから自分は良いや。
 うっとりテファに寄り添っていると、細い指先がわたしの髪を梳いてくれる。

「ベアトリスは、嘘なんかつかないわよね?」
「うん」

 何も考えずに、テファにお返事。

「じゃあ、あの子達が嘘ついたのかな?」
「え?」

 テファの手がわたしを抱きしめてくれる。
 それはとても嬉しかったけれど……

 抱きしめられていると、テファの顔が見えなくて……

 それが凄く怖かった。
503 名前: 3/7 [sage] 投稿日: 2007/09/25(火) 02:18:14 ID:qOHZlljg
「う、嘘?」
「うん、ベアトリスが授業をサボってサイトとお話してたって」

 っ!
 それは嘘じゃないけどっ。
 違うの、違うのテファっ

 テファに言い訳をしようとした……

 でも……教室で一度テファに何も無かったっていっちゃった。
 テファに嫌われるのが怖くて、もう本当の事を言い出せない。

 知らなかった。
 本当に怖い時、喉が凍って何も話せなくなるなんて。

「ベアトリス、サイトと仲悪かった筈なのに、凄く楽しそうだって聞いたけど……
 嘘だったのよね?」

 ……わたしは……何も言えない。

「ベアトリス?」
「……っ…………ぁ……ぅ……」

 身体が勝手に震えだす。
 怖い、わたしには何も無いのに。
 テファしか居ないのに、もし……

 考えたくも無い想像が私を押し潰す。

 わたしの肩を掴んだテファが、ゆっくりわたしを引き離すと静かにわたしの目を見つめる。

 ――全てを見透かすような目と視線を合わせる事が出来ないわたしは、咄嗟に……

 目を逸らしてしまって……

 テファにはそれで十分だったらしい。

「……さようなら、ミス・クルデンホルフ」

 どこまでも優しいテファの、どこかよそよそしい態度に押し出されるように部屋から出たわたしは、
 涙を堪えて自室まで駆け戻った。
504 名前: 4/7 [sage] 投稿日: 2007/09/25(火) 02:18:49 ID:qOHZlljg
『ベアトリス、サイトと仲良くなったんだ』

 前までのベアトリスなら、サイトとお話したりは出来なかったから、
 それは喜ぶべき事。
 
 ……嘘を吐かれたのは少し悲しいけれど、
 サイトとお友達になれるほど優しくなれたのなら、もう魔法を使う必要も無い。

『サイトにバレちゃうし……』

 ティファニアの魔法の存在を知るサイトに関する記憶を消すと、
 ベアトリスとサイトの記憶の齟齬から、サイトが気付くかもしれないから。

『……なんだか怒られちゃいそうな気がするし……』

 変わり始めたベアトリスを見て、ティファニアは自分の魔法に疑問を持ち始めていた。
 ひょっとしたら、軽々しく人に掛けてよい魔法ではないのかも知れないと。
 自分はとんでもない事をしてしまったのかもしれないと。

 でも……消えた記憶は還らない以上、最早できる事は何も無い。

『内緒、内緒』

 どうしようもない事で延々悩める程、ティファニアは余裕のある人生を送っていなかった。
 考えても意味の無い事で悩んでも仕方ない、そう思いばっさりとベアトリスの事を切り捨てる。

 それよりも……

「サイトとお話……いいなぁ……」

 自分も学院に来てからサイトとゆっくりお話なんかしていないのに。

 そんな想いがわだかまっていて、その所為で、不必要なまでにベアトリスに冷たくしてしまった自分の心に、
ティファニアはまだ気付いていない。

「……サイト……」

 窓を開けて、サイトの部屋のある方を眺めるティファニアの目は伝えられない思いで溢れていた。
505 名前: 5/7 [sage] 投稿日: 2007/09/25(火) 02:19:45 ID:qOHZlljg
 ベアトリスは一睡も出来なかった。

『テファに嫌われた』

 そう考えると、眠ることも起きることもできない。
 
 真っ青な顔をしたベアトリスを見て、ベアトリスの騎士達は彼女を引きとめようとしたが、

「下がりなさいっ!!」

 ベアトリスの記憶には騎士達の忠誠を信じるに足る根拠が無い。
 信用できない近衛等、鬱陶しいだけの存在に過ぎなかった。

 なにより……

『授業に出ないと……テファに会えない』

 ――ひょっとしたら……昨日の事は夢かもしれない。
 そんなありえない希望にすがり、世界で一番大切な人に会いに、
 重い足を引きずりながら教室に向かう。

 朦朧とした頭で教室に入ると、ティファニアは既に教室に居た。

「あ……」

 ベアトリスと目が合って……ふわりと、花がほころぶ様テファの笑顔。

『……よか……っ……たぁ……』

 やっぱり自分の勘違いだったんだ、夢だったんだ。
 テファがわたしに冷たくするな……

「おはよう、ミス・ クルデンホルフ」

 ――世界が止まる

「……おは……よぅ……ミス・ウェストウッド……」

 泣いちゃだめ……
 今泣いたら、テファが悪いみたいだもの、
 テファに泣かされたみたいに見られたら、テファに迷惑が掛かるもの。

「き、気分が悪い……から……今日は失礼させていただく……わ……」
「そう……気をつけてね? ミス・ クルデンホルフ」

 泣きたかった。
 でも、クラスメイトにテファを誤解されるのはもっと嫌だった。

 テファは何時だって優しくて素敵な人だから……

「さ、さようならっ」

 誰にも顔を見られない様、睡眠不足の身体に鞭打ってベアトリスは逃げ出していた。
506 名前: 6/7 [sage] 投稿日: 2007/09/25(火) 02:20:20 ID:qOHZlljg
 ――どうやって死のう?
 ベアトリスの今の興味はそれだけ。

