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Last-modified: 2011-02-07 (月) 14:12:17 (4824d)

王立共同墓地。此処は、トリステインの為に働きつつ殉職し、身寄りの無い者達が埋葬されている墓地である
才人は一つの墓の前に立ち、周りにはアニエスとルイズが立っている
墓の名前はアベル=ガイドと刻まれていた
「やっと…名前教えてくれたな。アベルさんよ」
才人はしゃがみ、両手を合わせて拝む
その様子を、ルイズは黙って見ている
「ガイド殿はな、貴様の連れになりたいって、良く言ってたよ」
「……遅ぇよ、馬鹿」
才人は立ち上がると村雨を抜き、墓石に日本語で文字を刻み始める
ガッガッ
「才人、何て彫ったんだ?」
「…我が友」
「最高の送り名だな」
「……喜んでくれると……良いけどな」
才人が二人を促して去ろうとすると、墓石の陰から痩せた黒猫が現れ、ナァオと鳴き、才人達を呼び止める
「オマエ達、アベルの何だ?」
「猫が喋った!?」
才人が驚くと、ルイズが答える
「使い魔よ……多分ミスタガイドの」
才人は黒猫の前にしゃがみ、話始める
「俺か?俺はアベルの友達だ。そして、俺がアベルを殺した」
「オマエが、アベルを殺したのカ?」
黒猫が才人を見上げ、首を傾げる
アニエスが反論しようとするのを、才人が手で制し、言葉を繋げる
「あぁ、俺が仕事を頼んだせいで、アベルが死んだ。だから、俺が殺した」
「フゥゥゥゥ。シャアァァァァ!!」
黒猫が毛を逆立て、怒りの様を見せると、才人が手を出し、黒猫が思い切り噛みつく
手加減抜きの噛みつきで、血が滲み始めるが、才人は黙って耐える
暫くすると、抵抗しない才人に黒猫が躊躇しだし、血が出た部分を舐め始める
「オマエ、抵抗しなイ。アベルは勇敢だったカ?」
「あぁ。最期は31騎相手に、単騎で大立ち回りしたんだと」
「オマエ、アベルは自慢カ?」
「あぁ。アベルは自慢の友達だ」
「なら、良イ。アベルと一緒は楽しかっタ。もう、戻って来なイ」
黒猫は眼を細め、満足そうに鳴く。そして才人は気付く。黒猫は異常に痩せている
「…一緒に逝く積もりか?」
「使い魔の仕事、もう無イ。アベルの使い魔、ボクで二体目。今度はサイゴも一緒。オマエ達、もう帰レ」
「…ルイズ」
「…駄目よ。使い魔の気持ちは、使い魔のモノよ」
「…アニエスさん」
「好きに…させてやれ」
才人は黒猫を撫でると立ち上がり、一人踵を返し、歩いて行く
アニエスとルイズは慌てて追いかけ、その背中を見る
二人から見た才人は、穴の開いたジャケットに、デルフを背負った背中は哀愁と毅然が同居し、顔を手で覆った才人からは、涙が溢れた様な気がした
ルイズは、そんな才人の腕を取ろうと手を伸ばすが、躊躇する
『今のサイト、近いのに、凄く遠い』
隣のアニエスを見ると、鉄の表情で鎧っている
『アニエスも解らない。やっぱり、あたしはまだまだだ。サイトがいつも子供扱いしてるのは、あたしが本当の意味で子供だからだ。早く成長して、サイトの隣に立っても見劣りしない女にならないと』
だが、追い付く時は、別れの時が近付く時である
『でも、隣に立っても見劣りしなくなった時には、サイトは出て行っちゃう。あんの腹黒姫様。元の木阿弥じゃない。何とか引き留める方法は』
ルイズはう〜むと唸る
『サイトが子供達を相手したのを見て、サイトなら最高の父親になれるって、シエスタも言ってたし。やっぱり、サイトの赤ちゃんかな?あたしが、サイトの赤ちゃん沢山産めば良いのよね。きっと、黒髪の可愛い子と、あたしみたいな桃髪と二通りになるわね』
更に赤面する
