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Last-modified: 2009-01-19 (月) 23:26:26 (5546d)
王宮の迎賓館から逃げ出したのは、もうずいぶん前のような気がする。
ここは、ガリア王都リュティスの御用宿。
かつて、栄華を極めたガリア王都にやってくる、国外の貴族たちを泊めるのに用いられた、高級な宿である。
しかし、今はこの部屋を除き宿泊客もおらず、今この宿で働くのも、経営者の一族のみ。
『聖戦』の開戦を告げられ、ガリアから民が逃げ出しているからである。
貴族でもない人民に、己が信心の拠り所となる正教に、背信者として狩られるつもりなど毛頭ない。
それでも一部の、ガリア王室ゆかりの商人たち、そして王に近しい貴族たちだけが、この王都リュティスに残っていた。
そして彼女も。
ガリア王女、イザベラ。
父王の狂心を知った彼女は、あの日、王宮から逃げ出した。
その後、御付の者から両用艦隊の出撃を聞かされたが、彼女にはそんなことはどうでもよかった。
父王が王都から離れていくことに、逆に安堵すら覚えたほどである。
…あの人は…狂っている…!
以前から感じていた違和感が、あの日、父に相対して真意を問うた時から、明白になった。
父は、ジョゼフ一世は狂っている。
世の全てを敵に回し、相手を滅ぼし、そしてなお、自らをも滅ぼそうとしている。
何が彼をそうさせたのかはようとして知れなかったが、あの瞳に沈む深く昏い情念の色は、イザベラを恐怖させた。
あの瞳は人のそれではない。
父王の瞳の色に恐怖を刷り込まれた彼女は、あれ以来、この御用宿から一歩も出ようとしない。
しかし、御付の者たちの王都から逃げようという進言を、彼女は聞き入れなかった。
たとえ父王が狂っていても、自分は王女である。
ガリアを、王都を捨てて逃げ出すなど、できるはずもない。
この国が、なくならない限りは────────────────。
彼女の中にこびりついた王族としての最後の矜持が、イザベラをかろうじて王都に繋ぎとめていたのである。
そして。
彼女がここ数日の間、夢想していた事が、現実になる。
寝巻きのまま、天蓋つきの豪奢なベッドの上で、物憂げに窓からのぞく曇り空を見上げていたイザベラを、ノックの音が襲った。
「い、イザベラ様!」
ノックの音とともに、御付のメイドの声が、部屋の外から聞こえる。
「なによ、煩いわね」
上半身だけを起こし、ドアの方を向いてそう応えるだけのイザベラ。
『入っていい』とは言わない。勝手に入られて困るようなこともなかったし、いちいち相手を確認して返事をする気力すらなかった。
イザベラの声を確認したメイドは、そのまま扉を開けて入ってくる。
赤茶けた髪を短く切りそろえたそばかす面のメイドが、慌ててベッドに駆け寄る。
「どうしたの、そんなに慌てて」
宿代が尽きたのかしら、そういえば戦争で国庫も空になったしね、などと考えたイザベラだったが。
メイドの答に、その表情が完全に凍りつく。
「我が王が…ジョゼフ一世が…崩御なされました…」
「え」
一言、そう発するのが精一杯だった。
その答は、ある意味彼女の期待していたものだった。
しかし。
現実で突きつけられるのと、夢想するのとでは心に響く重さが違う。
「嘘でしょ…?」
「…いいえ。早馬の報せだけでなく、王都にもこの話は響いております。揺らぎようのない事実かと」
最初は、メイドの冗談だと思った。
しかし、彼女の言葉と、窓の外から聞こえる、人々のざわめきが、夢想を事実に変えていく。
ぞくり、とイザベラの背中を悪寒が走る。
ガリア王、ジョゼフ一世の崩御が意味するもの。
それは、ガリア王家の解体に他ならない。
なぜなら、このガリア王国に正式な王位継承者はいない。
いや、正しくはイザベラ王女が第一王位継承者なのだが、今この王都にガリアの冠は存在しない。
神より賜りし冠がなければ、王は王たりえないのが世の理であった。
そしてその冠は、父王ジョゼフが戴冠していた。
つまり、イザベラの冠するべき王冠は、ここには存在しないのだ。
そして、外のざわめきがイザベラをより深い絶望に叩き落す。
『シャルロット姫が、王位を継ぐらしいぞ!』
『正しい王家に、ガリアの冠が戻った!』
そう。彼女の属する王家は、本来ありえないとされる王家。
ジョゼフ一世が先王により認められなければ、ありえなかった王家。
そしてそのジョゼフ王は、自らの地位を守るため、兄であるオルレアン公シャルルをその手に掛けた、というのが世の見方であった。
当然、イザベラの耳にもその話は入ってきている。
そして、先日の父王の狂気を見、彼女の中にわだかまっていた疑念は確信に変わっていた。
父は、叔父を殺した。
証拠こそなかったが、イザベラはそう確信していた。
そして、だからこそ、今の自分の立場が偽りであると、思っていた。
だから、私は
そこまで考え、何を考ええいたのかわからなくなる。
何をしようと思っていた?あのシャルロットに王冠を返すつもりだった?
聖教に王冠を返上するつもりだった?この王都から逃げ出し、もう一度王家を復権させるつもりだった?
