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Last-modified: 2008-11-10 (月) 23:00:25 (5638d)

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ゼロの飼い犬13 水兵服とメイドの不安(後編)               Soft-M

■1
 
 もう初夏といっていい季節なのに、夜風に肌寒さを感じます。
 それは、腕も足も大きく肌を晒した格好をしているから。付け加えると、その頼りない服装が
わたしを心細くさせ、実際よりも風や気温を冷たく感じさせているのかもしれません。
 
 日が落ちた後のヴェストリの広場を、わたしは火の塔へ向かって歩きます。
 今日の夕方、厨房へやってきたサイトさんに、そこへ呼び出されたから。
 こんな時間に、こんな服装で。”人目につかない場所に”ってお誘いを受けたからです。
 
 体の奥に、じわりと熱い物が溶け出しました。わたし、不安で心細いだけじゃなく……、
期待もしている。胸の内までは冷えていません。サイトさんとの待ち合わせ場所に
早く着きたい気分と、そこへ行くのが怖い気分が同居しています。
 それでも足は自然に歩を進めて、わたしは火の塔入り口の踊り場にたどり着きました。
 
「サイトさん……」
 でも、ざっと見回してもサイトさんの姿がありません。小さく名前を呼ぶと、ガタンという音が
踊り場の上に響き、わたしはびくっと身をすくませました。
「シエスタ」
 階段の上にあった樽の蓋が持ち上がって、中からサイトさんが出てきました。
「サ、サイトさん。なぜそんなところに?」
「いや、いろいろと事情があって……って、え?」
 
 サイトさんは踊り場に降り立つと、わたしの姿を眺めて驚いた様子を見せました。
「き、着てきちゃったの?」
「え……ええ。だって、サイトさんがこの服できてくれって言ったんじゃありませんか」
 そう答えると、サイトさんはしまったという風に難しい顔になりました。ひょっとしたら、
何か勘違いがあったのかも。でも、着てきてしまった以上、この服を生かすしかありません。
 
 わたしはごくりと唾を飲み込んでから、昨日の朝そうしたように、くるっと体を回転させて、
サイトさんに人差し指を立てて見せました。
「えっと、その……、お、お待たせっ!」
 精一杯の笑顔で笑いかけると、サイトさんは頬を緩ませてかあっと頬を赤らめました。
やっぱり、この格好を凄く喜んでくれてるみたい。わたしまで嬉しくなります。
 
 がたん!
 
「ひゃっ!?」「うわ!?」
 と、急に近くで物音が聞こえて、わたしはサイトさんに飛びつきました。
途端に、一時は忘れていたはずの、昨日の朝の恐怖が鮮明に蘇ります。
 こんな露出の多い格好だって、下着を着けていない姿だって、サイトさんに見られるのなら
構いません。けど、他の人に見られるのは、それだけは絶対に嫌です。こんな格好ができるのは、
サイトさんのお願いだから。相手がサイトさんだからなのですから。
 
 近くに誰か? そう思ってサイトさんにしがみついて震えていると、
樽の影の辺りからにゃあにゃあとネコの鳴き声が聞こえてきました。
「なんだ、ネコか……」
 ほっと息をつくサイトさんでしたが、わたしは安心できません。今の物音のせいで、
今にもここに誰かが通りがかりやしないかという不安が襲ってきました。
 
「……サイトさん」
 サイトさんの腕をぎゅっと掴んで言います。
「どうしたのシエスタ? ちょ、ちょっと離れて欲しいんだけど。その、体が……」
「……こ、ここじゃ嫌です……」
 サイトさんの顔を見上げて、呟く。サイトさんは「え?」と呆気にとられた顔をしました。
 
「サ、サイトさんは、わたしのこんな格好……、他の男性に見られてしまってもいいんですか?
他の男性に見せたいんですか?」
 絞り出すように聞くと、サイトさんは目を見開いて顔をぶんぶん横に振りました。
「あ……、ご、ごめん! 俺、そこまで気がつかなくて!」
「でしたら、場所を変えましょう。ここだと怖いんです」
 わたしはサイトさんの手を引いて、踊り場の階段を駆け下りました。
 
■2
 
 わたしとサイトさんは校舎の角を曲がって、壁際の木の陰に移動しました。
 夜半のこの時間なら、まず誰にも見とがめられない場所。
ようやく安心できると、わたしはサイトさんに身を寄せました。
 サイトさんはわたしの行動に戸惑っているのか、しばらく落ち着かない様子でいましたが、
不意に何かに気付いたみたいにぎくっと体を揺らしました。
 
「あ、あの、シエスタ? シエスタってひょっとして、ブラジャーつけてない?」
 サイトさんの、ためらいがちな声。何だか腰が引けてます。
「ブラジャーって何ですか?」
「え? えええええ? その、胸をですね、こう、保護する……」
 聞いたことがない言葉に質問すると、サイトさんはわたしから体を離して、
自分の胸の前でお椀みたいな形のジェスチャーをしました。
どうやら女性が上半身につける下着みたいなものらしいです。
 
「メイド服の時は、下にコルセットやドロワースをつけますけど……、
こんなに短い上着やスカートだったら、そんなの無理です」
「え……、ド、ドロワースってなに?」
「その、下穿きです」
 答えると、サイトさんは一瞬考え込むような顔をしたあと、一気に真っ赤になりました。
 
 わたしの方も、頬が火がついたみたいに熱くなります。
 やっぱり、サイトさんはわたしが小さな下着を持ってないってこと、知らなかったのです。
 サイトさんがわざとわたしに下着を穿かせないことを望んでいるのだっていう想像も、
そのためにこんな短いスカートを用意させたんだっていう想像も、全部ただの勘違いだと
わかって……、安堵やら恥ずかしさやらで、頭がくらくらしてきました。
 そして、その次に湧き上がってきたのは、何の悪意も無くわたしをこんなに不安にさせた、
サイトさんへの抗議の気持ちでした。じわっと目尻に涙が浮かんできます。
 
