41-396
Last-modified: 2010-11-19 (金) 13:14:25 (4900d)

「うぉっ、やっぱり5000メイルは寒いな」
高度を上昇すると、気温が一気に下がり、4000メイル越えた辺りで氷点下になり、才人は身震いする
クシュン
「え?誰か居るのか?」
くしゃみを聞いた才人が後ろを振り返ると、其所には始祖の祈梼書を持ったルイズが震えている
サイレンスのお陰で、操縦席内は乗用車より多少五月蝿い程度で有り、会話に支障は無い
才人とルイズが眼を合わせた瞬間、ルイズは気まずそうにする
才人は溜め息を付いた後、深呼吸してルイズを怒鳴り付けた
「こんの馬鹿たれ〜〜〜〜!!密航なんざすんなぁ〜〜〜〜!!」
「そそそそんなに怒鳴らないでよ」
ガチガチ震えながら、ルイズは答える
「あぁもう、此着ろ」
才人はジャケットを脱ぎ、ルイズに被せる
「きゃん」
才人が今迄着ていた為、ジャケットは暖かい。ルイズは才人の匂い包まれ、ほぅっと溜め息を付く
「サイトは平気?」
「気にすんな。寒いのはバイクで慣れてる」
「でも」
「何で密航した?返答に寄っちゃ、今から降ろす」
「そんな事、出来る訳無いじゃない」
「出来るぞ。パラシュートをルイズに着せるから、使い方教えて叩き落とす」
ルイズはゾッとする。サイトは多分やるだろう
そして才人が本気になったら、ルイズ自身じゃ抵抗出来ない
才人が何時も手加減してくれてるのは、ルイズも解っている
だからこそ、全力で甘えていられる訳だが
「…怒らない?」
「内容次第だな」
「約束して」
「解った。約束だ」
「…待ってるのは、もう嫌だもん」
喧嘩中が相当に堪えたんだろう。才人は、ルイズの答えに溜め息を付く。どうやら、寧ろ悪化させてしまったらしい
「はぁ、解ったよ。操縦の邪魔すんなよ?死ぬぞ?」
「うん」
そういうと、何を考えたか、身体を巧く潜らせ、才人の膝の上に乗る
「邪魔すんなって、言ったろう?」
「はい、これ着なさい」
ルイズがジャケットを脱ぎ才人に渡すと、渋々とジャケットを着る
ルイズは背中を才人に密着させ、ご機嫌になる
才人はルイズを抱える様に、右手で操縦捍を握り、左手の射撃レバーに添えてた手でルイズを抱え、ルイズはその手に自身の手を重ね、才人の手を暖める為に直接腹に当てる
「こうすれば、二人共暖かいでしょ?」
「そうだな」
『少々窮屈だけど仕方ないか。俺も寒かったし』
「相棒、見えたぞ?雲の切れ間だ」
「どれどれ?う〜む、小さくて解り辛いな。竜騎士も交戦中か?ルイズ、解るか?」
「あんまり詳しく無いわよ?えっと、砲撃してるのが戦列艦って奴。一番大きいのが、多分新型艦かな?」
「ほうほう。今はそいつが砲撃してるだけだな?何でだ?デルフ」
「多分、射程の問題だぁね。彼処迄届く砲撃出来るのが、あのデカイ艦だけなんだろ?」
「良し決まり。奴に落とす。デルフ、雲を潜って、艦尾に突入するコースを指示しろ。奇襲を仕掛ける。大体零戦の性能は解るな?」
「おうよ、任せろ」
デルフが指示を下し、才人はそのコースに向け、機首を廻らす
「ルイズ。今から俺は、人殺しになる」
「サイト…」
「だから、お前には居て欲しく無かった」
「ふ、ふん。震えてた使い魔がご主人様に説教?100年早いわよ?其にあたしも一緒だから、あたしも人殺しよ」
「ルイズ」
「使い魔の行動には、主人のあたしに責任が有るの!!あんたが人殺しなら、あたしも人殺しなの!!」
そして力強く、ルイズは話し始める
「我が、臆病だからこそ勇敢なる使い魔、平賀才人に問う!!答えよ、汝の主の名は?」
才人はその問にニヤリとする
「御身が使い魔、平賀才人が答え申す。我が淫美にして清楚で可憐、そして我より勇敢なる主の名は、ルイズ=フランソワーズ=ル=ブラン=ド=ラ=ヴァリエール。我が忠誠を捧ぐ主也」
「良くぞ申した。ならば主として命じる。存分に戦働きをせよ!!」
「イエス!!マイロード!!」
そして才人は、はたと気付く
「ルイズ、祝詞出来たか?」
「………実は、まだ」
「なら、今の内に考えとけ。此終わったら、そっちだ。だから、祈梼書持って来たんだろ?」
「うん」
零戦は、雲に突入した

*  *  *
夜明けと共に、アルビオンの竜騎士が飛び出し、レキシントンが砲撃を始め、戦列艦と地上部隊が前進を始める
「くっそ、流石に多勢に無勢だ」
単騎飛び出したアベルは、速度を利用し本格的な攻撃を始めるが、数に任せた編隊行動の前に、回避に専念せざるを得なくなる
「ち、せめて指揮官を仕留められれば」
指揮官を探し、一頭だけ風竜に乗った竜騎士を見かけ、其だと決めるが、竜騎士の風体に見覚えがある
「あれは……ワルドか!?裏切り者め!!」
ワルドを見て感情が高まり、魔力が増す
ワルド目がけてマジックミサイルを放つが、普通にかわされる
「くっそ、なら」
ワルドに向かって風竜を操る
背後に付いた火竜のブレスをかわす為に、風竜の飛行能力の高さを利用した、頭から尻尾を軸に回転しながら横にかわすバレルロールを行い、更に急旋回で一気に背後を取り、ロングランスを一閃しながら、隣の騎兵にブレスを浴びせ、翼を焼く
「先ずは二つ」
竜騎士を串刺しにした後、そのまま自重で落とすに任せる
「やっぱり、ランス持ってて正解だな」
トリステイン騎兵は他国のメイジ騎兵と違い、ランスを標準装備としている
杖だけが戦いではないと、前マンティコア隊サンドリヨンの軍政改革による物で、魔力切れを起こしても、騎兵突撃が出来る為、攻撃力の低下を防ぎ、生存率の向上も計られた
銃士隊の創設も、そういった路線を、アンリエッタが踏襲した物である
「ふん、アルビオンに行ったせいで、ランスの使い方も忘れたらしいな、ワルド!!」
更に向かって来る竜騎士をかわし、指揮官を狙い、自分自身に敵を引き付ける
「そうだ、もっと来い。もっとだ」
グラモンが突撃すれば、後は奴に任せられる
アベルはそう確信している
「奴の能力と衛士隊の集団戦能力を組み合わせれば、艦なぞ軽く制圧出来る。火薬庫吹っ飛ばせば終わりだ」
その時、騎乗した風竜が警戒の叫び声を上げ、その方向を見る
「あれは………来たか!!」
だが、その歓喜の一瞬が不味かった
アルビオン騎士のマジックミサイルを喰らい、手綱を握りつつ持ってた左手の杖を、腕事取り落とす
騎竜はブレスで翼を焼かれ、悲鳴を上げながら錐揉み墜落を始め、アベルは空に投げ出された
そして、墜落中にレキシントンに轟音と火柱が立ち上がり、自身の任務が完全に終了した事を確認し、笑みを浮かべる
「やるじゃねぇか。なぁ、俺もお前の連れに、入れて欲しかったぜ。悪いが、先に行ってるわ」
アベルは満足気に眼を瞑り、2500メイルの高さから、騎竜と共に地上に激突した

