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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:50:52 (5617d)
212 名前: ホワイト・クリスマス ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日: 2007/12/24(月) 21:47:52 ID:5OEhdsxl
どかぁん!
冬の大気を劈いて、爆発音が平和なトリステイン魔法学院に響く。
なんだ、またルイズが使い魔にお仕置きしてんのか、と生徒たちは思った。
しかし、それは正解ではなかった。
爆発の中心にいたのは確かにルイズだったが、そこには件の黒髪の少年はいない。
桃色の髪の少女はいましがた爆発音とともに吹き飛んだオーブンの鉄の扉を、呆然と見つめた。
そして言った。
「そうよ、おかしいのはオーブンのほうよ!」
「おかしいのはアナタのアタマですミス・ヴァリエールっっ!」
シエスタの容赦ないツッコミが、荒れ果てた厨房に響き渡った。
事の発端は才人の話。
調子っぱずれのジングル・ベルを鼻歌に、ゼロ戦を磨いていた才人に、ルイズがその曲ナニ、と尋ねたのだ。
才人はクリスマスに歌われる曲で、ってかクリスマスってのは俺の世界の降誕祭みたいなもんで、と返す。
ルイズはへえ、面白そうなイベントね?どんなのか教えてちょうだい、と質問した。
才人はえっと、サンタがな、プレゼントがな、恋人達がな、食事がな、ケーキがな、といくつかかいつまんで説明した。
ルイズはその回答から、『くりすます』は恋人達が一緒に食事を楽しんだ後、贈り物をしあうイベントなんだと理解して。
そういえばこの間見せてもらった夢もそういうのだったわね、などとあの夜を思い出し。
そして、とんでもない事を思いつく。
こっちでも『くりすます』やったら、サイト大喜びなんじゃないか、と。
そんでもってそんでもって、私の手作り料理とケーキを振舞われたりなんかしちゃったりして、贈り物なんかされたりしちゃった日には。
もうメロメロのヨロヨロなんじゃないの?
そして、ルイズは行動に出る。
いーい、夜になったら大人しく部屋で待ってなさい!約束だかんね!絶対だかんね!と言い放って、厨房に走った。
そしてこの有様である。
「どーして鳥の丸焼きでオーブンが吹っ飛ぶんですかっ!」
「し、知らないわよ!このオーブンが脆弱すぎるのよ!ちょっと火薬で火力上げたくらいで!」
「…今、なんと?」
「だから火薬よ!表面をパリっと仕上げるには火力がいるでしょ!そこで私はこの黒色火薬で」
こぉん!
「いったぁ!ちょっとシエスタ、おぼんでチョップはないんじゃないの!」
「どこの世界の魔王ですかアナタは!鳥を焼くのに火薬なんか入れたら爆発して当然です!」
「ちょ、ちょっと待ってよ、『料理は火力が命』が基本じゃないの?だから私は火力の増強に」
すっこぉん!
「いったぁぁぁぁぁ!二度もぶったぁぁぁぁぁぁぁ!」
「火力の意味が違いますっ!だいたいそれは仕上げの話です!最初は弱火でするのがですねえ」
「私の辞書に弱火の文字は」
かっこぉん!
その寸劇は、マルトー親父が見かねて止めるまで、えんえん続いたのだった。
213 名前: ホワイト・クリスマス ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日: 2007/12/24(月) 21:48:18 ID:5OEhdsxl
そして夜。
結局ルイズは料理もケーキも準備できず。
手元に残ったのは、クリームの壷だけ。
厨房の出入り禁止を食らったルイズは、いろいろ試行錯誤はしてみたものの、結局上手くいかなかった。
オーブンなしではスポンジも作れない。
厨房が使えなくては果物も切れない。そもそも料理が出来ない。
「…きっと、見えざる神の手か何かが働いて、私を邪魔しているのだわ」
才人の待つ部屋の前でそんなふうに独白しながら、ルイズはため息をつく。
クリームの壷だけをかかえて、どうしようかしら、と考え込む。
そして閃いた。閃いてしまった。
ルイズはきょろきょろと廊下の左右を確認する。
よし誰もいない。
ルイズは手早く服を脱ぎ去る。下着も脱ぐ。
黒いオーバーニーだけ残して全裸になると。
身体の各所に、クリームを塗りこめはじめた。
そう、このテだ。
作戦名、『私がクリスマスプレゼント♪食べて食べて私を食べて♪』作戦である。
そう、あの絶倫使い魔のコトだ、マントをはだけて『私をた・べ・て』なんて言った日には、問答無用で襲い掛かってくるに違いない。
でもって、『これが私からのクリスマスプレゼント♪』なんて言った日には。
もうメロメロのヨロヨロのボロボロなんじゃないの!?
ルイズはなるたけ扇情的に見えるようクリームを塗り終えると、マントを羽織り。
愛しい使い魔の待つ部屋のドアを、開けたのだった。
「…あ、あの、シャルロットさん?」
「…たべて」
「はい?」
「…わたしを、たべて」
開けた先では、タバサが才人に向かってマントを広げて前を晒していた。
その白い肌には、黒いチョコレートソースでできた奇妙な文様が、わざと女の子の特徴を際立たせるように、塗られていた。
おなかの部分には、臍を避けるような楕円の位置に、スライスされたイチゴが並べられていた。
これぞ料理名『シャルロットのチョコレート風味・イチゴ添え』である。
「くぉらチビっこなにやってんのよぉぉぉぉぉぉ!」
ルイズの問答無用のラリアットがタバサをベッドに沈める。
一瞬で敵を判別したタバサが、関節を極めようとルイズに絡みつく。
させるものか、とマウントを取りにかかるルイズ。
期せずして始まったクリームとチョコまみれのキャット・ファイトに、才人は興奮を隠せない。
ヨダレを垂らして魅入っていた才人ははっと気付く。
「ちょ、お前らやめろって」
しかし、近寄ろうとした才人を、ちょうど両者が伸ばした足が蹴っ飛ばす。
イイカンジに顎に入った両足で、才人は一撃でダウンする。
しかし二人は気付かず、そして戦いは魔法合戦にまで発展する。
その戦いは傍らで気絶する才人を当然の如く巻き込み。
才人は一週間ほど、絶対安静を言い渡されたのである。
それ以降、彼が『クリスマス』について詳しく語ることは、ついぞなかった言う。〜fin