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Last-modified: 2011-02-28 (月) 11:24:08 (4803d)

深夜のトリステイン西部の海岸に複数の竜騎士が舞い降り、背中から複数の人物が降り立つと、そのまま移動を開始する
既に馬と馬車は用意されており、当人達が乗るだけだ
次のアルビオン大陸最接近日前に、タイミングを見て行動するために、竜騎士を用いている
アルビオン竜騎士は見習い時点から、常時訓練で夜間飛行と海水の大陸への運搬を行い、塩の供給を行っている為、お手のモノである
降りた人物達は一言も話さず、一糸乱れぬ行動で去って行った

*  *  *
「シェフィールド嬢」
「何でしょうか?サークロムウェル」
「私のお友達は、無事に降下出来ましたか?」
「勿論です。アルビオン竜騎士の技量なら、何の問題も無く夜間着陸に成功しました。ですが、良かったのでしょうか?」
「何がだね?」
「エルフの事です」
書類に目を通しながら、クロムウェルは応じる
「君なら解るだろう、シェフィールド嬢。情報が手に入らないのであれば、戦力として使う以外、無いではないか」
「確かにその通りですが、護衛としても優秀でしたでしょうに」
「今は、戦力の出し惜しみをする時ではない。何せ、女王の誘拐だ。個人単位で、最強の戦力を向けるべきだ」
そう言いながら、書類にサインをする
ロイヤルソブリン級新造艦艇の承認書である
流石に費用が掛かる為、会議でも中々ゴーサインが出なかったのだが、今回の艦隊壊滅で、失った艦の補充の必要が出来た為、ようやく承認されたのだ
通常型戦列艦では、トリステインに対抗が難しいと、結論が出た為である
最初から、長口径砲搭載の改修型である
「再編が済む迄の、謀略の一手に過ぎん」
「ふん、随分言う様になったものね。酒場で飲んだくれてたアンタからすると、別人じゃない。立場が今のアンタを作ったのかしら?」
平素の言葉遣いでシェフィールドは応じ、クロムウェルは特に感慨も感じずに応じる
「余の夢を叶えてくれたのはシェフィールド嬢だが、夢をこの手で掴み取る努力位、只の平民出身の司教風情でも、怠る積もりは無い」
「ま、勉強だけは出来てたみたいだから、政治も似た様な感じで、勉強したって訳ね」
「言いたい事は其だけかね?」
「えぇ、まぁ精々頑張りなさいな」
「無論だ。先ずは虚無の血統と王家の血を一つ手に入れる。アルビオンでもトリステインでも、どちらでも、だ。其で、シェフィールド嬢の後ろの人物と互して見せよう」
「我が主も、聞いたら喜ぶでしょう。新しい玩具がやっと噛み付いて来たと」
「……悪趣味め」
「机の下の女を退かしてから言うのね。この俗物。今回なんか、10歳位の子供じゃない。このペド親父」
二人して相手を嘲笑う
その笑みはどちらもどちらを取って喰らう、蛇が互いの尻尾を飲み込む様に、非常に似通っていた
シェフィールドが退室すると、少女を引っ張り出し、腰を打ち付ける
パンパンパン
少女は子供の敏感な感覚でアンドリバリの指輪で快楽を植え付けられ、既に涎を垂らしながら為すがままだ
獣の如く、唸り声しか出ない
「クククク、まだまだだ。聖地とハルケギニアを手に入れる路はまだまだ此からだ。そして、エルフもこうやって、組敷いて犯してやる。クククク、アハハハハハ」

*  *  *
「…と、言う訳なのです」
ノイズが少し混ざるが、明晰に反応が返って来る
「ほぅ、そうか。流石、我がミューズ。そのまま行うが良い」
「はい、ですが、最近の奴の女遊びは度が過ぎます。今回なんか、10歳位の子供ですよ?」
「其がどうかしたか?余もやるぞ?」
「主様?」
「欲求不満が溜っておる様だな。任務が終わった後、暫く余の寝室に寝所を定めたくば、捨て置け」
「は、はい!!喜んで」
ブツッ
ノイズが入り、通信が切れる
シェフィールドは欲求の溜め息をつく
「勿論でございます、主様。私は貴方様の、忠実なる使い魔でございます」

*  *  *
「ふぅ、飲み過ぎました」
アンリエッタは寝室で一人、手酌でワインを飲んでいる
政治は上手く行かない事だらけ、誰も彼もが好き勝手に動き、結果国の要らぬ混乱を招く様を呈する
あの、黒髪の使い魔にしてもそうだ
あれだけの能力、識見が有るにも関わらず、異邦人だからと明確に関与を否定した
だが、仲良くなったアニエスは、明らかに才人の肩を持っている
全てを報告する様にと命令を下しているのだが、どうも報告内容が薄いと言うか、抜け落ちな感じがする
特に決闘を見た後では、強く感じる様になった
アニエスは、才人が求婚すれば、二つ返事でウィと言うだろう。そのまま、銃士も辞める事も想像出来る
アニエス自体有能だ。餌を仕掛けた釣りで、餌だけかすめ取られた感じである
「アニエスの件は、策士、策に溺れると言った感じでしょうか?まさか、トリステインよりサイト殿を優先する様になるとは。アニエスも女だったのですね」
だが、肝心の才人がトリステインに振り向いてくれないのだ
なまじ頭が切れるせいで、何が出来るか予想出来る為、回避する傾向が高いのだろう
ハルケギニアに、足跡を残したくないのかも知れないと、アンリエッタは思い始めている
ああいう人材こそ、政策に必要なのに、マザリーニも頭を抱えてしまった
「あの御仁は、我等とは違う論理で動いております。我々の名誉や金など、本当に必要無いのでしょう。説得には、一番難儀なお方ですな」
「ですが、あのカガクは、更に上の事が出来ると、言ってるのですよ?」
「やはり、女以外では無理ですかな?」
アンリエッタは少し考えてから答える
「女でも難しいです。アニエスは篭落されてしまいました。次の一手だと、私の寝所位ですか?私も篭落されそうですが‥‥」
「…陛下、自身を使う事はお止め下され」
「あの方ならば、大切に扱って下さると思えるのですが。どうせ、政略結婚しか出来ぬ身です。せめて、初体験は優しい方に捧げたいですわ」
「陛下。本気で考えておるのですか?陛下は純潔を守らねば、実際の結婚が出来ぬのですよ?」
マザリーニが苦言を呈すると、アンリエッタはにこりと微笑み
「あら、ならば問題有りませんわね。そのまま王配になって頂きましょう」
「…陛下、幾ら何でも、要らぬ反感を買う行動を行いなさるな」
「では聞きますが、私に癒しを与えて下さる殿方が、他におられて?」
「まぁ、おりますまい。野心高き者や凡庸、愚鈍な男なら、数はおります。だが、あの御仁は、優し過ぎる。其でいて、理知を持ち冷徹だ。どうやれば、只の平民で彼処迄の男になるやら」
自分達には未知の科学、更に男性としての魅力、常に驕らず知を求め、鍛錬を重ねる姿勢、そして今回立てた武勲に、盗賊捕縛の手腕にヒュドラ退治の実績
彼が何気なく動くだけで、更に他のメイジにすら、真似出来ぬ勲功を重ねるだろう
貴族で有れば、どれだけの縁談が舞い込むか解ったモノではない
事実、気付いた女子学生やメイドには、将来を一方的に誓う発言迄出始めてると、アニエスからの報告が届いている
マザリーニとの回想を止め、一人ごちる
「まだ、三年前のが良かった。自分自身の恋だけ追ってれば良かったのに‥‥ウェールズ様‥‥う、う、うぅぅぅぅ」
形見の風のルビーをはめた手を愛おしく胸に抱き締め、泣く
表面上は立ち直った様に振る舞ってはいるが、一人になると思い出し、毎日泣いている
「私には、王位なんか重すぎます‥‥誰か‥‥私を‥‥それすら‥‥望め無いの?」
17歳の少女の苦悩を受け止めてくれる者は、王宮には居ない
母たるマリアンヌも、敢えて接触してこない。王位の苦労を押し付けた負い目かも知れない
一人の少女として接してくれたのは、亡きウェールズと、倒れた時に遊んでくれた、黒髪の使い魔だけである
他の者は全員、王族として一歩離れて接している
友人として、一番近いルイズですら、王位の重圧の苦悩は理解出来ないだろう
アンリエッタは、王宮と云う立派な鳥籠の中で、孤独だった
「ルイズが‥‥羨ましい」
アンリエッタの使い魔は、召喚に成功はしたのだが、短命種だった為、既に亡くなっている
召喚に成功した時は、はしゃいでルイズやウェールズに、手紙を書きまくったものだ
だからこそ、亡くした時のショックが酷くて、再度の召喚をする気が失せている
そのアンリエッタには無い、人の使い魔
優しく包み込んでくれる大人の男
何をやっても受け止め、全開で甘えても感情をぶつけても、肩をすくめ、微笑んで受け止めてくれる、自分だけの使い魔
間違った事をすれば、叱ってくれる良き導き手
そして、アンリエッタから見たルイズは、魔法が使えなくても前を見、何時も毅然としていたと記憶している
今のアンリエッタが欲しいモノ全てを備えた、唯一の親友
羨望と同時に嫉妬と、更に黒い感情が湧いて来るのを、首を振って誤魔化し、酒を流し込んで忘れようとする
何時しか、酒と涙の中で眠りにつくのが、アンリエッタの毎日だった

*  *  *
ルイズは起きた時、才人が居ない事に酷く落胆する
才人の居ないベッドは、なんて広くて寒々しい
嫌、実際に寒いのだ。初夏とはいえ、朝晩は冷える
才人の体温は高く、ルイズは安心感を得る
今はその、天然の暖房器具兼発情相手兼元気発生装置が無い
「良く………眠れなかった」
キョロキョロと辺りを見回し、溜め息をつく
才人が居ないと眠りが非常に浅い。喧嘩してた時に確信してたのだが、更に深めるハメになってしまった
「才人が来る前に戻っただけなのに……なんで?」
あの匂いと温もりが欲しい
早くキュルケの部屋から帰って来ないかとウズウズするが、自身の黒髪を見て一息つく
「……黒髪抜ける迄、駄目なんだっけ……朝食も会えないな……放課後迄我慢よね、サイト」
才人は居なくても、前日の分で水はまだある
準備をして朝食に出掛けた

*  *  *
サイトはキュルケの部屋から出ると、厨房で朝食を食べ、厩舎から馬を出し、馬に慣れる為、並足でかっぽかっぽ広場を回る
暫くすると、アニエスが竜騎士に乗って降りて来る
ザッ
「おはよう才人。今日は早いんだな」
「おはよう、アニエスさんと竜騎士殿。竜騎士殿は昨日と違う人みたいだけど?」
「初めまして、無冠の騎士殿。僕はルネ=フォンク。今回の補充で、早期登用された竜騎士の一人だよ」
少々太めの少年騎士が降りて来て、才人に挨拶を交わすと、才人は下馬し、ルネと握手を交わす
「俺は才人だ。宜しく、フォンク殿。無冠の騎士は止めてくれ」
「だって、此方に飛んで来る時に、シュヴァリエが才人に礼を欠いたら手討ちにしてくれるって、剣を後ろから喉元に当ててさ、マジで生きた心地しなかったよ」
思い出したのだろう、身震いするルネ
才人は聞いてアニエスに振り向く
「やり過ぎ」
「ふん」
アニエスはそっぽを向いている
「前の竜騎士はどうしたんだ?」
「逃げ出したんだと思うよ。配置転換願いが、受理されたんだと思う」
「……って事は」
「多分僕にやったみたいに、やったんだろうねぇ」
二人してアニエスを見、どちらともなく笑い始めた
「アハハハハハ、良し、賭けるか。フォンク殿が何日持つか、3日でどうだ?」
「ルネで良い、じゃ僕4日」
「負けた方は酒代奢りな」
「乗った。巻き上げてあげるよ、才人」
二人して腹を抱えて笑い続けると、アニエスが真剣で斬り掛り、才人が村雨で受け止める
キィン!!
「笑い過ぎだ二人共。新人、貴様の鍛錬もついでにやれと辞令が来ている」
「ちょっと、それ本当に?」
ルネが思わず問い返し、アニエスは書類を見せ、ルネは青くなる
「新人、貴様に休む暇は無い。いっちょ揉んでやる。そこの木剣を取れ、私と才人の両方の相手だ。言っておくが、才人の二刀は私なんかより変幻自在だぞ?才人、新型だ。受け取れ」
ひょいと新型の水剣を才人に放り、才人は受け取る
「何だいこれ?」
「肉体に触れた場合、打撃力に応じ、痺れを与える様にした改良型だ。あくまでマジックアイテムだからな。どうだ?」
才人は試しに素振りをして確かめる
「ん、大丈夫。何でだ?」
「致命傷与える事が出来ないからだろう。確認出来たから、旧型は回収するぞ」
「了解。しかし、上手く作るもんだな」
才人は感心する
「此で私も、お前の攻撃が怖くなった訳だ。やっと、フェアに出来るな」
アニエスは嬉しそうに言う
「そうなん?」
「貴様の素の実力を知りたいんだよ。あんなの見せられたからな」
「そういうもんかねぇ?」
才人は首を傾げてると、ルネが口を挟む
「あの」
「命令だ、返事は?」
「ウィ、隊長殿」
反論すら許されず、姿勢を正し、敬礼を返すルネ
そして、ルネは開始5分も経たずに気絶するハメになった

ガッ、ガガッ
才人がアニエスと剣劇を繰り返す
アニエスの額には戦慄の汗、才人は汗を流しながらも涼しい顔
「全く、お前はいつの間に・・・」
「師匠のお陰っしょ」
アニエスは木剣を両手で構え、才人は水剣を両手で十字に構え、ギリギリと鍔競りあう
才人が力をわざと抜き、均衡を崩したアニエスがガクンと才人に寄ると、才人が脚を跳ね上げ、アニエスの手を蹴り飛ばし、アニエスが両手を跳ね上げられ、木剣を飛ばすと、そのまま水剣を小手に叩き込む
ビシッ!!
「あぅっ!?」
アニエスが痺れた手を抱え、崩れ落ちる
「大丈夫?アニエスさん」
才人が慌てて近寄り、水剣を放り出しアニエスを抱える
「くっ、やはり男には敵わないか……悔しいな」
アニエスの顔には、自らの限界を知った悲痛の表情が浮かんでいる
「アニエスさん…」
「だが、越えたのがお前で良かった」
アニエスの顔には納得の表情が浮かんでいる
「で、アニエスさんの分析は?」
「そうだな、力,体力,瞬発力はお前の方が上だ。斬撃や体捌きで一々上をいかれる。だから、私が余計に体力を消耗するんだ。今みたいに、わざと鍔競り合われたりすると、完全に翻弄される」
「おまけに、斬撃が片手でも重い。正直受け止めるだけで態勢が崩される。しかも二刀だ。受けたと思ったら逆から斬撃が来る。正直、間合いに入りたくない」
「成程ね。剣技はもう良いかい?」
アニエスは眼を閉じ
「あぁ、此からは、私が学ぶ番だな」
「お手柔らかに」
「さてと」
アニエスは才人の腕の中で感触を楽しむのを止め、すっくと立ち上がり、ツカツカ歩くと、ズシンと死体を踏み付けた
「グヘッ!?」
「何時まで寝ている?貴様の稽古再開だ」
「ウ、ウィ」
ルネはガバリと立ち上がり、頭を振りながら、木剣を構える
「才人、一刀で揉んでやれ」
「あいよ。いくぞ〜ルネ。よいさぁ!!」
ブン
敢えて大振りで両手で上段から振り下ろし、ルネが受けやすい様にする
ガッ
ルネは両手で才人の斬撃を肩口辺りで受け止め、膂力で押し込められる
触れればビリビリ来るので、必死だ
「ウググググ、お、重いぃぃ〜〜」
才人は受け止めさせたまま、スッと引くと突きを放つ
パシャッ
「ギャン!?」
またルネはひっくり返ってしまった
「ん〜、やっぱり貴族は体力と反射神経が低いなぁ。衛士隊が半端無いんだな」
「衛士隊は、定時訓練も半端無いぞ?特にお前の訓練見てから、更に力が入ってる」
「…何か、余計な事してる気がする」
「まぁ喜べ。にしても、新人はまだまだ訓練が必要だな」
アニエスがツカツカ寄り、今度は用意してあった水をぶっかける
「ブハッ!?」
「頭は冷えたか?竜騎士なら騎乗が本領だろう?水剣持って騎馬で馬上試合だ。才人は騎馬は弱いから安心しろ」
「は、はい!!やっと……騎兵らしく出来る」
だが、チャージの最初の一合で、ランス形状にした水剣を払い様首筋に叩き込まれ、またひっくり返されるルネ
「何やってんだ、新人!!チャージで負けてどうする!!」
「す、すいません!!」
「トリステイン騎兵はチャージ出来ないと意味無いぞ?貴様の前任アベル=ガイドは、タルブ戦で陛下の前で立派なチャージを決めてみせた。後任の貴様も出来る様になれ!!」
「は、はいっ!!」
先輩竜騎士が出来た事が出来ないのは、後輩竜騎士の恥
ルネにもイッパシの貴族としての誇りと、竜騎士としての自負がある
才人に向かって真剣な眼を向ける
「悪いけど、騎乗で僕が負ける訳にはいかないんだ。叩き伏せさせて貰うよ、才人」
「おっし、頼むわ」
ダカラッダカラッ
お互い馬を走らせ槍が交叉し、騎士が馬上でひっくり返る
今度は才人だった

*  *  *
ルイズが朝、教室に顔を出すと、黒髪に皆が驚くが、魔法の染料で遊びで染めたと告白した為、特に騒ぎにはならなかった
セーラー服を着ていたのだが、やはり初日と違って、威力が下がっている
特に、タバサと被ってしまってるのが、非常に痛い
タバサも才人から貰ったセーラー服を纏っている
どうやら、相当お気に召したらしい
そんな中、キュルケが何時もの格好で、ギクシャクしながら入って来る
才人の精の匂いに人一倍敏感なモンモランシーがピクリと反応し、無言でキュルケの手を引っ張り、教室外に連れ出す
「ちょっとキュルケ、どういう事よ?」
「やっぱり、モンモランシーにはバレちゃうかぁ。結構香水で誤魔化したんだけどなぁ」
悪びれもせず、キュルケは答える
「だから、どうして?」
「ルイズの髪見たでしょ?」
「えぇ」
「あれのせいで、ダーリン思い切り落ち込んだの。捕まえてなかったら、学院飛び出してたわ」
「…本当に?」
「本当よ。だから私が慰めようとして、逆に虜になっちゃった」
モンモランシーはこめかみを押さえ、眉間にしわを寄せる
「ふぅ、何で私に振らないのよ?」
「ごめん、チャンスと思った」
「で、どうだった?」
「最っ高。モンモランシーが、首ったけになった理由が解っちゃった」
「あんたもか」
がくりと肩を落とすモンモランシー
「まぁ、私はガチで取り合いする積もりは無いわよ。でも、私にも回してね」
キュルケはウィンクをし、モンモランシーは溜め息で応じる
「解ったわよ。でも、今度の虚無の曜日は私に回してよ。冗談抜きで、我慢出来ないのよ」
「はいはい。でも、才人が他に約束してたらどうするの?才人って、虚無の曜日は私達が趣味に誘う為に、大抵連れ回してるじゃない?タバサは、才人だけは読書中でも部屋に入れるし。ルイズも乗馬訓練と称して、才人を独り占めする気満々よ?」
「才人には会ってから聞くわ。だからお願いね」
「はいはい」
両手を広げて肩をすくめ、キュルケは教室に戻り、モンモランシーが後に続く
教師が教室に入り授業が始まった

*  *  *
昼過ぎにアニエスと才人がベンチに座ってると、シエスタがやって来た
ルネは馬上試合で才人に余裕で勝ち越したのだが、休憩無しでぶっ続けた為、昼飯を食った後、バタリと倒れた
アニエスは、そのまま医務室にルネを才人を使って放り込み、邪魔者が消えたと内心喜び、気絶させたままにしている
もう一つの理由は、スタミナ切れで動かすと、帰りの足に竜騎士が使えなくなるせいもある
馬で帰るのは、才人との稽古後はアニエスでさえ、ご免被るのである
「あら、才人さんにシュヴァリエ、長い休憩ですね」
「そうでも無いぞ?才人が使い魔の飯作った後、新人とずっと稽古して、今しがた昼にした所だ」
「今日は才人さん、ミスヴァリエールの傍に行かないんですか?」
「あぁ、ちょっとな」
「そうですか」
そう言うと、シエスタは才人の左隣に座る
アニエスは、才人の右隣だ
アニエスのこめかみが一瞬だけピクリとしたのをシエスタは見逃さない
だが、シエスタは構わずに才人に話かける
勿論、しっかり密着しながらだ
「才人さん。プレゼントです!!」
「ん?何?」
「じゃあ〜ん」
シエスタが両手に出したのは、長い長い手編みのマフラーだ
「へぇ、シエスタ器用だねぇ」
「才人さんには負けちゃいます。ちょっと、巻いてみて下さい」
才人が受け取り、マフラーを首に巻く
アニエスはこめかみがぴくぴくしてるが、才人は気付かず、シエスタはちらりと視線を流し、アニエスだけに解る様に、ふっと表情を変える
「へぇ、こりゃ暖かいや。空の上は寒いからなぁ、助かるよ。シエスタ、有り難う」
「そんな……妻として当然の行為です」
頬をぽっと染めて、はにかむシエスタ
ギリ
奥歯をかしめる音が聞こえた様な気がするが、才人はマフラーの長さに気を取られ、無視する
「シエスタ、このマフラー長くないか?」
「そんな事無いですよ。これはこうするんです!!」
余った分を自身に巻き、そのまま才人にもたれかかる
「どうですか?」
「あぁ、成程ねぇ………ウ、ウグッ」
ギリギリとマフラーが絞め上げられ、血管が絞まり、才人が落ちる
「ちょっと、シュヴァリエ!!何するんですか!!」
「あ、いやぁ、つい」
アニエスは悪びれない
「ついで、才人さんを落とさないで下さい!!」
「……私は、不器用だからな」
「私は、才人さんに押し倒して貰った事なんか無いです!!」
アニエスは眼を見張る
「……知ってたのか?」
「貴族の皆様の行為の目撃なんて、私達メイドは日常茶飯事です。口が堅くなきゃ、メイドは出来ません」
「…悪かった」
シエスタはふぅと溜め息をつき、告白する
「私では、才人さんの背中は守れないんです」
「お互い、無いものねだりだな」
「ですね」
ぷっと二人は吹き出した

*  *  *
キュルケは授業の合間に、熱心に編み物をしてるルイズに近寄る
「あぁら、ルイズ。何やってるの?」
何時もより、キュルケの香水がキツイ
ルイズは露骨に顔をしかめる
「移るから近寄らないでよ。今日は香水キツ過ぎよ?」
「ちょっと、失敗しちゃったのよ。ご免して」
ルイズは黒髪を揺らしながら、一度編み物を机に置き、キュルケを睨む
「其より、ツェルプストー。あんた、昨日何も無かったでしょうね?」
「何が?」
「何がって、その、あの」
「きちんと聞いてくれないと、解らないわぁ。おーほほほほ!?」
手を口に添え、敢えて高笑いするキュルケ
明らかに遊んでいる
「ななな何がって、そそそその、ああああたしの使い魔と、ええええ」
ガチン
舌を噛むルイズ
「いひゃい」
「何、やってんのよ?ちょっと、編み物見せて………これ、前衛芸術?」
キュルケの眼には、編み物の様なモノが映っている
傍で、成り行きを見守っていたクラスメイトも、クスクス笑っている
どう見ても、オブジェにしか見えないのだ
モンモランシーが見て、呆れて口を挟む
「ねぇ、もしかして、才人にプレゼント?」
「ち、違うもん。使い魔には関係無いもん」
「そういう事にしてあげるわ。一々面倒いし。でも、努力は買うけど、使い物にならないわよ?それ」
「だ、大丈夫だもん。犬なら着てくれるもん」
「語るに落ちたわねぇ、ヴァリエール」
キュルケがからかい、墓穴を掘ったルイズが赤面する
ぷっ、くすくすくす
「わ、悪いよ。本人一生懸命なんだから」
必死に笑いを噛み殺そうと努力をし、失敗するクラスメイト達
そんなクラスメイト達に、水がぶちまけられる
バシャア
「うわっ!?」
「きゃあっ!?」
杖を振るった犯人を皆が睨むが、逆に睨み返される
「理由は解るでしょ?少なくとも、私は笑えないわね」
モンモランシーが言い
皆も引き下がる
少なくとも、真剣にやってる人間を茶化すのは良くない。しかも、後ろに居るのは、絶対に怒らせてはいけない使い魔だ
男子生徒は容赦無く吊され、女子生徒でも公衆の面前でお尻ぺんぺん位は、平気でするだろう
更に魔法衛士隊のド=ゼッザール隊長に決闘で勝利した様を、ギーシュが興奮冷めやらぬ体で、散々に吹聴してしまった
彼の前では、メイジと言えど、学生風情じゃ太刀打ち出来ないのだ
恥に、更に上塗りをされかねない
ルイズは居なくても、自身を守る絶対の守護者の存在を、こうやって実感する
以前なら、この後は馬鹿にされっぱなしだった
「ねぇ、ルイズ」
「何よ?礼なら言わないわよ?」
「別に要らないわよ。でもさ、才人にプレゼントしたいなら、もっとしっかりしたの、プレゼントしたいと思わない?」
「サイトの好みなんて知らないもん」
「そうじゃないわよ。才人は手作りでも喜ぶわよ。でもね、実際に着て貰いたいって、思わない?」
「やっぱり……着れないかな……」
ルイズはしゅんとする
「幾らダーリンでも、ちょおっと無理有るわねぇ」
キュルケが穏やかに否定する。やはり、現実は現実である
才人なら、多分穴を無理矢理開けて着るかもしれない
でも、サイズが合わないオブジェに首を絞められる様を、ありありとキュルケは思い浮かべる
「ほら、顔を上げてルイズ。私もお母様に、編み物や裁縫は、一通り仕込まれてるのよ。自分の赤ちゃんに、手編みを作るのは、淑女のたしなみだって。私がチェック入れるから、最初からやりましょ?」
「教えて……くれるの?」
ルイズは顔を上げ、モンモランシーを見る
「シエスタには、教わりたく無いんでしょ?あんたの気持ち、痛い位解っちゃうのよね。いやぁね、全く。ほら、毛糸なら何度でも出来るから、一旦解きましょ」
「う、うん。有り難う、モンモランシー」
「礼はきちんと出来上がってから言って欲しいわ。だって、ルイズは多分泣き入るもの」
モンモランシーが編み物の様なモノを受け取り、毛糸を解いていく。ルイズから見ると、するする解いていく
「ほわぁ、凄く簡単に解けるんだ」
「何言ってんのよ?あんたきちんと編み目やって無いでしょ?結ばれちゃってるじゃない。このっこのっ、ふぅ取れた」
するすると解くが、全て解くのに、昼休みを全て使うハメになった

*  *  *
才人が部屋に戻って来たのは、夕食前だった
扉の残骸を見て、幾分反省したのだろう
ルイズの顔を見るなり両手を合わせ、謝る
「ただいま。あ〜、ルイズごめん、昨日はどうかしてたわ。扉弁償する?」
「扉の交換費は経費で注文するから要らないって話よ。何で昨日あんな事したの?」
「どうかしてたんだよ」
「…そう(あたしには、まだ喋ってくれないんだ)」
「ルイズ、昨日は言わなかったけど、セーラー似合ってるぞ」
「そ、ありがと」
ルイズはそっけない
昨日あれだけの事が有ったのだから、素直に喜べないのだ
才人も承知している為、特に反応を返さない
「じゃ、飯に行こうか」
「そ〜の〜ま〜え〜に〜」
ゆらりと魔力を立ち上げ、ルイズはギロリと才人を睨み、才人は肩をすくめる
「うへっ」
「ツェルプストーとは、何も無かったでしょうねぇ?」
「具体的には?」
「まさか、ヴァリエールの記録更新をしてないかと聞いてるのよ」
「其なら大丈夫。なって無いよ」
「本当に?」
「本当本当。だって俺、ルイズの恋人でも旦那でも無いしね」
サッと杖を抜いたルイズは、何も言わずに才人にエクスプロージョンをお見舞いし、才人は扉の残骸事、吹き飛ばされた
ドゴン!!
その後、ルイズがズタボロになった才人を食堂迄引きずり、周りは何時もの事と気にせず、二人(?)で夕食を食べ、風呂上がりで部屋で寛いでいると、才人がライディングジャケットを抱え、ごそごそやり始める
ルイズは椅子の背もたれを前にして腰掛け、そんな才人を眺めている
「サイト、何やってるの?」
「あぁ、インナー外して、ベンチレーション開けてる。そろそろ暑いからね、夏仕様だ」
ジー
インナーのファスナーを外し、各部のベンチ部分を開放し、通気性を確保する
ルイズはそれを見て、びっくりする
「服に穴が開くの?」
「元々こういうデザインなのさ」
「誰が作ってるの?」
こんな機能を持った服なぞ見た事が無く、しかもジャケットの前を閉めると才人の逆三角形体型が強調され、ルイズは惚れ惚れするのだが、才人には言ってない
「elFだな」
「エルフ!?」
思わずびくりとして、椅子の背もたれに組んでた腕事、ずり落ちる
「ななななんで、サイトの国にエルフが居るのよ?エルフが、その硬い服を作ったの?」
「elFって名前のメーカーだよ。ハルケギニアのエルフとは関係無いよ……多分」
「多分って、どういう事?」
「最近、自信を持って言えないんだわ。あちこちに繋がりが繋がってそうでな。例えば、コイツには気付いたか?」
煤けてて、糸も解れて今まで気付かなかったのだが、腹脇の所に僅かに青白赤のトリコロールが残っている
そう、レコンキスタの旗だ
「レ、レコンキスタぁ!?」
ルイズは指をつきつけ、わなわな震えている
「サ、サイトって、レコンキスタだったの!?」
「嫌、違う。此はこのジャケットを製造したメーカーの本拠地の国の国旗だ。な、びっくりしたろ?」
ルイズはぶんぶん頷く
「だから、何か関係ありそうなんだよな。変な所で繋がり感じるんだわ」
そう言った才人の眼は、違う所を見ている
こういう時、ルイズから見た才人は、とても遠く見える
「じゃあ、サイトは謎を解くの?」
「いや、解らん。繋がりを示す物が多数出るなら、誰も知らないだけで、行き来が比較的容易なのかも知れない。今はまだ推測段階だ。一方通行かも知れないしね」
『行き来が……容易かも!?そしたら、何も気にしなくて良くなるじゃない!!』
「どうして、そう思うの?」
「例えば、ソウイルのバインドルーン。破壊の杖。零戦、そして村雨。更に俺。ルーン自体も、俺の方の世界にも有った気がする。ちょっと、詳しくないけどな」
「ふんふん」
「始祖ブリミルは降臨したんだよな?」
「うん、そう伝えられてるわ」
「つまり、何処からかやって来たって訳だ。なら、始祖ブリミルは、俺の様に俺の世界からやって来たとしたら、どうだ?」
ルイズは才人の顔を真剣に見る
「そっか、降臨したんだから、ハルケギニアとは違う何処かから、来た可能性が高いのよね」
「ま、過去の話だから、幾らでも装飾出来る所が、歴史の浪漫だな」
ルイズはくすりと微笑む
「何だか、過去の話がいきなり面白くなって来ちゃった」
「だろ?」
二人してクスクス笑う
才人はジャケットをハンガーを通し、壁のハンガーかけにかける
才人は、ハンガーをルイズから譲って貰い、日曜大工でハンガーかけを自ら壁に増設している
クローゼットに押し込むのは、当初ルイズが当たり前に反対し、こうなった
ただ、最近は何故かクローゼットに押し込まれてる時が多々あり、しかも、ルイズの香迄使われて、匂い付けされる時が良くある
ルイズによる、この男(≠使い魔)は自分のモノだと言う自己主張、マーキングである
才人は貴族のたしなみのせいかと、そこまで考えていない
「さて、寝るか」
「うん」
ルイズはクローゼットからネグリジェを取り出し、才人に渡す
「今日はこれ」
「解った………パンツは?」
「…い」
「い?」
「…要らない」
非常に小さい声でルイズは喋る
『何考えてんだろうねぇ、コイツは?』
才人は何も考えず、ルイズを脱がせ、ネグリジェを着させ、抱っこしてベッドの定位置にふわりと置く
才人からするとルイズは軽い
元の仕事で数十kgの物体を扱う為、全身に筋肉が付いており、稽古で筋力を更に付けてしまった為、女性は本当に軽く扱える
そんな才人にふわりと扱われ、ルイズはぽーっとなる
『あぁ、何でこんなに軽く扱えるのかなぁ。あたし、軽いとは言っても、一応一人分の体重有るのよ?』
才人が下着姿になり、ルイズの隣に来ると、ルイズは定位置から才人に腕枕をして貰い、身体を絡める
才人の動じない姿勢にはもう慣れたが、それでも、やはり心は軋む
『あたしを女のコとして、見て欲しいなぁ。何時まで、使い魔のまんまなのかなぁ』
そんな事を考えつつ、脚を意識的に才人に絡め、ストンと眠りに落ちて行く
そして王宮では事件が起きていた事を、この時点で、二人は知らない

*  *  *


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Last-modified: 2011-02-28 (月) 11:24:08 (4803d)

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