混乱がイザベラの中に訪れていた。
あまりのショックに茫然自失とし、イザベラは呆ける。
普段からあまり威厳のある彼女ではなかったが、その呆けた顔はまるで夢遊病者のようであった。
「イザベラ様?イザベラ様!しっかりしてください!」
メイドの声で、イザベラは我に返った。
はっとして自分の肩をゆする彼女の腕を振り払う。
「離しなさい、下郎が!」
「ひっ?」
やさしく気遣ってくれたメイドに対し、思わず乱暴な言葉が口をついて出る。
ある意味、それが彼女の本性であった。
偽りの高貴、その偽りに支えられたつくりもののプライド。
それが今、音を立てて崩れ去ろうとしていた。
自分の取ってしまった態度に思わず自分で驚き、目の前ですくみ上がるメイドに声をかける。
「…で、あなたは何をしにここへ来たの」
違う。こんなことを言いたいんじゃない。
ここでも、偽りの矜持がイザベラの邪魔をする。
イザベラの冷たい言葉に、メイドの顔から表情が消えた。
しかし、イザベラは気づかない。彼女は、自分の中で暴れる偽りのプライドと闘っていた。
「…はい。イザベラ様に、王都の外へお逃げ頂きたく思いまして」
メイドの言葉にイザベラは顔を上げる。
そばかす面のメイドは、満面の笑みを浮かべていた。
粗末なフード付のマントは、身分を隠すためと言われた。
荷物は何も持たず、寝巻きのまま宿を出された。
手持ちの貴金属は宿代として御用宿に渡したと言われた。
そして、木の靴を履かされ、路地裏を進んでいく。
少し早足のメイドの背中を、イザベラは追う。
「…ちょ、ちょっと待ちなさい。早すぎるわよあなた」
ただでさえ履き慣れない木靴をはかされ、障害物だらけの路地裏を進んでいるのだ。
王室でぬくぬく贅沢三昧の日々を送っていたイザベラに、町娘出身のそのメイドに追いつくのは至難の技だった。
「…お急ぎください。いつ追っ手がかかるやもしれませぬ」
彼女の言うことは的を射ていた。確かに、ぼやぼやしていてはいつロマリアの追っ手がかかるやもしれぬのだ。
シャルロットが王位継承権を取り戻した今、ロマリアにとってイザベラの存在は邪魔以外の何者でもない。
できるだけ早いうちにジョゼフの跡継ぎの存在を消すのが、ロマリアにとっても、ガリアにとっても、最善の選択肢だろう。
しかし、理解はしていても体はついてこない。
路地裏の土壁に手をつき、息を整えるイザベラ。
そんなイザベラに、メイドが路地裏の入り口から声を掛ける。
「ほら、急いでください。すぐそこなんですから」
その声にはあからさまな苛立ちが混じっていたが、息を整えるイザベラには聞こえない。
もう、脚が棒のようだった。
軽いお茶なら済むくらいの時間壁の前で休み、ようやくイザベラは歩き出す。
「…待たせたわね。さ、案内なさい」
「……………すぐ、そこですからね」
慇懃に言い放ったイザベラに、背を向けてメイドは応えた。
そして、メイドの言葉通り。
少し歩くと、古ぼけた倉庫の前に着いた。
「……ここですわ、イザベラ妃殿下」
ずいぶんと丁寧に、むしろ慇懃とすらいえる態度で、メイドはそう言い、扉を開く。
ぎぎぎ、と重い音をたてて、重厚な木の扉が開いた。
「…褒美は何がいいかしらね。好きなものをおっしゃいな」
こんな時にまで素直に謝辞の出ない自分の口に軽く苛立ちながら、イザベラは扉の方へ一歩踏み出す。
そしてそこで異変に気づいた。
倉庫の中には、四人の男がいた。
扉の脇に、小太りの、商人風の初老の男。貴族気取りの口ひげと、脂ぎった禿頭が不快極まりない。
その傍らに、痩せた中肉中背のひげ面の中年。黒い皮鎧に身を包んでいるところから、流れの傭兵のようだ。
奥の影に、派手な格好の金髪の青年。胸元の大きく開いたシャツは上等で、どこかの貴族の子息にも見える。
その三人とも、下卑た笑いでイザベラを見つめている。
そして、何より目をひいたのは。
奥の闇から自分を見つめる、大男。
らんらんと光る大きな瞳と、獣のような体臭が、入り口まで臭ってくる。ハァハァと漏れる吐息は、男の異常な興奮を表していた。
異常を感じ、イザベラは慌てて引き返そうとするが。
「ご褒美ならもう頂きました。そこの紳士にね」
メイドはそう言い放ち、どん、と振り返ったイザベラの胸を突き押した。
長時間路地裏を走っていたせいでフラフラになっていたイザベラはたたらを踏み、土がむき出しの倉庫の床に転げる。
「あうっ!?な、何を?」
尋ねるまでもない事だったが、しかし半ば反射のようにイザベラの口から言葉が出る。
そしてメイドが応える。
イザベラがかつて彼女を見下ろしていたような、冷酷な笑みで、イザベラを見下しながら。
「あなたは売られたの、イザベラさま。
そこの商人がね、どうしても王族を抱きたいんだって。言い値で買ってくれたわ。
私はそのお金で、面白おかしく暮らさせてもらうつもり」
「…あ、あなた!何を言ってるかわかって」
「そうね、人として最低だと思うわ、自分でも。
…あなたがちょっとでも感謝の言葉を吐いたら、少しは私も悔いたでしょうけど。
名前でも呼ばれてたら、心変わりしたかもね」
イザベラの顔が絶望に塗りつぶされていくのを見て、メイドは満足そうに微笑んだ。
そして、扉を閉じながらにっこり笑って、言ってのけた。
「じゃあね、お姫様。始祖の加護のあらんことを。
…ああ、あなたたちは信じる神が違うんでしたっけ。あははははははははははは!」
ぎぎぎ…ばたん。
笑顔のまま、メイド───本名はイベット──は、無情に扉を閉じる。
辺りは、ランプの明かりのみが照らす、薄暗闇となった。
「待ちなさい!こ」
思わず扉にすがりつこうとしたイザベラの脚を。
「ひ、ひめさまだぁ」
がし。
大きな手が掴んだ。
それは、大男の手。
常人からはかけ離れた、大きな団扇のような手が、イザベラの足首を乱暴に掴む。
からん、と音をたてて木靴が脱げ、そして、大男はイザベラを引き寄せる。
長い青い髪が逆さまに引きずられる。
「ひい!」
大声を上げようと思ったが、男の力の強さに恐怖し喉がすくみ、声にならない。
そのまま、大男の下に組み敷かれる。
「ほ、ほんもののひめさまだ!ほんものだぁ!」
声とともに吹きかけられる生臭い吐息に、吐き気すら覚える。
しかし、目の前に覆いかぶさる大男に、体の芯がすくんでしまい、声も出ない。
