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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:49:06 (5637d)

174 名前: サイトが魔法を使えたら(1/3) [sage] 投稿日: 2007/09/20(木) 05:59:39 ID:WhvF/s4m
サイトは、図書館に呼び出された。

ルイズとコルベールの火の魔法の授業中、後ろからタバサに誘われたのだ。
タバサをガリアから救出して以来、サイトはタバサに話しかけられるようになった。

なんでこんなとこに・・・サイトが首をかしげていると、巨大な本棚からタバサが
レビテーションで降りてきた。

「来た。」
タバサは、そう言うと、一冊の本をサイトに手渡してきた。
「これ、読んで。」

何の本かしら・・・とサイトはタイトルを見ると、

系統魔法の基本の手引き。と書いてあるようだ。

「タバサ、俺魔法の本なんて読んでもわかんないぞ。第一使い魔だし。
魔法の勉強はルイズの仕事だろが」

すこしタバサは眉をひそめた。
「使い魔かどうかは関係ない。ルイズは系統魔法は使えない。
だから、あなたが魔法使えたら助かるはず・・・・・・それにあなた自身が
危険な目にあったときにわたしがいなかったとしても安心。」

「そんなもんなのかな・・・でもさ、ホントにこの世界の人間じゃねぇし。
魔法なんかできんのか?」
この世界で、シュヴァリエとなったとはいえ元平民で、さらに地球という
異世界から来たふつーの高校生なのである。いくらタバサにできると
言われたとしても、サイトは全くできるようには思えてこない。

「ガンダールヴ。」
「そりゃこの世界じゃ、伝説の使い魔かもしれないよ。だけど
それだけだ。」
「違う、ガンダールヴは魔法使いこなせる。これも伝説のひとつ。」
タバサはサイトをまっすぐ見つめてそう言った。
175 名前: サイトが魔法を使えたら(2/3) [sage] 投稿日: 2007/09/20(木) 06:00:09 ID:WhvF/s4m
ほんとかよ。俺に魔法の素質があると、タバサは言っているのだ。

「大丈夫、ちゃんと教える。だから、読んで」

ぐいっとタバサは、その魔法の本をサイトに突き出した。
そして、サイトに顔を近づけてさらに言った。
「読んで」

近くでみると、なるほどルイズと違う気品を漂わせるタバサに
サイトは頬を赤らめた。
タバサ意外とかわいいじゃないか・・・

「わ、わかった、読む、読んでみるよ。」

ちょっとどきまぎしながらサイトは本を受け取ったのである。

「じゃ、教える。系統魔法には、火・水・土・風、そして虚無があるの−−−」

日も暮れかかった頃、ルイズはサイトを探していた。

昼過ぎのコルベールの授業のあとから姿が見えないのだ。
どこいっちゃったのよ。あのバカ使い魔・・・ひとりにしちゃやだって言ったのに、
ひとりにしないって言ったのに。う〜っとルイズは唇を噛んだ。

この季節の日暮れ時は、何か物悲しいものがあるのだ。
ルイズは、こんな時間が苦手だった。
サイトがアルビオンの森で消息を絶って、ひとりぼっちになってしまったときを
思い出してしまうからである。

「サイトぉ・・・」
ルイズは、ちょっと泣きそうな声でつぶやいていた。
176 名前: サイトが魔法を使えたら(3/3) [sage] 投稿日: 2007/09/20(木) 06:00:45 ID:WhvF/s4m
どのくらい時間がたったんだ。もう図書館の外は黄昏時を迎えていた。

「---今日は、ここまで。」

タバサ先生の初めての授業がようやく終わった。

もちろん見るも聞くも初めての経験だったが、なんとなくだができそう
な気がしてきた。これもタバサの教え方がうまいからだとおもう。

「タバサ、いろいろありがとな。俺がんばってみるよ」

「ん・・・」

珍しく、タバサがほほえんだ。
なんだかサイトはその微笑に照れてしまった。

そろそろ図書館の閉館時間も迫ってきていたので、サイトとタバサは
図書館の出口へと向かった。

図書館から出て、エントランスの階段を降りようとしたとき、
桃色がかったブロンズ髪の後姿が見えた。

「ル、ルイズ・・・どうしたんだ、おまえこんなとこで・・・」
サイトは慌ててルイズへと駆け寄っていった。

そのサイトの後姿をタバサは少しつまらなそうな表情で見つめていた。
228 名前: サイトが魔法を使えたら(1/2) [sage] 投稿日: 2007/09/21(金) 19:19:13 ID:5xWNNU95
ルイズはとてつもなくせつなくなってしまった。
いない、サイトがいない-----
またいなくなっちゃった。また夢の中でしか会えないの?

そんなのやだ。ぜったいにやだ。
バカで、胸のおっきな子にすぐに鼻の下伸ばしちゃう
どーしよーもないエロ犬。だけど、そんなんだけど、
わたしの側からいなくなるのはさみしいの。せつないの。

どうしてせつなくなるのかは、自分の心の奥底では、わかってるの。
だけど、やっぱりプライドが・・・ううん。ほんとは違うの。
ほんとのキモチを表に出しちゃうと・・・サイトが帰れなくなっちゃうから。

だから我慢するの。

でももー暗いし冷えてきちゃったし、もーだめ、探しつかれちゃったよ。

「どこにいるのよ。バカ・・・サイトのバカ」

ちょこんとルイズは、階段に座り込んだ。
そこは、図書館の階段であった。

ルイズは肌寒いので、図書館の中に入りたかったが、タイミングが
悪く、もうすぐ閉館の時刻。しょんぼりと階段に座ったのだ。

図書館から帰る生徒たちがちらほらと階段を降りてきた。

「ル、ルイズ・・・どうしたんだ、おまえこんなとこで・・・」

ふいに捜し求めていた使い魔の声がした。
ルイズはぴくりと体を震わせた。
229 名前: サイトが魔法を使えたら(2/2) [sage] 投稿日: 2007/09/21(金) 19:20:09 ID:5xWNNU95
「どこいたのよ。バカ。わたしがどんだけ探したかわかってんの」

「ご、ごめんよ。タバサにちょっと教えてもらうことがあってさ」

「あによ。そんなのわたしが教えたげるわ。なんでタバサなのよ」

ルイズの怒りのボルテージが上がってきた。
この犬。こともあろうに小さいタバサにも手を伸ばしてきたか。
このわたしの特権をおびかやす存在。タバサ。
なによ、わたしのほうがかわいいにきまってるんだから。

すると二人の背後からぼそりとタバサがつぶやいた。
「魔法。教えてた」

「まま魔法ですって〜」
ルイズはきゅっと唇をかんだ。
「魔法ならわたしもできるんだからっ、わたしに聞きなさいよ」

「あなたは伝説はできても、系統魔法はできない」
タバサはルイズを見据えて言い放った。

「---な、なんですってぇ、ゆゆ許さないんだから」
ルイズは今にも虚無(エクスプロージョン)を爆発させそうな勢いになった。

「あなたはサイトがなぜ魔法をやろうとしているかわかってない」
一歩、タバサはルイズに近づいていった。

「わ、わかるわけないでしょー。貴族になってさらにメイジになってどーするのよ。
これ以上もてるつもりなの!」

ぶんぶんサイトは首を振った。
「わかってない。」
「サイト、あなたを護るため」

うっとルイズは後ずさった。
「そ、そんなの当然じゃない。こいつはわたしの使い魔なんだから
ご主人さまを護るの当然だもん」

「本心?」
タバサは一言ルイズに投げかけた。
「ほ、ほ本当だもん。うそじゃないもん」
ルイズはこれ以上言い返せない。

「わたしには言葉と想いのベクトルが反対なようにみえる。
あなたの言葉と想いは裏腹---」
見透かしたようなタバサの言葉にだんだんルイズの旗色が悪くなる。

「あなたはサイトをわかっていない」
タバサは止めの一言をルイズに放った。

284 名前: サイトが魔法を使えたら(1/5) [sage] 投稿日: 2007/09/22(土) 05:52:54 ID:0yGk6WQl
一瞬目の前が真っ白になった。

「な、わたしがサイトのことわかってないですって・・・」
わなわなとルイズは怒りに震えた。

「そう。わかっていない」
タバサはルイズをしかと見据えて言い放つ。

「なななんであんたなんかに言われなきゃいけないのよ
タバサにわたしの使い魔の何がわかるとゆうのよっ」

「あなたこそ、都合が悪くなるとすぐに”使い魔”扱いする。
あなたはサイトに隠していることがある。それはサイトにとっても
あなたにとっても大切なコトバなはず。どうして言わないのか
わたしには理解できない」

