X3-671
Last-modified: 2011-06-02 (木) 20:42:05 (4683d)
才人達は避難の鐘を聞き逃していたらしい
職人達は誰も怪我が無く、きちんと避難していた
水が引いた後、モンモランシー達が来て、全員を回収する
舟の上で全員食事を振る舞われ、モンモランシ伯邸に戻ると、エレオノールが何か考えだし、才人に外出許可を求める
「一体何だ?」
「魔法装置を開発するわ。常時錬金を放出する奴。平民でも使える様に、魔力を装置内で溜め込むタイプ。メイジが一々付きっきりは、正直やってられないわ。人数が足りないのよ」
「魔力の補給法は?」
「平民はどんな形が良い?」
「そうだな、カートリッジ式で交換出来た方が良いわ。そうすりゃ、魔力を充填したカートリッジを交換すれば済む。メイジがカートリッジに魔力を込めれば良い。機能も限定してくれ。その方が開発し易いだろ?」
「今みたいに、対象物を粉にするだけの錬金?」
「あぁ。別の機能が必要なら、その時に違う仕様を製作すれば良い」
「解った。その方向で行く」
「期間は?」
「一週間。ミスタコルベールが協力してくれるなら、まだ早くなるわ。ミスタは開発は色々やってるから、こういう時は頼りになるもの」
「解った、二人でやってくれ。じゃあ、その間、俺はルイズの様子見て来るよ。モンモン」
「……行くの?」
「あぁ、悪い」
「良いわ、待ってる」
そして職人達に指示を下し、本日は休みで明日から作業再開、所長達は出張を伝え、安全に気をつけろと伝えて、二人で零戦に歩いて行く
そして、才人が零戦に乗り込み、エレオノールがプロペラを風魔法で回し、乗り込む
一気に離陸して行くのを、職人達があんぐりしながら見送り、モンモランシーは手を振って見送った後、モンモランシ伯が慌てて出てくる
「マルガリタ、何だあの魔法装置は?」
「お父様が袖にした平民のみが動かせる、科学と言う魔法で、ゼロ機関はああいう物を作るそうです。タルブ戦でもあれが活躍しましたし、仲良くした方が、良いと思いますわ」
「むむむむ」
モンモランシ伯が唸りだし、家に戻っていく
『早く、貴方と一緒になりたいわ、ねぇ才人』
* * *
才人達が零戦で学院に戻り、コルベール達と合流すると説明し、コルベールとエレオノールはアカデミーに、才人はトリスタニア
キュルケ達はそのまま製作の手伝いである
才人が到着したおり、既にボイラー本体は形になっており、余熱機構も吸気給水側が出来上がっていた
「流石先生だ、早い」
「二人の協力無しでは無理だったよ。序でに給水タンクの冷気魔法も、同じくカートリッジタイプで開発してくる」
「頼みます」
コルベールと握手を交わすとコルベールが微笑む
「今が一番充実してるな」
「そうですね、新規工場が立ち上がれば、俺達の出番は無くなりますし」
「雇用対策にもなると。才人君は政治家かね?」
「そんな事無いです。所詮、利己主義者ですよ」
「そうは見えないんだが?」
「多分……誰よりも……ね」
そう言って、エレオノールが待つ、竜籠に歩いて行った
コルベールも続いて歩き出し、キュルケとギーシュは顔を見合わせる
「……ダーリンを一人にさせちゃ駄目ね」
「同感。全部始末付けたら、黙って消える積もりだね」
「そうしたらどうするの?」
「聞きたい?」
「勿論」
「最善が才人が留まる。次点が僕が付いて行く。最悪は種だけ貰う」
「あら、もう覚悟決めてるの?」
「そうだよ。もう、悩む段階は過ぎてるんだ」
「ちょっと尊敬するわ、ギーシュ」
「僕にはキュルケの奔放振りが羨ましいよ。そうだ、最近尻周りのサイズが変わってきて悩んでるんだ。相談に乗ってくれないか?」
「あら、丸みが増えたの?」
「うん、腰周りは逆に落ちたんだけど、何か丸くなっちゃってさ」
「あらあら、大分愛されちゃってるのが効いたのね。ちょっと私の部屋行きましょ」
* * *
エレオノール達は才人をトリスタニアに届けた後、その足でそのままアカデミーに入り、アカデミーの最上階、ゴンドラン卿の所に赴く
アカデミーも夏休みの為、職員は留守番以外は殆ど居ない
そんな中、ゴンドランはどうやらまだ居た様だ
