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Last-modified: 2012-03-15 (木) 13:33:55 (4417d)

アニエスが才人の稽古に本格的に着手し始めたのは更に二日後である。魔法剣が届かないので待っていたのだ
これは、アンリエッタが先にやらせようと逸ったのを、その日に帰ったアニエスが、才人の言葉通りだと、諫めたからである
アカデミー担当のスタッフは、アニエスから言付けを預かる際、目に隈を残し、疲れた仕草で礼を言ったのを見て、言っておいて良かったと確信する
「全く、殿下も職員に気を回す様にして頂かないと」
「まだ、殿下は17だからの。それに自身の猶予が決まっていては、致し方あるまいよ」
アニエスに話しかけたのはマザリーニ宰相
王不在のトリステイン王国を動かしてる人物で、鳥の骨と揶揄されているが、手腕には定評が有り、手堅い執政を行っている
「結婚ですか」
「うむ、ゲルマニア皇帝と決まった」
「親子程も歳の違う男ではないですか。巫女役は?」
「ヴァリエール嬢にと、殿下の仰せでね。これを渡して来て貰えないか?」
「これは?」
「始祖の祈祷書と水のルビーだ。巫女が使う物でね」
「解りました」
「所で殿下の命令で稽古をつけてる人間の使い魔は、アニエスから見てどうだね?」
「解りません」
「どういう意味だ?」
「私程度では推し量る事なぞ、とてもとても」
「具体的には?」
「私自身が、彼の会話の中身に、付いていけないんですよ。それができるのは学院の教師ただ一人だけですね」
「アカデミー向けの人材か?」
「剣士としても、メイジ殺しと言われる、超一流になるでしょう」
「それはそれは」
「それに料理人としても一流と、学院の料理長が太鼓判を押してます」
「は?」
「メイドに聞いたら、裁縫の腕も一流だそうです。仕立て屋も開けると」
「何?」
「洗濯掃除をやらせたら、自分達も敵わないと、メイド達が溜め息ついてました」
「はぁ?」
「使い魔達からの支持も絶大で、彼を理由無く攻撃すると、全使い魔から報復されると聞きました」
「………何者なんだ?」
「だから、解らないと申しました」
「……確かに」
「ああ、それと気になったのが」
「何だ?」
「食事の前にこう手を合わせて、頂きますって言うんですよね。全く違う文化圏だってのが、それだけでも解りましたよ」
「ほぅ」
「まだまだ、出して無いモノが出てきそうです。それでは」
「ウム」
アニエスが去った後、マザリーニは顎を撫でながら、一人呟いた
「………現であって欲しいモノよ」

*  *  *

アニエスの剣の稽古は正に苛烈を極め、しかも所構わず授業中の教室で迄仕掛ける状況に、才人は学院全員から苦情を言われるハメに陥った
だが、苦情を出した瞬間を狙ったかの様にアニエスが稽古を開始する為、苦情を言った者が巻き込まれるという事態が頻発し、稽古が始まると全員が剣劇が移動する迄退避する様になった
学院長は
「元気があって宜しい」
と、一切気にしない態度を一貫しており、逃げ出すしか手段が無いのである
剣が人にダメージを与えないにも関わらず、巻き込まれると悲惨な状況に陥るのは、組み打ちと回避手段の盾として、平然と使われる為である
「ちょ、待ってアニエスさん」
「待つ敵なぞ居るわけ無いだろ、才人!!」
「だぁ、その通りですがぁ!?」
「おわぁ、才人こっち来るなぁ!!」
「隙あり!!」
蹴りを放つアニエス
ボゴッ
「ぐぁっ!?」
「ふぅ、助かった」
「……マリコルヌ盾にしやがったぜ」
「…本当に何でも有りだな」
「よっしゃ、此方の番だ」
「まだまだ、そんなしょっぱい2刀で何とかなると思うな!!」
「でぇい!!」
「甘い!!」
ガン、剣同士激突
「隙あり!!」
回し蹴りを放つ才人に、横っ飛びで回避するアニエス
ぼぐっ
「あがっ」
「今度はレイナールだぜ」
「あの二人、何故か良く居るよな?」
「マリコルヌはあれな趣味だから解るとして、何でレイナール迄」
「実はあいつもなんじゃね?」
「かもなぁ」
避難しながらも、自分が巻き込まれさえしなければ最高の見せ物なので、見物する生徒達である