 ――テファに迷惑が掛かったらどうしよう?
 未来への希望はそれだけ。

 ――遺書……書きたいな……
 テファにごめんなさいが言いたいから。

「ひっ……ぅ……っく……うぇ……」

 人気の無い廊下を、一人でぽつぽつと歩く。
 遠くから聞こえる授業の声。
 そこに自分が居ないことが、寂しさに拍車をかける。

 今テファは授業を受けていて、自分はそこに居ない。
 
 これからも……そこには居られない。
 嫌われてしまった自分が側に居たら、テファが不快になるかもしれないから。
 テファに悪い事をするくらいなら、自分なんか無くなってしまえばいいから。

 寂しい時に一人で居ると、思考は暗い方へ暗い方へ転がり落ちてゆく。

 誰にも愛されない自分、
 たった一人だけ優しくしてくれた人。

 ……いや……もう一人……

「おー、また泣いてんのか?」

 授業中の廊下を徘徊する変な人、

「シュヴァリエ……サイト……さん?」
「……サイトでいいけど……あー……」

 新鮮な逡巡、ベアトリスの周りの者はベアトリスの名前を知っている。
 ご機嫌を取るために、そうでなくとも敵として……

 なのに、ティファニアと同じくこの男は……

「ベアトリス……です」

 ――とても新鮮だった。
507 名前: 7/7 [sage] 投稿日: 2007/09/25(火) 02:20:53 ID:qOHZlljg
「つまり……テファと喧嘩した?」
「……違います」

 テファが大切にしている人だから。
 サイトに対するベアトリスの物腰は、知らず知らずに丁寧になってゆく。

「ん〜? 喧嘩じゃないのか?」
「テファ…… ミス・ウェストウッドは悪くないから、喧嘩じゃないです」

 嫌われたから、お友達じゃない自分は、もうテファって呼べないから。
 そう思うと、ベアトリスの涙はもう一度溢れ始める。

「と、とりあえず泣かないでくれー」

 世の男の常として、サイトも女の子の涙には弱い。
 ルイズの涙とは別の意味で、ベアトリスの涙には勝てない。

 なにしろ……年下。

「い、苛めてるみたいじゃねーかぁぁぁぁ」

 一向に泣き止まないベアトリスに、サイトの神経は追い詰められてゆく。

「わ、わたしなんか死んじゃえば良いんです」
「お、おちつけぇぇぇぇぇ」

 一度揉めた相手とはいえ、目の前で自殺されるのは勘弁して欲しかった。

「テ……ミス・ウェストウッドの事、釜茹でにしようとしたし……わ、わたしなんて、
 わたしなんて……死んで当然の……」
「だから落ち着けぇぇぇぇ」

 サイトは絶叫と共に、ベアトリスの肩を力任せに掴んだ。

「った……」
「そんなに釜茹でが重罪ならっ、テファに茹でて貰えばいいだろぉがぁぁぁ」

 ――サイトの頭も茹っていた。

431 名前:1/7[sage] 投稿日:2007/10/25(木) 02:03:59 ID:CWgsQxO4
 学院の片隅、誰も居ないほの暗い闇の中にソレは有った。

「本当に……有ったんだ」

 大きな釜。

 大きな釜が有るから、そこで待っているようにシュヴァリエはそう言った。
 釜茹でにした事を後悔して、釜茹でにされたいのならソコに行けば良いと。
 どうしても死にたいのなら、どこで死んでも一緒だろうと、そう……言われた。

 テファに嫌われたわたしは何にも興味が無かったけれど、
 テファが来る。
 その言葉がわたしの足をここに向けさせた。

 ――テファになら殺されてもいいから。
 
 シュヴァリエが支度してくれているのだろう、釜の中にはお湯が張ってあって、
 釜の下ではまだ薪が燃えていた。

(ここで死ぬんだ)

 テファに謝った後なら、もう何も要らない。
 そのまま死んじゃっていい。

 そんな事を考えていると、夕闇の中から声が響いた。

「ベアトリス?」
「っ!」

 ……テファ……が……テファが……ベアトリスって呼んでくれた。
 昼間の様に、『ミス・クルデンホルフ』って他人行儀に呼ばれると思ってたのに。

 それだけで、良いや。
 もう……何も……

「ベアトリス、ずるい」
「テ、テファ?」

 わ、わたしまた何かしたのかな?
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……

 繰り返し謝りながら、恐る恐るテファの方を見ると、すねた表情のテファが居た。

「仲直りの仲介をサイトに頼むなんて、ずるい」
「え……? ……ぇ?」

 ナカナオリ?

