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Last-modified: 2012-03-15 (木) 05:46:09 (4424d)

トリステインの牢屋に一人の男が入って来る、装束は牢に似合わぬ風体。時間は深夜丑三時
ある牢屋にて足を止める
「土くれのフーケだな?」
牢の中の影は、精気の無い顔を男に向けると、そのまま人形に戻る
「え?何で?」
キィ
「お、あったあった。そろそろ効果切れるから回収しよって思ったら、案の定だったね」
「な、風のスクウェアであるこの私に気付かせないとは、何者だ貴様?」
男は杖を構えるが、女は気にも止めない
「誰でも良いんじゃない?アンタのお陰で楽に忍び込めたから、誰にも言わないでおくよ。じゃ、バイビー」
「な、ちょっと待て、この私を無視するな!」
スタスタ去る女を、男は慌てて追いかける
「だから、待てと言うのに」
「煩いね。アタイは此でも忙しいんだ。アンタに構ってる暇は無いんだよ。まともな仕事探さないといけないんだ」
「そういう事なら、私がまともな仕事を紹介しよう。だから私を無視するな」
「断る」
「何?」
くるりと振り向き答える
「こんな時間にフーケに声かける様な、怪しい奴の仕事なんてご免だね」
くるりと振り直り、スタスタ歩きだす
「私は怪しくなぁい!!」
「充分怪しいじゃないか」
その後もしつこく声をかける男に対し、相場の3倍をふっかけ、前金5割じゃないと仕事しないと言い切り、了解を取り付ける
「…あの、もう少し安く」
「じゃ、他当たりなよ」
「…暫くパンの耳と水だけだな」
ガクリとうなだれる
「じゃあ明日、彼処の酒場に前金払いに来たら契約成立ね」
「わ、解った」
女はそのまま踊る様に歩く
『よっしゃ。これで余裕出来たら、借り返しに行けるね』
鼻唄を出し、腕をフリフリ、腰をフリフリ、宿に戻って行った

