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Last-modified: 2011-09-05 (月) 11:52:54 (4616d)

ロサイスの軍港から、ロイヤルソブリン級戦列艦を主力とした艦隊が出航する
「目標、ガリア空域。出港」
司令のホレイショが恰幅の良い身体を揺すりながら指示を下し、艦隊は索を離し離岸すると、甲板員が直径20サントはある太い索を回収し、縦帆に風を受け、岸壁と距離を取る
「メインマスト張れ〜」
艦長の号令に甲板員がマストによじ登り、一斉に帆をを張る
バササ
「このまま風石絞れ、ダウントリム5゜」
艦内の航海士が風石を調整し、ゆっくり降下を始める
新人が多いが、ここ連日の訓練で、何とか様になっている
その様をワルドとメンヌヴィルが、ホレイショと共に見ている
自分達の出番以外は、何もしないのも重要な仕事である
「さてと、出港で衝突といった醜態は、晒さずに済みましたね。ワルド子爵、斥候は?」
「今の所、報告は入ってませんな、司令」
「そうですか」
ホレイショは感慨も無く、窓の雲海を眺め、突入している
カッカッカッカ
「斥候からの報告だ。敵艦隊の場所が判ったよ」
「方位は?」
フーケの報告に、ホレイショの参謀が指揮卓に駒と定規を持って待機する
「西南西距離30000、高度1000」
「雲は?」
「有るが流れてる」
キュッキュッ
報告を基に書いていき、駒を配置し、更に天井から同じ盤面が下りてくる
高低差を表示する工夫だ
そこにアルビオン艦隊を配置し、暫く黙考したホレイショは、指示を下した
「艦長に伝達。一旦上昇。高度3000で雲海の上を目標に向かって進め」
「サー・イエス・サー」
カッ
踵を合わせて敬礼した伝令が駆けて行く
「上から挨拶しましょう。僕達アルビオンには、相応しいやり方です」
「成る程。中々にエグい」
「ふん、俺の出番は取っておけ」
「勿論です。僕は働くのが嫌いですから、お二人にお任せしますよ」
そう言ってホレイショは笑い、ワルドとメンヌヴィルも嫌な笑いで応じる
そして艦隊がお互いに視認出来る所に来ると、既にトリステイン艦隊は臨戦体制を取っていた
「おや?幻獣騎兵がもう飛んでますね?」
ホレイショが確認するとワルドが苦笑いをする
「斥候が見つかったか。グリフォン隊だな、あれは」
「あぁ、そう言えばワルド子爵の元所属隊でしたねぇ。ではちょっと早いですが、出撃準備して下さい」
「了解した。メンヌヴィル殿、行くぞ」
「あぁ」
二人が出撃準備をする為に離れると、ホレイショは指示を下した
「高度2500、上を取れ。下砲戦用意、弾種散弾。僕もアッパーデッキに上がります」
「サー。復唱、高度2500、上を取れ、下砲戦用意、弾種散弾」
「良し行け」
「アイアイサー」
伝令が復唱して駆け足で去って行き、ホレイショも原状を自分自身の眼で確認する為に、アッパーデッキに出る
アルビオン大陸から運んで来る雲の上なので、高度3000付近が雲の上限で、トリステイン側からは判別し辛く、切れ間から時折確認するだけだ

*  *  *
「敵艦、雲の上に隠れて判別出来ません。ロイヤルソブリン級を確認」
報告にポワチエが眉を潜める
「艦隊回避機動、ジグザグだ」
「ウィ、艦隊回避機動、ジグザグ」
伝令が走り、ポワチエがその後を歩いて行く
「閣下、上を取られた状態で出るのは危険です」
ウィンプフェンの忠告にポワチエはあっさり返した
「卿は此所で見ているが良い。提督は、時には身を晒す必要が有る。じゃなければ、兵士が付いて来るものか」
「…それはそうですが」
「其に卿は私に何かあった時のスペアだ。比較的安全な所に居るのが任務だ」
「ウィ」
ウィンプフェンは敬礼を以て、ポワチエを見送る
腐ってもポワチエは提督である、出世欲だけで現在の地位を築いた訳ではない
ポワチエが甲板に出た時に、砲声が届いた
ドドドドーン!!
