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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:51:52 (5637d)

それは蒼から始まった物語 (4):集いし少女達(と書いてライバルと読む) 1  バレット

ハルケギニアでは、丁稚奉公というものは珍しくない。
とは言うものの働く先は商店などではなく、主に金持ち――その大体が貴族でその屋敷の使用人、いやむしろ雑用役みたいなものとして出稼ぎに来るが多数である。
とりあえずそういう小難しい事は筆者には色々苦手なので途中は省く。

まあとにかく言いたい事はだ、タルブ村の農家の長女である黒髪の彼女、シエスタも遂に出稼ぎする事になった訳で。
彼女の働く先はなんと貴族の子女子息が多数過ごす学び舎、トリステイン魔法学院なのであった。

とりあえず先輩がたへの挨拶もそこそこに、メイド服に着替えた彼女。同世代の中じゃ頭1つ抜き出た胸部装甲が中々目立っている。
最初の仕事は何かというと、新たに入学してくる生徒達への対応である。正確には、彼らが持ち込む荷物を寮へと運ぶという物。
その量は半端無い。なにせ家で使っていたベッドごと馬車に乗せて持ってきた猛者が居るほどだ。というかそんなのが大半だ。
服の詰まったトランクらしき物も大きさと重さはかなりの物だが、農家の娘を舐めてはいけない。こう見えても力仕事はバッチコーイなシエスタだった。

まあそれでも、いつかは限界が来る。

女子寮の一室へとトランクを徒歩で1人運び上げていたシエスタだったが、
これが何個目か数えるかも億劫になるくらいの重たいトランクを抱え上げていた腕は、秒刻みで力が入らなくなっていた。

「お、重たい・・・」

しかし休む訳にはいかない。もし誰かに見つかれば――あまつさえそれが貴族の誰かであれば良いとこ初日でクビ、悪ければ家族まで責めが向かうかもしれない。
極端な話だが、ありえないと言い切れないのがまた恐ろしい。
なんせ何も悪い事をしなくても、貴族の気まぐれであっさり首を吊られかねないのがこの世界。

ぐらり、とバランスを崩して、トランクごとシエスタの身体が後ろへ傾く。
石で出来た階段、それも重量物もろとも転げ落ちるのは非常に危険だが、傾く体は意に反して止まらない。
そのまま少女の身体は階段に激突―――

ぼすっ

しなかった。

「おっと、大丈夫か?」

頭上の声に見上げてみれば、すぐ目の前に見慣れぬ青年の顔。
その髪の色は、彼女と同じ黒だった。

「重たそーだな。俺も運ぶの手伝うよ」
「あ、ありがとうございます!で、でもわ私の仕事ですし・・・」
「いーっていーって。そんな重たいもん女の子に運ばせんのもあれだろ?俺も自分の荷物あっちの部屋に全部運んじゃったし、暇でしょーがなかったし」

ひょい、と軽々青年はトランクを持ち上げる。そしてトランクに刻まれてあった、何処の貴族かを示す紋章を見て怪訝そうな顔をしてから溜息をついて、声を上げた。

「おーい、イザベラー!自分の荷物ぐらい少しは自分で運べよ!」

すぐに足音と共に青い髪の少女が階段へやって来た。
まごう事なき新入生らしい貴族の少女、しかも纏っているドレスの質からシエスタでもかなりの大貴族の子女だという事は理解できる。
スタイルもなんだかシエスタ以上にゴージャスっぽかった。広いおでこも何だか神々しい。
少女を見た瞬間脊髄反射で直立不動になったシエスタ、しかし一方黒髪の青年はむしろ非難するような口調で、

「あのなあ、いくらなんでも3年間ここの寮で過ごすからってどれだけ服詰め込んだんだよこれ、この子も運び上げるのすげぇ大変そうだったぞ?」
「仕方ないじゃないか、ガリア王家の子女が同じドレス使い回してる、なんて事になったら恥じゃないのさ」
「いや、それでもこれだけ重いって何着入ってんだよ・・・」
「うるさいね、それに・・・その・・・」

