X00-36
Last-modified: 2008-11-10 (月) 23:00:49 (5639d)

お久し振りです。
ハルバードです。
拝啓自由な旅人様。
申し訳ありません。
私の言葉が足らなかったせいで大変心配をおかけしました。
あれは、
アイディアが死にかけている状態、と申し上げたかったのです。
そして、自由な旅人様。
いつも読んで、お返事下さり、誠にありがとうございます。
あなた様のお返事を読ませて頂く度に
次の作品を書こうと思えます。
自由な旅人様もどうぞ、お体を大切にして下さい。
それではまた。
〜草々〜。
では、どうぞ他の皆様方もお楽しみ下さい。
つまらなかったらごめんなさい。

[U]〜Lが使い魔〜
L・servant・Life

トリステイン魔法学院のルイズの部屋。
柔らかな朝日が差し込む中壁に寄り掛かって、元世界一の名探偵、Lが
昨夜ルイズから恵んでもらった毛布にくるまり気持ち良さそうに眠っていた。
しばらくすると、壁に寄り掛かって眠っていた為に横に倒れる。
「zzzzz…がっっ?!」
昨日の蜂蜜入り瓶に頭をぶつけ、悶絶する。
「いたたた…。ひどい目に合いました…。」

そしてつい昔のように呼び掛ける。
「ワタリ、糖分が切れそうです。
何か甘いものを…。」
そこまで言って横を向き、Lは思い出した。

彼はもう、二度と自分の呼び掛けには答えない事を。
「……。
いえ…。やっぱり…自分でやる事にします…。」
Lは昨日の残りの蜂蜜を瓶から直接飲み干した。
まるですごく苦いコーヒーを飲んで、口の中に広がる苦みを早く消したいとでも言うように。
そして、毛布をたたんで立ち上がると、
ひょこひょこ歩いて行って隅っこに置く。
それからまたひょこひょこ歩き、ルイズのベットに向かった。
〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜
…なんか。
すごく嫌な視線を感じる。
なんなのかしら…
ストーカー?…まさかね。
私以外この部屋にはいない筈だし…。
しかしいつまでも視線を感じるので、
ルイズは瞼を開いてみる。
「おはようございます。」
Lの顔が至近距離でルイズの顔のすぐ横にあった。
「いやぁああぁあぁ!」
ルイズは飛び起きた。
ルイズはまだ少し寝ぼけてる声で言った。

「ち、ちょっと!なによ!だ、誰よ!あんた!」

Lは無表情で親指の爪噛みながら
「あなたの使い魔ですが。」
飄々と答える。
「…ああ。そうだったっけ…そうよね。あんたが使い魔だったわね…。」
ルイズは少し諦めたような口調で呟く。
それからベットの上で立ったまま欠伸をした。
そしてLに命令を下す。
「服取って。」
Lは立ち上がると、
「わかりました。」
と言って、椅子にかかった制服を摘んで持って来てルイズに渡す。
ルイズはぶすっとして文句を言う。
「あんたね、私の制服をその持ち方すんの
止めてくれない?」
がLはそれには答えずに呼び掛ける。
「ルイズさん。」
「あによ。」
「何時頃に教室へ行くんですか?」
「…食事の後だから…8時半頃には…行かないとだめね。」
「ルイズさん。」
「あによ。しつこいわね。何が言いたいのよ。」
Lは壁に掛けてある時計を指差した。
「?」
ルイズもそっちを見る。
現在8:30。
ルイズは顔をギ、ギ、ギと元の位置に戻すと引きつった顔でLを見つめて言った。
「ま、まさか…。」
「遅刻ですよ。」
Lは飄々とそう言った。

〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜
バタン!とルイズの部屋の扉が開く。
「なんであんたは起こさないのよーーーー!!」
ルイズはLに怒鳴る。
あの後ルイズは自分で全部すごいスピードで準備してきたのだった。
Lは開けっ放しだった扉を閉めると少しムッとして抗議する。
「私は何度も起こしました。なのにルイズさんが」
「私がなによ!」
「起こしたらご飯抜き、とか言ったり。」
「え?」
「平民が貴族に逆らうなー、とか。」
「う゛。」
「他にも色々言われた上に、起きていただけないので
仕方なく、じーっと 見てました。」
「ぐ…。」
ルイズはうーんと考えるポーズをして、
「だったら、叩き起こしなさいよ!
役立たず!」
ルイズが理不尽な怒りをぶつけようとすると、
「ルイズさん。」
Lが口をはさんできた。
「あによ」
「実はまだ7:00です。」
「は?」
ルイズは首をかしげる。
「どういう事よ」
「言った通りです。
すみません。
実はまだ7:00なんです。

「はあ?!じゃあ!あの時計は?!」
「私が進めておきました。
あ、もちろんきちんと戻しておきました。」
ルイズの体と声が、ぶるぶる震え始める。
「へ、へ〜。どうしてそんなおかしな行動したのかしら?
じゃあ何?あんたのせいで私が自分で準備しなきゃいけ無くなったって訳?」
Lはガリガリと爪を噛みながら答えた。
「ギリギリまで寝かしてさしあげて、
さっさと準備させて行くにはこの方法が一番良かったので。」
ルイズははぁ。と溜息をついた。
「あんた頭おかしいんじゃない?

なんでそんなおかしな起こし方すんのよ…。」
ルイズは怒りを通り越して呆れてしまった。
するとすぐ前の部屋から赤髪の女の子が現れた。
Lと大して変わらない身長だ。
もっとも、Lはひどい猫背なのでパッと見その女の子の方が高く見えるのだが。
「おはようルイズ。少しうるさいわよ?」
ルイズは顔をしかめて嫌そうに挨拶を返した。
「おはよう。キュルケ。」
「あなたの使い魔って“それ”?」
ガリガリと爪を噛むLを指差して馬鹿にした口調で言った。
「そうよ」
「あっはっは!
ほんとに人間なのね!
すごいじゃない!」
Lは少しムッとし、爪を噛むのを止めた。

そしてポケットに片手をつっこみ、キュルケに指をさして言った。
「ええ。
“あなたと同じ”人間です。」
キュルケは少し驚いた顔をした。
「あら、じゃああなたもメイジなの?」
「いえ、私はメイジではありませんが、
私が言いたいのはそういう事ではありません」
「あっそ。」
そしてキュルケはもうLに興味を失ったらしく、またルイズを馬鹿にし始めた。
『メイジでなければ人にあらず、と言った所でしょうか。』
「サモン・サーウ゛ァントで平民喚んじゃうなんて、あなたらしいわ。
さすがはゼロのルイズ。」