「当たるか?」
既に回避行動を取っていた艦隊だが、広範囲に撒かれた散弾の為に、被害が出る
ビスビスビスビス
「被害報告
「甲板員に負傷兵。被害は軽微。グリフォン隊は回避してます。今の攻撃で、場所が割れました」
艦長がポワチエに指で示し、ポワチエが頷き、指示を下す
「面舵一杯。上昇するぞ。信号、我ニ続ケ」
「ウィ。面舵一杯上昇一杯。信号、我ニ続ケ」
艦長が指示を下し
「面舵一杯、ようそろ」
「上昇一杯、ようそろ」
操舵手が舵輪を回し、航海士が風石を操作し上昇し、信号手が後続に向けて信号を出す
「左砲戦用意、水平射撃。弾種榴弾」
「ウィ」
ポワチエの指示が次々伝達されながら艦隊が上昇していく
ドドドドーン!!
アルビオンの砲撃音が近くなり、上昇中の艦隊に照準が合わず、当たらない
「現在高度1500……1600……1800」
「高度維持。ロールスターボード45゜」
「ウィ、高度維持、ロールスターボード45゜。総員掴まれ!!」
艦長の怒声に、総員安全帯を手すりに掛けてガシッと掴み、航海士が風石を操作し、艦を右舷に傾ける
後続も続々と同じ姿勢をする
「撃て」
「ってぇぇぇ!!」
トリステイン艦隊から一斉に火を噴き、雲海に向けて榴弾が放たれた
トリステイン艦艇が長口径砲を搭載出来ない事に悩んだ結果、艦自体を傾斜させて曲撃ちし、射程を延ばす方法を取ったのだ
そして大量の榴弾が雲に撃ち込まれ、雲海で炸裂する
ババババン!!
雲を大量の榴弾で蒸発させつつ吹き飛ばし、降下をしているロイヤルソブリン級が現れた
「弾種通常弾。砲身仰角最大。艦ロール水平、撃ちつつ反時計で接近。グリフォン隊に撹乱させろ」
「前進取り舵。砲身仰角最大、艦ロール水平、通常弾換装、続けて撃て!!」
雲を焼き払われ、視認出来る様になり、アルビオン艦隊も通常艦を参加させる為に雲下に降りて来た

*  *  *
「おっと、まさか榴弾で雲をすっ飛ばして来るとは、隠れて攻撃って訳にも、行かなくなっちゃいました。竜騎士隊、出撃。艦隊降下、高度2000」
『いやぁ、竜騎士隊出撃させないで良かった。出してたら、榴弾に巻き込まれて全滅させてる所だった』
ホレイショは内心ヒヤヒヤだったのを押し隠し、何でも無かったかの様に指揮を続ける
指令を受けた竜騎士隊が飛び立ち、10騎が艦隊直掩として艦隊天井を旋回し、20騎が攻撃に向かう
「良し、直掩隊は無理するな、斥候任務で消耗してる連中は注意しろ」
「「アイアイサー」」部下からの遠話での返答に笑みを濃くし、ワルドは以前の所属部隊を眺めつつ、背後に乗ったメンヌヴィルに話しかける
「突破にあんた達メンヌヴィル隊の力を貸してくれ。部下達はドットやラインばかりだ。暴れたいんだろう?」
「…良いだろう」
メンヌヴィルの返答に頷き、更に遠話で指示を下す
