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Last-modified: 2010-10-15 (金) 10:30:14 (4941d)

才人は今、風呂場の隣にテントを張っている
朝から厨房に赴くと、マルトー料理長やメイド達が驚く
「早いじゃねぇか、我らの剣」
「おはようございます。ちょっと、ルイズと喧嘩しちゃいまして」
「なんでぇ、使い魔クビになったのか」
「一応、休職扱いって事で」
「貴族に其処まで付き合うお前さんも、随分物好きだな。何ならバイトすっか?」
「アニエスさんは知りませんからね。稽古は待ってくれませんよ」
「其もそうか。あのシュヴァリエもスゲーな。流石剣だけで、栄達しただけはあらぁ」
「アニエスさん好み?」
「おっかねぇのは、嫁だけで充分だ」
「クックックック。違いない」
賄いを食べ、序でに使ってないテントを分けて貰い、風呂場に向かい、今に至る
「才人さん」
「お、何だシエスタ?仕事は良いのか?」
「才人さんが心配で」
「俺よりルイズを心配してくれ。身体壊されちゃ堪らん」
「…喧嘩した時でも、ルイズルイズって。ちょっとは、私も見て下さい」
「…ごめん」
「其で、質問なんですけど」
「何?」
「何で、ミスタグラモンの香水が、匂って来るんですか?」
「昨日は、ギーシュの部屋に泊めて貰ったのさ。その時に悪戯された」
「どんな悪戯ですか?」
「寝てる時に、香水振り撒かれたらしくてね」
「本当ですか?」
「何で?」
「だってこれ、残り香程度ですよ」
「軽くかけられたんだろ?」
冷や汗を垂らしながら答える
「ミスタグラモンってバイの噂が絶えないんですよね?もしかして、襲われてませんか?」
「そ、そんな事無いって」
「本当にぃ?」
「本当本当。ギーシュは至ってノーマルだよ。只、馬鹿な事が好きなだけさ」
ギーシュは、確かにノーマルである
「確かに、ミスタグラモンって、馬鹿な事好きですもんね」
うんうんと、シエスタは頷いた
「で、才人さん。此からどうなさるんですか?」
「ん〜取り敢えずテント張ったら、アニエスさんと一日稽古だな。呑みたい気分だけど、アニエスさんは容赦しないしね」
「じゃあ、シュヴァリエも混ぜて、呑んじゃいましょう」
「…そういう方法も有るか」
「はい、たまには酔っ払って騒ぐのも、必要だと思います」
「アニエスさん来たら、検討しようか」
「はい」