青い少女、何だかモジモジ。
顔も何故かほのかに赤い。

言えない。
彼にどれだけ汚されてもいい様に、だなんて・・・!
そう考えただけで、既に今はいている下着が湿り気を帯びてくる。

青の少女は頭をブンブン振って脳内で繰り広げられかけた妄想――
――しかしその内容はこっちに来る前に実際シてた事と大差無し――
――を慌てて打ち消した。しかし頬の紅潮は納まらない。青いのに紅いとはこりゃいかに。

「あー、とにかくこれお前のだろ?運ぶから部屋がどこか教えてくれよ」
「!!わ―――分かったよ!しっかり付いてきて覚えときな!」
「分かってるって・・・分かんなきゃ夜部屋に行けないしな。あ、あとメイドさんも無理しないようになー」

去っていく2人。シエスタそのまま置き去り。
去っていった方で何来て早々他の女に手ぇつけようとしてんだい!やちょっと待てそりゃ誤解んぎゃ〜〜!!とか、鉄砲水が壁にぶち当たったような音が聞こえてきたけどそれはともかく。

どうも先ほどの貴族の少女と知り合いだったという事は、彼も貴族なのかもしれない。
けれど彼は、シエスタが見てきた貴族とはどこか大きく違っていた。
気さくで、優しくて、偉ぶらなくて、ありがちな美形じゃないけど近くで見てみると味のある顔で・・・

微かに頬を赤らめながら、青年が消えて行った階段の先をシエスタはボーっと眺めていた。

「また、会えますよね・・・・・・」

・・・平賀才人、無自覚のまま学院突入数時間でフラグ1本先取。

 
 

「あー痛ぇ。イザベラの奴覚えてろ、今日の分倍返しで苛めてやるぜ・・・」

ぐっふっふっふっふ、と悪役というより変態的な笑いを漏らしながら、才人は学院を探索していた。
何時の間にかジョゼフに手配されて魔法学院の生徒にされていた彼。しかし実際はあまり怒ってはいなかった。

なにせイザベラとシャルロットにも言った通り、自分だって別れ離れになるのは寂しい。
ぶっちゃけ2人の少女の身体を知ってしまったお陰で、彼女達がいない間に本性を現した股間の息子を抑えきれるか才人自身不安だったりもした。
・・・それにハッキリとは言っていないが、異世界とはいえ再び学生生活が遅れる事も嬉しい。
周りに対して歳の差はあっても、彼女達がいれば大した事じゃない。

未だ正門から入ってくる新入生一行で賑わう中庭に出た才人は、ふと青空を見上げ。

「ん?」

近づいてくる黒点に気付いた。
それは成体の翼竜による大型の竜籠である。何だかあのデザインには見覚えがあった。
側面にはアルビオン王家の紋章。他国の王家の紋章が刻まれた竜籠の接近に、中庭の新入生達も俄かにざわめく。

「アルビオン・・・て事は、まさか」

才人は駆け出した。その間にも竜籠が正門前に着地し、竜を操っていた従者が籠の扉を恭しく開ける。
中庭に居た者達はゴクリと息を呑んだ。他国のとはいえ王家、単なる貴族とは比べ物にならない権力を持つ。
そしてこの場に居る新入生の大半はトリステイン貴族、アルビオン王家にコネを作るかはたまた国際問題を生み出すかは彼ら次第である。

乗っていた人間が、ステップに降り立って姿を晒す。

その瞬間その場を包んだのは―――――恐怖。

「エルフだ」

誰かがポツリと呟く。その場に居るほぼ全員の思考を締めるのはその単語だ。
エルフ。ハルケギニアで最も恐れられる種族。現れた少女の、その尖った耳がエルフの特徴だ。
それが、なぜここに?