ルイズの頬に、さっと朱がさした。
「うるさいわね。」
あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。
誰かさんと違って、一発で呪文成功よ」
「あっそ」
「どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよねぇ〜。
フレイム!」
キュルケは勝ち誇った声で己の使い魔を呼んだ。
するとキュルケの部屋から真っ赤なトカゲのような生き物がのっそりと現れた。
Lは目を丸くして見つめて言った。
「これは…。赤いコモドドラゴンですか?」
「おっほっほっ。
あら、あなた火トカゲを見るのは初めて?」
Lはしゃがみこんで興味深そうにじっと観察し始めた。
「はい。このような生き物は初めて見ます…。
…そういえばポケモンでもいましたね。
…ヒトカゲ。」
ルイズが言った。「なによ。ポケモンって。」
「いえ。こちらの話です。」
「ふーん。
キュルケ。これってサラマンダー?」
ルイズが悔しそうに尋ねた。
「そうよー。火トカゲよー。
見て?この尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ?
ブランド物よー。
好事家にみせたら値段なんかつかないわよ?」
「そりゃよかったわね。」
苦々しい声でルイズが言った。
「素敵でしょ。
あたしの属性ピッタリ。」
「あんた火属性だもんね」
「ええ。微熱のキュルケですもの。
ささやかに燃える情熱は微熱。
でも男の子はそれでイチコロなのですわ。
あなたと違ってね。
」キュルケが得意気に胸を張った。ルイズも負けじと張り返す。迫力もボリュームも違いすぎるけど。
Lはそのやり取りには興味が無いらしくフレイムを撫でていた。
キュルケはニッコリと余裕の態度で笑う。
それから思い出したようにLを見つめた。
「あなた、お名前は?」
Lは顔をあげ、不自然なまでに瞳を上に向けて少し考えた後、
「…ライト、とお呼び下さい。」
と言った。
「ライト?変な名前」
「余計なお世話です。」
「そ。じゃあお先に失礼♪」
そう言うと、炎のような赤髪をかきあげ、颯爽とキュルケは去って行った。
ちょこちょこと、サラマンダーが後をついていく。
キュルケがいなくなった後、ルイズが尋ねる。
「あんたLって名前じゃないの?」
「いえ。L‘も’偽名です。」
「…あんたって変な奴ね。」
「そうですか?
普通だと思いますが。」
「あんたが普通だって言うならどんな変態も普通よ。
…それにしても、なんなのよあの女!」
ルイズは地団駄を踏む。
「自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって!
ああもう!
なんで私があんたであの女がサラマンダーなのよ!」
Lはそんなルイズを無視してぼそっと呟く。
「可愛かったですよね。」
ルイズが鬼の形相で詰め寄る。
「はあ?!あの女のどこがかわいいってぇのよ!」
「いえ、サラマンダーの方です。」
Lはまた爪を噛む。
「そ、そう…。」
「ところで」
「なによ。」
「ゼロのルイズや微熱のキュルケとはなんですか」
「あだ名よ」
ルイズは忌々しそうに言った。
「なるほど。あの女の子が微熱という 理由がわかりました。」
「ふん!さっさと食堂に行くわよ!」
ルイズは歩き出した。
が、Lは動かない。
「何してんの?早くしなさいよね!」
「もう一つ聞いてもいいですか?」
「歩きながらでいいでしょ早くしなさい。」
それを聞いてLも歩き始める。
「あの女の子が微熱というのはわかりましたが、あなたは何故ゼロと呼ばれているのですか?」
ルイズはバツが悪そうに言った。
「知らなくていい事よ」
するとLはルイズの胸元を覗きこむように見て、
「なんとなくわかりました。」
うん。と満足げに頷く。
ルイズが無言でLの顔面に強烈な拳を食らわす。
「うぐっ?!」
〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜

Lとルイズが食堂に行くと
Lはその豪華絢爛さに感嘆して息を呑む。
「…すごい豪華ですね。
それにまるでハリーポッターの世界に来たようです。

ルイズが訝し気に聞く。
「ハリーポッターってなによ」
「私の世界で大ヒットしたベストセラーの小説です。」
「ふーん。」

ルイズは真ん中のテーブルに向かっていく。
Lも辺りをきょろきょろ見渡しながら、ルイズの後をひょこひょこついていく。
ルイズは、自分の席の前で止まる。
そしてぼーっとしているLを軽く睨んで、
「ちょっと。
早く椅子をひいてちょうだい。
グズね。」
と腕を組んで言った。
「もう少しオブラートに包んでくれませんか」
Lはそう言いながらも、椅子をひいてやる。
ルイズは礼も言わずに腰掛けた。
Lも隣りの席の椅子をひいて
長い手足を窮屈に折り曲げるようにして座る。
「随分贅沢な料理ですねおいしそうです。」
そして左から視線を感じてルイズの方をちらっと見ると、
ルイズがじっと睨んでいた。
「?なんでしょうか?」
しかしルイズは黙ったまま睨んでいる。
「ルイズさん?」
ルイズは床を指差した。
Lがその方向を見ると、皿が一枚おいてあった。
「…そこに座れと?」
ルイズは無言で頷く。
「…ここまで来て床ですか。」
ルイズは頬杖をついて言った。
「あのね?ほんとは使い魔は外。
あんたは私の特別な計らいで、床。」
〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜

Lは床に蹲り、皿を見つめた。

申し訳程度に小さな肉のかけらが浮いて、皿の縁に硬そうなパンが二切れ、ぽつんとおいてある。
Lはぼそっと呟く。「…使い魔保護団体というのはないのでしょうか。
あれば是非とも訴えてやるんですが」
ルイズ達は、祈りを唱和した後、食べ始めていた。
Lは少し考えた後、ルイズに声をかける。
「すいません。
ジャム分けて頂けませんか。」
「パンにぬるの?
…全く…。」
ルイズは机の上においてある新品の苺ジャムをLに渡してやった。
「ありがとうございます。」
〜数分後〜

「ありがとうございました。
ご馳走さまです。」
とLがジャムの瓶を渡してきた。
ルイズがふとLの皿を見ると、パンは二切れ共あり、ジャムが塗られた形跡はない。
「?あんたパンまだあるじゃない。しかも塗ってないし…。」
するとルイズの脳裏に昨日のLが蜂蜜をペロペロキャンディーにかけて食べていたシーンが浮かぶ。
そして瓶の重さが渡す前と後でまるで違う事に気付く。
蓋を開けて中を見ると、
「か、空っぽ?!」
瓶の中はきれいさっぱり無くなっていた。
ハッとLの顔を見ると口元に苺ジャムがこびりついている。

こいつ直で行きやがったーー!

「あんたその内死ぬわよ?!」

「大丈夫です。
いつもの半分ですから。」

いつもは2倍?!

ルイズの口は数秒間開けっ放しだった。

〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜
ルイズにとって衝撃の食事の後、
ルイズとLは教室に向かう。
二人が教室に入る と先に来ていた生徒達が
一斉に二人を見て、くすくす笑い出す。
ルイズとLは一番上の机に向かう。
そこが彼女のいつも座る席のようだった。
Lもルイズの隣りの席に蹲るように座る。
周りを見渡すと、皆様々な使い魔を連れていた。
バジリスクやバグベアー。
スキュアや先程のキュルケのサラマンダー等。
Lが自分の世界では架空の生き物だった物を夢中で見ていると、
また視線を感じる。右を向くとルイズがまた睨んでいる。
いい加減理解してくれない?というような目で。
「ここはね、メイジの席。
使い魔は座っちゃダメ。」
「私に人権はないのでしょうか。」
「無いわね。」
が、椅子からおり て床に座るとなると、
Lの体では狭過ぎて座れなかった。
仕方なく再び椅子に座ると今度はルイズも何も言わなかった。
しばらくすると中年のおばさんが入ってきた。
「あの人は使い魔を連れていませんね。」
Lが小声で聞く。
「待機中なんでしょ。」
ルイズも小声で返す。
彼女は教室を見渡すと、満足そうに微笑んで言った。
「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。
このシュブルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ。」
ルイズはLの方をちらっと見て俯く。
「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。
ミス・ウ゛ァリエール」
シュブルーズがLの方を見てとぼけたような声で言うと、
教室がどっと笑いに包まれた。
「ゼロのルイズ!
召喚出来ないからって、その辺歩いてた平民を連れてくるなよ!」
ルイズが立ち上がって可愛らしい澄んだ声で怒鳴る。
「違うわ!きちんと召喚したもの!
こいつが来ちゃっただけよ!」
「嘘つくな!サモン・サーウ゛ァントが出来なかったんだろう?」
げらげらと教室中の生徒が笑う。
「ミセス・シュブルーズ!侮辱されました!
かぜっぴきのマリコルヌが私を侮辱したわ!」
握り締めた拳で机を叩く。
「かぜっぴきだって?
僕は風上のマリコルヌだ!風邪なんか引いてないぞ!」
「あんたのがらがら声はまるで風邪でも引いてるみたいなのよ!」
Lは真っ直ぐ黒板の方を見たまま、ルイズの袖をくいくいと引っ張る。
「なによ!」
「ルイズさん。
いちいち馬鹿にされる度に騒ぐのは止めてくれませんか?
もう子供ではないのですから。
少しは大人になって下さい。
見ていて見苦しい事この上ないです。」

