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Last-modified: 2009-06-07 (日) 23:33:05 (5430d)

ルイズとシエスタに最後に逢ったのはもう一ヶ月も前のこと。
水精霊騎士団の孤児院慰問に駆り出された日。

『行ってらっしゃい。言っとくけど姫さまにだけは近寄らないようにね。
 私も用事済んだら王都行くから!』
『あとでちゃんと下着からチェックしますから。下着洗ってあったりしたら問答無用でおしおきだと思ってくださいね♪』

きっつい釘を刺され、才人は王都へ向かう。
その後紆余曲折あって、才人は主人と逢わないまま半月ほどの時を主人のいない学院ですごす事になり────。
そして。
その主人のいない女子寮の部屋で、いきなりやってきたトリステイン王家の馬車から現れたアンリエッタから、とんでもない話を聞かされる。

『サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ。あなたを、私の夫として、トリステイン王家に迎え入れます』

目が点になる才人に、これまでの功績、そして今現在の才人の立ち位置、伝説を担う英雄としての立場、それらが全てアンリエッタの伴侶として相応しいものであるとマザリーニより説明があり。
アンリエッタは、混乱の極みの才人の耳元に、決定的な一言をそっと耳打ちしたのだ。

『それと…私のお腹には、あなたのやや子がおります』

どうやらその事は王家周囲の人間には周知の事実らしく、その場にいた全員が、『ちゃんと責任は取ろう。な!』という顔をしていた。

『まさかとは思うが、トリステイン女王に父なし子を産めとは言わんよな?
 いやあよかったなサイト!これでお前、一国一城の主だぞ!』

はっはっは、と笑いながらアニエスは才人の肩を叩いた。
その言葉の裏には『もう女王と才人の密会の手助けをせずに済む!仕事が減る!』という思いが含まれていた。
周囲の人間も、うら若き英雄と女王の成婚に、喜びこそすれ反対する者などいなかった。
むろん、反対派はとうの昔に粛清済みである。
そして。
才人の目は点になったまま、ほぼ拉致同然に馬車に詰込まれ、王都に連行されることになる。
こうして才人はアンリエッタとの成婚の儀までの間、王城の一室で監禁される羽目になったのであった。

それが、一ヶ月前の出来事。
それ以来、才人は王城の一室に軟禁され、王族としての心得やマナーを叩き込まれていた。
マザリーニやアンリエッタの指導は丁寧で、ルイズの鬼のようなマナー指導に比べれば、弾幕シューティングとインベーダーほどの差があり、苦痛ではなかった。
その間、懸念されていたルイズによる王城襲撃は一度たりとてなかった。
アンリエッタ曰く、『きっとルイズも草葉の陰で祝福してくれているのでしょう』との事であったが。
ルイズがそんなタマではないことを、才人は百も承知している。
いつ王都が虚無の光に包み込まれるのかガクブルしながら、安穏とした日々を過ごしていたのだが。
結局、成婚の儀のその日まで、虚無とメイドのコンビは現れることなく。
そして今日。
王宮にて、英雄・サイトと女王アンリエッタの、成婚の儀が始まる。

式典は、あえて国民や外部に公表せず、内々に執り行われることになった。
式を終え、才人が『トリステイン』を背負ってから、大々的に発表する手はずになっていた。
従って、成婚の儀は、王宮内の小さな礼拝所で行われることになった。
才人はそんな儀式なんてあんまり意味ないんじゃないかなあ、などと思ってはいたが、真剣なアンリエッタやマザリーニを見て、あえて口には出さなかった。
元平民とはいえ、王になるのである。それなりの儀式は必要不可欠だった。
儀式は朝から始まり、夕方に終わる予定だった。
才人は指示された時間に、盛装に着替えて礼拝所へ向かう。
真っ白なタキシードに、背には愛剣デルフリンガーと、服に同じく白いマント。黒いモールが縁取りとして精彩を加えている。その中央には白百合を背負った盾の紋章。英雄『ヒラガ』の紋、『白百合の盾』である。
これを背負うことを許されているのは、ハルケギニア広しといえどもたった一人。トリステイン救国の英雄、最強の盾、神の槍ガンダールヴ、『サイト・ヒラガ』だけである。
そう、もう才人はシュヴァリエではない。
彼の姓、『平賀』は、アンリエッタによって王家に並ぶ貴族、否、『英雄』としての姓にまで高められていた。
いかなる貴族とも平民とも違う、ただ一人の『英雄』。トリステイン王家に組み入れられるに相応しい、最高の名前となっていた。

「なあなあ相棒。思い直すなら今だぜ?
 こんな風に担ぎ上げられて、王家の種馬にされるなんて相棒らしくねえや」

その背中で、伝説を見守ってきた剣はカチャカチャと才人に何度も繰り返した言葉を吐く。
そして才人は、決まった同じ台詞を返す。

「種馬になるわけじゃないよ。
 それに、これは俺の責任なんだ。俺が責任とんなきゃ、姫さまが泣くハメになっちまう」

ぽりぽりと頭を掻いて、いいわけじみた台詞を返す。

「…虚無の嬢ちゃんが泣くのはいいのかよ」
「…ルイズの話はすんな。来なかったアイツが悪い」

才人は、実はルイズを待っていたのだ。
ほとんど策謀同然に結婚話を進められ、今や逃げ場のなくなってしまった才人を、唯一救い出せる存在。
それが、彼の主人たるルイズであった。その傍若無人さで、全てを叩き壊し、才人を王宮から連れ出せる、唯一の女性。
しかし彼女は結局最後まで現れなかった。
そして才人は、諦めてしまう。
いや、正しくは諦めたのではない。

「それに、王様になったあと探して、側室として王家に来てもらえばいいじゃないか」
「…すっかり考え方が貴族サマになっちまったな相棒」

才人が考えた方法がそれだった。
デルフリンガーの指摘ももっともだったが、今この状況で、アンリエッタとの成婚を破棄すればアンリエッタ以下、たくさんの人たちに迷惑をかける立場になってしまった才人の、それが唯一の逃げ道だった。

