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Last-modified: 2015-06-20 (土) 00:41:20 (3233d)
9 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:41:16 ID:5gmiWgR4 「いや、決してあのときの対応に間違いがあったわけではないのだ」 アニエスの淡々とした声が、木枯らしに流される。 そ、それならこの拷問は何だ、と才人は心中でつぶやく。隣のギーシュと同じくガチガチ歯を鳴らしながら。 「うん、責めてはいない。傭兵どもの言うがままの金額で即座に契約を結んだのは、あの場合に限りむしろ的確な判断だろう。 ……しかし連日、王宮で、財務省の役人を筆頭とする官吏たちに、なぜ銃士隊がちくちくと嫌味をいわれなければならんのだッ!? 怒気を放出し、しゃがんで二人の胸ぐらをがくがくとゆすぶるアニエスだった。 「貴様ら水精霊騎士隊筆頭のバカ二人が、独断で交わしてきた契約だろうが! だ、だって姫さまが払ってくれちゃったんだもの、と才人は揺すぶられながら考えた。 「おっと、ラ・ヴァリエール殿、気をつけてくれ。いま水をかけると私にまでかかるからな」 アニエスに注意されたのは、無言で柄杓に水をくんでいるルイズ。 「で、結果、貴様らの金銭的負担は一切無しというわけだが……少し忸怩たるものを良心に覚えないか? ああん?」 「そ、それは覚えなくもないかなーと、ゴポ」 10 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:41:57 ID:5gmiWgR4 横からルイズの差しだす柄杓が才人の頭の上でかたむき、冷水がちょろちょろとかけられる。 よし話は簡単だ、と不気味にアニエスが微笑んだ。 「いいか、銃士隊はいま総出で先の事件のことを調べてるんだ。過労死の勢いでな。貴様らもなにか動け。 銃士隊は必死に働いているのに、毎日のように嫌味も引き受けさせられているという怒りが、アニエスの顔に夜叉の笑みを浮かばせるのだった。 「がんばりましゅ……」 \\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\ それから数日ほど後の話である。 「平民軍の創設は必要なことです、それも早急に」 渋い顔のマザリーニと向かい合って、アンリエッタははっきりと言い渡した。 「あのですな、陛下。私だって先の襲撃のことは忘れておりません。 「ですから、それをこの機に変えたいのです。先の事件では、平民出身の者たちが最大の功労者でした。今ならそれを口実にできます。 「何をずれたことを。急な軍の改革は、貴族たちの大反発をよぶと申し上げているのです」 いらだたしげにマザリーニは持った書類を振った。 「だいたい、なにか忘れておりませんか? 世の中、金が必要です。 11 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:42:33 ID:5gmiWgR4 それを言われると弱い。アンリエッタはため息をついた。 「……この話は、もう少し話し合う必要がありそうですね」 「時期を見てであれば反対ではないのですよ。ただ、今すぐは少し無理があると申し上げているのです。 「あ、ええ、そうですね。ご苦労でした、さがってかまいません」 陰気に黒衣の裾をひきずり、マザリーニが部屋を出ていく。 (でもやはり、王家直属の平民軍は必要だわ。 財源を確保して、できれば早急に取りかかりたい。 別のことを考えようとして、来客に思いをはせた。 (なんの用があるのかしら、ルイズ……) 先ほど、急な来訪を通告する便りが来たばかりである。 『再戦ですわね?』というルイズの声がどこからか聞こえた気がした。 (サイト殿にあんなことをして、ルイズに『だと、思います』などと言ってしまって……どうかしていたんだわ、本当に) 正直、唇を重ねたことは、自分でも分別を失った行動だったとしか言いようがない。 12 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:43:04 ID:5gmiWgR4 しかも、それを見ていたルイズに「本心を言ってください」とつめよられたときはさらにまずかった。 (でもあれで、ルイズに敵視されることになったのかしら) だいたい再戦といっても、自分はどのようなことをすればよいのだろう。 (それに昔からあの子と喧嘩して、わたくし勝ったためしがあまりないわ。 たしかアミアン戦のときの一撃はこのように、と回想しながら、クッションを壁に押しつけてぼすんと叩く。 