「ちょっと、アニエス授業中でしょ?」
「敵はそんな事気にしないぞ、行くぞ才人!!」
「だぁ、マジ勘弁!?」
「お前が私を教室から追い出せ!!」
ギンガンギン
「どっせ〜い!!」
体当たりする才人
「ふん!!」
軽くかわしたアニエス突進した先には
「止まれ才人〜〜〜〜!!」
ドガッシャァ
「今度の被害者はギーシュかよ」
「早く、特訓終らんかね」
「………だが、そこもいい」
「何か言ったか? レイナール」
「嫌、何も」

放課後は舞姫の訓練で、才人達に協力してくれる生徒達が、楽器を用意して待つ
「あんな目に遭いながら、協力してくれるとはね。マジ感謝だよ」
「シュヴァリエは任務だから聞く耳持たないし、使い魔が世話になってるし、何より、早く終わって欲しいんだよ」
「「「全くだ」」」
生徒達が頷く
「あはははは」
才人は乾いた笑いを返すしかない
「指揮は誰がする?」
「僕がやるよ」
「それじゃ音合わせ〜、はい」
ジャ〜ン
「良しオッケー。才人、シュヴァリエ。此方は準備完了だ」
「手順は憶えたな? 才人」
「はい」
「じゃあ、最初から最後迄流すぞ。ミスタグラモン、宜しく頼む」
「行くよ〜」
キュルケがピアノを弾き、ルイズ,ギムリ,レイナールが主旋律を奏で、マリコルヌが太鼓を叩き、タバサ,モンモランシーがバイオリンソロをデュオで奏でる
その旋律に乗って、才人とアニエスは踊り出す
一曲終わった後
「ふむ、何で始めたばかりで、そんなに馴染むんだ?」
「アニエスさんの手本を、まんま真似してるだけだけど? それに、今迄握って来た時の経験が、活きてる感じもするんだよなぁ。デルフどう思う?」
「相棒、経験は自身に返るからな。蓄積された経験は、使い魔でなくても成果は出るだろうよ」
「成程ね、デルフ。ってぇと、真剣で練習するのも、メニューに加えた方が良いのか? アニエスさん、どう思う?」
「真剣じゃ、私が圧倒されるからな。舞姫なら大丈夫じゃないか?」
「なる。それじゃ、真剣でやってみよう。ギーシュ」
「解った、皆大丈夫か?」
「…お茶」
「あたしもよ、ダーリン」
「悪い、お茶の時間だった。アニエスさん、休憩にしましょう」
「ふむ、そうだな。一服してからでも良いか」
「皆さん、準備出来てますよ〜」
「シエスタ、いつの間に」
「舞姫を見ながら出来るなんて、素敵な時間は中々無いですからね。喜んで給仕させて頂きます」
既にテーブルが運ばれ、シエスタを合わせてメイドが三人程、スタンバっていた
どうやら演奏中に、準備していたらしい
「それじゃ、お茶とお菓子で一服だ」
皆頷き席に着いた

本日のメニューを終えた後、才人は一人森に行く
常にまとまってだと、厳しいお仕置きが待っている為、時間をずらしたりしてるのだ
「二人共、先に来てたのか」
「あぁ、モンモランシーは薬や香水に詳しくてな、色々教えて貰ってた所だ」
「アニエスさんでも、匂い気になるんだ」
「ん、まあな」
「この馬鹿たれ」
モンモランシーは才人の頭を思い切り叩く
「あだ」
「あんたの側だからに決まってるじゃないの」
「痛ぅうううう。今何か言った?」
「何でも無いわよ、馬鹿」
「何か理不尽に感じるんだけど?」
「イイヤ、今のは相棒が悪りぃ」
「そりゃ、悪うござんした。二人共準備は?」
「ん、ちょっと待て」
アニエスは装備を全部外す
「えっと、何で丸腰に?」
「邪魔だからに決まってる」
「はぁ、ま、いっか。じゃあ、今日もいきますか。モンモン」
「良いわよ」
「デルフ」
「おぅ」
「アニエスさん」
「何時でも」
「行くぞ」
才人が一瞬消え、直ぐに現れると剣を地に突き立て、ぶっ倒れる
木の幹には無数の太刀筋が刻まれ、また一回り細くなった
「才人、此方向け」
身体が動かない才人を振り向かせ、アニエスは口移しで薬を飲ませる
二度三度四度。四度目には、そのまま口に舌を侵入させ、胸を密着させる様に抱く
その状態で、モンモランシーは治癒を詠唱した
暫くするとアニエスの舌に舌が絡まり、更にアニエスの口腔内に舌が侵入する
するとアニエスは更にキツク抱き締め、暫く抱擁を楽しんだ
「ふぅ、何で貴様は巧いんだ?」
「知らんっちゅうに」
「………その、何だ。今日の私はどうだ?」
アニエスが何かそわそわしている
『ん〜、良く解らんが、何かに気付いて欲しいのか? ん、あれ?』
アニエスから香りがする。普段は汗そのままで、其処が逆に才人には好評だったのだが
『ん〜、確かに良い事は良い。多分モンモンの入れ知恵か? でも何時もの匂いのが良いな』
「もしかして、香水付けた?」
「あ、ああ、どうだ?」
『普段凛々しい所ばっかだから、これは非常に萌える』
「良いと思うよ。でも…」
「やはり、私には似合わないか」
落胆するアニエスに憤慨したモンモランシーは、才人に杖を向ける
「先走るな、落ち着け。モンモンも杖向けるな」
「……でも、何だ?」
「やっぱり、気付いて無いのか。アニエスさん、そのままでも充分に良い匂いだよ」
「……嘘つけ」
「本当だって。アニエスさんの匂いマジで好きだよ。香水付けると消えてしまう」
「私は汗臭いだろう?」
「アニエスさんの匂いは、魅力的なんだって」
「本当か?」
「本当だって」
「そうか」
アニエスは明るく微笑む
「…才人」
「どした、モンモン」
「…今の本当?」
「ああ」
「……そう」
明らかに青い顔をしている
『あ、しまった。モンモンは香水だった』
「ま、待て。モンモン」
「何を待つの? 私の香水は、シュヴァリエの香りに負けてしまうもの」
「モンモランシー。才人はそんな事言って無いが」
「言ったも同然よ。私は水メイジ。二つ名は香水。匂いに惹かれるのは、牡の本能だと知っている。私よりシュヴァリエの方が、才人には魅力的なの」
「だ、だが」
「私はそばかすよ。胸も無いわ。其でも匂いやスタイルにはとても気をつけてた。才人に褒められて抱かれた時、私、凄い嬉しかった。才人の腕の中はね、一番安らぐの」
「でも、何? シュヴァリエは、私の努力を全部あっさり越えてしまったの。ふふふ、本当に笑えるわ」
「モンモン」
「慰めなんか要らないわよ!! 私なんか、私なんか、うわぁぁぁあぁぁぁ」
泣き崩れるモンモランシー
才人はアニエスをほどき、モンモランシーを抱き締める
「いや、離して!!」
「駄目だ」
「何でよ? 私なんか只の薬箱でしょ?」
「違う」
「どう違うのよ?」
「モンモンは、俺の子悪魔だ」
「…」
「俺は、ルイズにも言えない事をモンモンに託してる。モンモンが居なければ、俺は既に死んでいる」
「…」
「モンモンの役割は、モンモンにしか出来ない。水メイジなら誰でも良いと思うなら、俺は、学院のトライアングルメイジに頼んでる」
「…」
「俺には、モンモンが必要だ」
「…本当?」
「本当だ」
「……まだ、愛せない?」
「済まない」
「……いつか、言わせてみせるんだから」
「期待してるよ」
「・・・そろそろ良いか」
「あ、ごめんアニエスさん」
「いや、良い。モンモランシーの気持ちも、解らなくもない」
「あら、解るのかしら、アニエスさん」
「機嫌直ったみたいだな。ああ解るとも。私も悩んだ時期は有る」
「あら、意外ね」
「私にも、10代はあったのだぞ?」
「そう言われれば、そうね」
「それと、先程ので質問なんだが」
「あら、何かしら?」
「才人に抱かれたのは、どうだった?」
「キスで夢中になったなら、こっちは溺れてしまうわね」
「そんなにか?」
「えぇ、そうよ。もしかして、経験無いの?」
「ノーコメントだ」
「俺の腕の中で、そゆ事言いますか」
「ふん、あれ以降梨のつぶての癖に、何言ってるの? 何なら、今此処で押し倒しなさい。私はあんた相手なら、四六時中大丈夫なんだから」
「何時もの調子が戻ったな」
「今日も無し?」
「この稽古、マジでキツイんだよ」
「アニエスさんの剣稽古じゃ、息一つ乱さないのに?」
「正直、もう私より体力有るだろう? 其でもキツイのか」
「えぇ、そりゃもう」
「ええと、もう既に一般的な軍人の体力より上なんだけど。まだ足りないの?」
「みたいだな」
「先は長いわね」
「全くだ」

*  *  *


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