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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:58:38 (5638d)

イザベラ慣らし 1部  191の者

 

大国ガリアが王都リュティス、その東端ヴェルサルティル内プチ・トロワ
薄桃色の宮殿に今日もヒステリックな声が響き渡る

「あぁ、もう!どいつもこいつも使えないやつばっかりじゃないか!
 少しは気の利いた趣向で主人の退屈を紛らわせてみたらどうなんだい!!」

主人イザベラの怒声に呼びつけられた侍女達は身をすくめた、がそれで主の怒りが収まるでもない。
しかも最近のイザベラは機嫌が悪くなると自分の中でそれを拡大再生産するかのように暴れる。

グルノープルから戻ってきた直後は一言も口をきかずに寝室に直行し、一週間は傍付きの者達にすらメモで指示、食事こそ部屋に運ばせるが使用人が退出するまで寝所の幕を閉じてしまうなど使用人たちは何事かと思いつつも突然訪れた平穏を始祖に感謝していた。
その平穏が嵐の前の静けさだったことを思い知るのは侍女部屋の呼び鈴が鳴ってからそう時間はかからなかったのだが。
ある者は魔法でマリオネットのように踊らされ、ある者は自分の血を吸わせたスキルニルとの勝負を強いられた。
その全てをイザベラは他人事のようにつまらなげに見下ろすのである。
幾人かは耐えられずに郷里に去ったがそれすら適わぬ者たちはひたすら耐える、そんな日常がまた突然変わることがあるとも思えずに。

世はアルビオン神聖帝国のトリステイン侵攻にはじまりトリステイン・ゲルマニア連合軍による反攻、都市サウスゴータ占領からの膠着、降誕祭を機とした混乱、それらから時を経ずして終戦を迎えていた。
他ならぬイザベラの父ジョゼフの放った一つの詔勅が全てを決めたのである。

イザベラは父を一層誇らしく思うも、むしろ思うがゆえに父の役に立ちたい想いが先行してしまう。
北花壇騎士団長に甘んじねばならぬ自分の才、自分がアゴで使いまわしてはいるものの内心認めざるを得ない7号≠フ才…
父ジョゼフが叔父オルレアン公に感じていた恐怖は娘イザベラにも伝承されてしまっていた。
 その北花壇7位の座≠ェ叔母の移送幽閉とともに空席となることを知らされたときは「ようやく父上も私の能力とあの人形のダメさを判ってくださったのね」と喜んだ半面玩具を取り上げられた子供のようにふてくされた。
「どうせお払い箱にするなら私の好きにさせてくれたら良かったのに。ふわぁぁぁ」

そんな愚痴をこぼしつつ手も当てずにあくびをした所に一つの声と一つの影が近寄っていた。
「暇を持て余してるって感じだな姫様、といっても俺にゃとても王女様にゃ見えねぇ仕草だけどな」

「誰よ、わたしが呼びもしないのにここに踏み込むようなんて。衛士連中もガーゴイルも一体何をしてるんだい!」

思いがけない侵入者へ向けられたイザベラの問いに返る言葉もよどみない

「衛士だか使用人だかは知らないが食事に一服もらせてもらったからな、運が良けりゃ明日の昼には目が覚めるだろうさ。
ガーゴイルは通り道に邪魔そうな分と目に付く分は片付けさせてもらったけどちょいと道具に頼りすぎなんじゃねぇ?
人間用に持ってきた薬に余裕ができたおかげでこっちは助かったけどよ、っと掃除する音が姫さんに聞こえないように気ぃつかったんだから姫さんも静かに頼むわ」

侵入者の口上を聞き流しつつ呼び紐を引こうとするイザベラの手には途中から切り取られ用をなさなくなった紐があるだけだった。

「っ!」
ならばと杖を向けようとするが先程まで声がしていた方向に向けられた杖先は何もとらえてはいなかった。そして喉元に受ける金属の感触。
「多少余裕が出たとはいえ、手間はかけたくないんだ。俺の手元はともかくあんたが暴れて刃を引いちまうなんて寝覚めが悪いしな」
「だったらアンタが出てけばいい話じゃないか、わたしが誰か判らないなんていうほど馬鹿じゃないんならね」
『いいから黙って従いな、娘っ子。というよりホントにやるのかね、相棒?』
「あぁ、ここまで来たんだからな」