「ま、考えたってしょうがねえ。あとでルイズには謝るさ」
「へえへえ。蹴りの一発で済めば御の字さね」

そして一人の英雄と伝説の剣は、礼拝所の門を潜る。

「お待ちしておりましたわ」

礼拝所の最奥の祭壇には、銀髪の司教と女王が立っていた。
入り口から続く真っ赤なラシャの絨毯の脇には、マザリーニ、アニエスをはじめとした王室縁の人々が。
ただしその人数は極めて少なく、賓客だけで全部で13人しかいない。
その中にラ・ヴァリエール卿はいなかった。あえてアンリエッタが招待から外したのである。
才人はそんな中を堂々と歩き、アンリエッタの前に立つ。入り口を潜った時から、儀式は始まっていた。
そして恭しく傅いて、言った。

「お待たせいたしました女王陛下。サイト・ヒラガ、お約束どおりここに参りましてございます」

アンリエッタは深く下げられた頭に向けて、言った。

「お立ちなさい、英雄、サイト。我が伴侶、これからの王の顔を、始祖によくご覧に入れて」

立ち上がり、才人は正面に立つ始祖ブリミルの像に正対する。
ブリミルと才人が正対したのを確認すると、司教が口語による祝詞をあげ始める。

「ご覧ください、我が始祖よ。この者こそが始祖の血統に加わる者です。
 あなたにとってこの者は血筋に相応しいでしょうか?
 始祖の名を継ぐに値する者でしょうか?
 お聞かせください、始祖よ」

そして、司教は始祖の像の前で恭しく跪き、今度はルーンによる祝詞を上げる。
美しい旋律にも似た、ブリミルに才人の真贋を問う言葉が、礼拝所に響き渡る。
この詠唱が終わると、ブリミルの像が白く輝き、才人は晴れて王家に入る資格を得るのである。
そしてブリミルの像は白くまばゆく輝き。

シュガッ!

その顔の部分が一瞬で光球に包まれると、まるで木を鋭い刃物で削り取るような音を立てて、ブリミルの頭部が消えうせた。

「…な…!」

いきなりの異常事態に司教は呆気に取られる。
しかし、すぐに異常に気づいたアニエスは剣を抜き、大音声を上げる。

「曲者だ!すぐに騎士たちをここへ!」

戦闘態勢を整えたアニエスに倣い、才人もデルフリンガーを抜く。
その柄がカチャカチャとまるで笑うように鳴る。

「デルフ!全く気配を感じなかった!相手は相当の手練れだぞ!」
「はははは!その通り!相手はとんでもねえ手練れだぁな!
 はははは!覚悟しとけ相棒、お前さん、年貢の納め時だぜ!
 おもしれえ、本気でおもしれえ!ありゃあブリミルの初歩の初歩の初歩だぜ!嬢ちゃん、ついに全部揃えやがったか!」

他の人間には意味不明なデルフリンガーの言葉。
しかし、才人にはすぐにその意味が理解できた。
そして、相棒に聞き返す。

「…あ、あのーう…?デルフリンガーさん、まさかそれって…」

認めたくない。このタイミングでまさか。
しかし、現実は非情に過ぎた。
才人の言葉が終わる前。
礼拝所の入り口に、使い魔召喚の時の『ゲート』によく似た銀色の門が現れ。
そこから、一人の少女が姿を現す。

「待たせたわね、犬」

雄雄しく、あまりにも雄雄しく、その細い腰に両拳を当て、まったくない胸をまっすぐに立て、光を背負って立つその姿。
後世に、『ブリミルの伝説をなかったことにした悪魔』と呼ばれる、史上最強にして最悪のメイジ。
彼女の名は。

「ご主人様が迎えに来たわよ!ハウス!」

ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
伝説の虚無の担い手。究極の絶壁。ツンデレ女王。
そして、才人のご主人様。
桃色のウェーブのかかった髪をばさぁっ、とかきあげ、あまりにも様になった決めポーズで、ルイズはそこに現れたのである。

事の起こりは一ヶ月前。
アンリエッタと才人の婚約話の情報が耳に入ったルイズは、猛り狂って王都へ向かう。
その傍らにはルイズの強敵と書いて「とも」、シエスタも随伴していた。
半分は怒り狂ったルイズを止めるためであったが、もう半分はルイズをけしかけて才人を取り戻すつもりもあったのである。
しかし。
二人は王城に入ることすらできなかった。
トリステイン王城は、アンリエッタ女王の婚約発表以降、反アンリエッタ派を完全に閉め出して防御を固め、難攻不落の城砦となっていたのである。
そして、王城警備隊の警戒人物リストに、ルイズとシエスタの名前が挙がっていたのである。
もちろんそれはアンリエッタの策謀。警備隊には『私の友人である二人には、できるだけギリギリまでこの事を伏せておきたいのです』などとのたまわっていたが。
実際のところは、この二人が才人を奪還に来る最右翼だと踏んでのことであった。
実力行使のルイズと、絡め手のシエスタ。この二人が組んで王城に入り込めば、いかなる警備体制も紙の如しである。
しかし王城に入れさえしなければ。
才人との成婚の儀が終わるまでこの二人を王城がら遠ざけさえすれば。
アンリエッタと才人の結婚は見事に成立し、国民総意のもとアンリエッタは無事才人の第一夫人となりえたのである。
だが、その計画を頓挫させる方法を、二人の悪魔は思いついてしまう。
それは、そう。
かつてアンリエッタがルイズに与えた二冊の書物───一冊は『始祖の祈祷書』、そしてもう一冊は『解体・始祖の祈祷書』。
ルイズの手によって暖炉の薪の火口にされかかっていたその二冊を、シエスタは後で役に立つかも、と思い保管していたのである。
そして、シエスタの提案でルイズは『解体・始祖の祈祷書』を読み、『始祖の祈祷書』を完全に読破してしまう。
それからはあっという間だった。
始祖の秘宝の使い方を理解したルイズは、『水のルビー』から魔力を引き出し、『始祖の祈祷書』の封をさらに開放し、他の虚無の魔術の一つを身に着ける。
その名は『世界扉』。
水のルビーを介して魔力供給を受けられるようになったルイズは、『世界扉』を使い、各地から四つのルビーをあっという間に集めてしまう。
タバサの手によって奪還された『土のルビー』。ガリアの宝物庫に保管されていた、防護機能により古ぼけた指輪に擬態していたその指輪を、よく似た古ぼけた指輪と摩り替えた。
ティファニアが才人を助けるために使ってしまった『風のルビー』。ウエストウッド近隣に散っていたその指輪の力を、二つのルビーの力でルイズは再び集め、風のルビーを蘇らせる。
そして、ロマリアに保管されている『炎のルビー』。三つの指輪を揃え、『始祖の祈祷書』を完全に理解したルイズは、ロマリア宝物庫の奥深くに眠っているそれを、三つのルビーに共鳴させ、召喚してのけたのである。
こうして四つのルビーは一人の虚無の下へ集う。
『ただ一つ』となったルイズは、無限の魔力と完成した虚無をもって、アンリエッタから才人を奪い返すため、成婚の儀の日を待って、王城へと乗り込む。
いつでも才人を取り戻すことはできる。しかしルイズはそれをしなかった。
なぜならば。