「……あ……の……?」
「サイトが……ちゃんと仲直りした方がいいよって……わたし、サイトに怒られたわ」

 ……ぇと……

「仲直り……して……くれるの?」
「……だって、サイトが……もう……ベアトリスは仲直りしたくないの?」

 突然訪れた幸せに何も考えられないまま、わたしはテファを抱きしめた。

432 名前:2/7[sage] 投稿日:2007/10/25(木) 02:04:32 ID:CWgsQxO4
「……ベアトリス泣きすぎ」
「ご、ごめんなさい……テファ」

 わたしが泣き止んだ時にはテファの服が涙でベトベトに成っていた。
 テファは水気を吸って肌に張り付く服を摘みながら、

「でも、丁度良いかな?」

 妙な事を呟いた。

「丁度良い?」
「うん、サイトがね、仲直りに一緒にお風呂でも入ったら?
 って、ほら、丁度沸いてるでしょ?」

 ――釜茹で用の釜じゃなかったんだ……
 シュヴァリエにはすっかり騙されてしまったけど、こんな嘘なら許してあげてもいい。

「い、一緒に?」

 皆で入るお風呂と違って、これは小さいけれど。
 テファと二人きりなら十分な大きさだし、なにより二人きりなのが嬉しい。

 特別なお友達、そう言ってもらえたみたいだ。

「うん、一緒に」

 テファの言葉に導かれるように、わたしは服を脱ぎ始めて、
 気づいた時にはテファと一緒に湯船の中だった。

433 名前:3/7[sage] 投稿日:2007/10/25(木) 02:05:05 ID:CWgsQxO4
「暖かいね」
「ん……あったかい」

 お湯も、テファの側もすごく幸せで気持ち良い。
 冷え切っていた心も体も温められて、さっきまでの恐怖が嘘みたい。

「どうしたの?」
「な、なんでもない」

 ここにいられる事がうれしくて、テファを見ていると笑いかけてくれた。
 そんな些細な事が楽しくて、じゃれ付くようにテファに触れ、二人で笑いあっていた。

 このまま、時間が止まればいいのに。
 テファをずっと独り占めしたい。
 つい、そんなことを考えてしまったわたしを罰するように、遠くから声が響いた。

「テファー、仲直りした〜?」
「うん、サイトありがとう」

 男の子の声に、慌てて首までお湯の中に隠れる。
 ……テファは平気そうだけど……
 おっきいと、見られても平気なのかな?

「ん、じゃあ俺行くわ」

 あぁ、シュヴァリエは優しいんだ。
 仲直りの時に二人きりで会って、こじれたら大変だから。
 フォローする為に、遠くで様子を窺っててくれたんだ。

「……ありがとう」

 わたしの声は、多分小さくて聞こえなかっただろうけれど、
 その言葉をどうしても口にしたかった。

 次に会ったら、ちゃんと聞こえる声で……
 わたしのそんな考えは、テファの言葉で遮られた。

「? どうして?」

 ? なにが『どうして』なんだろう?

「サイトは、お風呂入らないの?」

 ……はい?

「お友達だったら、仲良くお風呂でも入れってサイトが言ったのに、
 お友達のサイトは、一緒にお風呂に入ってくれないの?」

 ……テファはどこかずれていると思う。

435 名前:4/7[sage] 投稿日:2007/10/25(木) 02:05:36 ID:CWgsQxO4
「お、おじゃましまーす」
「サイトのお風呂じゃないの?」

 そんな問題じゃなーい。
 心の中で絶叫を上げるけど、テファは構わずシュヴァリエをお湯の中に導く。

「あの……テファ、ちょ〜っと、あっち向いてて欲しいんだけど」
「うん。 でもどうして?」

 シュヴァリエが可哀想に成って、黙ってテファの頭をわたしの方に向けると、
 ちょっと頭を下げたシュヴァリエが素早くお湯の中に滑り込んだ。

「ったい……ベアトリス? どうかしたの?」
「な、なんでもない」

 テファの向こうで、シュヴァリエが申し訳なさそうに頭を下げているのに気付いて目で返事をしていると、テファが面白くなさそうに呟いた。

「二人だけで……楽しそうね」
「っ! そ、そんな事無い」

 ほんの少しだけ声に混ざった冷気に、わたしの背筋はあっさりと凍りつく。

「そ、そうだぞ、テファ」

 シュヴァリエの声が聞こえた瞬間、わたしを襲っていたプレッシャーは消えたけど、
 ニコニコ笑っているテファの瞳は、一瞬もわたしからそらされることは無かった。

 テファの誤解を少しでも解こうと、シュヴァリエの視線から隠れるようにテファの背後に回りこむ。
 細くて胸以外に余分な肉なんてついていないのに、やわらかくて女らしい体。

 ……なんだかずるい。

 シュヴァリエも見ないように気を使っているつもりだろうけれど、
 後ろから見ているとテファの視線が外れるたびに、視線が胸に向かってた。

「どうかした?」

 シュヴァリエの様子がおかしいのに気付いたテファが近寄ろうとするのを、慌てて後ろから止める。

 裸なのに、男の子と女の子なのに、そんなに側に近寄るのは駄目。

「あ、赤ちゃんできちゃう」

 必死になったわたしは、ついそんな恥ずかしい言葉を大声で叫んでしまった。
 真っ赤になったシュヴァリエが、ぶくぶくとお湯の中に沈んでゆく。
 
 ……恥ずかしい。

「そーなの?」

 え?

 本気で不思議そうな顔をしたテファが、優雅に振り返って、

「赤ちゃんて、側によるとできるの?」

 ……えっと……

436 名前:5/7[sage] 投稿日:2007/10/25(木) 02:06:12 ID:CWgsQxO4
「ち、違うけど」
「? 知らないの? ベアトリス、知らないのに知ってるみたいに嘘を吐いたの?」

 わたしを見ているテファの目がすっと細くなる。
 整った綺麗な顔は、そんな些細な仕草だけで凄みを増した。

「ふーん、嘘……また吐いたの? ベアトリス」
「ちっ、ちがっ……ちがうのっ、テファ」

 恐怖に震えながら、助けを求めてシュヴァリエの方を見るけれど、
 女の子の『赤ちゃんできちゃう』発言によほど衝撃を受けたのか、
 妙に幸せそうな表情で半分お湯に沈んでいた。

「後でゆっくりお話しましょうね? ミス・クルデンホルフ」
「っ……」

 また捨てられる。

 その恐怖は何よりも強くわたしの心を縛る。

「ま……って、まってテファ」
「なぁに?」

 ちらりとシュヴァリエの方を見る。
 まだこちらに方に注意が向いていないのを確認してから、テファに囁く。

「あの、あのねテファ、知ってるの。本当だから。後で説明するから」

 だから捨てないで、側に居させて。
 一生懸命お願いするけど、テファの目に熱はなかなか戻らない。

「んと……ね、ベアトリス、じゃあねぇ、今教えてくれるなら良いよ」
「い、今?」
「うん、今」

 ……男の子が居るのに?
 でも……

「あの……あのね、テファ……男の子の…………をね……その……女の子の……」

 お湯の熱さとは違う熱が、体の中からわたしを熱くする。
 まだ聞こえてないみたいだけど、シュヴァリエに聞かれたらと思うと……

「……ねー、ベアトリス」
「……はっ……い……テファ……」

 テファが話し掛けてくれているのに、熱くなった頭はゆっくりとしか反応しない。
 羞恥で何も考えられない。

「説明の意味がよくわからないから、もっとちゃんと説明して」

 不満そうなテファの目。
 わたしがよくわからないことを言って、誤魔化そうとしてる。
 そう……思われているんだ。

「あの……ね……テファ……ココに……ね……」

 わたしはお湯の中から立ち上がっていた。

437 名前:6/7[sage] 投稿日:2007/10/25(木) 02:06:50 ID:CWgsQxO4
 サイトは幸せな妄想にふけっていた。

 女の子の『赤ちゃん出来ちゃう』発言はなんとゆーか、妙にニヤニヤしてしまう。
 しかもちょっとした諍いが有ったとはいえ、テファが来るまで下級生の一番人気。
 家柄補正はあったとはいえベアトリスも文句なしに美少女の部類だ。

 見るからに幼い少女が唐突に

『赤ちゃん出来ちゃう』

 ……イロイロ考えていたサイトの妄想を覚ましたのは、お湯の音だった。

「あの……ね……テファ……ココに……ね……」

 立ち上がったベアトリスが、俯いたままテファに自分の奥を見せようと、
 慎重に閉じた蕾を両手で開いて見せようとしていた。

「男の子のね、オチンチンを……差し込んでもらって、男の子が気持ちよく成ってくれたら、赤ちゃんができるんで……す……」

 ベアトリスの語尾は小さく消えてゆき、伏せられた瞳は小さく震える。
 その瞳が何度か狂おしそうにサイトに向けられるが、サイトは目をそらすことができなかった。

「……本当? サイト」
「! っ、あっ……な、なにっ、ちょっと……聞いてなかったっ」
「赤ちゃんの作り方、今ベアトリスに聞いてたの」

 マチルダねえさんは教えてくれなかったら、そんな言葉が小さく消えていったけれど。
 サイトもベアトリスもそれ所ではなかった。

 結局、ルイズにもシエスタにも一度も見せてもらったことの無いサイトは興味深々だったし、
 ベアトリスに至っては、テファが納得してくれるまでお湯の中に戻れないのに、
 目の前の男の子は、穴が開きそうなほど自分の大切なところを見つめていた。

