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Last-modified: 2008-11-10 (月) 23:01:30 (5643d)

聖女のおしゃべりクッキング

※注意!このSSは14巻の多大なネタバレを含みます!あと、せんたいさんの「つづきもの」とは中身がリンクしていません。

 
 
 
 
 

↓ネタバレOKな人だけどうぞ

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「ティファニアっ!ちょっと来てっ!」
「え、何、何?」

それは、『聖戦』開戦後ほんの少しのこと。
ルイズが忘却の呪文によって失われた記憶を取り戻し、アクイレイアに戻ってきた時のこと。
いつもの魔法学院の制服を着こんで、ルイズはそう叫びながらはティファニアの部屋のドアを乱暴に開けた。
中では、することもないのでお昼前の祈りを生真面目に唱えていた白い巫女服のティファニアが目を点にしている。

「いいからっ!早くっ!」

ルイズはずかずかと部屋の中に入り込むと、ティファニアの首根っこをぐい!と掴んで引っ張っていく。

「あ、あの、何?ほんとになんなの〜〜〜?」

理由も話されず引っ張られるティファニアは、そう叫ぶしかなかった。

連れてこられたのは厨房。
ルイズはティファニアの前に立ち、真っ赤な顔でティファニアを睨んでいる。

…わたし、何かまずいことしたかしら…?

ティファニアはかるく怯えながら、ルイズを見つめる。

…そういえば、『忘却』でサイトの事忘れさせたんだっけ。でもあれってルイズさんがしろって言ったのよね…?

そう考えれば怒られる道理などないのだが。
そして、ティファニアはルイズが怒っているのではないことを知る。
ルイズはむぎゅむぎゅと口の中で何か言っていたが、やがて決心したように口を開いた。

「あ、あのねっ!」
「は、はいっ!」

物凄い勢いで声を掛けてきたルイズに、思わずかしこまって応えるティファニア。

「わたしに、料理教えて欲しいのっ!」
「ご、ごめんなさいっ!…って、え?」

真っ赤になって頭を下げるルイズの迫力に、同じように頭を下げてティファニアは思わず謝ってしまっていた。

事の起こりは、ルイズが使い魔の繋がりによって、才人の妄想を知ってしまったことに拠る。
才人の都合のいい妄想の中、それだけは妙にリアルで、ルイズの脳裏にこびりついてしまったのだ。
妄想の中、二人は都内の同じ高校に通う生徒で、恋人同士だった。
その妄想の中で、ルイズは初めて才人にお弁当を作ってきていたのだが…。
ルイズの弁当を食べた瞬間。

『うギョ輪ftfとあwせdrtfyぐhじこpl』

などと意味不明な叫び声を上げ、喉をかきむしって才人は昏倒してしまうのだ。

…何食べたらそうなるのよっ!

思わずそう突っ込んでしまったルイズだったが。
よく考え直してみると。

…私、料理できない、かも…。

というよりも家事全般が不可能だと思う。
かろうじてなんとかできそうなのは、掃除と洗濯くらい。
こんな事では。

さ、サイトのご両親に紹介された時に、困るじゃないの!

どうやらルイズは、才人と記憶の繋がりを持ったことで、妄想の影響を相当受けているようだ。
というよりも、ここ数日、彼の妄想に入り込んで夢を見るのが彼女のマイブームだった。
ベッドの上でどうこう、とかいう妄想は恥ずかしくて恥ずかしくて恥ずかしくて恥ずかしくてとても覗けなかったが、それ以外の妄想はとても甘くて、ルイズにとって何よりの娯楽となっていた。
特に、才人と恋人同士で学校に通う妄想は、どんな蜜より甘くルイズの思考をとろけさせた。
おかげで、今彼女の頭は相当才人の妄想に毒されている。
アクイレイアに帰った時、既にルイズの脳内では、地球に帰った才人に、ご両親に紹介され、ラ・ヴァリエールで盛大な結婚式を挙げ、二人の子供を儲けて、孫が四人できるところまで話が進んでいた。
したがって。
料理と言うか家事のできない自分では、才人の両親に紹介された時に困る、と考えるようにまでなっていた。
そして、身近で家事の出来そうなティファニアに、料理の教授を願ったのである。

「い、いいけど…」
「本当っ!?じゃ、じゃあ、何か簡単なのから教えて!」

ティファニアは快諾したが、すぐ後悔する事になった。
ルイズは料理の基本が出来ていないだけではなく。
無駄に創意工夫を働かせる、闇レシピの達人だったのである。

「で、できたぁ!」

時刻はもう既に昼すぎ。
昼食はとっくに終わり、コック達も昼食でいなくなった厨房の隅で、ルイズは完成したシチューを前に喜んでいた。

「も、もうダメ…」

その隣で、さんざん気を使って注意し続けたティファニアが、精も根も尽き果ててぐったりしていた。
自分で作った方が何倍も早いだろうが、あくまで自分でする、手助けはいらない、と言い張るルイズの脇で、ひたすら闇レシピを咎め、基本を教え、自分の手を使えないもどかしさに悶えながら、ティファニアはルイズの料理を完成させた。
それは鶏肉と野菜のシチュー。
単純かつ、簡単なメニューだった。

「じゃ、早速サイトに食べさせてくる!ありがと、ティファニア!」
「い、いえ、どういたしまして…」

ぐったりと厨房の椅子の上で真っ白な灰に燃え尽きながら、ティファニアはルイズを見送ったのだった。

「ねえサイトっ、おなかすいてないっ?」
「え?俺今昼たべたとこ…」
「お な か す い て な い?」
「あ、はいすいてますですはい」
「じゃあこれ!食べて!」
「ナニコレ」
「私の作ったシチュー!」
「ああっ急にさしこみがっ!悪いルイズ、俺腹の具合が…」
「…ああそう。食べたくないってわけ。主人のせっかくの手料理を、アンタは無碍にするってわけねえええええええええええええ?」

ちゅどーーーーん!

結局、才人はずたぼろにされ、『看病』の名目で食べさせられたシチューで、ようやくルイズのシチューがまともだという事を知るのだった。

「ティファニアっ!他のレシピも教えてっ!」
「…神は天にいまし。世はなべて事もなし…。ああ、神様。ホントにいるなら助けて…」

ウエストウッドから出てくるんじゃなかった、とこのときばかりは本気で後悔したティファニアだったという。


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