顔を上げた少女の造詣は絵画のような神秘的な美しさだが、周囲はそれさえも目に入らず恐怖に引き攣った顔を浮かべる。腰を抜かしてへたり込む者も。
それに気付いた少女の顔が哀しく翳ったが、その様子さえもこの場の人間達には更なる恐怖を与えるしかなかった。
誰かが叫んだ。

「え、エルフだ、逃げ――――」
「テファ!やっぱりテファじゃんか!!」

遮られた。駆け込んできた黒髪の青年に。エルフの少女も一転して嬉しげな華やかな表情に。

「サイトお兄様!」

はい?お兄様?エルフの?何ソレ?
混乱のステータス異常に陥った場のど真ん中で、互いに相手の元に駆け寄った2人は熱〜い抱擁を交わす。
才人の手が優しくエルフの少女――ティファニアの金色の頭に乗せられる。

なでなでなでなで

気持ち良さそうに、ティファニアは目を細めて受け入れる。ソレを見た周りの反応はまさに吃驚仰天驚天動地、犬は喜び庭駆け回り猫はコタツで丸くなる程。
何でそんな仲良さげ!?つーかあいつ平民じゃないか?どうして平民がエルフと?
落ち着かないという事で貴族の証である紋章が縫いこまれたマントを纏ってないせいで、才人は新入生達から平民扱いされていた。
もっとも才人は生まれながらの貴族ではないし、才人自身貴族みたいに堅苦しく振舞うのは苦手だから仕方無いっちゃ仕方無い。

「つーかもしかしてテファもこの学院に通うのか?」
「うん。あのね、お兄様の方の王様が子供達同士で更に仲良くなろうって事でお互い同じ学校で学ぶ事にしたらしいの」
「そっか・・・あの髭親父、とことん俺に黙ってやがったな」

戻った時はあの髭モヒカン風に刈っちゃると固く誓う。恨みはらさでおくべきか!
報復を確定し、ふと胸元に当たる感触に何かと視線を下にずらし・・・目を見開いた。

「な、なんじゃこりゃあ!!」
「へっ、ど、どうかした?」

思わず太陽に吼える才人。突然の叫びにたじろぐティファニア。
視線の先には子供の頭よりも大きくマシュマロよりも柔らかくかつ弾力性のある胸。おっぱい。
デカい。着痩せするタイプのイザベラよりも明らかにデカい。
何が何だかという感じのティファニアを見、そして最後に会った時のティファニアの母を思い出す。

・・・そういえば、ティファニアの母親も負けず劣らずのサイズだったよーな。
アレか。エルフは皆規格外の特乳なのか。そりゃエルフが恐れられるのも納得だ。あのデカさには敵わないよなー。

それにしても、まあ。

「おっきくなったよな、テファ」

色んな意味で・・・ゲフンゲフン!

なでなでなで

「そうかな?」
「そうだって。最後に会った時なんか頭が俺の鳩尾辺りにあったぜ?」

なでなで

「でもお兄様は昔からおっきいままだと思うよ」

なでなで  むにゅ

「でも俺あれからあまり身長伸びてないけどな?」
「そ、そう、あ、あのお兄様・・・あっ」

なでなでむにゅむにゅ

「おにいさまぁ・・・んっ」

なでなでなでむにゅむにゅなでなでむにゅむにゅ

「あれ、どうかしたかテ・・・ファ・・・あ」

いつの間にやら右手はテファの頭の上に乗ったまま。左手はティファニアの胸にしっかりと埋まっていた。

い、イザベラよりもやーわけー。って考えてる場合じゃねー!シてる時みたいにやっちまったー!

突き刺すような殺気。振り向けば、そこには緑の髪のメガネ美女。しかしその殺気半端ねー。

「いー度胸してるじゃないか、サイト『お兄様』?」
「あ、あはは、マチルダさんも来てたの、ね・・・」
「ああそうだよ。テファに何かあった時のためにね。例えば、そう―――――」

マチルダが杖を振るえば、ずももももと土が隆起して30メイルものゴーレムを生み出す!

「アンタみたいなテファに近づく変態を抹殺するためにねぇ!」
「ノオォォォォォォオオッ!!」
「ま、マチルダ姉さん!!?」

その日、学院敷地内で数時間に及ぶガンダールヴと巨大ゴーレムのリアル鬼ごっこが繰り広げられたそうな。


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