「も、申し訳ありません姫さま、ですが、ああ、サイトが! あの馬鹿が無茶なことを……! お願いです、軍を出動させてください!」 「……なにがあったのか、まず落ち着いて話してくれないかしら」 「あの馬鹿、ギーシュと二人だけで竜退治に行ったんです! \\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\ トリステイン国内、王都や魔法学院から離れた土地。人の近寄らない岩山。 「サイト。やっぱりやめたほうがよくないか?」 ギーシュが空中をコンコンと叩きながら、無表情で提案した。結界みたいなものが、いま上ってきたばかりの山道の出口に張り巡らされている。 「今さらおせえだろ、これ」 「しかしだな! こんな魔法見たことないぞ! いや、エルフの『反射』の先住魔法に似ていなくもないが…… 13 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:43:40 ID:5gmiWgR4 「なにも聞いてねえよ。おどかされただけじゃねえか、具体的にどう怖ろしいのか誰も言わなかったぞ」 「今見てるじゃあないかねッ! このまま、この山から出られなければどうするんだ!?」 ギーシュの金切り声に、才人は荒れ果てた山道の横を指さした。 「……払えばここから出られるってことじゃないか? 悪質なボッタクリだな」 「じょ、冗談じゃない! お金を稼がなきゃならんのに、失ってどうするんだ!」 「だから、竜を退治すれば払う必要もないだろ。 ………………………… …………アニエスに「稼ぎます」と明言してしまった二人は、この十日間、金になりそうなあてを調べていたのだった。 そこで目をつけたのが、トリステインのとある岩山に巣くう邪悪な竜の話だった。 が。 竜の住むという山のふもとあたりに着き、地元で一軒きりの居酒屋に入り、竜について情報を集めようとしたときだった。 「知らん、何も知らん!」 そう言い張るむくつけき男に、横から酔っ払った別の客が口を出した。 「知らんってこたないだろうよ、あんた何年か前にここで、おれが竜を消し炭に買えてやると大口叩いて騒いでただろうが。 14 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:44:12 ID:5gmiWgR4 その瞬間、才人とギーシュの前で、その酔っ払いは殴り倒された――飛びだしてきた居酒屋の主によって。 「まさか、あんたも?」 「……若いころにな……腕自慢だった馬鹿な青二才のとき、仲間とあの山をのぼった。 過去への苦々しい痛みをこめて顔をゆがめ、居酒屋の主は男に答えた。 「たしかに俺は岩山の邪竜に挑んで、敗れたことがある。 ………………………… それが昨日のこと。 「かー……つ、つかれる……おいギーシュ、もう少しで山頂だ。歩けるよな?」 問いかけにはぜーはーと荒い呼吸が返ってくる。ギーシュは最初こそフライを使って飛んでいたものの、魔力切れを懸念して途中から歩いている。 ついに山頂についたとき、ギーシュがどしゃと崩れ落ちた。 「み、水……おい、水をくれんかね……」 「あるぞ、水。あそこにたっぷりと」 15 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:45:52 ID:5gmiWgR4 才人の声に、ん? とギーシュが身を起こした。 顔を見合わせてから、二人は歓声をあげて山頂の泉にかけより、毛皮の手袋をはずして水を手ですくって飲んだ。 「いやあ、汗を流したあとの水はうまいぜ。山頂に湧き水とは珍しいな」 「ああ、ふもとの水とは味も違う気がする。鉱泉か何かだろうな。 土系統メイジで錬金も扱えるギーシュは、こうしたことにちょっとした知識がある。 「……お、見ろよギーシュ、あんなところに洞窟っぽい隙間があるぜ」 「おや。言われてみれば、ただの岩の隙間とは見えないな。ではサイト、調べに…… 峨々たる岩壁に黒い口をあけた洞窟から、悠然とした足取りでそれは二人の前に現れた。 二本足で歩く、等身大のゴジラの着ぐるみのようなものが出てきたのだった。 《十エキュはそれぞれこの箱の中に入れてくれ》 「「…………………………………………」」 二人ともに、痛い沈黙。 《早くしてくれ、外は寒い。ストーブの前に戻りたいんだ》 「……なにこの妙に固太りした直立歩行トカゲ、異様に雄弁なアイコンタクトしてくれるじゃねえか…… 「……ぼくに訊かないでくれるかね? そもそもこれは竜なのか? 《疑うとは失敬だな。我々竜族には、さまざまな種類がいるのだよ。私はいまや絶滅寸前の古代竜の一種だ》 16 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:46:28 ID:5gmiWgR4 「いや、それにしてもこんなのはふつう存在しないと思うのだが……まあいい。 