秘書のヴァランタンが、相変わらず受け付けをしている
「所長に面会ですか?約束はしてますでしょうか?ミスヴァリエール」
「無いわ。ちょっと、通してくれないかしら?」
「そちらのミスタは?」
「上司よ」
「そうですか。では、規則ですので、お約束をしてから、もう一度お越し下さい」
ヴァランタンはにべも無い
そしてエレオノールは、そんなヴァランタンには慣れっこである
「私はアカデミーの主席研究員よ。融通効かせなさいよ」
「あら、私は女王陛下と言えど、同じ言葉を返すのみですわ。規則ですから、とね。其に今の貴女は席こそ残っているものの、所属は既にゼロ機関でしょう?外部の方ならば、きちんと規則に沿って頂けないかしら?」
「……少し、口の聞き方を選んだら?ヴァランタン」
「あら、アカデミーの中では攻撃魔法は厳禁ですのよ?使った場合は即刻除名です。知らない貴女でも無いでしょう?」
「あら、そんな事に大事な魔力と精神力使う訳無いでしょ?うちの所長の仕事は、魔力を大量に消費すんのよ。でも、どっかの誰かの口を塞ぐ程度は、しても良いと思うわね」
その言葉に、ヴァランタンはすっくと立ち上がり、エレオノールを睨む
「やるの?ヴァリエール?」
「やらいでか」
学生時代から散々繰り返された二人の喧嘩
仲裁をした者はそのまま二人に吹っ飛ばされる、正に嵐である
それでも普段はお茶やら酒を同席して、更に喧嘩してるのだから、仲は悪くは無いのだろう
コルベールは止めるのも無駄と思いつつ、声をかける
「君達、止めたまえ。学生時代から変わらないのかね?」
「残念ですが、ミスタ」
ヴァランタンが答え、エレオノールと同じく杖と身体を駆使し、お互いの必殺の詠唱を阻止すべく、乗り出した瞬間、慌てた大声が拡声器越しに響く
〈今すぐ止めたまえ!!毎回毎回君達は何で衝突するんだ!!私の心臓が止まってしまう!!〉
「……止まれば良いのに」
小声で呟いたその声を拾ったのは、傍にいたエレオノールだけであり、思わず苦笑が浮かぶ
〈ミスヴァリエール、何か用かね?〉
「はい、ゼロ機関として参りました」
〈入りたまえ〉
部屋の主の許可が下りた為、ヴァランタンは大人しく道を譲る
「アンタも此方来る?」
「いやぁよ、都落ちなんて」
「今、新しい都作ってんのよ」
「上手く出来たら教えてね。乗り換えるから」
「ただ乗りしようとしても、そうは問屋が卸さないわよ」
「あ、そ」
エレオノールとコルベールがそのまま所長室に入り、中ではゴンドラン卿が少し青い顔をして座っている
「全く、君達は何時も何時も衝突して。少しは私の立場にもなって考えてくれないかね?」
『多分、遠回りに死ねって、ヴァランタンの挑発だと思うわよ?』
エレオノールの気性を熟知してるから、わざと挑発してるとエレオノールは判断しているが、言わぬが花だろう
「申し訳ございません、ミスタゴンドラン。今日はお願いがあって参りました」
「何かね?」
「私の研究室を、ゼロ機関に貸して頂けないでしょうか?」
「……ほう。アカデミーの研究室はアカデミーの財産でな、女王陛下直属とは言え、軽々しく貸す訳にはいかんよ」
「しかし、貸して頂けないと、女王陛下の命が実行出来ません」
「……内容は?」
エレオノールがコルベールを見ると首を振る
守秘義務違反になるからだ
「申し訳ございません。言えません」
「…では、無理としか答えられん」
「陛下の命ですよ!!」
エレオノールが詰め寄り、思わずゴンドランは首をすくめる
「そういきり立つでない、ミスヴァリエール。が、とある条件を示せば、貸す位は……」
そう言って口を濁すゴンドラン
エレオノールはそんなゴンドランを見て、怪訝な表情を浮かべる
そんなエレオノールに、コルベールは耳打ちをする
「袖の下だよ、ミス」
その瞬間、エレオノールの目が釣り上がる
「ままま、まさか、栄誉ある王立アカデミーの所長ともあろう者が、わわわ賄賂を要求したりしてないでしょうね?」
「賄賂?何の事かね?私は研究室の使用料を出してくれるなら、構わないかなと、考えただけだ」
筋は通っているが、如何せん怪しい
「使用料はアカデミーの予算に充当されますかな?ミスタ?」