「攻撃隊聞け。敵グリフォン隊は、非常に強力だ。トライアングルがゴロゴロ居る。風魔法でグリフォンを強化してくるぞ。竜騎士に匹敵する部隊だと認識しろ」
「だから攻撃にメンヌヴィル隊による支援戦闘を、隊長メンヌヴィルから許可を得た。乗せたメンヌヴィル隊と合同で事に当たるぞ」
「「サー・イエス・サー」」
「各員クロスチャージに気をつけろ。奴等のランスは、当たれば一撃で貫かれる。ゼロ距離で戦うな」
「「アイサー」」
威勢の良い返事にワルドはニヤリとし、聞いていたメンヌヴィルも不適に笑う
「突破する、付いて来い」
空中で互いの砲弾が飛び交う中、グリフォン隊と竜騎士隊が真っ向からぶつかる
魔法が飛び交い、互いに回避しつつ格闘戦だ
「ウル・カーノ・イング・ティール・ハガラース」
「成る程な、ウィンデ」
メンヌヴィルがフレイムスプレッドを詠唱し、広範囲に小型の火球をばら蒔き、其をワルドがウィンドでホーミング支援する
マジックミサイルを放ちながら、回避を取ったグリフォン隊の回避軌道上は、竜騎士隊のブレス射程だ
完全に誘い込まれた訳である
ブレスの吐く音と、メンヌヴィルが炎弾を炸裂させる音が砲の交響曲に追加され、響き渡る
ブフォォォォ
ババババン
グリフォン隊の9騎が焼かれて墜落していき、更に10騎が衝撃と音響で平衡間隔を崩して、錐揉み落下して行く
そしてその隙に竜騎士隊はグリフォン隊を突破し、トリステイン艦隊に襲いかかった
竜騎士隊がトリステイン旗艦上空を通過すると、そこからメイジ達が次々に降り立つ
「敵襲〜〜〜!!水兵前へ!!」
メンヌヴィルが鉄棍を手近な兵に叩きつけつつ、詠唱を行う
「ウル・カーノ・ソウイル・ベルカナ・ハガラース」
そのまま杖である鉄棍を払うと瞬間、太陽の様なまばゆい巨大な火球が現れた
バシュバシュバシュ
巻き込まれた人や物問わず、瞬時に蒸発していき、マストが消失し、倒れていく
「白炎………メンヌヴィルだ、メンヌヴィルが敵に居るぞ!!」
余りに有名な白炎の二つ名
殺戮が為に殺戮を行う、禍々しい傭兵メイジ
兵が恐慌状態に陥っていき、そこを見逃さず、メンヌヴィルの部下達が次々と仕留めていく
「クックックックッ、そうだ、白炎のメンヌヴィルだよ、お前達。さぁ、俺にお前達の焼け落ちる様を、とくと味あわせてくれよ!!」
メンヌヴィルの歩いて行く目の前にポワチエがおり、護衛と共に詠唱し攻撃するが、横からエアシールドを詠唱したメンヌヴィルの部下に阻まれる
「で、隊長。指揮官も隊長が焼いちまうんですかね?」
「何だ?手柄が欲しいのか?」
「そりゃあもう。褒賞金は欲しいですからねぇ」
「爺は焼いてもつまらん、好きにしろ」
「やった」
メンヌヴィルがもう一度詠唱し、火薬庫目指して火球を放つのと、部下がトルネードでポワチエを護衛共々ズタズタに螺切るのが重なった
ドドン!!