その大男の背後から、声がする。声の老け方から察するに、『商人』と呼ばれた太った中年だろう。
「これこれ、ジョバンニ。がっついてはいかんぞ」
「は、はい、ちちうえ!」
大男は慌てて立ち上がり、イザベラの上から退く。
好機とばかりに、イザベラは逃げ出そうとするが。
「おっと、ダメだぜ姫様」
痩せたひげ面の傭兵がそう言いながら、あっという間にイザベラの両手をひねり上げ、そのまま地面に組み伏せる。
そして、仰向けに寝かされたイザベラの両足を、金髪の青年が掴んだ。
イザベラはその体勢のまま、声を荒げた。
「あ、あなたたち!私が誰か知っていて」
しかしその言葉は、片手でイザベラの両手を掴んだ傭兵が、開いたイザベラの口に押し込んだぼろきれに止められる。
そして、下卑た笑みでイザベラを見下ろしながら、禿の商人が応えた。
「イザベラ王女様。ガリアの姫君。よぉくご存知ですとも。
ふふふ。いい顔だ、さすがは王族ですな」
自分を憎憎しげな視線で睨み付けるイザベラに厭らしい笑みで返し、商人は続ける。
「私は、高貴な女性の、処女を頂くのが無上の趣味でしてね。
金を失った商人の娘、借金で首の回らなくなった貴族の娘、さまざまな処女を堪能してきました」
言いながら、ぐふふふ、とくぐもった声で笑い、そして、脂ぎった視線ではだけて露になったイザベラの脚を視姦する。
不健康に色白く、しかし年頃の少女の瑞々しさをもったその脚に、商人の鼻息が荒くなる。
イザベラの背筋に、生理的嫌悪を伴った悪寒が走る。
「そして、今日。ついに王族の娘の処女を味わう機会がやってきました。
…そう、あなたですよイザベラ様」
「父上、前口上長いぜ?さっさとはじめようぜ」
脚をおさえる金髪の青年が言った。どうやら、この青年と大男はこの商人の息子のようだ。
イザベラは必死に腕と脚に力を込めてもがくが、腕はがっしりと抑えられ、疲弊した脚は言うことを聞かない。
「そう急くな、エドガーよ」
「だけどよー。暴れるんだよこのオヒメサマー」
弱弱しい力で暴れているのだが、その青年には力仕事に感じるようであった。相当甘やかされて育ったらしい。
商人は続ける。
「話がそれましたが。
まあ今回はせっかくの機会なので、我が息子達にも王族の娘の味を覚えさせようと思いまして。
特にジョバンニはこの体と、頭が少し弱いゆえまだ童貞でしてな。姫様に男にしてもらおうかと」
商人の言葉に、ジョバンニがぬう、とその大きな顔をイザベラの顔に寄せる。
長く伸ばし放題の髪に、まだらに生える無精髭。それに、オークに見まごうその体躯から臭う、獣のような臭い。
「ひ、ひめさま、お、俺を男にしてくれえ」
涎がだら、とジョバンニの分厚い唇から垂れる。
それは、イザベラの顔に垂れる直前、じゅる、とジョバンニが吸い込んだ。
そしてジョバンニは、いそいそと自分の下半身に手を伸ばす。
ベルトではなく太い麻縄で止められたズボンが大きな手でずり下げられ、ぼろん、と赤黒いものがまろび出る。
その異形の物体に、イザベラの背筋が凍った。
それはイザベラの手首ほども太さがあり、そして、赤黒く剥きあがった先端の各所には、白濁の恥垢がこびりついていた。
臭っていた獣の臭いの原因は、これだったのだ。
「お、俺、ひめさまのために、一週間もおなにいガマンしてたんだあ。い、いっぱいだすから、がんばるから」
あんな不潔な、歪な、巨大なものを入れられる。
それを想像しただけで、イザベラの背筋は凍った。
「これ、姫様の前で無礼だぞジョバンニ。それに、最初は父上からだ。
お前は最後だぞ。その方が姫様も気楽でしょう」
息子をたしなめ、しかし下半身は剥き出しにさせたまま、承認は下卑た笑いを絶やさない。
もちろん、イザベラを気遣ってのことではない。
息子の巨大なイチモツで貫かれた後ではガバガバになってしまい、イザベラを堪能できないだろうと踏んでのことだ。
…たすけて、助けて…!
絶望に打ちひしがれ、イザベラは弱弱しく体を揺する。
それと同時に、涙がこぼれる。
それは本能的な恐怖によるもので、本来強者の保護欲をそそるために流されるものである。
しかし。
「おお、おお、いいねえ。いつ見ても、旦那に奪われる前の処女の涙ってえのは」
腕を押さえる傭兵には逆効果のようで、抑える手によりいっそう力がこもる。
そして、傭兵はイザベラに声をかける。
「なに、心配すんなやヒメサマ。ここの旦那は超紳士だからな。
処女のアンタでもバッチリ善がれるように、最高級のお薬を使ってくださるぜ」
その声に商人が続ける。
「そのとおりですぞ、姫様。これな薬をご覧ください」
言って商人は、懐から小さな赤いガラス瓶を取り出す。
「コレの中身は、『オーガの血』と呼ばれる秘薬を、三日間かけて煮詰めた代物でしてな。
女性の中に塗り込めば、痛みなど些細なものになるほどの、快感を与えてくれるのですぞ」
商人はそう言って、瓶の蓋を開ける。
そして、脚を抑える息子に目配せする。
すると、エドガーは両足を掴んだまま、思い切り上に持ち上げた。
すると、寝巻きがべろんと捲れ、寝ていたせいで何も履いていないイザベラの下半身が露になる。
「ふーっ!ふぐーっ!」
ぼろきれを吐き出して声を荒げようとするが、上手くいかない。
「ほうほう、イザベラ様は意外に毛深くておられる。
ほれ、エドガーよ。肛門の周りにも、うっすら青い産毛が生えておるぞ」
「キレーなまんこじゃん。入れるの楽しみだな。早く済ませろよ親父」
じろじろと王宮の女官以外には晒したことのない恥部を眺められ、恥辱に死にそうになるイザベラ。
いっそ、舌を噛んでしまえればどれだけ楽だろう。
しかし、口の中に突っ込まれたぼろきれのせいでそれもできない。
そして。
「ぐふふ。それでは…と」
商人が、上を向いて開かれた、イザベラの股間の上で、薬瓶を逆さまにする。
どろり、と粘性の赤い液体が、イザベラの上に垂らされていく。
それは、大半はきつく閉ざされた陰唇をなぞって青い陰毛に絡みつく。
そして、残りは巧妙に処女の守りを通り抜け、イザベラの膣内に、尿道に、肛門に忍び込んでいった。
エドガーは薬を塗り終わったのを確認すると、今度はイザベラの股を大きく開いた状態にさせ、床に彼女の細い足首を押し付ける。
しかし、イザベラの中にあるのはおぞましさだけ。快感などこれっぽっちも沸いてこない。
…な、何よ、ただのハッタリ…!?
