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Last-modified: 2010-07-08 (木) 20:24:59 (5034d)

それは蒼から始まった物語 (14):DIE HARD バレット

 

ある深夜、どこかの場所で。

数人の男達が集まっていた。
大半はまともな類の人間には見えない。屈強な体つきはともかく、眼光や気配は揃って分かる者には感じ取れる位の剣呑さが漂っていた。
それ以外に共通しているのは彼らが全員思い思いの杖を隠し持ったメイジ――それも誰もが戦場を潜り抜けてきたメイジである事だ。
報酬さえ貰えれば老若男女、問わず躊躇い無く殺せる筋金入りの傭兵。

しかもそれぞれ少なくない規模の部下を持つ、いわゆる指揮官格である。彼らが率いる部下達もまた傭兵だ。
ただしそちらはメイジじゃない傭兵は含まれているものの、金に汚く容赦が無い点は変わりない。

「いいな、潜り込むまでの手筈は此方の仲間が整えておく。貴様らは合図があるまで絶対に正体を気づかれないようにしておけ」

そんな半径3リーグは近づきたくない集まりの中で異彩を放っていた男の1人が、白い仮面越しにそう男達に告げた。
覆面の白以外は被った鍔月の帽子からマントまで黒一色と対照的。だが周りに居る男達に比べ、かなり仕立てが良い品である事が傭兵達と男の立場の違いを示している。
が、仮面の男よりも一際目立つ男が居た。白髪に顔面に火傷の跡、眼帯を付けたラフな格好の大男も口を開いた。

「結局は皆殺しにするんだろう?その時は俺に任せてくれないか。散々焼き殺してきたが、王族やエルフの焼ける臭いは未だ嗅いだ事が無くてな」
「・・・言っておくがあくまで『事故』に見せかけて殺すんだ。我々の証拠が見つからぬよう海上に墜落させるとは云え、もし死体が見つかった時に怪しまれるような真似は出来ない」
「そうか。だが何人かは別に構わないだろう?」
「好きにしろ」

残虐な笑みを浮かべて満足げに頷きながら白髪の大男は下がった。

「いいな。貴様らも、貴様らの部下にも徹底しておけ。万が一この事に関して口を滑らせたり裏切れば、必ず我々が貴様らを探し出して皆殺しにする。
 我々の仲間はトリステインにもアルビオンにもロマリアにもガリアにもゲルマニアにも居るのだ。逃げ場などそれを肝に命じておく事だ」

仮面の男の言っている事は6割本当で4割嘘だった。
今回の計画を企てたのは確かにトリステイン・アルビオン・ロマリアに存在する勢力だが、ガリアやゲルマニアの人間は関わっていない―――
―――ガリアの王宮内は他の3国と比べ政治的にかなり平穏で入り込む余地が無く、ゲルマニアの方は貴族の立場が他と比べて些か違う分貴族至上主義がそれほど盛んでない―――
―――ので、それらの国に逃げられては追いかけるのは困難だろう。
だが言葉と共に発した殺気を浴びた傭兵達は外見上は動揺を見せなかったが、仮面の男の言っている事が全て本気であると受け取って頷きで返した。
白髪の男はただ愉快そうに笑っているのみだったが。

「なぁ、そういえば1つ聞いてもいいか?」
「何だ」
「こんなとんでもない事を俺達にやらせようとするアンタ達は一体、何者だ?」

「『レコン・キスタ』―――――ハルケギニアをあるべき形に復活させ、この手で『聖地』の真の奪還を目指す者の集まりだ」

 
 

サハラとの正式な交易が始まってから、魔法的な産業革命がガリアとアルビオンを中心に進んでいた。

特に発達したのが空船を中心とした船舶関係である。
サハラで採掘される高純度の風石は、エルフの先住魔法によって加工されるようになった。
それによってこれまでの風石よりも更に多くのエネルギーを放出・充填出来る様になり、それに伴い空船の航続距離や積載量も向上する。
加工技術の発達で船の強度や規模も発達し、それはガリア・アルビオン共同の新型巨大空船開発プロジェクトの発足まで引き起こした。

・・・・・・その成果が今、サイトのすぐ足元に存在している。
というか、ぶっちゃけ彼が今乗り込んでいる空船がそれだった。

技術としてはサイトの居た地球に遥か及ばないにも関わらず、ハルケギニアの船でこれだけ広い空間を内部に有した船はサイトは初めてだった。
少なくとも魔法学院の食堂ぐらいはあるかもしれない。内装の豪華さは王宮に並ぶとも劣らない。
最初外から全体図を見た時、サイトはテレビで見た地球の豪華客船を思い出した。確かにこの船はそれぐらいの大きさはある。
もっともその頃はテレビ越しに中身を拝めるぐらいで、実際に自分が乗り込めるなんてこれっぽっちも想像してなかったり。
そもそも異世界に来て王家の少女達相手にハーレム作っちゃうなんて事自体ちっとも予想してなかったんだけどね?

「いやでも、船の名前がなあ・・・」

『タイタニック』って何だよ。いやいやこの世界じゃ悲劇の豪華客船の事なんて知られてる筈も無いんだけどさ!
ナンテコッタイ/(^o^)\と内心頭抱えつつこうなりゃ気にせず楽しめとばかりにワインを煽ろうとすると。

「おやぁ〜〜〜〜〜!?たのひんでないのかひ、さいひょ〜〜?」
「・・・いや、何でそんな酔っぱらってるんだギーシュ」
「い、いひゃね、アンリエッタおうひょでんかやウェールズこうひゃいしやジョゼフおーやきょうこうしゃまみたいにゃこうきなかたたちをお傍で目にひて、きんひょうした挙句ぶれーな真似をしないふょうほぐひておこうかと」
「むしろ顔真っ赤で千鳥足な方がダメダメじゃねお前?」

呆れて飲もうと思ったワイン入りのグラスに口を付ける事無く、サイトはテーブルに戻してしまった。
まーギーシュの気持ちも仕方ねーのかもなー、と思い直しながら視線を転じ、揃いも揃って無駄に金ぴかだったり高級そうだったりする衣装に身を包んだパーティ客を見まわした。

サハラ・ガリア・アルビオン共同で作られた新型巨大空船『タイタニック』号、そのお披露目兼初航行を祝うパーティがこの場で行われている晩餐会の正体だ。
国家どころか王家が中心となって行われたのだからそのお披露目にそれぞれの王家の象徴であるジョゼフやウェールズ達がこの場に居るのは当たり前の事だった。
2国間の王家の人間のみで無くアンリエッタやギーシュといったトリステイン、ヴィットーリオや副官扱いのジュリオみたいなロマリア、キュルケといったゲルマニアの人間も出席している。
将来ウェールズとアンリエッタが結婚するのは確実だからアルビオンと親戚付き合いになるトリステインの人間も呼ばなければ拙いだろうという点や、
一部のトリステイン・ゲルマニアの人間にとってはギーシュやキュルケが魔法学院でイザベラやティファニア達と友人であるのを考慮し、それ経由でもガリア・アルビオンと関係を築いておこうという考えもあった。

といってもそれぞれ送り込まれる以前に、ギーシュやキュルケにはイザベラ達から今回のお披露目パーティの招待状を貰ってたりする。
なお、キュルケにお願いされて学院での恩師でもあるコルベールも御呼ばれされてたりするが、現在晩餐会会場に彼の姿は見受けられなかった。
局地的に眩しいお蔭ですぐ見つける事が出来る筈なのに。
オールド・オスマン?ギャグで滑られたり下手に他国の御偉い様にセクハラしかねないので却下。

ロマリアの方は招待状が送られていた事があるが、これにかこつけてなんでもロマリアの大聖堂に保管されていた貴重かつ珍しい『東方』由来の品物を寄贈にしに来たらしい。
始祖ブリミルの悲願(とされているが実際はどうなのやら)である『聖地』・・・・・・
条件付きとはいえそこへの到達が可能となり、尚且つ天敵である筈のエルフとも友好関係を結んだ、その功績を称える為だとか何だとか。
それらは現在、この船の保管庫に厳重に仕舞われている。アルビオンに到着後、教皇自らロンディニウムの宮殿に輸送する予定だ。
航行ルートは1〜2週間程度の期間をかけてアルビオンからガリア、そしてサハラに向かう事になっている。
最終目的地のサハラに於いてはそこに住むエルフ達と、更なる親交の為の協定を結ぶ事になっていた。

ちなみにせっかくロマリアが独自に集めた貴重な品々を他国に贈ってしまう事に一部反対意見はあったらしいが――――
ある意味ハルケギニアの最高権力者にそう逆らえる事も無く今に至ったという。
前までは穏やかな物腰ながら『聖地』奪還を唱えていた彼(彼女)のいきなりの方向転換に、周囲は戸惑っているそうな。
ま、実はヴィットーリオとジュリオが女である上に既に某当代のガンダールヴによって籠絡済み(語弊有)なのも知らないんだから仕方ない。

・・・・・・というかさっきからお2人、サイトに向けて熱い視線を送ってますが浴びてる本人を除き無害です。
止めて、傍には居ないけどイザベラとかシャルロットとかマチルダとか微妙に怪しんでるから!
ティファニアだけが純粋に首を傾げて不思議がっているのが救いだった。

VIPが多数乗り込んでいる『タイタニック』だが、実の所この巨大船そのものには警備の兵はほとんど乗り合わせていない。

友好を深める為の催しでありながら剣や銃を携えた兵に囲まれていては招いたり招かれたりした側にも関わらず逆に喧嘩を売っているようなもの。
こういう場合、警備はそう目につかないが何か起きた場合守るべき相手の元にすぐに駆け付けれる位置に潜んで目を光らせているのが通例だ。
だがそれはあくまでそういった場がある地上の場合であって・・・幾ら従来よりも遥かに巨大とはいえ、空飛ぶ密室である空船が舞台だとまた別の話。
幾らなんでもスペースや物資が限られている上に、乗客の過ごしやすさを優先しているのだから尚更余計なスペースも無い。
それに今回は他国の王族や代理で送り込まれてきた名家の貴族達も居る為、本来ならその警護の為に付いてきた別の国の兵士達と大した打ち合わせも無く手を組まなければならなくなる。
国によって指揮系統も違ってくるので必然、現場が混乱するのは目に見えていた。

だからこそこの場合、守るべき対象を拡大解釈して護衛にあたる事になったのだ。
すなわち、守るべき対象をジョゼフ達王族や招待客個人個人ではなくそれら全員が乗り合わせている『タイタニック』とし、その周囲が各国から派遣された軍艦により護衛する。
その方が守る側からしてみれば余程やりやすかった。基本他国の軍人と顔を突き合わせなければその分ぶつかり合うきっかけを作らずに済む。
元より『タイタニック』に乗り込んでいる船員や従者達は厳選された者達だ。暗殺者などの類が潜り込む可能性は低く、空の上である以上逃げ場も無い。
仮に軍艦による襲撃があったとしてもこの船にはハルケギニアの主だった国全ての権力者達が一堂に会しているのだ。
何処かの国が手を出せば最後、残りの国が総力を挙げて喧嘩を撃ってきた国を殲滅するのは想像に難くない。空族も、言わずもがな。

――――なによりハルケギニアの権力者の頂点とも言える王族に牙を剥こうとする相手などいる訳が無い、という考えがあるのも、否定できなかった。

・・・・・・・・・これまでは。

 
 

付近の空域の哨戒と途中までの護衛に当たっていた、トリステイン空軍の軍艦が引き返していく。
入れ替わりに『タイタニック』の進行方向から近付いてきた軍艦があった。
アルビオンが誇る最大級の軍艦『ロイヤル・ソヴリン』と、半分以下のサイズだが機動性はアルビオン空軍随一の『イーグル』号。
アルビオンの領空に『タイタニック』が進入したのと、トリステインからの護衛艦隊に搭載された風石の残りが引き返し限界地点を迎えかけていた為、
ここから先の『タイタニック』の護衛はアルビオン空軍の管轄となる。
ちなみに『タイタニック号』自体は大型化に伴う積載量の大幅な増加と風石自体の強力化の恩恵を受け、航続距離に至っては無補給でハルケギニア全土の往復が可能とされている程だ。
もちろん、乗員乗客の為の物資の補給はまた別だが。

「へくしゅっ!」

現在の高度3000メイル。長時間見張り台に陣取る者にとって分厚いコートもしくは毛布は必須である。
更に『風』のメイジなら障壁を張ってもう少し寒さを緩和できる。しかし青年はメイジとは云え別の系統だったのが今回ばかりは不運だった。
マストの先端に設けられた見張り台で身を縮こめさせていた若者は鼻水を拭った。退屈かつ肉体的にも辛いこの仕事を押し付けた士官の文句をぶつぶつ漏らしながら。
とはいえ重要性も分かっているのでほっぽり出す訳にはいかないのがまた苦痛なのだ。
今頃命令を押し付けた士官は食堂で温かいスープでも飲んでるだろうに・・・

「おーい!ちょっと下りてこーい!」
「ぁあ?何だ?」

下を覗き込むと、誰かが手を振って降りて来いと合図している。
遠いし夜だから暗いしで顔は判別できないが、少なくとも士官服を着ている事だけは分かったので嫌々下に降りる。
相手は士官こちらはまだ下っ端、命令不服従で食事抜きは勘弁こうむりたい。
――――もっとも直後、青年が食事を必要とする事は今後金輪際無くなる事態が発生する。

『レビテーション』でふわりと見張り台から危なげなく飛び降りる青年メイジ。
彼を呼んだ士官は見覚えの全く無い顔だったが、今回の護衛任務で人員配置がかなり変わっていた為に不審に思う事は無かった。

「見張り台に立ってたのはお前だけか?」
「そうであります」
「そうか、なら良いんだ」

見知らぬ士官はおもむろに片手を上げると軽く振り。

――――――青年の背中に軽い衝撃。直後、胸元と背中が無償に熱くなる。
え?と見下ろし・・・・・・自分の胸から生えた岩の矢にようやく気付いたのが青年の意識の最期だった。

青年の背後から音も無く別の男が現れる。その手には杖。
杖が振られると青年の死体が浮き上がり、見えない手で放り投げられたように死体は船縁から大空へと打ち捨てられた。
下手人達以外の目撃者は誰も居ない。

「これだけか?外に居る連中は?」
「ああ、だろうな。食堂に集まった連中はどうなった?」
「全員スープに仕込んだ毒でお陀仏さ。流石にそいつら全員空から放り出すのは手間だから仕事が終わるまで食堂にほったらかしだとよ」

―――――人知れず、『ロイヤル・ソヴリン』は何者かの手に堕ちる事になった。


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