「サイトさん、ひどいです。わたし、貴族の方みたいな小さな下着なんて持ってないのに……、
こんな、こんな短いスカート。サイトさんのプレゼントだから、わたし、サイトさんのために
勇気を振り絞って着ていったのに……」
「ちょ、ちょっと待って。てことは、今のシエスタって……、はいてない?」
 今さらなことを聞いてくるサイトさんに、こくんと頷いて返しました。
 
 わたしがあんなに悩んで、恥ずかしいのを我慢して、サイトさんの為だと思って
「くるっ」ってしたのに。お尻や、大事なところが見えてしまうかもって不安だったのに。
サイトさんはそれが見たいのかもなんて思って心臓がパンクしそうだったのに。
 サイトさんの方は、そんなのちっとも意識してなかったなんて……、
わたし、馬鹿みたいじゃないですか。ただの道化です。
 
「ご、ごめんシエスタ! 本当にごめん!!」
 必死に謝ってくるサイトさんに、わたしは強く抱きつきました。
「わ、わたし、怖かったんですよ? ミスタ・グラモンやミスタ・グランドプレにまで
あの格好を見られてしまって、なのにサイトさんってば普通にしてて……。
今晩だってそうです。また、他の人に見られたらって……」
 
「あああ……、もう、マジで申し訳ない。もうそんな格好させないから」
 サイトさんは泣きそうな顔で平謝りしながら、そう言ってくれました。
でも……、その答えだと、サイトさんにわたしの気持ちは伝わっていないみたい。
わたしはサイトさんの目を見つめて、口を開きました。
 
「違います……。この格好は、嫌じゃないんです」
「え?」
 サイトさん、目をぱちくり。
「サイトさんに見られるのでしたら、この格好だって構いません。
サイトさんが喜んでくれるなら、わたしだって嬉しいです。
嫌なのは、他の男性に見られることだけです。わたしは、サイトさんだけのものだから……」
 サイトさんは、わたしを呆然とした目で見返しました。
「サイトさんが、望むなら。サイトさんがわたしの……、恥ずかしい姿、
見たいっていうのなら……いいんですよ?」
 
■3
 
 わたしはすっと身を引いて、サイトさんと距離を取りました。
「……サイトさん。もう一度言います。わたし、下着を穿いてないんです」
 そう言ったとき、ちょうど小さな風が吹いてきて、スカートが微かにたなびきます。
 サイトさんがそこに目を奪われて、ごくっと唾を飲み込むのがわかりました。
 
 わたしの方もサイトさんの視線を感じて、腰の奥がきゅっと締め付けられます。
昨日の朝にお見せしたのは、勘違いだったけど。今は違います。
 サイトさんは、”こんな短いスカートで下着をつけていないわたしを”、
確かに見てくれて、意識してくれているのです。
 ぞくぞくと背筋に震えが走りました。頭の中に霞がかかったみたいになってきます。
 サイトさんの前でこんな格好を晒していることに……、わたしは、喜んでいます。
 
 ”それ”に気付いたのは、昨日の朝。サイトさんの前で「くるっ」ってして、
サイトさんに何もつけていないスカートの下を見られてしまったかもと思ったとき……、
その時、わたしは喜んでいました。感じていました。……濡らして、しまいました。
 サイトさんに虐められて……、少なくとも、わたしはそう思って。
それが、気持ちよかったのです。そんな状況が、心の底では嫌じゃなかったのです。
 
 実はわたしには、ローラにも言っていない”不安”がもうひとつありました。
 わたしはサイトさんが望むなら、どんなことだって。仮にわたしに酷いことをして
楽しみたいという要求であったとしてもきっと受け入れてしまう。
それが不安なのだとローラに言いました。
 けれど、本当はそれだけじゃありません。わたしは、そんな要求をサイトさんにされることも、
サイトさんのそんな要求に従うことも。嫌がるどころか……、わたし自身が、
それを喜んでしまいそうなのです。本当は、そのことが不安だったのです。
 
 現に、今だってそう。わたしは昨日の朝のことを再現して。サイトさんの前で、
この格好を見てもらって……、そして、喜んでいるんです。
 
「……わたし、怖くもありましたけど、期待もしてここへ来たんですよ?」
 自分でも驚くくらいの、媚びた声が喉の奥から漏れ出てくる。
自分じゃない誰かが自分の体を使って喋っているような、不思議な気分。
「こんな時間に、呼び出してくれたんですから。それに昨日の朝、この格好を
食い入るように見つめて、喜んでくれてたんですから。
……だからサイトさん、やっとわたしの体を求めてくれるんだって、思ったんですよ?」
 
「シエスタ、それはっ……」
「違うんですか? 全部、わたしの勘違いですか?」
 否定しようとするサイトさんの言葉を遮って近寄り、顔を寄せます。
サイトさんは口ごもって、顔をわずかに歪めました。違うと言い切れないってことです。
 
「わたし、嬉しかったのに……。サイトさんがわたしに求めたのは、
サイトさんの故郷の匂いだけなんですか……?」
「それは……、違う」
 次の質問には、すぐに否定の言葉が返ってきました。
「でしたら、求めてください。わたし、サイトさんの望むことなら何でもします。
……サイトさんに、求めて欲しいんです」
 
 サイトさんはわたしの言葉に大きく息を飲みました。
「だ、だめだよ、そんなの」
「どうして?」
「そんな、シエスタの体だけ求めてるみたいなこと……」
 自分に言い聞かせるように、そう言うサイトさん。
 
「わたしは、体だけでもいいんですよ?」
 サイトさんの胸元に手を触れてそう返すと、サイトさんは息を飲みました。
「気持ちの全部を、わたしに向けてくれなくてもいいです。今はまだ、愛してくださらなくても
構いません。けど、わたしのことを少しでも大事だと思ってくれているなら……、
体だけだって、求めて欲しいです。そうしてくれたら、嬉しいって思います」
 