「あ、サイト聞こえなかったんだよね? ベアトリス、もう一回」
「ひっ……う……あ……ぁ……」

 ほとんどお湯の外に出ているのに、ベアトリスの身体がっくりと桜色に染まっていった。
 助けを求めるように向けられる視線に、サイトは思わず立ちあがる。

「ちょっ、テファっ! やりすぎ」

 立ち上がったサイトを見たテファは、一瞬止まった後ベアトリスを睨む。

「ベアトリス、もう一回」
「ひ……お、男の子にっ……わたしの中で、気持ちよくなってもらった……ら……」

 ベアトリスはサイトの視線を浴びながら、もう一度恥ずかしい台詞を口にする。

 その結果は……

「嘘つき」

 テファの冷たい宣告だった。

439 名前:7/7[sage] 投稿日:2007/10/25(木) 02:07:21 ID:CWgsQxO4
「う、嘘じゃないっ、嘘じゃないよぅっ」

 ベアトリスの言葉を遮るように、テファの指が広げられていた入り口をなぞる。

「ひゃっ、テ、テファ? 何? 何で?」

 テファの細い指先が、柔らかな入り口を一周する。

「こんなに小さい所に『あんなの』入るはず無い」
「「っ!」」

 目の前で繰り広げられた痴態に、すっかり『あんなの』を大きくしていたサイトも、
 テファの示す『あんなの』に目を向けたベアトリスも言葉を失った。

「だって、ベアトリスのここ、指だって押し込まないと入らないんだよ?」
「っ……まって、テファ……言わないで……お願……ぃ……」
「ほら、サイトも見てみて、こ〜んなに小さい所にそんなの入るはず無いよね?」
「……う……」

 テファに導かれるまま、サイトは至近距離で少女の襞を観察した。

「ほら、開いてもこんなに狭いんだよ?」
「……や……め……てぇ……そんなの……駄目ぇ……」

 お湯の中に逃げ込めば二人に観察されることも無くなるが、
 追い詰められたベアトリスの頭の中にそんな選択肢は存在しなかった。

「ピ、ピンク……」

 唯一テファを止められるサイトの頭の中は、いろんな意味で真ピンクだった。

 すっかり意識の飛んでいる二人のサイズを、手で何度も測ったテファが最後の宣告をベアトリスに送った。

「ベアトリスは悪い子だね」

 その一言で、羞恥一色だったベアトリスの頭の中は凍りついた。

「さようなら、ミス・クルデンホルフ」
「ま、待って……待ってテファっ」

 お湯から上がったテファにすがりつきながら、ベアトリスは叫ぶ。

「い、今から、今から入れて見せるから、本当だから、嘘じゃないから、まってよぉぉぉぉっ」

675 :1/9:2007/10/30(火) 03:30:21 ID:dNJ8GqAX
「お、落ち着けっ」

 男の子の事情でお湯から上がれないサイトは、鍋の縁をベアトリスから逃げるようにぐるぐると逃げていく。
 興味は確かに尽きないが、『子供の作り方』と言われて特攻するほどサイトはまだ人生を決めるつもりは無かった。

 なにより、ベアトリスの見た目は幼い。
 いくつか年下だということを差し引いても……

(こ、ここでヤッチャッタら、犯罪者だぁぁぁぁ)

 美少女二人に囲まれていても手を出さない紳士、サイト。

 別名 ヘタレ

「に、逃げない……で」
「無理、絶対無理ぃぃぃ」

 ベアトリスに迫られて逃げ回るサイトを、しばしテファは不思議そうに眺めていたが、
 一人お湯の中から手を伸ばし、ベアトリスの服から何かを取り出した。

「はい、ベアトリス」
「? ……あ」

 ――杖 メイジが魔法を使うのに必要なもの。

「げ」

 サイトはあっさり吊り上げられ、何も無い空中に拘束された。

「ま、まて、お、女の子がナニをしようとしているんだ」

 デルフリンガーの無いサイトでは魔法を無効化することもできないし、
 空中に居ては自由に動くこともできない、昔ギーシュにされたように抵抗できないまま運ばれていく。

「ちょっ、二人ともどこ見てるっ」

 ただし、今回は全裸。
 観客は少女二人。

「……やっぱり、ベアトリス嘘吐いてるよね?」
「ほ、本当だから……今から入れるから……テファは見てて」

「入れるなっ、ってか見るなぁぁっぁ」

 サイトの叫びは無視された。

676 :2/9:2007/10/30(火) 03:31:04 ID:dNJ8GqAX
 足場を与えて逃げられないように注意しながら、サイトは風呂の中心あたりで固定された。
 大の字になって宙に浮くサイトに、ベアトリスが取り付きよじよじとその身体を上る。
 一旦風呂の外に浮かべられ、少しだけ冷えた身体に密着するベアトリスの身体が心地よい。

「くっ……」

 サイトの身体に馬乗りになっているベアトリスの一番柔らかい所の感触が、
 今から起きる事に対する想像を掻き立てる。
 
 普段ではありえないシュチュエーションに、テファとベアトリスの目の前でサイトの分身はビクビクと自己主張を強くする。

「……ほ、本当に、入るの?」
「う、う……ん、入る……筈……」
(俺は性教育の教材じゃねぇぇぇぇぇ)

 お腹の上をベアトリスのお尻がもぞもぞ進んでいくし、
 太腿の辺りには側まで来ているらしいテファの覚えのある感触が当たっていた。

「う、動いてるよ?」
「……うん」
(解説すんなぁぁぁぁっ)

 お湯に浸かったまま見ているらしいテファの息が微かに当たる。
 サイトを浮かべるので精一杯らしいベアトリスは、貴族らしい細い手で自分の身体を持ち上げ、
 丁度良い――と、本人が思える位置まで腰を進めた。

「や、止めるんなら今のうち……」

 サイトの最後の忠告も、あっさりとスルーされる。

「こ、ここ?」

 熱い感触がサイトの先端を擦る。

「ベアトリス、入ってないよ?」
「う……も、もう一回」

 話でしか知らないベアトリスと、話も知らないティファニア。
 そうそう『事』が上手く進む筈も無く、お互いの粘膜をしつこく擦り続ける事になる。
「……ふ? ぁ……」
「ちょっ、まっ……止まれっ……」