《うむ、私のことだ。残念ながら人間から挑まれることは多い。 「いや、賞金がついてるってことは、なにか悪事をはたらいたんだろ?」 《下界でなにかした覚えはないのだがね。しいていうならここに住んでいることが、ここら一帯の領主の気にさわるのだろう。 人の貪欲さを心底嘆くようにため息さえ混ぜ、しみじみ語る怪しい竜。 「……ちょっと二人で相談してていいか?」 《かまわんよ。客人の前で失礼だが、私はそのあいだ我が家のトイレで用をたしてこよう》 怪竜が箱を地面に置き、のたのたと離れていく。 「なんか変な展開になってきたが……サイト、こいつ悪い竜ってほどの存在には思えんな」 「うーん、しかし金がな……だいたい一人十エキュ払えという要求が腹立たしいし、下の結界みたいなアレ、来るもの拒まず去るもの逃がさず方式ってのがひっかかる。 二人が今後の方策をさぐっている間に、怪竜は泉のふちに立っていた。 泉の中に。 17 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:47:10 ID:5gmiWgR4 フンフフフンフンフーと鼻歌でリズムを刻みながら立小便する怪竜の背後で、体を折って先ほど飲んだ水をげぽげぽ吐き出している二人。 「キサマそんな美しい泉になんてことをしてるんだアァァッ!」 怪竜は放物線をかいて小便を泉に注ぎいれながら、背をむけたまま肩越しに横顔を見せ、ふっとおのれの美意識に陶酔する漢の笑みをもらした。 《この上もなく美しいものをあえて貶める……そこには大いなる愉楽があると思わんかね?》 剣と杖をひきぬいて、才人とギーシュが地面から立ち上がった。 「サイト、いままさに邪悪を見た」 「ああ、この外道は断固としてこの世から誅滅されるべきだぜ」 あの山道を上りきった旅人なら真っ先に口をつけずにいられない泉が、竜のトイレ。 《なにやら君たち、興奮しているようだが……手に尿がひっかかったら困るから、今は騒がないでもらえんかね。 「ほう……貴様は自分の小便じゃなくて血で汚れることになりそうだぜ……」 《まあ、慌てるな。 「この期におよんで、誰が払うか!」 18 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:47:55 ID:5gmiWgR4 洞窟の中は広かった。いかな業によってか、洞窟内を構成する岩には整然たる配置がなされており、空間は部屋のように区切られている。 《ではルールを説明させてもらう。 岩をくりぬいて作られた炉は赤々と燃え、暗がりを照らしている。 《ただし、同じ勝負方法は二度は出さないように。それと、出来れば暴力沙汰ではなく、紳士的なゲームをしたいと思うのだがね。 「な、なんか調子が狂う…… 《無論、シールドは無条件で解除する。土地権利書を渡し、宝もつけよう。 ふむ、とギーシュが周囲を見渡してうなずいた。 「サイト、まずぼくが行かせてもらおうか。チェスやカードゲームのたしなみはそれなりにある」 「……頑張れよ」 ………………………… 一時間後。 《私は敗北を知りたいのだが、だれもそれを教えてくれない》 怪竜がそんなふうに語る遠い目をして、炉に薪をくべている。 19 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:48:32 ID:5gmiWgR4 「なあギーシュ……最初からなんだかオチは読めてたけどさ、ことごとく開始数分で惨敗はないだろ? 「ち、違う! あいつが強すぎるんだッ!」 《うむ、種としての優越はいかんともしがたいな。私の優秀さを許してくれたまえ》 「くっ、淡々と語られる分だけ非常にムカつくね! 着ぐるみかと見紛うふざけた外見しておきながら!」 「まあギーシュ、言われても仕方ないだろ。ここは俺にまかせとけ」 才人はさっくり水精霊騎士隊長を切り捨てると、ギーシュに代わり卓をはさんで怪竜の前にどっかと腰をおろした。 「たずねておくが、勝負事ならなんでもいいんだな? たとえば、あんたが知らないゲームでも」 《うむ、事前にゲームのやり方を手抜かりなく教えておいてくれるならな》 結構だぜ、と才人はにんまりした。 「将棋、ってやつを教えてやるよ」 ………………………… さらに二時間後。 《ふむ、どれもなかなか完成度の高いボードゲームだったな。感謝しよう、知識が増えた》 メモメモ、と紙に羽ペンで詳細をしたためている怪竜。 生ゴミにわいたウジを見る視線で、ギーシュが床の才人を見下ろした。 20 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:49:45 ID:5gmiWgR4 「なあサイト……自分が教えたばかりの、相手は初めてするゲームで負けているきみはなんなのかね?」 