「ルイズ。どうしてすぐにサイトさんを取り戻しに行かないの?」
「わかっちゃないわねシエスタ。これは喧嘩なのよ。私とあのわたあめの、サイトを賭けた天下分け目の大喧嘩。
 喧嘩の初手は、どうするのが一番効果的だか、貴女が一番よく知ってるじゃないの」
「そうね。確かにその通り」
「そう、最高のタイミングを見計らって」
「横合いから全力で殴りつける」

そう、二人はずっと待っていたのだ。
アンリエッタを敗北させる、最高のタイミングを。

「さあ、帰るわよ犬!こんな辛気臭い場所とはおさらばするんだから」

言いながら、ルイズは紅のラシャの上を才人に向かってずかずかと歩く。
その身にまとうのは、アンリエッタの純白のウエディングドレスとは対照的な、漆黒のドレス。
肌の露出のほとんどない、手と頭部のみが露出した、まるで喪服のようなドレス。
しかし、その表面はまるで陽炎のようにゆらゆらと揺らめいている。その生地が魔法のかかったものであることは、容易に想像がついた。
そして、彼女の周囲には、青、赤、茶色、無色の四色の宝石がきらきらと輝きながら舞っている。

「下がれ、狼藉者!」

最初に動いたのはトリステイン王国軍の指揮を執る大貴族、グラモン伯爵。
杖を振りかざし、警告代わりの魔力の矢を飛ばす。あくまで相手を無力化するためなので、致命傷になるような部分は狙わない。
しかし足を狙ったその魔力の矢は、ルイズの足程度なら一撃で粉々にできるほどの威力があった。
だが。

じゅっ。

まるで熱した鉄板に水を落としたような音を立て、グラモン元帥の魔法の矢は、ルイズのドレスのスカートの上で蒸発した。
ルイズはまるで腐った果実に群がる羽虫を見るような目で元帥を見据える。
自分の息子ほどの年齢の娘に見据えられた瞬間、グラモン元帥の背筋に冷たい何かが走った。
それは、あからさまな畏怖だった。彼がメイジであるがゆえの、純粋な畏怖。
だがそれに彼が気づくのはもう少し後。
元帥の攻撃が通じず、うろたえる賓客たちに向かって、ルイズは言ってのけた。

「言っとくけど、スクウェア以下のメイジは私に攻撃するだけ無駄よ。
 この『虚無の衣』はあらゆる魔法を吸収し、私の糧とするわ」

彼女の纏う黒いドレスが、その『虚無の衣』なのだろう。
つまり、ルイズに魔法で攻撃を仕掛ければ、即ちそれは彼女に力を与えることになるというのである。
しかし、その程度の脅しに屈していては、メイジの、貴族の名が廃る。

「ならばっ!」

その言葉を聴いて、露出した頭部に『ジャベリン』の一撃を加えようとしたのはマンティコア隊隊長ド・ゼッサール。
現れた巨大な氷の槍が、ルイズの頭部めがけて突き進む。
だがしかし。

「で、頭が空いてるからって狙うのは愚の骨頂。
 母さまの跡を継ぐにはまだ早いみたいね?」
「なん…だと…?」

『ジャベリン』はなにもない空中で四散してしまったのである。
正しくは、『水のルビー』がルイズとジャベリンの間に入り込み、水の魔力を打ち消したのである。

「頭狙いの四系統は全部ルビーで無効化できるから。私を止めたかったら他の虚無を連れてきなさい」

四つのルビーを支配下に置くルイズは、四系統の魔術すら支配下に置いていた。
つまり、彼女を傷つけるには、虚無を持ってするしかない。
そして、ルイズはさらに歩を進める。

「まだだっ!」

礼拝所に響く、若い声。
それは、銃士隊隊長、アニエスの声。
その声と同時、いや少し早いタイミングで響いたのは、銃声。
魔法がダメなら、物理的な力を持って排除するしかない。
そして、音より早い銃弾ならば、ルイズに届く、そう踏んで、アニエスは撃った。
頭部を、狙って。
だが。

きゅっ。

ルイズの頭のかなり手前。そこで銃弾はまるでそこで見えない壁にぶち当たったように動きを止め、そしてそのままこんっ、と石でできた床に落ちる。

「…普通の攻撃も届かないからね、言うの忘れてたけど」
「なに…?」

目に見えない結界など、アニエスは知らない。
どの四系統の魔術にも、見えない結界などはない。
火や水や土の結界はもちろん、風の結界でも張り巡らせていれば周囲に風が吹き、景色が歪む。
しかし、ルイズの周りの空間には何もない。驚くほど何もないのである。
その正体は虚無の力による重力制御。ルイズは自分の周囲を重力制御によって覆っていたのである。
つまり、銃はおろか、物理的にルイズに触れることは不可能なのである。
そしてルイズは。
祭壇の前で固まる、アンリエッタの目の前に立つ。
互いに鼻先を突きつけあい、今すぐにでも胸倉をつかんで取っ組み合いを始めそうな雰囲気だ。
だが、ルイズは満面の笑顔になった。

「お久しぶりです。女王陛下」

その笑顔はしかし、かつて幼馴染のお姫様に向けられていた親愛のそれではない。
恋人を奪われた、嫉妬に狂うおんなの笑顔。
アンリエッタの背筋を、ぞくりと寒気が襲う。
しかし、この程度の恫喝に怯えていては、王族なぞ勤まらないのである。

「久しぶりですね。健勝でしたか?ルイズ」

そして、笑顔で返す。
二人の視線が死線となって火花を散らし、見えない嵐が吹き荒れる。
息が詰まるほどの闘争の空気に、賓客たちは完全に怯え、才人は完全に石化していた。
そして、先に口を開いたのは女王。

「今日は私とサイト様の成婚の儀でしてよ。何か御用かしらルイズ・フランソワーズ?」

にっこりと笑顔で、しかしその瞳の内側には消えない炎を湛えたまま。

…さっさとカエレこの貧乳大魔神!

