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Last-modified: 2009-03-18 (水) 03:51:57 (5518d)

アンリエッタと才人の婚約発表は、内密のうちに行われた。
近しい家臣のみの集まった席で、女王自らが、告げたのである。
『くれぐれも内密に』と宣言し、国民への発表はもう少し情勢が整ってから、と女王は言った。
もちろんその情報は、漏れることになる。
女王アンリエッタは、それを承知の上で、婚約を発表したのだ。
この内密の婚約を外部に漏らすことによって、益を得るもの。
いよいよ現実となった『平民出の王』誕生を阻止する事を企む者。
その人物こそが、獅子身中の虫であった。
そして、情報漏洩のルートは瞬く間に暴かれ、芋づる式に『反アンリエッタ派』の貴族の名もリストアップされていった。
こうして、トリステイン王国の内憂は取り除かれたのである。

そしてその情報は、ルイズの耳にも届くこととなる。

「…これは、直接当人たちに問いただす必要がありそうね…!」

その当人たちの片割れ、ルイズの使い魔は今、王都で公務の真っ最中だ。
英雄を擁する水精霊騎士団は、最近あっちこっちで引っ張りだこである。
今日は、王立の孤児院にて、イーヴァルディの物語を演じることになっている。
ちなみに題目は『超変身!仮面の騎士イーヴァルディ』という、剣戟活劇である。
そういう経緯もあって、今学院に才人はいなかった。
なのでルイズは馬車を仕立て、即座に学院を発つ。
シエスタも、せっかくですから〜、と何やら黒い笑みを浮かべながらルイズに着いていく。
なんのかんの言ってもシエスタだって女の子である。チャンスがあれば才人を独り占めしたいのだ。
そして、二人を乗せた小さな馬車は、一路王都を目指す。

その馬車と入れ違いに、学院の上空から青い風韻竜が降りてくる。
タバサに言われ、王都に才人を迎えにいっていたシルフィードである。
どうして、公務の最中の才人がシルフィードに着いてきたのかというと。
女子寮の前に着地したシルフィードから、慌てた表情の才人が飛び降りる。
即座にシルフィードも人の姿に形を変え、才人に併走する。

「急ぐのね!お姉さまいつ発つか分からないって言ってたし!」
「わかってるよ!」

孤児院で悪の蜘蛛怪人をやっていた才人は、慌てた様子のシルフィードから、話を聞かされていた。

『お姉さまがガリアに帰っちゃうって!』

理由を尋ねたがシルフィードは知らないのね、の一点張り、いつ発つのかと聞くと、明日にはもうトリステインの国境を越えるつもりだと聞かされた。
才人は代役をレイナールにまかせ、シルフィードに跨り慌てて学院に飛んだ。
もちろん、あの小さな姫君に帰国の理由を尋ね、できれば別れの言葉を、よしんば引き留めるためであった。
上りなれた階段を上り、いつもはノックして入る部屋のドアを、乱暴に開けて飛び込む。

「シャルロット!」

慌てて飛び込んだそこには。
いつかどこかで見た魔法陣の中央に、ちょこんと立つ、大きな杖を持った青い髪の小さな少女。
雪風のタバサこと、シャルロット・エレーヌ・オルレアン。
彼女が、待っていた。
タバサは驚いた風もなく、こくん、と頷いた。
それは、才人の言葉に対してではなく。
扉の前で、ニヤニヤ笑顔を浮かべる、自分の使い魔に対して。
そして、主人のサインを汲んだ使い魔は、遠慮なくそのドアを閉じた。

「それじゃ〜お二人さん、ごゆっくり〜、なのね」

捨て台詞を残し、シルフィードはドアを閉じた上に、先住魔法による封印まで施す。
これで、彼女の意思抜きではこのドアは外からも内からも開かない。

「…シャルロット…?」

さすがにいぶかしんで、才人は疑問を露にする。
しかしタバサはいつも通りのポーカーフェイスで、才人に杖を突き出して、言った。

「迂闊」
「い、いきなりそれはねーだろ!心配して帰ってきたってのに!」

いきなりの言いがかりに軽く憤る才人。
そんな才人の反応は予測済みなタバサであった。
杖を軽く抱え込み、右手の指を立てながら、才人の迂闊な部分を挙げていく。

「ひとつ。ガリアに今すぐ発つつもりならシルフィードを使う。
 ひとつ。サイトを呼びにいかせるのに詳細を告げないわけがない。
 ひとつ。あの子の演技に騙されるのもどうかしている」

全部で三つ。指を立ててタバサは才人に突きつける。
そして当然ながら、才人は思う。

「…じゃあ、ガリアに帰るってのは俺を呼び出すための嘘ってわけか?」

そう思うのも無理からぬことであろう。
しかし、それに対する返答は、才人の予想とは違っていた。

「…違う。それは本当」
「え」

才人は目を丸くする。
そんな話はついぞ聞いていなかった。
タバサ本人からも、当然噂や、ガリアとの政治情勢からも予想はしていなかった。
タバサは淡々と続けた。

「私はガリアに帰る。今度いつトリステインに戻ってこれるかは、わからない」

そして、休学届けも学院長に提出した、とタバサは言った。

「ど、どうして?」

才人の疑問に、タバサは応える。

「ガリアを取り戻す。無能王から、取り返す」

タバサの真剣な言葉に、才人はそういえばこの娘ガリアのお姫様だったっけ、などと今更なことを思う。
そして当然、才人はこう言い出すわけで。

「な、なら俺も手伝うよ!」

しかし、タバサはふるふると首を振る。

「必要ない。力で取り戻すわけじゃないから」

そして、自分はできるだけ穏便に、正式な形で王冠を叔父から返してもらうのだと、タバサは言った。
もちろん、狂気の無能王に正攻法が通じるとは欠片も思ってはいない。
だが、タバサには秘策があった。
才人と過ごした日々が、彼女にその秘策を授けていたのである。
そして才人は、タバサの言い分から、王族に戻って正式に王権を譲り受けるつもりなんだと解釈した。

「…だったら、いいや。頑張れよシャルロット」
「…ありがとう」

才人の激励の言葉に、満面の笑みで答えるタバサ。
才人と出会う前には、けして見せなかった柔らかい表情。
しかしまてよ、と才人はもう一つの、根本的な疑問を思い出す。

「…だったら、どうしてこーいう状況にする必要があるわけだ?」

当然の疑問である。
わざわざ才人を閉じ込めてまで、するような話ではない。
そして才人は自分の放った疑問に、自分で答えを見つけてしまう。
だが、その言葉を口にする前に、タバサがつ、と才人に寄ってきた。

「…あのー。シャルロットさん?」

タバサは眼鏡の下から上目遣いに、才人を見上げている。
その頬は軽く朱に染まり、目が潤んでいる。
見慣れた表情。俗に言う『タバサおねだりモード』である。

「…帰る前に、思い出がほしい」

まあ思い出っつったらアレでソレでコレなナニなわけで。
しゃーないかあ、だったら一丁気張りますかね、と半分臨戦体制になった才人だったが、その才人の機先を制し、タバサは続けた。

「…大きくなった私と、今の私。どっちが好き?」

才人は思い出した。
この足元の魔方陣。いつぞや、タバサが大人の、といっても数年後のだが、姿になるために使った儀式魔術のそれではないか。
逡巡する才人に、タバサは期待いっぱいの熱い視線で、才人ににじり寄りながら答えを急かす。

「ねえ、どっちがすき?」

眼鏡越しの潤んだ瞳に、才人が答えたのは。

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