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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:49:32 (5617d)
438 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/10/03(水) 01:05:47 ID:fL7Rn6jx
朝、ルイズは起床し、服を着替えて扉を開く。
「おはようございます。ご主人様。」
平賀才人は、自らの主君に一礼する。
「……」
主君であるルイズは、使い魔の挨拶を無視した。
いや、返す事が出来なかった。
こんな風に、使い魔が自分に対してきちんとした主従関係を表す言語表現を形にし始めてはや半年。
いまだにルイズはこの事態を悲観的にしか捉えられないのだ。
何をするにしてもそうだ。
平賀才人は、確かに使い魔としての責務をこなすようになった。
淡々と。
半年前のように逆らう事も、今では考えられない事だ。
身の回りの世話や主人の護衛。
全てをそつなく、完璧に全うする。
軍人であるかのような立ち振舞いだ。
溝だった。
確実に深くなっていく溝。
掘るのは簡単ではない。
が、埋めるという行為もまた、この事態に限り簡単なことではなかった。
切なくてたまらない。
そんな人生を迎える羽目になったあの日を、忘れられる日はやってくるのだろうか。
439 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/10/03(水) 01:06:32 ID:fL7Rn6jx
あれは、使い魔が使い魔としての責務をよりこなすようになった日。
そう、半年前だった。
いつものように、些細な事から始まった喧嘩だった。
才人がメイドであるシエスタと裏庭で何やらこそこそしていた。
私用を言い付けようとして探していた時のことだ。
楽しそうに会話をしていただけだったが、何故か無性に腹がたった。
思えば、この時にはもう私は使い魔を愛していたのだろう。
だから見つけて、嫉妬して、暴走した。
才人をひたすら鞭で殴った。
いつもの事で、行っている仕打ちの重大さなぞ特に気にも止めていない私だ。
ひたすら叩いた。謝っている才人を何度も。
そもそも謝る必要など皆無なのだが。
シエスタは私が20発才人を叩いた頃には泣きだしてしまっていた。
彼女が泣きながら才人の身を案じ、自らの肉体を鞭という凶器の前に晒した時、ようやく私のお仕置きは終わった。
440 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/10/03(水) 01:08:07 ID:fL7Rn6jx
才人は至るところがミミズ腫れし、出血さえ確認できた。
彼の恨むような眼光を無視し、犬への躾はこれが一番だ。
そう言ってやった。
私からすれば、行き過ぎではあるが彼への愛情表現だった。
いつも他の女性のところへ行ってしまいそうになる彼を、どうしてもつなぎ止めたかったのだ。
しかし、そんな理論は私の都合だ。
彼が理解できるはずがない。
私がその立場なら理解できない。
だから、あの時の使い魔の表情も目も、至極当然のものだったのだろう。
そう。
こんな事にも、半年前の私は気付かなかった。
才人が何を考えているのか。
そもそも才人は生物なのか。物なのか。
それすらも忘れているような横暴を繰り返してきた。
大好きな、ちょっと何かが抜けた使い魔は、その日を限りに私を女として見なくなった。
それ以上でもそれ以下でもない。
「ただの主人」として。
441 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/10/03(水) 01:08:53 ID:fL7Rn6jx
それからは、思い出したくない出来事ばかりだった。
この半年、もはや生きる意味はない。
そう感じてしまうほどに苦痛な日々だった。
今日も進行している苦痛な日々なのだが。
彼は裏庭で私の暴走を身を呈して阻止した女、シエスタと恋に落ちた。
まっとうな付き合いをしているのだろう。
そこに私が入り込む権利はない。
そんな資格もない。
才人がシエスタと愛し合っていたのを目撃した時は、本当に命を起ちたい程の苦痛だった。
涙は止まる事を知らず、一日中枕を濡らし続けた。
才人は今、私の部屋で寝ていない。
男の私が主人の部屋で寝るなど、不埒にも程がある。
私は護衛もかねて扉の前で眠らせていただきます。
そう言って部屋から出ていったのだ。
全てが変わってしまったあの裏庭での出来事。
自分の過ちに気付いた頃、彼は傍からいなくなっていた。