 サイトの荒い息に怪訝な顔をしながら、無心に動かすベアトリスの腰に少しづつ違和感が積もる。
 どちらのものとも知れない液体でお互いの間が埋められ始めたころ、自分の中に芽生え始めた熱に浮かされて、
 同じ表情を浮かべるサイトを見つめ、熱に押されるように、高貴な少女は初めて他人に『奉仕』始めた。

「はっ……あっ……と、ま……れって……やばい……」

 荒くなり始めたサイトの息に、無性に相手の顔が見たくなったベアトリスは、
 自分より一回り広いサイトの胸に倒れこみ、もどかしく腰を押し付けながら、
 夢中で舌を絡める。

(きも……ち……いっ……よぉ……)

 自分でするのとは別種の快感に、理性がゆっくりと崩壊を始める。

677 :3/9:2007/10/30(火) 03:31:56 ID:dNJ8GqAX
「んー、入らないね」
「……う……ん……はいらな……い……」
「……ぐ……ぁ…………」

 いつのまにかうつ伏せになったベアトリスが、サイトと自分の間にはさんだ硬直の上で暴れている。
 両手でサイトに掴まりながら、ベアトリスは手当たり次第にサイトの身体を吸い上げる。
 胸を、唇を、首筋を、甘い味でもするかのように啄ばんだ。

「「あっ」」

 わずかに解れたベアトリスに、サイトがわずかにもぐりこんだ瞬間、二人の動きが止まった。

(このまま……)

 くらくらと考えのまとまらない頭のまま、ベアトリスが自分の中に迎え入れようと、
 サイトの身体に密着したまま、ずりずりと身体をずらす。

「あー、本当に入っていくね」
「っ」

 テファの言葉に、サイトとベアトリスの理性が僅かに戻る。

「や、やっぱり、止めと……け、お、女の子だろ」

 理性を振り絞ったサイトが、視線を彷徨わせながらベアトリスを制止する。
 その一言を吐くのにサイトがどれだけ葛藤したのか、サイトのことをよく知らないベアトリスにも理解できそうな、
 そんな一言だった。

 優しい言葉に、ベアトリスが動きを止める。

「あ……の……」

 彼女がサイトに何を言おうとしたのか、その言葉が綴られる前に。

「入るのって、やっぱり嘘なの?」

 逃げ道は閉ざされる。

「見てて……ね、テファ」
「ん、ベアトリス、最後まで見せてね」

 ――ベアトリスは今から無理やり犯す、その相手を見下ろす。

 ――サイトは、泣き出しそうな瞳から目が離せなくなる。

 鋭い痛みを感じながら、ベアトリスは一思いに自分を引き裂いた。

678 :4/9:2007/10/30(火) 03:32:39 ID:dNJ8GqAX
「わぁ……本当に入るんだ、凄いね」
「うん……あの……ね、これ……で、男の子が気持ちよくなったら……」

 痛みを感じながら、必死にテファに説明を続けようとするが、
 快感に酔いながらも何とか維持していたサイトを浮かべていた魔法が、
 千々に乱れた心を写し砕け散る。

 風呂の内壁に叩き付けられ、その衝撃でベアトリスが自力で押し込んだ所よりもさらに奥へと、
 限界まで大きくなったサイトを、初めてでは入るはずも無い奥の奥まで叩き込まれる。

「き……ぁ……ぁ……」

 激痛に、悲鳴すら出なかった。
 肺が酸素を求めて喘いだ、僅かづつ感じていた甘やかな快感は吹き散らされ、
 残ったのは激痛のみ。

 その痛みを誤魔化すために、ベアトリスは必死でサイトにしがみつく。

「ひっ、あ……う……い……たぃ……」
「んと、あとはサイトが気持ち良くなれば良いの?」

 ベアトリスの豹変に驚きながらも、テファが話を進めた。
 しっかりとサイトを固定したまま呼吸を整え、辛うじてテファにできる返事を、

 がくがくと頷くベアトリスに、テファは質問をぶつけた。

「でも、サイトぜんぜん気持ちよさそうじゃないよ?」
(え?)

 ベアトリスは身体の痛みとは別の痛みを感じながら、サイトの表情を確かめた。

 ――気持ち良くない訳は無かった。
 自分より一回り小さな女の子の『初めて』を捧げられ、相手は夢中で自分に縋り付いてくる。
 全身は温かいお湯に包まれ、腕の中にはもっと熱い肉が自分を締め上げる。

 いつイってもおかしくない。と、言うよりも初めてのサイトは意志の力だけで踏みとどまっていた。

 何時もなら、とっくに限界を超す状況でも。

『赤ちゃんの作り方』
『赤ちゃんの……』

 そんな連呼をされた状態で、胎内に放てるほどの度胸は無い。

 ――全身に力を入れ、歯を食いしばり、眉間には皺。
気をそらすためだろうか、意味の無いことをひたすら呟くサイト。

 ……未経験の少女二人には、到底気持ちよさそうには見えなかった。

679 :5/9:2007/10/30(火) 03:33:22 ID:dNJ8GqAX
「ベアトリス、サイトに酷い事をしてるの?」
「ち……がう……のぉ……」

 痛みに掠れる思考で、ベアトリスはサイトのことをひたすら考える。

 自分の身体がまだ子供なせいで、シュヴァリエが不快なのだろうか?
 ――目の前に居るテファの身体と自分を比べて、その有りうる可能性に泣きそうになる。

(でも、子供が好きな男の人も沢山居るって……)

 痛みに耐えながら、ベアトリスはさらに思考を……

 ――痛み?