『でも、サイトは貴族の誇りも名誉も、武勲ですら何処吹く風なのに、あたしはヴァリエールの家名のせいで、何にも出来ない。何とかサイトをヴァリエールに出来ないかなぁ?……あたしにお父さまとお母さまを、説得なんて出来ないし。諦めちゃ駄目よ、ルイズ』
小さく、うしとガッツポーズを作るルイズ
『先ずは、既成事実を重ねるんだ。サイトをシュヴァリエにしなきゃ。サイトをトリステインの民にすれば、サイトは帰らなくて良くなる』
隣で歩いていたアニエスの袖を引っ張り、才人と少々距離を置く
「アニエス、ちょっと」
「何だ?」
「サイトをシュヴァリエにしたいの」
「私もだ」
「サイトに謀は通じないの。裏まで読んで、逆に臍曲げちゃう」
「…そうだな」
「情に訴えるのも、あまり通用しないの。サイトは、故郷に気持ちを残してる」
「…そうだな」
アニエスは苦虫を噛み潰した様な表情をする
情が完全に才人に移ったアニエスには、その事実は非常に面白くない
「どうすれば良い?」
「才人に聞くのが一番だ」
「其が出来れば…」
「だな」
二人は難問に頭を悩ませる
この後、政務の間にアンリエッタに呼ばれてる為、才人と共に王宮に向かう

*  *  *
ギーシュとモンモランシーは才人に会うと、口移しで避妊薬を飲ませて貰い、先に歓楽街街の噴水前で、才人達を待っている
二人がわざわざ王宮迄来た理由は、期限日が近付いていたからだ
そうしないと、運次第で身篭る事になる。例えそうなっても、二人共に歓迎したであろう事は想像に難くない
「お待たせしました。ミスタグラモン、ミスモンモランシ」
シエスタが駆け寄り、声を二人に掛けた
「いやいや、どうだった?」
「シュヴァリエに渡された小切手換金したら、びっくりしてしまいました。3割を送金にして、後は自分の口座に入れてしまいましたよ。私の一年の給金に匹敵してましたもん」
「でも才人と一緒だと、その資金が薬代で数ヶ月で全部消えるのよ?」
「ミスモンモランシ、何時も大変なんですね」
「才人に今回もコルベール先生の立て替え分除いた殆ど全部、経費だってポンと渡されたからね。才人も気前良いわ」
ギーシュが考え込みつつ、疑問を呈する
「ちょっと違うと思うよ。才人は多分、お金に興味ないんだ」
「…あ〜そうかも」
「如何に使うかが問題だって、冒険前に言ってたからね。活きた使い途なら、幾ら出費しても惜しく無いんだろうね」
「それじゃ、私もお財布任されたんだから、頑張らないと。シエスタ、値切り交渉きばるわよ」
「えぇ、やりましょう。ミスモンモランシ」
二人でガシリと右腕同士を交叉し、ニコリと微笑む
「まだ合流時刻迄時間はあるし、いざ、秘薬の材料を買い込みに、出発!!」
「「おー!!」」
問屋街を歩き、モンモランシーが材料の目星を付けるとシエスタがモンモランシーに聞く
「材料で効果が出るギリギリの奴はどれですか?」
「そうね、あれとそれは期限ギリギリ。調合した後は、固定化掛けた薬品棚で保管するから、ずっと持つわよ」
「じゃあ、捨て値で仕入れましょう」
シエスタが期限と値段と他店との差を指摘し、主人との値段交渉が白熱し、シエスタの言い値に近い値段で仕入る

シエスタを動員したせいで、何時もより値切りに拍車が掛り、材料の仕入れを3割増で行い、モンモランシーを感激させた
「ヒュ〜、流石シエスタね。こういうのは本当に強いわ」
「えへへ、買い物は任せて下さい」
「次からは、一緒にお願いね。多分教師からも重宝されるわよ」
「そ、そろそろ良いかい?流石に重いよ」
「ギーシュ、レビテーションでも掛けてなさい」
「あ、そうか」
ポンと手をうつと、どさどさ買った品々が地面に落ちる
「もっと丁寧に扱え、この馬鹿!!砂が混じったらどうすんのよ!?」
