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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:52:25 (5639d)

どきどき異端審問!(アナザー) 1  せんたいさん

厨房で生卵を三つくすねた才人は、それを丸呑みすると、ルイズの部屋に戻ってきた。

「はぁ…疲れた」

言ってベッドに倒れこむ。
今日は本当に疲れた。
流石に花の十代といえども、一日に三人を相手にすればへばりもする。
薬の効果で手助けされたとはいえ、才人は文字通り精も根も尽き果てていた。
さてそれじゃあそろそろひと寝入り…と、移った体温で温かくなったシーツの上でまどろもうとした才人の耳に、金切り声が飛び込んできた。

「いいいいい、犬ぅーっ!」

部屋の主人が真っ赤な顔をして帰ってきた。
言動と表情から、何か怒っているらしい。
才人はベッドの上で大の字、ルイズは入り口で仁王立ち。
やばいまずいこの体勢はストンピングかフットスタンプが来るぞ!
才人は慌てて大事な所を両手でガードする。
しかし。
覚悟を決めて完全ガードを決め込んでいた才人に、いつまで経ってもご主人様のおみ足は降ってこない。
才人はぎゅっと閉じた瞼をそっと開け、部屋の入り口に立つご主人様を見る。
その場所でご主人様は。
先ほどまでの怒り顔とは打って変わり、何かぶつぶつ言いながら急に後ろを向いた。
そして、大きく手を広げて…、何故か深呼吸を始めた。
深呼吸を数回して、ルイズは振り向く。
その顔からは怒りが消えうせ、代わりに貼り付けたような無表情になっていた。
ちょっと口の端が歪に歪んで、右の眉がぴくぴく動いていたが。
そして言った。

「…あ、あんたなんかどうでもいいんだからね。
 べ、別にどうとも思ってないんだから」

何が言いたいのかさっぱりである。
才人はベッドから立ち上がると、満面に疑問を浮かべ、ルイズに尋ねる。

「どしたのルイズ?」
「きょ、興味ないって言ってるの!え、えっと、なんだっけ、そう!
 そこの角で妙な黒い影に取り憑かれたりとかそんなことないんだから!」

言いながらルイズはすたすたと部屋の中に入ってきて、ぼすん!とベッドに腰を下ろす。
ひょっとして、『呪印』の事を言ってるのか?
しかし、才人は知っている。
封印から抜け出した『呪印』はシルフィードが全て回収した。
だから、ルイズのこの言動はおかしい。
ていうか、ころころ変わる表情とか、妙にきつい口ぶりとか、軽く赤く染まった頬とか、ぜんぜん『呪印』に取り憑かれた者の言動ではない。
しかしルイズはそんな才人の嫌疑の視線をものともせず、ベッドの上で足など組み替えてみせる。

「う、うんと、ああ、もう何もする気が起きないわ。
 このまま永遠に寝ちゃおうかしら」

言ってルイズはぽてり、とベッドの上に横になり、目を閉じる。
…何をしたいんだこのご主人様は。
呆れたように立ち尽くす才人と、何かを期待するように狸寝入りをするルイズの間で、きまずい空気がしばらくの間、流れたのだった。

時は数刻、遡る。

さて、授業が終わった。
礼を終えて、私はそそくさと教室を出る。
次の時間の教室に移動しないといけないし、それに。
…ちょっと、授業の合間に、サイトの顔見てこようかなー、なんて…。
い、いや別に、使い魔見たって元気になんてなんないわよ?
ちょ、ちょっとからかってストレス解消でもしようかな、なんて。
そうよ、さっきの授業でちょっとわからないところあってストレス溜まっちゃったから!そうそう!
そう考えて私は、普段から才人がよくいるゼロセンの格納庫に向かう。
…ちょっと時間ないから、裏庭通って行きましょ。
人気の全くない、日の当たらない裏庭を私は小走りに抜ける。
この裏庭にはいくつか倉庫があるんだけど、物置になってる。
基本的にいらないものを突っ込んでおく場所だから、あんまり人が来ないから、少し荒れてる。
だから、この道はちょっと不気味な雰囲気がある。
…ま、人気ないから逢引なんかにはぴったりだろうけど。
…今度サイト連れ込もうかな。…ここだったらちょっとくらい、ひっついてても誰も見てないし…。
いやそうじゃなくて!今は急がないと!
とか思ってると。
目の前の古い倉庫の扉が突然開き、中から黒髪の女の子が出てきた。
シエスタ?…じゃない、短いポニーテールに、あのトリスタニアじゃあまり見ないぴったりたズボン…。
…なんでここにあのわたあめ姫がいるのよ…。
私はとりあえず手近な物陰に隠れて姫様の様子を観察する。
すると。
その倉庫から、姫様に続くように…。
ああああああああああああああああのばかいぬうううううううううううううう!
ひ、ひとが一生懸命授業受けてる時に姫様とナニやってんのよおおおおおおおおおおおおお!
しかし、私は叫んで飛び出しそうになるのを必死で堪えることができた。
だって、イイコト思いついたから。
そーよ、この事をネタに今夜は思いっきりいじめちゃうんだから。
今どーにかしてもいいけど、それじゃあ趣ってもんがないわ。
ていうかそれじゃワンパターンだしね。
…そーよ、こないだ買ってきたクスリ使って、思いっきりイジメちゃうんだから…!
なんて考えてると、姫様が喋りだした。

「…ありがとうございました、サイト様」
「いや、無事で何よりでしたよ」

…?何のこと?
よく意味のわからない会話に、私は耳をそばだてる。

「でも、そんな変わった生き物が実在するんですのね」
「…俺も最初は冗談だと思ってましたけどね」

…イキモノ?
余計訳が分からなくなってきたわね…。

「あ、でも、サイト様が助けてくださるならまた取り憑かれてもいいかも♪」
「…カンベンしてください…そのたんびにシルフィードの馬鹿に付き合わされるんですよ…」

…やっぱりかあの馬鹿犬わあああああああああああああああ!
…ん?でもチョットマテヨ?
その何か妙なイキモノに取り憑かれると、サイトに何かシテもらえる…。
んでもって、それはタバサの使い魔が関係してる…。
私はとりあえず二人を吹っ飛ばすのはまた今度にして、タバサの使い魔を捜しに行くことにした。

「へ?取り憑くイキモノ?
 『呪印』のことなのね?それならあと1匹で最後なのね。
 でももう他の子に取り憑いてるから全部封印できるのもすぐなのね。
 え?ナニ?どういうイキモノなのかって?
 うんとね。『呪印』は人に取り憑いて魔力を食べる生き物なのね。
 取り憑かれた人は心が動かなくなって廃人になっちゃうのね。
 その前に興奮させてもらって身体から追い出さないとダメなのね。きゅいきゅい」

なるほど。
ルイズは納得した。
つまりは、才人はその『呪印』からアンリエッタを助けるために、あそこにいたのだ。
…しかし、興奮させるとは何事。
まあ、その辺は詳しく後で全部まるっと聞かせてもらうことにして。
ルイズは決心する。
『呪印』に取り憑かれたと狂言をぶちあげて、才人に悪戯させる。
そして。
そのあと、『おさまりがつかなくなった』とか何とか言って…!
そんな妄想ににやにやしていると、風韻竜からツッコミが入った。

「…その顔キモいのね」

次の瞬間、風韻竜の顔に、ルイズの拳がめり込んでいた。

つづく28-484


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