サイトはタバサが何を言っているのか全く分かっていなかった。
ルイズはタバサが何を言いたいのかはすぐに分かった。
でも言えない。いま言ってはならないのだ。

タバサはサイトに向きなおしてこう言った。
「わたしなら言える。わたしはサイトのことが---」

「やめてぇッ!!!!!!それ以上、言っちゃダメ。ダメなのよ。
タバサやめて。おねがい、おねがいだから---」
今にも泣き出しそうなルイズが絶叫した。

タバサはルイズを一瞥した。
「なぜわたしがサイトへ気持ちを打ち明けたらいけないの?
どうして?サイトはあなただけのモノじゃない」

三人の周りの空気が凍りついた。
再びタバサはサイトに向いて告げた。
「わたしはサイトのことが好き」

うわぁぁぁ・・・ルイズはその場で泣き崩れた。
285 名前: サイトが魔法を使えたら(2/5) [sage] 投稿日: 2007/09/22(土) 05:54:15 ID:0yGk6WQl
ルイズは泣き崩れてしまった。
タバサはルイズを見据えたままだ。

サイトはルイズとタバサを交互にみた。
どうしたらいいんだ。
タバサが何を言ったのかすぐには飲み込めなかった。

たしかに好きと言ったよな。俺に?なんで?
いや、今はそんなことで混乱してる暇はない。
ルイズをなんとか慰めてやらないと・・・

「ルイズ、なぁルイズ。泣くな。な、泣くなよ---」

そんなサイトを見てタバサは一瞬眉をゆがませた。
しかし、またいつもの感情の消えた表情に戻った。

「また、図書館で。待ってる」

そういい残すとタバサはサイトたちから去っていた。

ルイズはまだ泣いていた。

「ルイズ。ごめん。だまってタバサと会って、ごめんよ」
サイトはだんだん切なくなっていったが、ルイズをなだめ続けた。

「うっ、うぇ、ぶぁか、サイトのバカぁ・・・」

ポスポスポスと弱弱しくサイトの胸をたたいた。

「バカ、バカ、バカバカ・・・サイトのバカ・・・」

ポスポスポスポス---ルイズに叩かれながらもサイトは
ルイズの頭をやさしく抱えて胸に埋めるように抱き寄せた。
286 名前: サイトが魔法を使えたら(3/5) [sage] 投稿日: 2007/09/22(土) 05:54:58 ID:0yGk6WQl
「・・・・ごめん。ごめんな・・・・」

「バカ、わたしの気持ちもわかんないくせに・・・
タバサと会っちゃうなんて・・・・バカバカ・・・」

「・・・・」
サイトは無言でルイズを抱いたまま、頭をなでてなぐさめた。

「・・・魔法の勉強はしてもいいわ・・・でも、タバサとはダメ。
ダメなんだから・・・・・」

とめどなく流れる涙をサイトはそっと指でぬぐってやり、ルイズを
見つめた。

「おまえを護るため、俺は魔法をおぼえるよ。タバサはただの先生だ。
俺が好きなのは・・・・・ルイズ。おまえ一人なんだ」
「信じてくれ。ルイズ。」

ルイズは涙を自分でくしくしぬぐい、じっとサイトを見つめて問いただす。
「ほんとに?わたしのこと。好き?」
「ああ、好きだ」
「ほんとに、ほんと?好き?」
「ほんとにほんとだよ」

ルイズは少し頬を赤らめると眉を寄せて言った。
「もしタバサと何かあったら、コロスわよ」

サイトはやれやれといった表情でルイズに告げた。
「わかった。約束する。タバサには何もしない」

「口だけじゃ信じらんないもん・・・・
誓いの・・・・キスして。してくんなきゃ信じてあげないんだから!」

サイトはやさしく微笑んだ。
わかったよ。かわいい俺のご主人さま---
二つの月に見守られる中、二人は誓いのキスを交わすのだった。
287 名前: サイトが魔法を使えたら(4/5) [sage] 投稿日: 2007/09/22(土) 05:57:18 ID:0yGk6WQl
二人を照らす二つの月のそばで風竜をかる青髪の少女がいた。

サイトとルイズの元を去ってから使い魔である風竜シルフィードを召喚した。
一気に学院の空高く舞い上がると図書館のあたりで旋回させた。

まだ、あの二人の姿がある。
月明かりなのではっきりとは見えない。しかし柔らかいその光が描く影が二人の
存在を示していた。

どうやらまだなだめているようだった。
タバサは無意識のうちに唇をかみしめていた。
そして、胸の奥から沸き立ってくる魔力とは違う、何かに戸惑いを覚えた。

「きゅいきゅい、おねーさま。どうしたの?」
いつもの調子でシルフィードは聞いた。
「---わからない。なんだか胸の奥がもやもやする」

「いつもたくさんの本を読んでいるのに、おねーさまにも分からないことあるのね、きゅい」

その言葉にタバサの右の眉がきっ、と引きつった。
「本には感情を沸き立たせることはあっても、感情そのものについては書いてない」

「きゅいきゅい、おねーさま。たぶんそれジェラシーなのねん」

「嫉妬(ジェラシー)---」
タバサは目をきゅっとつぶって、自分の胸のあたりを左手でぎゅっと絞るように握った。
288 名前: サイトが魔法を使えたら(5/5) [sage] 投稿日: 2007/09/22(土) 05:57:54 ID:0yGk6WQl
「---誰に嫉妬してるのだろう」
ぼそりと胸からあふれた言葉がこぼれおちた。

「たーぶーんー。ルイズなのね、のね」
シルフィードが主人の心を見透かすように言葉を投げかけた。

ルイズ。我侭で傲慢なサイトの主人。その使い魔に使い魔以上の感情
を持っているのに、使い魔本人には真逆の言葉を突き立てている。

「なぜ---」
そうつぶやくと目を開き、眼下にある嫉妬の対象を見下ろした。

二つの影が寄り添うように重なっていた。

タバサは重なり合う影に目がけて魔法ーウィンディ・アイシクル(氷矢)ーを放った。
このまま壊れてしまえばいい--しかし、その影の一つは先刻想いを打ち明けた人物だ。

「だめ」

風竜を急降下させ、その勢いにエア・ハンマーを乗せた。
パァァァーーーーン
氷の矢は瞬く間に粉々になって闇へと消えていった。

しかし、タバサの中には嫉妬と言う名の氷の矢が何本もつき刺さっていた。

441 名前: サイトが魔法を使えたら(1/2) [sage] 投稿日: 2007/09/24(月) 18:56:38 ID:flrZmVzm
ルイズのお許しをもらったサイトは、午後の数時間をタバサと過ごすように
なった。もちろんご主人さまの命令(いいつけ)どおり、魔法を教えてもらうだけである。

ガンダールヴの力の助けもあってかサイトの理解力はタバサの予想を超えていた。
系統魔法の基本の手引きは3日足らずで理解してしまったのである。
今は初中級者向けの系統魔法の教科書を使って勉強に励んでいる。

タバサは毎日必ずサイトとふたりきりになれることに喜びを感じていた。

「タバサ、そろそろ教科書ばっか読んでるもの疲れてきたんだけど、実践ってやんないのか。
使えなかったら意味がないだろ?」

タバサはちょっと困ったように答えた
「メイジとしてルーンを紡ぐためにはその媒介とするものが必要」

サイトは首をひねった。
「媒介?」

「つまり杖のこと---」

「あー杖のことなのか、俺はそんなのもってねーな。デルフは剣だからな・・・」

「オレは魔法を吸収できても吐き出せねえよ。もちろん杖じゃねえ」
唐突にデルフリンガーが二人の話に割り込んできた。
「しかしだ。相棒の前のオレの相棒は右手にある物を持ってそれで魔法の
ルーンを唱えてたな。今思い出した!」

「なんだよ、そのある物ってのは」
サイトはいぶかしげにデルフリンガーに聞いた。
「それはオレに聞くよか、そこの青髪のおちびちゃんに聞いたほうがいいんじゃねえかな」

「え?!タバサに!」
目を見開いてサイトはタバサのほうに視線を向けた。
442 名前: サイトが魔法を使えたら(2/2) [sage] 投稿日: 2007/09/24(月) 18:57:12 ID:flrZmVzm
不意にサイトと目が合ったタバサは頬を染めた。想い人に見つめられると
こんなに心躍るものなのだろうか、この高揚感にすこし戸惑い気味なタバサだった。
「い、イーヴァルディが作ったとされるインテリジェンス・スピアがある。
名は、《グングニル》。」

「ほほー、おちびさん、ヤツの名前までご存知とは恐れ入りやのきしぼじん」
デルフはタバサに感心していた。タバサは今まで人から(デルフは剣だが)褒められる
ことがなかったのでちょっと照れくさくなってうつむいてしまった。