火薬庫の火薬に引火し、旗艦が爆発炎上を起こして墜落していき、カッターに乗組員が乗って脱出していく
「キル・ゼム・オールと命令されたか?」
一応部下に聞くメンヌヴィル
「いえ、艦の撃沈ないし制圧のみです。無駄に魔力使う事もないっすね」
「じゃあ、次……と、ワルドの奴が隣艦落としてやがる。乗り移るのにフライ使えってか?あの野郎」
「旗艦との連携崩すには仕方ないっすね、隊長」
パシュッ、パーン
信号弾が撃たれ、部下がメンヌヴィルに報告する
「隊長、ヨークから撤退信号です。トリステイン艦隊が撤退始めたみたいっすね」
「ふん、目的は果たしたと。帰るぞ、ワルドに魔法信号弾撃て」
「了解」
パシュッ
部下の一人が信号弾を打ち上げ、竜騎士達が墜落していく艦に近づき、メンヌヴィル隊が次々に飛び降り、竜騎士隊が受け止める
ポワチエと2艦を失い、残り5艦も小破ないし中破し、グリフォン隊も20騎を損耗
撤退を指揮するトリステイン艦隊ウィンプフェンが、撤退中にガリア側から商船団が飛び立って行くのが見えた
今回、トリステインは完全に敗北したのである

*  *  *
「いやぁ、二人共、素晴らしい働きでした」
そう言って、ホレイショは帰還した二人の両手を無理矢理握手し、ワルドは無表情、メンヌヴィルは不満気だ
「ホレイショ、もう少し叩いておいても良かったのでは無いか?」
「いやぁ、実はあれで精一杯なんですよ。トリステインの艦隊機動に兵がついて来れて無かったし、艤装も終わってません。あれ以上戦うとボロが出ます。こちらに大損害出ない内に、撤退した方が利口ですよ」
ボリボリ頭を掻いて苦笑するホレイショ
「ふん、そう言う事か」
メンヌヴィルがくるりと振り返り、自室に去る前にホレイショに言う
「帰港したら部下を遊ばせたい。良いな?」
「勿論です。メンヌヴィル隊と竜騎士隊には休暇を与えますので、存分に遊んで下さい」

*  *  *
ガチャ
「ったく、何だい?わざわざ酒場に呼び出しかい?」
ヨークに設置されてる酒場に、フーケはワルドに呼ばれて入室する
昼間から飲めるのは、任務をこなした上に、戦果迄重ねた高級士官だからである
今はワルドとフーケ以外はバーテンのみだ
「で、報告かい?全騎きちんと休めてあるよ、騎士は彼方にまだ酒場が無くて、不平たらたらだ。此方に呼んだらどうだい?」
「帰港したら、休暇が有るから其まで待てと伝えろ」
「了解」
そのままカウンターのワルドの隣に座り、酒を注文する
「バーボン、ロックで」
こくりとバーテンが頷き、士官用の氷の入った酒を差し出す
氷は前線では貴重品である
最低でも、士官にならないと出せないのだ
「で、他にも有るんだろ?」
ワルドの席を見ると、座って無い左の席に、同じくバーボンのグラスが置かれている
フーケは気付く、陰膳だ
「……ホレイショが兵が動かなかったと言っていたが、本当か?」
「何だい?そんな事かい?本当だよ、本当。何処もかしこも、失敗ともたつきばかり、士官や下士官連中が頭抱えてたね」
「…そうか」
そのままワルドが飲み下し、グラスを置くと変わりのグラスが提供される
『隊長、ようやく水のトライアングルにクラスアップしましたよ。此で、お子様扱い止めてくれますよね?』
『ったく、土と言えば、どいつもこいつもグラモンって言いやがって。俺のが土の能力上ですよね?隊長。あ〜ムカつく。俺がヒポグリフ隊の隊長になれば良かった』
『何か炎のコツが掴めて来ました。このまま行けば、スクウェアも夢じゃないです。隊長見てて下さい。僕がトリステインの、先代ヴァリエール以来の火のスクウェアになりますよ』