商人の言葉を嘘と思い込んだイザベラは、沸きあがった怒りにあわせ、身体を捻らせる。
それは、絶望に上塗りされた偽りの怒りで、その内に眠る絶望と恐怖には勝っていない。
そんな弱い力では、もちろん腕も脚も自由にはならない。
抵抗するイザベラに、商人は下卑た笑みを向ける。
「焦りめさるな。薬は直ぐには効いてはきませぬ。
ぐふふ。では、効果が出るまで、不肖ながら私めと、息子が準備をいたしましょう」
言って商人は、今まで後ろに控えていたジョバンニを手招きする。
ジョバンニは嬉しそうに寄ってくる。既にズボンも上着も脱ぎ去って、獣のような体毛だらけの体を露にしている。
イザベラは生理的嫌悪よりも、次の瞬間商人の放った言葉に恐怖した。
「ジョバンニ、まずは口で綺麗にしてもらいなさい」
口で。
最初、イザベラには主語のないその文章の意味が分からなかった。
しかし、すぐに思い当たる。
商人は、ジョバンニに、イザベラの口を犯させようというのだ。
イザベラは顔を振って抵抗する。
そのイザベラの鼻を、傭兵がつまみあげる。
息が、できなくなる。
苦しさに首を振るが、しかし傭兵の力は強く、解けそうにない。
息苦しさがつのり、胸に痛みを感じ始めた瞬間。
口の中に詰め込まれた、ぼろきれが抜き取られた。
「げほ、げほむぐっ!?」
息苦しさにむせ、空気をむさぼった瞬間。
イザベラの口の中に、生臭く、生暖かいものが押し込まれた。
それは。イザベラの手首ほどの太さのあるそれは。
ジョバンニの一物であった。
すぐに鼻を押さえていた手がどけられ、吐き気を覚えるほどの獣の臭いがイザベラを襲う。
あまりの気持ち悪さと嫌悪感に涙ぐむイザベラ。
だが、口の中にそんなものを突っ込まれて黙っているほど、イザベラは素直な少女ではない。
がり…。
歯で、思い切り噛んでやる。
しかし。
それは、あまりに太く、硬すぎた。
イザベラの顎の力では、その表面にこびりつく恥垢をこそげ取るのが関の山であった。
その奇妙な味に更なる吐き気を覚え、えづくが、ジョバンニに頭を抑えられ、さらに口を深く犯される。
「おっおっおっおっ。ひ、ひめさまのお口、あったかい、キモチイイっ!」
舌の上を生臭い、生暖かい、獣そのものが往復する。
イザベラは涙ぐみ、必死に口の中を犯す雄を吐き出そうとするが、かなわない。
それどころか、あろうことかジョバンニはイザベラの喉までを使い、腰を前後し始めた。
「おっ、おっおっおっおっ」
苦しさと生臭さに泣き喚きたかったが、口の中に肉の塊を突っ込まれていては、くぐもった声しか出せない。
そんな二人の絡みを見ていた商人は、イザベラの股間に手を伸ばす。
くちゅ…。
薬が、粘性の水音をたてる。
しかし。
それは薬だけの音ではなかった。
びくん!
イザベラの背筋が反り返る。
「─────────!?」
声も上げられず、イザベラは目を白黒させる。
背筋に走ったその感覚は。
むずがゆく、腰の奥を痺れさせるその甘い感覚は。
快感。
「ほう、ジョバンニのものを咥えながらもう濡れてきておる。
ジョバンニ喜べ、姫様はキモチイイらしいぞ」
ち、ちが、きもちよくなんか────!
しかし。
心の中で否定するが。
くちゅ、くちゅ。
商人の指が女陰をまさぐるたび、淫らな水音と背筋を走る電流が、イザベラの中を焚き上げていく。
「────!────────!!」
「おっおっおっ。ひめさまもぐもぐしてるう!」
「おお、よほどお前のモノが気に入ったようだな。
ぐふふ。こちらの口も、私の指がお気に入りになったようですな」
薬によって強制的に高められた性感によって、跳ね回るイザベラの身体。
跳ねる背筋が頭を前後させ、空気を求めて蠢く口がジョバンニの赤黒い性器を嘗め回させ、咀嚼する。
意思とは無関係に蠢く陰唇が愛撫と呼ぶには余りに自分勝手な商人の指を物欲しげに吸い上げる。
イザベラの身体は、完全に発情していた。
そして。
ぐに。
商人の指が、まだ包皮に包まれたままのイザベラの女陰を、戯れに押しつぶした瞬間。
「──────────────────────!!!」
びくんびくんと身体を跳ね上げさせ、イザベラは。
生まれて初めての、視界が暗転するほどの絶頂に押し上げられる。
そして。
「おっ、いぐっ、いぐぅっ!」
どりゅどりゅどりゅ…!
イザベラの口内の一番奥、喉の入り口で、ジョバンニの一物が弾けた。
その中から、溜めこまれた、粘り気のある白濁が、イザベラの喉を通り、胃まで流れ込む。
「おっ、おっおっおっ、おぅ〜〜〜〜」
どくんどくんと何度も脈打つ男性器を、ジョバンニはイザベラの口から引き抜く。
ほとんどはイザベラの口内に吐き出されたが、一部は意図しない快楽で赤く染まった白い顔に零される。
「おぐっ、おえっ、ごぼっ!」
激しくえづき、粘性の白濁を、逆流するにまかせ吐き出すイザベラ。
「うっわ汚ねえ!出しすぎだぞジョバンニぃ」
「うえへへへへ。いっぱいでたあ」
兄弟の掛け合いにしかし、イザベラはえづいて精液を吐き出すことしか出来ない。
そんなイザベラの耳に、商人の声が届く。
「ぐふふふ…。これだけしとどに濡れておれば、もう大丈夫だろう。
では、そろそろ頂くとしますかな…。イザベラ妃殿下の、処女を」
かちゃかちゃ。
…え…?しょじょ…?なんのおと…?うぐ、きもち、わるい…。
ずる、ばさ。
…きもちわるい…。あ、やだ、こしのおく…びくってしてる…あつい…。
ぴと。
…あ、なにか、あたる…。あついの…あったかいの…?