「なあ、相棒オレは、相棒の左腕なんだよ。つーことはだな、右腕ってのもある
そー思ったことねえかい」

「う〜ん、正直デルフを扱うだけで一杯一杯だったからな。考えたことなかった」

「ありゃ、そなの・・・でもよ、グングニルってヤツがいるのは確かなんだよ
まぁ、ちょいと変わった性格してんだけどな笑。これも今思い出したんだがね」

「ところでタバサ、そのグングニルってのは今どこにあるんだ?」
サイトは素朴質問をタバサに投げかけた。

タバサは少し微笑み、じっとサイトを見つめてこの槍のありかを告げた。
「ここ。この魔法学院にあるの」

456 名前: サイトが魔法を使えたら(1/3) [sage] 投稿日: 2007/09/24(月) 21:03:07 ID:flrZmVzm
神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。

デルフから先代ガンダールヴが右手に槍を持っていたことを聞いた。
その名前がグングニルであるということをタバサから聞いた。
なんと、その槍はこの魔法学院のどこかにあるらしい。

持ち前の旺盛な好奇心でサイトはワクワクしていた。
「じゃあさ、早速その槍を探したいなっ、な、タバサ。学院のどこ探せばいいんだよ」
タバサはたしなめるように言った。
「あせっちゃ駄目。在り処のめぼしはついてるから」
ちょっとサイトはすね気味に口を尖らせた。
「ちぇー。ケチんなくってもいいじゃんよ」

タバサはなぜかそんなサイトがかわいいと思ってしまう。
そしてサイトにやさしく諭した。
「駄目。まだ外は明るすぎる。今夜、夜が更けた頃、探しに行くの」
タバサのやさしい口調にサイトは素直に反応した。
「そか、暗くないとだめか。分かった。タバサの言う通りにするよ」

「ん。じゃぁ、今夜、本塔入口で待つ」

「了解、タバサ隊長!」

すこしにこりと笑ったタバサにサイトはどきっとした。
やっぱりかわいいよ。タバサ。
457 名前: サイトが魔法を使えたら(2/3) [sage] 投稿日: 2007/09/24(月) 21:03:56 ID:flrZmVzm
ルイズの部屋に戻ったサイトは夜が来るのを待った。
隣ですーすーとルイズの寝息が聞こえるなか、
サイトはそっと部屋から出て行った。

魔法学院本塔入口---
タバサは既に待合せ場所で待っていた。
サイトとふたりで待合せ。なんだがどきどきしてしまう。
夜という時間もこのどきどき感を高めているにちがいない。

そわそわしながらサイトがくるのを待った。
もしかしたらあのルイズに止められてしまっているかもしれない。
いやな予感がする---タバサはきゅっと唇をかんだ。

「おーい、タバサ。お待たせ。」
サイトは走ってきたらしい。タバサはいやな予感がはずれてほっとした。
458 名前: サイトが魔法を使えたら(3/3) [sage] 投稿日: 2007/09/24(月) 21:05:30 ID:flrZmVzm
「早く行こうぜ」
「ん。」
タバサは塔の入口の鍵をアンロックで開錠した。

「あのさタバサ、どこに行くんだよ」

サイトは小声でタバサの耳元で囁いた。
サイトの息が耳にかかったのでタバサはびくんと身体が跳ねた。

「・・・・耳。くすぐったい」

「おわっ、ごごめん。ちょっと近かったか」

サイトに少し距離をおかれてしまった。
別にいやなわけではなかったが、なんか恥ずかしいのだった。
気を取り直してタバサは答えた。
「5階の宝物庫に行く」

462 名前: サイトが魔法を使えたら(1/4) [sage] 投稿日: 2007/09/24(月) 22:57:15 ID:flrZmVzm
魔法学院本塔5階。魔法を使えばすぐに一飛びで行ける距離だ。
しかし、まだメイジではないサイトと一緒に走っていくしかない。
歩けばいいのにサイトは走り出してしまったのである。

身体が小さいタバサの体力は他の生徒と比べるとやはり少ない。
サイトは男の子なのでなおさら距離は開く一方だった。
だんだん息が続かなくなってきてタバサは走るのをやめてしまった。

はぁ、はぁ、はぁ---いっそのことフライを使ってしまおうか。そう考えた
矢先、先走っていたサイトがいつの間にかタバサのところに引き返していた。

「タバサごめん、おもっきりダッシュしてた。手を貸すよ。一緒に行こう」
サイトはそういうとタバサの小さな右手を握ってきた。
サイトの予想外な行動にタバサは顔を赤くした。

「え・・・・あ、ありがと」

力強くサイトに手を引かれながら宝物庫の前までやって来た。
二人の目の前には巨大な鉄の扉が聳え立っていた。

「で、でかい---」
その巨大さにサイトは息を飲んだ。
しかもその鉄の扉にはこれまた頑丈そうな錠前が付いていた。

「・・・」
タバサは無言で鉄の扉を見上げていた。

「ど、どうすんだ。どうやって入るんだ」
サイトはあせってタバサに聞いた。

「・・・だいじょうぶ。」
そう一言タバサは呟くとサイトの目の前にきらりと光る物を突き出した。

「か、鍵?!どうやって持ってきたんだよ--」
サイトがびっくりしてタバサへ問いかけた。

タバサは悪戯っぽく笑って、ヒミツ。と言った。
463 名前: サイトが魔法を使えたら(2/4) [sage] 投稿日: 2007/09/24(月) 22:58:43 ID:flrZmVzm
ガチャンーーータバサがどこから持ってきた鍵で宝物庫の巨大な扉は開かれた。

目の前に広がる秘蔵ともいうべきお宝の数々にサイトは圧倒された。

「す、すっげーよ。まるで博物館じゃねーか!!!」
興奮するサイトのパーカをタバサはちょっとつまんでくいくいっと引いた。
「こっち、来て」

どうやら地球にある博物館と同じようにある程度分類された状態で保管されている
ようである。
物珍しさにキョロキョロしまくっているサイトを横目でちらちら見ながらタバサは目的の
場所へと歩いていった。

「たぶん、ここらへん」
二人は剣や槍などの武器を保管している場所にたどりついた。

「にしてもずい分あるなー。探すにゃ骨が折れそうだな〜」
言葉とは裏腹にサイトの目はキラキラと輝いている。

そんなサイトをタバサは微笑ましく見つめた。
「デルフリンガー」
タバサがサイトの剣の名を呼んだ。
「ん〜。なんだぁお呼びかい。おちびさん---こりゃまた懐かしい匂いの
する場所にきたもんだ。おでれーた!」

「お願い。槍を探してほしいの」

「ヤツを見つけりゃいいんだな。分かったよ。おちびさん。
じゃぁ、相棒。悪いだが俺を持ってくんねぇかな」
デルフはサイトに言った。

わかった。そう言ってサイトは左手でデルフを握った。
左手のルーンが光り輝いた。
すると宝物庫のある一角が光を放ち始めた。

「相棒、おちびさん。あの光がヤツの居場所さ−−−」
なぜか渋い声色でデルフが言った。

二人は言われるがままに光の下へと急いだ。
464 名前: サイトが魔法を使えたら(3/4) [sage] 投稿日: 2007/09/24(月) 23:00:59 ID:flrZmVzm
タバサとサイトは光を放つ場所にきた。

2メイル半はある美しい木目が目立つ長い柄。そしてその先には昔のデルフのようにくすんではいるが、
鋭利な刃が付いていた。その槍の刃には何か文字が刻まれており、その文字が光輝いていた。

「よう、ひさしぶりじゃねか、グング。いつまで寝てんだよ。とっとと起きやがれ」
デルフは、懐かしい友人に冗談を言うように槍に話しかけた。
すると、槍がしゃべりはじめた。
「っるさいわねぇ〜ダレなのよぉ。折角人が気持ちよく寝てたってのにさぁ〜」

その声を聞いてサイトは一瞬で凍りついた。
タバサは、伝説の槍を目の当たりにしてただただ凝視していた。
(これが、伝説のインテリジェンス・スピアーーグングニル・・・)

「おめぇ槍だし。いーから目ー覚ませ。久々に使い手が現れたんだぜ」
デルフは急かすように言った。
「なにさ、使い手?えっわたしたちを使える人間がまた出てきたってのね!
あぁらぁ、おにぃ〜さぁん、かわいぃじゃないよぉ。あたしのこ・の・みかしらぁん。ウフッ
お名前、おしえて〜ん」

サイトの全身からいやーな汗が大量に噴きだした。
デルフはサイトの雰囲気を察して、かわりに槍に話しかけた。
「相棒やっぱ固まっちまったか。今回の相棒名前はなーーー」