「あ、ごめんごめん」
そんなやり取りをしつつ、大量の仕入れを行った三人は、次に来た時、問屋街の商店全てに黒髪メイドお断りの文字に愕然とするのだが、まだ先の話である

*  *  *
予定時刻30分前に王宮に着き、門を通過する際、近衛兵が全員敬礼していき、才人は驚く
「アニエスさんに敬礼かね?」
「違う、貴様にだ」
「はぁ?」
「もう、近衛で貴様を軽んじる奴は居ない」
「…はぁ」
才人は首を傾げつつ、王宮内に入るとアニエスが先頭に立って歩くのに付いて行く
「あれ?何で俺は武器を取り上げられないんだ?武装許可証返したろ?」
「何でだろうなぁ?」
アニエスはニヤニヤしながら歩くと、謁見の間に着いた
「サイト=ヒラガ殿とミスヴァリエールを御連れした。陛下に取り次いで欲しい」
「はっ」
「ちょっと待て、何で俺の名前がフルネームで、しかもルイズより先に出るんだよ?俺は使い魔だぞ?」
「何でだろうなぁ?」
やはり、アニエスはニヤニヤしている
ルイズは理由を知ってるので、特に何も言わない
「陛下の用意が出来ました。では、無冠の騎士殿、陛下にお目通り願います」
「はぁ?」
ギィ
扉が開くと才人達が歩き謁見場所迄進み、待機すると、ゼッザールが横から才人に近寄り、手を取る
「やぁ、待ってたぞ。息子よ」
「いや、俺、あんたの子供じゃないんだが?」
「まぁ、堅い事言うな。呼ばせてくれ」
「才人、ゼッザール殿は、息子を既に亡くされてる。生きてれば、貴様と同じ年齢だったとか」
「…そうか」
「ミラン殿。余りそういう事は、言ってくれるな」
「ゼッザール殿、失礼した」
「其で息子よ、呼ばせてくれんか?」
「まぁ、其で隊長殿の気が済むんなら」
「おぉ、済まんな息子よ。では早速だが、私の息子にならんか?私には年頃の娘がおっての、親バカを差し引いても、中々の器量だと自負していてな。どうだね?」
「ゼッザール殿!!」
「駄目です!!」
ルイズより早く、アニエスが反応する
「おやおや、ルイズ嬢はともかく、ミラン殿迄」
ゼッザールはニヤニヤしながら、二人の反応を見る
「…一体全体、何が起きてんだ?」
「あれだけの押し通しをしといて、知らぬは本人ばかりか。クックックック。やはり息子は面白い」
ゼッザールは、笑いの発作が止まらない
「そろそろ宜しいですか?ゼッザール」
「あっ、はい、失礼致しました。陛下」
ゼッザールは下がり、アンリエッタの側に立つ
「いえ、良いのですよ」
アンリエッタは玉座から降り、才人の前に立ち、才人の手を取る
「無冠の騎士殿」
「…俺は騎士じゃない」
「そう呼ばせて下さいまし」
「はぁ」
「この度の戦の助力。命を掛けてトリステインを救って下さり、誠に感謝しております。また、私の独断専行を戒めて下さりまして、誠に申し訳ありませんでした」
「仕事をしただけさ」
「いえ、我々貴族より高潔な魂の持ち主であらせられるサイト殿に対し、私が間違って応対してしまいましたの。本当に幾ら感謝しても、しきれない位ですわ」
「…今度は誉め殺し?」
「…やはりそう見えてしまいますか。私の不徳の致す所で、誠に残念です。本当にどうやれば、サイト殿に誠意が通じるのでしょう?」
「…何で俺なんかに?」
「サイト殿は、自身の価値をご存知ないのですか?」
「そんなもん、このルーンだろ?俺の力じゃない。只の借り物だ」
才人はそう言って、アンリエッタから手を離し、左手のルーンを誇示する
「隊長殿」
「父と呼んでくれぬか?」
「一応親父が居るんでね。裏切れんよ」
「む、済まん」
「良いさ。隊長殿はその力、天性の才能を努力に寄って、開花させたモノじゃないのか?」
「勿論だ」
「ルイズもとうとう目覚めたな。でも、やはり其は、ルイズの才能だろ?」