「ま、待った、あいつが尋常じゃねえんだよ!」 二人の低脳の言い争いを見ながら、怪竜が簡単すぎるとばかりに首を振って言った。 《これで終わりかね? こっちはそろそろ午後もまわったし、夕食の仕込みにとりかかりたいのだが。 「がーッ! やめだやめ! こんな小細工、ぼくの性に合わん! ギーシュが開き直った。 「そうだな。ここは実力行使させてもらうぜ」 デルフリンガーをあらためて抜き放った才人を見て、やれやれと怪竜が首を振った。 《けっきょく暴力沙汰かね……これも下等種族の野蛮な気質ゆえか。 その言葉と同時に、卓の横の見るからにうさんくさいボタンをぽちっと押す。 《まずどちらがやるのかね?》 「…………いろいろ言いたいんだが……」 《気にするな。先住魔法の応用だ》 「嘘つけや! ち、違う、もう気にしたら負けだな…… 《当然だろう。これは私専用の武器だ。いい具合に手加減がきくので愛用している》 21 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:50:29 ID:5gmiWgR4 ここまでナメられては黙っていられない。 ………………………… 「あ……ありえない……ありえない……なにがありえねえって、肝臓打ちからガゼルパンチ、とどめにデンプシーロールとかあの短い手足でコンボ繋げてくるところがさ……」 「サイト、サイト!? おいしっかりしろ、うわぁ目が死んでる!」 《揺らさないほうがいい。若人よ、これを糧として成長するのだな。 ぼろぼろになってリング外にずり落ちた才人に、リング上の勝者が悠然と声をかけた。 「おまえみたいな竜がいるかぁぁぁッ!」 ブレスも魔法もなし、怒涛の拳ラッシュ。 《で、次は君がやるのかね? 素直に敗北を認めたらどうかと忠告するが》 「く! ……く、こ、この、貴族のぼくが、戦わずに引けるものか! ギーシュは額に汗をにじませて要求した。 「外で勝負させてもらおう!」 《うむ、それでも構わん》 あっさりと受諾し、怪竜はギーシュのあとについて洞窟の外に出る。 22 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:51:10 ID:5gmiWgR4 「来たまえ!」 《うむ。では私もブレスを使わせてもらおう。un》 がしゃこん、と謎の音がして、怪竜が空に両手をさしあげてポージングした。 《deux》 深呼吸のように腕を広げ、くるくると回転しだす。不気味すぎる光景に、ギーシュがどん引きしている。 《trois》 ワニのような尻尾をピンと上げ、急加速でコマのように回転が速まっていく。 ジェノサイドエクストリィィィム 膨大なエネルギーが、その口から奔騰する怒涛となって解き放たれる。 「降伏しよう」 「お……おい、ギーシュ……」 「なあサイト」 ギーシュは洞窟の入り口で倒れている才人のほうを見て、気まずそうに咳払いした。 「ここはその、なんだ、捲土重来を期すしかないだろう。 才人もうめいたきり、言葉が出てこない。 23 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:52:04 ID:5gmiWgR4 《降参かね。ふむ、賢明な道だ。 「あー、はいはい……つっても手持ちは七十エキュもねえからな」 《いや、金ではない》 怪竜は妙に力強くそう言うと、泉の岸辺の大岩に腰を下ろす。 《というわけで、や ら な い か》 「「……はい?」」 《代償は私との同衾なのだが。こう見えても健康な成体らしい欲求を持っていてね。 「え? なに? なにを言っているんだ? あんたメスだったのか?」 《いや、私はゲイだ》 「ぎぎぎぃやあああああああアアアアアァァアァッ!!! アッーーーーーー! 「なあサイト、不思議だな。あいつの開いた自分の皮の向こう、いくら目をこらしても、もやがかかって見えないんだ。 「ギーシュ現実に帰ってこい、全部同意するがそこらへんはもうどうでもいい! 《言っておくが、プレイでは私が入れる側だぞ》 「聞きたくねえッ!!! ギーーシューー!」 阿鼻叫喚。 24 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:52:51 ID:5gmiWgR4 《ふむ、あきらめの悪いことだ。まあよかろう、楽しみを先に延ばしておくのも悪くはない》 余裕をもって、怪竜はそれを受け入れた。 「なあ、いまのは『一対一』であって、『チーム戦』じゃないよな? ガンダールヴは本来、詠唱中のメイジを守る存在なので、チーム戦が本領という部分はあながち嘘ではないが、それにしてもひどい屁理屈だった。 