「シュ……ヴァリエ……初めて……で……すか?」

 ひとつだけ思い当たったベアトリスが言葉を搾り出した。
 サイトの返答は苦しげな表情のままの頷き。

 ――初めてのわたしがこんなに痛いんだから、きっと始めての男の人も……
 そう考えれば、シュヴァリエの苦しげな表情にも納得がいった。

 自分と同じ痛みを感じている。だからこんなに苦しそう。

「ベアトリス?」
「……まっ……て、テファ……ちょっとだけ……待って」

 彼女はメイジで、杖はその手の中にある。
 痛みを感じているものが居るのなら、出来る事は単純だった。

 回復魔法
 傷を治し、血を補い、肉を塞ぐ。
 メイジのみが使う奇跡の技
 それをサイトに向ける。

(あ……れ?)

 サイトの表情は苦しそうなままで、何の変化も無かった。

(ど……して?)

 何か間違えたのだろうか?
 考えを纏め直そうとするベアトリスに、もう一度痛みが襲い掛かる。
 とりあえず、自分の傷を癒してから、もう一度考えよう。

 そう思ったベアトリスが自分に回復をかけた瞬間、二つのことが同時に起こった。

 ――ひとつは再度の激痛。

 時間がたってからの回復ならそんなことは無いのだろうけれど、
 未だ血を流しているベアトリスの処女は再生されたが、
 『元通りにされた部分』には、異物が入ったままで……

 結果、ベアトリスは人生二度目の破瓜の痛みを受けることと成った。

 ――もうひとつは……

「ぐあぁぁぁっ、だめだぁっ、それっ、気持ちよすぎっ……やめっ……」

 ベアトリスと間逆のサイトの感想。

680 :6/9:2007/10/30(火) 03:33:55 ID:dNJ8GqAX
 じっとしているだけでも着実に近づいてくる限界を抑えながら、
 サイトは腕の中のベアトリスを見つめた。

「……ち……った、です……か?」

 蒼ざめた表情で、気持ちよかったのか聞く少女の顔には悲壮な決意が有った。
 お互いにとって不幸なことに、快感に耐えることが精一杯なサイトはソレに気付けなかった。

「良すぎるからっ……駄目だ……」

 離れてくれ、そう続けようとするサイトの唇が、ベアトリスのそれで塞がれる。
 サイトの口の中でもごもごと呪文が紡がれる。

 さっきの激しい締め付けの時と同じ呪文だと気付いたサイトは青くなる。
 
 次は耐えられない。

 さっきの魔法には未成熟なベアトリスの身体を貫いたサイトを、人の身体ではありえない強さで締め上げる。そんな効果が有った。
 裂き開かれた肉が魔法によって復元される強さ、それがそのまま締め付けに成ったのだ。

(こ、子供……でき……る)

 しかも、ルイズ以外の。

(そ、それは……ヤバい……)

 子供も自分の非常に危険だ。
 何とか耐え切ろうと、もう一度意識を集中するころ、
 呪文を唱え終わったベアトリスが、サイトの視線を避けるようにしっかりと抱きついた。

 背中で杖が小さく振られるのがわかった。

「がぁあああああっっっ」

 サイトの喉が獣の様な咆哮を上げる。
 かたかたと小さく震え始めるベアトリスの身体を、サイトは力いっぱい抱きしめた。
 さっきは一瞬のみだった締め付けが、途切れることなく襲い掛かる。

「ちょっ……なん……だぁぁぁぁぁああっっ」

 限界だった。
 もう耐えられない。

 サイトは……

「?! なっ……やばっ……」

 強すぎる締め付けに、射精する事も封じられ。
 逝く事が出来ないサイトは縮む事も無く、ひたすらベアトリスに締め上げられる。

681 :7/9:2007/10/30(火) 03:34:32 ID:dNJ8GqAX
「……き……もち……い……ですか?」
「ひっ……ああああぁぁぁぁぁっ、良いっっっっ、も、限か……ぃぃぃぃ」

 機械的な締め付けならば、サイトがここまで狂うことも無かった。
 ただ強く締め付ける訳ではなく、サイトを圧迫しているのはあくまでも少女の身体で、
 しかも再生するために、少女の中は蠢き続けている。
 数瞬ごとに訪れる、ぷちぷちと何かを貫く感触はその度毎にサイトに不思議な征服感を与えた。

 身体が繋がっているだけなのに、心までも犯しているような、
 組み敷かれているはずなのに、組み敷いているかのような。
 限界をはるかに超えるありえない快感に震えながら、サイトは自分を気持ちよくしてくれるベアトリスに、
 痛みを耐えるかのように抱きついた。

