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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:55:40 (5638d)

数合わせ  ぎふと

 

 夜。才人が部屋に戻ってみると、ベッドの縁に腰かけたピンクの髪のご主人様が、
 両手を前に唸り声をあげていた。なにやら深刻そうな様子である。
「ただいま」
 と恐る恐る声をかけると、
「あ〜〜もうっ、わからなくなっちゃったじゃない!」
 案の定というか、きつい目で睨まれてしまった。
「何してるんだよ」
 それでもめげずに尋ねると、
「何でもいいでしょ。とにかく今忙しいんだから、声をかけないで!」
 ルイズは怒鳴り、それから両手をお手上げといった風に大きく万歳して
 そのままベッドに倒れこんで盛大にため息をついた。
「おかしいわ。どうしたって変よ……」
 なおも呟く。「何が?」と才人は尋ねなかった。
 過去の経験から見るに、気軽に声をかけてはいけない雰囲気だ。
 こういう時は放っておくに限る。そう考えた才人は静かにその場を離れて、
 壁際に座を占めた。ちょうどその昔ワラ束の寝床だった辺りである。
 そしてご主人様を観察することにした。……とにかく暇だったのだ。
 さてご主人様は、真剣な顔で眉を寄せると、何やらう〜んと考えているご様子で
 それからぶるぶるっと頭を振り、目をつむり、またう〜んと唸り始めた。
 そしておもむろに目をかっと見開き「1、2、3」と指を折り、また目をつむる。
 何か数を数えているらしいと、それだけは理解できた。
 時おり合いの手のように「これも数に入るわよね」などと独り言を呟く。
 そうやって何度も目をつむっては開いて指を折ってを繰り返し、
 結構な数になったところで、がばっと跳ね起きた。
「おかしい! 絶対合わない!」
 そして勢いよく才人の方に顔と視線を向けると、にま〜っとイヤな笑みを浮かべた。
 どくんどくんどくん……。才人の心臓がホラーの効果音を奏で始める。
「ねえ、サイト」
 き、来た。痛む胸を押さえつつ、続くルイズの言葉を硬直して待つ。
「あのね。ちょっと聞きたいんだけど」
「はい、なんでしょう。ご主人さま」
「私の笑顔の回数って、まだ数えてる? 大体でもかまわないわ」
 恐ろしくてとても否定できる雰囲気ではない。必死に記憶をたぐる一方で、
 もちろんです。こくこくと頷いた。冷や汗がこめかみを伝い落ちる。
「じゃあ、言ってみなさい」
「……72回+2回、かな?」
「そうね。確かにあんたロマリアでそう言ったわ。偉いわ。よく覚えていたわね」
「お褒めに預かり光栄至極にございます」
「でもね。おかしいの。あんたからもらった記憶をすっかりさらってみたんだけど、
どうしてもね。数が合わないの。ものすっごく合わないの」
 ぎくりと才人は顔を歪め、ゆっくりと立ち上がろうとした。逃げ腰である。
「あの時……、私がどんなに感動したか知ってる? もちろん覚えてないけど、
でも絶対に感動したと思うの。私すごく嬉しそうな顔してたもの」
 もはや猶予はなかった。才人は猛ダッシュで部屋を飛び出そうとした。
 しかし、ルイズはガンダールヴも真っ青な素早さでベッドから飛び出すと、
 扉の前に立ちはだかった。右手にはもちろん杖。パチパチと火花を上げている。
「正直におっしゃい。あんた本当に数えていたの? それとも……」
 選択ウィンドウが開いた。YES or NO。
 しかしどちらを選んだとしても結果は恐らく同じに違いない。
 その瞬間……、才人は己の運命を悟り静かにそれを受け入れたのだった。

〜FIN〜

 

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