教室が爆笑の渦に包まれた。
ルイズの顔が怒りと羞恥で真っ赤になる。
「二人共。
ミス・ウ゛ァリエールの使い魔さんの言う通りですよ。
みっともない口論はおやめなさい。」
ルイズはシュブルーズの注意で、さっきまで見せていた生意気な態度が吹っ飛んでいた。
「ミセス・シュブルーズ。
僕のかぜっぴきはただの中傷ですが、
ルイズのゼロは事実です。」
くすくす笑いがもれる。
ミセス・シュブルーズの目が一瞬だけ、鷹の目になる。
次の瞬間くすくす笑ってた生徒の口に赤土の粘土が現れ、ぴたっと押しつけられる。
「あなた達は、そのまま授業を受けなさい」
くすくす笑いが治まる。
「私の二つ名は「赤土」。
赤土のシュブルーズです。
土系統の魔法を、これから一年、皆さんに講義します。
それでは授業を始めます。
魔法の四大系統はご存じですね?
ミスタ・マリコルヌ」
「は、はい!火・水・土・風の四つです!」
「その通り。
今は失われた系統魔法、虚無を合わせて…」

その後もシュブルーズの講義は続いた。
その間Lは、目線こそ真っ直ぐ黒板の方を向いているが、
心ここにあらずと言った感じで、まるで何か計画を考えているようだった。
いつものように猫背で爪を噛み、蹲るような座り方で。

〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜

授業後、ルイズとLは廊下を歩いていた。
あの後ルイズが当てられ、錬金の魔法を使い失敗し、爆発。
その後の掃除を命ぜられたのだった。
もちろん全てLがやった。

ガラスを運んだのも、雑巾でふいたのも。
ルイズはただつまんなそうに見ているだけだった。
でもLは別に、命令でやった訳ではなかった。
ただ、ルイズに同情したから。
彼女は今までどれだけ馬鹿にされたのだろう。
《魔法が使えない事はこの世界では致命的だ》
という事はこの世界に来たばかりのLでも理解出来た。
なまじプライドが高いだけに、相当苦労したのだろう。
Lはそう考えたのだった。

ルイズの拳は歩きながら時折震えていた。
「ルイズさん。
元気出して下さい。」
Lが気遣って声をかけると、ルイズが振り向いた。
ルイズの眉がひくひくと動いていた。
泣いていたんじゃなく、怒っていた。
「だだだ…誰のせいで元気無くしたと思ってるのかしらぁ?」
「へ?」
「あんたのせいで余計に笑われたじゃないのーーー!」
ルイズの鉄拳がLのボディに深く突き刺さった。
「ぐうぇっ……」
『そ、そっちでしたか…。』
〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜
食堂につくと、Lはルイズの椅子をひいてやる。
『これ以上怒らせたら命に関わりますし。』
そして床に座り大人しく食べようとする。

「あ、ジャム二瓶程頂いてもよろしいでしょうか?」
これが命取りだった。
「…あのね。
あんたのせいで、あたしまで変に見られるのよ!」
「やばいです…。地雷を踏んでしまったようです…。」
「今日あんたが要求したジャムの数だけおやつ抜き!
これ絶対!
例外なし!」

「え゛えーー?!」
Lにとってのおやつ抜きは、
丸一日ご飯抜きと同義だった。
「あ、後ご飯も抜き。」
Lはみっともないぐらいに取り乱す。
「お、お願いします!それだけは!それだけは勘弁して下さい!」
ルイズにすがりつく。
ルイズが勝ち誇った声で言った。
「ダメ。ぜぇーったいダメ。」
「そ、そんな!」
〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜
「お腹空きました…。それからルイズさん酷いです…。」
Lは廊下で蹲る。
いつもなら不自然な座り方も今はおかしくなかった。
「どうなさいました?」
Lが顔をあげると、大きい銀のトレイを持ち、
メイドの格好をした素朴な感じの少女が心配そうに見つめていた。
しかしLには一瞬だけ、違う人間に見えた。
「…ワタリ?」
「え?ワタリ?
あ、あの。誰かと間違えていませんか?」
Lはハッと我に帰る。
「すみません。
感じが似ていたので間違えてしまいました。」
「そうですか。
あら?
あなたって…。
もしかして、ミス・ウ゛ァリエールの使い魔になった?」
「私の事をご存じなんですか?」
「ええ。なんでもパッと見変態…」
そこまで言ってものすごく失礼な事に気付く。
「へ、変態…ですか…。」
さすがのLもちょっぴり傷つく。
「ご、ごめんなさい!つい、うっかり!」
「いえ、最近よく言われますから。」