「うん」
「俺は違う。この力は使い魔契約によって、無理矢理付与された力だ。俺本来の力じゃない。本来の俺は、飛行機の操縦なんざ出来ないし、剣も握れない」
「でもな、全員その力に敬意を払うんだよ。こんなの喜べる訳ねぇ。ガンダールヴの俺は………偽物だ」
「ガンダールヴ含めて、息子じゃないのか?」
「違うな。隊長殿、努力の末に手にした力と、無理矢理降って湧いた力。誇りとするならどちらだい?」
「勿論、努力の末に手にした力だ」
「そういう事だよ」
才人の簡潔な主張に、誰もが納得する
「……だが、ガンダールヴの力の後で、相当に努力したのだろう?」
「其ですら、ガンダールヴのお陰なんだ。本当に、偽物なんだよ」
才人の主張に全員押し黙る
「俺はこの先、ずっとガンダールヴで居なきゃならん。ずっと、偽物の力に頼らないとならん。俺は、ずっと偽物なんだ。シュヴァリエの資格なんざ……無い」
「サイト…」
「だから、俺はカタチ有る夢だ。そう思ってくれ。所詮、伝説の彼方に葬りさられた、異物だよ」
「サイト殿、ではどうしても、シュヴァリエには頷けないと?」
「今はね。この先どう心変わりするか、流石に断言出来ないからね」
「では、心変わりする迄、何度も説得させて頂くぞ?息子よ」
「ゼッザールの言う通りです。何度でも、えぇ、何度でも説得させて頂きますわ」
「ま、お手柔らかに」
才人はそう言うと、礼をし、踵を返して去ろうとするが、アニエスが肩を掴む
「待て、まだ終わってない」
「ん?何?」
「流石にトリステインを救って下さった方を、手ぶらで返す無能振りを、私達王政府にさせないで下さいまし」
「全くだ。息子は其処ら辺の機敏に無頓着だな」
「…はぁ」
「マザリーニ、入りなさい」
マザリーニが金貨を持って入って来る
「私達王政府に出来る、無冠の騎士殿に対する精一杯の誠意です。無冠の騎士殿は、勲章すら喜ばないと思いましたので。本当はお金では計れないのですが、此以外にやりようも有りませぬ。どうか、受け取って下さいまし」
そう言って、アンリエッタは頭を下げると、王冠が地面に落ちる
才人は王冠を拾い上げ、アンリエッタに話かける
「姫様。ほら、頭を上げて下さい」
「なりませぬ。せめて、受け取って下さる迄は、なりませぬ」
アンリエッタも、頑に顔を上げようとしない。その身体は震えてる。今迄の言動から、才人なら拒否してもおかしくないからだ
拒否されたら、才人がトリステインに全く興味無い事の証である
次に会う時は、下手すれば敵対かも知れない。才人の力の脅威は存分に見せ付けられた
アンリエッタも真剣なのである
才人は溜め息を付き、金貨を受け取り、ルイズに持たせると、再度アンリエッタに話かける
「姫様、有難く受け取りました。ですから、顔を上げて下さい」
「‥本当、ですか?」
「本当です。ルイズに持たせました」
身体を起こし、不安な表情を見せたアンリエッタは、ルイズが金貨の袋を持ってる事に、安堵の溜め息を付く
そんなアンリエッタに、才人は王冠を被せて上げる
「ほら、姫様。俺なんかに頭下げちゃ駄目ですよ。姫様は王陛下なんでしょう?」
「サイト殿一人説得する術を持たない、か弱い女王です。どうか、トリステインに益をもたらせて下さいまし」
「……ちょっと言えないです。俺は、異邦人ですから。トリステインは、トリステインの方々が、力を合わせるべきです。並外れた技術体系の外部の人間が手を出すと、歪みが生じます。其も、洒落にならない歪みをね」
「ならば、トリステインの民になって下さいまし」
「……ノーコメントで」
才人の口調にルイズは落胆する
『あぁ、本当に去る気なんだ。姫様の馬鹿』