目を閉じたワルドの脳裏に、過ぎ去った日々が鮮明に映る
フーケはワルドのダンマリに、グラスをカランと手でくゆらせながら、ぽつりと呟いた
「……ワルド」
「…」
「あたいの独り言なんだけどさ、敵方になったとしても、死者を悼むのは許されると思うんだよね。例え手を下したのが自分でも、偽善者と言われても、やらない奴よりやる奴のが好きだよ、あたいはね」
フーケの独り言に、ワルドもグラスのバーボンを一気に煽り、暫くしてから、独り言を呟き始めた
「……アルフォンス、セドリック、シャルル、アンリ……」
交錯した時の驚愕の顔、そのせいで彼らの反応が遅れたのを、自分が冷静に指揮で仕留めた事が目に焼き付いている
「ギュンター、ジャック、ノエル………普段のお前達なら、あれ位何でもないのにな」
自分自身が本来得ていた物を、自ら壊してしまった
人は、どうして失ってからしか気付かないのだろう
フーケはそんなワルドの肩に、こつんと頭を預ける
「……嫌いじゃなかったのか?」
「今でも嫌いだよ」
「…そうか」
フーケは頭を預けながら反芻する
不器用に忠義を尽くし、主家の為に命を落とした父
敵にも関わらず、被弾覚悟で攻撃しなかった才人
そして、寝返りながら、かつての部下を思うワルド
「男ってさ……皆……不器用で馬鹿だよね」
「…そうだな」
「でも……そんな馬鹿が出来るのが、良い男だと思うんだよ」
「……」
「良い男に寄りかかって酒を飲むのは、佳い女の特権なんだ」
「…そうか」
酒場は蝋燭が揺らめき、ワルドは黙って葬送を行い、フーケはそれに付き合った

*  *  *
才人の所にグラモン伯から緊急の手紙が入ったのは、ガリア方面軍の敗北の数日前である
手紙にはこう書かれていた

不味い事になった
このままじゃ、鉄鉱石が早晩枯渇する
対策を練りたい、直ぐに来てくれ

手紙を受け取った才人は真顔になり、一人向かおうとしたら止められた
「才人君、何処に行くのかね?」
才人達が居る棟は、慣らしをせずにぶん回したエンジンを一旦バラシ、掃除をしてから組み直し、当たりを付ける為に水車に繋げて回転させる慣らし運転場だ
「グラモンで不味い事になりました。ちょっと行って来るんで、プロペラユニットの製作と総指揮お任せします」
「我々が全員で行っても、解決はしないと言う事か?」
「多分。貿易の関係としか思えない」
「了解した、行ってくれ。零戦は置いて行ってくれ。プロペラを参考にするからね」
「了解」
才人が出て行くと、エレオノールが付いて来る
「エレオノールさんは製作してくれ。皆やる気出てるから、ペース落としたくない」
「残念ながら、私はあんたの秘書。つまり、同行するのが当たり前よ」
「命令だ。頼む」
「…嫌よ」
先行して歩く才人の腕を掴んで、拒むエレオノール
「あんた、書類仕事下手くそじゃない。後で苦労する位なら、最初からやるわ」
「……ふぅ、全く」
才人はそれ以上言わず、竜籠に二人で乗って、グラモンに向かったのである

*  *  *
才人がグラモン伯邸に顔を出すと、訓練後なのであろう、土埃をそのままにジョルジュが待っていた
「忙しい所済まない。座ってくれ」
才人達が座ると、書類が幾つか渡された
「家が取引してる、鉄鉱山の所有領からの通達だ」
其処には計った様に、値上げの文字が書き連ねていた
「コイツは?」
「トリステインが、新金貨に完全移行したと同時に通達しやがった。きちんと条約に沿っている。条約には値上げしちゃ駄目なんざ、一言も書いてないからな。糞ったれ!!」