*  *  *
「今の所順調だな」
「このまま一気に進撃しないのですかな?サーボーウッド」
「サージョンストン卿。一気に進撃すると、艦首を前に向ける為、左砲右砲共に使えなくなります。それに歩兵が付いて来れません」
「成程、では仕方有りませんか」
報告、竜騎兵発見。およそ5000メイル」
「本当か?」
「彼処をご覧下さい」
「何だ、あれは?」
雲の切れ間に目撃したそれは、直ぐに雲に隠れる
「総員、対空警戒厳にしろ」
「イエス・サー」
甲板に水兵が出、見張りが増える
「敵……ですかな?」
「解りません。ですが、敵だと判断して行動した方が楽です。味方なら、きちんと姿を表した時、説明があるでしょう」
「成程」
そのまま砲撃を続けるレキシントン
報告〜!!艦尾高度3000メイル。距離3000。竜騎兵発見、非常に速い速度で向かって来ます」
「敵ですな」
一気に向かって来た竜騎兵が何か物体を三個切り離し、切り離した物体は、火を噴いて加速、真ん中の物体が先に甲板に直撃し、甲板を破壊しながら砕け散り、中の液体を撒き散らす
両脇の物体は其に遅れて着弾。一弾は甲板を突き抜け左舷砲列甲板に突っ込み、もう一弾はマストに直撃。数秒の時間差を置いて爆発、更に撒き散らされた液体に引火し、一気に爆発炎上、そして砲列甲板の火薬に誘爆
偶々ボーウッドの前に居たジョンストンが炎に完全に呑まれ、ボーウッドはジョンストンが盾になったお陰で命拾いをする
一気に左舷中心に阿鼻叫喚だ
「消火急げ〜〜!!」
「衛生兵〜!!水メイジまだか!!」
ボーウッド自身がジョンストンを見て取り、全身が黒焦げになり、関節が屈曲し、既に手遅れなのを確認する
「トドメが必要か?サージョンストン卿」
ジョンストンは何とか頷き、ボーウッドは心臓に水の刃を付き立て、トドメを刺し敬礼する
「被害状況知らせ」
「は、現在確認中。メインマスト三本の内二本全損、更に折れたマストが砲列にかかり、砲撃不能。左舷砲列甲板第2甲板迄破損、砲が大分誘爆しました。現在消火作業中」
「鎮火可能か?」
「はっ。可能との事です」
「人的被害は?」
「現在確認中、凡そ30名程死亡、100名程負傷かと。サージョンストン卿は?」
「戦死なされた。あれがそうだ」
「は、指示を」
「鎮火次第、左舷砲列甲板放棄。180度回頭、右砲戦準備。並びに、折れたマストを切り離せ。風石の魔力解放。上昇して、上空の風を利用して反転しろ」
「イエス・サー!!」
指示を受けた伝令が、艦を走る
「中破か、やってくれたな、トリステイン」
艦に大ダメージを与えた竜騎兵が味方竜騎士と格闘戦を開始したのを睨み付け、ボーウッドは嘆息する
「まさか、防空網の上から来るとはな」

*  *  *
夜明けと共にワルドは竜騎士達を出撃させ、上空警戒と支援を始め、支援下の元でレキシントンが左砲戦を開始する
レキシントン単艦なら、三次元機動で上空から砲弾を落とす事も可能だが、風石の消耗を招き、他艦との連携の方が威力を発揮出来る為、ボーウッドは単艦機動を行っていない
じりじりと、100メイルの高さに浮き、風に任せて縦帆で横進する
戦列艦も、縦帆で左砲をトリステイン軍に向けたまま、ゆっくり移動を始め、地上部隊が其に合わせて並足前進
最後尾に揚陸艦が付いて行く
整然とした行進は、トリステイン軍の肝を冷やすには充分だ
レキシントンの新型砲でも、トリステインが距離を取ってしまったが為に、散発的に着弾し、思う様に効果が表れてない

「参りましたな、殿下」
「そうですね、マザリーニ」
前衛の一般兵に着弾し始め、被害が出、統率が乱れる
砲兵も、この射程ではレキシントンには当たらない
「頼みは、衛士隊と単騎の竜騎士ですか」
衛士隊の幻獣中最速を誇るヒポグリフ隊が、単騎飛び立った竜騎士の支援で防空網に穴が出来るのを待つ
レキシントンの艦首又は艦尾から、突撃するのを今か今かと待つ
「アベルの奴、無理しなきゃ良いけど」
ジェラールが呟き、空戦の始まった空を見る
2500メイル上空じゃ、幻獣達では上がれず、竜騎士に任せるしかない。其処で雲の切れ間に何かを見る
「竜騎兵発見、凡そ5000メイル」
「馬鹿な?竜すら上がれん高度だぞ?」
ゼッザールが驚き、其を見、驚愕する
「本当だ。何だ、あれは?」
「才人です。来ましたよ、殿下」
「本当ですか?アニエス」
「我らに出来ない事をするのが奴です。間違い無い」
そのまま、雲にまた隠れてしまう
「何をするか解りますか?アニエス」
「其処までは。空戦の基本に詳しいのは、私よりジェラール殿の筈」
「基本は地上と変わらないよ。背後からの一発。つまり奇襲だ」
「ふむ、ジェラール殿なら、迎撃不能の高高度から、どうやって奇襲する?」
「勿論、高さを利用して、急降下で速度上げて、竜のブレス全開と魔法全開で一気に攻める」
「だ、そうですよ。殿下」
「では、こうして来たと言う事は、その時に備えて、我慢する必要が有るのですね?」
「その通りで有りましょう、殿下。突撃準備と各連隊の防御を」
ゼッザールが進言し、アンリエッタは頷く
「被害の受けた所に水魔法の治療と部隊再編。今は防御に専念。全衛士隊突撃準備」
「「「ウィ!!」」」
マザリーニが各部隊に通達を出し、水メイジが現場に走り、部隊再編と防御の為に、やや散開する
もうすぐ逆撃が出来るから耐えろと指示が飛ぶが、イマイチ効果は出てない
やはり、前線では前方のレキシントンのが怖いのだ

