X00-58
Last-modified: 2012-07-13 (金) 13:07:07 (4299d)
※注意※
・本作は18禁です。
・パラレルものであり、設定なども原作と大分(というよりほぼ別物)異なります。
・一部キャラ崩壊等もあります。
上記要素を多分に含んでも問題ないという方は、このまま読み進めてください。
拙いできですが、読んでいただければ幸いです。
プロローグ:捕虜
ハルケギニア大陸にある王政国家、トリステイン王国。
トリステイン王家に統治される小国は今、戦乱の渦中にあった。
それは当初、これまで起きた暴動や反乱と同じく、すぐに鎮圧するものと思われていた。しかし、圧倒的な力に酔う支配者の驕りからか、あるいは弱き反逆者たちの死に物狂いの抵抗からか、地方の小さな暴動に端を発した反乱は、いまや内戦と呼ぶべきものへと発展していた。
内戦の拡大と長期化は、すなわち国力や統治力の低下、ひいては他国に付け入る隙を与える――事態を重く見た王室は、大軍を集めて反乱軍との決戦に挑んだ。
草原で激突する2つの軍勢。
方や王家の紋章が描かれた旗を翻し、立派な武具で身を固めた統一感のある煌びやかな軍勢。
方や寄せ集めの武具で身を固めた統一感の欠片もない、いかにも雑多な集団という表現がふさわしい軍勢。
戦場で衝突していたのは、トリステイン王国の正規軍と反乱軍。
戦いは、数と質で勝る正規軍による圧倒的な勝利で終わると予想された。しかし、いざ戦端を開くと正規軍が優位になっていたのは、最初の内だけ。気がつけば、戦況は反乱軍が大きく優位に立っていた。
それもこれも、すべてはその少年1人のせいだった。
この大陸にあっては珍しい黒い色の髪を少年。
王国の支配層たちからは「メイジ殺し」「王家最大の敵」という名で激しい敵意と共に恐れられ、被支配層からは「解放者」「人民の英雄」という名でこれ以上無いほどの尊敬と期待を集めている反乱軍の指導者。
名を、サイト・ヒラガという。
「よし、敵は陣形を崩し始めた! 一気に蹴散らすぞ!」
身の丈ほどある大剣を両手で握り、先陣を駆け抜けるサイトの声に付き従う兵士たちは雄たけびを挙げる。
そうだ、メイジがなんだ。魔法がなんだ。王国軍がなんだ――
俺たちには彼がいる。解放者が。人民の英雄が――
恐れる必要なんかない! 俺たちは勝てる! 勝てるんだ!――
大気を振るわせんとするほどの怒声と共に反乱の戦士たちは先頭を征く、若き英雄に続いた。
戦場からやや離れた場所に布かれた王国軍の野営地。
司令部として使われているテントに伝令の兵士が駆け込む。
「失礼いたします!」
兵士はテントの中に入ると、ソファ――まるで宮殿にあったものを持ち込んできたのではないのか、と疑いたくなるような豪華な――に腰を下ろし、頬杖をついている将軍の前まで赴き、その場に跪いた。
――もっとも、将軍といっても伝令の兵士よりははるかに若い。いや、若いどころか幼いといってもよい。年齢的にも反乱軍の首領と同じぐらいで少女といっても差し支えない。
ウェーブのかかったピンク色の長い髪。
王国の支配者や兵士たちからは「軍神」「戦乙女」という名で尊敬と羨望を一身に集め、反乱軍からは「殺戮姫」「最凶のメイジ」という名で激しい敵意と憎悪、そしてそれらを上回る恐怖を抱かれている王国軍の将軍。
名を、ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールという。
「あら、何事かしら? もう、あの生意気な犬どもを皆殺しにできたのかしら?」
兵士は答えた。
「前線より報告! 敵軍の先鋒にあのメイジ殺し――サイト・ヒラガの姿を認める! サイト・ヒラガに率いられた敵は思いのほか手ごわく、我が方は苦戦を強いられているとの由にございます!」
サイト・ヒラガ――その言葉にテント内にいたルイズ将軍の参謀や幕僚たちは一様にざわめいた。
「サイト・ヒラガ――あのメイジ殺しの…!」
「まずいな、これは…」
「最悪、一時後退という事態も…」
動揺する参謀たちに対し、ルイズはまったく動じず、ただため息だけついた。
「もう、何よ。トリステイン王国の誉れ高き将兵が、群のボスが出てきたぐらいでオドオドしないでよ。みっともないじゃない」