もちろん、その程度で引くルイズではない。

「私の使い魔を返してもらいに来ました」

その顔から笑顔が消えて失せる。
もちろん、そんな言葉を聞き入れるほどアンリエッタは弱くはない。

「あら、なら賓客として私たちの結婚を祝って頂戴。招待した覚えはありませんけど!」

言った瞬間。

ぱぁん!

女王の右の平手が、ルイズの左頬を叩いて、乾いた音が礼拝所に響く。

「下がりなさいラ・ヴァリエール!貴女のしていることはトリステイン王家に対する重大な叛逆です!」

女王の凛とした声が、礼拝所に響き渡る。
王としての矜持に満ちた、暴力には屈しない、まさにトリステインを背負う者のみが持つ威厳に満ちた声。
普通の貴族なら、その声に打たれたならば膝を折り、即座に王への忠誠を誓うであろう。
しかし。

ぱぁん!

乾いた音が響いた後。
アンリエッタ女王の顔が、右を向いていた。
その左頬が赤くなり、驚きに目を見開いている。
ルイズが、アンリエッタの頬を平手で張り返したのである。
冷たい目で、視線をそらされたアンリエッタを見つめ、ルイズは言い放った。

「その名前は棄てたわ。
 サイトを取り戻すと決めた、その時にね」

そう。
ルイズは、才人を取り戻すと決めた一月前、貴族の証であるマントと、絶縁状を認め、ラ・ヴァリエールに送りつけていた。
貴族を棄て、家族を棄て、それでも、彼女は才人を手に入れることを望んだのである。
そんなことも露知らず、二人の後ろで才人は情けなくガクブルしている。
英雄も女同士の修羅場では形無しであった。

「…な、ならあなたは、貴女は一体何なのです!?」

平手の衝撃でほつれた髪を直そうともせず、アンリエッタは叫んだ。
ルイズは、左頬を赤く腫らしたまま、まるでそれがないかのように、大音声で宣言する。

「私はルイズ。

『ゼロのルイズ』よ!」

雄雄しく、あまりにも雄雄しく、彼女は伝説を担う者の威風を身に纏い、黒いドレスと桃色の髪を翻し、言ってのけた。
そして、後ろで震えている哀れな子犬の首筋をがっしと鷲づかみにし。
おののくアンリエッタに顔を寄せ、笑顔で言った。

「アンリエッタ。これでお別れになると思うけど。一つ言っておくわ。
 私の『元家族』にアンタが手を出したら、トリステインごと滅ぼしてやるからね」

つまり、トリステインがラ・ヴァリエールに対し、ルイズ叛逆の責を問えば、ルイズはトリステインを滅ぼすというのだ。
その声には、微塵も迷いは感じられなかった。

「…と、トリステインにはあなたの学友もいるのですよ!」

アンリエッタの声には、怯えが混じっていた。
それは、メイジの遺伝子が彼女に感じさせた、原初の恐怖。
『虚無』に対する、全てのメイジが抱く恐怖であった。
今なら、彼女はエルフ達がなぜ虚無を『悪魔』と呼ぶのか理解できたであろう。
ルイズはふ、と鼻で笑った。

「脅しのつもり?もちろん選別して滅ぼしてあげるわ」

それが嘘ではないことは、容易に理解できた。彼女にはそれができる。それをするだけの力がある。
無限の魔力と最強の力を手に入れたルイズは、まさに最強最悪の悪魔だと言えた。
震える女王を尻目に、ルイズは呪文を詠唱し、『世界扉』を開く。
そして、才人を引きずりつつ『世界扉』を潜りながら、最後の言葉を残していった。

「狙うなら、私一人にしなさい。
 もしも私以外に累が及んだら、その時は────ハルケギニアを滅ぼしてあげる」

まさに悪魔の台詞を残し、ルイズは『世界扉』の向こうへ消えていった。
しばらくして。
凍っていた時間が動き出し───アンリエッタは伏せていた顔を上げる。
集まっていた賓客から表情が消えた。
慈愛の女神と呼ばれたアンリエッタは、やはり笑顔だった。
屈辱と嫉妬に、かみ締めた唇から、一筋の血を流しながら。
そして、独り言のように呟いたのだった。

「見せてあげますわ、ルイズ…!
 私の、王としての『それなりの覚悟』ってやつを…!」

その数日後、トリステイン全土に、王家より直々に賞金首の触れが出される。
それには、二人の人相書きと、条件が書いてあった。

『ゼロのルイズ。生死問わず』
『サイト・ヒラガ。生け捕り』

後に三国によって最も高い賞金が賭けられ、しかしその賞金が割に合わないと言われた、史上最高額の賞金首の生まれた瞬間であった。

『世界扉』を抜けると、そこは見知らぬ部屋だった。
結構高い天井に、大きな窓から差し込む日の光。壁はくすんだ灰色。広い割には調度はまばらで、支柱つきのランプが二本と、頑丈そうな樫の木のキングサイズのベッドが部屋の中央に一つあるだけ。
部屋の周囲にはいくつかの大きな木箱が積み上げられており、閑散とした部屋をより殺風景にしていた。

「あ、おかえりなさーい」

出迎えたのは黒髪のメイド。
笑顔でいそいそとタオルと水差しの入った籠を持ってくる。
それを主人に手渡すと、部屋のドアを指差して、言った。

「はい、お疲れ様でした。お湯沸いてますよー」
「気が利くわねシエスタ。じゃあちょっと湯浴みしてくるわね」

礼を言って籠を受け取った瞬間、しゅん、と小さな音がしてルイズの着ていた陽炎のように揺らめく漆黒のドレスが消え、黒いニーハイソックスと白いショーツだけの姿になる。
漆黒のドレス、『虚無の衣』の魔法を解いたのである。
そしてそのまま、ルイズは籠を手に部屋を出て行く。
才人の硬直が解けたのはそれからだった。