「ぐふふふふ…。女王の処女は、どれだけすばらしいのでしょうな?」
…え?あ?わたし…私っ!
「いや、いやああああああああああ!たすけてっ!
誰か、助けてええええええええええええええええええっ!」
それは、数秒の出来事だった。
重い木の扉が轟音を立てて吹き飛ばされる。
ちょうど、扉を背にしていた傭兵は、その扉の一撃を後頭部に喰らい、一撃で昏倒した。
音に驚き、扉の外を見る三人。
そこに立っていたのは、少年と呼んでも差し支えないほどの、銀髪の男。
簡素な皮の鎧に身を包み、そして手にはメイジの証である杖。
「貴様、何者」
商人が勃起した下半身を慌てて隠しながら立ち上がろうとしたその瞬間、銀髪の少年の姿はその視界から消えていた。
少年は魔法の風を纏い、ジョバンニの目の前に一瞬立った。
「え?あれ?今」
間抜けな表情をするジョバンニに、少年はその顎を、下から蹴り上げる。
それも、普通に蹴り上げたのではない。
風を纏い、威力を数倍に上げた蹴り。さらに、両足を揃え、下から上に蹴り上げることで威力を増している。
戦槌なみに威力を増した少年の蹴りが、ジョバンニの顎を蹴り抜く。
ジョバンニはその一撃で意識と、歯の半分を失った。
少年は相手の戦力の大半を奪ったのを確認すると、最後の戦力であろうエドガーに向き直る。
そして、腰の後ろに挿していた、大型のナイフを抜き放ち、エドガーに向ける。
「さあ、そのレディから手を離せ、下郎」
少し低めのよく通る声で、少年は凄みを利かせる。
その構えには隙が無く、たとえ商人とエドガーの二人がかりでもこの少年を止められないことは明々白々であった。
しかし。
エドガーに、相手の実力を見抜く実力などない。
「くっそてめえ!」
無謀にも徒手で殴りかかる。
しかし、もちろん素人の拳など、訓練されたメイジである少年には通じない。
ドス。ぶしゅ。
少年の構えたナイフがエドガーの腕を貫き、そして引き抜かれた。
「う、うわあああああああああ!腕が、俺の腕えええええええええ!」
情けなく泣き喚くエドガー。
そんなエドガーを冷徹に見下ろし、今度は、腰を抜かして座り込む商人に、少年は酷薄な視線を向ける。
「まだやるか?」
「ひ、ひいいいいいいいいい!?」
じょぼぼぼぼぼ…。
恐怖のあまり、商人は失禁する。
あっという間にボディガードと息子達を失い、商人は身を守るすべを失っていた。
少年は商人とエドガーから戦力がなくなったのを確認すると、床の上でへたり込み、涙とホコリにまみれたイザベラに、落ちていたイザベラの着てきていたマントをかぶせ、そして。
背中と脚に手を回し、軽々と持ち上げる。
「大丈夫ですか?お嬢さん?」
そして、イザベラに語りかけるが。
…助かった?わたし、たすかっ…。
危機から助かった安堵と、疲れから、イザベラは気絶してしまった。
目を覚ますと、粗末な藁のベッドに寝かされていた。
見上げる天井は隙間も見える板張り。どこかの納屋のようであった。
…あれ…?ここは…?
目を覚まして数瞬の間は、記憶が混濁していて自分の置かれている状況が理解できなかった。
しかし、大きく息を吸い込んだ瞬間、否応なしに現実が襲い掛かる。
吸い込んだ息とともに、鼻腔の奥に蘇る生臭い雄の臭い。
ジョバンニの精液が、イザベラの口の中に染みこんでいた。
「うぇっ!えほっ、えほっ!」
気持ち悪さに咽こみ、両手をついてベッドの脇のむき出しの地面に吐く。
胃液と、精液の混合物が逆流し、さらなる不快感を呼ぶ。
「おえ…おええ…」
涙を流しながら、最後の一滴まで吐き出す。
そして、嘔吐が終わると、慌てて自分の身体を確認する。
あの時とは違う、粗末な貫頭衣。
そして何より、汚れていない自分の身体。
そこまで確認して、あの救出劇が夢ではないと、ようやく認識できた。
ほっとしたのも束の間、自分の状況を思い出す。
そう、自分の身が窮地にあることに何ら変わりは無い。
王家が潰えて、国を追われる身であることに変わりは無い。
しかも、イザベラは今完全に身一つだけである。
他に頼るものもいない。期せずして天涯孤独の身となったのである。
そう思った瞬間、とんでもない悪寒が身体を走りぬける。
毛布も何も無い藁を敷き詰めただけのベッドの上で、イザベラは自らを抱きしめ、震える。
そこへ。
きしんだ音を立て、納屋の扉が開く。
「あ、目が覚めましたか」
やってきたのは、イザベラを助けた銀髪の少年。皮鎧は脱いで、普通の白いシャツに皮のズボンといった出で立ちだ。
手には、湯を満たした木桶と、タオルを抱えている。
「…大丈夫ですか!?」
少年は震えるイザベラの様子がただ事ではないことを見て取り、慌てて駆け寄る。
そんな少年に、イザベラは思わず怒鳴ってしまう。
「あ、あなた、いったい何者なの!?何が目的なの!?」
ソレより前にすることがあるだろう、と言ってしまってから後悔する。
しかし、なんと少年は、そんなイザベラに笑いかけた。
「はは。もう大丈夫です。僕はあなたに酷いことしたりしません。
申し遅れました、僕はガリア北花壇騎士、エミリオといいます」
「え?…北花壇騎士…?」
イザベラは驚いた。
ガリアには各方角の花壇ごとに騎士団がある。
しかし、日の差さない北側には花壇はない。従って、公式に北花壇騎士団、というものは存在しない。
王家直属の、汚れ仕事を片付けるための、裏の騎士団。それが北花壇騎士団である。
この少年が、その一員だというのだ。
そして驚くイザベラに、少年は続ける。
「…っていっても見習い、っていうか騎士に任命される前に王家がなくなっちゃったんですけど」
なるほど。
この少年は、その実力を買われ、北花壇騎士団に組み入れられるところだったのだ。
「…任命の書状がきて、王都に出てきたらこの有様で。
…あなたの悲鳴が聞こえたから、助けに走った次第です」
その話を聞いて、イザベラはほっとする。
エミリオは、自分の正体を知らない。きっと今も、自分のことを貴族の娘か何かのように思っているのだろう。
だから、彼が自分にとって脅威となることはない。今のところは。
そう、今のところは。
もし、この少年が自分の正体を知ればどうなるか。
それを想像せずにはいられなかった。
そして考える。
彼を、味方に引き込む方法を。
自分の正体を知っても、自分を裏切らない方法を。
思案を巡らせるイザベラに、エミリオは語りかける。
「あなたの名前、お聞きしてもいいですか?」
尋ねながら、湯に浸したタオルを差し出す。
はっとして床を見ると、自分の吐いたものが飛び散っていた。
イザベラは真っ赤になってタオルを受け取り、顔を拭く。
そんなイザベラに、エミリオはやさしい言葉をかける。
「酷い目に逢いましたね。もう大丈夫ですから」
屈託の無い笑顔で、イザベラを見つめる。
その瞳と視線を合わせた瞬間、きゅん、とイザベラの中で音がする。
彼女の今までの人生の中で、こんな風に何の打算もなく、自分の心配をしてくれる者などいなかった。
王族であるがゆえ、仕方なく優しくしたり、媚びへつらう者ばかりだった。
そして、イザベラは口を開く。
「…イザベラよ」
「え?」
「私の名前。イザベラ」
エミリオは思わずきょとんとする。
なぜなら、その名前は、本来自分が仕えるはずであった、王家の姫の名前。
そして彼は気づく。
今目の前にいる彼女の髪の色が、ガリア王家由来の青い色であることに。
「え?イザベラ…王女様?」
エミリオの目が点になり、そして。
思わずずざざぁっ!と後ずさり、床に膝をつき、首を垂れる。
「しっ、知らぬこととはいえっ!不敬を致しました、申し訳ありませんっ!」
エミリオの豹変した態度に、イザベラは思わず悲しくなった。
さっきまで、何の打算もなく接してくれた男の子ですら、ここまで変えてしまうほど、それほど王家の名前は重いのだ。
この時ほど、イザベラは王家の生まれであることを煩わしく思ったことは無かった。
…ってちょっと待て。
よく考えてみると。
…王家、なくなったんじゃなかったっけ。
そう。
ガリア王ジョゼフ一世は崩御し、ガリアの王冠はシャルロット王女の手に還った。
そして、今、自分はただのイザベラ。
王家の一員でもなんでもない、一人の女。
だがしかし、それを世間は認めないだろう。そして、目の前の少年も。
だったら。
イザベラは考えた。
…ただの女に、なってしまえばいいんだ。
そうするには、どうすればいいか。
答は簡単だった。
自分の胸の奥で脈打つ器官が、それを教えてくれていた。
イザベラは心を決め、言葉を口に出す。
「いいわよ、そんな畏まらなくても。もう王家ないんだし」
「はっ、えっ?し、しかし」
「それとも何?私をロマリアに突き出す?それともここで殺す?」
「そ、そんな畏れ多い!」
イザベラは慌てながらも態度を変えないエミリオにだんだんムカついてきていた。
まだ膝をつき首を垂れたまま、視線を合わそうともしないエミリオの前に、イザベラは立つ。
「もうただのイザベラなんだってば。ただのオンナなの。
それにお金も持ってないし。仕えても給金だってビタイチだせないわよ」
「し、しかしですね」
「あーもう!」
イザベラは怒ったように言い放つと、エミリオの前に屈んだ。
そして、下からエミリオの顔を両手で包み込むと。
無理やり、その唇を奪った。
目を白黒させて王女の口付けを受ける騎士。
しばらく唇を重ねた後、イザベラはエミリオの顔を固定して、無理やり自分と目を合わさせながら、言った。
「…た、助けてくれたお礼!あげるから!」
「は、はぁ」
思わぬ展開に呆気にとられ、エミリオは呆ける。
そして、今のキスがお礼なのだと、『勘違い』してしまう。
「は、あ、ありがたき幸せです!わ、私騎士として王家に」
そして考えてきていた騎士叙勲の際の口上を述べようとして。
目の前で展開される光景に目が点になった。
イザベラは、エミリオの目の前で、着せられていた貫頭衣を、勢いよく脱ぎ去ったのだ。
思わずエミリオは前かがみになる。
若さ溢れる10代前半、高貴な女性の裸を見て元気にならないはずがない。
実際、先ほど汚れた寝巻きを着替えさせる際にも、溢れる情欲を抑えるのに必死だったのである。
イザベラはそのまま、ころん、と藁葺きのベッドに仰向けに寝転ぶ。
素肌に当たる藁の先端がチクチクと不快だったが、そんなことは気にしていられない。
なにせ、一世一代の大舞台なのだから。
惚れた人に、初めてを捧げるという。
ほとんど一目ぼれである。
まるで物語の王子様のように自分を窮地から救ってくれたエミリオに、イザベラは一目ぼれしていたのだ。
早鐘のように鳴り響く心臓を宥めながら、イザベラは言葉を搾り出した。
「ほ、ほかにあげるもの、ないから」
「は、はひ」
「わ、私を抱きなさい!
け、結構高値みたいだから!十分でしょ?」
先ほどの商人とメイドのやりとりで思いついた台詞を言ってみる。
確かに、エミリオにとってこの申し出は破格の報酬であろう。
何せ、自分の仕えるべき王女が、その身体を自分に捧げるというのだ。
というより、エミリオだって健全な男子である。
騎士叙勲の暁には、王女とお近づきになって云々、なんて妄想だってしていた。
それがまさか。
まさかこんなカタチで訪れるとは。
だがしかし。
「え、えと。そのですねえ」
エミリオは焦っていた。
こんな時、どうすればいいのかさっぱりわからなかったのだ。
辺境貴族の末弟に生まれ、各地の騎士団で盗賊狩の日々を送っていた彼には、いままでこういう機会は無かった。
むしろ、女の子と付き合ったことすらないのである。
混乱するなというほうに無理があった。
そして。
逆サイドではイザベラも混乱の極みだった。
勢いでここまでしてしまったものの。
心臓はまるで早鐘のよう、体中火照って火が着きそう、視界は溢れてきた涙と興奮で歪んでいる。
恥ずかしい。恥ずかしくて死にそう。
でも、こうするしかないのだ。
もう身体一つしか残っていないイザベラは、あとは突っ走るしか道は無かった。
そして。
もう一つの要因が、イザベラの背中を押した。
どくん。
心臓が鳴った。
さっきまでの早鐘のような鼓動とは違う、重く、深い鼓動。
そして、視界に桃色の靄がかかりはじめる。
息が荒くなり、背中に当たる藁の先端が、ぴりぴりと電流を発し始める。
それから間を置かず、腰の奥が熱を帯び始めた。
そこは、本で知識だけはあった場所。
子宮。
先ほど商人に使われた薬が、完全にイザベラの体中に回ってしまったのである。
「はっ…はぁっ…はぁっ…!」
荒い息をつき、真っ赤な顔をしているイザベラの異変に、前かがみになって耐えていたエミリオが気づく。
「だ、大丈夫ですかっ?王女様っ?」
声を掛けるが、どうやら聞こえていないようだ。イザベラは荒い息をつきながら、苦しそうにしている。
仕方なしに声を届けるため、エミリオはイザベラに近寄っていく。
イザベラがベッドに横たわっていたので、自然と覆いかぶさる形になった。
そして。
ぎゅむ。
イザベラの両腕が一瞬で、エミリオの首を捕まえた。
「え?」
「大丈夫じゃ、ないわよ…っ!
も、ガマンできないっ…!」
そして、不自然な格好でイザベラに覆いかぶさっていたエミリオと、位置を入れ替える。
不意をつかれ、あっさりとマウントを取られるエミリオ。
「え」
仮にも騎士候補である自分があっさりと上を取られたことよりも。
エミリオは、尋常でないイザベラの表情に驚いた。
頬が真っ赤に上気し、耳までばら色に染まり、目は泣きそうなほど潤み、そして口からは甘い甘いため息が漏れている。
その火照ったため息が、ふわりとエミリオの鼻先にかかる。甘い、甘い雌の香りが、エミリオの鼻腔をくすぐった。
その瞬間、エミリオの全身の毛穴がぞわり、と逆立つ。
雌の誘惑に、雄の本能が応え始めていた。
自然界では、本来雄に選択権はない。雌に選んでもらうため、雄は雌を誘うようにできている。
しかし、今この場では真逆の事が起きていた。
雌が、雄を誘っている。遺伝子レベルで雌に逆らえない雄は、悲しいかな反応するしか道は無い。
その証拠に。
エミリオの下半身には、顔に見合わぬ立派な山ができていた。
もちろん、イザベラが目をつけたのはそこ。
そして彼女の中によぎるのは、先ほどのおぞましい行為。
無理やり男性器を口に含まされ、射精された。
イザベラは、びんびんに薄いズボンを押し上げているエミリオを指差した。そして。
「ね、ねえ。男って、コレ咥えてもらうのってきもちいいの?」
エミリオもひょっとして、ああいうのが好きなのだろうか。
そう思ったイザベラは、素直にその質問を口にした。
もちろん、エミリオにそういう経験どころか、そういう行為などあることすら知らない。
しかし、普通に自分でいじってもキモチイイのだ。
女の子の口で咥えてもらったら、それはきっと。
「い、いや、きもちいいんじゃないでしょうかねえ・・・たぶん」
思わず反射でそう応えたエミリオに。
「じゃあ、してあげる」
イザベラは、油断していたエミリオのズボンをずり下げてしまった。
初心な表情と幼い顔には似合わない、太く長い立派な一物が露になる。
イザベラはそのまま、屹立したエミリオの男性器に顔を寄せていく。
「ちょっ、姫様っ?な、何をっ!?きたないですよっ!?」
しかし、エミリオのその声はイザベラに届かない。
イザベラは、立ち昇る雄の臭いで、完全に理性が吹き飛んでいた。
…なに、この、におい…。
…あたま、ぐらぐら、するぅ…。
完全に回った媚薬がイザベラの脳髄まで溶かし、思考を奪っていた。
今の彼女の頭には、目の前の雄を貪ることしかなかった。
目覚めた雌は、そのまま口を開け、目の前の雄に喰らい付いた。
なぜなら、先刻自分の口の中を犯し、善がっていた雄がいたから。
しかしエミリオのモノは大きく、小さなイザベラの口の中には納まりきらない。
選んだ雄を喜ばせること。それが、雌の本能だった。
イザベラはつたない舌使いと、貪欲なまでの吸い上げで、エミリオを喜ばせようとする。
「う、うわぁっ?」
初めての感覚に、エミリオは悲鳴を上げ、腰を跳ねさせる。
自慰しか知らない初心な少年に、この衝撃はきつすぎた。
勝手に腰が痙攣し、無意識にイザベラの口を犯す。
腰をグラインドさせ、悲鳴を上げるエミリオに、イザベラの中に奇妙な満足感が満たされていく。
…キモチ、いいんだ…。私のクチ、気持ちいいんだ…。
思わず嬉しくなり、頬をすぼめてさらに吸い上げ、舌を絡ませる。
そして、口で雄を味わいながら、イザベラの奥で、心臓以上に熱く脈打ちはじめた場所があった。
雄を受け止める場所。大陰唇から始まり、陰道、子宮から、卵巣までが脈打っていた。
目の前の雄を貪れと、本能が吼えていた。
左手を沿え、ぢゅうぢゅうと唾液ごと男性器を吸い上げながら、イザベラは切なく震えている大陰唇を右手で撫で回す。
その痴態を見せ付けられ、あまりにも苛烈に吸い上げられ、たまらずエミリオが弾ける。
「だ、だめですっ、ひめさまっ!」
イザベラの口の奥、喉の入り口で、エミリオは初めての口淫で果てた。
どくどくどくどくと、熱い大量の精液が、イザベラの喉と脳髄を焼く。
ジョバンニの精液はあまりの気持ち悪さに吐き出してしまったが、エミリオの精液は違った。
エミリオのそれは、まるで、濃いワインのように、イザベラを酔わせた。
なかなか止まらないエミリオの射精を、んくんくんくと喉を鳴らしながら、イザベラは飲み込んでいく。
…まずい…ずるずる…でも…。
…あたまが、くらくらするあじ…。
…だいすき…。
欲求にまかせ、尿道に残った精液まで残らず吸い上げ、イザベラはぷは、とまだ勃起の収まらないエミリオを吐き出す。
「はっ、はっ、はぁっ」
射精を残らず吸い上げられたエミリオは、藁葺きのベッドの上で大の字になり、荒い息をついている。
そんな雄を見て、雌は支配欲をそそられる。
口の端から零れる涎と精液の混合物を拭おうともせず、イザベラは薄ら笑いを浮かべながら、高くそそり立つエミリオをまたぐ。
そのまま腰を下ろせば、イザベラはエミリオを完全に捕食できた。
混濁した理性と、覚醒した野生、そして王族の矜持が、イザベラを高貴で淫乱なイキモノに造り替えていた。
あまりに淫らな笑みで、イザベラは自らに指を沿え、割り開いて、腰を落としていく。
「…それじゃあ、受け取りなさい?一生感謝するのよ。いいね?」
「え…?なに…?」
口淫の衝撃に半分意識の飛びかけていたエミリオは、そう応えるのが精一杯だった。
ぶつん、と二人の間で何かの裂ける音がした。
童貞の雄が、処女の雌に食われた瞬間であった。
肉の裂ける痛みがイザベラを襲う。しかし。
そんなちっぽけなものなど洗い流すほど、強烈な快感が彼女を襲う。
膣の襞の一枚一枚がむき出しの神経器官となり果て、くわえ込んだ熱い雄の槍を感じ取っていた。
イザベラの性器では余るほどのエミリオの性器が、王女の子宮顎を叩くまでの数瞬で、イザベラは、絶頂に襲われていた。
目の前が白く染まり、体中の筋肉が痙攣し、腰の奥の器官が勝手にもぐもぐと雄を咀嚼する。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああぁぁぁぁぁっ!?」
処女とは思えないような、濁った獣のような声を上げ、イザベラは生まれてはじめての絶頂に焼かれた。
それは、この上ない喪失感だった。
そして、この上ない快楽だった。
『おんな』になった瞬間に訪れた最高の快楽が、イザベラを襲っていた。
そして。
イザベラの膣襞はまるで百本の舌のようにエミリオの茎を嘗め回し、イザベラの子宮口は彼女自身の唇の代行と言わんばかりにエミリオの鈴口に激しく吸い付く。
口の中とは比べ物にならないイザベラの器に、エミリオも。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
腰をびくんと跳ねさせ、ごぼりとイザベラの中で弾けた。
その射精は一度では収まらず、ごぷん、ごぷんと何度もイザベラの中で何度も精液を吐き出す。
そのたびにイザベラの細い身体が跳ね上げられ、青い長い髪と膣道を揺する。
「ひ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!」
イザベラを再び襲った絶頂は、今度は彼女の視界を紅に染める。
苦痛にすら感じる凄まじい快感が、イザベラの神経を焼き切った。
大量の精液を受け、どさ、とイザベラの身体がエミリオの上でくず折れる。
そして、腰を持ち上げて射精していたエミリオも。
「う…あぁ…」
腰をかくん、と落とし、気を失ってしまった。
目を覚ますと、オヒメサマが隣で微笑んでいた。
裸で。
自分のやったことを思い出す。エミリオの顔が真っ赤になる。
そして。
「うわぁぁぁぁぁぁっ?」
王女と同衾してることに思い至り、裸のまま、土むき出しの床にひざまづき、首を垂れる。
そしてその口からスムースに流れ出す謝罪の文句。
「も、申し訳ありません!私、とんでもないことを!」
げし。
そんな銀髪の頭を、裸の足が踏みつけた。
「コラ。何謝ってるの。アレはお礼だって言ったでしょう」
「は、え、しかし」
ここまできてまで態度の変わらないエミリオに、イザベラは苛立つ。
だが、思い直す。
…だったら、いいわよ。
「そんなに気にするならいいわよ。分かったわよ。
一生かけてその罪償いなさい。いいね」
言いながら、両足をキレイにくみ上げ、はだしのつま先でエミリオの顎を持ち上げ、自分の方を見上げさせる。
エミリオから見たイザベラはもちろん裸だったが。
エミリオの今まで見てきた世界で、最も可憐で高貴な、お姫さまであった。
「そうね。とりあえず」
「は、はひ」
無理やり顎を持ち上げられているせいで、間抜けな返事になってしまう。
そしてイザベラは、わがままを言った。
「なんだか甘いものが食べたいわ」
「へ?」
一瞬意味が分からず呆けてしまうエミリオ。
そんなエミリオに、くすり、と笑いながら、いつもどおりの酷薄な、それでも少しは愛情の篭った笑顔で。
「いますぐに。
この意味分かったら、さっさとなさい?
ちょっと、ちゃんと聞いてるの?エミリオ?」
間抜けな顔で自分を見上げる愛しい騎士に、イザベラは言った。
「は、はい、ただ今!」
慌ててベッドに置かれていた服を着込んで、外に出て行くエミリオ。
残されたイザベラは裸のまま、ころん、とベッドに横になる。
そして、今この場にいない愛しい人に向けて、言った。
「一生掛けて償わせてあげるわ。
今日の鈍感っぷりをね。私の王子様♪
一生、面倒みさせるんだから。私のワガママは半端ないわよ♪」
くすくす笑いながら、とりあえず最初は庭付き一戸建てかしら、と粗末な藁のベッドで夢想するイザベラだった。〜fin