*  *  *
「隊長に報告、竜騎兵発見。高度5000メイル」
「何?5000だと?」
風魔法で報告を受けたワルドが見ると、5000メイルに確かに居るが、直ぐに雲に隠れる
「一体何が来た?おっと」
トリステイン竜騎士からのマジックミサイルをかわし、思考に専念する
「アイツは部下に任せれば良い。竜の飛行高度を越える竜騎兵だと?」
そうこうしてる内に、部下が2騎撃墜される
「あれはバレルロール。風竜であんな機動するのは、アベル=ガイドか!?ち、単騎になってから、本気出し始めたな?」
トリステイン空軍の風竜の使い手として高名な騎士を差し、流石に考えを改める
「総員。奴を数の力で囲い込め。あれは厄介な騎士だぞ?」

騎士達が囲い込み、其をガイドがかわし、一気に突き抜け様とするが、つい脇見をするのをワルドは見逃さず、すかさずマジックミサイルを詠唱し、ガイドに向けて放つ
ミサイルはガイドの左手を落とし、更にその隙を背後で追った火竜がブレスで翼を焼き、ガイドは墜落していった
杖を落としたから、確実に戦死だろう
ドドーン!!
砲撃と違う轟音が起き、ワルド含めた竜騎士達が振り向くと、レキシントンから火を噴いていた
「一体、何が起きた?」
「敵竜騎兵の攻撃です。あれを」
ワルドが指された方向を見ると、見慣れない形をした竜騎兵が居る。何か音も立てているが、とにかく妙だ
翼がはためいていない
だが、そんな事言ってる場合ではない。旗艦が攻撃を受けたのだ
あの百合と曲剣の紋章が、何を意味してるかは解らないが、百合はトリステインの識別マーク
迎撃するしかない
「総員、敵竜騎兵を迎撃」
新たに現れた竜騎兵を迎撃するべく、竜騎士達は降下を始めた

*  *  *
「竜騎士ガイド殿、2騎撃墜するも、撃墜されました」
「…そうですか」
アンリエッタは爪を噛む
『まだ、来ないのでしょうか?』
レキシントンの艦尾に零戦が現れるのを、アニエスがいち早く見付ける
「殿下、あれを」
「はい」
皆が振り向いた先で、降下しながら竜に出せない速度で弾を分離し、一気に上昇離脱する零戦
弾は自らを火を放ちながら加速し、そのままレキシントンに突き刺さり、轟音と共にレキシントンが火を噴く
暫く皆が呆然とし、砲撃が止まった事を確認し、兵も将も震える
そして、一気に歓声が爆発した
「うぉおおおおおお!!」
手を突き上げ、レキシントンが悲鳴を上げたのを見、其を与えた味方の竜騎兵を眼で追い、見付けた者が周りに教え、更に歓声が上がる
今や、先程迄の弱気は何処へやらだ
「……此が、副長殿の力か」
ゼッザールが息を飲む
「流石、カトリーヌが見初めた男だねぇ」
ジェラールがうんうん頷く
「カトリーヌとは誰かね?ジェラール殿」
アニエスが女の名前に反応すると、ジェラールが答える
「俺の妹」
「…才人め、いつの間に口説いてるんだ」
アニエスが渋面をすると
「あぁ、カトリーヌが口説いたんだと。手紙にそう書いてた」
「ちっ。次の稽古は真剣だな」
「まぁ、程々にね」
ジェラールは楽しそうに笑う。今はとにかく気分が良い
あの厄介な戦列艦がダメージを負い、勝ち目が見えて来た
後はタイミングを見計らい、後の戦列艦を仕留める為に、空中突撃するだけである
衛士隊には其だけの力があると、衛士隊の誰もが疑ってない
格闘戦を始めた零戦は、何を思ったか失速して垂直降下し、上昇を始めたレキシントンに突っ込む
皆が騎士がやられたと思い、落胆の思いで見つめるがダダダっと火を噴き、またレキシントンから小さいが炎を出すとそのままレキシントンの艦底を通過
一気にトリステイン軍の上空僅か30メイルを飛び、窓を開けた状態で操縦席から二人敬礼するのが見える
其を見た軍は、一気に士気が上がり歓声が上がる
そのまま旋回し、どうやら何かジェスチャーを始める
親指を立てた状態で手を上下させ、その後にガッツポーズを決めると窓を閉め、インメルマンターンを連続させ、一気に上昇していき、火竜騎士達に向かって行った