ジョルジュは本当に歯痒いのだろう
「家は特に王家への忠誠が篤いのが自慢でね。真っ先に新金貨への交換をやったんだが、完全に裏目った。今は、そんなに資金が無い、輸入が激減する!!鉄が足りなくなる。このままじゃ、戦争に勝てねぇ!!錬金で出来る分量じゃ足りないし、屑鉄同様銑鉄からやり直しだ。メイジが何人居ても足らない!!」
髪の毛をぐしゃぐしゃにし、叫ぶジョルジュ
そもそも、鉄が錬金ではなく、製鉄を行っているのは、錬金で精製出来る量より、製鉄所を稼働した方が大量生産出来るからだ
メイジと言えど、物量は賄えない
才人がそのまま書類を良く読んでいくと、唸り声を上げる
「糞っ。俺の失策だ。為替固定すりゃ、何とかなると勘違いしてた。そうか、金本位じゃ重量取引だから、値上げすんのが当然か」
才人は書類を放り出し、ソファーに身を沈める
才人の言う通り、金本位は重量取引である
貨幣価値を薄めても、その分の量を上乗せされれば元の木阿弥だ
しかも、新金貨交換で、資金重量は2/3に減っている
完全に才人の失策だ
信用決済制度に住んでた才人には、金本位の重量取引の概念に気付かなかったのだろう
現代日本人だから陥ったと言える
「どうする、兄弟?」
「どうするもこうするも、屑鉄拾って集めてリサイクルするしか無い」
「屑鉄を買い取るのか?言っておくが、屑鉄集めなんざ、鍛冶屋が普通にやってるぞ?」
「戦闘で使われた砲や砲弾は?」
「空中でばら蒔かれた砲弾を、わざわざ森に入って回収する物好きなんざ居ないが?」
「じゃあ、それで行こうか。狩人とメイジのセットで、動く様に進言しよう」
「成る程。ラ=ロシェールも枯渇するだろうから、王命で号令かけられそうだな」
「後は、前線に出ないメイジで暇な奴を動員して……」
協議を続けてると、黙ってたエレオノールから突っ込みが入った
「で、費やす費用に対して鉄は集まるの?」
二人共に沈黙する
どう考えても赤字だ
交通手段の発達してないハルケギニアでは、人海戦術による虱潰ししか方法が無い
しかも、現在余ってる人員は無く、全て軍に持っていかれてる
そして、人の手の入って無い森は、魔獣や幻獣の天国だ
きちんと訓練を受けた人間でないと、危険過ぎる
正に、二人が言ってたのは机上の空論だ
軍を動員せねば、屑鉄集めすらままならないのが、ハルケギニアである
立ち上がってた二人は、ソファーにどさりと座り込み、唸り出した

*  *  *
「もう、どうする積もり?」
「……考え中」
エレオノールと才人が、エレオノールが以前から充てがわれてた部屋にて、今後の方針に付いて相談しているのだが、良い案が中々出ず唸りっぱなしだ
アイデアが出ない為に、才人は酒に手を出している
そして、エレオノールは全裸で才人にもたれながら、ワイン片手に才人の考えを補強してるのか、邪魔してるのかといった感じだ
「エレオノールさんも、アイデア出してくれよ」
「私の勤務時間は終了。今はプライベートよ」
「……あのな」
「だって、酔っちゃったもん」
才人の服は既に脱がせている
蛞蝓の様に、才人の上でうねうね身体をくねらせ、赤みが増した顔は才人の首筋から耳元に熱い息を吐き
舌がチロチロと才人を擽り、右手はワイングラス、左手は才人の息子をずっと弄くっていて
エレオノールのツンと尖った乳首は才人の乳首と絡まって才人の乳首も尖り
股間から愛液が垂れ、才人の太ももを挟んで、たっぷり擦りつける