此処でコルベールが交渉に口を出す
「さて、君達は君達の研究をやる。私を含め、アカデミーは感知しない。其で構わないのでは無いかね?研究にスポンサーは付き物だと云うのは、君達も承知してる筈だが?」
「…良いでしょう」
そう言って、コルベールは懐から才人に貰った小切手を出し、机の上に置く
ゴンドランはそのまま金額を確認するとニヤリとする
「この異国のサインは、所長のかね?」
「その通りです、ミスタ」
「支払いが所長からなら、ゼロ機関の総意と取ろう。アカデミーの研究に協力してくれて感謝しよう。期間は一年で宜しいか?」
「えぇ、その後必要なら、更新の交渉を」
「了解した。後程、契約書類を部屋に届けさせて頂く。我々も君達ゼロ機関の研究に協力しよう」
「では此からは、ミスヴァリエールの研究室は、ゼロ機関が借り受けるとした形で、構いませんね?」
「構わぬよ。必要な機材が有れば言いなさい。レンタルする分には構わない。但し、壊した場合は修理ないし、弁償して頂こう」
「判りました。では、女王陛下のゼロ機関副所長、ジャン=コルベール。王立アカデミー所長ゴンドラン卿の協力に感謝致します」
「所長にもよしなにと伝えてくれたまえ。お互いに、神と始祖の御加護を」
ゴンドランの祝福の言葉でコルベールとゴンドランは握手を交わし、エレオノール達が退出すると、ゴンドランが残された
「ふん、貸すだけでシュヴァリエ年金の4倍か。此方は陛下の命令通りで、小遣い稼ぎにもなると。中々に悪くないな。まぁ、精々恩を売るとしようか」
* * *
エレオノール達が退出すると、ヴァランタンが話しかけた
「交渉成立?」
「えぇ、アンタが言ってた意味が、良く判ったわよ」
「…そう」
「私の研究室、アカデミーからゼロ機関に切り替わったから、関係者以外立ち入り禁止ね。周知宜しく」
「了解。通知と立て札作っておくわ」
こうして、コルベールとエレオノールは魔法学院以上の設備を手に入れ、二人の合同研究で、一気に魔法装置を開発する事に成功する
その後、各々の提案を実現させる魔法装置開発に、研究室は多いに利用される事になる
居るか居ないか解らず、常にディテクトマジックでサーチされ、気になった研究員からの覗き見や盗聴は全て発見され、中ではアカデミーを中心とする神学からすると、異端の文字が飛び交うゼロ機関の研究室に、アカデミーの関係者が気が付くのは、夏休みが終わった後である
* * *
「……今頃何しに来たのよ?馬鹿犬」
「いや、そう言われても俺も仕事で……」
ドゴッ!!
みぞ落ちに蹴りを食らい、悶絶する才人
「……だから、何でヴァリエール姉妹はこう暴力で応じるんだよ…」
暫く苦しんだ後、才人はルイズに抗議するが、ルイズはちっとも機嫌を直さない
「うるっさいわね。大事な時に居ないで何が使い魔よ?チップレース最終日は、本当に大変だったんだから!!」
ルイズの屋根裏部屋で、才人はルイズにお仕置きされ、才人はまた悶絶している
「……ててて、何が有ったんだ?」
「ふん、まぁ良いわ」
才人を床に転がして上に乗っかり、頬杖を付いてルイズは語り出した
「…バレちゃったのよ」
「……何だって?」
「皆に、あたしの事が貴族だって、バレちゃったの!!」
才人はガバッと跳ね起き、ルイズは転がる
「きゃん!?」
「どういう事だ?ルイズ」
才人が真剣にルイズを捉え、ルイズはぽつぽつと喋り出した
「あのね……最終日に、チュレンヌって徴税官が来て、店に無法したから、私が魔法使って追っ払ったの」
「……皆を助ける為か?」
ルイズはコクリと頷く
「才人が居れば……あたし、魔法使わなくて済んだの」
「…そうだな、悪かった」
「でもね、皆ね、黙っててくれるって、笑って頷いてくれたの」
「良い人達じゃないか」
「うん。あたし……良く出来た?」
「あぁ、良く出来た。はなまるだ」
そのまま才人はルイズの頭にぽんと手を乗せると、ルイズは嬉しそうにする
「ふっふっふ、この前来た時とは別のルイズでしょ?」
どうやら、調子が上がって来たらしい
「あぁ、そうだな。もう別人。才人困っちゃう。ルイズ様の後光が眩しくて、御尊顔が拝謁出来ません」
ドゴッ!!