*  *  *
「良し抜けた、ちょい左だな」
舵を切り水平にした後降下をレキシントンの角度に合わせ、突っ込む
「デルフ、投下指示」
「あいよ。3・2・1・投下」
声と共に才人が操縦席左側の投下レバーを引き倒し、増槽とロケット弾を切り離すと、そのまま急速上昇し、レキシントンから離脱する
弾は予定と違い、少々ずれたが全弾命中し、火柱が上がるのを確認する
「命中。だけど300メイルで中央に被弾にセットしたのに、上手く行ってねぇな」
「おいおい、大戦果じゃねぇのか?相棒」
「予定性能出なかったのが、不満なんだよ」
「かぁ、どうでも良くね?」
「それじゃ、次に繋がらないから却下」
「物作りになると、本当に容赦ねぇな、相棒」
「職人ってのはそんなもんだ。どうした?ルイズ」
ルイズは呆然としている
「ヒコーキって、凄いんだ」
「ばっか、本当に凄いのは此からだ。荷物落としたから、格闘戦に移行する。きばれよ、デルフ」
「おう、右上方3騎」
才人は機首を向けつつデルフに聞く
「火竜の射程教えろ」
「約15メイル」
「余裕」
零戦の射程は、300mで中央に集束する様にセットされている
才人は敢えて直線上に乗り、7.7mmを火竜の編隊の右から左に掛けて、水平移動しながら射撃し、バレルロールでかわしながら交錯すると、火竜が口を開けた状態で爆発を起こし、墜落していく
「うわきゃぁぁぁぁ!!」
ルイズが回転した機内で悲鳴を上げるが、才人は無視し、デルフが次の目標を指示する
「次、後方3騎」
才人はそのまま宙返りの直上で機首をロールするインメルマンターンを行い、火竜と違う方向に射撃した後さっさと離脱、火線に回避機動を取った火竜達が吸い込まれ、墜落していく
「何?今の」
「予測偏差射撃。ルフトバッフェの得意技。デルフ、次」
ルイズは才人が行う空中ショーに、すっかり魅入られる
つまり、才人の膝の上は、ハルケギニアで一番安全だ
もう怖い物は無しである
「いけいけ、サイト。アルビオンぶっとばせ〜!!」
「操縦しないのは気楽で良いな」
才人は苦笑する
「だって凄いんだもん。アルビオンの竜騎士って、最強の呼び声高いのよ?」
「相棒、左右から3騎ずつだ」
才人はそのまま急上昇を行うと、竜騎士は其に追随しようとするが、元々の速力と加速力に差が有りすぎる為、追いつけない
すると、零戦はそのまま失速し、墜落軌道を取るかと思ったら、竜に火線を向けつつ垂直降下を始め、上昇しながら回頭するレキシントンに迫る
火竜はブレスを吹く前に尽く撃墜され、零戦の前に墜落していく
才人はそのままレキシントンの被害状況を確認し、剥き出しの破壊された砲塔の断面を見て、ニヤリとする
「鋳物かよ。右舷には、コイツをくれてやる」
左手の射撃レバーを7.7mmから20mmに触れ、射撃しながら右舷を通過し、背後で爆発が轟いた
そのまま艦底を通過し、味方の陣に向け低空飛行しルイズに話しかける
「ルイズ、士気を上げる為に敬礼するぞ。窓開いて」
「解った」
ルイズが窓を開け、陣に向け敬礼すると、歓声が上がるのが聞こえ、本陣にアンリエッタ達が見える
そのまま後方で旋回すると、才人は左手で親指を立て上下させ、ガッツポーズを作ると、窓を閉め、連続インメルマンターンで高度を取るために、一気に上昇していく
何れも此も、火竜との速度差がある為に出来る機動であり、その利点を才人は最大限に利用した
「……姫様、居たね。才人、さっきの合図は何?」
「衛士隊が騎乗状態で居たからね。空戦手伝ってくれって言ったのさ。ルイズは祝詞考えてろ」
「こんな無茶苦茶な中で、どうやって?」
「普段考えられないなら、普段と違う状態なら大丈夫じゃないか?」
「…そうかな?」
ジトっと、才人を睨む
「物は試しだ。駄目元でな」
「うん」
言われてルイズは祈梼書を開く
デルフと才人がやり取りしながら、激しい機動を行うのも忘れてしまう
才人の腕の中は一番安全だし、何しろ、祈梼書に文字が浮かんだからである
「こ、此は?」
古代ルーン文字で書かれた文は、きちんと勉強してたルイズには読める
そして中身に驚愕する
ルイズが祈梼書を熱心に読み始めた時、才人は竜騎士を粗方撃墜し終えた
「何騎仕留めた?」
「25騎だぁね」
「異世界じゃ、エースも名乗れねぇな」
「何でだよ?相棒」
「条件が違い過ぎる。完全にワンサイドゲームだ」
「妙に潔癖だぁね、相棒」
「自慢にもならん」
そんな才人達の後方直下から最期の火竜小隊が侵入してきたのを、デルフも才人も気付かない
何故なら零戦の死角だからだ
一応気を配っているのだが、速度も落とし巡航レベルで、火竜達でも追い付ける
射程に入った火竜達が口を開きブレスを吐こうとすると、小隊全てが竜巻に巻き込まれ、ズタズタにされて墜落していく
「何だ?」
「やられた、死角から近付くたぁ、気付かなかったわ。迎撃したのはカッタートルネードだな。スクウェアスペルだぞ?」
「ヒュ〜、助かったわ。迎撃してくれたのは誰だ?」
マンティコアに乗った騎士を先頭に、グリフォンに乗った騎士が、雁行陣を敷いている
「あのマンティコアに乗った騎士だぁね」
「助かったわ」
零戦から手を振ると、マンティコアに乗った騎士が応える
「さてと、ルイズ?」
ルイズは熱心に、白紙の祈梼書を読んでいる様に見えるが、才人はレキシントンを落とす為の弾がまだ残っている事を思い出すと、レキシントンに機首を廻らす
「20mm炸裂弾。全部ご馳走してやるよ」

*  *  *
「何と、空戦しながらも、私達の士気の回復迄して下さるとは」
アンリエッタは感激する
アニエスは才人が送って来たサインの意味を考え、敵戦列艦が艦隊を前に向け前進を始め、地上部隊の行軍も速くなるのを確認し、レキシントンが上空で回頭を始めるのを見、確信する
「殿下、近衛隊に突撃命令を!!」
「衛士隊はともかく、銃士隊もですか?」
「はい、才人のサインは空戦援護の要請です。そして周りがレキシントンの不利を悟って、他の戦列艦が無事な内に、勝負を仕掛けて来ました。艦首が此方に向いてる今が、チャンスです」
その言葉に、ゼッザールとジェラールも頷く
「今なら砲撃が無い」
「同感」
「ですが、どうやって銃士隊を?」
「衛士隊に空輸して貰います。2往復すれば、最前線に集結出来ます」
「ふむ、承知した。ミラン殿」
「解りました。近衛全隊、突撃せよ」
「「「ウィ」」」
「先に第一分隊から第三分隊迄空輸して貰う。ミシェル、第四から第六の指揮頼む」
「ウィ」
「第一から第三、伊達男に送って貰え!!」
「「「ウィ!!」」」
銃士隊の半分が衛士隊に騎乗し、アニエスはゼッザールの騎獣に騎乗する
「宜しく頼む」
「承知!!」
幻獣達が羽ばたき、一気に上昇し、前線に向かって飛び出す
ジェラールの後ろに乗った銃士に、早速ジェラールは声を掛ける
「君の様な花を、戦場で乗せる事が出来るなんて、何たる幸運。どうだい?戦が終わったら、御近づきの印にデートでも?」
「あら、銃士は棘が飛んで来るのでは無くって?」
「そんな事言うジェラール=ド=グラモンは、先程戦死したよ。今の僕は、新しく産まれ変わったジェラール=ド=グラモンさ」
「じゃあ、将軍の首級上げたら、考えても良くってよ?」
「その言葉、間違い無いね?」
「えぇ」
「決まりだ」
ジェラールはニヤリとする。顔だけは、やたらに良いのがグラモン家の男達である