竜騎士の後ろに乗ったアニエスが、広場に降りた途端、木剣が投げられ、アニエスが其を掴むと、既に才人が間合いに入っていた
ガッ
「いきなり斬りつけるとは、中々やるな才人」
「今日は趣向を変えようかと思って」
「貴様はそういう所が良いな。いくぞ」
目前の竜騎士が驚き、呆れるレベルでの稽古が始まった
ガッガッガッガッ
剣劇と共に、一気に移動する
「今日の剣筋は、随分と荒々しいな」
「そういうアニエスさんこそ。今日は香水付けて来たでしょ?」
ピク
アニエスの反応が少し遅れ、才人はその隙を見逃さず、左の剣でアニエスの顔を突く
パシャ
「一本」
「…今のは卑怯だろう?」
「あれ位で乱れるとは、思わなかったなぁ」
「貴様だから有効な手だ。全く、この天然たらしめ」
「今度のは、良く似合ってるよ。凄い魅力的だ」
「モンモランシーに感謝しないとな」
アニエスは、明らかにテンションがあがっている
「さて、続きだ。行くぞ!!」
アニエスの喜びは剣に乗り、その後才人は一本も取れず、ボコボコになった
「あたたたた。流石に痛ぇ」
「ふん、いい気味だ」
「俺が何をした?」
「…言えるか、馬鹿」
アニエスはそっぽを向きつつ、赤面する
「…で、何があった?」
「何で?」
「貴様の調子なぞ、剣を交えれば解る」
「…俺って、解り易いのかね?」
「嫌、非常に解り難いから、そういう所で推測するしかない。剣には迷いが出るんだよ」
「流石達人、降参だ。ルイズと喧嘩して、追い出された」
「……また、ミスヴァリエールの我が侭か」
「俺が悪いって事は、考えないのかね?」
「貴様は残酷な程優しく、貴様が思う正論しか言わん。正直言って麻薬だ」
「…麻薬…か」
「そうだ。掛けて欲しい時に、掛けて欲しい言葉をかけ、時に行動で示すんだろう?そんな事、毎回やられて見ろ。居心地良すぎて、ずっと傍に居たくなる。特に悩みを抱えた女には、正に麻薬だ」
「アニエスさんでもかい?」
「……そうだ」
「…全部、俺が悪いのか」
「そうだ。だから貴様は、トリステインから出て行く事は、私と殿下が赦さん。出て行くなら、大逆罪で投獄だ。一生幽閉してやる」
「何でそうなる?」
「今の殿下の楽しみが、何か知ってるか?」
「何?」
「私から、貴様の話を聞く事だ」
「…あれは言って無いよね?」
「安心しろ、約束は違えん。私は、貴様に嫌われるのが怖いんだよ」
「…」
「貴様がどういう事に怒りを向けるか、メイド達に聞いた。私は、そんな事したくない」
「…そうか」
「貴様はもう、トリステインに囚われてる。望むと望まざるともだ。近衛隊長が懇意にするとは、そういう事だ。何か有ったら、私の名前を使え。貴様の役に立つなら、こんな粉引きの姓、幾らでも使い倒してくれ。少なくとも、軍事に於いては役に立つ」
「粉引き?」
「ミランとは、粉引き屋って意味なのさ。私程度には、過ぎた姓だよ」
「良い姓じゃないか」
「常に侮蔑され、陰口叩かれる、この姓の何処がだ?」
「粉引きって事は、小麦粉を作るって事だろ?」
「その通りだが?」
「つまり、皆の命を支える、栄えある姓じゃないか。この程度なんかじゃない。トリステインの民を守るアニエスさんには、ふさわしい姓だ」
「…」
アニエスは言葉を詰まらせる
「…私は、そんな女じゃない。私の原動力は、憎悪だ」
「そんな事無いよ」
「違う」
「違わないよ。少なくとも、今この時だけは違う」
「……貴様は何も知らんから……だから貴様は……麻薬だと」
アニエスは才人の胸に顔を埋め、暫く嗚咽し、才人は軽く抱き締め、落ち着く迄撫で続けた

「…本当に、たらしなんですから。あんなの、入れません」
シエスタは、手拭いを持ってお茶を差し入れに来たは良いが、アニエスを見て、溜め息を付いた

アニエスが落ち着いた頃を見計らい、シエスタは声をかける
「才人さん、シュヴァリエ、お茶にしましょう」

才人とアニエス、シエスタの三人でベンチに座る
「で、今日からどうするんだ?私の任務は、ミスヴァリエールが関係無いから、才人の行く所に行かねばならん」
「シュヴァリエ、関係無いんですか?」
「才人の主人に対しては、何の命令も受けて無いのでな」
「軍人って、あっさりしてるんですね」
「私が此処に居るのは、任務だぞ?楽しんでるのは、否定せんがね」
アニエスはニヤリと笑う
「やっと、笑ってくれました」
「…どういう事だ?」
「才人さんの陰謀です。シュヴァリエが、自然に笑みを出せる様にしたいって」
キョトンとした後、アニエスは笑いだす
「クククク、あっはっはっはっはっ。まさか、そんな事考えられてたとはな。参った、完敗だ。クックックック」
アニエスは笑いが止まらない
「才人さん。協力するの、もう良いですよね?」
「ん〜?何か、有るのかな?」
「勿論です。シュヴァリエ、才人さんの事、どう思ってるんですか?」
「クックックック。そうだな、多分シエスタの考えに近いんじゃないか?」
「ライバル宣言と受け取りますが?」
「その積もりは無いぞ。私は付き合いが出来れば其で良い」
「え?」
「私は今でも、充分楽しんでるからな。今以上を望むと、バチが当たる」
「シュヴァリエ?」
才人がシエスタの頭をぽんと手の平で軽く抑え、ウィンクしながら口の前に人差し指を立てる
「ぶ〜」
「ハハハ。やはり才人が居ると面白い。さて、今日は何処に泊まるんだ?」
「テントだね」
「なら、私の宿舎に泊まるか?隊員と違って、一応隊長なのでな、一人増える程度は問題無いぞ。銃士隊は全員女性のお陰か、衛士隊と違って、全員寮住まいだ。その分給料安いがな」
アニエスは笑いながら言う
「絶対に駄目です!!そんな事する位なら、私の部屋に泊まって下さい!!」
シエスタが才人の腕を抱き寄せ主張する
「…テントで良いや」
「遠慮するな、才人」
「そうです。才人さんは遠慮しなくて良いです!!」
「はははは」
冷や汗を足らし、乾いた笑いをしながら、村雨に手をかけ一気に跳躍し、その場から走り出す
「あ〜!?」
「逃げるな!!才人!!」
アニエスは喜々として追いかけ、シエスタはぽつんと残された