本能を炙り出す香を使い過ぎた弊害か、エレオノールは才人と肌を合わせると、欲情しっぱなしになってしまった
「んく、んく、ぷはっ」
才人の背後に回した右手のワイングラスを、回して才人の右肩に持っていき、そこからワインを飲み、才人の上で気怠げに身体を動かす
酔いが回ってるのだろう
「へいみんはぁ、むずしくぅ、かんがえすぎぃ」
「……そうか?」
「新型配ってぇ、旧型を回収しちゃえば良いのよぅ」
才人はその言葉に固まる
「…そうか、その手が…」
「後は後日にしよぅ。眠いしぃ、したいしぃ、動きたくなぁい」
「解った。御褒美だ」
「やん」
才人はエレオノールをベッドに倒すと、エレオノールは股を開き、両手を拡げて受け止めた

*  *  *
才人達が協議をしていると、グラモン邸に騒ぎが起きた
「何だ?騒がしい」
ジョルジュが吐き捨て、自分達の協議の邪魔になりそうなので、召し使いに命令を下そうと外に向かって行こうとしたら、ノックがかかった
コンコン
「入れ」
ガチャ
「失礼致します旦那様」
「一体何の騒ぎだ?」
「はっ。ガリア方面軍が敗北して帰還しました。二隻失ってます。戦死、行方不明者も三桁に達したみたいでして」
「何だと!?」
ジョルジュが息を飲み、才人達も驚きの表情を浮かべる
「では、封鎖を突破されたのだな?」
「左様で」
「…修理と負傷者の収容と治療急げ。次の周回期迄に復活させろ」
「かしこまりました」
パタン
ジョルジュが指示を下して執事が退出し、そしてドカリとソファーに座り込んだ
チリン
呼鈴を鳴らしてメイドを呼び込むと
「レティシア呼んでくれ。それと酒」
無言で一礼してメイドは去り、ジョルジュが呟いた
「悪い時は、悪い事が重なりやがるな、ったく」
「全くだ」
才人が頷いて肩をすくめる
「どんどん情勢悪くなるわね」
エレオノールも溜め息を付いた
ガチャ
「あらあら、皆して不景気な顔しちゃって、グラモンらしくないぞ?」
そう言って笑いながら、酒を片手にレティシアが入室して来る
「不景気を笑い飛ばしたくてな」
「だと思った」
棚からグラスを取り出し、レティシアは人数分のグラスを用意して、皆に酒を注ぐ
「大丈夫、大丈夫。何とかなるって。その為に今は大変なのよ。乾杯」
「「「乾杯」」」
チン
グラスが合わさり、皆で酒を流し込む
「レティシア」
「はいはい」
「治療に行ってくれ」
「準備は出来てるわ。ポーションもばっちり」
「本当に佳い女だよ、お前は。良し、一発やるか」
「あっはっはっはっ。了解ですわ、だ・ん・な・さ・ま」
レティシアが弾む様に応じ
「悪い、って訳で、30分程席外すわ」
そう言って、ジョルジュは陽気さを取り戻し、レティシアと共に出て行った
パタン
二人のやり取りにぽかんとしてた才人とエレオノールは、お互いに顔を見合わせる
「さっき迄の雰囲気、吹き飛ばしちまったな」
「……凄いわ。尊敬しちゃう」
互いにプッと吹き出して、更に酒を煽った

本当に30分で戻って来たジョルジュは、すっきりした表情で、陽気な笑みを湛えている
「お早いお帰りで」
才人がニヤニヤして言うと
「ばっか、何時もなら、打ち止め迄搾られてるって。治療に行って貰う為に切り上げたんだよ」
「本当かぁ〜?」
才人のニヤつきに笑いながら、ジョルジュは応じる
「本当だって。さてと、すっきりしたから、アイデアも空っぽだ」
「おい」
ジョルジュがからから笑うと、二人も釣られて笑う
「後は陛下次第だろ?もう、さっきの迄で手一杯だ」
「…だな」
ガシャン!!