「良し、此処で良い」
「まだ200メイル有るが?」
「長銃なら届く」
「了解した」
「レビテーション頼む」
アニエスはそう言い残し、さっさと飛び降りる
其を見た銃士達も飛び降り、衛士隊は慌ててレビテーションを掛け、彼女達が地面に激突しない様に着陸させると、踵を返して本陣に戻る
「第一から第三、三列横陣!!」
アニエスが号令を掛け、銃士達が一気に整列敵陣の真ん中で、フリントロック式長銃を構える
「長銃撃ち方用意!!第一分隊撃て!!」
ダダーン!!
「第一分隊弾込め!!第二分隊前へ、撃て!!」
ダダーン!!
「第二分隊弾込め!!第三分隊前へ、撃て!!」
ダダーン!!
一気に射程内に入られた敵部隊は驚き、連続射撃の餌食になり、中央が崩れ出す
アニエスは後続が来る迄、交代射撃を連発し、敵部隊を完全に崩す
その間に、衛士隊が更に銃士を降下させ、後続の銃士がアニエスと合流、一気に一個中隊半の勢力になる
威力倍の交代射撃で更に崩す
「マドモアゼルにばかり任せるな、陣型、錐。突撃体制」
ジェラールが上空で、自身を先頭に5騎を鏃型に並べ、後ろを3騎縦隊にする
流石にアルビオンの軍勢も立て直し、銃を構えるのが見えた時、上空からヒポグリフに乗った衛士隊が降下しながら、突撃を開始する
衛士隊独自の三次元チャージ、通称錐である
特にグラモンの指揮するチャージ方法は、トライアングル土メイジを5人先鋒に据えて、人獣共に硬化を行い、銃弾も剣槍も通さず、魔法は防御魔法で全ていなし、騎兵の突破力を馬の倍の速度で実現させる
通常兵もメイジ兵にも災厄と言われる物で、特にグラモンの錐と呼称され、衛士隊の象徴にもなっている
仕留めるには、より破壊力と目前で行われる三次元の高機動に、対応出来る攻撃をぶつけるしかない。大抵、どちらかが足りないのである
右手にランスを構え、左手で手綱を握りつつ軍杖を逆手に握り
ジェラールが穴の空いた敵陣に突っ込むと、スパァっと、綺麗に切り裂かれる
そのまま一度上空に上がると、ランスの先に貫かれた兵が刺さり
其を他の兵をランスの先に差した衛士達と共に振り落とし、将軍を射程に捉え、上空から急降下で一気に仕掛ける
流石に近衛のメイジ達が攻撃魔法を連発するが、炎をウォーターシールド、風をエアシールド、水をフレイムウォール、ブレッドを複合防御魔法に、先鋒の硬化で叩き落とし
そのまま降下威力迄槍に乗せ、敵将軍を一撃で貫き、ヒポグリフの嘴と爪で周辺兵を蹂躙し、そのまま跳ね上がると、後続も同じ様に叩き付けながら跳ね上がる
そして、将軍を貫いたまま、上空で大声を上げる
「アルビオンの将軍。ヒポグリフ隊のジェラール=ド=グラモンが獲ったぁ!!」
ヒポグリフ隊の衛士達が更に歓声を上げ、更なる蹂躙を行う為、敵陣に踊り込む

「3000相手に、あっさり決めてしまったな」
アニエスはすっかり感心する
「流石グラモンって所ですかな?隊長」
「全くだ。あれが味方で、本当に良かったよ。ミシェル」
「敵が浮足立ちました。更なる追撃を」
「良し、陣型切り替え。2個方陣」
アニエスが指示し、角を先頭にした4角形が二つ、横に並ぶ
「敵両翼を狙うぞ。ミシェル、右方陣の指揮を任せる」
「ウィ」

*  *  *
「‥‥あれが、グラモンの錐」
アンリエッタは初めて衛士隊のチャージを見て、呆気に取られる
「殿下が、グラモンを衛士隊に引き抜いたのは、間違っておりませぬな」
「相手は3000ですよ?何で、50騎程度であんなにあっさり」
「馬の倍の速度で魔法も銃弾もいなしながら、地上所か空中迄踊り上がるのです。一般兵もメイジ兵も対応するのは、並大抵の事では有りません」
「衛士隊全隊が出来るのですか?」
「防御の強固さに於て、ド=グラモンが一番ですな。ですから被害が少なくて済みます。他の隊でも出来ますが、攻撃に偏重してしまい、グラモン程安定して叩き出せませぬ」
「トリステインは、弱いと思ってたのですが」
「先代衛士隊の軍政改革の賜です。殿下の銃士隊も活躍してます。お陰で、連隊の再編も出来ました。何時でも突撃可能ですぞ?」
「あの、戦列艦に向かった2隊は?」
「マンティコア隊が順調に制圧中ですな。ご覧あれ」
指を差した戦列艦から火を噴き、艦が傾くのが見える
「何をしたのでしょうか?」
「乗り込んで、マンティコアと共に水兵達を蹴散らし、火薬庫に炎魔法をぶつけたのでしょう。三隊の内、一番攻撃力の高い幻獣ですからな」
「グリフォン隊は?」
「さて?あぁ、今臨時副長殿を支援しましたな。カッタートルネードで竜騎士を3騎、撃墜しました」
「何と頼もしい」
「トリステイン最高の武人達ですぞ?」
「なるべく、被害が出ないで欲しい物です。替えが効きそうに有りません」
「次世代の育成は、きちんとやっておる筈ですが?」
「其でもです」
「そうですな。今グリフォン隊も戦列艦制圧に乗り出しました。ヒポグリフ隊も、制圧に出さないとキツイですな。殿下、全軍突撃を」
「宜しいのですか?」
「勿論です。突撃すれば、砲を気にする必要が無くなります」
「解りました。全軍突撃!!」
命令が次々に伝達され、士気が最高に高まったトリステイン軍が、一気に突撃する
大勢が決したかに見えるが、戦列艦とレキシントンがまだ動いている限り、油断は出来ない
何故なら最悪、艦で兵を押し潰す事も有り得るからだ
其を全艦でやられたら、ひとたまりも無い
あっさり勝負はひっくり返るだろう
「其でも、地上部隊を殲滅出来ねば、意味が無い」
マザリーニは覚悟を決め、アンリエッタを守る為にユニコーンの前に馬を進め、共に突撃した