全てを棒読みで返された為、ルイズのアッパーカットが炸裂し、才人は宙に舞った
ドサッ
「……おっかしいな?俺、褒めたよな?」
床に伸びた状態で息も絶えだえに才人が疑問を呈し、デルフがわざわざ出て来てトドメを刺す
「いんや、相棒が悪いと思うぞ?」
「ふん!!」
ルイズは、部屋を出ていってしまった
* * *
シエスタは、ルイズがバレた為にフォローの為に居る必要が無くなったのだが、才人が来るチャンスを逃さない為、厨房で手伝いをずっとしている
ルイズ居る所、使い魔出現せり、である
着いたのが午後で、才人が降りて来たのが、開店一時間前である
「あ〜、才人さんやっぱりやって来た」
そう言って、シエスタは才人の腕を取る
「あらあら、トレビアン!!お兄さんまた来たのね。随分心配性ねぇ」
スカロンが笑いながら才人を迎い入れ、才人が恐縮する
スカロンと対面に才人が座り、歓談が始まった
「すいませんマダム。どうやら、本当にご迷惑かけたみたいで」
「あらあら、ノンノンノン。助けられたのは私達よ。あれから、チュレンヌが人事で降格されたって、お城勤務の人に聞いたわ」
『って事は、ルイズはチュレンヌの行状も姫様に伝えたって訳か』
「そのチュレンヌって人、酷かったんですか?」
「えぇ、そりゃもう。全ての店がやられてたからねぇ」
『真っ黒か…』
「それより聞いてよ、お兄さん。ルイズちゃんがチップレースに優勝したのよ!!聞いた?最終日に一発逆転で、ミ・マドモワゼル感激しちゃったわ。本当にトレビアン!!」
思い出してくねくねするスカロン
相変わらず不気味である
「…いえ、初耳です」
「あらあら、ルイズちゃんたら、何で言わないのかしら?」
「幾ら貰ったんですか?」
「さっき言ったでしょ?そのチュレンヌって人達が全員財布を置いていって、ルイズちゃんのチップになったのよ」
怒りをしたため、杖を構えて虚無の魔力を立ち上げたルイズの前に立つのは、才人でもご免被る
その様がありありと才人にも解り、肩をすくめる
「眠れる竜の尾を踏むなんざ、知らぬとは言え、随分気の毒な」
「アッハッハッハッ!!」
スカロンが盛大に笑い出す
「其で竜の尾を踏んだ一言はね『この洗濯板が!!』なのよ」
スカロンが才人にずずいと近寄り、才人は顔を真っ青になる
「…良く生きて返したな」
「あら、そんなに?」
「えぇ」
「ルイズちゃんは、今でも充分可愛いのにねぇ」
「同感」
才人達がふぅと溜め息を付き、更にスカロンは才人にお願いする
「悪いんだけど、今日も手伝ってくれないかしら?」
「えぇ、良いですよ」
「宜しくね。給料は現物支給で良いかしら?」
「現物?」
「えぇ、ジェシカ」
「はぁい、お父さん」
そう言って、ジェシカがパタパタやって来る
「何でジェシカが?」
「はい、この前の分と合わせて、給料の支払いね」
そう言って、ジェシカをずずいと才人に押し付け、ニヤニヤするスカロン
「……はい?」
「嫌だなお兄さん。私が給料よ。好きに使ってね」
語尾にハートマークが付いてるのが見える感じがして、思わずひくつく才人
「流石、マダムとジェシカ。冗談が上手い」
そう言って、ジェシカをそっと押しのける
「あん、残念」
「あらやだ。本気だったんだけどねぇ」
そう言って、スカロンは笑い、ジェシカはちぇーと舌打ちしながら離れる
「全く、お二人には敵わないわ」
* * *
才人が手伝いに入って開店し、客が入って来ると、才人達がとっても会いたくない人達が入って来た
魔法衛士隊の一団である
どうやら3隊合同で、10人ずつらしい
マントにそれぞれの隊の幻獣の紋章が縫われている為、直ぐに解る
そして、全員身体が薄汚れている
「よっし、訓練ご苦労!!打ち上げだ!!」
「「「「うおぉぉぉぉ!!」」」」
厨房に迄声が聞こえ、才人が顔を歪める
「ちっ、ジェラールの野郎、此所の常連かよ。まぁ、アイツなら至極当然か」
女+酒=グラモン
トリステインなら、必ず通じる方程式である
だが、困った事に、潜入任務中に知り合いに来られるのは、非常にマズイ
そんな事はルイズですら承知しているが、接客は接客だ
ルイズは意図して近付かない様にしたのだが
「ルイズちゃん。グラモンの隊長さんはお得意様よ。しっかりやって来なさい」
スカロンにそう言われ、仕方なくルイズはジェラールの席に行く
お盆で顔を隠して、メニューを渡し、一言も喋らない
ジェラールは、そんな妖精さんをニヤニヤしながら眺め、話しかけた
「此は此は美しい妖精さん、余りの美しさに顔を隠してしまったのだね?あぁ、なんて罪作りな妖精さん。きっと、伝説の9人のワルキューレの中でも最も優れた美女たる、ブリュンヒルデなんだろう」
「俺のブリュンヒルデ。君の顔が見られるなら、俺はヴァルハラの門をくぐる事無く、氷の巨人が棲まう地獄に落とされようとも構わない。さぁ、その高貴な顔を見せておくれ」
そう言って、お盆をすいっとジェラールが取ると、真っ赤な顔したルイズがいた
「い、いけない人ね」
才人が絶対にやらないのも加算され、すっかり弱くなるルイズ
だが、ジェラールは更に追加で口説き始めた
「あぁ、やっと顔を見せてくれたね、俺のブリュンヒルデ。君の笑顔の為なら、俺は10万の大軍でも、短騎で止めて見せよう。だから、少しで良いから微笑んでくれないか?」
けなされる事なら数あれど、褒められる事は皆無だったルイズ。褒め言葉には非常に弱い
思わず、微笑んでしまう
『ちょろい。姉とは別物。こりゃ、頂き』
そんな事を思いつつ、ジェラールが更に歴戦の口説き文句を紡ごうとするのを、周りの衛士隊隊員がニヤニヤしながら見ている
ドスッ!!
更に口説く為に動こうとしたジェラールの真ん前に、霧を巻き散らしながら刃が突き立ち、ジェラールが呆然とする
「ち、この剣は、邪魔すんな、才人!!何で、てめぇが居るんだ!!」
その声に、厨房の奥から声が聞こえてきた
「何時も魅惑の妖精亭をご利用頂き、誠に有り難うございます。当店では、常連の衛士隊隊長様に、トクベツなサービスをする御用意がございます」
カッカッカッカッ
硬質のゴムが床を擦る独特の音を立てながら、才人が厨房の入口から姿を表す
デルフを背負うのではなく片手に持ち、鬼気迫るオーラを纏っている
その気迫に、周りの客達が何事と、才人と衛士隊隊長を見る
「特別なサービスだと?」
「良いから杖抜け、この野郎。手ぇ出して良い相手と駄目な相手位、区別付けやがれ」
「……上等だ、表出ろ」
「はい、皆様お立ち会い。当店が誇る用心棒、ルイズちゃんのお兄さんの才人ちゃんと、魔法衛士隊のグラモンの隊長さんのお遊びです。皆様、酒の肴に如何ですかぁ?」
スカロンがすかさず合いの手を入れ、魔法衛士隊隊長の喧嘩が見れると、皆が扉の外に注目する
「あれ?才人があたしを………?」
ルイズには訳が分からない
「全く、本当にルイズちゃんの事になると、お兄さん駄目ねぇ。でも勝てるのかしら?」
「それに付いては……うん、大丈夫。騎乗しないなら」
だが、そんなルイズの言葉は裏切られ、外の屋根には、通行人の邪魔にならない様に、幻獣達がたむろしてたのである
「ったく、手加減しねぇぞ、この野郎。ピュイ」
ジェラールが口笛を吹くと、ジェラールのヒポグリフが着地し、ジェラールが騎乗する
歩兵対騎兵
どう見ても才人に勝算は無い筈なのだが、ジェラールの額に汗が足れるのを、スカロンは見逃さない
「えっと、騎兵なのに、マジモード?あのお兄さんそんなに?」
ダン!!