「あんたにきてないわよぉ。この子に直接聞いてるんだから、アンタは黙ってらっしゃいな」

「へーへー、ってことで相棒そろそろ口聞いてやってくれ」
「お・な・ま・え・は?」

「ひひひひひヒラガ・さささサイトです。」
サイトはてんぱってしまった。
またかよ。またアレか。この世界はスカロンみたいな人間だけじゃなく武器すらアレがいるのか・・・
そう、この槍オネエ言葉でしゃべるのだ。
465 名前: サイトが魔法を使えたら(4/4) [sage] 投稿日: 2007/09/24(月) 23:02:33 ID:flrZmVzm
「素敵なお名前じゃないのぉ。サイトくんねぇ。よろしくぅ。あたし、グングニルっ呼ばれてんだけどさ、
あたしとしちゃ、グングニールって呼んでほしいわけ。あたしのお願い聞いてくださるわよねぇ〜
聞いてくんなきゃ、ゆーこときいたげないわよぉ。フフフ・・・」

この槍の言うこと聞いておかないと間違いなく寝込みを襲われる。奪われてしまう。
「わ、わかったよ。グングニール。よ、よろしくな」

「ぁあん。いー声じゃなぁい。ちゃーみんぐだわぁん。貴方のお願いならなーんでも
聞いてあげちゃうわよぉ。早速だけど、あたしに触れてみてぇ〜」

サイトは言われるがままグングニールに触れた。
するとグングニール全体が黄金色に光り輝いた。

「サイトくーん。あたしってば今はこんな図体だけどさぁ、とってもかわいらしく
変身できちゃうのよぉ。今からやったげるから、しっかり受け止めてねぇ」

輝きが閃光となり宝物庫全体を光で包み込んだ−−そしてサイトの右手
に杖くらいのかわいらしいサイズになったグングニールがいた。

「いやぁん、しっかりうけとめてもらっちゃたわ。感激ぃ」

激しい吐き気に襲われながらも必死になってサイトは小さくなったグングニールを
しっかり握った。

262 名前: サイトが魔法を使えたら(1/2) [sage] 投稿日: 2007/09/29(土) 23:32:36 ID:5Vp9JtyY
「・・・杖・・・」
タバサは変化したグングニールを見てひとりごちた。

確かこの前、タバサは魔法を使うには〔媒介〕が必要と言っていた。
このグングニールを得た今、魔法を使えるということなのだろうかーー
「な、なぁ、タバサ。俺、これで魔法が使えるようになるのか?」
サイトはタバサに聞かずにはいれなかった。

「まだ、使うことはできない。」
「なんでだよ?」
「杖との契約が必要。」
「け、けいやく?!」

「−−そうさ、相棒。メイジとやらが魔法を使うにはまず、その媒介
となる杖ーー相棒の場合にゃグングだな。そいつと契約が必要なのさ」
デルフがタバサの言葉を継いだ。

「でも、どーやって契約すりゃいいんだよ?−−ま、まさかーー」
サイトにいやな予感が浮かびあがった。
ルイズが俺と使い魔の契約をしたときには・・・き、キスだったよな・・・
まさか今回の〔契約〕も・・・
ウェッ。危険な妄想に胃からナニかが逆流してくるような感覚に襲われるサイトだった。

「詠唱を唱えるのーー我が名はサイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ。彼の杖グングニルと
契約せんーー」
「やって」
タバサはサイトに促した。
「お、おう」
いい意味で予想を裏切られ、少しほっとして、サイトはうなずく。
「ほんとは、あたししゃキスのほーがいいんだけどねぇ」
グングニールは心底残念そうにつぶやいた。

お、おうぇ。再びサイトは吐き気に襲われつつも、契約の詠唱を唱え始めた。
「集中して。あなたならきっとできるーー」
タバサの励ましを受け、サイトはにこりと微笑み返した。
263 名前: サイトが魔法を使えたら(2/2) [sage] 投稿日: 2007/09/29(土) 23:33:48 ID:5Vp9JtyY
サイトはグングニールを右手でしっかりと握りしめた。
「−−−我が名はーーサイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ。彼の杖グングニルと契約せんーー」

左手のガンダールヴのルーンとグングニールの刃のルーンが共鳴するように銀(しろがね)色の輝きを放った。
身体の中から『何か』が湧水のように湧き立つ感じがするーーこれが魔法のチカラ?−−−
サイトは今までに感じたことのない感覚に戸惑いながらも理解できたのだった。これもガンダールヴの力なのだろう。

「相棒、これでメイジの扉が開かれたってことだな」
「だーりん。あたしも助けてあげるわ。よろしくねぇ」

「そ、そろそろ戻ろうか」
おしゃべり武器たちの言葉をよそにサイトはタバサに声をかけた。

「そうね」
タバサは短く答えた。しかし次に思わぬ言葉を継いだのだった。
「窓から帰る。あなたも一緒。魔法使う」

「いきなり!?そんな、む、無理じゃーー」
焦って声が震えるサイト。
「できる。できなきゃだめ。私を魔法で護ってみせて」

そしてタバサはいきなり窓から飛び出したーーー

550 名前: サイトが魔法を使えたら(1/4) [sage] 投稿日: 2007/10/06(土) 00:06:14 ID:8x+D4TUE
わたし魔法は使わない。タバサは杖を握る右手から力を抜いた。
杖は手からこぼれ落ち、もはや手の届かないことろまで離れてしまった。

きゅいきゅいーーと、上空で待機していたシルフィードが急降下し、タバサの杖を左足でキャッチした。

「おねーさま、正気?!このままだと死んでしまうのね。わたしが助けるのね」
そういってタバサに近づいてきた。
「−−だめ。あなたは戻ってて。これは試練。わたしの命はサイトに捧げる。そう誓った。
いま、サイトが真にメイジの資質に足るかどうか確かめるとき。それに−−」
途中で言葉を紡ぐのをやめた。シルフィードは納得できないという表情をしていたが、再び上空へと
羽ばたいていった。

あのとき。サイトに告白したとき。サイトはわたしの言葉を理解できていなかっただろう。なぜなら
そこに泣き崩れたルイズがいたから。サイトの一番の想い人。ルイズ。いまは敵わない相手。
だけど、今ルイズはいない。もし叶うなら、また助けてほしい。そうしてわたしの想いを繋ぎ止めて
もらえたら−−。たとえ甘い気持ちなどサイトにはないにしても。わたしは満たされる。

タバサの身体は加速をつけて地面との距離を縮めていった−−
551 名前: サイトが魔法を使えたら(2/4) [sage] 投稿日: 2007/10/06(土) 00:06:47 ID:8x+D4TUE
「タバサっ」
サイトは窓から身を乗り出し叫んだ。
「相棒、試練だねぇ。やるしかないねぇ」
デルフがため息混じりに話しかけた。
「だぁーりん。いえ、サイト。一緒にがんばりましょ。今は四の五の悩んでる時間は無くってよ」
グングニールがせかしてきた。

「そ、そうだな。で、でもどんな魔法使えっていうだよ−−」
正直パニックに近い精神状態になっていた。
「そーねぇ。あのおちびちゃんが空中で浮くとき良く使ってる魔法ってなにかしら」
グングニールがヒントをくれた。たしかシルフィードから落っこちたときに俺に使ってくれた魔法−−あれか!
「タバサ、今助ける!!−−」
サイトはタバサへ向けグングニールを振り下ろした。
身体の中で力の流れを感じた。うねり、うずまき、右手に収斂していった。
「レビレーション!」
自然とその魔法の名前を口から発した。

来た。タバサは自分に魔法がかけられていくのが分かった。
サイトの放ったやさしく暖かい風の魔法がふわりとタバサの全身を包み込んでいく。
タバサは瞳を閉じ、サイトの風にその身を委ねるのだった。
552 名前: サイトが魔法を使えたら(3/4) [sage] 投稿日: 2007/10/06(土) 00:07:37 ID:8x+D4TUE
ふわり、とタバサは地上に降りた。

タバサはゆっくり目蓋をあけ、双月に照らし出される本塔を見上げた。
サイトが風の魔法を使って地上へと舞い降りようとしている。

「タバサ、怪我ないか」
ふわり、とサイトが地上に降りつつタバサに話しかけた。
「ん。大丈夫。やさしい風だった」

「はぁ、よかったぁ。魔法がかかったかどうか心配だったんだ」
緊張していたのか、サイトの額には汗が光っていた。
そんなサイトをみて、にこりとタバサは微笑むと再び空を見やり
口笛を吹いたのだった。

きゅいきゅいーー風竜シルフィードが主人の呼びかけで地上に
降りてきた。

「おねーさま、怪我ないのね。だいじょーぶなのね」
タバサの使い魔は、主人を気遣う言葉をかけた。
つぎにサイトのほうに顔をむけて言った。
「おねーさまを助けてくれてありがとなのね」

サイトはシルフィの首をなでながら、心配かけたな、と語りかけた。
553 名前: サイトが魔法を使えたら(4/4) [sage] 投稿日: 2007/10/06(土) 00:08:13 ID:8x+D4TUE
タバサはシルフィの背に乗ると、サイトも一緒に乗るように促した。
行き先と尋ねると、タバサは学院とは異なる場所を告げたのだった。