「私は諦めません。宜しくお願い致しますわ。サイト殿」
そう言うとアンリエッタは才人に接近し、接吻する
才人は驚き硬直していると、身体を離したアンリエッタの顔は女王ではなく、悪戯好きの少女の顔だった
「私の悪戯を笑って受け入れて下さる、素敵な殿方。諦める訳がありませんわ」
そう言って、アンリエッタはにっこりと笑う
才人は頭をぼりぼり掻いて、困った顔をする
「逃げられそうもねぇな、相棒」
「全くだ」
デルフに締められ、才人は頭上を仰いだ

*  *  *
才人とルイズは王宮から去り際、才人に武装許可証が返却された
発行と発布を取り消していない為、才人が持とうが持つまいが関係無いし、容姿迄追加してる為、軍関係者なら直ぐに通じるとの事で、才人も大人しく受け取った
流石に過去の分迄、才人の主張が一方的に通る訳が無いのである
てくてく合流地点に歩いて行く迄、手持ち無沙汰なルイズが話しかけた
「…何でシュヴァリエにならなかったのよ?」
「王宮で主張した通りだ」
「そんなにガンダールヴが嫌なの?」
「好き嫌いじゃない。俺の力じゃないってのが、ネックなんだ」
「あたしに取っては、才人はガンダールヴなのに」
「俺にはそうじゃない。俺は只の日本人だ。何時までも……な」
「日本に、何が有るのよ?」
「知りたいか?」
「教えて………くれるの?」
才人はポンとルイズの頭に手を乗せる
「ルイズが今よりずっと、佳い女になったらな」
「……ふん、絶対に見返してやるんだから」
「楽しみにしてるよ」
戦後の市が一週間続けて立っており、皆が戦勝のお祭り気分に沸いている
才人からすると、幅5メイルのメインストリートは只の小路に過ぎないのだが、其を言う積もりも無い
才人に肩を預けようとした所、通りすがりの男にルイズがぶつかる
ドン
「おい、姉ちゃん。ぶつかったってのに、挨拶も無しかい?」
「離れなさい、下郎」
「んだぁ?貴族様ってのは、俺等最前線で戦った兵士に下げる頭は無いってのか?今、トリステインが有るのは、俺等が前線で命掛けて働いたお陰だろうが!?」
「ふん、あんた達を救ったのは、あたしの使い魔よ。あんた達こそ感謝するのね」
「止めろよ、ルイズ」
「い〜や。あたしはどう言われても構わないけど、サイトの侮辱は絶対に許さない。あんた達、覚悟は良いの?」
ルイズが杖を抜き、魔力が立ち上がるのを見ると、才人が割って入る
「済まん、代わりに俺が謝る」
「サイト、何でよ?」
「ルイズ、最前線で働いたって事は、この人達の仲間が死んだって事位察しろ」
「うっ」
才人の物言いに兵士は感心する
「話が解るな兄ちゃん」
「…おい、ちょっと待て、この黒髪、どっかで見た様な?」
「ん?黒髪?」
「ほら、レキシントン潰して竜騎士隊を単騎で撃墜してのけた、変な鳳に乗った」
兵士達があの時、自分達を激励する為に、わざわざ戦闘中に離脱してきた黒髪の騎士を思い出し、眼前の装束と一致した事に思い当たる
「………ああ!?」
その瞬間、兵士達は直立不動になる
「あの時は救って頂き、有り難うございましたぁ!!」
才人は困った顔をする
「只でさえ、異国の装束で目立つから勘弁してくれ」
「御連れの方にも大変な失礼を」
「いや、こちらが悪いんだ。此で気分転換に、一杯やって来てくれ」
才人は金貨を2枚出すと兵士に握らせる
「宜しいのですか?」
「ヴァルハラに向かった仲間達に、捧げてくれ」
「では、騎士殿の健康とヴァルハラに向かった戦友の為に、有難く頂きます」
兵士達はそそくさと去って行く
「もう、何であんな連中なんかに」
「その連中のお陰なのは事実だ。少なくとも、命掛けで働いた連中が、多少ハメを外す事位は眼を瞑れ。貴族なら、其位の度量は持って然るべきだろ?」
「…うん」
露店を覗きながら歩く、ルイズと才人
ルイズは露店を一件一件物色し、眼を輝かせる
「ふわぁ、此良いなぁ。あ、あれも素敵」
次から次に物色してたルイズに才人は苦笑する
『貴族貴族って、肩肘張っても、やっぱり女のコだな』
そして、とうとうある細工物の露店で、完全に立ち止まってしまい、ペンダントを食い入る様に見つめる
『あぁ、そういやルイズ自身の小遣いは、俺の治療費で随分飛んだっけ』
才人は思い出す
「へい、いらっしゃい。うちのは、錬金で作ったまがい物じゃ有りませんで」
「へぇ、どういう事だい?主人」
才人が興味を示し、聞く
「ちゃんと玉を磨いたり、金属を彫金したりしてるんでさぁ。玉の質は折り紙付けますぜ」
「ルイズが気に入ったのは何れだい?」
ルイズはおずおずと、一つのペンダントを指し示す
「小遣いは?」
「…使っちゃった」
「やっぱりか。主人、玉は何だい?」
「金剛石でさぁ」
その瞬間、才人は真顔になる
「ちょっと、見せて貰うぞ?」
「へぇ」
才人は息を吹きかけ、曇りの取れ方、質感を確認し、主人に顔を寄せ、話しかける
「嘘付け、硝子じゃ無いが、水晶だろう?周りの銀細工も綺麗だ。嘘付かなくても、充分良い代物じゃないか」
「かぁ、旦那の目利きは脱帽でさぁ。確かに水晶で」
「金剛石には簡単な目利き法が有るんだよ。だが水晶を磨くのだって大したもんだ。此くれ、幾らだ?」
「此位でさぁ」
主人は指を4本立てる
「足りるか?」
才人は金貨を一掴み渡し、主人は驚く
ルイズは才人の行動を見て驚く
『才人が、あたしに?』
「いえ、こんなには頂けませんぜ。ひうふうみい……新金貨なんで此で大丈夫ですな。しかし一発で見抜かれるとは、商人でもやってるので?」
「金剛石には、仕事の都合でお世話になってたのさ」
「あちゃー、こりゃ大変な旦那に見付かってしまいました」
細工師の主人は額をぴしりと叩く
「良いもの買わせて貰った」
「へい、こちらこそ。水晶だと馬鹿にする客が多くて。旦那みたいな客に買われて、あっしも嬉しいです」
露店の主人がにこにこ笑って手を振る
「ルイズ、流石大貴族」
そう言って、才人はルイズの首にペンダントを掛ける
「……良いの?」
「似合ってますよ、マイロード」
小ぶりながらもきちんとした細工であり、銀細工の中央には水晶が煌めき、ルイズの清楚さを引き立て、幾らも損なわない
正に定位置に置かれるべくして置かれたペンダントに、露店の主人も頷く
「似合ってますよ、お嬢さん」
ルイズは一気に顔が華やぐ
「ありがと、サイト」
最早遠慮無しにルイズは才人の腕を取り、うっとりし始めた

才人達が歩くと、今度は才人が立ち止まる
「何だ?錯覚か?」
才人がそう言って振り向いた所には、水兵のセーラー服が飾られている
『糞ったれ。デザインや色使い迄似てるじゃねぇか』
「サイト、どうしたの?」
「へい、らっしゃい。こちらはアルビオン水兵のセーラー服ですな。お客さんもお目が高い」
『くっ、あれをシエスタ辺りに着せたら。俺は何かを失うかも知れん。ルイズには…絶対駄目だ。あいつを思い出しちまう。でも誰かを贔屓すると、後が怖い。だが、着せてみたい』
才人が苦悶しながら考え込む姿を、ルイズは怪訝に見る
「親父、何着ある?」
「10着ありまさぁ」
「古着屋みたいだが、こちらの婦人が穿いてる様なスカートは?」
「へい、何着かは」
「じゃあ、セーラーを7着、スカートを3着くれ」
「へい、毎度あり」
「…サイト、アルビオンのセーラーなんてどうすんのよ?」
「ちょっと、日本を思い出してた」
「本当?」
「本当だ」
才人の行為に怪訝な顔をしつつ、ルイズは黙って才人が受け取るのを見ると、合流地点迄一緒に歩き出した

「やっと来た。才人遅いぞ」
「やぁ、ごめんごめん。…随分買い込んだな」
モンモランシー達の側には、秘薬の素材が積まれている
「クスクス。シエスタが居てくれて、大量に安く仕入れられたのよ」
「シエスタ、お手柄だな」
「はい!!」
「馬車の時間は?」
才人が聞くとギーシュが答える
「ん〜、後30分位かな?あれ?」
ギーシュがルイズの胸元に輝くペンダントに気付く
「ちょっとルイズ、そのペンダント見せて」
「何よ、ギーシュ」
「へぇ、中々良い出来だね。高かったんじゃないか?」
「ギーシュには関係無いじゃない」
「僕は彫金もやるんだよ、ルイズ。興味出て当然じゃないか」
言外の意味に才人が気付き、冷や汗を垂らす
「本当に良い品ね。玉は金剛石?」
「水晶よ」
「何だ、水晶か」
モンモランシーが鼻で笑う
「才人が言ってたもん。水晶でも良いって。細工師の人も丹精込めた品だからって、才人が指摘した事に喜んでたもん」
そう言ってルイズは、あっかんべとモンモランシーに舌を出す
「才人、本当に?」
「金剛石の硬さを10とすると、水晶は7、鉄が4.5。水晶加工でも十分難しい。美しさなら質の良い水晶なら十二分に匹敵する。石の種類だけで価値を分けるのは、ナンセンスだよ」
そんな才人にギーシュも同調し、答える
「僕もそう思うよ。僕のモンモランシー」
「…う、む」
「嫉妬炸裂失敗ですね?ミスモンモランシ」
シエスタが小声で言うと
ダン!!
「あいた!?」
「ふん」
強かに足を踏まれたシエスタ
「ひ、酷いです。才人さん、ミスモンモランシが苛めるんですぅ」
よよよと泣き崩れつつ、才人に寄りかかろうとするシエスタに、ルイズが威嚇
「ちょちょちょちょっと、どさくさにサイトに引っ付こうなんてしないでよ」
「良いじゃないですか」
「此はあたしのよ!!」
乗り合い馬車が来る迄、女達の合戦に才人は頭上を仰ぎ見た

*  *  *
馬車の中で、才人はシエスタに話かける。隣にはルイズが聞耳を立ててるが、才人は構わない
「なぁ、シエスタ」
「はい、何でしょう?才人さん」
「此をさ、仕立て直して欲しいんだ」
「はい……水兵の軍服じゃないですか?こんなのどうするんですか?」
「実はさ、俺の国だと、此を着て女のコが学校に通うんだよ。皆が着たら凄く似合うだろうなぁ」
才人はそういって手を額に当てる
「皆って、何人分あるんです?」
「シエスタ、耳貸して」
「はい」
シエスタが耳を寄せると才人が囁く
「シエスタ,ルイズ,モンモン,ギーシュ,キュルケ,タバサ,アニエス」
其を聞くと、シエスタが耳打ちで返す
「む〜、私が入ってるから、許してあげます」
「で、問題は」
「はい、サイズですね」
「何々?才人、何の話?」
ギーシュがモンモランシーとの話を切り上げ、入り込んで来る
「あぁ、此を仕立て直して、皆にプレゼントしようかと思ったんだけど、サイズが解らなくてね」
「……何で水兵服なんだい?」
「俺の国じゃ、此着て女のコが学校に通うの。女のコが着ると、先住並の魅了の魔法が掛かるんだよ」
「…本当かい?」
「本当」
その言い方にギーシュは含みを感じ
「……もしかして」
才人が耳打ちする
「勿論カトリーヌの分も、上下有る」
「……協力しようじゃないか。シエスタ、メモ帳とペンかなんかある?」
「はい」
シエスタが日記帳を差し出すと、空いてるページにすらすら書き始めた
「メンバーは?」
才人が耳打ちで返すと、ギーシュは全員分のサイズを書き出す
「……良く解るな」
「才人のサイズだって、一発で当ててみせるよ」
「お見事」
ルイズはそんな才人に対し、怪訝な顔を崩さない
「セーラーなんて着せて、軍人にでもする積もり?」
「ままま、出来てからのお楽しみって事で」
ルイズが不機嫌に言うと、才人は適当にあしらった
ルイズの胸元では、才人にプレゼントされたペンダントが光っている
ルイズは無意識に、ずっといじくっていた

*  *  *
才人達が学院に着くと日が暮れ始めていたが、門衛に通して貰うと、生徒より先にメイドが、その独特のシルエットに気付く
ライディングジャケットにデルフを背負い、ジャケットを開いた中からはパーカーが覗き、左腰に村雨を差した黒髪の男に、桃色がかったブロンドに学院のマントと制服に身を包んだ小柄な少女の取り合わせは、たった一つしか無い
すっかり学院の名物になってしまった、桃色の嫉妬主人と黒髪の剣士の使い魔のコンビだ
「才人さんだ。皆、才人さんが戻って来た!マルトー料理長に伝えてあげて!」
赤毛のメイドがこう言い、自身は才人に向けて駆け出した
たたたた、ドン!!
「おっと、只今、ミミ」
「才人さん、お帰りなさいです」
ルイズは其を見てう〜と唸るが、今回は行動に出ない
「あらルイズ、今回はやらないの?」
「…モンモランシーに払う治療費無いもの」
「あらやだ、切実」
クスクスと笑うモンモランシー
すると、空から何かが降って来て、才人ががばりと拐われていった
「えっえっえっ、何?一体どうしたぁぁぁぁ!?」
才人の声が木霊し、そのシルエットは翼人が二人、才人を抱えて飛んで行くのを、皆が呆気に取られながら見送る
「…一体、何が起きたの?」
ルイズがポカンと呟くと、ギーシュとモンモランシー、シエスタはそそくさと去って行くのをルイズが呼び止めた
「ちょっとあんた達、何か知ってるんじゃない?」
「え?知らないわよ」
モンモランシーがポーカーフェイスで答える
「「うん、知らない知らない」」
カクカクしながらギーシュとシエスタが追随し、さっさと去ろうとする
「私、マルトー料理長に帰着の挨拶と、仕立て直ししないとなりませんので、失礼します」
「私は調合を一気にしないと駄目なのよ。悪いけど先行くね」
「モンモランシー、僕も手伝うよ」
「助かるわ。お願い」
取り付くしまも与えられず、ルイズはぽつんと残された
「そうだ、タバサに相談すれば」
「…その前に、帰着の挨拶を学院長にお願い出来んかね?」
ミスタギトーがいつの間にか立っており、ルイズをレビテーションで浮かせる
「あ、あの、ミスタギトー。あたしの使い魔が拐われてしまったので、追跡に行かないと」
「あの使い魔なら平気だろう?何せ戦争で勝利をもたらしたのだからな。治療で休んでたのは仕方ないとしても、学院長に挨拶して然るべきだ。君は生徒なのだよ。学生の本分を忘れてしまっては困る」
すたすた歩くミスタギトーに連れられ、ルイズは連行されていく
「ちょっと待って。今追跡しないと駄目なの。サイト、サイト〜〜〜!!」

ルイズが連行されて行くのを、上空からキュルケとタバサが眺めている
「あちゃあ、カチュアとラクチェ、堂々と拐って行っちゃった。追う?」
シルフィードの上でキュルケとタバサは、才人を探しに来たカチュアとラクチェと談笑してたのだが、才人を見付けた途端、急降下して拐って行ってしまった
タバサは首をふるふる振る
「翼人の繁殖に必要」
「嫉妬しないの?」
「…キュルケ」
「…ごめん」
『私も馬鹿ね。タバサが嫉妬しない訳、ないじゃない』

*  *  *


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Last-modified: 2011-02-07 (月) 14:12:17 (4824d)

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