*  *  *
「おはよう、僕のモンモランシー」
「おはよう、ギーシュ。何か今日は違うわね。何時も以上に怪しいわよ」
「今日の僕は絶好調だからね」
「ふうん、ちょっと此方に来なさい」
廊下の端に連れ出され、壁に立たされるギーシュ
「何であんたから、才人の匂いがするのよ?」
「するかな?」
くんくんと、自身の匂いを臭ぐ、ギーシュ
「とっても。才人の精の匂いがする」
「そ、そうかな?」
「残念、私は香水調合が得意だから、匂いには敏感よ。香水なんかで誤魔化されないわよ。……したのね?」
「……うん」
パン
平手打ちがギーシュに入る
「痛た」
「此で許してアゲル。で、正直に言いなさい。どうだった?」
「すんごく良かった。もう、才人しか見えないや」
「本当に?」
「グラモン家が、色好きな理由が解ったよ」
「ふん。幼い頃からあんたが隣に居たせいで、私には男が寄って来なかったってのに」
「悪いね」
「良いのよ。席に戻りましょう」
「あぁ、居た居た、二人共おはよう。ダーリン見なかった?」
「どうかしたの?」
「ルイズとダーリンが喧嘩して、ダーリン出て行っちゃったのよ。学院外に出てたら、お手上げなのよね。二人共知らない?」
「そうなの?」
「寮中に響き渡る絶叫してたじゃない。サイレンスしてたの?」
「難しい調合やってたから、してたわ」
「才人なら僕の部屋に泊まったよ」
「良かった。ギーシュの所に行ってたのね、此で一安心だわ」
「どうかしらね」
「どういう事よ?モンモランシー」
「ほら、ギーシュって、そっちも大丈夫じゃない」
「まさか、襲ったの?」
「二人共酷くないか?」
「僕はノーマルだって」
「本当かしら?」
「モンモランシーが言うなら、怪しいわよね」
「酷いよ、僕のモンモランシー」
クスリと笑うモンモランシー
「今夜、才人は野宿?」
「どうかな、タバサ。今日は自分で何とかするって言ってたし」
タバサは立ち上がり、すたすたと歩きだす
「タバサ、何処行くの?」
「…」
「今から授業じゃない」
「ダーリン探しに行く積もりね?」
タバサはコクリと頷き、教室を出ようとするが、ギーシュに止められる
「まぁまぁ、昼休みや放課後でも構わないだろ?才人は逃げたりしないって」
「シュヴァリエが居るし、メイドも居るから、今すぐが良いんですって」
「何で毎回解るのよ?」
「何で解らないの?簡単じゃない」
「私には無理よ」
「僕にも無理だね」
「タバサ待って、才人は大丈夫だから。授業サボると、才人が良い顔しないぞ」
ギーシュがそう言うと、タバサは教室に戻り、席に着く
その様子を見た後
「ルイズは?」
「今日は休み。一晩中泣いてたから、動けないわよ」
「キュルケって、何だかんだ言って、世話焼きよね」
「全くだ」
「そ、そんな事無いわよ。ヴァリエールが元気ないと、からかい甲斐が無いじゃない」
「そういう事にしときましょ」
モンモランシーに言われ、珍しく赤面したキュルケである

*  *  *
「全く、才人さんも酷いですよね。遠慮しなくて構わないのに」
少々ご機嫌斜めなシエスタは、仕事しながら才人を探す
才人が本気で逃げるとアニエスはおろか、メイジですら見付からない
モートソグニルが居れば一発で見付かるだろうが、モートソグニルは、滅多に遭遇しないのである
食べ物も自前で何とかなってしまう為、滅多に相手をしてくれないのだ
「才人さぁん。やっと見付けた」
才人は、茂みの中でワインを片手に呑んでいた。片手には、ヴェルダンデを抱えている
「あれ?ヴェルダンデさん迄」
ヴェルダンデは諦めた眼をしている
何時もの才人はともかく、酒呑んだ才人は嫌なのだろう
「あの、才人さん。こんな所で何してるんですか?」
「酒。此はツマミ」
抱えたヴェルダンデを指して言う才人
「ヴェルダンデさんを、食べる積もりですか?」
「もぐらは食った事無いからね。楽しみだ」
ヴェルダンデが其を聞き、暴れだす
「大丈夫ですよ、ヴェルダンデさん。才人さんの何時もの冗談です」
本当に?と、眼で問いかけるヴェルダンデ
「ミスタグラモンの使い魔を、才人さんが食べる訳ないじゃないですか」
ようやく納得したのだろう、ヴェルダンデは大人しくなった
「シュヴァリエからも、逃げたまんまですか?」
「いんや、使い魔達の飯作る迄は、移動稽古やってたよ。今はアニエスさんが鬼で、俺に不意打ち仕掛ける側」
「まだ稽古中じゃないですか、呑んでて大丈夫なんですか?」
「良いの良いの。此位やらないと、アニエスさん襲って来ないんだもの」
ザッ
木の上からアニエスが木剣を下に向け、落ちて来る
キィン
才人は瓶で受け流し、着地したアニエスの頭に、そのまま瓶で寸止めで打つ
「一本」
「ちっ、擬態か。何時から気付いてた?」
「呑む前から。中々襲って来なかったからね」
「もうちょい酔いが回る迄、待てば良かったな」
二人のやり取りに、シエスタは唖然とする
「才人さん、いつの間にそんなに強く?」
「師匠の腕が良いせいだね」
「其だけで、此処までなるモノか。使い魔の能力を、自身の経験に還元してるだろう?」
「否定はしない。日本に居た時と比べて、嘘みたいに身体動くし、五感が鋭いモノ。その分えらい腹減るけどね」
才人は酒の手を止めず、話す
「何時まで呑むんだ、才人?」
「あ、ごめん、はい」
アニエスに、口付けた酒瓶を向ける
呑めと言う合図だ
「ん、私は勤務中だからな」
「呑むのも任務だよ」
「成程、確かにそうだな」
アニエスは瓶を受け取り、そのまま飲み干す
「さてと、今日の稽古はどうする?」
「今日は此処までにしておくか」
「話が解るね。シエスタ、親父さんに頼んで、ワイン追加。テントの所に行こう。茂みの中よりましだろうし、大人二人が昼間から呑んだくれるのを見るのは、学生の教育上宜しくない」
「ハハハ。お前とだと、何処でも酒盛出来そうだ」
「あの、才人さん」
「シエスタも一緒に呑む?」
「いえ、私、お酒はちょっと」
「それじゃ、しょうがない。仕事終わったら、テントの所に居るから、暇なら来てね」
「も、勿論です!!暇無くても作ります!!」
『や、やった〜!!は、初めて誘って貰えた』
シエスタは舞い上がり、ダッシュで戻って、残った仕事を一気に片付け、足りない分は他のメイドに押し付け、テントにダッシュした
「シエスタって、いい娘だな」
「でしょ?俺なんかには、勿体無さすぎる」
「其を決めるのは、お前じゃないな。シエスタだ」
「何で皆して、俺の意見は却下するんでしょ?」
「全て才人が悪い」
「ひでぇなぁ」
二人は会話しながら、テントの場所迄歩きだした

放課後
「ダーリン見付かった?」
「此方には居ないね」
「広場にも居ないわよ。何処で稽古してるのかしら?」
「ピー」
タバサが口笛を吹きシルフィードを呼び、空中から捜索し、降下する
「タバサ一人で、行っちゃったわよ」
「彼処ら辺って、何かあったかしら?」
「才人が作った風呂が有るね」
「其だ」
三人は才人を探しに向かった
三人が寄ると、才人とアニエスが地ベタに敷物を敷いてワインを交わし談笑してる。特に下品に騒いでる訳では無さそうだ
シエスタが甲斐がいしく二人(主に才人)に酒を注いでいる
タバサは才人の背中に背を預けて、本を読んでいる
そして側にはフレイムとヴェルダンデが、ぐてんと寝そべってた
「才人、何で酒盛してるんだい?」
「たまには呑みたくなるんだよ。ね、アニエスさん」
「そういう事だ、ミスタグラモン。放課後なら、お前達も呑むか?」
「シュヴァリエって、もっとお堅いかと思ってたわ」
「何を言ってる?今日の稽古は散々だったぞ?お互いボロボロだ」
「魔法無しでも、やり方次第で、えらい酷ぇもんねぇ。アニエスさん杯が空だね。ほい」
才人が注ぐ
「済まんな、才人」
アニエスがぐいっと呑み、返杯する
「おっとっと」
「ねぇダーリン、フレイムとヴェルダンデが潰れてるんだけど?」
「呑むかって聞いたら頷いたから、呑ませた」
「良い呑みっぷりだったぞ、なぁ才人」
才人も頷き、アニエスと二人して笑っている
「ルイズの状態聞きたくない?」
「…ずっと泣きっぱなしって、所じゃないか?」
「ダーリンには、お見通しって訳ね」
「いんや、あの絶叫で気付いた程度だ。じゃないと俺には解らん」
「このまま喧嘩しっぱなし?」
「……さぁ、決めるのはルイズだ」
「…冷たいのね」
「否定はしない。だが今の状態にしたのは俺のせいだ。甘やかし過ぎたんだよ」
更に言おうとした、言外の意味を酒と共に飲み込み、シエスタが注ぐ
「ルイズから、きちんと動く迄、待つ積もり?」
「…あぁ」
「ダーリンがやけ酒する時って、ルイズと喧嘩した時だって気付いてた?」
「…そうか?」
「そうだね、才人」
「全く、主人ってのは羨ましいわ」
「私もそう思います。才人さん」
「俺も随分解り易くなったもんだ」
才人は苦笑する
「でも、私にとってはチャンスかなぁ。ねぇダーリン、貴族にならない?」
その言葉に全員が凍り付く
「…どういう事だ?」
「ゲルマニアではね、爵位は金で買えるのよ。成功した人間なら、例え平民でも貴族になれるのよ」
「成程ね。ゲルマニアが広大な領土と権勢誇ってる訳だ」
「金だなんで、ゲルマニアは下品ね」
「そんな事無いぞ。モンモン」
「どういう事?」
「領地経営ってのは、地方政府と同じものだろう?」
「言われて見ればそうね」
「つまり金を稼ぐ事が出来たって事は、経営手腕が有るって事だ。領地を持てる連中ならば、一番必要な素質だよ。魔法なんざ、糞の役にも立たない」
「そして金ってのは、武功や名誉なんかと違って、全ての人間に等価値だ。金に囚われるのは最低だけどな、金自体は経済を回す為に必須な要素だ。要は使い方さ」
「才人って、ゲルマニアの考えに近いのね」
「何を持って尊しとするかの違いさ。優劣じゃない。唯一の正解は、その国が繁栄し、其処に住む民が笑顔になる事さ」
「じゃあ、私が笑顔になる為に、ゲルマニアで貴族になって、私にプロポーズしてよ」
「えっ?」
「私ね、自分で何かを成し遂げる人が好き。そういう人の側なら、例え貧乏でも構わない。ダーリンなら、絶対に何かを成し遂げる。私はそう思うの。今から、身体に予約の証を刻んでも良いのよ?」
「別に貴族になるのに、ゲルマニアにこだわる必要は無いだろう?此処に実例が有る」
あっと、全員が振り向く
「シュヴァリエ?」