「ラグトリアン湖まで一緒に来て」

「何しにいくんだ?」

「秘密。」
タバサは短く言葉を返すと、トリスティンの夜空めがけてシルフィを飛び立たせた。

ひんやりとした風が二人のほほをなぜていく。
夜の空中散歩もいいもんだな。とひとりごちるサイトだった。タバサの青い髪も風の調子に合わせてサラサラとゆれている。

月明かりに照らされた青髪の少女。気高さを宿した碧眼。そして清楚な雰囲気にサイトは息を飲んだ。

竜の背にゆられる二人は黙ったまま。湖畔へと向かって行った。

30 名前: サイトが魔法を使えたら(1/2) [sage] 投稿日: 2007/10/09(火) 23:35:13 ID:cxIzzOtc
月光に映えるラグドリアン湖の水面(みなも)は、宝石のようにきらきらと光り輝いていた。

「きれいだな・・・」
サイトがつぶやいた。
シルフィは、徐々に高度を下げていき、湖畔の一角へと降り立った。

タバサとサイトの二人はシルフィの背中から降りると波打ち際まで並んで歩いた。
周りは音が夜の闇に吸い込まれてしまったかのように静かだ。
サイトはあの時のことを思い出していた。そう、ルイズの惚れ薬を解くため水の精霊に
会いに行ったときのことを---

「そういや、ここでおまえとやり合ったことあったな」
懐かしいよな。横にいるタバサに語りかけた。
タバサはこくりと頷き、あのときは痛くしてごめんなさい。と小声でつぶやいた。

「あやまんなくていい、タバサにも守るもんあったんだからさ。ケガはモンモンに治して
もらったし、気にすんな。」
サイトは真剣な表情だった。

ケガ---そういえばガリアで幽閉される前、サイトを抹殺しようと氷の槍(シャベリン)を突き立てた。
状況ではサイトがわたしに止めを刺せたはず。だのにわざとはずしてわたしの攻撃をもらってしまったのだ。

「お腹のケガ、大丈夫?」
心配になってサイトに聞いてしまう。
「腹のケガ?ああ、アレ?キズあとは残ってるけどへーき平気」
手を振りながらサイトは答えた。
31 名前: サイトが魔法を使えたら(2/2) [sage] 投稿日: 2007/10/09(火) 23:36:19 ID:cxIzzOtc
あんなケガを負わせてしまったわたしをサイトは敵地(ガリア)へ乗り込んで助けてくれた。
わたしのイーヴァルディの勇者---光る左手をもち、剣と槍で戦う者。伝説の勇者が今のサイトと重なり合う。
サイトは伝説の使い魔、ガンダールヴ。この二つの伝説はもとはおなじ一人の人物のことだったのだろう。
わたしはどんなときにでもこの勇者のそばにいたい。助けられたあの瞬間からそう心に誓っていた。

タバサは真っ直ぐ水の中へと歩みを進めた。膝まで水につかるところまで来てからくるりとサイトの方に向き直った。

「この湖は、誓いの精霊が棲まう場所。今からあなたに誓いを立てる---」

サイトにそう告げた後、右手を胸にあて、碧眼の瞳を閉じた。
さらに一呼吸おいてから言葉を紡ぎだした。

「わが名は、シャルロット・エレーヌ・オルレアン。水の精霊よ、わが誓いの証人となれ--」

「わたしはこの先、死が二人を分かつまで、サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガにこの身とこの心を捧げんことを誓約す--」

気のせいだろうか、サイトには一瞬水面が震えたようにみえた。

誓いの言葉を言い終わったタバサは瞳を開き、サイトへ手を差し伸べた---
293 名前: サイトが魔法を使えたら(1/4) [sage] 投稿日: 2007/10/19(金) 13:52:28 ID:zyWNqaHn
わたしはこの先、死が二人を分かつまで、サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガにこの身とこの心を捧げんことを誓約す---

タバサは俺に誓いを立てた。前にも時と場合を選ばずに俺を助けると言ってたよな。
身も心もあなたに捧げるって言葉だけだったら、大胆すぎる告白になってるとこだ。

瞳を開いたタバサにじっと見つめられて思わず目そらししてしまった。でもなんで俺のことそんなにかまってくれるんだろ。鈍感なサイトは彼女の真意を測れずにいた。
タバサが俺に手を伸ばしてきた。こっちに来いってことなんだよな・・・
サイトは、なぜか高鳴る鼓動を抑えつつざぶざぶと湖に入っているタバサへと歩み寄る。

「ど、どしたタバサ」
おそるおそるサイトは尋ねた。
するとタバサは、おもむろにかけていた眼鏡をはずした。
タバサという呼び名は母にもらった大切な人形の名前だ。彼女にはシャルロットという名前があった。
彼女は思った--ここでは、いや、この瞬間だけでいい、サイトには自分の本当の名前で呼んで欲しいと・・・
「シャルロット、でいい」

「へっ!?」
いきなりの申し出にサイトは面食らった。
「タバサじゃ嫌。いまはシャルロットと呼んで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お願い」
彼女は眼鏡をはずしたまま、サイトを見つめる。
「タバ---いや---しゃ、シャシャシャルロット。」
動揺を隠しきれなかったが彼女に言われるがままに言葉を返す。
眼鏡をはずした少し潤んだ碧い瞳でじかに見つめられている。どきどきしっぱなしで正視できない。

シャルロットと呼んでくれた---心にジンと響くものを感じ、彼女はうっすらと頬を桃色に染めた。
すでに間近にいる彼を上目遣いで見つめ、ありがと。と消え入りそうな声で呟いた。
ここまでの至近距離。あのときの戦い以来だった。いまは誓いの精霊のいる場所に二人きりでいる。
精霊には大目にみてもらって、もうひとつの希望を言ってみた。

「・・・・・・もうひとつお願いがあるの・・・・・・・め、目を閉じて」

サイトは魔法にかかったように目を閉じる。いや本当に魔法にかかってしまったのかもしれない、と
サイトは思った。あの少し潤んだシャルロットの碧眼に。
「これでいいのか?し、シャルロット・・・」
サイトのどきどきは最高潮に達しようとしていた。

「うん」

そう短く彼女は言葉を発すると、右手でサイトの着ているパーカーの袖口を小さくつまんで引き寄せ--サイトの唇に彼女のそれを合わせた。
294 名前: サイトが魔法を使えたら(2/4) [sage] 投稿日: 2007/10/19(金) 13:53:12 ID:zyWNqaHn
双月照らす湖畔で誓いを交わすシャルロット、そしてサイト--
この切なげな静寂が破られた。
「・・・睦まじいところ悪いな--北花壇騎士(シュヴァリエ・ド・ノールパルテル)」

声のした方に二人は視線を飛ばした。茂みの暗闇から人影が現れた。黒いフードを目深に被っているため人相は不明。
しかし、その声には彼女は聞き覚えがあった。
ミョズニトニルン。声の主の名前をつぶやく、タバサ。
「え?誰だって??」
サイトは舌を噛みそうなその名前を一度では聞き取れなかった。
「ミョズニトニルン。この前ミョルドガントでルイズを踏み潰そうとした張本人」
タバサは説明を加えた。
こいつが・・・!?サイトは唇をかみ締めた。タバサはサイトの周りの空気が一瞬変わったような気がした。
「虚無の使い魔よ。今日は虚無使いはどうした?まさか一人にしているのではあるまいな」
片側の口角を吊り上げ、不気味な表情を浮かべるミョズニトニルン。
「ま、まさかてめぇ--ルイズに何かしやがったのか!!!!」
サイトは身構え相手を見据えて言い放った。
この状況は危険。タバサはシルフィに口笛で合図を送る。すると上空で旋回していたシルフィは
ある方角目指して飛び去ってしまった。
「逃げるつもりはない--」
タバサも身構えた。ところが、左手でサイトが制した。
「タバサ。おまえはじっとしてるんだ。ここは俺がなんとかする」
サイトは相手を見据えたまま言った。
「---ほう。このわたしと一戦交える気か。ガンダールヴ。面白い。マジックアイテムで叩きのめしてくれる」
ミョズニトニルンは被っていたフードを取り去った。
挑発してんのか。やったろうじゃねぇか。サイトは背中のデルフを掴もうとした--が、しかしデルフが無い。
え?驚いて後ろを振り返ると、なぜかタバサの手にデルフが握られていた。
「た、タバサ?!」
しかし、タバサから返事は無い。何か目が虚ろだ。
「相棒、娘っこはあっちの虚無の使いに操られてるようだねぇ」
デルフは諦めたようにつぶやいた。
しまった!咄嗟の判断でサイトはタバサから飛んで離れ、ミョズニトニルンを脇目でみた。
「アンドバリの指輪!!?」
ミョズニトニルンはタバサに向け、深紫の指輪を向けていた。その指輪は妖しく輝き、そしてミョズドニトニルンの額も白く輝いている。
ミョズニトニルンの周りにはいつの間にか沢山の人形が集結していた。
295 名前: サイトが魔法を使えたら(3/4) [sage] 投稿日: 2007/10/19(金) 13:54:24 ID:zyWNqaHn
同刻---トリスティン魔法学院。
シルフィはタバサに命じられた場所にたどり着いた。
そしてとある一室の窓を突き破った。
ガシャァーーーーーン!!!!
バカァ・・・そんなにがっついたってぇ・・・あげないんだもん・・・
何か妙な夢をみていたルイズの眠りがとんだ闖入者によって破られた。
「ぎゃぁぁ〜〜!!!!!なななななななになに!!?なんなの〜」
絶叫とともにルイズは目を覚ざめた。
「たいへんなのねーたいへんなのねー!!!おねーさまがたいへんなのね〜」
シルフィは寝起きのルイズに捲くし立てた。
「んーなんなのよー。タバサの使い魔じゃないよ。どしたのよ」
かすむ右目を擦りながらシルフィに聞きただした。
「たいへんたいへんたいへん」
翼をバタバタさせながらシルフィは騒いでいる。
「わかんないでしょー。何が大変なのよ」
困ったという表情でルイズは聞き返すのだった。
右目がまだぼやけていた。顔を洗ったほうがいいのかしら---
「おねーさまが、サイトが襲われてるのね〜きゅいきゅい」
はぁ?サイトがなんでよ。不安がルイズの小さな胸に過ぎった。
「はやく、乗るのねのね。急ぐのね〜」
シルフィに急かされるままルイズはその背に跨った。
まだ夜更けの冷たい風がルイズの頬をなでていた。
右目がようやく見えてきた。しかし、見えた景色はシルフィの背中でも二つの月でもなかった---