 それに気付いた、どこか蒼ざめた表情のベアトリスは優しく頭を抱き寄せ、背中を撫でる。
 いつまでも減らない神酒を捧げられた神の如き万能感に酔いながら、
 サイトはベアトリスを愛しく感じ始め……

「二人でずるぅい」

 サイトの心が堕ちる寸前、テファが背後からサイトに抱きついた。

「うあぁぁぁぁっっ」
「テ……ファ……一緒……に……」

 ベアトリスはサイトを間に挟んだまま、テファに触れようと手を伸ばした。
 これ以上無いと思われていた、密着だったがテファが加わる事で更に別の局面を見せた。

(せ、背中が……おぱ……で、胸が……むねがぁぁぁ)

 革命的なボリュームが背後から襲いかかり、
 密着という面ではそれより優れるフラットなラインが前から迫る。

「イ、逝くって……い、逝けな……いぃぃぃぃっ」

 男なら誰もが望みそうなサンドイッチにされた状態で、サイトは二人の腕の中で弄ばれる。

 ベアトリスがテファを抱き寄せたため、テファはサイトにしっかりとしがみ付く形になり、
 必然的にサイトの背中やお尻には……

(テ、テファのっ……テファのぉぉぉぉっ)

 ベアトリスの内に差し込んだまま、テファの感触でサイトは更に狂い始めた。

682 :8/9:2007/10/30(火) 03:40:00 ID:dNJ8GqAX
「な、中でっ……中でびくびくしてるっ……と、止めて……とめ……っ……はぅ……」

 逝けないまでも、何度目かの限界を超えたサイトが暴れるのを感じたベアトリスが鳴いた。
 あれほど強かった痛みが、徐々に治まってきていた。

(あ……れ……?)

 何度も裂かれ、同じ回数癒されることで、ありえない短時間ですっかり馴染み始めていた。
 すでにほとんど痛みはなく、それどころか時間を掛けて抉られた肉は、
 甘くサイトを包んでいた。
 それは回復魔法によりありえない締め付けの終了を意味し、つまり、

「……っあ……逝け……るっ……やっと……うあぁぁぁぁっ」

 サイトの悲鳴と同時に、お腹の奥に何かが広がる感触がベアトリスを満たす。

(……キモチイイ……)

 焦らしに焦らされたサイトは、ぐったりと脱力しながらも高度を失っていなかった。

「サイト、気持ちよくなったの?」
「ん……見る?」

 少し悩んだテファが、こくりと頷くとベアトリスはもう一度杖を振るい、
 サイトと繋がったまま風呂の縁に腰掛けた。

「こんなに深く繋がるんだね」
「……うん」

 サイトの精をテファに示そうとするが、ベアトリスとサイトの結合は隙間無く、
 白い液体が漏れ出て来る事は無かった。

「い、痛そうだったね」
「ん……」

 サイトの背後から見ていたテファは、ベアトリスの表情をしっかりと観察していた。

(わたしは、当分……したくないなぁ……)

 ベアトリスはとてつもなく痛そうだった。

683 :9/9:2007/10/30(火) 03:42:27 ID:dNJ8GqAX
「あの……その…………が……出てると思うから……抜く……ね」

 浮いたまま風呂の外に出たベアトリスは、テファに精液を見せるためにサイトとの結合を解こうと、立ち上が……ろうとした。

「ひゃっ? うっ……」
「うあぁぁぁぁぁっ」

 ベアトリスが腰砕けに成るのと同時に、サイトが飛び起きた。

「や、休ませてくれぇぇぇぇ」
「ち、違っ、抜こうとっ……」

 ?
 ティファニアが首を傾げる向こうで、ベアトリスとサイトは、お互いにはなれようと力を入れ、
 同じタイミングで腰砕けになりもう一度奥まで繋がりなおした。

「楽しい?」
「いや……それは楽しいけど……って、違うっ」
「テ、テファ……助けて……あの……」

「「離れようとすると中から引っ張られるのぉっ」」

 サイトのを差し込んだまま、何度も再生を掛けた結果ベアトリスのソコは、
 すっかりサイトの形を覚えこんだ。
 襞の一つまで、サイトに最適な形に並んだソコは最早サイトの為だけに存在した。

 が、

「抜こうとすると、吸い上げられるんだぁっ」

 離れようとするたびに、尿道に残った精を吸い上げられたサイトは快感で動けなくなるし、
 同種の刺激を胎内で感じるベアトリスも、一人ではサイトから離れられなかった。

「お、お願い、テファ……」

 そんな二人を不思議そうに見ていたテファが、ふと……言った。

「サイトから何か出るんだよね?」
「「う、うん」」

 天使の微笑みと共に、サイトにとって悪魔のような宣告がなされた。

「それで、ベアトリスの中いっぱいにしたら、離れるんじゃないかな?」
「へ?」

 硬直したサイトを、ベアトリスが口封じする。

「ベアトリスのお尻引っ張ったら、吸い出されるんだよね?」
「ちょっ、ま……」

「えいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいっ」
「うあぁぁぁぁぁぁ……」

 この次の日、ベアトリスはここ最近の不調を吹き飛ばすようなハイテンションだったが……

 ――サイトは数日行動不能だった。


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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:49:03 (5642d)

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