自分たちよりはるかに若い将軍の言葉に参謀たちは口ごもる。
「し、しかし、将軍…相手は、あのメイジ殺しの…」
「ええ、知ってるわよ。何しろ、王家最大の敵なんていう身分不相応な二つ名を持っているほどの剣士よ。かなり強いでしょうね」
「なら、ご存知でしょう。今まであの男と戦い、敗れ去った将軍は大勢おります。ここで判断を誤れば――」
そう言いかけた矢先、ルイズはおもむろに席を立つとテントの出入り口に向けて歩いていった。
「将軍、どちらへ?」
「ちょっと教育してくるわ」
言って懐から愛用の杖を取り出す。
それを見て参謀たちは、将軍が何をしようとしているのか悟り、焦りを覚える。
「将軍、危険です! 何も戦場の真っ只中に赴かずとも――」
「司令部で報告を待ったり、地図を睨むのにも飽きてたところなの。たまには体を動かさないとね」
そういうなり、ルイズは杖を振るい、空へと舞い上がった。
戦いは、反乱軍が優勢になっていた。王国軍は、敵の思わぬ反撃に狼狽し、指揮系統も混乱しつつあった。
「よし、行けるぞ! このまま勢いに任せて敵陣を食い荒らすぞ!」
勢いづく戦士たち。なおも前進を続けようとしたその時、後方から爆発音が轟いた。
「なんだ!?」
サイトは何事かと振り返る。視界に映ったのは、巨大な爆発と共にえぐれた地面と立ち上る黒煙、そして無残な姿になった反乱軍の戦士たち。
虚を突かれた攻撃に先ほどまでの勢いは削がれる。そして爆発が起きたという事実は、戦士たちに動揺を広めさせた。
「爆発の魔法…あいつしかいない!」
ハルケギニア広しと言えど、爆発する魔法を使うメイジは1人しかいない。
殺戮姫。最凶のメイジ。
「――ルイズ・フランソワーズ!」
その名を口にすると共にサイトは空を見上げた。
その視線の先に殺戮姫――ルイズは佇んでいた。
ルイズは杖を振るい、サイトの前に着地する。
「大将が自ら前線で戦うなんて、まるで野党ね――まあ、おかげでこっちも手間が省けたんだけど」
不敵な笑みを浮かべるルイズ。対するサイトは剣を構え、その切っ先を眼前の殺戮姫に向ける。
「手間が省けただぁ? それはこっちのセリフだ! 大将の――それも軍神なんて祭り上げられてるお前を討ち取れば、王室とて弱気になるだろう!」
それを聞き、ルイズは盛大に笑った。
「あっはっはっはっは!」
「何がおかしい!」
激昂するサイト。ルイズは続ける。
「やっぱり駄犬の考える事は浅はかね! 私を討てば王室が弱気になって交渉が優位に進むとか、もうドラゴンの皮算用もいいところね! そもそも私を討ち取れるかどうかも怪しいって言うのに! ちゃんちゃらおかしいわ! これが笑わずにはいられるかしら!」
「このくそ女ッ――ほざけ!」
地面を蹴り、前に踏み出すサイト。
直後、ルイズは杖を振るった。
「身の程知らずの駄犬が! 躾けてあげるわ!」
杖の先端が激しく光る。
瞬間、サイトの意識は途切れた。
目が覚めた時、サイトは床に突っ伏していた。
(ここは…?)
ぼんやりとした意識の中、顔を上げて辺りを見回す。
硬い木の床に木の壁。そして採光用の小さな窓――否、正確には鉄格子。
一瞬、牢屋の中だと思ったが、床が激しく揺れており、外からも馬の蹄の音やいななきが聞こえてくる。
どうやらここは、罪人護送用の馬車の中らしい。
(くそ、捕まったのか、俺は…)
起き上がろうと両手両足を動かした時、サイトは異変に気づいた。
両腕は後ろに回され、手錠で繋がれている。足も同様に鎖でつながれ、歩く程度ならともかく走ることはできそうになかった。首にも皮製の首枷がはめられているようだ。
だが、問題はそこではなかった。手錠や足枷など虜囚の身であれば当然、つけられて当然だ。
サイトの身に起きている最大の異常――それは、全裸という事だった。
(なッ…裸…全裸じゃねぇか! くそ、何のつもりだ!)
羞恥心が一気にこみ上げ、顔が紅潮する。幸い、囚人護送用の馬車であったため、外から見られる心配は無かった。それが唯一の救いといったところだ。
(くそ、なに考えてやがるんだ…)
サイトはとりあえず上体を起こし、ついで立ち上がると鉄格子に歩み寄って外を見た。
どうやら馬車は街道を走っているようだが、それ以上の事は分からなかった。
(どこへ連れて行くんだ…?)