《まったく、わがままな子供たちだ。しかし鷹揚は美徳というのが私の信条なので、受け入れよう。 才人とギーシュは血をケプッと吐いた。 ………………………… 《対戦している相手にも、ひとり一食二十エキュで手作りの料理を提供することにしている。 「やっぱりボッタくるんだな……遠慮する」 夕食タイム。 日が沈む直前あたり、才人たちを訪ねてきたという客人があった。 徒歩でえっちらおっちら登ってきたらしいその騎士は、疲労困憊して泉の水をガブガブ飲んでいた。 「女王陛下じきじきの命でござる。 25 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:53:26 ID:5gmiWgR4 そこまで語りその騎士は、声をひそめて杖をにぎった。 「助太刀の必要はありそうですな。それがし風竜に乗ってここまで来たのですが、どうも竜が嫌がって寄り付こうとせぬのです。やむをえずふもとから歩いて参りました。 ああ、あの野郎はじゅうぶんに邪悪だよと思いつつ、才人は「ちょっと待って」と手をあげてさえぎる。 「ありがたいんだけどさ……あんた、どんなことでもすべて陛下に報告できちゃう人ですか?」 「無論です。お疑いとは心外な! 「どうするサイト? 手を貸してもらうかね?」 「しかしだな……それでも負けたときのことを考えてもみろ。考えたくもないが、俺たちが貞操を失わざるをえない場合だ。 ルイズやアンリエッタに知られる。下手するとそれ以外の連中にもれないとも限らない。 「……お前、モンモンや水精霊騎士隊員、ひいては学院中にことの次第が伝わることを想像してみろ」 「……五回は死ねるな」 けっきょく、報告の手紙を持たせて帰すことになった。 《援軍とかが来たら、さすがに私も手に余る。 尋常じゃない脅し方をされた。当たり前だが人生初体験の脅し文句だ。 《できれば敗北を受け入れてもらい、合意のもとで話をすすめたいのだがね。 26 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:54:13 ID:5gmiWgR4 「え、援軍は呼ばんから安心したまえ……」 それも検討していただけに、二人そろってガマのごとくあぶら汗を流す。 「どう報告したもんかね」 「事実を書くしかねえだろ。ただし詳しいところは徹底的にぼかせ。 しかし何という窮状だ、と二人は重苦しくため息をついた。 「おなかすいたのねーーー! なにか食べさせろなのね!」 ん? と二人はそちらを見た。 《君たち以外の挑戦者だ。チェスで相手していた》 声は近づいてくる。 「干した果物も乾パンもチーズも全部食べちゃったのね! はやく帰りたい!」 「勝たないかぎり、帰れない」 「じゃあ勝つのね! いつまでチェスやってるつもり!? 一手一手に信じられないほど長考しちゃって!」 そこで岩の仕切りの陰から、会話している者たちが姿をあらわした。 「タバサとシルフィードじゃねえか」 「きゅ、きゅい。なんでサイトとギーシュさまがいるのね?」 シルフィードは人型。あっけらかんと全裸である。そんな場合ではないが、ついつい男二人の視線が上下する。 27 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:54:58 ID:5gmiWgR4 《水はタダだ。君たちも遠慮なく飲みたまえ》 怪竜のアイコンタクトを無視して、才人はタバサのそばに駆け寄った。 「おいタバサ! おまえなんでここに」 横顔で沈黙。 「希少本の代金の分割払いと、使い魔の食費が……」 「…………おまえも大変なんだな」 「あと、叡智ある古代竜の一種を見てみる気になった。のだけれど」 そこについては、もはや互いに語る気になれないのは同じらしかった。 「勝てそうか? チェス」 「非常に厳しい」 才人の口から絶望の吐息がもれる。 「なあ……俺たち共闘したら、勝てるかもと思わない?」 眼鏡のフレームを炉の火に輝かせて、タバサはうなずいた。 「ひとつ思いついたことがある」 \\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\ 数刻後、王都トリスタニア。 燭台の火の下で椅子に腰かけて、女王陛下は真剣な顔でギーシュのしたためた手紙を読んでいた。 28 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:55:44 ID:5gmiWgR4 【身どもの安否を気にかけていただき、まこと恐悦のきわみ。 アンリエッタはそこまで読み終え、額に片手をあてて手紙から顔をそむけた。 「おお……」 悲痛な嘆声がもれる。 「サイト……きっとわたしが怒りすぎたからこんなことに……」 悲嘆にくれる少女たちを痛ましげに見ながら、夜っぴて風竜を飛ばし、いそぎ報告をもたらした騎士が感にたえぬというような声をだした。 「彼らはまさに勇士です。それがしの手助けも断りました。 わっとルイズが泣き出し、ついにひざまずいてアンリエッタのひざに顔をうめ、涙にくれる。 「ありがとうございます。任務ご苦労でした」 騎士が退出したあと、こらえかねたようにルイズが痛々しく涙声をもらした。 「サイト、ああ、サイト……姫さま、わたしどうすればいいのか……黙って出て行くなんて思わなかった、竜退治なら一緒に行ってあげたのに。 火影ゆらめく室内、アンリエッタは椅子から降りてルイズのそばに自らもひざまずき、そっとその肩に手をかける。 「あなたのせいじゃないわルイズ。彼らを信じ、無事を祈りましょう。 「姫さま……」 29 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:56:39 ID:5gmiWgR4 夜明け前の寒々とした空気の中、二人は冷気と心痛を払おうとするかのようにひしと抱き合った。 【ただ一つのみ乞う、料理人数名を至急派遣されたし】 \\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\ 日が一巡し、山頂はまたしも夕方。洞窟の中。 怪竜と向き合い、石の卓上のボードを見つめるタバサ。その冷たい瞳の奥で、膨大な量の思考の火を燃やしている。 思索の激突を横から見守る三名は、それぞれに追い詰められた表情であった。 もはやタバサの策にすがるのみ、と二人は思いさだめていた。 と、タバサがなにかを思い切ったように顔をあげて、ぴしっと一手打った。 《チェックメイト》 「ああ……」 頭をかかえる才人たち。たった今タバサの敗北が決定したのである。 《うむ、なかなか筋がよかったと言っておこう》 シーハーと楊枝で歯についた夕食の食べカスをせせり、実に憎たらしい態度の怪竜。 「きみ男色趣味じゃなかったかね? 彼女は女性だぞ、代償なんて払いようもあるまい」 《基本はそうだが、選り好みはしない。 30 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:57:55 ID:5gmiWgR4 いろいろ最悪なアイコンタクトが帰ってきた。 《それに彼女の体は起伏が無いので少年に見えなくもないからな。まあ許容範囲だ。 何がイヤって、悪意ではなく本気でそう思っているらしいことである。 《うむ? また誰かふもとのシールドに近づいたな。これはしたり、昨日の騎士ではないか。ほか数名を竜に乗せている》 才人とギーシュに顔を向けてくる。二人はあわてて手をふった。 「援軍なんて頼んでないぞ!」 「そ、そう、あの騎士さんが連れてるのはたぶん料理人だ!」 《料理人?》 怪竜が疑わしげに首をかしげる。 「あなたに次の勝負を申しこむ。明日の昼。 《ほう。別にかまわんぞ。して種目は? 実力行使かね?》 自然な余裕をたたえている怪竜に、タバサは冷然とした瞳を向けて言い放つ。 「大食い勝負」 ………………………… さらに翌日の正午。 31 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:58:31 ID:5gmiWgR4 けっきょくふもとで泊まった料理人たちが、大量の食材を人足に運ばせて朝からえっちらおっちら山頂まで歩いてきた。 朝から組まれたいくつもの石の炉には大鍋や網がかけられ、地元で屠られた山羊や豚、鶏やウズラが野菜やハーブとともに、種々の調味料で料理されている。 「はやくそれをシルフィに食わせるのねぇぇぇッ!!! もう生でいいのね!」 「シルフィ! おいこらコックさんに襲いかかるんじゃない! タバサこいつを止めろ!」 一昨日を最後になにも食べていないシルフィードが、血に飢えた竜と化している。人型ではあるが。 「双方一枚ずつ同数の皿を空けていき、食い倒れるまで続けられる大食い勝負か……これなら勝てそうだな。 さらにタバサの指示で朝早くに起きて、最後に残ったビスケット二枚を、人間三人で分け合って食べている。 《うむ、熱いカラメルソースをドーナツにかけたものがデザートか。寒い日にはありがたいな。 完全に余裕ぶっこいている。沈黙するギーシュに、タバサははっきり言った。 「楽観は禁物。死ぬ気で食べること」 やがて太陽が西にかたむき始めたころ、泉のほとりの(料理人たちは知る由もなかったが、事情を知る者には実にいやな場所だった)巨大な平べったい岩の上に、料理の皿が並べられだした。 《車がかりで一人ずつ戦おうというわけかね》 「ああ、卑怯とかいうなよ。さっさと食い倒れやがれ」 《残念だが、君たちが私の倒れる姿を見ることはないだろう。 