*  *  *
報告します」
「申せ」
「はっ、竜騎士隊30騎全滅。但し、隊長ワルドの撃墜は未確認。行方不明です」
「火竜で落とせないから、策を練ってるのだろう。放っておけ」
「はっ。敵竜騎兵、本艦に対する攻撃再開。初弾程では有りませんが、確実にダメージを与え始めてます。既に、右舷砲列第一甲板の砲が三門使用不能」
「奴が急降下したタイミングで、至近距離で散弾をぶつけろ」
「やってますが、タイミングが合いません」
「なら、早すぎる位で撃ってみろ」
「イエス・サー。伝えます」
伝令が去り、新たに報告が入る
「サー。報告致します」
「申せ」
「は。シャーウッド将軍、敵衛士隊隊長ジェラール=ド=グラモンに討たれました」
「くっ、此だから幻獣騎兵は厄介だと。指揮の引き継ぎはしているな?」
「近衛メイジ共々壊滅しました。現在各部隊で個別に対応中。戦列艦部隊、援護に前進するも、衛士隊の制圧に対応出来てません」
「艦隊の海兵は?」
「騎獣と衛士隊の攻撃でやられました」
「流石、トリステイン最強部隊と言った所か」
「ちょっと、ボーウッド。一体何があったんだい?何でレキシントンが、攻撃を受けている?」
フーケが船室から飛び出て、ボーウッドに詰め寄る
「ミスフーケ。生きて居たのか。見ての通りだ」
「居住区画に居たから無事だったのさ。質問に答えてくれ」
「あれだよ」
丁度零戦が、レキシントンを急降下攻撃を始めたのを、ボーウッドが指す
「何だいあれは?」
「トリステインの竜騎兵だ」
ダダダッ
右舷甲板が砕け散り、更に下の砲に直撃。砲が破壊され、通過直後に砲が発射され、まだタイミングが合わない
「もう少し早く撃て」
「イエス・サー。伝えます」
「あれは…まさか」
通過直後に見たコクピットには、珍しい黒髪と、桃髪が見える
このコンビから思い出すのは、一つしか無い
「本当に、アイツか?」
フーケは思い切って、右舷に寄る
「ミス、危険だ、死ぬ積もりか?」
ボーウッドが止めるが無視し、また急降下攻撃をしようとしてきた零戦を睨むと、パイロットと視線が合う
そのまま、零戦は何もせずに通過し、砲が零戦に当たり、散弾が炸裂し、機体が散弾で軌道がずれ、よろめいたが、そのまま通過して行った
「命中しましたが、ダメージは不明」
「そうみたいだな。しかしどういう事だ?ミスフーケ?」
「さぁ、アタイにも解らない。何か問題出たんじゃないか?」
「ふむ、そうかもしれんな。攻撃行動を取らなくなった」
上空で旋回を始めた零戦を見て、ボーウッドは呟く
『間違い無い。あれは才人だ。アタイが居たから、攻撃しなかったのかい?本当に甘チャンだね。全く、また助けられたじゃないか』

*  *  *
「どうした相棒、何故攻撃しねぇ?」
「やられた。糞、まさかフーケが居るとは」
「其で被弾してちゃ世話ねぇな。アホウ」
「全くだ」
散弾が一発だけ貫通し、座席に血が広がり始める
「俺は、どうしようもねぇ甘チャンだ。くっそ、シュヴルーズ先生、硬化のイメージ固めて無かったな?薄い所あったか」
「魔法だって万能じゃねぇよ。どうする?」
「さぁて、どうすっかね?」
とりあえず、レキシントンの上空を旋回しつつ、思考を廻らす
「相棒、あの炸裂する弾使いきっても、あの船は落とせねぇぞ?」「んなこたぁ、解ってる。其でもだ。衛士隊が今、戦列艦一艦ずつ仕留めてんだろ?奴らが侵入する経路を、確保出来れば良い」
「単騎で落とす気は、更々ねぇのか」
「其処まで俺は考えてねぇ。ガンダールヴが無敵でも何でもねぇのは、デルフが一番知ってるじゃねぇか」
「此処まで変なガンダールヴも、見た事ねぇがな」
「初代以外にも居たのか?」
「忘れた」
「いつか追求しちゃる」
その時、ルイズは熱心に祈梼書を読んでいた

序文
これより我が知りし真理をこの書に記す。この世の全ての物質は、小さな粒より為る。四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり
その四つの系統は『火』『水』『風』『土』と為す
神は我に更なる力を与えられた。四の系統が影響を与えし小さな粒は、更に小さな粒より為る。神が我に与えしその系統は、四の何れにも属せず。我が系統は更なる小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり
四にあらざれば零。零則ち此『虚無』。我は神が我に与えし零を『虚無の系統』と名付けん

此を読みし者は、我の行いと理想と目標、歓喜と絶望を受け継ぐものなり。またその為の力を担いし者なり
『虚無』を扱う者は心せよ。志半ばで倒れし我とその同胞のため、異教に奪われし『聖地』を取り戻すべく努力せよ。『虚無』は強力なり
また、その詠唱は永きにわたり、多大な精神力を消耗する。詠唱者は注意せよ。時として『虚無』はその強力により命を削る
従って我はこの書の読み手を選ぶ。例え資格無き者が指輪をはめても、この書は開かれぬ。選ばれし読み手は『四の系統』の指輪をはめよ。されば、この書は開かれん
聖地を取り戻す努力をせし者に、我は歓喜と絶望を与えん

ブリミル=ル=ルミル=ユル=ヴィリ=ヴェー=ヴァルトリ

「何…これ?歓喜と………絶望?一体、始祖ブリミルに何があったの?」

以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す
初歩の初歩の初歩『エクスプロージョン(爆発)』

才人がレキシントンの上空で考え事をしていると、ルイズが才人に話しかける
「サイト」
「何だ?」
「もしあたしが、伝説の担い手だったら、どうする?」
「どうもしない。ルイズはルイズだ。只、その力を今迄馬鹿にされた仕返しに使うなら、お仕置きしちゃる」
クスッとルイズは笑う
「やっぱり、サイトはサイトだ。あたしね、始祖の祈梼書読めちゃった」
「そっか。良かったな」
「始祖の系統、使えるかも」
「試してみるか?」
「うん。窓開けるよ」
ガラッと開けて、風が入り込み、風切り音で一気に聞こえ無くなる
ルイズは才人に肩車された状態で祈梼書を片手に、杖を持ち、ルーンを唱え出す
「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ・オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド」
何故か風切り音の中なのに、才人の耳にははっきり聞こえ、身体から力が湧いてくるのが解る
「マズイ、相棒、後ろだ、速すぎる!!」

「先程の急降下、見事だった。真似させて貰う」
ワルドは単騎、風竜の限界高度4500メイル迄上昇すると、其処から急降下を始め、雲を突き抜けた時に零戦の背後に偶然付く
急降下して十二分に加速した風竜から、渾身のエアスピアーが放たれる
低速で旋回してた零戦の背後から、800km/h以上で加速して来たエアスピアーは、ホーミングしながら後方にずらしてた風防を2枚貫き、才人の背中に突き刺さると、形状が解ける
ガガッ!!
「コフッ!?」
「相棒!!」
才人は口に溜めた血を吐き出し、袖で拭う
「大丈夫、片肺潰されただけだ。死にはしねぇ」
ヒューヒュー言いながら答える、才人
「だが、やべぇ、やべぇよ、相棒」
背中から大量に出血し始め、座席が赤黒く染まり始める
「今は、あの風竜潰さないと」
才人は蒼白になったまま回転を上げ、風竜に対して格闘戦を始めるが、速度の付いた風竜に、あっさり背後を取られる
「マズイ」
才人は急上昇をし、風竜が其を追随した時、ルーンが光り、才人はルーンの命じるままそのままブレーキ、失速させた途端左側に捻りながら宙返り半径を短縮し離脱、急旋回でそのまま風竜の宙返り軌道に7.7mmを射撃する
才人は無意識に、実戦ですら使われ無かった左捻り込みを行う
ワルドはエアシールドを自身に展開するが、風竜の全身と自身、其に左腕に当たり、左腕が吹き飛び、墜落して行った
「やべ、ルイズ忘れてた。ルイズ?」
見るとルイズは肩車したまま、詠唱している
「大丈夫か」
才人は血の気が失せ、意識が朦朧しながら、ルイズの詠唱による力により、零戦をそのまま空中待機させる中、レキシントンではフーケが騒いでいた
「ワルドが撃墜された!!救出する!!許可を!!」
「許可する。スクウェアメイジ且つ、衛士隊の戦術継承者は貴重だ。使える幻獣でも舟でも好きなの使え。そのまま本国に送還しろ」
フーケは頷くと、予備の風竜が収めてある格納庫に向けて、走り出した

「ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ」
ルイズは、零戦の機動が激しかった事すら、そのまま肩車で対処してしまった
『才人の傍なら何でも平気。身体から力が湧いて来る、この行き先は…』
才人に脚で合図を送り、才人はレキシントンに向けて降下を始める
「ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル……」
呪文が完成した途端、ルイズは呆気に取られる
『敵味方全部巻き込む。どうしよう?地上戦は有利に展開してる。なら』
ルイズは杖を振るい自身の気持ちが命じるまま下す
『歓喜と絶望。味方すら巻き込みかねないから、絶望なのかな?』
ルイズはそんな事を考えつつ、艦を飛行不能になる事だけを考え、発動させた
瞬間、戦場が光りに包まれる
あっという間に包まれ、光りの中に呑まれた者達は敵味方含めて、一旦戦闘を停止する
「何だ?」
光が収まった後は、アルビオンの艦が全て風石を破壊され、煙を吹きつつ、ゆっくりと降下をし始める
降下位置に居た部隊は敵味方全員戦闘を投げ出し、そのまま散々になる
一番高空に居たレキシントンが着陸し、白旗を掲げ、トリステイン軍から歓声が上がり、決着した

零戦の機内に降りたルイズは才人の膝の上に座り、窓を閉めた後、惚けている
「……あたし、出来ちゃった」
「…あぁ」
「褒めてくれないの?」
「…後でな、着陸する」
「もぅ。馬鹿犬、絶対だからね」
ルイズはむくれて才人の顔を睨む
自分自身がどういう状態の才人の上に乗って居るのか、ルイズはまだ気付かない
そして、何故かデルフも無言である
草原に着陸すると、着陸体制を見てた一人の黒髪の少女が、いち早く駆けて来て、零戦に傍に駆け寄ると声を掛ける
「才人さん!!才人さん!!才人さん!!本当に来てくれた!!才人さん、開けて下さい!!私です、シエスタです!!」
シエスタが零戦の胴体を叩き、才人に催促する
「んもう、何よメイド。あたしのサイトに何か用?」
ルイズがガラリと風防を開けて、乗り出して答える
「ミスヴァリエール、負傷したんですか?」
シエスタが、真っ青になりながら聞く

「この通りピンピンしてるわよ?何で?」
改めて自身の服を確認すると、身体のあちこちに血がべったり付いている
「あたし…傷なんか一つもしてない。…サイト?」
改めて操縦席を見た途端、ルイズは真っ青になる
其処は、才人の血にまみれ、赤黒くなっており、才人は青醒めた顔で気絶している
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!何これ?何でこうなってるの?」
「……嬢ちゃんの詠唱中に、被弾したんだよ。相棒は、使い魔の役割を優先しやがった」
「ボロ剣!!何で教えないのよ?あんた溶かすわよ!?」
「相棒が、嬢ちゃんの一世一代の大博打に挑む時に、……邪魔なんざ出来るかよ」
「デルフさん。其より才人さんの傷は?止血しないと、死んじゃいます!!」
「左太ももに一発。背中に風穴。右肺潰れてる」
「何か薬とか無いの?ボロ剣」
「相棒は薬はって、思い出した。香水の嬢ちゃんが薬持たせてた。パーカーって奴の、ポケットに入ってねぇか?」
ルイズがポケットをまさぐると、小瓶が出てくる
「飲み薬?」
「そだよ」
ルイズは無言のまま、薬を口に含み、才人に飲みこませる
喉が飲み込むのを確認し、ルイズは続けてデルフに確認する
「どう?」
「おぅ、何とか血は止まった。だが、危ねぇ状態には変わりねぇ。動かすのも止めとけ。メイジに応援頼むんだな」
其を聞くと、空中に居た衛士隊に、ルイズは飛び降り、シエスタと共に大きな動作で注目を浴びる様に手を振り、気付いた衛士隊が降下を始めた

機内に残されたデルフは一人呟く
「幾ら何でも、あんな嬢ちゃんに歓喜と絶望背負わせんのは、宜しくねぇだろ?本当にムカつく野郎だな、えぇ?ブリミル=ヴァリトリよ」

*  *  *
「何とか、勝てましたね」
「本当にギリギリでしたな。あの光は一体何だったのでしょう?あれのお陰でトドメになりましたな」
「詳しいのは後です、マザリーニ。今は降伏したアルビオン軍の扱いを頼みます」
「承知しました、陛下」
「陛下?」
「はい、今からアンリエッタ=ド=トリステインは、国王にございます」
「あの、結婚は?」
「先程、やっと返事が来ましたな。援軍は2週間後ですと。そんな所と結婚なぞ、せずとも構わないでしょう」
「クス、そうですわね。では、此が終わり次第、戴冠式を行います。同盟は堅持で構いませんね?」
「御意」
報告致します」
一人の衛士隊員が降下し、アンリエッタに膝を付く
「何でしょう?」
「はっ、近衛副長サイト=ヒラガ負傷。重体であり、即時の治療が必要。現在ゼッザール隊長他、三騎で空送中」
アンリエッタは青くなり、マザリーニも唸る
「…絶対に、死なせてはなりません。私自身で治療を行います。私はスクウェアでは有りませんが、王家の杖の助力が有ります。他の者より出来るでしょう。此所に誘導しなさい」
「ははっ」
衛士隊員はそのままグリフォンに飛び乗り、一気に上昇し、誘導する為に去って行く
「陛下」
「絶対に死なせません。カガクが何をもたらすか、マザリーニも理解致しましたね?」
「勿論です、陛下」
「彼の者の治療を最優先させます。些事は全てマザリーニ、貴方が指揮しなさい」
「ははっ」
マザリーニが指揮を取るために場を離れると、騎兵が5騎降りてくる
負傷者を抱えて居る為、ゆっくりと柔らかく着地すると、ゼッザールがレビテーションで才人をアンリエッタの前に、空中固定して差し出した
後にはデルフを抱えたルイズと、村雨を抱えたシエスタが後続の騎兵から降り、アンリエッタの前に跪く
「殿下」
「世辞は後です。負傷部位と状態を教えなさい」
「はい、デルフお願い」
ルイズは自身の声で伝える自信が無い為、デルフに頼む
さっきから、シエスタと共に震えっぱなしだ
「おうよ。左太ももに散弾喰らってる、多分弾残っているな。後、背中に風穴開いてるわ、エアスピアー喰らって右肺が潰れてる。出血の大半は背中からだな。薬使って何とか止血したが、やべぇ事には変わりねぇ」
「薬の種類は解りますか?」
「此です」
ルイズが小瓶をアンリエッタに渡す
「あら、この成分は、調合した人は本当に必死でやったのね。此、戦時でも限りが有るから、部隊に配備するのは無理の有る薬よ?」
アンリエッタは分析すると感心する
「先ずは傷の状態を見ないと。使い魔さんの服が邪魔ですわね。切り裂いて「駄目ぇぇぇぇぇ!!」
突然ルイズは大声を上げ、アンリエッタの声を遮断し、アンリエッタは驚く
「ルイズ=フランソワーズ?」
「駄目ったら、駄目なの。サイトは其を軽鎧って言ってたの。サイトがその程度の怪我で済んでるのは、その堅い服のお陰なの!!無くしちゃったら、次に闘いあった時に、サイトが死んじゃう!!」
シエスタも横で必死に頷く
「そうなのですか…これは、困りましたね」
「あたしが脱がせます」
「私もやります」
二人がレビテーションで浮いた才人からズボンとジャケット、パーカーを脱がせ、更にシャツ迄脱がせる
才人の服は血に濡れ、ルイズとシエスタは血まみれになるが、一切構わずに行動する
「此は、酷い」
ゼッザールが傷口を確認すると、顔をしかめる
もう時間が経っている為に、細胞が壊死を始めてる。本当に治療出来るかギリギリだ
「風使い、前に」
「私がやります」
ゼッザールが前に出る
「上手く黒ずんだ部分を切り取りなさい」
「はっ」
レビテーションを他の衛士隊に任せ
ウィンドカッターを上手く使い、黒ずんだ部分を切り取る
額には大量の汗が垂れる
「後は私が塞ぎます。太ももから、弾をえぐり出しなさい」
「はっ」
此また細心の注意でウィンドカッターで弾をえぐり出す中、アンリエッタが尋常ならざる集中で、治癒を連続詠唱し、徐々に傷が塞がっていく
其を血まみれになった二人が、祈りを込めて見守る
「良し、取れた。私は此で魔力切れだ。最小出力ってのは、中々に難しい」
「此方も塞がりました。傷が残ってしまうのは、私の技量では精一杯です。後は太ももですね」
アンリエッタが治癒を更に唱え、太ももの傷も塞がる
「施術…終了です」
「我らの副長殿は助かったぞ!!」
ゼッザールが声を上げ、周りから歓声が上がる
「では、貴方達も。大義でした」
アンリエッタが浄化を唱え、ルイズとシエスタ、其に血まみれの服が洗われ、血の痕跡が綺麗になる
「あの、出来ればヒコーキの中も。サイトの血で血まみれなんです」
「其は、我々に任せて貰おうか。あのヒコーキとやらは、学院に戻せば宜しいかね?ルイズ嬢」
「はい、お願いします、ド=ゼッザール。只、サイト無しだと触ってはイケない所とか解らないので、なるべく触らない様にして頂けますか?」
「了解した。母君と父君に宜しく頼む。衛士隊、出るぞ」
衛士隊は更なる任務を受け、去って行った
「さて、ルイズ。使い魔さんが助かったとは言っても、実はまだ、予断を許さない状態です」
「本当……ですか?」
「はい。血を流し過ぎました。このままでは体温も維持出来ず、夜を越えられないかも知れません」
「じゃあ」
「使い魔さんを人肌で四六時中暖める必要が有ります。勿論裸です。服を着ていては駄目です」
「えっ!?」
ルイズは真っ赤になるが、シエスタが答える
「私がやります。殿下」
「助かりますわ。一人では無理なので、交代でお願い致します。アニエスは戻りまして?」
「今、グラモン隊長と共に戻られました」
「通しなさい」
「はっ」
伝令が駆けて行き、アニエスとジェラールを連れて来る
「ジェラール、アニエス、ご苦労様でした。ジェラールは引き続き戦後処理を、アニエスは銃士隊を三分隊と共に、私と先に王宮に戻りなさい。使い魔さんの治療です。直ぐに戻りますよ」
「了解です、殿下」
ジェラールは才人を一瞥すると、任務に戻る
アニエスは才人の状態を見て、表向きは平然としているが、内心は誰にも解らない
「銃士隊の馬車に、使い魔さんとルイズと平民の娘さんを乗せなさい。私はユニコーンに乗り、戻ります」
「ははっ。では準備をしてきます」
アニエスは準備をする為に去って行った
「さてと、使い魔さんを暖めないと。レビテーションは私がやるから交代です。其とアニエスが来るまで、天幕に居ますので、誰も入れない様に」
「ははっ」
アルビオンが降伏した時点で陣を敷き、既に小さいながらも天幕がある
アンリエッタはその一つに才人を伴って入り、才人を絨毯に寝かせると、そのまま才人を抱き締める
続いて入ったルイズとシエスタは、その様を見て、呆然とする
「ひひひひ姫様?」
「何をしているのです?予断を許さないと言った筈ですよ?直ぐに出ますから、服は脱げませんが、其でもやらなければ駄目です。早く空いてる場所から暖めなさい」
「失礼致しました」
ルイズが答え、シエスタが直ぐに才人の隣に寝転がり、才人を抱き締め、ルイズは躊躇する
「あの、二人で隣同士だと、あたしは?」
「早く毛布でも探すか、其処で見てなさいな、ぺったんこ」
「は、はい!!……今、さらりと酷い事言いませんでした?姫様?」
「さぁ?」
アンリエッタが澄まして答え、シエスタは感心し、ルイズは喧嘩も出来ず、他の天幕から毛布を探し出して才人達に掛け、アンリエッタをジトッと睨むが、毛布の中でアンリエッタは舌を出し、そんな様をシエスタは感激しつつ見る
アニエスが準備を整えて来る迄、更に30分程掛った

*  *  *


URL B I U SIZE Black Maroon Green Olive Navy Purple Teal Gray Silver Red Lime Yellow Blue Fuchsia Aqua White
トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2010-11-19 (金) 13:14:25 (4900d)

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル