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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:52:44 (5645d)

それは蒼から始まった物語 (6):ダブルフェイス 1  バレット

拝啓、遠い遠い異世界に居る父ちゃん、母ちゃん。
今俺、唐突に拉致られて空の上にいます。問答無用です。

 

「で、とりあえずまずは一体何処に向かってんのか教えて下さいませんかねえジョゼフ様?」
「言ってなかったか?今ロマリアに向かっている所だが」

 

サイトが目の前の男性――ガリア王ジョゼフに強制連行された時はとりあえず、パニックだったと言っておこう。
何せ他国、しかも大国の王家の紋章が刻まれた特大の竜籠が突然中庭に舞い降りたかと思ったら、降りてきたのは紛れも無い大国の指導者な上に、その本人が授業中の教室に乗り込んでサイトを強制連行して即効で飛び去っていってしまったのだから。
いきなり過ぎて周りには状況は把握不能、同じ教室にいた彼の娘&姪&顔見知りのハーフエルフの少女も思わずポカーンだ。
竜籠が飛び立って数秒後、教室に絶叫が響いたがそれは過ぎた事なので割愛。

さて、混乱から立ち直ってとりあえず行き先を聞いたサイトは、ジョゼフの返事に思わず顔をしかめた。
ロマリアという国にはサイトは言った事が無いのだが、話は立場上よく聞いている。

「あれか。またオッサンやテファの力で『聖地』を云々・・・って言ってきたのかよ?」
「そんな所だな。まったく、宗教狂いはいつになっても性質が悪くて堪らん」

珍しく、ジョゼフは疲れたような溜息を漏らした。
王族専用の広い竜籠にはサイトとジョゼフ以外は乗っていない。つまりはあまり表沙汰にしたくない会談、という事か。

何となく、自分が連れてこられた理由もサイトには合点がいった。
なるべく目立たない為には人数が少ない方がいい。つまり同行できる人数もかなり制限される為、その分質に特化した人間が必要になる。
だからこそサイトが選ばれたという事だ。何せ彼は『伝説の盾』ガンダールヴ。そのポテンシャルは常人を超える。
更に幾多の実戦経験―年月ではなく密度の問題―もある分、その能力はもはや絶大。
そして個人的なジョゼフとの結びつきも強い。彼の使い魔兼相棒兼悪友兼義理の息子(確定済み)としての立場はとっくの昔に王宮内では有名である。
まさに一騎当千でジョゼフの信頼も厚い。だからこそ、ガリアの頂点に立っているジョゼフのただ1人の護衛として選ばれたという事だ。

・・・いや、今回の立場上、もう1つ理由が加わるだろう。
それは、サイトが伝説の『虚無』の使い魔の1人だという事。
ジョゼフは『虚無』の使い手であり―――そしてジョゼフによれば、ロマリアの皇帝も『虚無』の使い手、という事らしい。

「別に奪い返さなくたって、色々めんどくさい手続きさえすれば自分達で行けるんだからそれでよくね、普通?」
「あっちの方はあそこを『我々の心の拠り所』などと言ってるがな・・・
要は、あそこがブリミル教なんてものの重要な場所だから自分達には奪い返さなくてはいけない目標だ、なんて勘違いしてるだけだ。
宗教の在り方と自分の目標を履き違えた大馬鹿者め。宗教は元々実体の無い単なる精神のみの拠り所でしかないだろうが」

これは2人ともブリミル教の信者ではないからこそ言えるセリフだろう。
サイトは元々異世界、それも宗教が殊更ちゃんぽんになって扱われている日本の少年だ。
だからブリミル教の詳しい事なんて知ったこっちゃないし、宗教の重要な記念日なんてものも単なる祝い事の1つとしか思っちゃいない。

ジョゼフの場合はサイトと出会って『虚無』に目覚めるまでは王家の一員ながら魔法の使えない無能として扱われてきた。
そして弟・シャルルの魔法の才能と人望に嫉妬していた彼は、魔法というものを生み出した始祖ブリミルをむしろ恨んですらいた。
そんな彼が始祖ブリミルの伝説の系統である『虚無』の使い手だったのはえらい皮肉だが。
とりあえず、ジョゼフも『虚無』に目覚めてサイトと出会った以降は魔法の才能やら王家としての立場やらブリミル教やら、それら全てがアホらしくなってきて、遂にそれらを一々気にする事を止めたのだ。
人、それを単にはっちゃけたとも言う。
だがそのお陰で逆に周りからの人望―それが王家の人間として正しい性質のものかは別として―が集まったとなっては、笑うしかない。

「何を信仰するかは各々の勝手だがな、興味の無いこちらを巻き込まんで欲しいもんだ」
「あー、確かに。そういうのって周りの迷惑や後先考えないよなー」

自爆テロだの何だの、そういう事からは到底縁遠かったサイトも思わずそう言いたくなる。
何といっても自分はそのお陰で授業中強制連行される羽目になったのだ。
学院に戻ってからが面倒になりそうな事請け合いである。ちょっと八つ当たりっぽいが突っ込んではいけない。

・・・いきなり連れてかれて、イザベラとかシャルロットとか心配してるよな、きっと。

トリステインからロマリアまで、多分1日はかかるだろう。会談の間の日程も考えると1週間は戻れないかもしれない
その間イザベラもシャルロットもティファニアも傍に居ない事を想って・・・・・・サイトは深々と、溜息をついた。

 

宗教都市ロマリア独特のルールにより、サイトは持っていた杖代わりに使っている短剣を没収される。
しかし没収されたのはそれだけで、花壇騎士団との訓練や実戦の経験からいつも密かに持ち歩いてる仕込み武器の数々はボディーチェックを受ける事無くあっさり持ち込めた。
あまりにもおざなりな衛士のその様子に、ジョゼフと顔を見合わせて苦みばしった表情を互いに浮かべてしまったのも仕方あるまい。

「ここまで金持ちと貧乏がハッキリしてるといっそ清々しいよな・・・」

道の一方でみすぼらしい格好の人々が配給の列をぞろぞろ作っていれば、
反対側の通りじゃ豪華な服装の神官達が談笑しながら、立派な寺院から出てくる所だ。
ブリミル教には『汝、隣人を愛せ』という訓戒は無い様である。

この世界は貴族と平民などの身分階級の差が明確にされているが、ここのように殊更ハッキリとはしていない。
やっぱり世の中、何処まで行っても不平等だとサイトは今更ながら再確認した。

さて、話は飛んで夜―――――

サイトは大聖堂にあるVIP用の客室のベッドに寝転がって、今日3桁に及びそうな回数の溜息を吐き出した。
要点だけ言えば、ジョゼフとロマリアの指導者――聖エイジス32世、ヴィットーリオ・セレヴァレとの会談はやはり平行線に終わった。

ヴィットーリオが「『虚無』の使い手同士、手を取り合って『聖地』を取り返してハルケギニアを統一しましょう」と言えば、ジョゼフは「そんなのはそっちが勝手にすればいいだろうが。俺は統一に興味無いから俺の国をそんなのに巻き込むな」と身も蓋も無くそうハッキリと言い放つ。
大体がその繰り返しみたいな物だ。言葉や言い回しがあれこれ違うだけで。

しかしどんな言い方であれ、ジョゼフがヴィットーリオの申し出を突っぱねるのは正当な理由がある。
ガリアはアルビオンとの合同計画の成果によって既に『聖地』を支配しているエルフとは友好関係にあるのだ。
それがどんなに細い糸で繋がった関係であれ、友好関係は友好関係だ。だからこそエルフの強大さを理解しても居る。
奇跡とまで賞された友好関係を自分からブッちぎって彼らを敵に廻した場合にかかる利益とコスト、そしてリスクを考えると・・・

――――答えはNo。算出された損害が大きすぎる。
大体、現時点でのエルフとの限定的な交易だけでも利益は膨大なのだ。
サハラで採掘される風石や、『東方』からサハラを経由して輸入される貴重品の利益。
それをむざむざ捨てるつもりは無い。大体、矢面にまず立たされるのはサハラに国境が接しているガリアだ。
何が悲しゅうて代理の宗教戦争をやらにゃいかんのだ・・・・・・そういう事である。

まがりなりにもジョゼフも国の指導者。貴族としての常識などはぶっちゃけても、自国の利益の為の判断を即座に下せなければ本当に無能になってしまう。

・・・個人的な理由としては、ハーフエルフの少女がもしかすると義理の娘になるかもしれないから、というのもあったりする。
ちゃっかり娘婿の愛人関係も把握しているこの男・・・恐るべし。

そんな事とは露知らないサイトの回想は、今度は今日出会った教皇とその副官らしい少年に移る。
2人の印象は・・・気に入らない、だ。
いやま、人間性みたいなものじゃなくて、その、サイトにとっては単に男として気に食わないだけだ。

しょうがねーじゃん!だって、2人とも女みたいなすっげえ美形なんだから!

あれだった。一目見た瞬間思わず2人とも女と勘違いしてビックリしたほどだった。
思わずそう声に出して、副官の少年にからかわれたから何とも恥ずかしいやら腹が立つやら。
2人とも額におっきな汗を浮かべて頬を引き攣らせていたのは、多分サイトの言葉が気に入らなかったからかもしれない。
ともかくヴィットーリオはともかく副官・・・確かジュリオだったか、とにかくセリフが毎回毎回キザったらしい。自分だったらぜってー恥ずかしくて言えねー!というくらいに。

言えない。俺だったらあんなクサい言い回し、イザベラやシャルロットやテファに言ってみせるなんて絶対ムリ!

しかももしイザベラやシャルロット達がジュリオと会う事になれば――
その可能性は低くない。各国の指導者達が集まる催しがあれば、ジュリオのような副官やイザベラ達王族の子女も出席する事が定例だ――
甘い言葉を囁かれて、彼にメロメロになってしまうかも知れない。
そんな事、絶対させてたまるかコンチクショウ。

・・・イザベラとシャルロットの場合、4年間ずっと想い続けてきた相手をあっさり鞍替えするつもりさらさら無いのだが。
そんな事、当の本人は全く知らない。そこまで想われてるとは考えちゃいないのだった。
どうもサイト、何気に自分を過小評価し過ぎる癖があるようで。

そんな事を考えてたせいか、目が冴えてしまって一向に眠気が訪れない。
仕方ないので気晴らしに、部屋を出てあちこち散歩してみる事にした。
初めての場所という事で、本来の興味がある事には首を突っ込んでみる性質が首をもたげたのかもしれない。

夜も更けた大聖堂はシ・・・ンと沈黙さえ音として聞こえそうなぐらい静かだ。
スタスタスタスタ、サイトの履き古したスニーカーの柔らかい足音だけが廊下に響く。

スタスタスタスタ

でもやっぱここも金かかってんなー。王宮並みじゃね?

スタスタスタスタ

お、あのステンドグラスすげぇ。細かいな、どうやって作ってんだろ。

スタスタスタスタ

この絵って・・・あ、今までの教皇様の絵画か。あのヴィットーリオって人のもあるな。
・・・やっぱ女の人そっくりだよなぁ。こうしてみると。

スタスタスタスタ

あのデカい扉は何だろ?倉庫かな。いや、でも王様要の部屋とかって扉もでっかく作ってあるからあの教皇様の部屋か。
ここは念の為そーっと―――

スタス

・・・・・・ちょっと待て。

大きな扉の前に戻って試しに足踏みしてみる。
・・・音が、全くしない。
足音以外にも、外から微かに聞こえていた風の音さえも、何も聞こえてこない。
扉から離れると、すぐにまた足音と風の音が聞こえるようになった。

まさか、『サイレント』!?

こういう時の状況で『サイレント』が使われるとしたら・・・サイトが思いついたのは、最悪の想像。
暗殺。
『サイレント』さえ部屋にかけておけば、音が遮断される為騒ごうが悲鳴が上がろうが誰かが倒れようがその音は外へは届かない。
その為メイジの暗殺者にとって『サイレント』は必須だ。サイトも何度か同じような経験があるから分かる。
人を呼ぶ余裕は無いだろう。『サイレント』が発動したままという事は、まだ発動させた人間がそこに居るという事だ。
もしかすると、間に合うかもしれない。

隠し持っていた短刀の1つを両開きの扉の隙間に無理矢理ねじ込む。その音すら、無音だ。
ねじ込ませて短刀で隙間を広げながら、全身の体重を乗せて体当たりのような肘打ちを扉にぶち込む。
無音で当たった部分がひしゃげて、勢いよく扉が開いた。

大丈夫か!?

そう口に出したつもりだったが、『サイレント』によって声は出てこない。
―――声に出た所で、どうせ途切れていただろうが。
サイトは中の様子を見て、大きく口をあんぐりと開けていた。

中には深夜にも関わらずヴィットーリオとジュリオが起きて居た。それはまあいい。

2人とも服がはだけていたのも10歩譲って良しとしよう。

お互いの唇から光る橋がかかっていて、2人の目がサイトとシてる最中のイザベラやシャルロットみたいな熱っぽく潤んだ感じだったのも、1000歩下がってスルーして。

 
 
 
 
 

・・・・・・2人とも、ハッキリと分かるぐらいに、胸が柔らかみをもった曲線を描いているのは、どういう事でしょうか。

誰か、教えて下さい。切実に。


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