「ミランの姓を、トリステインを支える剣だと褒めたくれたのは才人だしな。此を剣の名門に高める迄、やるのも悪くない。才人が夫になるなら、武門の名門グラモン家に匹敵出来るだろうな」
「何言ってるんですか!?平民だって良いんです!!才人さんは、タルブの村で私と一緒に小さな宿屋と葡萄畑を買って経営するんです!!新しい銘柄はサイトシエスタ。絶対に、トリステイン一番の名物ワインになるんです!!」
「才人が居るなら、モンモランシ家の干拓失敗も何とかなりそうよね。モンモランシに婿養子に来れば良いのよ」
「グラモン家に来て養子になれば、グラモンの名がヴァリエールを抑えて一番になりそうだ。才人、僕の家においでよ」
辺りに冷気が漂う
何時も以上の冷気で、バチバチと電気が疾る
「放電って、なんつう冷気だ」
才人が酔いを醒めさせられ、いつの間にか、タバサが才人の膝の上に乗っている
雪風の様子に皆ビビるが、其でも会話を止めない
「で、ダーリン、誰にする?全部でも良いわよ?」
「そうね、独り占めするから、問題なのよね」
モンモランシーが頷く
「じゃあ、独占禁止協定やる?」
「……あの、俺の意見は?」
「「「「却下」」」」
全員に言われ、頭をがしがし掻く才人
「此って、どう見ても女難だよなぁ」
「相棒、喜べ。此は面白ぇ」
デルフはカタカタ笑った
「お金は使い方だって言ってたし、ダーリン資金稼ぎに冒険しましょうよ?此を見て」
ズラリと、トリステイン各地の噂が書かれた代物が才人に出される
「ちょっと見せてくれ、おいおい、此殆ど眉唾じゃないか。って、何だ?オーク討伐にヒュドラ討伐?王政府や封建貴族の仕事じゃないか」
アニエスは顔をしかめる
「役人が動いてくれないみたいなのよ。オークはともかく、ヒュドラはヤバいわよね。竜の羽衣ってのも、面白そうじゃない?」
「もしかして、オークやヒュドラを狩る積もりか?」
「オークなら、メイジが居れば比較的難しい標的じゃないわよ。ヒュドラは、軍が欲しいわよねぇ」
「ちょっと待て、竜騎士に依頼来てるか確認させる。もし依頼来てるに関わらず、政府が動いてないなら、此を王政府の代わりにやるなら、討伐の証拠持って来い。報酬を王政府から出させる様にする」
アニエスは走り出し、待機中の竜騎士に向かった
「はい。報酬出るから、出る理由が出来たわよ」
「こりゃ参ったな。モンモン、薬の軍資金はどうした?」
「あんた達が遠慮なく使うから、厳しいわよ」
「俺が渡したのも?」
「全部、材料代で飛んだわ」
「俺も手持ち殆ど無いや。こりゃ決まりかな」
「私も行きます!!」
「駄目よ。危ないわ。メイジですら危ないのよ?」
「戦闘には参加しませんから、それじゃ駄目ですか?」
「何が出来るのよ?」
「料理が出来ます!!」
「「知ってるよ」」
周りに突っ込まれても、シエスタは怯まない
「才人さんも料理出来ますけど、此方の食べられる野草とか、詳しくは無いですよね?私なら大丈夫ですよ」
「ふむ、其もそうだな。皆は区別出来る?」
「…少し」
「「「無理」」」
タバサ以外は即答する
「仕事はどうすんの?」
「才人さんのお手伝いって言えば、マルトー料理長は幾らでもお暇くれます!!」
「確かに」
才人は苦笑する
「才人、その討伐依頼本当だ。今確認した」
「え、もう?」
「トリスタニアに喋れる使い魔置いてて、使って貰ったからな。通信のみなら、こういう使い方も出来るのさ」
「ほう。通信機能は限定でも、リアルタイム出来るのか。こりゃ為になった」
「良し、じゃあ決まりねダーリン。目指すは一獲千金。そしてダーリンのお嫁さんだ」
「「「「おー」」」」
ガクリと傾く才人
「アニエスさんはどうする?」
「付いて行くと、銃士隊の緊急任務に対応出来んからな」
「じゃあ、俺からお願い」
「何だ?」
「ルイズを頼む」
「解った」