*  *  *

「あら、ルイズお使い?ダーリンが行くなら私も行くわ、タバサも一緒に行こう。シルフィード居ると便利だし」
「…解った」
「ルイズ、姫様の依頼だって?何で僕に、声をかけてくれないんだい?断られても、ついて行くよ」
「あら、私は戦わないわよ。それでも良いの?」
上から、押し掛け,便乗,押し売り,ルイズからの依頼の順である
街道を珍道中する一行、酒場にて酔客とトラブルが起き、才人が抜きかける
「酔客相手に抜くのは、どうかな?」
其処に一人の貴族が割って入る
青い羽帽子にマント、仕立ての良いシャツに同色のパンツ、腰にはレイピアを下げている
鍛え抜かれた証の偉丈夫。モダンな口髭を生やし、印象は気障の一言
「ワルド?」
「何?ワリオ?」
「姫様の依頼書にあった同行者って、ワルドなの!?」
「ワリオとワルドじゃ、髭親父って共通点しか無いな」
うんうんと、才人は一人頷く
「ギーシュ、才人が何を言ってるか解る?」
「僕程度に、才人の思考を理解出来る訳無いだろう?」
ギーシュは肩をすくめる
「主人、このテーブルに、エールを振る舞ってくれ。私の連れが迷惑をかけた」
ピンと金貨を弾き、店主は受け取る
「こりゃあ良い。話が解る貴族様だ」
ジョッキを手にした酔客は、忘れる事にした様だ
「こんな所で逢えるとはね。始祖ブリミルのお導きかな。僕のルイズ」
ワルドはルイズの肩に手をかけようとするが、ワルドとルイズの間に刃が走り、動きを止める
「何のつもりだ?」
「今度は酔客じゃないから、構わないだろう?」
「ほう」
ワルドの眼に、剣呑な光が宿る
「君はルイズの何かね?」
「使い魔だよ、色男」
「僕はルイズの婚約者だよ、使い魔君」
「そうかい。ご主人様に触れないで頂こうか?」
『この前の本気なんだ?あたしってば、罪なオ・ン・ナ』
「しかし、随分珍妙な格好した使い魔だな」
「ライディングジャケットは、通気性と運動性に優れた軽量防具だよ。着飾るのは、此処に要るような、可愛い女のコ達だけで充分だ」
それを聞き、
キュルケは当然と言った態度
モンモランシーは満更でも無い様子
タバサは無表情だが、キュルケから見たら喜びの表情を
ギーシュは落ち込む
「僕はどうでも良いのか・・」
そして、何故かルイズは怒っていた
「才人、剣を収めなさい」
「嫌だ」
「剣を収めて」
「嫌だ」
「私の婚約者なのよ?」
「それがどうかしたのか?」
才人は気にも止めない
「な、何で、言う事聞かないの?剣を収めなさい」
「銘で呼ばないで良いから、せめて刀と呼んでくれ」
「別に剣でも良いでしょ?」
「日本刀は俺の国の美と強さの象徴だ。村雨は、俺の国に繋がる、か細い蜘蛛の糸だ。貴族ってのは、自分の誇りだけで、他人の誇りには敬意を払えないのか?」
「そんなの今はどうでも良いでしょ?とにかく剣を収めなさい」
「嫌だ」
「使い魔君。君の言い分と仕事熱心さは解った。ここは僕が引くから、その剣、刀と言ったか? とにかく収めてくれないか?」
ワルドが言う通り下がったので、才人は村雨を鞘に戻す
才人はテーブルのエールをブン取り、一気に飲む
「才人、それ僕のエール」
「残念だよ。ミスヴァリエール」
カウンターから酒を受け取り、階段を登って行く
「聞いた?」
「今、ミスヴァリエールって」
キュルケとモンモランシーは、顔を見合わせた
「一体何なのよ?もう」
「…解らないのなら、貴女は自分自身で思うより、ずっと幸せな人間だって事」
テーブルの料理を殆ど平らげ、タバサは立ち上がり、部屋に戻って行く
「ヴァリエール。残念だけど、私もタバサと同意見だわ」
キュルケも席を立つ
「僕もそう思うな」
「私もよ」
ギーシュとモンモランシーもそれに続く
「…どういう事?」
皆が部屋に去り、ルイズとワルドが残された
「ルイズ、二人きりになってしまったが、再会を祝おう」
「今はいい、あたしも部屋に戻る」
「そうか。では、また明日だ。私のルイズ」