ぐるるるる

Lのお腹が食べ物要求のラブコールが鳴る。
「お腹空いてるんですね」
「後、甘い物が必要です」
「そうですか。
じゃあ、こちらにいらして下さい。
お詫びも兼ねてご馳走しますわ。」
〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜
Lは昨日蜂蜜をもらいに来た厨房に再び足を踏み入れていた。
「ちょっと待ってて下さい。」
メイドは隅っこの椅子にLを座らせると、
暖かそうなクリームシチューを持って来た。
「賄い食ですけど…。」
目の前に置かれたシチューを見て、あの日の事がフラッシュバックする。
十一年前の、Lが八歳の時。
LがLとして、この世に現れた時に手掛けた最初の事件、
“ウィンチェスター爆弾魔事件”。
第三次世界大戦になりかけたその事件を終え、
ワタリと暮らし始めた晩…。

未来ワイミーズハウスとなる家のリビング。
八歳のLは行儀良く座っている。
するとエプロン姿のワタリが鍋を持って来た。
「L。シチューが出来ました。」
その頃のLはまだ猫背ではないし、 目に隈もなく、目も死んでなんかいなかった。
Lは無邪気に微笑んで
「ありがとう。ワタリ」
と言う。
ワタリは、どこまでも優しい目をして言った。
「まだたくさんありますから、いくらおかわりをして頂いても結構ですよ…。」

「…あの?どうかなさいましたか?」
Lがぼーっとして動かなくなったのをメイドの少女が心配そうに見つめて言った。
Lは淋しそうに言葉を返す。
「いえ…。なんでもありません。
あなたは優しい人ですね。」
「そんな…。
あ、冷めちゃいますから早く食べた方がいいですよ?」
そう言って、勧める。
「ありがとうございます。いただきます。」
Lはスプーンのお尻の方を持ち、危なっかしく食べ始める。
「あの。変わった食べ方をされますね」
「そうですか?」
もぐもぐもぐもぐ
「そういえばまだお名前聞いてませんでしたよね?
私シエスタっていいます。」
「いい名前ですね。
私の世界ではスペイン語で“一休み”という意味です。」
Lはおいしそうにシチューを啜る。
「へぇー。そうなんですか。」
もぐもぐもぐもぐ
「私の事はライトとお呼び下さい。」
「わかりました。ライトさん。」
シエスタはにっこりと笑う。
Lもつられて微笑む。
もぐもぐ。
「あなたも魔法使いですか?」
出し抜けにLが尋ねる。」
「いえ。
私は違います。
あなたと同じあなたと同じ平民です。
貴族の方々をお世話する為にここで御奉仕させて頂いているんです。」
「そうですか。
すいません。
おかわりをもらってもいいですか」
Lは空になった皿を出す。
図々しい事この上ない。
なのに、シエスタは嫌な顔一つせず
「いいですよ。
たくさんありますから。」
と言ってにっこり笑う。
Lは数秒後におかわりをもらって、また食べ始める。

「ご飯貰えなかったんですか?」
「はい。
ジャム二瓶程頂いてもよろしいでしょうか?と聞いたら
おやつとご飯抜きにされました。」
「?ジャムで?」
シエスタは首を傾げる。
「はいジャムで、です。」
「変わった方ですねー。ミス・ウ゛ァリエールって。」

もぐもぐ…。ごくん。
「そういえばさっき私の事をワタリって呼びましたよね?
どんな人なんですか?」
Lは無表情に答えた。
「私の…父のような人でした。
ですが、」
「私のせいで殺されましたが。」
「あ、ごめんなさい。
聞いたらまずかったですね…。」
「いえ構いません。
ご馳走さまでした。」
Lは頭を下げる。
「ありがとうございました。
この恩は忘れません。
何か手伝える事がありましたら言って下さい。」
シエスタは人差し指を口にあて、うーん 、と考えた後、
「なら、デザートを運ぶのを手伝って下さいな。
少し分けて差し上げますから」
シエスタは微笑んで言った。
「はい。
わかりました。」
Lもにこっと微笑んで言った。