*  *  *
またまた休みを申請する4人、理由は王政府の討伐依頼の代行、失敗前提となっている
アニエスが依頼が来てる事を口添えした為、許可がおりた
降りなくてもサボる気満々だった為、教師側が折れた結果である
また、代行の随伴でシエスタにも許可が降りた。きちんと仕事の延長として、認められたのだ
使い魔の才人の行動に付いては、ルイズ以外誰も言えない為、放任されている

「さてと、才人が居ないと暇だな。お前達、ちょっと付き合え」
アニエスがむんずと、マリコルヌ、レイナール、ギムリを捕まえる
「な、何でしょう?シュヴァリエ」
「暇潰しに稽古してやる、喜べ」
「い、いえ。間に合ってます」
「まぁ、そう言うな」
「此から授業ですから」
「そんな事は気にしないぞ」
「僕達は気にするんです!!」
「たまには汗を流して励め、な?」
「「「誰か、た、助けてくれ」」」
皆して首を振り、生暖かい笑顔で三人に手を振り見送った。その中に、教師が居たのは事実である
「あの、ミスタギトー」
「何だね?」
「良いんですか?」
「シュヴァリエを教室内に置いたまま授業するのと、どちらが良い?」
「勿論、外に居る方です」
「ならば忘れろ」
「了解です」
外から悲鳴が聞こえる中、授業が始まった

「何だ詰らん。この程度で根を上げたか」
杖を取り上げ、ちょっと走らせただけで、三人共突っ伏していた
「あ、あの、シュヴァリエ」
「何だ?」
「才人は何時もこんな感じですか?」
「こんなの序の口だ。才人なら再起不能レベル迄、何時も身体動かしてぶっ倒れてる。メイジが居なきゃ、とっくに死んでる内容だ」
「なぁ、ギムリ」
「口を開くのも面倒いんだが、レイナール」
「才人って、本当に凄いんだな」
「其に付いて行く、アニエスさんもね」
「近衛隊長って」
「伊達じゃないな」
二人は失神してるマリコルヌの横で、同じく失神した

*  *  *
その晩、王宮
「アニエス、今日は使い魔さんが居なかったのでしょう?何をしていたのですか?」
「生徒を適当に見繕って、稽古しておりました」
「あらあら、アニエスに目を付けられた生徒は気の毒に」
クスクスとアンリエッタは笑う
「で、使い魔さんと比べてどうですか?」
「問題外ですね。才人が才能有り過ぎな面は、否定しないのですが」
「仲良くなって良かったでしょう?」
「其に付いては感謝しております」
「後は使い魔さんが武功を立てて下されば、アニエスとの障害も無くなりますね」
「本気なのですか?殿下」
「あら、使い魔さんがトリステインにずっと居て貰う為には、最高の方法でしょう?其とも、使い魔さんじゃ嫌ですか?」
「……あ、いやその、ほら、嫁の立候補なら、既に複数の女性が立っております」
「なら、まとめて面倒見る甲斐性を見せて頂きましょう」
「本気ですか?」
「あら、貴族が愛妾を側に置くのは普通でしょう?一人の女性で無理なら、複数の女性で対応すれば宜しいのでなくて?」
「おっしゃる事は解りますが、其処までの価値が有るのでしょうか?」
「カガク」
「何と?」
「アニエスには解らないと言った、カガク。現在は、学院の教師一人しか理解出来ないと言うカガク。あれがトリステインの未来に必要だと、私は思います。恐らく、ゲルマニアすら越える産業基盤を作れるかも知れません」
「その為なら、女で縛ると?」
「使い魔さんは優し過ぎる方です。恋人を亡くし、ゲルマニアに嫁ごうとしている私にすら、安らぎと楽しみを与えて下さります」
「皆の願望なのでしょう?ならば使い魔さんが納得して、此方に居る理由を作ってしまえば良いのです。アニエスは、使い魔さんとの時間を楽しんで下さい」
「殿下」
「はい」
「こう言っては何ですが、才人をモノ扱いはどうかと」
「…私は、大事な友達すら、道具として使わないといけない立場です。私は、既に罪深い女です。トリステインの為を思いつつ、トリステインから愛してもいない男の待つ、他国に嫁ごうする女です。きっと、地獄が口を開けて待っているでしょう」
「…殿下」
「全ての罪は私が背負います。貴女は今ある時間を大切にして下さい」
「殿下、そんな事する必要は有りません」
「何故ですか?」
「背負わせれば良いんですよ」
「誰にです?」
「我らの、イーヴァルディに」

*  *  *


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Last-modified: 2010-10-15 (金) 10:30:14 (4941d)

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