腰を下ろし、背中を壁に預けるとサイトは思考を巡らせた。
自分は反乱軍の指導者。当然、身柄を拘束されれば、待っているのは死罪だ。恐らく、見せしめとして公開処刑にでもするだろう。だが、それでは全裸にする理由が分からない。
(ほんと、俺をどうするつもりなんだ…くそッ!)
苛立つサイトは、思わず後頭部を壁に打ち付ける。
今すぐにでも知りたいことは他にもあった。あの戦いからどれだけの時間が経過したのか。あの戦いの後、自分のいない反乱軍はどうなっているのか。
不安ばかりが募っていく。
やがて馬車は、目的地に着いたのか停車した。間もなくしてドアの施錠を外す音がし、ドアが開く。
「出ろ」
甲冑を身にまとう兵士がサイトに命じる。
首輪と枷以外は何も身につけていないという全裸以上に羞恥心を掻き立てさせられる格好をしているサイトは、その命令にたじろいだ。
「お、おい、せめて上着ぐらいは…」
「いいから降りろ、ヴァリエール将軍がお待ちだ!」
言って兵士はサイトの身体を掴み、馬車から乱暴に引きずり出す。
外にいる他の兵士たちの視線を気にしつつ、サイトは歩いていく。
自分が連れてこられたのは、城だった。それも城砦といった無骨な軍事用のそれではなく、王宮や屋敷を思わせる立派な城だ。
「ちょっと待て、どこだよここ! それにこの格好のまま、中に入るのかよ!?」
わめくサイト。だが、兵士たちは沈黙を保ったままだ。
これだけの城だ。中には当然、使用人が大勢いるはずだ。これ以上、今のこの姿を見られたくはない。
しかし、兵士たちは問答無用でサイトを歩かせ、城内に入っていく。
王宮を思わせる立派な外観と同様、中も豪華な作りになっていた。床は赤色の毛深い絨毯に覆われ、天井からは金色に輝く煌びやかなシャンデリアがいくつも吊り下げられている。
そして案の定、使用人――メイドたちもいた。
事前にこの事を伝えられていたのか、全裸で歩かされている男を見ても悲鳴をあげるものはいなかった。ただ、まるで汚物を見るかのような眼差しを向けては、近くにいる同僚たちと小声で会話を交わしていた。
「ねえ、あれが例の、反乱軍の?」
「やだ、本当に全裸よ。信じられないわ」
「英雄もああなったらお終いねぇ」
「姫様は何をお考えなのかしらね」
あちこちから聞こえてくる、せせら笑いも含んだメイドたちの話し声。メイドたちの冷たい目線から逃れようと、サイトは顔をうつむかせる。
(くそッ…最悪だ! いっその事、殺してくれ!)
心の中で絶叫する。
間もなくしてサイトは、その部屋の前に到着する。兵士の1人が両開きの扉の前に立ち、軽くノックする。
「ヴァリエール将軍、お連れしました」
「ご苦労、入りなさい」
扉の向こうから聞こえてくる、聞き覚えのある声にサイトは歯軋りする。羞恥心が強すぎたが故に忘れかけていた感情――敵意、憎悪、殺意――が一気にこみ上げてくる。
扉が開き、一行は室内に入る。
広々とした部屋の中で声の主――ルイズは、天蓋のついたキングサイズのベッドの上で寝転がりながら読書にふけっていた。
「やっと着いたわね」
言ってルイズは読んでいた本を閉じ、ベッドから起き上がってサイトに歩み寄る。
将軍が歩み寄るのを見て兵士たちはサイトをその場に跪かせる。
ほぼ全裸に近い格好をさせられているサイトを見下ろし、ルイズは口元をゆがめた。
「やっぱり、思ったとおりね。なかなか犬らしい格好でお似合いよ」
その言葉にサイトは顔を上げ、ルイズを睨みつける。その眼光は鋭く、火傷しそうなほどの激しい憤怒がこもっていたが、当のルイズはどこ吹く風といわんばかりに動じなかった。
「野良犬のくせに…いえ、野良犬だからでしょうね。ずいぶんと反抗的な目つきをしてるじゃない。まあ、そうでなければ興が冷めるというものね」
「てめ――ルイズ! 答えろ、いったい何のつもりだ!」
「何のつもりって、何が?」
「とぼけんな! 俺をこんな格好にして、こんなところに連れてきて! ここはどこだ! 俺をどうするつもりだ! 殺すならさっさと殺せ!」
怒声を張り上げるサイトにルイズは「やれやれ」と言いたげな呆れ返った表情を浮かべる。
「まったく、キャンキャンうるさい犬ね。まあ、いいわ。とりあえず、自分がいまどういう状況に置かれているか教えてあげるわ」