数分後、Lはシエスタと一緒にデザートを運んでいた。
Lはケーキの乗った銀のトレイを持って、
シエスタがはさみでケーキを摘み配っていく。
しばらく配っていくと、
真紅の薔薇を胸に挿した気障なメイジがいた。

〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜

「なあ、ギーシュ!
お前、今は誰と付き合っているんだよ!」
「誰が恋人なんだ?ギーシュ!」
彼はすっと唇の前に指を立てた。
「付き合う?
僕にそのような特定の女性はいないのだ。
薔薇は多くの人を楽しませる為に咲くのだからね。」
Lは最初、彼の事等気にしていなかった。
そして次の所に配りに行こうとしていた。
だから本当なら彼達の縁はそれで終わる筈だった。
彼達の運命をねじ曲げたのはギーシュが落とした一瓶の香水だった。
Lはギーシュのポケットから小瓶を落としたのを見た。
Lはシエスタにケーキを持ってもらい、親切心からギーシュに声をかける。
「あの。
すいません。落としましたよ?」
小瓶を摘むように持ってギーシュに見せる。ギーシュはちらっと見ると無視して友達と話し始める。
「ギーシュさん?落とされたのを見ましたよ?」
ギーシュは苦々しそうに見てとぼけた。
「これは僕のじゃない。
君は何を言ってるんだね?」
すると友人達が
騒ぎ始める。
「ギーシュ!お前モンモランシーと付き合ってるんだな?!
その香水は彼女が自分の為だけに造っている奴じゃないか!」
「違う。
いいかい?彼女の名誉の為に言って置くが……」

すると、後ろに座っていた茶色のマントを着た少女が立上がり、
「ギーシュ様…」
そしてぽろぽろと涙を流す。
「やはり、ミス・モンモランシーと……」
「彼達は誤解しているんだ。
ケティ。いいかい?僕の心の中に住んでいるのは君だぶへっ?!」
ケティと呼ばれた少女が渾身の力でギーシュの頬をひっぱたく。

「その香水があなたのポケットから出て来たのが何よりの証拠ですわ!
信じてたのに!
酷いですわ!」
ケティは泣きながら走って食堂を出て行った。
そして、遠くで金髪の巻き毛の少女が立上がる。
Lはその少女に見覚えがあった。
『あの子は確か…
私がこの世界に来たばかりの時にルイズさんを馬鹿にしてたモンモランシーさんですね。』

鬼神のごとき形相で、つかつかつかと
歩いてきた。
「やっぱりあの一年生に手を出してたのね…!」
「お願いだよ!モンモランシー!咲き誇るばゃびゃびゅ」
モンモランシーは、テーブルに置いてあったワインの瓶をギーシュの頭の上からかけた。
「嘘つき!」
と怒鳴って去って行く。
ギーシュはハンカチを取り出すとゆっくりと顔を拭いた。
そして首を振る。
「あのレディ達は、薔薇の存在の意味を理解していないようだ。」
Lは親指の爪を噛んで見守っていた。
「君。」
「なんでしょうか?」
ギーシュは椅子に腰掛け、すさっ!と足を組む。
その行動を見て、つい素直な感想が出る。
「その足の組み方ダサいですよ。」
ギーシュの頬に朱がさす。
するとギーシュの友人達がひそひそと喋る。
「あーあ。言っちゃったよ…」
「おい止めてやれよ。
本人格好いいと思ってやってるんだからさ〜。」

「でも言えてるよな。」
「馬鹿っ!しっ。」
ギーシュは友人達の方を見て引きつった口元をぴくぴくいわす。
「君ら後で絶対しばくから。」

そしてLに向き直り、
「君が軽率に、香水の瓶を拾い上げたせいで、二人のレディの名誉が傷ついた。
どうしてくれるんだね?」
『とりあえず謝った方がいいですね』
「すいません。