「な、な、な、なにやってんだよお前らー!」

こともあろうに一国の王の成婚の儀から新郎を簒奪し。
あまつさえその国王に挑戦状を叩きつけ。
全人類の脅威ともいえる能力を見せ付けて逃げてきたのである。
あからさまなトリステインへの叛逆行為であった。
才人が思わず突っ込むのも当然といえた。

「何って、あるべきものをあるべき場所に返しただけですよ?」

しれっとした顔でシエスタは言う。
しかし才人はこの程度で納得がいくはずもなく。

「だからって!ありゃちょっとやりすぎだろ!」
「…やりすぎじゃないですよ」

反論した才人に、シエスタはさらに反論で返す。
その表情からは笑顔が消え、真剣な眼差しになっていた。
それは、彼女がルイズの覚悟を知り、この一ヶ月寝食を共にしてきたからこそ。
だからシエスタは、こう言った。

「この世界で一番サイトさんを必要としているのは、ルイズです」
「…い」

さらに反論で返そうとしていた才人は固まった。
シエスタから、まさかそんな言葉が出るとは。
そして、さらに意外な言葉が出る。

「どうしてそう思うのか分かりますか?」

いきなりそんな事聞かれても。

「答えは簡単ですよ。
 サイトさんがいないと自殺かますようなアホの子はルイズだけですもん」

何気に酷いことをさらりと言ってのけるシエスタ。
さらに彼女は続ける。

「まあ、それだけじゃないですけども。
 もっと現実的な話として、
 女王陛下は妊娠してますけど、ルイズはまだ妊娠してないから」
「へ」

才人はさらに固まった。

確かに姫さま妊娠してっけども。なんでシエスタがその事知ってんだ?

さらにシエスタは続ける。

「どうして分かるのかって顔してますね。
 そりゃ当然の推論ですよ。女王陛下がいきなり求婚してもサイトさんが応じるには足りない。
 そうなると、女王陛下のおなかにサイトさんの赤ちゃんでもいないことには、サイトさんが結婚話に首を縦に振るはずがない。
 だってサイトさんヘタレですから、『王様』になるなんてエサどころか反対材料にしかなりませんよね」

図星だけども。

さすがにヘタレ呼ばわりされて悔しい才人は、突っ込みを入れる。

「ヘタレって…シエスタ俺のことそー思ってたのか」
「違いますか?」

シエスタのジト目。才人が思わずちょっと回想してみると、結構ヘタレてる自分がいる。

「あう」
「違うんですか?違うっていうんなら証明してみせてくださいよ。ほらほら今すぐ」

言ってシエスタは上目遣いににじり寄ってくる。

…証明?証明ってこの場合どーすりゃいーんだ?

「え、えーとですねえ…。
 すいませんヘタレです犬ごめん」
「…わかればよろしい」

ちょっとは否定して欲しかったシエスタだったが、まあサイトさんてこんな人よね、と思いなおし、続けた。

「まあそういうわけですから、ルイズもちゃんと妊娠させてあげてくださいね。
 じゃないと私怒られちゃう」
「…どういうい」

どういう意味だよ、と突っ込もうと思ったが。
さすがに才人もそこまで鈍くない。
言葉の意味にがっつり気がついた才人は、脂汗をかきながら、シエスタに尋ねる。

「ま、まさかシエスタさん、妊娠してはる…?」
「ご名答♪」

言ってシエスタはぺろん、とメイド服のスカートをおなかの上までめくって見せた。
以前才人が買い与えた、小さなクリーム色の、シルクのショーツから覗く彼女の白いおなかは。
妊娠線こそ出ていないものの、軽く膨らみ、前まであったくびれを打ち消していた。

「五ヶ月で安定期に入ったんですよ。まだ服の上からじゃ分かりにくいですけども」

するってえと姫さまと同じくらいの…。

思わず仕込んだ時期を計算しかける才人。
そしてそんな才人に、黒い笑顔で詰め寄るシエスタ。

「誰の子かは言わなくても分かりますよね?」
「は、はひ」

詰め寄られ、引き下がりながら答える才人。
デルフリンガーの言ったとおり、まさに年貢の納め時であった。
溜まりに溜まったツケが、一気に噴出した瞬間である。
もうこれ以上の議論は、何の意味もなさない。
まさに才人は俎上の鯉。追い詰められた鼠であった。
後ろによろめいたとたん、ベッドに足を引っ掛けてしまい、その上にどすんと尻餅をついてしまう。

「それじゃ、デルフさんとマントはお預かりしておきますねー」

シエスタは笑顔のまま、慣れた手つきで、才人からデルフリンガーを吊ったベルトとマントを外してしまう。

「あ、ちょ」

才人が何か言おうとした瞬間。
部屋の入り口から、声がした。

「おまたせー」

湯浴みを済ませたルイズだった。
薄桃色のバスローブに身を包み、ウェーブのかかった長い髪はしっとりと湿って湯気を立てている。
わざとだろう、身にまとうバスローブの前ははだけられており、鎖骨から恥部までを晒していた。
一ヶ月ぶりの惚れた相手のあられもない格好に、思わず反応してしまう才人。
ルイズはそんな才人の視線に気づいて、わざと才人の存在を無視するようにシエスタに話しかける。

「いいお湯だったわ。ありがとシエスタ」
「いえいえー。ルイズも汗かいたまんまじゃイヤでしょ」
「まあね。あの状態けっこう疲れるのよね。体力的にはともかく、精神的に」

マントとデルフリンガーを抱えてベッドから遠ざかるシエスタとは対照的に、前を晒すことを全く気にしない歩みで、ベッドに近寄っていくルイズ。
そして、すぐに才人の前に立つ。
前が見えるのも構わず、仁王立ちである。