 首筋に刃を添えられつつも付いた悪態に応じたのは先程まで言葉を交わしていた者とは全く違う声音であった。
しかも賊は背後から自分をからめとっているはずなのに声は前、というか自分の喉元から聞こえた。
そして喉元と背後で会話が行われている……一瞬『地下水』を思い浮かべるも、あいつはあの忌まわしい事件の記憶とともに処分したはずだと思い直す。
 では今ここにあるのは別のインテリジェンスアイテムとその使い手ということになる…
さすがに情勢の不利は認めざるを得ないようだ。
「判ったよ。で、わたしにどうして欲しいんだい?」

「まずは杖を向うに放ってもらおう」
その言葉とともに、部屋の隅を指す賊の指が視界に入る。賊が満足する程度に放り投げる。
「次はその椅子に座ってこのロープで両足首と膝下を椅子の脚に結んでもらう」
目の前にロープが投げ出されたかと思うと、首筋を少し冷えた手でつかまれるのと入れ替わりに刃の感覚が背中のほうへと移動し動くことを暗に要求される。渋々従うと言葉はさらに続く。
 首をつかむ感触が去ったかと思うと初めて賊は正面からイザベラの視界に入り視線を受け止めた。
歳は自分とそう違わないであろうし黒い髪にしても少ないにせよ特段にいわくがあるようにも見えない少年。
ただ、貴族にも平民にも見慣れない衣服と目元辺りを隠す銀白色の仮面、そこから覗く黒い眼だけが特徴といえなくもないくらいで身元をはかるには余りにイザベラの範疇を外れていた。

彼は手近の水差しからグラスに注ぎ、裾から一つの薬包を取り出し問い掛ける。
「自分で飲んでくれるか?」
「ここまで言う事聞いてやったんだからあとはアンタがやりな」
『まぁそうなるわな、となるとあれかい?相棒』
「あぁ、最初の手筈どおりだ」やはり手にした剣と会話している・・・と見ているうちに賊は剣を背負い直し裾に手を入れた…と思った直後に左の二の腕に針のような刺激を感じる。

―吹き矢
と思い咄嗟に払おうとする右の二の腕にも刺激が走る。
その二撃で両腕の感覚が遠くなりだらりとぶら下げる格好になってしまう。
椅子に下半身を固定させられた上に両腕は麻痺、しかし意識だけは生かされている
……というのは状況が認識できるだけになおいっそうの屈辱である。

「アンタ、王女のわたしにここまでして楽に死ねると思うんじゃないよ!」
初めは大胆な物盗り程度と思い捕えたあとはさっさと処刑する、その位で良いと思っていたが図に乗ったかのように王女を自縛させる。
こうまでされては磔にして四肢を魔法で撃ち抜き悶死させてやるくらいはしなければ腹の虫が収まらない程にまで昂ぶっていた。
そんなイザベラの激情に水を差すような答え。
「誰が王女だと?そんな高貴な人間がこの場のどこにいる」
「お前の目は節穴かい?此処にいる人間で女≠ヘ私だけ、なら誰が王女かも当然だろ!」
「へぇ、女ってだけで王女様になれるのか、気楽でいいなガリアって国は」
「私を弄ぶに飽き足りず王家まで侮辱すると…
 (パァン)
再度の返答を遮り部屋に頬を張る音が響く
「何するのさ!」
「うるさいんだよ、ぎゃんぎゃん喚きやがって。人の話は最後まで聞くよう親に習わなかったのか?」

理解しがたい非難にせめて抵抗の意思表示としてそっぽを向こうとするも顎をつかまれ振り向かされる。
顎をつかんだまま、のぞきこんでくる視線に対し憎悪を込めて睨みかえすが相手はさして気にもせずに語りを続け始めた。
「噂には聞いていたがホント、慎みとか愛嬌の欠片も感じられねぇ。
 これなら父王が見限ったというのも納得がいくってもんだな、お飾りの人形王女様」
「誰がお飾りで人形よ!私はお父様に信頼されてる!あの人形娘なんかよりずっと大事にされてる!
 でなきゃ騎士団長を任されるはずがない!」

今度は平手は飛んでこなかった、しかし酷薄な言葉が畳み掛けられる。
「そうやって自分をごまかしてるだけだろう?
 他人に明かせない影を任されてるのが信頼だと思ってるのか?
 表だって名乗ることもできず、賞賛を浴びることもない地位が大事か?
 館をもらって豪華に着飾って使用人を従えたところでお前である必要なんか無い。
 命令を伝達するだけなら、鳩の使い魔でもこなすさ。
 お前はその程度の価値しか認められてない、それを自分でも感じているのに認めたくないだけだ。
 だからといって従姉妹ほどの才能も人望もないお前は腹いせに周囲に当り散らすのが精々、
 それすらも、いつ家来や召使に寝首をかかれるかという恐怖しかもたらさない。
 そしてまた周囲に晴れることの無い鬱積をぶつける堂々巡りの日々だ。
 俺には王女と言うよりも虜囚の責め苦を受けてるようにしか見えねぇ」

始めのうちは睨み付けていたものの、次第にその表情からは激昂と苦悶の感情が入れ替わりはじめ何も聞くまい、何も見るまいとするかのように顔を背けてしまっていた。
認めたくなかった事を次々と指摘してくる賊に対する怒りよりも自分の陥っている悪循環の認識がはっきりし始めていることになんともいえぬ悲しさ、寂しさがこみ上げてくる。

「や、止めなさい!……止めて、もう止めてよ…」

幾分にかすれた声しかでない、少し涙目になっているのか視界もにじんできていた。
でも今自分にできる精一杯の要求だった。が、男は続けた。
「そりゃぁ親子の間ってのはのこのこ他人が入っていいもんじゃないだろう。
 でもな、お前の噂聞いたり言動見ると口惜しくてしょうがないんだよ。
 なんていうか愛情の量も足りなきゃ受け取り方も判らない迷い子みたいでさ」

 うつむいたまま肩を幾分震わせ続けるイザベラに近づく影と気配その気配はさらに近づきイザベラの良く梳かれた蒼髪に手櫛をかけてきた。
「…?」
「これだけの髪を保てる生活をさせてもらって、」
今度は耳から顎へと指が流れていく、その感触にいくぶんくすぐったさを覚えつつ何事かとできる限りに身を縮みこませようとするが顎へと達した手に再び面を上げさせられる。
「…っ……何?」
「これほどすべらかな肌を持ちながら、」
言うと同時進行に薄手の手袋をつけた一方の腕で額からまなじり、頬へとなぞり、問う。
「何が足りない?
 何故、この切れ長の眼差しを悪意に満たす?
 何故この眉間を怒りに歪め、何故この唇から罵りが生まれる?
 笑えば華と映えように、無下に押し殺す?」
仮面から覗きこむ眼には悪意も蔑みも無くただ、イザベラを凝視してくる。

「そっ…そんなの判らない、判るわけない!」
軽く混乱しつつも答え始めていた。
「みんな、私を無能者の娘≠ニか簒奪者の娘≠ンたいな眼でしか見てこない!
 お父様に魔法の才が少し足りないから、私があの娘より魔法が劣るから……なんて事で
 お爺様の跡を継承するときに騒ぎ立てて…!
 私は、あんな人形遊びやおどけて自分を紛らわせるしかなくなる以前のお父様で良かった。
 良かったのに……あの娘もその父親も何も助けてなんかくれなかった。
 だから私は、わたしは…!」

「困っていた時に助けてもらえなかったから悪意に身を任せた、と?
 なら、もし今度助けられた時にはお前はどうする?命を捧げてでも報えるか?」

妙なことを言い出す、などという思考は無かったが答を選ぶに迷いも無かった。
「命まるごとなんて御免だね。でも……もしそれが本当なら心≠捧げてもいい」

「心、とはな…」
相手の声に多少の驚きが混じる、が語尾は呟くように消える。

「な、何よ、ガリア第一王女の私の言葉を疑うっていうの?」
こんな賊にまで軽んじられるのだろうかという思いが沸き起こりその表情に落胆の色を塗り重ねようとしたとき、回答は質問だった。

「お前の得意系統はなんだ?」
「自分は聞くだけ聞いて私にはだんまりなんだね…まぁいいわ、私が得意なのは、か……水よ」
風といいかけてあの娘の顔が脳裏に浮かんだ。
私よりも二つ三つも年下のくせに、分家筋のくせに、トライアングルへ未だ到達できない私には嫉妬してもし足りない従妹…
あの娘と比べられそうな要素はできるかぎり伏せておきたかった。
「で、それが私の言葉の信用性とどう繋がるのよ?」

「他の系統ならまだ半信半疑だったけどな。水は人の心と体に強く作用する、強く操作できる系統だろう。
それを一番理解しているメイジのお前が、代償に己の心≠選んだ。ならその言葉の重みは判る」
「つまり?」

「いきなり俺をそこまで信用するのか、と驚いた」

「別に信用したわけじゃないわ、ただ私にとってそれだけの価値があるかもと思っただけよ。
ま、そんなことしてくれるようなのが居るなんて思ってないし」

「破格の代価は諦観の裏返しか……そろいも揃って哀しいものだな。本当にそっくりだ」

肩透かしを食わせるつもりの虚勢も返される言葉に揺すぶられる、つい耳を傾けてしまう

「俺は二人のメイジを知ってる。一人はとんと芽が出ずに誰もに軽んじられる屈辱に、もう一人は才を示してもそれを認めてくれる者のいない孤独に囚われてた。お前からはその二人を併せたよう苦悩が感じられる」
「何よ、それ」
「無才ではないが身近により優秀な者がいるためにその地位に相応しからず、と。
周囲に認められぬ孤独と屈辱、それがお前を苛立たせるんだろう?」

なんて傲慢なヤツ…人の心に土足で踏み入るようなことをズケズケと!

「…やるよ」
「え?」
激昂しかけて聞き逃した

「手伝ってやる、って言ったのさ。お前に救い≠ェ来るように。
お前が求める通りの助けになるかはわかんねぇけどな。
ただ、その時まで俺なりにお前のイライラをいくらか発散させてはやれると思うからな」

さっきまでは慧眼な物言いをしていたくせに一転なんとも間の抜けたことを言いだす
正直、全く人間が掴めない
「どういう風の吹き回しさ?押し入った挙句に被害者に助力を申し出る強盗なんて聞いたことも無いよ」
「何、せっかくの素材が勿体無いと思ってね。その顔が憎悪以外でどう変化するか見たくなった」

――ポン――心の中で小さく何かが弾けた音が聞こえたような気がした――少し赤面してしまったかもしれない…

動揺を見せまいとしてかイザベラは俯きこんでいる。
その間にサイトは彼女に近づくと、貴婦人に手を許された騎士のように未だ麻痺させられているイザベラの手をとる。

「…何を?」
「今夜は挨拶代わりということで触れるのはこれだけにして、俺流のストレス解消法のデモンストレーションをお見せするよ」
接吻されるかと思った手先には一体の人形が近づけられ、その人形の武器で小さく刺される。
手荒れするようなことをするはずもない綺麗な肌に小さく浮いた紅い珠が人形に吸われ傷に血止めだろう軟膏を塗ると賊は数歩下がって人形を床に置いた。

「それは…まさか、スキルニル!? 盗賊が気軽に入手できるような代物じゃないはずよ!」
「以前に結構な数に襲われてね、大半はぶった切っちまったんだがいくつかは無事に解除できた。
そのうちの一体さ」

そうするうちにも魔法人形は変貌を続けイザベラの姿をとり終える。
それを確認したサイトはスキルニルの背後にまわり後ろ手に拘束する、がスキルニルのほうは命令を待つばかりで抵抗する素振りも見せない。

一通りし終えると未だ椅子に留め置かれているイザベラをベッド横に向き合わせ、脚の拘束を緩める。
さらにベッド上から毛布を抜き出し、自分の羽織っていた上着と併せてかけてくれた。

「随分、薄い部屋着だったんだな。悪かった」
「助力を申し出たり気遣ったり本当に変な賊だね」
「穏便に交渉を始めたかっただけさ。あとはそこで見てればいい」

言いながら先程のスキルニルを連れてくると空いているベッドの上に横たわらせる。

「さぁちょっとした鑑賞会を始めよう」

「襲われた時は夜陰だったから判りにくかっけど本当に良く出来てるもんだな。
 噂じゃ外見以外も色々映しとれるらしいけど、これだけでも美術品で飾れそうだ……」

 後ろ手に拘束されたまま大人しくしているスキルニルを眺めつつ、そんなことを言っている。
――貶さないのはともかく本人を前にその裸像をまじまじと観察するのは止めて欲しい――
 そう思っていると男もベッドに上がりスキルニルを私に向ける形で抱き起こし、自分はその 後ろに座って軽く抱擁するように両腕をまわしてくる。

「どこから触って欲しい、とか要望はあるかい?」
「さてね、人形相手に欲情できるような性質じゃないからね。自分で考えてみたらどうだい」
「やれやれ、じゃそうさせてもらうさ」

 言うと、男は胸に添えていた両手をなぞるように動かし始める。
下から持ち上げるように滑らせたかと思えば乳房を包み込むように指を広げると乳首を指の隙間に覗かせるようにして揉みこんでいく……。
「いいな、この触感といい、手ごろな大きさといい馴染むようだ」
うなじの辺りにうずめていた顔を右耳に近付かせて囁くと
『…………ッ』
 先刻まで無表情だったスキルニルがわずかに反応した。
据わったように宙に放たれていた視線が胸を揉む手を注視している…
見れば乳首に引っ掛けるように指で押さえ、弾力ではずれるのを利用して刺激しているらしい。
断続的に加えられるその刺激に応えるように乳首がプックリと膨らんで来ている

『………ッ……ァ』
存在を主張し始めたのに気付いた男の指がまた動きを変えスキルニルの反応が増え始めた。
『っ……ひぅ…ゃ!…そ、そこは』

膨らんだ乳首をすり潰すように刺激し、軽く摘んで引いて……両手で時に同じ動きをしたかと思えば 不意に片方を反転させたり停めたり強弱をつけて丹念に愛撫を加える、その都度スキルニルは 身体を硬直させたり、耐え切れずにこぼしたかのような短い声をあげる。

『ぁ……ふぁ…あぁっ…』
――まさかスキルニルが女として感じてる?
それは人形の声というには余りに肉感的な響きを帯び始めていた。
こころなしか、肌の色も赤みを帯びつつあるし、動きもガーゴイルのような無機質さよりも人のそれに……が、何より切なげに眉根を寄せ瞼を閉じ、与えられる刺激に集中している表情――
 それが自分の顔をそっくり映したマジックアイテムでしかないと知っていてもなお、いや判っているからこそ不思議な感覚がいっそう強くなる。
鏡の前に立つ自分は何もしていないのに映し出された影だけが躍っているような……

「えらく熱心に見てるが、気に入ってもらえたのかな?」

 投げかけられた声に呼び戻され、自分を見つめている視線に気付く。
仮面にさえぎられて目元の細かい表情まではうかがえなかったがスキルニルのみならず自分にも注意を払っていたらしい。

「ま、この反応からして聞くだけ野暮か」
 と、スキルニルの顔を覗き込んでいる。ひとしきり観察し終えたのか、こちらを見続けながら
スキルニルを振り向かせていた手を頬、喉、鎖骨、肩、二の腕…と這わせつつ下半身へと運ぶ。
その意図を測りかねているうちに自分の体の違和感が減っていることに気付く。
――両腕の痺れが治っている! 視線はこれを暗に教える為?
  さっき投げさせられた杖は……あった…この距離なら椅子ごと転がっても取れる? ――
無意識に先程投げさせられた杖に視線が走る。

――いや、緩められたとはいえ両足が縛られていることに変わりは無い。
椅子ごと転がるなんてまねを試したこともないし、杖を掴めても詠唱を終えるまで賊が大人しく待っていてくれるだろうか――

 機を窺うイザベラをよそにスキルニルへの愛撫は次の段階へと進もうとしていた。
『……こ、今度は何処…?』
 左手を胸に残し、腕から腹へと進められた右手がヘソの周りを数回なぞる、がそこから蒼い叢には直行せずに脚の付け根、太ももと滑らせていく。
焦点の定まらない動きに焦らされたかスキルニルが身をよじる。
――既に何を≠ウれるかではなく何処を≠ウれるかという思考になってるわね――
 散々道草をして、ようやく目的を思い出したように指が蒼い叢に伸ばされる。
叢を抜け目的の場所に到達してなお、その周囲を検分するかのように撫でていく。

『…っふぅ……そ、そっちじゃ……な、なくてぇ…』
「そっちじゃわからないな、もっと判りやすく言ってくれないと」
『もう少し……』
そう言いかけて俯いてしまうのをからかうように、蜜を滴らせ始めた花弁を指の腹で擦りあげる
「こっちかな?」
『ひゃうっ、うっ…あ、やぁっ』
「違ったかな、じゃあこうか?」
『んっ……んんっ!』

叢にかけて掌で数度往復させ面での刺激を与えた後、人差し指と薬指で花弁をこじあけるようにして中指を滑り込ませる。
うなじに舌をはわせつつ、侵入させた指を蠢かせるのに応じてスキルニルの肢体が軽く震えた。

『はぁ…そこ…気持ち、いい…』

イザベラは眼前で繰り広げられる痴態を関心半分呆れ半分に見ていたが
――全く……でもそんなに心地いいものなのかしら?――
 物理的束縛を受けているのは麻酔が切れた今は足だけであり先刻かけられた毛布のおかげで両手はある程度、賊に気付かれずに動かせる……
 つまり、スキルニルが受けていることを模倣できるということ…
鏡像が本体に従って動くべきところを鏡像に本体が従うという、荒唐無稽な考えが脳裏をよぎる。
――どうせ向うは危害を加えてくる気配もないしそう勘付かれるような動きをしなければいい――
などと開き直ってしまう辺り、案外気が緩んでしまっているのかもしれない。
そして、イザベラは自らの手とスキルニルを愛撫する手の動きを同調させはじめた……。

 掛けられた毛布を隠れ蓑に、眼前のスキルニルに施されていく愛撫を一拍遅れる形で追随する。
――とはいっても気分が乗り切ってないからそのままは無理じゃない?――
などと思慮しながら手を胸と秘所へと伸ばしてみるがその感触に杞憂を知る

「!……なん、で…」
いつもの薄い寝間着だけであれば身体の火照りに、夜気の寒さなりで気付いていただろう。
だが掛けられた毛布によって保温されていたせいですっかり失念していたようである。
「わ、た、し…感じ…ちゃって…た?」
朝ビスチェに、夜も寝間着に着替えさせる時、多少触れるモノ程度にしか意識しなかった胸の先端はいつもよりも膨らみ指が触れるか否かという距離でも背筋に向けてむず痒いような感覚を伝えてくる。
下半身の反応も上半身に負けていなかった。

「こんなに…濡れてるなんて」
椅子の足に拘束されいくばくか股を開かされていたのがやはり仇となったか、知らず知らずに蒼の草原は蜜に浸されていた。
そしてその根源たる花弁へと指を進めれば、そこは今尚次々と新たな蜜を湧き出させている。
しかも…
『んうっ…ん…あ……あん!』
眼前で賊に弄られているスキルニルの嬌声に合わせるようにひくつき、濡れる。
『や、そんな…に、ふぁっ』
仰け反るように身を捩じらせ与えられる刺激からスキルニルが逃れようとする度、男の腕に抱きすくめられている。
男の方も与え過ぎた快感が程よく引くまで待つつもりかその間は手を止める。
「そんなに強張るな、何もお前を壊そうってんじゃないんだから」
『で、でも…こ、声は出ちゃうし…身体も勝手に…! あ、はぁ、っ……んんっ…あぁうっ』

――なんだかすっかり二人の世界じゃない?まぁ変にさっきみたいに話しかけられるよりはいいけど――
だから私も自分の鏡像を愛撫する男の動きに集中できる。
私が動かしているのは、私を愛撫しているのはあの男の手、指……
あの男に抱きすくめられ愛撫されているのは人形ではなく私自身……
ちょっと軽い自己暗示をかけつつゆっくりと見える範囲、覚えられる範囲で動きをトレースし自分に施してゆく。
相手の注意が逸れているという認識からくる安心感か、声を漏らすことにも躊躇は無かった。
「ん…っ…は、はぁ…う…」
『あ、あぁっ、ん…』
『「ふ、ひぁっ、あうっ、ん、ああっ!」』
はじめは輪唱になっていた嬌声が少しずつ重なり始める、
あたかもイザベラとスキルニルの昂りがそうなるかのように……。

『「あん……んん…ぁん…んくっ!」』
 古代魔法技術の驚異、とでもいうべきだろうか。
サイトの手指の動き一つに双子のような一人と一体のあげる嬌声がステレオのように反応する。
『「ふぁ、ぁ…あん……ん、ひぁっ……はぁぁ!」』
しばしそれが繰り返されていたが、流れはまた変わりつつあった。
「さてとこっちは…」
草原というよりもはや湿原と表記できるだろう場所を抜け、泉へと至る途上に在るモノ
ベールをかけられるかのように保護されているソレに泉に浸されていた指を近づける。
蜜を馴染ませた指の腹でこすり落とすように包皮から開放すると軽くつまむ。

 迂闊にもイザベラは最前までの愛撫と同じレベルの認識で追随してしまった。
『「ひゃあっ!」』
一際高い声と身体が仰け反るような感覚に襲われる。
『だ、だめ! そこはっ、ぁあっ、ひっ、あああ!』
「だ、だめ! ここはっ、ぁあっ、ひっ、あああ!」

――な、何よコレ!さっきまでの、なんかより何倍もゾクゾクって、や、また…
はぁっ、あっ、あっ、あああっ! わ、わけわかんな、くぅっ! だ、ダメ、このままは
向うに気付かれちゃう! で、でも止められ……な――

 かろうじて寸前で動きを緩め意識を保ったイザベラだが、スキルニルには無論不可能である。
『や、あふ、はぁっ、んっくぅぅ……あああぁぁっ!』
先刻を上回らんばかりの嬌声とともに大きく身体を震わせ、数秒後にガックリと脱力し前方に倒れこもうとするところを男の腕に引き止められる。

 すっかり脱力しているスキルニルをベッドに寝かせると男は立ち上がり水差しを手に戻ってくる。
べッド脇の小机に水差しを置くとスキルニルを抱き起こし耳元に二言三言囁く。聞き終えたスキルニルが小机に備え付けのペンを取り何かをしたためる。
命じた作業の終わりを確認すると男はスキルニルの口を開かせ粉状の何かを含ませる。
そして水差しと対のグラスに注いだ水を一口含みスキルニルの唇を奪うように重ねた。

 一連の流れをおぼろげな意識で眺めていたイザベラだったが、
ベッドの上で寝ているはずだった一人と一体がごく間近に立っていることに気付く。

「さて、仕舞ということにしてこいつを解除してやってくれ。
ただし、こいつのキスが終わってからだがね」
 男の言葉と入れ替わるように鏡を眼前におかれたようにスキルニルの顔が迫り唇が重ねてくる、がただの接吻ではなく舌で唇を割り開くと何かを流し込んで来た。
わけもわからずに飲み込んでしまうと耳元に解除のルーンが囁かれ復唱するよう促される。
促されるままに呟くが効果は現れず男は、あぁそうかとばかりに杖を拾った。持たせようとして毛布から右手を引き出した男の動きが一瞬止まるがそのまま解除を済ませ、再び杖を取り手を戻す。

「いい娘だ、だからこれはサービスしておくよ」
言うや毛布の上からイザベラの手に添えるように押さえると軽く振動させた。
その刺激で収まりかけていた火が再び燃え上がりイザベラの理性を炙る。
「ゃ…せ、せっかく…収まって、きてたのに…ま、また変にっ! な、なにか……
なにかが、く、来る! き、来ちゃう! あぅっ、んうっ、あっふぁぁ」
一層振動が激しくなり意識が白く染まって行く……
「ああっ! あああぁぁぁっ!」
一気に追い上げられた身体が仰け反り痙攣し…一拍おいて弛緩すると背もたれによりかかる。
「あぁ、それとお前のところの七号の命、俺が貰い受けた」
薄れ行く意識の最後に意外な言葉を聞きながら、イザベラの視界は暗転した。

翌朝、プチ・トロワの人々が目覚め、主の寝室に出向いた時
そこには寝台で寝息をたてるイザベラとその脇の小机に小さなメモ、小さな黄薔薇の造花が置かれていたという…


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