酒場の2階が宿になっており、女性陣と男性陣で部屋が離れている
部屋割りは、
ルイズとモンモランシー
キュルケとタバサ
才人とギーシュである
モンモランシーが才人達の部屋に行くと、扉の前でギーシュが立っていた
「ギーシュ、扉の前で何してんのよ?」
「モンモランシーも来たのかい?キュルケもタバサも来たんだけど、才人に追い返されちゃって、僕も入れてくれないんだ」
「明日にはちゃんとするから、今は独りにしてくれって」
「そう、才人、入るわよ」
「来るなっ」
ガチャッ
モンモランシーが入ると、才人がベッドの上で、一際強い蒸留酒の瓶を直接煽っている
「来るなっつったろうが」
才人の側にはすぐに向かわず、隣のベッドの毛布を取り一度出る
「はいこれ」
「有り難う。モンモランシーはどうするのかい?」
「此処に居るわ」
「…意味解って言ってる?」
「勿論。でも多分無理ね。才人はどんな時でも優しいもの」
「それでもかい?」
「私を取られるのが嫌?それとも貴方がしたいから?」
「…聞こえてる状態で、言わせるつもりかい?」
「貴方も早く楽になりなさいな」
「出来るなら、そうしてるさ」
「じゃ、お先にね」
パタン
「…僕も楽になりたいよ、才人」
ギーシュは毛布の前を合わせ、冷える夜に備え寝る姿勢に入った
「今のは例の会話だろう?何で俺に聞かせるんだ?」
「原因があんただからよ」
「そうか」
「聞かないのね」
「今の気分じゃ聞きたくない」
酒を煽る才人
「部屋に戻れ」
「嫌よ」
モンモランシーはベッドに歩み寄り、腰を降ろす
「ねぇ」
「……何だ?」
「帰りたい?」
「解るのか?」
「解るわよ。じゃないと、ルイズの言葉に其処迄、反応しないじゃない」
「……ふぅ、俺もまだまだだな」
酒を呑む手は緩めない
モンモランシーは深呼吸してから話しだす
「私は、あんたに居て欲しいと思ってる」
「…」
「あんたが来てから、学院の雰囲気が凄い変わったのよ?解る?」
「俺が来る前なんざ、俺に解る訳無いだろ」
「それもそうね」
クスっと笑ってから、モンモランシーは続ける
「まず、雰囲気が変わった。何かを馬鹿にした様なのが、凄い減った」
「平民なのにメイジに勝った。それだけでも凄い」
「…ありゃ、ギーシュの温情だ」
酒を呑む手を止め答える
「あんたが何かやる度に、皆、自分が何かをおろそかにしてる事に気付かされた」
「あんたは貴族平民男女の別なく等しく接した。使い魔に対し、私達がおろそかにしてた部分(※1)を気付かせた。あれで、あんたを馬鹿にするのは居なくなった」
「…ありゃ元々、マルトーの親父さんがやってた事で、俺は代理だ」
「その料理長が言ってたじゃない『俺でも彼処迄は考えて無かったし、あれだけの使い魔達に合わせた食迄、考えてらんねぇ。やっぱり我らの剣は凄ぇ』って」
「…何で知ってる?」
「あんた、何時も午前中はルイズの洗濯とか含めて、大抵授業に居ないでしょ?昼前にロビン含めた使い魔の大半が、消える様になったのよ。それでラインを繋いだら、何時も昼時にあんたに食べさせて貰ってたわ。他の使い魔の主人達も同じじゃない?」
「…バレバレか」
「バレバレよ。只の平民と思ったら、私達には無い見識と教養を身に付けた人間だと。皆が気付くのに、そう時間はかからなかった」
「ギーシュのワルキューレを褒めたでしょう? ギーシュは凄い喜んでたのよ」
「変か?」
「変よ。ゴーレムの説明受けたでしょ? ギーシュのは、ゴーレムとしては無駄が多い欠陥品なのよ。メイジとしては、けなしはしても、評価はしないわね」
「あんなに綺麗じゃないか」
「其処よ。あんたは私達に見えて無いモノが見えている。良いことは良いと言い、悪い事は悪いと言う。誰が相手でも曲げず、決して引かない」
「あんたは仕事だからと言って、皆が怯む事にも敢然と向かい、一番危険な事を進んで行った」
「コルベール先生が、あんたの話目当てで勉強会に来てたでしょ? 私はあんたが来る迄、只の変人だと思ってた」
今でも変人扱いだけどねと、付け加える
「コルベール先生があんたのリクエストに答えて、それにあんたが更に別の方法を提示して、それを先生がまたやって。キュルケやタバサも目を丸くして」
「メイジでも無いのに、何故そんな事が出来るのか、私には理解出来なかった」
「そんな中でも、一番変わったのは、ルイズよ」