32 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01:59:21 ID:5gmiWgR4 軽く応酬したあと、一皿目に取り掛かる。まずはクレソンとチコリと生ハムのサラダ。 二皿目はタマネギとウズラの串焼き、岩塩と粗びきの胡椒で味をつけたもの。 三皿目は子牛のコンソメスープ、ごろごろと茸を入れて。 正式なコース料理というわけでもなく、そこからはわりと乱雑に、野趣あふれる肉料理主体の皿が並ぶのだった。 四皿目。鴨肉のコンフィを直火でパリッと焼き上げたもの。 五皿目。子羊の骨付き肉。クローブと蜂蜜のソースがかかっている。 六皿目。同じくラム肉。薄切りにしてさっとあぶったもの。大皿に敷きつめられて出てきた。 七皿目。カラメルソースを添えた子豚のフランベ。 「ぐ、うぷっ……」 キツい。 八皿目。ヤツメウナギのパイ。 九皿目。ここで果物。白ワインで煮た梨。 十皿目。鳩の蒸し焼きが一羽丸ごと。 十一皿目。大麦と山羊肉のシチュー。 十二皿目。またパイ。濃厚なクリームシチューのパイ、若鶏と蕪が具。 ……そこで才人は倒れた。 《一人目リタイアかね?》 「次はぼくだ! さあ、サイトさっさと卓から離れたまえ!」 33 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 02:00:09 ID:5gmiWgR4 飢狼のような勢いで、ギーシュがナイフとフォークを取る。 ………………………… 二十六皿目。腸詰めとチーズ各種を盛り合わせたもの。 「ぐ、ぐおお……胸焼けが……死ぬ……」 「アホめ、毎年詰めこみすぎで死ぬ貴族が何人か出るという話を忘れて、ろくに噛まずがっつきやがって……ゲプ、ざまあみろ」 転がって力なくののしりあう二人に、タバサがぼそぼそと言った。 「噛めばはやく満腹してしまうから、この際は丸のみしてくれたのがありがたかった」 じゅるじゅるよだれを滝と流しながら、麻縄で縛られて転がされているシルフィードが絶叫した。 「お姉さま、つぎはシルフィなのね! 早く今すぐ即刻これをほどけこのちびすけ! 《次はどちらかね?》 「わたし」 「キサマァァァァッ!?」 淡々とナイフとフォークを手に卓についたタバサに、シルフィードがすさまじい怨念のこもった声をなげつけた。 「お、落ち着けよシルフィ……それ主に向ける目じゃねえぞ」 「ガフッ……ガフッ……グルルルルゥ……」 使い魔の殺意さえこもった視線をガン無視し、もぐもぐ咀嚼している青髪の少女。 34 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 02:01:03 ID:5gmiWgR4 怪竜のほうは。 《次のメニューは鶏胸肉のソテーか。では今度はそちらの白ワインをもらおうか。 上機嫌で料理人と目で会話していた。 やがてタバサの無表情に、わずかながら苦しげな色が混ざりだす。 《ふむ、それで終わりかね?》 顔色も変えていない怪竜の問いかけに、静かに口を押さえてうなずく。 「シルフィード。行け」 「だったら今すぐほどけえええええ! ふざけんじゃないのねお前いっぺん本気で噛むのね! 「ひ……人はやめようぜ……」 才人がよろよろと立ち上がり、シルフィードの縄をほどいてやった。 「キュィィィィ! ニク! ニク!」 ど、どうぞ……と怯えながら、給仕役もつとめる料理人の一人が皿をシルフィードの前に置こうとした。ちなみにメニューは牛のカツレツである。 《はしたなくがっつくな、韻竜よ。同じ竜族として恥ずかしいぞ》 「やかましい! 自分だけさんざっぱら食っといて、客に食事も提供しない没義道なやつに言われたくないのね!」 というわけで最終戦。竜VS竜。 35 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 02:02:07 ID:5gmiWgR4 タバサの指示により、料理人たちはかなり量が多く大雑把な肉料理をかたっぱしから急ペースで出していく。 ソーセージと卵を炒めたもの。 牛の腰肉ぶつ切り塩胡椒まぶし焼き。 鶏のコンフィをそのまま冷やし肉として提供。 豚の塩漬けをキャベツと一緒に煮て出す。 羽をむしったウズラをまるまるパン粉で頭から揚げる (適当)。 どう見ても生焼けの子豚丸焼き(時間足らず)。 山羊の後ろ脚を一本まるごと火であぶったもの(超適当)。 シルフィードは食べた。すべてを平らげた。皿まで舐めんばかりにして余さず胃におさめていった。 ようよう立ち上がった三人は、この熾烈な食物消費戦を見ている。 「シルフィよく食うなあ……タバサ、お前これいつから考えてたんだ? これで負けたらさすがにもう思いつかない。 むろん常人にはおよびもつかない領域まで食い散らかした後ではあるが、日が沈んでゆくのにあわせるように、シルフィードのペースが着実に落ちていった。 「ま、まずくないか……」 だんだん手を止めて空をあおぐことが多くなっていったシルフィードを見つつ、ギーシュが懸念のつぶやきをもらす。 36 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 02:03:21 ID:5gmiWgR4 シルフィードのために言っておくと、彼女は彼女なりに食欲だけでなく、主たちに勝利をもたらすために意志をもって限界まで戦ったのである。 「も、もう、なんだかダメっぽいのね……」 いまにも石の椅子からすべり落ちそうにのけぞって、シルフィードはギブアップを口にした。 「まだ頑張れるはず」 「ムリ……お姉さまのために、ゲプ、頑張ってみたけれど、もう食道まで詰まってる気がするのね……」 《あ、そこの君、頼んだデザートの調理に取りかかってくれたまえ。お茶もな》 怪竜がさっそくデザートを注文している。 「そこの肉は全部あなたの、向こう三ヶ月分の食材」 きゅい? とシルフィードが首をひねった。 「まさかこれを最後に、三ヶ月肉抜きって意味?」 タバサはうなずいた。 「ちょっ――どういうことなのね、それ!?」 恐慌をきたした使い魔に、彼女は説明する。 「今日のためサイトたちから借りてまで食材を買い占めた。 「い……今までバカスカみんなが食ってたこれが、シルフィのごはん……?」 タバサはうん、と再度首肯し、とどめに卓上を指差した。 「今のうちにいっぱい食べる」 37 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 02:04:13 ID:5gmiWgR4 「お、おおおおお……覚えてるがいいのねーーーッ! 絶対ろくな死に方しないのね! 「勝てば食費が手に入る。たぶん」 ぐああああッ! とシルフィードはテーブルに覆いかぶさった。 《……続行するのか?》 「黙るのね! シルフィのお肉さんざん食べやがって! みんなあの冷血ご主人と貴様のせいなのね!」 滂沱の涙を流しながら、仇のようにふたたび料理をがっつきだす。 やむなくシルフィードにつきあって食べ始めた怪竜の腹のあたりで、ビリ……となにかが裂ける音がひびいた。 《……いかんな。物理的に限界が来た。 「つまり表皮が破れたんだな、それでなければまだ食えるってどんだけ胃袋のほうは伸びるんだよ……」 「なあサイト、突っ込みどころはそこか? しつこいかもしれんがあれはどう考えても着ぐるみじゃないのか?」 《やむをえまい。決闘は勝敗いかんにかかわらず優雅に、がモットーなのだ。 「どうあっても竜で押し通すつもりのようだぜ」 「さっき突っ込んでおいてなんだがね、ぼくはもう気にしないことにするよ……とにかく勝ったらしいから」 ………………………… 次の日。 38 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 02:05:14 ID:5gmiWgR4 約束どおりシールドを解除し、怪竜は去った。 「どこに宝があるんだ」と才人たちが文句を言ったとき、怪竜は洞窟外の泉を指差した。 《美しい泉だろう》 「……それが?」 《宝の価値はある》 「おいてめえ…………」 《もぐってみたまえ。ではさらばだ》 「だ、だからここはキサマの……!」 そんなてん末。 「岩山の権利書は、この山に勝手にすみついたあの悪竜が、討伐に向かった数代前のご領主さまを捕らえて身代金がわりに強奪したものなのです。 賞金だけで満足しなさい欲深なガキ共が、とその使いの目が語っている。 「冗談じゃない。こっちは危険を冒してたんだ、そうだろうサイト」 「ああ、たぶんあんたらの想像以上にな」 少年たちの横で、タバサが使いの目をみて言った。 「観光事業?」 39 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 02:05:56 ID:5gmiWgR4 な、なにを馬鹿な、と男が思い切り狼狽した。おそらく図星であろう。 「悪いが、こっちも金は入り用なんでな……この岩山はどこかの物好きに売って、二組で分配するつもりだ」 「そ、それはなりません。ええい、このがめつい奴らが。 「どのくらい? 十倍?」 「気でも狂いましたか? いいとこ二倍」 「じゃ、別のところに売る」 「チッ……三倍」 まだまだもう一声、と喧々諤々の値段交渉が続く。 「まったく、あなたがたのような連中は、貪欲の大罪によって始祖ブリミルに裁かれますよ。 「「「絶対やらない」」」 |
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