「ちっ、やばいな---デルフとられてんのによ。この数はきびしーかも」
サイトは額から流れる汗を無造作に拭い去った。
「だーりん。あ・た・しを忘れちゃやーよ(ハート)」
インテリジェンス・スピア グングニールが話しかけた。
そうか、コイツもいたんだ。杖状態に変化してから黙りこくっていたせいで
アウトオブ眼中になっていた。
「とりあえず、タバサとアルヴィーに挟まれちゃどうしようもねーよな。
後ろからバッサリいかれても辛いし---」
「だーりん。あたし一回元に戻るわ。でもあのデコ女に変身見られたくないわね--
そうね。だーりん、あたしを水ン中に落としてちょーだいな。」
サイトはグングニールを足元に落とした--グングニールは水中で黄金色に発光すると元の槍に戻った。
サイトは、水中のグングニールの柄の末端を左足で踏んづけて跳ね上げ、右手でそれをキャッチする。
「らんぼーなんだからぁ。まーよくってよ。この状態でもだーりん魔法使えるからねん。
でも詠唱は相手に覚られないようにね」

おっけ。サイトは短く応えた。前後に目を配りながら間合いを計っていく。
先に仕掛けたのは操られたタバサだった---杖を打ち捨てたと同時に水面を蹴上げ、一瞬でサイトとの間合いを詰めてきた。
ガキッ!剣と槍が交差する。かなりの強い力に後ずさるサイト。しかし槍のしなりを活かして剣ごとタバサを弾き飛ばす。
左手のルーンの輝きが増し、サイトは羽のように軽くなった体躯を駆って弾き飛ばされるタバサを追撃する。
「タバサ、悪い。少し痛いかも。」
ぐりんと槍を180度回転させ、柄の末端--石突の部分をタバサの腹部に叩き込んだ。
タバサの表情が一瞬苦悶の色を見せ体をくの字に曲げたまま倒れこんだ。
一瞬複雑な表情を見せたサイトだったが、槍をもう一度半回転させ、今度は背後の敵へと向き直る。許さねぇ---
「今度はおまえの番だっ!!!!!」
サイトは湖岸を目指し、湖面を蹴り出した。
「わたしのアルヴィーを倒せるかしら--」
不敵な笑みを絶やさずミョズニトニルンは近づいてくるサイトを挑発した。
”だーりん、そろそろ使っちゃいなさい”---小声でグングニールがサイトに話しかけた。サイトは無言で首を縦に振る。
槍の重心を中心に頭上で回転させた。そして、小声で風のマジックスペルを唱えた。
”エア・ハンマー”----詠唱完了と同時に槍を石突まで滑らせ岸のアルヴィーたちへと狙いを合わす---横一閃、薙ぎ払った。
槍の穂先のルーンが輝いて魔法は発動した。
ドンッバキバキバキッ!アルヴィーの先頭の一団が次々となぎ払われる。指揮官の顔色が一変する。
「!!!---ガンダールヴ。やるではないか。『風圧』でわがアイテムを吹き飛ばすとは・・・」
ヤツは俺が魔法を使っているとは気がついていない--サイトはニヤリと笑みを零した。
「まだまだぁ!!全部吹き飛ばしてやるっ!!!」
296 名前: サイトが魔法を使えたら(4/4) [sage] 投稿日: 2007/10/19(金) 13:55:00 ID:zyWNqaHn
回転させながらグングニールの穂先をわざと湖水に浸す。
グングニールの回転と同じようなうねりがサイトの身体の中でも渦巻いている。
"ウィンディ・アイシクル"--独り言のようにスペルを紡ぐ。
こぉぉぉー無数の氷の矢が湖面ぎりぎりに発現した。このまま放っては相手に手の内を見せてしまう。
そこでサイトは別の魔法を氷の矢に向け繰り出した。
小さめの空気の塊に当てられ、氷の矢は粉々に砕ける。しかし、氷の欠片は湖面へと落ちていかない。
グングニールの回転速度を上げ、その風圧にさらに魔法を上乗せした。
"エア・ハンマー"
アルヴィーの先陣をなぎ払った強度で無数の欠片に打ち付けた---
アルヴィーたちに疾風と氷片が叩きつけられ、次々ズタボロになっていく。

ドクン。ドクン。右目の視界に鼓動が高まっていく。
な、なによこれ。湖?なんであんなにいっぱい人形(アルヴィー)がいるのよ。
まるで目の前に存在するかのような光景。
「ねぇ。シルフィ。あんたのご主人さまとあたしのサイトはどこいんのよ。」
ちらりとシルフィは横目でルイズを見ていった。
「おねーさまとサイトはラグドリアンの湖なのね」
もしかして---この視界。サイトのなの?
この人形たちを操ってるのはもしかして、ミョズニトニルン?! だとしたら、サイトが危ない。
ドックン。ドックン。鼓動がさらに速まる。
「ち、ちょっと、シルフィ。もっと速く飛びなさいよ。あいつが危ないの。お願いよ」
ルイズはぺしぺしとシルフィの首根っこあたりを叩いて急かす。
「痛い、痛いのね。わかってるのね。急ぐのね。きゅいきゅい」
シルフィは翼をより大きく羽ばたかせるのだった。
速度があがったせいかルイズの右の耳が激しい耳鳴りに襲われていく---

ーーー私は----どうなってるの----朦朧とする意識の中タバサは身体を起こそうとする。
ズキン・・・お腹のあたりに鈍痛が走った。ったい。痛みに身体が一瞬強張る。
そうだ。シルフィはどうなっただろう---私何頼んだんだろう。そうだ。ルイズを来させようとしたのだ。
やはりまだ身体がいうことをきかないらしい。周りから魔法の鼓動が身体に伝わってくる。
サイト。大丈夫かな。せっかく誓ったのに何もしてやれない。くやしい---けどここまでの魔法を繰り出せている
サイト---タバサは弱弱しい笑みを浮かべた---私がいなくても----だいじょう---ぶ------
再びタバサの意識が暗転した。

おっし。もうすこしでカタがつく。サイトの心が奮えたった。
そのちょーしよ。だーりん。ぐるぐるとサイトに振り回されながらグングニールはサイトに声をかけた。
もういっちょ。かましとくか-----魔法を唱えようとした刹那、眩暈と強烈な耳鳴りに襲われた。
やべ。使いすぎたのか---額に手を当てサイトはよろめいた。
ひとまず魔法は温存してグングニールにしなりを利かせ襲い掛かってくる人形たちを弾きとばしていく。
耳鳴りは続いていたが、眩暈は治まり視界をとりもどせた。ところが左目の視界は別の場所を映し出していたのだった。
540 名前: サイトが魔法を使えたら(1/1) [sage] 投稿日: 2007/10/28(日) 00:30:54 ID:M9do1U9l
空。そして湖。それがサイトの左目に飛び込んできた景色だった。
ルイズ!?
いつの間にか左の耳から耳鳴りは消え失せている。その耳から聞こえるのは風切音。そして左目の視界の主、ルイズの声だった。
”サイト?私の声が聞こえるの・・・・?”
「ああ、聞こえる。ばっちり。」

湖。そして湖岸に群れるアルヴィーたち。そして右の耳からサイトの声がした。
”ルイズ!?”
サイトが見るものだけではなく聞いたものも分かった。まるで自分がそこにいるかのように。そんな自分に驚き、そして嬉しいルイズなのだった。
「サイト?私の声が聞こえるの・・・・?」
”ああ、聞こえる。ばっちり。”

サイトは言葉を続けた。
「おまえもつながったんだな・・・声で分かるぜ。っと。」
目の前に群がる敵を槍捌きとマジックスペルの合わせ技で弾き飛ばす。とはいっても倒しても倒してもキリがない。どこからともなくわらわらと溢れるアルヴィー。
これまで歴戦を戦ってきた彼でも無傷というわけにはいかなかった。掌、二の腕、脇腹などに傷を負っていた。
「ルイズ、お願いだ。ここに降り立つまでに魔法唱えといてくれ・・・おれちょいやばめ」
”イサ・ナウシド・ウンジュー・----”
ルイズの心地のよい詠唱がサイトの左耳に入ってくる。

視線の先にいるミョズの背後に巨大な影が現れた。
ヨルムンガント・・・!!!サイトは青ざめた。
”だーりん。ねぇ。だーりんってば。”
グングニールが声をかけた。
なんだよ。どーすりゃいーんだよ。あれ。
”あたしをあれ目がけて投げてちょーだい”
んなことしたら俺お前拾いにいかないといけないんじゃ---俺丸腰だぜ?
”だいじょうぶよぉ。ちゃんと自分で戻ってこれるのよ〜。だから、な げ て”
巨大な人形がこちらに近づいてくる。
ままよ----意を決したサイトは、グングニールを上段に構え、走り出した。スピードが乗ったところで背中を反り、振りかぶる。
グングニールの穂先とサイトの左手のルーンの輝きが同調するかのように光を増した。
いっけーーーーーーーーーー!!!!
ヨルムンガント目がけてグングニールを擲った。

”おまえもつながったんだな・・・声で分かるぜ。っと。”
私とサイトは今つながってるんだ。ルイズの心に温かい火が灯る。
”バキン!ドカッ!”
何かがぶつかる音がする。不安な気持ちが溢れだした。
”ルイズ、お願いだ。ここに降り立つまでに魔法唱えといてくれ・・・おれちょいやばめ”
サイトの声が届いた。ルイズは不安を吹き飛ばすかのようにシルフィの背中に立ち上がった。

イサ・ナウシド・ウンジュー・----
アルヴィーにかけられたスペルを解除する”ディスペル”を唱え始めた。
しかし詠唱開始から寸刻のたたないうちにルイズは右目に新たな敵を捉えた。
即座にスペルを”エクスプロージョン”に切り替える。
”ヨルムンガント!!!”サイトの叫びが飛び込んでくる。絶対に倒してやるんだから。
エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ----
ルイズの中で魔法の力がうねりはじめた。
112 名前: サイトが魔法を使えたら(1/4) [sage] 投稿日: 2007/11/03(土) 01:28:35 ID:yVvwa3ip
グングニールは真っ直ぐにヨルムンガントに突き進んでいく。残り5メイル、3メイル、1メイル---ゼロ。
ヨルムンガントの頭部と穂先が接した瞬間、無数の紅色のプラズマがその厚い装甲に網のように貼りついた。
バチンッ。破裂音とともにグングニールの穂先が装甲にめり込んでいった。と、次の瞬間、頭部の1/3が内側から破裂し、めくれ上がったのだった。
「あ、ありえない---」
予想外な光景にミョズは顔色と言葉を失った。

一方、グングニールを投げてしまった今、サイトは丸腰になってしまった。ここぞとばかりにアルヴィーたちが襲い掛かってくる。
徒手空拳でなんとか致命傷は避けるものの、かなりの手数を喰らってしまう。これまでのケガのせいか意識がぼやける。
眼前に隊列を組んだ槍ぶすまがサイト目掛けて突き進んできている。
や、ばっ---避けようにももう足が言うことを利かない。
ルイズ・・・ごめん・・・・サイトは目を瞑った。

ズブッ。何かに突き刺さる鈍い音がした----俺、死んだ?!
サイトは、恐る恐る目を開けた。なんとサイトは羊水のような水の球に包み込まれているのだった。
ゆらめく視界には槍ぶすまが水球の表面5サントくらい突き刺さって止まっていた。
誰かが水魔法でサイトを護ってくれたのだ。背後からかすかな声が聞こえた。
”ガンダールヴ----手助ケシヨウ。アノ指輪ヲ我ノモトニ・・・”
声の主はこのラグドリアン湖に棲まう水の精霊であった。

水の精霊・・・。精霊の涙を分けてもらって以来の邂逅であった。
”オマエト約シタ。アノ指輪ヲ我ノ許ニモドスト。”
そうだった。忘れちゃいない。目の前にアンドバリの指輪はあった。
サイトの身体に接する「水」が柔らかいグリーンの光を放ち始めた。先までの傷が徐々に癒されるのが感じ取れる。
身体が軽くなってきた。サイトの中で消えかけていた灯が再び燃え上がる。黒い瞳の奥に生気を取り戻した。
「一つお願いだ。あそこに倒れているタバサも助けてやってくれ」
タバサのほうを指して精霊に願いを請うた。
”分カッタ。約束シヨウ---”
サイトを包み込んでいた水の球は消え失せ、今度はタバサが精霊の胎内に抱かれていく---

ザンッ。ヨルムンガント1体を打ち破ったグングニールがサイトの許に舞い戻ってきた。
右の手で槍をむずと握り、ずぶりと湖面から引き抜いた。
その刹那。湖の上空から閃光が降り注いだのだった。
ルイズ。ニッと笑ってサイトは自分の周りに防御魔法を展開した。湖面の水が魔力によって持ち上がり壁となす。
虚無の爆風にたゆんと水の壁がゆらめいた。

ざざざ。ざざざ。タバサは夢の中にいた。彼女は母の胎内に宿る夢。背中を丸め、両の手は胸の前に両足は屈めている。
小さな身体をさらに小さくして、母の中をたゆたっていた。
”母さま---”
トクン、トクン。小さな身体に生命の拍動が戻ってきた。
突如、その空間に一条の光芒が差し込んできた。タバサはその光を求めるように手を差し出した---
青髪の少女の瞳は開かれた。碧い双眸に再び光が灯る。意識はすこし霞がかかったような状態だった。
けれど、湖上で魔法を展開している黒髪の少年、上空で風竜の背に立つ桃髪の少女の存在は分かった。
タバサの足元にはいつのまにか流れ着いた彼女の杖が漂っていた。タバサは屈みこみ杖をつかんだ。

シルフィの背に立ちルイズはエクスプロージョンを眼下の敵勢に放った。
これでおしまいにするんだから。精神力の大半を使い込んだ彼女はシルフィの上でへたりこんだ。
サイト。大丈夫かしら。自分の虚無で傷ついていないかと不安になった。
シルフィの肩越しにサイトの姿を確かめずにはいれない。しかし彼はしっかりと立っていた。そして水の壁が彼の周りをとりまいていた。
魔法使えるようになっちゃったの---ルイズは一瞬目を丸くして驚き、唇をかみしめた。
シルフィはそんなルイズを横目で見やりつつ湖上にふわりと着水した。

虚無の光が晴れた後、小さな人形たちは無残な姿をさらしていた。しかし---------

二度、同じ技が通じると思うとは浅薄だな・・・・ミョズは不適な笑みをうかべそう言い放った。
彼女の背後から多数の巨大な影がもぞりと蠢いた。
113 名前: サイトが魔法を使えたら(2/4) [sage] 投稿日: 2007/11/03(土) 01:31:04 ID:yVvwa3ip
「1体は斃せるようだな、褒めてやるぞ。しかし余興は終わりだ。邪魔なメイジどもからかたづけてやる」
ミョズの言葉が言い終わらないうちミョズの背後から現れたヨルムンガントたちがタバサとルイズに襲いかかる。
タバサは魔法で身軽にかわすが、攻撃はしなかった。体力の回復がさきだった。ルイズはよろけながらも果敢に杖を向ける。
そんなルイズの前にサイトは盾になってたちふさがった。
「こうも数が多いとあたしでもつかれちゃうわぁ。あいつも使いなさいよぉ」とグングニールがぼやく。
あいつ=デルフリンガーはいまだ湖に突きたれられたままになっていた。サイトは正眼の構えから槍を斜めに振り下ろし、ヨルムンガントの足を払った。
敵がどうと倒れこむ隙をついて、後ろへ飛びすさりルイズを抱きかかえると、一気にデルフの下へ駆けた。
なぁ、グング。デルフ握るまでに変身しといてくれ。サイトの言葉にグングニールが黄金に輝いて変化する。
「待ちくたびれたぜ〜相棒。錆びちまうかとおもった」デルフが茶化した。
サイトは抱えていたルイズを湖面に降ろしてあげた。そして剣をしかと握り、巨大な鎧の群れへと近づいていく。ふいにタバサの視線を感じた。
サイトはその視線の方向に目を向ける。
すこし離れているタバサの口元が動いていた。するとサイトの目の前に薄い白銀色の泡が現れた。泡は割れてその中からタバサの声が飛び出した。
水の系統魔法バブルであった。
”このヨルムンガントには系統も虚無も通じない----たぶん、先住魔法で強化されてる。だから---”
先住には先住ってことか。サイトはひとりごちる。この数では槍でも焼け石に水だ。他に先住魔法の使い手といえば----精霊しかいない。
「精霊さんよ。もう一度”分けて”くれないかな」
サイトは、湖面に向かって声をかける。
”-------------使ウガヨイ”
サイトには足元の水の雰囲気が変化したのが分かった。
精霊の了解を得たサイトは、タバサへむけ先ほど彼女がやったのと同じ魔法を使い用件を伝えた。そして抱えたままのルイズを見やる。
視線が合ったルイズはあわてて目をついとそらした。

114 名前: サイトが魔法を使えたら(3/4) [sage] 投稿日: 2007/11/03(土) 01:32:00 ID:yVvwa3ip
「まほう。つかえるよーになっちゃたんだ・・・・」
言葉の中に悔しさが混じっているのが分かった。
「言ったろ、お前を護りたい----だからがんばったんだ。」
サイトは言葉を続ける。
「まだ虚無使えるか?今から精霊の涙をもらうからそれに”ディスペル”をかけてくれ」
ルイズは目をそらしたまま、すこし口を尖らせて言葉を返す。
「さっきほとんど使っちゃた。歩くので精一杯なの・・・・だ、だからね・・・・あ、あんたに力を分けてほしいの・・・・」
分ける?ってどうやって??サイトは怪訝な表情でルイズに聞く。
「ききききききき」
ルイズは頬を朱に染め上げてサイトを見て言葉を伝えようとするが、口からでていかない。
ききききききき??サイトはオウム返しに繰り返す。
「きききき・・・・・キスして」
こんな状況だというのになんというご主人さま。サイトは内心にんまりしながらご主人さまの願いを叶えてあげた。
くやしいけれど、やっぱりこいつへの気持ちは嘘はないの。今まで恋敵(タバサ)と一緒にいたという不安は虚無を使う力にもマイナスなのだ。
この不安を消してもらうには使い魔、いやサイトから愛情表現(キス)をしてもらうのが一番だった。ルイズの中で気持ちが満たされてゆく。
”儀式ではないキス”をもらえたルイズは喜色満面に言い放った。
「いまなら虚無でもなんでも出してあげるんだから」
サイトはルイズに微笑みかけた。しかし、一瞬でその表情は戦う少年ガンダールヴに変化した。その意味を理解したルイズは虚無のスペルを唱え始めた----

タバサはそんなメイジと使い魔の光景を複雑な思いで見た。しかし、今は眼前の敵を蹴散らすことに気持ちを切り替える。
サイトと再び目線があった。それは、戦いの始まりを意味していた。その表情は雪風と呼ばれるメイジの顔になった。

ふくれあがったタバサの力とサイトの力が湖上で混ざり合う。呼応するかのように湖水がざわめき立ち始めた。

−−−ルイズの詠唱が完了した瞬間、サイトとタバサは同時に魔法を放った。
「「ウィンディ・アイシクル!!!」」
湖面から無数の氷の矢が三人の前に出現した。精霊の涙がこめられた淡いブルーの氷の矢からは二人のメイジの力がもれだすかのように白い煙を放っている。
ルイズは矢の出現を確かめ虚無の力(ディスペル)を氷の矢に向かって放った。
一斉に氷の矢がワインブルーへと変色する。タバサとサイトは杖を敵の方向へと振りかざした-----

空気を切り裂き矢がヨルムンガントめがけて降り注ぐ。それと同時にサイトは敵勢の真正面へ飛び込んでいく。
ヨルムンガントたちの攻撃をかいくぐり、指揮官のところへ突き進む。
虚無の使い魔の命知らずな行動にミョズは後れをとってしまった。
ひっ。あっという間に懐に入られたミョズにはなす術がなかった。サイトは脇に構えたデルフでミョズを切り伏せた。倒れたミョズの手から指輪を回収した。
サイトが振り返ると。すでに戦いは終わりを告げていた。
先住魔法の込められたヨルムンガントたちは同じく先住魔法を込めた氷の矢によって穴だらけにされ瓦礫の山となっていた。
ルイズとタバサの許にサイトは指輪をもって戻ってきた。
「アンドバリの指輪・・・」
タバサとルイズは口をそろえた。サイトはしゃがんでその指輪をそっと水の中に落とした。
”ガンダールヴ。感謝スル。”精霊の声がした。
115 名前: サイトが魔法を使えたら(4/4) [sage] 投稿日: 2007/11/03(土) 01:33:53 ID:yVvwa3ip
”ガンダールヴヨ、オマエニワタスモノガアル”精霊はそう言葉をつなぐと、サイトの目の前の水が生き物のようにぐにゃりとせり上がってきた。
その先にはきらりと輝くものがあった。取り上げてみると鴇色の宝石がはめ込まれた指輪だった。
”ソノ指輪は《ミョルニル》トイウ。左ノ手、四ノ指ニ嵌メヨ。双月ガ重ナルトキ、愛ノ宣誓ヲ行ウト奇蹟ガ起コルトイワレテイル。
奇蹟ガオコレバ、ソノ誓イハ永遠ノモノトナル---タダシ、誓イヲ違エテハナラヌゾ”
精霊はそういい残して湖の奥へ消えていった。
「四の指ってなんだ?」
サイトは首をかしげた。
「内側の指から数えて4番目」
タバサが薬指を指差してくれた。
それって婚約指輪ってことなんじゃ・・・サイトはうろたえつつ、自分の左手の薬指にミョルニルの指輪を嵌めた。一瞬、鴇色の宝石が光を放った。
サイトの指輪を桃髪と青髪の二人の女の子は黙って見つめているのだった。

「さ、さて、この瓦礫の山どーすんだ。女王様に伝えて回収してもらったほうがいいよな。」
サイトは指輪に触れられないようにルイズに話を振った。
「そ、そうね。伝えるべきだわ。これも成果だわ。そうだわ」
どことなく落ち着きのないルイズはポケットから紙とペンを取り出しこれまでの出来事をしたため、伝書フクロウを呼んだ。
よろしくね。ルイズはフクロウの頭をなでながら書状を渡す。フクロウは書状をつかみ空高く飛び去った。

それじゃ、戻ろうか。サイトは二人に声をかけた。タバサは首を縦にふって空に向かって口笛を吹いた。シルフィが三人の前に降り立った。
ところが、サイトのご主人さまは黙ったまんまであった。
「ルイズ、どした」
サイトはうつむいたルイズの顔を覗き込む。
「ね、ねぇ、サイト。あんたわたしが助けに来てなかったら、タバサと何をするつもりだったわけ?」
ウッ。ルイズは急に顔を上げたのでサイトの鼻っ面にルイズの石頭がヒットした。サイトはその場に蹲った。
サイトに代わってタバサは表情を変えずに言葉を返す。
「サイトを連れ出したのは、私。この湖で誓いを立てるために一緒に来てもらった」
「ちちち誓いですってぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
ゴゴゴゴとルイズの背後から怒気が沸き立つ。
「そう。誓い。私はサイトに心身を捧げることを誓った」
タバサはルイズを見据える。
「きぃぃぃぃっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
ルイズは言葉にならない奇声を発していた。
「ま、まてタバサ。誤解を受けるぞ。俺が危ないときに護ってくれるって意味だろ!?」
両手で鼻を押さえつつサイトは立ち上がった。しかしその時を狙っていたかのようにルイズがサイトのデリケートな部分に蹴りを入れた。
っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!サイトの声にならない悲鳴がラグドリアン湖に響き渡るのであった。

瓦礫の向こうでサイトに叩き切られたミョズがいた。
ところが、その姿がミョズから人形《スキルニル》に変わっていった。本物のミョズは森の陰に潜んで戦況を見つめていたのであった。
”ゼロの使い魔が魔法を使えるとは・・・想定外だった・・・指輪は奪われてしまったがおまえの命には変えれんからな。”
ミョズの主の声が彼女の頭に直接響いた。
彼女の表情は先ほどと一変し恋する乙女となっていた。
”そんな。もったいのうございます。いますぐジョゼフさまのもとへ戻ります---”
そういってミョズは森深くへと姿を消した。


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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:49:06 (5637d)

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