最初に動いたのはジェラールで、一気に加速してチャージを仕掛け、才人は其を抜いたデルフでランスに合わせ、コマの様に回転しながら弾き、自ら跳ぶ
そのまま空中に踊り上がったジェラールは、再度のチャージの前に、空中から唱えた
「イル・アース・デル・ソーン・イス。串刺しになりやがれ!!」
声を聞いたデルフが指示を下す
「マズイ、相棒俺を地面に突き立てろ」
ザク
才人が地面に突きてると同時に、ジェラールが左手の杖を振る
才人周辺の道から、複数の太い石の槍が才人を囲う様に突き上がった
ドシュドシュドシュ!!
「……何だよ、このスペルは」
「ストーンパイクだよ、地面に居ちゃ絶対に殺られる」
「っの野郎。マジか」
デルフが才人周辺の魔力を吸収した為、死なずに済んだ
空中でジェラールが、柱みたいな石の槍で囲まれた様を見て唸る
「ちっ、インテリジェンスソードのせいで駄目か。だが、逃げられもしないだろ?」
そのまま、ばさりと羽ばたき、チャージの姿勢を取ると、才人の居る中心部へ向けて降下を始める
タンタンタン
降下と同時にジェラールの眼に入ったのは、石の槍を足場に駆け上った才人が、そのまま跳躍してジェラールに突きをする所であり、ジェラールは思わず軌道をそらし回避すると、才人が屋根にそのまま降り立つ
タン
「糞、カウンター失敗か」
「空中相手は不利だぁね」
「ジェットスクランダーが有ればな」
「何だそりゃ?」
そのまま、ジェラールの旋回を睨み付ける才人
「「「「おおおぉ〜〜〜!?」」」」
魅惑の妖精亭から出て来た客達が、酒を片手にチップを投げている
* * *
「隊長」
「何だ?今忙しい、緊急で無いなら後にしろ」
「緊急です。街中で戦争が始まりました」
「何!?」
ゼッザールが空軍と作戦計画を練っていると、部下がそう報告してきた
思わず皆が伝令を見る
「相手は?」
「一名です」
「迎撃は?」
「グラモン隊長です。と言うより、グラモン隊長が殆ど破壊してます」
「……だから相手は?」
「……無冠の騎士です」
「…何でそうなる?」
思わず目の間を揉むゼッザール
「ぶっちゃけると、只の喧嘩です」
「……止めろ」
「訓練帰りの為、被害を最小限にするので精一杯でして。仲裁に入った者は、巻き込まれてしまい……」
その先に有るのを、ゼッザールも言わずとも理解する
「……制圧しろ。全衛士隊に出撃を命ずる。生死は問わずだ。あの二人なら、それ位で丁度良い」
「ウィ」
敬礼し、伝令は去って行く
「全く、元気が有りすぎだな、二人共」
* * *
ズガガ!!
魔法により家々の屋根を材料にした攻撃が才人に集中し、才人は二刀でデルフの指示の元、全て斬り伏せながらジェラールのチャージをいなし、屋根から屋根に跳び移る
「あんにゃろう、見境ねぇな」
「相棒の足場を奪う目的なんだよ」
「んなこたぁ解ってる。次の一合で仕留めるぞ、溜まってんな?」
「大丈夫だ」
急旋回したヒポグリフが、そのまま才人にチャージを敢行する
「此方の足場を奪ったから、覚悟決めたな。ありゃ、硬化付きだ」
デルフが解説し、そのまま才人はジェラールをギリギリ迄引き付け、タイミング良く跳躍し、デルフを突き出した
「デルフ、点火!!」
才人の声と同時に、周囲に稲光が疾った
ピシャア〜〜ン!!
二人に雷が落ち、そのまま失速し、二人共ヒポグリフと共に落下する
「良し、制圧。治療と復旧作業カカレ!!」
次々に衛士隊が降下し、攻撃に使われた材料片手に錬金で修復を始める
一部始終を見てた魅惑の妖精亭の客達は、被害と戦場が一気に拡大する様を見てポカンとし、衛士隊の横槍で制圧される迄を見ていた
「あはは、あれ、どうしましょ?」
スカロンが皆に振り向くと、皆が首を振る
「とりあえず、忘れましょうかしら?皆様、余興は終わりですわ。店内に戻りましょう」
頷いた中に、ルイズとシエスタが居たのは言うまでもない
* * *