Lの悪びれないような謝り方に
ギーシュがキレた。
さっき自分がかけられたワインの瓶を取ると、
Lに向かって思いっ切り投げ付けた。
「うわぁあ!!」
が、Lには当たらずにシエスタに命中してしまう。
ガシャーン!
シエスタが仰向けに倒れると同時に、
持っていた銀のトレイとケーキが落ちて悲惨な事になる。

「シエスタ、さん…?」

Lはまるで、落としてしまった高い壺が割れてないかどうかを確かめるかのように
シエスタに近寄る。

すると彼女の頭からつーっと血が流れる。
Lは目を見開いてシエスタを見つめる。
Lは無表情ではあるが、その目には確かに悲しみがあった。
「すみません。
シエスタさん。私のせいで…。」

Lはシエスタを抱え上げて、抱き締める。

すると、
「ハッ。」
ギーシュが鼻で笑った。
「平民が死んだくらいで、何を動揺しているんだね?
まぁ、運が悪かった…としか言い様が無いね。」
Lはすっく、と立上がり、
独り言のように呟いた。

「…謝って下さい。」

「謝る?ふんっ。
生憎平民に下げる頭はないよ!」

「シエスタさんに謝って下さい」

「そんなに大事なら君が盾になってやれば良かったじゃないか。
臆病者。」

「謝れつってんです!!」

Lは怒気を十分に含ませた声で怒鳴った。

「なんの関係も無い人を傷つけておいて、
下げる頭はない?!
ふざけないで下さい!
シエスタさんに土下座して下さい!
命に平民も貴族もあるものですか!
あんまり命を馬鹿にしないで下さい!」

それは、数え切れない事件を解決する中でたくさんの、
救われなかった命、
守り切る事が出来なかった命、
苦労して、一生懸命生まれてきた命を見てきたLだからこそ、
叫ばずにはいられない事だった。

いまや食堂にいる全員が皆二人に注目していた。
やがて担架が運ばれて来て、シエスタを運んで行った。
ギーシュはLを睨み付けながら言った。
「…よーし、いいだろう。
貴族にそこまで言うんだ。
覚悟は出来てるんだろうな?」

「望むところです。」
Lもギーシュを睨み返す。
「決闘だ!」
そう言ってギーシュはくるりと背を向ける。

「ウ゛ェストリの広場で待っている。
逃げるなよ…。」

そう言って、ギーシュは食堂を出て行った。

「あんたね!何勝手な事してんのよ!」
ルイズが走ってきてLに近寄る。
「ルイズさん。ウ゛ェストリの広場ってどこですか?」
ルイズは溜息をついて、やれやれと肩をすくめた。
「謝っちゃいなさいよ」
「何故ですか!」
「死にたくないなら、謝ってきなさい。
まだ許してくれるかもしれないわ。」

「あの人に謝るぐらいなら死んだ方がマシです。」
「いいから。
いい?一ついい事教えてあげる。
メイジには平民は、絶対勝てないの!
あんたどうしても生きて帰らなきゃいけないんでしょ?
やる事があるんでしょ?」

「…ルイズさん。」
「なによ。」
「私は、彼女に助けてもらいました。
それなのに!彼女は何も悪くないのに!
あいつに…。」
「大人になりなさいよ!
あんたもさっきの授業で私に言ったじゃない!
大人になってくれって!」

「ルイズさん。」
「何よ。」
「昔の私なら、あいつが間違った事が許せないと、私の正義に反すると、怒ったでしょう。
でも、今はそれだけじゃないんです。」
「……。」
「今まで誰か個人の為だけに戦おうとは思わなかったのに。」
「知らないわよ?」
「はい。
私の正義とシエスタさんの敵を討つ為に、」

「この勝負、降りる訳には行きません!」
〜終〜

続くかも?

いかがでしたでしょうか?
御意見、御感想、随時お待ち申し上げております。


URL B I U SIZE Black Maroon Green Olive Navy Purple Teal Gray Silver Red Lime Yellow Blue Fuchsia Aqua White
トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2008-11-10 (月) 23:00:49 (5639d)

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル