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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:57:35 (5638d)

245 名前:遠く六千年の彼女 1/10[sage] 投稿日:2006/11/12(日) 02:03:43 ID:4QZU4P9q
あの日以来、何百万と繰り返した夜明け前。
瑠璃色の空にふと目が覚め、デルフリンガーは昔の夢を見ていたことを知る。
ブリミルとその使い魔たちと過ごした、あの日々……。

「なぁブリミルよぅ、あいつ、あの剣士の嬢ちゃんな。ありゃ間違いなくお前さんに惚れてるんだぜ?」
長い旅をともにしたブリミルに対し、呟く。
山の中で倒れていた彼と出会って数年。
故郷を探す旅に出ることになったので、自分が護衛として旅の供を買って出た。
といってもブリミル自身は『異世界』から来たと言い張ってはいたが。
その異世界とやらにはエルフも妖魔の類もいないらしい。俺にはピンとこねぇんだが。

体力にも技にもそれなりに自信があったし、何より世界を見て回りたかった。
別れを憂う家族はとっくにいなくなっていたし、村に名残を惜しむ者もない、はずだった。
幼馴染の、後にガンダールヴと呼ばれることになるあの娘が追いかけて来たのには驚いたが。
まぁでも、彼女は自分を追いかけてきたわけじゃあなかった。
「しかしだな、私は帰るべき場所を探しさすらう身、どうしろというのだね」
「好きにするがいいさ」俺は答える。

246 名前:遠く六千年の彼女 2/10[sage] 投稿日:2006/11/12(日) 02:04:28 ID:4QZU4P9q
村を出たときはまだ細くて頼りない少女だったあいつは、少なくとも見た目だけなら
もう立派な女になっていた。俺たちが旅立ってからは剣の修行もしていたらしい。
女ってのは二年やそこらでも十分変わるものなんだねえ。しかしどうやって探したんだか。
「そうは言ってもな……」
「俺には難しいこたぁわかんね。だがな、お前さんが異世界とやらに帰るにしても、
 あいつを連れて行ったっていいし、子を残してったっていいんじゃないか」
「だがな……」
「あいつだってバカじゃない。頭ン中ではちゃんと考えてるさ。
 いや、たとえ今は考えてなくても、そのときが来たら考えられるさ」
「ふぅむ……」
そう言うとブリミルはまた考え込んでしまった。ったく、どうもこうもないぜ。これだから朴念仁は困る。

まあでも実際、こいつが最初に村に来たときは驚いた。
珍しい真っ黒な髪で、やせっぽちで筋肉もろくに付いてねぇ、
おまけに目が悪いときてりゃ、まぁよくも今まで生きてこれたもんだと思ったくらいだ。
よくわからん知識があって、不作続きだった村の畑を一年で様変わりさせちまった時は正直たまげたが。
そのあと、なんやかんやでエルフやら幻獣やらの魔法とは少し違う、
あの不思議な力が使えるようになって、忘れていた記憶も取り戻したらしい。
人間にも魔法みたいなんが使えるってことには正直驚いたが、
ブリミルは普通じゃねーし、まぁそういうこともあるのかも、って思ったな。

247 名前:遠く六千年の彼女 3/10[sage] 投稿日:2006/11/12(日) 02:05:12 ID:4QZU4P9q
そんなこんなで旅は続く。
お供もいつの間にか増えていた。俺と、あいつと、他に二人の娘。
竜の眷属に育てられた嬢ちゃんと、青い髪した学者気取りの嬢ちゃんの二人だ。
あいつは剣が使えたからまだよかったが、魔法を使いすぎるととたんに役立たずになるブリミルと
女二人を抱えていては旅もつらいというもの。食料の調達にも苦労が増えた。
幻獣や妖魔、凶暴な動物たちにエルフ。危険はいっぱいだった。

ある時、いかつい神殿みたいな遺跡に着いた。
ブリミルは何かを直観していたようだったが、俺にはよくわからねぇ。
しばらくこの遺跡を探索しようと言い出したときも、まあ酔狂なこって、と思ったもんだ。
どうも調べてみると、そこはエルフの使っていた遺跡のようだ。
いくつものレリーフがあった。
「なあ、これ、どう思う?」とブリミル。
「あん? 文字か? 俺には読めんぞ?」
「そうか、文字に見えるか……」
ブリミルは何か考えている風だった。そう、文字に関してこいつはかなり執着するんだ。
俺なんかは字が読めなくても話ができりゃそれでいいじゃねえかと思うんだが、
ブリミルはそれは違うといった。んで、あの難しい話だ。情報がどうとか、学問がどうとか。
「あでも、こりゃエルフの文字じゃねえな。連中の文字はもっとこう、のたくった感じだったろう」
「そうだな……ふむ……」
この時、ブリミルはこの世界の根幹にかかわる真実とやらを発見していたらしい。
で、まあ平たく言えばその遺跡は何やら魔法の仕掛けが施してあった。
その仕掛けとやらは、また後になってから動いたわけだ。

248 名前:遠く六千年の彼女 4/10[sage] 投稿日:2006/11/12(日) 02:05:53 ID:4QZU4P9q
「おい、起きてくれ。はやく」
「んぁ? どうした? 朝っぱらからそんなに慌てて」
「いいから来てくれ」
「ふあぁ〜。いま行く」
その日も交代制で入り口の番をしていた。夜の間の担当は俺で、ブリミルが起きてきたから
役目は終わり。面倒なのでそのままうとうとしていたが、それを無理に起こされた。
遺跡の一番奥、三人の娘が寝所にしているそこで、俺は異様な光景を目にした。
娘たちが宙に浮き、それぞれ左手、右手、そして額に不思議な模様が光っていた。
「おいブリミル、何があったんだ?」
「分からない。様子を見にきたらこうなっていた。だがあれを見てくれ」
そう言ってブリミルはさらに奥を指差した。
「あそこは壁だったはずだ。扉があるようにも見えたが開ける方法はなくて、
 模様だろうということにしておいたよな。だが開いた。行ってみよう」
「おいおい、これを放っておくわけにゃいかねぇだろ」
「大丈夫、だと思う。近づくことすらできん」
それは事実だった。大体腕一本分くらいの距離から先にまったく進めない。
どうもブリミルはすでにいろいろと調べていたらしい。
あんな提案をするくらいだから、要するに何もわからなかったということだな。
「なら、行ってみるか」

249 名前:遠く六千年の彼女 5/10[sage] 投稿日:2006/11/12(日) 02:06:31 ID:4QZU4P9q
中に入るとしばらく長い通路が続いていた。よくもまあこんなに深くまで掘ろうって気になるもんだ。
通路の途中で、一本の剣を見つけた。長剣と大剣の中間ぐらいの大きさをしている。
柄の長さと持った感じからは片手で持つもののように思われる。予想外に軽い。
「お、こりゃ軽い。エルフか何かの魔法がかかってるんじゃないか?」
「そのようだな。ふむ、こいつは魔法が吸収できるようだ。ほら」
そう言うとブリミルはなんだか簡単な魔法を使った。いまこの通路を照らしているのと同じものらしい。
魔法が剣に触れると刀身が光りだし、しばらくして消えた。確かに吸収したようだ。
「へぇ、こいつぁいいや。しかし、なんでこんなとこに?」
「分からない。この場所を護る守護者みたいなものじゃないか?」
「かもな。しかし、にしちゃ使い手がいねぇな」
「ま、奥まで行ってみれば分かるだろうさ」
「持ってってもいいかねぇ?」
たぶん、とブリミルは答えた。
その時ふと何を思ったか丸い氷の玉を魔法で作り出し、床におくと前に向かって少し押した。
しばらく転がって、止まる。
「傾いてはいないようだな」
それで何が分かるんかねえ、とは思ったが口に出さないでおいた。
ようやく通路の先が見えてきたころだ。後ろに妙な気配を感じて振り返った。

250 名前:遠く六千年の彼女 6/10[sage] 投稿日:2006/11/12(日) 02:07:08 ID:4QZU4P9q
俺は手に入れたばかりの剣を左手に、右手に愛用の槍を構えた。
ブリミルも交渉はできないと悟ったのか、魔法の準備を始めている。
「我が名はブリミル。危害を加えようというのなら、それなりの対応をする。
 ここを去るか、もしくは、知っていることを話しなさい」
彼はエルフ語でそう言った、らしい。俺たちとエルフとは使う言葉が違う。大抵は通じない。
俺たち人間の言葉が通じる奴がいれば、そういう時は戦闘になんかならねぇ。
どこぞの古文書で身につけた昔のエルフ語だったが、はてさて現代のエルフにも、通じればいいんだが。
連中の間に動揺が広がる。やはり何かを知ってはいるようだ。
「……ん?」
ブリミルが不審そうな顔をする。よく見てみるとエルフどもは俺の姿に注目していた。
「どういうことだ……?」
その時、現状に耐えられなくなったのか、一人のエルフが魔法を使った。
火球が俺に向かって飛んでくる。
「ちぃっ」
俺はさっきブリミルが示したように左手の剣でその火にを受け止めてみた。
幸運なことに、しっかりと魔法は吸収され、何も起こらない。
「おおっ」俺自身驚いたが、エルフの方からもどよめきが聞こえてきた。

しかし残念なことに、それがきっかけとなって、戦いは始まってしまう。
相手は十数人、こちらは二人。この剣とブリミルの魔法があるとはいえ、それでも多勢に無勢だ。
俺はブリミルの盾になりながら攻撃を防ぎ、その間に魔法を詠唱させる。
いつものやり方だった。
俺たちの戦法は何とか通用するらしく半分くらいをしとめたが、そこで状況は変わった。
エルフどもは何を思ったのか慌てて出て行き、代わりに大物っぽい奴が入ってきた。
どういうつもりかは知らないが、まず下っ端を使おうっていうすかした根性が気にいらねぇ。
「……△*◇@&#J%¥……」
俺には理解できないエルフ語でそいつは呟くと、右手に光るナイフを掴んでいた。
「……?+#@д@√=!!」
奴が何かを叫んだことに警戒することもできないまま、そのナイフは俺のわき腹にきれいに収まる。
どうも魔法を使ってこちらに放ったようだ。突然のことで驚いたがそのまま倒れるわけにゃいかねえ。
俺は奴に向かってなんとか槍を投げつけた。
俺が最後に見たのは血を吐くそいつの満足そうな顔だったさ。ふざけんじゃねえ。

251 名前:遠く六千年の彼女 7/10[sage] 投稿日:2006/11/12(日) 02:07:45 ID:4QZU4P9q
「とりあえず、君の意識だけをここに現出させている。もっとも、体は確かに死んでしまったから、
 仮に戻したとしてもしばらくしたら今度はそっちが使えなくなってしまうだろうね。
 そうなるといずれ依り代を失って、君の意識も消えるだろう。
 君を刺した奴はあのまま死んだよ。結局、その後には何も来ていない」
「そうか。で、俺はどうすればいい?」
「どう、って自分で決めればいいじゃないか。このまま消えてもいいし」
「それ以外に何かあるのか?」
ブリミルは黙って例の剣を差し出した。柄を俺に見せる。
「なんか変テコな模様だな。これが何か?」
「人間ひとり分の意思なら半永久的に宿らせられる容量がある。いまは空だ。どうする?」
なんつーか、こいつにあるまじき単刀直入さだな、おい。
「……決まってんじゃねーじゃか。たのむぜ、相棒」

目が覚めた時、俺は剣になっていた。
まあそれでもまだよく馴染んでないらしく、俺の意識は刀身から少し離れた位置に浮いていた。
だいたい満足のいく出来だろう。腕や足がなくても不便を感じないようにはできてる。
しばらくすると、元は俺の身体だったあれを埋葬して四人が戻ってきた。
あいつは俺と俺の槍を抱えてグスングスンと鼻をすすっている。
いい加減に泣くのやめろよ……ったく。俺たちの出発の日だってそんな風にはしなかったのによ。

252 名前:遠く六千年の彼女 8/10[sage] 投稿日:2006/11/12(日) 02:08:22 ID:4QZU4P9q
「我々がここに来ることはどうやら予言されていたことらしい。おそらくエルフの間でね。
 嫌な表現になるが……運命のようなものかもしれないね」
「俺が死ぬのも、こうして剣になるのも、か?」
「それは分からない。あの奥も調べたけど、結局はまだわからないことだらけさ。
 ただ、今朝の彼女たちの様子や、あの光っていた模様、いや文字の意味ははっきりした」
あの模様は身体に刻まれたルーンで、それぞれブリミルを助けるための力を引き出すらしい。
難しい話をしながらそんなようなことを訥々と説明してくれた。
「そうそう、君には彼女の左手にあるあのルーンを経由して、吸収した魔力を彼女に
 与えることができる。まぁ動きが鈍いときにでも、少し手助けしてやるといいさ」
「至れり尽くせり、ってことか」
あの剣にそんなことができるんだったら、俺の意識が乗ってるってのはむしろ好都合のようだ。
けどなんで空っぽのまんま、ほっぽってあったんだろうかねぇ……。
「しかし、本当にこれで良かったのか?」
「いいさ。俺が死んだ時、あいつは泣いてくれた。あいつの力になれる方法があったから、俺は乗った。
 それに、お前さんの旅を最後まで見届けたいんだ。
 はてさて、あの三人の嬢ちゃんたちとどうやって付き合ってくんだろうなあ? え?」
ブリミルはニコリともしねぇ。冗談ぐらい分かるだろうによ。

253 名前:遠く六千年の彼女 9/10[sage] 投稿日:2006/11/12(日) 02:09:28 ID:4QZU4P9q
―神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。
左に握った大剣と、右に?んだ長槍で、導きし我を守りきる。

俺はデルフリンガー。名前は、もうない。
あのとき俺は命を落とした。
そして始祖ブリミルの手によって、この剣に新たな住処を得た。
先住魔法の仕組みの上に、虚無の魔法で乗っけてあるってことだ。
だから、虚無の魔法だけはカンベンなわけ。俺の存在自体が揺らいじまうからさ。
そこで寝てるぺたんこの嬢ちゃんはある意味、天敵なわけよ。

あれから、ブリミルには一人弟子ができ、三人の娘たちには子供ができた。
その子供たちは人々をまとめる王家の人間となり、現在の三国を作った。
弟子になった奴は『始祖の教え』とかいうのを体系化した。
子供たちと『ブリミルの洗礼』を受けた連中は魔法が使えるようになっていた。
まあ、どっちにしても杖なしじゃ何にもできねえんだけどな。
四大系統はブリミルの残した力を使って先住魔法と同じもんに干渉してる、って話だ。
力を杖に預けておいて、必要なときに魔法の媒介として使うもんなんだそうだ。
次第に杖を持ったメイジが増えていくのを俺は見てきた。
そう、いまいるメイジはすべて、少しはブリミルの血を引く子孫なわけだ。
ま、王家ほどその血が濃いって言うけど、実際どうなんだか。
ブリミル本人? あぁ、あいつは……どうしたんだったっけなぁ……? ま、それはこれからのお楽しみ、ってことで。

254 名前:遠く六千年の彼女 10/10[sage] 投稿日:2006/11/12(日) 02:10:14 ID:4QZU4P9q
「……ちょっとボロ剣、アンタ何ぼそぼそ独りごと言ってんのよ?」
おっ? 嬢ちゃんが目を覚ましたらしい。どうやらうるさくしちまったみてぇだな。
んじゃ、俺の話はもうおしまいってことで。あんたもそろそろ自分の世界に帰ったらどうかね?
「……で、誰と話してたの?」
「さあ、誰だかね」
「ていうか誰かいたらオカシイでしょ。わたしとサイトとメイドしか、この部屋にはいないはずよ?」
「まあ、お前さんは知らなくてもいいさ。ただ、なんてのかねぇ……いるんだよ、
 俺やお前さんたちの生活っつうか、冒険を遠くから見てるやつらが」
「そうなの? 覗き見なんて趣味悪いわね」
「ちょっと違うな。いうなれば、そう、神サマと精霊を足した感じかねぇ」
「ふぅん……」
「ま、気にしなさんな。世界ってのはそういう風にできてるモンなのさ。
 ほら、まだ早ぇえんだ。もいっぺん寝たってバチはあたらねぇぜ?」
「そう、わかったわ」そう言ってルイズはまた横になった。
さて、もうお別れだな。あんたに話せてよかったと思うぜ?
また暇なときにでも、こっちのことを思い出してくれよな。
ああ、さよならは言わねぇぜ? あんたの時間と俺らの時間は違う。
こっちで一日経っても、あんたにとっちゃ十分程度のことだったりすっからな。
それじゃ、また。

あの日から六千年。お前さんの旅は、まだ……終わっちゃいねぇんだよな……。なぁ相棒よ。


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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:57:35 (5638d)

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