ルイズはサイトにあの後――意識が途切れた後の事を洗いざらい説明した。
あの戦いでルイズの爆発魔法を受けたサイトは気絶し、それから丸1日ほど意識を失っていた。
反乱軍はといえば、サイトが倒された事と殺戮姫の出陣とあって浮き足立ち、統制が取れなくなったところをルイズの魔法と勢いを盛り返した正規軍の反撃を受けて壊走した。
そして戦場で意識を失っていたサイトは捕虜として捕らえられ、今に至る。
「――とまあ、こんなところかしら。納得したかしら?」
「まだだ。まだ聞きたい事がある。なんで俺を捕らえ、あまつさえこんな格好をさせているんだ。殺すならさっさと殺せ」
「ええ、殺そうかと思ったわ。一応、王宮からの命令でもそうなっているし」
「なら――」
さっさとそうしろ、と言いかけたところでその言葉をさえぎるようにルイズが続けた。
「でも、それじゃつまらないわ」
「つまらない、だと?」
サイトは眉間にしわを寄せる。
「ええ、つまらないわ。なんだかんだ言ってあんたは、平民たちから英雄視されてるもの。それを処刑しても、逆に『英雄の弔い合戦だ』なんて言い出してまた反乱を起こすかも知れないじゃない。そこで私も考えたわ。殺すのではなく、堕とせばいいってね」
「お、堕とすだって?」
「ええ、そうよ。あんたを『人間』から『犬』に堕とすのよ。それも、自分から尻尾を振って昨日までの敵に媚を売り、どんな命令にも素直に従う『犬』にね。そうなれば、誰もあんたを英雄だなんて呼ばなくなる。あんたをその格好にさせたのも、その手始め。『犬』は『人間』みたいに服を着ないでしょ?」
ルイズの言葉にサイトは、頭に血を上らせる。瞬く間に冷静さを失い、枷をはめられている事も忘れて動く。
「ふざけるな、てめぇ!」
喚き、飛び掛ろうとする。だが即座に周りにいた兵士たちによって取り押さえられ、床に伏せられる。
「くそ、離せ! 離しやがれ! くそ! ふざけるな! 殺せ! お前らの犬なんかになるぐらいなら死んだほうがマシだ!」
睨み付けるサイト。だが、ルイズはまるでつまらなさそうな表情を浮かべる。
「へえ、死んだ方がマシって言うの?」
「当たり前だ! 何度でも言ってやる! お前らの犬には絶対にならないし、なるぐらいなら死んだ方がマシだ!」
「別にいいわよ」
予想外の言葉にサイトは呆気に取られる。
「良いって…おい、どういう事だ!」
「その言葉の意味よ。死ぬ方が良いなら勝手に死になさい。舌でも噛んで自害すれば良いわ。よかったら自殺の手伝いもするわよ。魔法で生成した毒薬の中には、眠るように死ねるものもあるから、よければ手配するわよ」
「なら、今すぐここで――」
殺せ!――そう言おうとした矢先、再びルイズが言葉をさえぎらせる。
「その代わり、反乱軍の捕虜……そうね、全員で1000人ぐらいだったかしら? そいつら全員、皆殺しよ」
その言葉にサイトは絶句し、硬直した。ルイズは続けた。
「まず、全員を素っ裸にするわ。男も女も関係なくね。それで狩猟用の森の中に放ってから、そいつらを追い回して獣のように殺すのよ。魔法で吹き飛ばすも、マスケットで撃ち殺すも、狩猟刀で切り殺すも自由よ。処刑の方法としてはかなり手間がかかるけど、ギロチンや火あぶり、生き埋めじゃ素っ気無いし、こっちの方が面白そうだと思わないかしら?」
まるでどんなお遊びをしようか考えている子供のように楽しげに語るルイズ。当のサイトは、ルイズの残忍さと汚さに歯軋りした。
「……汚ねぇッ! 最悪だ! この売女! 鬼畜!」
「褒め言葉として受け取っておくわ。それでどうするの? 自分の名誉のために1000人の仲間を見殺しにするか、自分が犠牲になってあいつらを助けるか。もちろん、答えは決まってるわよね――英雄」
いわれ、ぐっと言葉をつまらせる。
英雄――ルイズはあえてそう呼んだ。
捕虜にされた1000人は、自分たちにつき従い、命を懸けて戦ってくれた大切な仲間たちだ。それを見捨てるなど、そもそも『英雄』以前に『人』としてできない相談だ。
なら、答えは決まっている――サイトは口を開いた。
「……分かった。大人しく従う」
「賢明な判断ね」
「だが、覚えておけ。俺は絶対に屈しないからな」
「そうでなければつまらないわ」
かくして、物語は始まる。