■4
 
「シエスタ……」
 わたしは背伸びをすると、わたしの名前を呼んでくれたその唇に唇を押しつけました。
 何度したって新鮮で、甘くて、とろけるみたいで、幸せで、素敵な気分になる感触。
サイトさんの温かさが、わたしの体に流れ込んできます。
 そのまま、しばらくの間唇を合わせていて……、サイトさんがその顔を
離そうとしたとき。わたしは唇の隙間から、舌を出してサイトさんの唇を舐めました。
 
「えっ……」
 驚いて目を見開くサイトさんの首に手を回して、さらに強く押しつけます。
サイトさんの唇の形が、舌で触れるともっと鮮明にわかる。その間に舌先を押しつけると、
ぬるんという感触と共にサイトさんの歯に触れるところまで入っていきました。
 
「んっ……、ぅん……」
 唇の裏側の、つるつるしたところを舌でくすぐっていると、サイトさんの顎から力が抜けて
口が開かれました。顔を傾けて、もっと奥まで舌を入れます。
 ざらっとした感触。サイトさんの舌。わたしは胸の奥に熱いものが灯ったのを感じながら、
その舌にわたしの舌を擦りつけました。
 わたしとサイトさんの間で、くちゅくちゅと小さな水音が響く。初めて味わう、
サイトさんの中。サイトさんの唾液。息をするのも忘れて夢中になってしまいます。
 
「ふっ……、は、んぁ……はぁっ……」
 息が苦しくなっていたのにようやく気付いて唇を離すと、サイトさんの顎まで
唾液が垂れているのが目に入りました。舌を伸ばしてそれを舐め取ります。
余計に濡れてしまったことに誤魔化し笑いをしながら、サイトさんと目を合わせました。
 
「シエスタ……」
「こういうキス、はじめてですよね」
 サイトさんの吐息が感じ取れる距離で、囁きます。今まで、サイトさんとは何度も
キスしましたが、舌や口の中まで重ねる……、大人のキスは、これが初めてです。
 
「すごく、良かったです」
 サイトさんと顔を見合わせているだけで、口の中に唾液が溜まってきました。また、したい。
息が整ったのを待ってから、薄く開かれたままのサイトさんの唇に再び吸い付きます。
 サイトさんの中にわたしの舌が入っていく。びりびりと体の芯が痺れます。
こんなに気持ちいいこと、もっと早く覚えれば良かった。そんな後悔を取り戻すみたいに、
わたしはサイトさんの口を味わい続けます。
 最初は遠慮がちだったサイトさんの方も少しずつ力が抜けて、わたしの舌を
歓迎してくれるようになりました。わたしの動きに合わせて、より深く絡められるように。
より多くふれあえるように。まるでダンスみたいに、舌と舌、唇と唇が踊ります。
 
「……っ!?」
 そんな甘い時間に我を忘れて没頭していたら……、わたしの背中に回されていた
サイトさんの手が、わたしの背中を撫でてきました。びくんと体が跳ねてしまった隙に、
サイトさんの舌がわたしの舌を押し返して、わたしの中に入ってきました。
 
「んぅっ……、ちゅ、ちゅぶ、ちゅぐっ……んむっ、ふ……は、じゅるっ……」
 途端に、腰の辺りからどんどん力が抜けていきます。がくがくと膝が震える。
今まではキスを”楽しんでいた”感じだったのに、サイトさんに翻弄されて、支配されて、
その心地よさに何も考えられなくなってきます。
 そのまま、溺れてしまいそうになる。何もかも任せて、好きにしてもらいたく
なってしまいます。それは、すごく素敵なことだと思うけど……でも、今はまだだめです。
 
「ふっ……! ちゅうぅ……はぷ、んくっ……ちゅ、ちゅるる、ちゅぷんっ……!」
 わたしは遠くに行ってしまいそうな意識を挽き留めて、わたしの中で動き回る
サイトさんの舌を吸い上げました。それを唇で挟んで、たっぷり唾液を絡ませて。
じゅるじゅると、口全体で扱きます。
 サイトさんはさすがに予想外のことだったのか、ちょっと慌てた様子を見せました。
わたしは遠慮せずに、サイトさんの舌を擦り上げます。唇から顎、首筋までにかけて
涎が溢れていくのを拭き取ろうともせずに続けていると、サイトさんの体が強ばって、
腰が引けていきました。
 
■5
 
「ちゅぷっ……、ふぁ、はぁっ……、どう、されたんですか?」
 いったんキスを中断して、逃げてしまったその腰に体を押しつけて聞きました。
サイトさんは苦しそうに瞳を潤ませて、荒く息をついています。
答えてくれないので、さらに体をぐいぐい近づけると、”それ”がわかりました。
 ううん、触れて確かめる前から、予想はついていました。だって、わざとそうしたんですから。
わたしは、サイトさんの舌を……、前にサイトさんにお口で奉仕したときの動きで、
舐めて、擦って、吸い付いたのです。サイトさんが、それを嫌でも思い出してしまうように。
 
 サイトさんの足の間に、わたしの足を滑り込ませます。
前みたいにそこが固くなって、張り詰めているのがはっきりわかって、嬉しくなりました。
「……サイトさん、どうしたいですか? わたしに、何をしてほしいですか?」
 言いながら、指先でサイトさんの口元に垂れた唾液を拭ってあげます。
「また、わたしの方から無理矢理しないと、いけないんですか……?」
 濡れた指先を舐めて微笑みかけると、サイトさんは観念したように深い息をつきました。
そして、わたしの髪をそっと撫でて。
 
「ごめん……、シエスタ。また、してくれるか?」
 そう、言ってくれました。心の中にぱあっと花が咲き開いたみたいに感激します。
「ご奉仕、ですか?」
 首を傾げて聞くと、サイトさんは恥ずかしそうに小さく頷いて返しました。
 思わず小躍りしそうになります。サイトさんの方から、わたしをはっきり求めてくれたんです。
 ぞくぞくっと、胸の奥から痺れるような感覚が湧き出してきて……、
わたしはサイトさんに飛びついてまた軽くキスをすると、ゆっくりと立て膝をついて、
その足下に屈み込みました。
 
 
 今までに二回しただけなのに、妙に慣れてしまった手つきで、サイトさんの
ズボンの前を開きます。ドキドキと心臓が高鳴る。いやらしくてイケナイことをしているっていう
興奮だけではなく、プレゼントの箱か宝箱でも開けるみたいな期待も混じってます。
 
「苦しいですよね。今、出してあげますからね……」
 サイトさんの下着に手を差し入れて、”それ”を取り出しました。人の体の一部なのに、
他の部分に例えられない不思議な感触で、熱くて、固くて、変わった形で……。
 男性の腰にこんなものがついているということがちょっと信じられないような、
圧倒されてしまうものがわたしの目の前に飛び出しました。
 
 サイトさんは壁にもたれかかっていますけど、座っているときより
安定してないせいでしょうか。下着からそれを出した拍子に、ぶるん、と震えました。
「きゃっ……、す、すごいです」
「う……、その、ごめん」
 その勢いに驚いて、思わず目を丸くしてじっと見つめてしまうと、
サイトさんは申し訳なさそうに謝りました。
 
「どうして謝るんですか?」
「いや、だって、シエスタにはこんなになった所、何度も見られてるし」
 恥ずかしそうに顔を背けるサイトさん。わたしと抱き合ったりキスしたりするたびに、
”こんなになった所”を見られたり触られたりしていることを謝ってるのでしょうか。
 わたしはくすっと笑うと、サイトさんのものに指を沿えて、先端にそっとキスしました。
 
「あっ……」
「わたしは、嬉しいですよ? サイトさんが、わたしでこんなになってくれて。
わたしを求めてくれて。それだけで、胸の中がいっぱいになっちゃうくらい幸せです」
 唇にじんわりと熱が広がっていくのを感じながら、そう言います。サイトさんは私の言葉に
まだ照れているみたいで、何と返したらいいのか迷っているみたい。
 
 それが、何だか……、可愛い、って思えてしまいます。
 前もそうでしたけど、サイトさんってばこんなに立派で感心してしまうようなものを
張り詰めさせてるのに、なぜわたしの前でそれを晒すと及び腰になっちゃうんでしょう。
 そのギャップが可笑しくなって、わたしはサイトさんのものを下から上まで優しく撫でます。
 
■6
 
「ふっ……、あ……」
 とたんにサイトさんの口から漏れる声と、ひくん、と震える手の中のもの。
それも可愛いって思います。わたしが手で軽く触っているだけで、
サイトさんがこんなになっちゃうんですから。
 そんなことを考えていたら、口の中に唾液が溢れそうなくらい溜まってきました。
まるで、ご馳走の並んだテーブルを前にしたときみたいに。
わたしの体は、少しでも早くサイトさんに奉仕したいって願っているみたいです。
 
「……じゃあ、また、ご奉仕させていただきますね」
 もう一度、挨拶のつもりで先端にちゅっと口付けて。わたしは唇でその先を挟みました。
 
 先っぽの、つるつるしたところを口に含んで。ピンと張った段差のところを唇でくすぐって。
下側の、たぶん精液が出てくる穴のところや、筋ばっているところに舌を這わせて。
 唾液を全体に塗りつけるようにしながら、ゆっくりゆっくり。まるでサイトさんのものを
味わいながら咀嚼してるみたいに、少しずつ口の中に飲み込んでいきます。
 
 わたしの顔が沈んでいくのに合わせて、ぞくぞくとサイトさんの体全体が震えます。
この感じ、大好きです。わたしがサイトさんを喜ばせているんだって、よくわかります。
 サイトさんの先端が、上あごの裏を擦って、もっと奥……喉まで入ってくる。
でもまだ根本までは咥えられていません。少し苦しくなってきたけど、
その方が”サイトさんを迎え入れてる”って気がします。わたしは喉の奥を開いて
顔の角度を調節すると、限界までサイトさんのものを飲み込みました。
 
「くっ……、は、ぁ……嘘だろっ……!?」
 サイトさんは取り乱した声を上げ、腰を引こうとしました。せっかく、わたしの唇が
サイトさんの下の毛に触れるくらいまで深く咥えられたのに。ずるずるとわたしの口の中
全体で擦ってあげながら、サイトさんの腰に合わせて頭を引き、解放します。
 
「ぷはっ……、あっ、ふぁ……」
 じゅぷん、と揺れながらわたしの口から吐き出されたサイトさんのものは、
わたしの唾にまみれてテラテラと輝きながら、サイトさんのお腹の方まで反り返ります。
 ひくんひくんと小刻みに震えていて、何だか物寂しそうな感じ。
そのままにしておくのが可哀想な気がして、今度は幹の方に舌を這わせました。
 
「ちょ、ちょっと待ってシエスタ。さっきの、苦しくなかったの?」
「ちゅぷ、ちゅっ……、ふるしい、って?」
 横笛を吹く時のようにサイトさんのものを唇で挟んで舐めながら、聞き返します。
「あんな、喉の奥の方まで咥えて。普通はむせそうだと思うけど」
「……ちょっと苦しかったのは確かですけど、むせるほどじゃありません。
それに、我慢できないほど苦しいことなんてしませんよ」
 口を離して、サイトさんを見上げながら言いました。さっき、サイトさんは
わたしが苦しいだろうと思って腰を引いたのでしょう。
 
「そ、そうなの。凄いね……」
 サイトさんは感心半分、畏怖半分みたいな声で言いました。
凄いんでしょうか、よくわかりませんけど。
「えっと、それで、続けていいんですよね?」
「ああ……お願い」
 サイトさんはまだ遠慮がある声で言いました。もっと、命令みたいに言ってくださって
構わないのに。そう考えたところで、ちょっとしたことを思いつきました。
 
「あの、サイトさん」
「え?」
 わたしはサイトさんの手をとり、わたしの頭の上に乗せるように導いて、
「手で気持ちいいと思ったところ、教えてください。そこにいっぱい奉仕しますから」
 上目遣いでそう言いました。サイトさんは驚いた顔でわたしを見ましたが、
わたしは答えを待たずにサイトさんの先端を再び口に含みました。
 先っぽの傘のようになっているところに唇を引っかける。つるつるしていて、
ちょっと弾力があって舐めていても気持ちいいところを、じゅぷじゅぷと唾液で濯ぎます。
 
■7
 
 途端に、頭の上から聞こえてくるサイトさんの吐息が荒くなりました。わたしの頭に
乗せられた手に、僅かに力が込められます。これ、気持ちいいってことなんでしょう。
 前も……、タルブの村の、わたしの部屋でしたときも喜んでくれていました。
十分すぎるくらい唾液にひたって、無理をしても大丈夫になったのを確認すると、
先端の割れているところに舌を差し入れて、ちろちろとくすぐってみます。
 
「あぁっ……、く、ぁ……!!」
 サイトさんの全身がびりびりと震えました。わたしの頭にかけられた手に、
強く力が込められます。ちょっと、刺激が強すぎるってことでしょうか。
 少しずつ舌の動きを加減して、サイトさんが苦しそうにならない動かし方をみつけていく。
サイトさんの手から力が抜けていくのを感じると、わたしも満たされます。
 
 サイトさんの手から、言葉にはできない細かいサイトさんの気持ちが伝わってきます。
サイトさんにとって気持ちいいことをしたら、サイトさんの手はわたしの頭をそこに
留めようとします。もう少し場所をずらして欲しいと思った時は、そちらの方へ僅かに
力が込められます。強すぎる時は、かすかに拒むように手が震えます。
 
 はっきりと、命令されているわけではありませんけど……、わたしはサイトさんの
望むことをしているんだというのがわかって、胸の奥の熱い物がどんどん膨らむ。
 口の中をサイトさんのものが擦るたび、意識が甘い混濁に沈んでいきます。
 
 わたし、サイトさんに気持ち良くなってもらうために工夫をしています。
でも、だんだんとそんなことを考える余裕が無くなってくる。だって、サイトさんの
固くて熱いものを舌で感じるたび、頬の内側や顎の裏で撫でるたび、
わたしの体の中にも気持ちよさがこみ上げてきて、たまらなくなってしまうから。
 サイトさんに奉仕しているのか、サイトさんのものを使ってわたしが楽しんでいるのか、
わからなくなってきます。
 
 そのうち……、物足りなくなってきました。もっと、奥でも。喉でもサイトさんを感じたい。
うずうずとその衝動が湧き上がってきます。サイトさんの手にも、だんだんとわたしの頭を
腰に近づけるような力が加わっていきます。意識しているのか、していないのか。
幹から根元の方まで、全部でわたしの口を感じたいって思ってくれてるんでしょうか。
 
 少しずつ、少しずつ。サイトさんのものを深く咥えていきます。顎の裏を通り過ぎて
喉の柔らかいところにそれが触れたとき、びくんと体が跳ねました。
わたしの腰にから、痺れるような快感が背筋を駆け上がってきます。
 やっぱり……、喉の奥にサイトさんので触れられるのって、気持ちいい。
 もっと、もっと、強く擦り付けて気持ちよくなってしまいたくなる。
 
「ぐちゅっ、じゅぷっ、ちゅぐっ……、ちゅ、じゅるっ、ちゅるるっ!」
 奉仕とか、そういう言葉も頭の中から吹っ飛んで、わたしは口の中全てを使って
サイトさんのものを扱きはじめました。唇も、舌も、歯茎も、頬も、顎も、喉も、ぜんぶ
サイトさんに良くなってもらうためだけに動かします。
 サイトさんが高ぶってくるのがわかる。わたしも同時に興奮していきます。
わたしの耳に飛び込んでくる声や、わたしの頭にかけられた手や、そしてわたしの
口の中に収められたものに、切羽詰まった雰囲気が感じ取れます。
 
 サイトさんが気持ちよくなってくれている事が、わたしにも気持ちいい。
頭の中がぼやけてきて、口の中どころか、体の内全てがサイトさんで満たされて
しまったような、そんな錯覚に囚われて……。
 ぶるぶるっ、とサイトさんが一際大きく震えた時、わたしは確信を持って
それを待ち受け、期待して口中で先端を吸い上げました。
 
「あっ、ああぁ、シエスタっ……!!」
 悲鳴と言って良いような、切ないサイトさんの声。聞いているだけで、
体の中をぞくぞくした充実感が走り抜けます。そして、それと同時に、
わたしが口の中に含んだものから、それまで感じていた熱さよりももっと熱いものが
堰を切ったように迸りました。
 
■8
 
 それが、舌に当たる。喉に当たる。わたしの中に、吐き出される。
 サイトさんの――精液。
 
 腰がくだけて、へたり込みそうになる。体の中を電流が走り抜けます。
 わたし、サイトさんに口の中に射精されながら……、達して、しまいました。
 
「んっ、んぐっ……、んくっ……」
 喉を鳴らして、口の中に放出されたものを飲み下します。それが喉を通るたびに、
わたしの体がびくびく震えるのがわかる。ただ気持ちいいだけじゃなくて、
わたし自身をサイトさんで染め上げられているような気がして、それも嬉しい。
 
 わたしはすがりつくようにサイトさんの腰に手を回して顔を埋め、飲み下す動きを
止めないでいます。わたしの頭に添えられたサイトさんの手は強ばって、
わたしに離れて欲しいと伝えようとしているのかもしれませんけど……、
もしそうだとしても、止めたくない。もっと続けたい。
 
 やがて、サイトさんの喉から絞り出すような力の抜けた吐息が漏れて、
震えが収まりました。わたしの口の中のものもときどきぴくんぴくんと
小さく跳ねるだけで、吐精を終えたのがわかります。
 
 喉に絡まる粘つく感覚も、口の中を焼く熱さも、少ししょっぱい変わった味も
それ以上得られなくなって、嚥下の運動をしても自分の唾液の味しかしなくなりました。
 そのことに、体も心も”寂しい”って訴えてきます。物足りない、もっと欲しいって。
 
 今度こそ、わたしの頭を退けようと力が込められたサイトさんの手に逆らって、
わたしは再び口中のサイトさん自身に舌を這わせました。
 
「え……、あっ、シエスタ、ちょっと待って、今は……!」
 慌てた声を上げて、腰を逃がそうとするサイトさん。でも、すぐに背中を預けた壁に遮られる。
まるでわたしがサイトさんを襲って壁に追いつめたみたいな変な格好になって、
わたしは再び深くサイトさんのものを飲み込んでから、口全体で擦りながら引き抜きました。
 
 ちゅぽん、という水音を立ててわたしの眼前に飛び出してきたサイトさんのものは、
少し縮んでいます。前よりも楽に喉奥まで迎えられたから、見ないでもわかっていました。
 そのことにも、ちょっとした不満が生まれる。わたしの前では元気でいて欲しい。
 
 顔を横にして少し柔らかくなった根本を唇で挟むと、吸い付きながら先端の方へ
移動しました。先っぽに唇が当たったら、間髪を入れずに再び口を開いて飲み込みます。
 口を離した時より固く大きくなっているのを感じて嬉しくなると、また口の中で濯ぎました。
ほどなくして、サイトさんのものがいちばん張り詰めている状態になります。
 
「く、ふぅ……、はぁ……、シエスタ、もういいから」
 切なそうな、苦しそうな声でわたしに言うサイトさん、途端に、体の奥が冷える。
わたしは慌てて口の中のものを解放すると、サイトさんを見上げました。
 
「え……、よく、なかったですか……?」
「いやその、滅茶苦茶良かったんだけど、その、シエスタの方が大丈夫なのかって」
 わたしが恐る恐る聞くと、サイトさんは顔の前で手を振って、そう言ってくれました。
 良かったというサイトさんの言葉に胸が高鳴ります。もっと良くしてあげたいと思います。
「わたしはサイトさんに喜んで頂けるなら……、どれだけしても、平気です」
 
 そう言うと、サイトさんは顔を真っ赤にしました。わたしの方も凄いことを
言ってしまったことに気付いて慌てて視線を落とすと、サイトさんのものに手を這わせます。
 でも……、今、わたしは自覚しました。口ではサイトさんのためにって言っていますけど、
それは真実の半分くらいで、本当はわたし自身がもっとしたいって思ってることに。
 物欲しそうな、潤んだ目でサイトさんのものを見つめているわたしに気付きました。
 
■9
 
 サイトさんに奉仕したいっていうのを、方便に使っているわたしがいる。
それが急に恥ずかしくなって、浅ましく思えて、後ろめたくなりました。
 でも、目の前のサイトさんから離れることなんて、もちろんできなくて……。
 
「…………サイトさん、わたしのお口、使ってください」
 わたしは、そう呟きました。
「え?」
 きょとんとして眉をひそめるサイトさん。わたしの言葉の意味がわからなかったのでしょう。
 
「サイトさんが喜ぶこと、もっと知りたいんです。サイトさんが一番気持ちいいことを、
わたしに教えて欲しいんです。それに……、サイトさんから、わたしを求めて欲しいんです」
「えっと、それ、どういう……?」
 
 そう説明しても、サイトさんにはわからないみたいです。
わたしの方も、言葉では上手く説明できません。
 だから、わたしは両手をサイトさんの腰から離すと、サイトさんのものを口に咥えて
全身の力を抜きました。
 
 軽く身構えて、次に来るであろうわたしの口の動きに備えるサイトさん。
けど、わたしはそれを舐めたり擦ったりしません。舌でレールを作るようにしてサイトさんの
ものに添えると、そのまま口の中を動かすのを止めました。
 
「ちょっと、シエスタ……!?」
 これでようやく察してくれたのか、困惑した声を上げるサイトさん。わたしは手を上げて
またサイトさんの両手をわたしの頭に導くと、サイトさんを見上げて目だけで微笑みました。
 ――いいですよ、と伝えるために。
 
 サイトさんが息を飲むのがわかりました。わたしは目を瞑って、両手を降ろして地につける。
”お座り”をさせられた飼い犬みたいなポーズで、待ちうけます。
 
「シエスタ……」
 小さく震えたサイトさんの声。その声はわたしを止めるためのものではありません。
本当にそんなことしていいのか、わたしと自分自身に問う声。
 それへの答えの代わりに、わたしはほんの少し、顎を持ち上げました。催促するように。
 
 サイトさんが生唾を飲み込む音が聞こえました。そして、少しだけ腰を引くと……。
 わたしの口へ、ゆっくりと突き入れました。
 
「…………ッ!!」
 体の芯がびくんと震える。こうされたら気持ちいいだろうなと予想はしていたけど、
想像以上の衝撃。”サイトさんが、自分の意思でわたしを求めて、わたしの体を使った”。
 そのことに、一瞬で何もかも忘れてしまうほどの感覚が湧き上がります。
 
 喉の入り口あたりまで、サイトさんがわたしの口中を擦りながら入ってくる。
 そこで、我慢するみたいに止まる。たぶん、わたしを気遣って。
 ゆっくり引き抜かれる。寂しい感じがするけど、そこにわたしの意思は介入しない。
全部、サイトさんの自由。わたしがどうこうして欲しいって要求することはできない。
サイトさんは腰を引きながら、わたしの口の中の色んな所に擦り当ててきます。
 
 サイトさんの気持ちが、意思が、これ以上ないほどにわたしに伝わってくる。
 わたしの口の中をどう感じているのか、どうしたら気持ちいいのか、みんなわかる。
 
 唇が先っぽのところに引っかかって、抜けてしまいそうになりました。
 わたしは軽く吸い付いて、それを引き留める。もっと続けていいですよ、
もっと好きなようにしていいですよという意思を込めて。
 サイトさんは一瞬だけためらった後、一度目より早く強く、わたしの中に入ってきました。
 
■10
 
 ぐちゅっ、とはしたない水音が響いて、わたしの口元から唾液が弾けました。
 わたしの、他の人よりだいぶ多く出てしまう唾液。サイトさんに良くなってもらうために
それを一層多く溜めた口の中に、サイトさんのものが突き入れられます。
 さっきよりも深く、舌の根本まで入ってきた先端。上顎の裏と合わせて
そこを擦ってあげたら、サイトさんは甘い息を漏らして震えました。
 
 これが気持ちいいんですね。そう思って、喉の入り口から奥までを狭めてあげる。
ほら、口の奥の方は、もっと気持ちいいですよ。きつくて、柔らかくて、そこに突き入れたら
きっとすごく幸せですよ。口の中の動きだけで、サイトさんにそう伝える。
 
「あ、ぁ……、ごめん、シエスタ……!」
 何を謝っているんでしょう。サイトさんは泣きそうな声を上げて、わたしの奥の方まで
立ち入ってきました。最初は恐る恐る。でも、そこがすごく気持ちいいってことがわかったら、
今度は少しだけ強く。その次にはもう少しだけ強く。
 サイトさんが、どんどん夢中になっていくのが何より身近にわかる。
止められなくなっているのが体の芯で理解できます。
 
 ――サイトさんが、わたしを使ってる。ううん、犯してる。
 
 たまらない。それだけで達しそうになる。息が詰まりそうになるのも、むせそうになのも、
サイトさんがわたしを貪っているからのことだと思うと、愛おしくてどうしようもなくなる。
 気持ちだけじゃない。口の中を喉の奥まで突かれて擦られるたび、身体の方も
甘く切なく痺れる。腰の奥に熱いものが膨らむ。
 
 嬉しい。気持ちいい。もっと求めて。もっと。
 サイトさんがわたしで楽しんでいるって、もっと教えてください。
 わたし、サイトさんのものです。サイトさんが気持ちよくなるために、ここにいます。
 わたしを使って、幸せになってください。
 
 サイトさんの動きが、奥まで差し入れた状態で喉の上下左右に小刻みに
擦りつけるものになる。一番気持ちいいところで、一番敏感な先端を扱いてる。
 さっきより早いけど、もう限界に近いんだってことが。限界に登り詰めようと
動いてるんだってことがよくわかります。
 
 わたしの喉、良いんですか? こうしたら、もっといいですか?
 喉を締め上げて、左右にぜん動させる。サイトさんのものをすり潰すみたいに。
 サイトさんはさらに吐く息を切なくさせて、そこを味わう動きを強くする。
 わたしの身体を気遣う躊躇いと、我を忘れそうになってしまうほどの衝動の合間で、
恐らく罪悪感に胸を痛ませながらわたしを突いているサイトさん。
 
 ごめんなさい、今、教えてもらいましたから。次からはサイトさんから動かなくても、
わたしが今と同じくらい気持ちよくさせてあげますからね。
 
 だから、最後に……、一番気持ちいい達し方、教えてくださいね。
 
 ぶるっ、とサイトさんが一際大きく震える。喉の奥で弾けそうな程に膨らんだ先端が、
さらに一回り大きくなる。ここで、奥のところで締め付けられたまま果てたいっていう、
サイトさんの無言の意思表示。
 今度は口じゃなくて喉で、それを待ち受ける準備をして……、そして、その時が訪れました。
 
 熱い。
 喉を焼いてしまうような熱い迸り。舌で味わう間も無く喉に注がれたそれを、
わたしは飲み下します。ごくんごくんと喉を震わせるたび、サイトさんの身体が小さく跳ねる。
 ……わたしの身体も、感激に打ち震えます。サイトさんと同時の、絶頂の悦びに。
 愛撫をされたわけでもないのに、愛してもらえたわけでもないのに、二度も達してしまった。
 ううん、タルブの村の時も含めると、三度。
 
 でも、そんなに変じゃないですよね。これって、愛して頂く場所はちょっと違いますけど、
紛れもなく身体を求め合って、愛し合う行為ですから。
 
■11
 
 絶頂の波の中で、とろんと濁った頭で、サイトさんのものから吐き出される精液を
当たり前のように飲んでいました。
 少なくともその最中は、それがどういった意味を持つものなのかも忘れてしまって、
ただ、サイトさんがわたしにくれる、喉に通すたびに幸せな気分になれるご褒美。
それくらいにしか考えていなかったと思います。
 
 だから、吐精が終わってしまって、サイトさんのものが力を失ってしまっても、
寂しい、物足りない、そんな感想しか湧いてきませんでした。
 
 だめ。ちっちゃくなっちゃ駄目。わたしの口の中では、いつも大きくなって、
気持ちよくなってくれてないと許しません。
 また固く張り詰めさせようと、疲れを取るマッサージをするみたいに、根本から順繰りに
優しく舐め上げていきます。もっと頑張って、て気持ちを込めながら。
 
「ちょっと、待って、さすがに……、休ませて」
 サイトさんは降参だとでも言いたげな声を上げてわたしから逃げると、壁に背をつけたまま
その場に座り込んでしまいました。まだ完全には大きくなってないまま口の中からそれが
抜けてしまって、残念に思います。
 
 休ませてってことは、休みをとったら続きを、ってことですか?
 視線に期待を込めて、立て膝を動かしてサイトさんに向き直ります。
 
 ――途端、自分の意思とは関係無しに、腰が震えました。衝動が背筋を走り抜ける。
 スカートの下、何も穿いてないその中からまるでお漏らしでもしてしまったみたいに
太股がぐっしょり濡れて、地面にまでつたっています。
 今までお口に集中してたから隅に追いやられていた感覚。それが、麻酔が切れたみたいに
わたしの中に湧き上がってきます。
 
「サイトさん……」
 掠れた声が自然に喉から漏れ出る。サイトさんも、今、気付きました。立て膝にした
わたしの太股の内側。その上の、短いスカートの中を嫌でも想像させてしまう状態。
 
 もう抑えられない。今すぐ、何もかも、サイトさんに捧げてしまいたい。奪ってもらいたい。
 わたしの全てを、サイトさんのものにして欲しい。そんな感情が一気に膨らみ、溢れる。
 
 わたしは上手く力の入らない脚を無理矢理動かして、よろよろと立ち上がりました。
 また一筋、わたしの足を雫が垂れ落ちる。今度は膝を過ぎて、ふくらはぎまで。
 わたしの姿を呆然と見上げるサイトさん。きっと、サイトさんの方も抑えきれない衝動を
どうしていいのかわからないでいる。だから、わたしに声がかけられない。
 
 まるで夢の中にいるような、自分が自分でなくなってしまったような感覚の中で……、
わたしは、スカートの両端に指をかけました。
 
「サイトさん……、こんな短いスカートで、下着も穿かせないで……。だから、ですよ……?」
 だから、我慢できない。耐えられない。誰のせいなのはわからないけど、この状況だから。
 
 わたしはサイトさんが見つめる中、月明かりを背にして
スカートの裾を摘んだ指をゆっくり持ち上げ――。
 
 
                      ∞ ∞ ∞
 
 
■12
 
「……何だか、すっごく楽しそうなこと、してるわね」
 
 その瞬間、シエスタの背後から聞こえてきた声に、俺は冷や水を浴びせられたように
幻想の中から現実に引き戻された。シエスタもびくっと身を竦ませて、反射的に指を離す。
 俺の方も一気に我に返り、さらけ出したままだった前を無理矢理下着に納め、
自分でも感心してしまうような速さでズボンを直した。
 
 だって、シエスタの後ろの茂みから聞こえてきた声が、俺にとって何より恐ろしい人物の……、
さらに、今までに覚えがないほどの恐ろしい色が込められた声だったから。
 
 がさりと茂みを掻き分ける音が聞こえて、小さな影が現れる。
 ゆっくりと振り向いたシエスタが震え始める。……俺も震えてる。
 月明かりが桃色の髪を照らし出し、その人……、ルイズが、俺に視線を注いだ。
 
「もう一度聞かせてくれないかしら? 今、何て言ったの? 『こんな短いスカートで』?
『下着も穿かせないで』? そんな、素晴らしく愉快な台詞が聞こえた気がするんだけど」
 なぜか不気味なくらい穏やかな声で、ルイズは淡々とそう言った。怖い。逆に怖い。
「え、えーと、あの、その、な? うん、話をしよう、冷静になって……」
 立ち上がって、ずりずりと後ずさりしながらルイズに笑いかける。声、やたら上擦ってるけど。
 
「ミ、ミス・ヴァリエール、どうしてこんなところに……」
 シエスタは俺の代わりに、普通なら最初に抱くだろう疑問を口にしてくれた。
まぁ、今の状況でそれを知って何か改善されるってわけでもないと思うんだけど。
 
「あんたたちが待ち合わせてた火の塔の入り口の樽にね、わたしも入ってたの。
そしたら、出て行く前にあんたたち、二人しでどこかに駆けてっちゃったから。
探したのよ、こぉんな夜中に何か楽しい事するつもりなら混ぜてもらおうかなーって」
 
 最後の言葉は絶対嘘だと思う。
 そして、ルイズが来たのがたった今の今だった不幸中の幸いに神様に感謝。
 仮にもうちょっと早く……、”最中”に見つかっていたら、どんなことになったのか
想像もできない。
 
「それで、そこのメイドの格好は何かしら? とっても素敵な装いね。
その『短いスカートに下着も穿かせない恰好』させて、どんなお遊戯するつもりだったのかしら。
話してくれないかしら? わたしね、あんたの言うとおり、あんたとはじっくり話し合う必要が
あると思うの」
 禍々しいオーラを振りまきながら、台詞だけは穏やかなルイズ。
 でも、その手に青筋が浮かぶくらいに力一杯握りしめた杖、
まだ詠唱もしてないのにバチバチと閃光を弾けさせてるんですが。
 
「あの、あのねルイズ? 話し合いだったら、その杖いらないよね……?」
 俺が最後の抵抗を試みると、ルイズは背筋を縮み上がらせる満面の笑顔で、
「うん、あんたの弁明次第ではこの杖を使わないで済む可能性がゼロでは無いわ」
 そう、言い切った。
 
「――シエスタごめん! 生きてたらまた会おう!」
 次の瞬間、俺はルイズとは逆方向へ駆け出した。無理。もう無理。
今の俺にはせめてシエスタは巻き添えにしないよう逃げることしかできない。
 
「サイトさんっ!」
 背後からシエスタの声。呼び止めてるのか、安否を心配してるのか、よくわからない。
 本当に申し訳ない、あんなことしてもらっちゃったのにお礼のひとつも言ってない。
 
 ついさっきの事を思い出して、こんな状況なのに胸が熱くなった。
 もし、ルイズがあのタイミングで来なかったら、どうなっていただろう。
 ルイズの声が聞こえる直前まで、俺はシエスタのしてくれたこととシエスタの様子に
完全に呑まれてしまって、虜にされてしまっていた。
 あのままだったら――、今度は完全に、シエスタを奪ってしまっていたんじゃないだろうか。
 
 もし、またあんな状況になったら、俺は……。
 
 熱くなった胸が、痛みを感じられるほど締め付けられた直後。
 あたかも天罰を下すがごとく放たれたルイズの『エクスプロージョン』によって、
俺は双月輝く夜空に向かって高らかに舞い上がることになったのだった。
 
 
 つづく
  
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Last-modified: 2008-11-10 (月) 23:00:25 (5638d)

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