「久しぶりね、犬」
「ひ、ひさしぶり」

とりあえず何か文句を言うつもりの才人だったが、ルイズ本人を目の前にして何も言えなくなってしまう。
以前のルイズなら、今の才人でも反撃できたであろう。
しかし、今のルイズは違っていた。
全てを退ける究極の力を手に入れたルイズには、完璧な自信を身につけ、今や完全なる畏怖の対象と化していた。
まあ虚無の魔力などなくとも、ご主人様モードのルイズに才人が逆らえるわけなどないのだが。
ルイズは前かがみになって、ベッドに腰掛ける形の才人に、少し顔を動かせばキスしてしまいそうなくらい顔を近づける。
そして、何も言わずに半眼でじーっと才人を見つめる。

「な、なにかな」

何も言わずにまるで嘗め回すように自分を見るルイズに、背中に冷や汗をたらしながら才人は尋ねる。
ルイズはふん、と鼻を鳴らすと、大きく股を開いてどすん、と才人の太ももの上に乗っかった。
そして、才人の顎をつまんで自分の方を向かせると。

「貧相な顔。こんなのが王様なんて笑っちゃうわね」

言って、心底呆れた顔をする。
この顔を才人は覚えている。

『あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから』

ああ、思い出した。俺がこの世界に呼び出されて、最初にルイズと対面した時の顔だ。

そんな表情を見せるルイズに、才人は思わず焦ってしまう。
ひょっとしてあの時の状態まで逆戻りしているのではないか、ありえないそんな想像が才人の中で湧き上がる。
もちろんそれは、ルイズの作戦である。
才人は基本ヘタレである。どれだけ修行して強くなっても、業績を上げて出世しても、ヘタレのパンピーな部分は鍛えようがない。
これはルイズとシエスタがさんざん才人を研究し尽くして出した結論。
だから、女の子たちに迫られるとなし崩しに落とされる。まるで基礎のできていない安普請の塔である。
だが、根無し草、というのとはちょっと違う、とシエスタは言う。
才人の気持ちには基本となる部分がある、というのだ。それは、どこまでいっても揺るぎようのない部分。

『サイトさんは、ルイズが大好きなんです』

それこそが、才人の根本たる部分。シエスタが、そう指摘した。
思えば初めての夜のときも、才人はルイズのことを気にかけていた。
何度肌を重ねても、シエスタは才人の中にルイズへの想いを感じていた。
だから、シエスタはルイズも含めて、才人を愛することに決めた。
一番に愛されなくてもいい。傍にいられればそれでいい。一番の相手がいるなら、その一番の相手ごと好きになってしまえばいい。
そう考えることにした。
そして、シエスタは指摘する。

『そんなサイトさんを一撃でダウンさせる方法、思いつきました』

それこそが、これ。

『ひょっとしてルイズに嫌われてないか、俺?』

そう思わせることで、才人を精神的に不安定にさせ、そこに漬け込もうというのだ。
少し卑怯な気もしたが、とりあえずしばらくの間、才人を縛り付けておく鎖にはなるだろう。

そして今、ルイズは、最初に才人と逢った時のことを思い出しながら、表情を作っていた。
ちょっと前なら久しぶりに会った瞬間に、甘い声で鳴きながら才人に抱きついていただろう。
しかし、この一ヶ月の空白と才人を手に入れるための覚悟が、ルイズに精神的な強さを与えていたのだった。
ルイズは表情を変えず、才人の顎をつかんだまま、続けた。

「こんなのが王様になったらトリステインは終わりだわね。
 ひょっとして私ってば救国の英雄かしら」

さすがにそこまで言われて黙っていられる才人ではない。

「ちょ、ちょっと待てよ、いくらなんでもそりゃ理屈が飛びすぎじゃないか?」

顎を引きながら反論したせいでルイズの指が顎から外れる。
ルイズは一瞬ムっとして、そして、才人の頭を両側からがし!と掴む。
そしてぎりぎりぎりと指に力を篭めるルイズ。
才人はこの感触を覚えていた。ルイズの四十八のお仕置き技の一つ、ツインアイアンクローである。
ぱっと見たいしたことなさそうだが、結構痛い。

「ま、待てルイズ!落ち着け!」

慌ててルイズの腕を振り払おうとする才人。
しかし。

「いいからじっとしてなさい」

静かなルイズの声に、覚悟を決めて動きを止め、目をつぶる才人。

これ以上、ルイズに嫌われたら犬死んじゃいます。

そしてルイズはいよいよ指に力を篭め、

ちゅ。

何か柔らかいものが唇に当たる感触に、思わず才人は目を開ける。
才人の頭を両手で掴んで、ルイズは柔らかい唇を才人の唇に押し当てていた。
何が起こっているのか分からない才人に、ルイズは唇を離し、言った。

「これは、契約のキスよ。アンタが一生、私の傍から逃げ出さないように」
「え」
「誓いなさい。私のものになるって。
 そうしたら、一生愛してあげる。サイトだけを、命を賭けて愛してあげる」

潤んだ瞳。朱に染まる頬。
それは、ルイズが才人だけに見せる顔。
愛している人にだけ見せる、これ以上ない、優しい、不安な表情。
ぐらついていた才人の基部に、最高のタイミングで最も重い一撃が加えられる。
一度マイナスの極地まで堕とされた心が、一気に舞い上がる。
まさに究極の作戦であった。

「返事は?」

そして極上の笑顔。
最後の核弾頭が、才人の総司令部を融解させた。

「は、はい」
「よくできました」

今度はぎゅっと抱きついて、才人の唇を奪う。身体を前に進め、完全に才人に密着する。
才人もルイズを抱きしめ返し、その華奢な身体を抱きしめる。
二人の唇が自然と開き、お互いの舌が絡み合う。
口腔内を舌で犯しあい、二人は濃密なキスの空間で見つめ合う。
お互いの呼気すら飲み込むキスはそれほど長くは続かない。
ほどなくして二人は唇を離し、二人の間に粘液の糸が走る。
先に口を開いたのはルイズ。

「コラ犬」

相変わらずの犬呼ばわりだが、その声はあくまで優しく、才人の胸の奥を甘くくすぐる。
ルイズは甘いキスで既に濡れ始めている股間を、すぐ後ろで大きくせり出している才人の頂に押し当てる。

「発情してんじゃないわよ。ほんとにもう、どうしようもないエロ犬ね」
「む、無茶いうなよ。この状況で立たなきゃ俺不能じゃねえか」

才人の言うことは確かにもっともである。
好いた相手が、肌も露な格好で抱きついてきていて、しかも濃厚なキスをせがんできていて、勃起しないほうがどうかしている。
そんな才人の反論に、ルイズは才人の顎の先に右の人差し指を当てて、軽く上を向かせると、言った。

「ふふ。言い訳しないの。アンタはサカリのついたエロ犬なの。
 こんなどうしようもない変態犬にはお仕置きが必要だわ」

そして、身体をずらして、軽く開いた才人の足の間にもぐりこみ。
ズボンの前を開き、才人を自由にする。
完全に勃起した才人は前を開けられると勢いよく起き上がる。
そして。

「いいって言うまで出しちゃダメよ」

勃起した才人の先端に、ルイズは優しく口付ける。
そしてそのまま舌で、才人の竿をぺろぺろと嘗め回し始める。

「うあっ」

吸い付くような口全体とは違う、舌だけの優しい愛撫に声が漏れる。

「ガマンなさい。英雄なんでしょ」
「いや英雄関係な」

才人の反論に、今度は亀頭の返しの裏側を甘噛みする。

「くぁ!」
「お仕置きだからね。ちゃんとガマンしなさいよ」

言って顔の横にかかった髪をかき上げ、今度は亀頭だけを口に咥え、飴玉のようにしゃぶる。
丹念に、亀頭の形をなぞるように。
ちゅるちゅると唾液の音を響かせながら。
卑猥に、ただ卑猥に、ルイズは才人の性器の先端を愛おしく責めあげる。

「ま、待ってルイズ、俺もうムリっ」

才人の断末魔に近い声に、ルイズはちゅぽんっ、と唾液と先走りの混合液を滴らせながら才人を解放する。

「ほんとにもう、堪え性のないダメ犬なんだから」

言って、唇の端から零れる唾液をぬぐおうともせず、ルイズは才人から身体を離す。
限界直前まで登りつめていた快感を無理やり押し鎮める才人。それはもちろんルイズが『出していい』と言っていないから。
あまりにも完璧な忠犬っぷりであった。
ルイズはそんな才人を満足そうに見下ろすと、バスローブをぱさ、と脱ぎ去る。
凹凸の少ない、未成熟な肉体が露になる。しかし、その足りないものだらけの肉体は、才人にとってはあまりに神々しく、そして淫らに写った。
ルイズはそのまま四つんばいでベッドに上がる。
そして、才人に向かって形のいいヒップを突き出し、そして、右手の指だけで秘唇を押し広げる。
にちゃぁ、と粘液質な音をたてて、粘液の糸をひきながら、ルイズの陰門が開かれる。
ルイズは肩越しに才人を振り返って、あくまで強気に、言った。

「アンタが出していいのはここだけよ」

ごく、と才人は喉を鳴らす。
さらにルイズはそんな才人に追い討ちをかける。

「ほら、早くなさい。いつまでご主人様を待たせるつもりなのよ、このばか犬♪」

あまりにも淫らな命令を受け取り、才人はあっという間にズボンを脱ぎ去ると、ルイズの下半身を抱え込む。
入り口に押し当てられた雄の感触に、ルイズは一瞬、あ、と喘ぎを漏らしたが、すぐに眉を引き締め、才人に命令を下す。

「入れる前に、言うことがあるでしょ?…サイト、ほら、言って。私が言って欲しいこと」

名を呼ばれ、甘い声で懇願され、才人は答える。

「愛してる。世界で一番。大好きだ、ルイズ」

その真剣な言葉に、ルイズの一番奥がぎゅうっ、と締め付けられる。
そして、その一瞬だけ、素直な言葉を漏らす。

「私も愛してる。だいすき。サイト」

その言葉に、才人は一気に腰をルイズの突き当たりまで進める。
ずるずると膣道を削られ、ぐいぐいと膣奥を圧迫され、ルイズの中に快楽の電流が駆け回る。
その乱暴に打ち込まれる快楽の電流に、ルイズは必死に耐え、強気なルイズを呼び覚ます。

「ば、ばかいぬぅ、さ、サカりすぎ…っ!も、もっとゆっくりしなさ…いっ…!」

喘ぎを必死で押し殺し、命令を下す。
しかし、才人は止まらない。
小刻みにルイズの奥を小突きながら、ぎゅうぎゅうと硬く絞られ始めたルイズの中で快楽を貪る。

「ご、ごめんっ、で、でもとまらなっ…!」

先ほどの口淫で高められた才人の性感はすぐに崩落する。
その声とほぼ同時に、ルイズの中で才人が弾けた。
どくんどくんと撃ち込まれる一月ぶりの才人の迸りに、それまで必死に耐えていたルイズも、一瞬で達してしまう。

「あ、だめ、今ダメ、ば、ばかいぬぅーーーーーーっ!あああああぁあーっ!」

背筋を限界まで反らし、ぎゅっと才人を絞り上げ、熱く焼かれる感覚に声を上げながら絶頂するルイズ。
くたん、と互いに力が抜け、折り重なるようにベッドに突っ伏す。
そして、先に意識を取り戻したのはルイズ。
自分の髪の中でぐったりする才人に、ルイズは声をかけた。

「…ばか犬、早すぎ」
「ご、ごめん。でも、あんまりルイズの中が気持ちよくて」

不意打ち気味のその言葉に思わずきゅんとしてしまうルイズ。
しかし、こんなので終わっていては、計画は台無しである。
ルイズは、自分の中で身体と同じくぐったりしている才人自身を感じて、言った。

「で、なんで一回でこんなぐったりしてんのよ。
 サカってんならすぐ元気になりなさいよ」
「む、無茶言うなって…」

確かにもう少しルイズの中にいれば、才人の息子は復活するだろう。
しかし、一度に大量の精液を出したせいで、気だるさが才人にまとわり付いている。
流石に即座の復活は無理だった。
が。

「しょうがないわね。シエスタっ!」
「はぁい♪」

才人を背中に乗せたまま、ルイズは顔だけ上げて、シエスタの名を呼んだ。
すると、今まで部屋の外に控えていたシエスタがいそいそと部屋の中に入ってきた。

「い?シエスタいたのっ?」
「ええまあ。いい声でしたよ〜。お二人とも」
「御託はいいから、シエスタ、サイトを立たせなさい」
「はぁ〜い」

驚く才人を他所に、ルイズはシエスタに命令を下し。
シエスタはあっという間にメイド服を脱ぎ去ると、妊娠してぽっこり膨らんだお腹をかばいながら、四つんばいで才人のお尻に顔を近づける。

「ちょ、シエスタなにす」

臀部に当たるシエスタの吐息に、才人は上半身を起こすが。

「妊娠してても、こういうことはできますから〜」

シエスタは悪戯っぽく言って、あっという間に才人の肛門に舌を差し込む。
そして、右手で陰嚢をもみしだく。

「くぁ!ちょ、シエスタ汚いって!」

しかしそんな言葉に惑わされるシエスタではない。
舌をくにくにと動かしながら、あくまで優しく陰嚢を刺激する。
その強烈な刺激に、才人の一物は一瞬で復帰する。
自分の中で膨らむ雄を感じ取ったルイズは、肉食獣の笑みで言った。

「よくやったわ、シエスタ!」

そして今度は、自分で腰を振り始める。
自らの意思でぎゅうぎゅうと才人を締め上げ、膣道の最も隆起した部分で才人を削り取る。

「ちょっと、ま、まてお前ら、いくらなんでもこれっ」

無理やり高められていく焦燥感に、才人は喘ぎに近い声を漏らす。
ルイズは、そんな才人の声と、自分の中で再び膨らんでいく才人に満足そうに微笑むと。

「ほら、出していいわよっ、ばか犬の、精液、思いっきり、出しなさいっ!
 は、孕んであげる、孕んであげるからっ!
 か、感謝しなさいよ、ね…っ!わ、私に種付けできる、お、男なんて、ほ、かに、いないんだから…っ!」

言って、全身全霊の力を篭めて才人を絞り上げ、子宮口でぎっちりと才人をホールドする。
シエスタは今度は才人の尻の溝を嘗め回しながら、両手で才人の陰嚢を揉み上げた。
そして才人は。

「うぁぁぁぁぁぁああああーーっ!」

意識が真っ白になるほどの絶頂に襲われ、食らい付くルイズの子宮の中に、精液をぶちまけたのだった。

月明かりに満たされる粗末な調度の部屋。
その中央のキングサイズのベッドでは、二人の少女が一人の黒髪の男を挟んで寝転んでいた。
黒髪の男、才人は眠っていたが、顔色が悪く、うなされている。
出なくなるまで搾り取られて気絶しているのである。当然といえば当然だった。
限界まで才人を貪りつくしたピンク色の悪魔は、才人の左で頬杖をつき、反対側で仰向けに寝転んでいる黒髪のメイドに言った。

「ねえ、ちゃんと孕めたと思う?」
「大丈夫ですよ。私の計算だと今日ルイズバッチリ危険日だし。
 危険日にあれだけ中出ししまくって、できないほうがどうかしてますよ」

心配そうにシエスタに語りかけるルイズの顔は、先ほどまでの『才人のご主人様』の顔ではなく、ただの『ルイズ』の顔だった。
先ほどのあれはもちろん演技で、才人をルイズに縛り付けるための計画である。
弱ったところを徹底的に叩き、反撃の機会を与えない。兵法の初歩であった。
ルイズはシエスタの言葉に、嬉しそうに微笑んだ。

「ふふ。ありがと。これもシエスタのお陰かな。
 シエスタがいなかったら、『始祖の祈祷書』も『解体・始祖の祈祷書』も燃しちゃってたし」
「ありがとうございます。そう言ってくれるなら、手助けした甲斐もあるってもんです」
「ご褒美に、週に一回サイトを貸してあげるわ」
「え?ちょっと待って約束と違うじゃないですか!週に三回って話じゃ」
「何言ってんの、アンタ安定期じゃないの!できないじゃない!」
「何言ってんですか、お口でもお尻でも、胸でだってできますもん!」
「こ、この淫乱メイド…!」
「サカリのついた雌ネコに言われたくないですねえ。にゃん?」

最初の友情を確かめ合う雰囲気もどこへやら。
いつのまにやら恋敵の表情に戻った二人はんぎぎぎぎぎ、とにらみ合い。
そして。

「う、うう〜ん…もうムリだってば、姫さまもシャルロットもテファも…。打ち止めだってばぁ…」

どんな夢を見ているのか、とんでもない寝言をかましてしまった才人を。

どかばきぼこすか!

ルイズとシエスタはさんざんぶったたいて踏みつけて殴りつけ、簀巻きにして部屋の隅に転がして、ふん!とお互いに背中合わせに寝てしまうのだった。

そこはアルビオンの片田舎。
岩山に囲まれた小さな屋敷があるという。
とある貴族が秘密の逢引のために立てたといわれる、豪奢な作りのその屋敷は、その貴族が死んでから、放置されていた。
しかし数ヶ月前から、そこに人が住み着いた。
貴族ではないと自ら言ったその三人は、やがてその近隣の町では知らないものはいなくなる。
ある時は巨額の賞金首を捕まえ、そしてある時は近隣に住み着いた幻獣を退治してのける。
やがて数年たち、それは人の知るところとなり、その人物の正体はやがて、トリステイン王家のお触れを通じて、近隣の町に知れ渡る。
そして、町の人々は彼らの正体を隠匿し、その屋敷に近寄る者には警告を発するようになった。
なぜなら。
虚無の魔王相手に、喧嘩を売る気など毛頭なかったから。
昔も今も、『触らぬ神に祟りなし』である。

「そして、トリステインの盾はいなくなりましたとさ。おしまい」
「ねえかあさま。えいゆうさんはどうしてまおうをやっつけないの?」
「あのね、世の中には思い通りにいかない事っていうのがいっぱいあるのですよ。このお話はそれを伝えてくれているのよ」
「でも、おはなしでしょ?めでたしめでたしっておわらないの?」
「めでたしめでたしで終わらない話もあるのですよ。これからのためにも覚えておきなさい」
「でもかあさま」
「あなたが聞きたいって言ったから話したの。もうこの話はおしまいです」
「…なんでかあさま怒ったのかな。
 それに、なんであんなおはなしなんだろう。

 …とうさまのおはなしきかせてっていっただけなのにな」

『虚無の使い魔』〜fin


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Last-modified: 2009-06-07 (日) 23:33:05 (5430d)

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