「あんたが来る前は、失敗失敗また失敗。何をやっても、ゼロ、ゼロ、ゼロ。浴びる言葉は嘲笑,冷笑,侮蔑に無視。寄って来るのは、大貴族の名前目当てのおべっか連中」
「正直、視線合わせるのも辛かった」
「でも、あんたは違った。小さい事でも褒めた。とにかく褒めた。魔法だけが全てじゃないと言い、実際にそうして見せた。身を以って教えた」
「フーケの時にルイズが指揮をしていたんですってね。『サイトが教えてくれたから、あたしにも出来る事があるの』って、凄い喜んでたわ」
「…」
「その後、あんたが担ぎ込まれた時、『あたし一人、撤退判断間違えたせいで、サイトに大怪我負わせた』」
「『モンモランシー、サイトを治して。今これしか無いけど、必ず全部払うから』って大泣きしながら言ってきて、見てられなかったわよ」
「…」
「最近のルイズの話題はね、殆どがあんたの話題よ。今日はあの女が、あたしの使い魔に近付いたって話が、殆どだけどね」
クスクスと笑う
「でもね、最後に必ずこう言うのよ。『サイトはハルケギニア最高の使い魔よ。始祖ブリミルでも、サイトには遠く及ばない。私、全ての運をサイトを喚ぶ為に使っちゃったみたい。でも大丈夫。サイトが居るんだもの』ですって」
「毎回言うから、すっかり憶えちゃったわ」
「…あんにゃろう」
「それでも、……帰りたい?」
「…やり残した事が有るんだよ」
「恋人?」
「あちらには居ないよ」
「じゃあ、此方で出来たんだ」
「何でそうなる?」
「あちらではって、言ったじゃない」
「なら、訂正だ。恋人は何処にも居ない」
モンモランシーは才人に寄り添う
「私じゃ、駄目?」
「は?」
「私じゃ、…駄目?」
「ギーシュはって、関係無いんだったな」
ふぅと、溜め息をつく
「俺は、使い魔だ」
「知ってる」
「俺は、異邦人だ」
「知ってる」
「俺は、今の状態じゃ、いつ死んでもおかしくない」
「知ってる」
「貴族は、貴族同士婚姻するのが常なんだろう?」
「関係無い。あんたを知ってしまった。あんたが良い」
「俺には、女を愛する余裕が無い」
「構わない。私があんたを愛せば良い」
「後悔するぞ」
「あんたの側に居られない方が、ずっと嫌」
「浮気したらどうする?」
「あんたは、モテるから覚悟する」
「何を?」
「…相手を、許す事を」
「俺は許さないのか」
才人は笑う
「えぇ、そうよ」
「良い女だな、モンモン」
「あんたには、勿体無い?」
「ああ」
「そうやって、逃げる積もりでしょ?」
「ありゃ、もうこちらの手品のタネを見抜いたか」
「ええ、そうよ」
モンモランシーから才人にキスをし、服を脱ぎ全裸になる
「ねぇ、私綺麗?」
「ああ」
「どこが綺麗?」
「流麗なスタイル、形の良い胸、引き締まった腰、小ぶりで丸い尻、美味しそうな太ももが堪らん」
「ソバカスは?」
「とても可愛い」
「匂いは?」
「今まで嗅いだ事無い、魅力的な匂いだ。正直クラクラする」
「私の最新作よ。あんたに喜んで貰えて、とても嬉しい」
モンモランシーは、そのまま才人に抱きつき、言う
「あんたの匂いも素敵」
「酒臭い男がか?」
「あんたの匂いは全て好き。私にとって最高の香水よ」
「変態だな」
「こうしたのは、あんたよ」
「…そうか」
「ねぇ、抱いて」
「あぁ・・・」
「どうしたの?」
「スマン、呑みすぎた。起たねぇ」
「なら、水魔法で」
杖を取るモンモランシーから、才人は杖を取り上げる
「止めてくれ、今シラフになったら落ち込む」
「臆病者」
「落ち込んだら、結局出来ないぞ」
「あっ、そうか」
「…なら、このまま一緒に寝て良い?」
「あぁ、服着ないのか?」
「嫌よ、あんたも脱いで」
「解ったよ」
二人して裸で同じベッドに入る
「ねぇ」
「何だ?」
「次は、お願いね」
「あぁ」
「オヤスミ」
モンモランシーは才人の腕の中で眼を閉じる
「オヤスミ、モンモン」

*  *  *

(※1)シエスタの日記1、2を参照


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Last-modified: 2012-03-15 (木) 05:46:09 (4424d)

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