そんな事を話してた時に、窓ガラスが割れて、何かが飛び込んで来た
「きゅいきゅい、ちょっと痛かったのね、きゅい」
「…何だ?全裸の女?」
ジョルジュがきょとんとして彼女を見つめ、エレオノールはすかさず才人の目に手を置く
「ちょっと、何すんだよ?」
「五月蝿い。平民は見ちゃ駄目」
「いや、だって知り合いだし」
「知り合い?」
ジョルジュが才人に聞き、才人が頷く
暫くきょろきょろしてた彼女が、才人を見付けて飛び付いた
「やっと見付けたのね〜!!学院にも居ないし、空から見掛けた竜の羽衣置いてた所にも居なかったし、ギーシュ様の所で見つかって良かったのね、きゅいきゅい」
「どうしたイルククゥ。何か有ったのか?」
才人に飛び付いて、焦った顔でイルククゥはきゅいきゅい言っている
「ちょっと、その娘全裸」
「何か裸族みたいでな。服良く脱ぐんだよ」
そう言って、才人は手を頭に持っていってクルクル回すと、二人は頷く
微妙にアレな方々は、貴族には付き物だ
一生を幽閉されて過ごす者も居る
「で、タバサに何か有ったのか?」
「そう、お姉様!!お姉様がピンチなのね。才人じゃないと、助けられないのね。早くイルククゥと一緒に、お姉様の所に行くのね。シルフィも待ってるのね、きゅい」
本当に、悪い時には悪い事が重なるらしい
才人は真顔になって聞く
「一体何があった?」
「お姉様と一緒にお仕事した後に、お家に帰ったのね。そしたら、お姉様ですら苦戦する敵が来て、お姉様毎日防戦してるのね」
「タバサが苦戦だって?」
イルククゥが頷く
「そうなのね。イルククゥもお姉様と一緒に戦おうとしたんだけど。執事やお母様守りなさいって言われて、従ってたのね。でも、お姉様一人じゃ、このままじゃ負けてしまうのね」
イルククゥの訴えに、才人の雰囲気が変わっていく
「何で手紙で呼ばない?」
「梟便は全部撃ち落とされたのね」
つまり、今、タバサは孤立無援だ
「つまり、詰みになるから、そうならない内に、脱出して助けを求めに来たんだな」
ジョルジュがそう言って、エレオノールも事態が深刻なのを理解する
「エレオノールさん、悪い」
「良いわ、行って来なさい」
エレオノールは、実戦では自分は役立たずと理解している
そして、才人もその考えは否定しない
魔法は使えても、全く鍛えて無いのだ
接近されたら終わりである
コンコン
「何だ?取り込み中だ?入るな」
ジョルジュがそう言うと、執事から扉の外から声が掛かる
「フォン=ツェルプストー様がお見えです」
「キュルケか?来て貰ってくれ」
才人が言うと、ジョルジュが指示を下す
「ツェルプストー嬢なら入って貰え。それと適当な女物の服、メイド服で良い」
「かしこまりました」
ちょっとすると、キュルケが執事を伴って入って来た
執事は服を置いて去り、キュルケがエレオノールを見た瞬間に魔力を立ち上げながら睨み、才人には艶然と微笑んで挨拶する
「もぅ、ダーリンったら寂しかった?最初はモンモランシに行ったら、此方だってモンモランシーが言うし、移動に時間食っちゃった。私が居ないからって、ヴァリエールに手なんか出しちゃ駄目よぅ?今日からは、私が存分に相手してあげるわね」
そう言って、才人の唇に軽くキスを交わし、そのままエレオノールに睨みを効かせる
「ヴァリエールとツェルプストーの伝統はご存知?」
「…宣戦布告?」
「勿論」
「毎回勝つとは思わない事ね」
「あらやだ、自信満々ね。両方負けも有り得るのにねぇ」
臨界に達しつつある空気に反応し、才人が肩に手を置いて、キュルケを離す
「志願は跳ねられたのか?」
「女は駄目ですって。仕方ないから軍の知り合いに、フレイム置いて来ちゃったわ。せめて、リアルタイムで戦場見たいじゃない」
「そうか」
「で、多分困った事になってない?」
「まぁ、色々と」
「え?値上げの話だけじゃ無いの?」
キュルケが驚き、事情を説明する為にキュルケを座らせ、自分達も座ってお互いに情報の整理だ
「……参った、ツェルプストー伯の企みかよ」
ジョルジュが吐き捨て
「だから、ツェルプストーは信用出来ないのよ」
エレオノールはつんけんし
「…流石だな。って事は、ガリアはガリアでタイミング見計らって一斉に動いたのか。俺じゃ相手にならねぇな、こりゃ。でも良いのかキュルケ、バラシちゃって」
「うん。だって、それすら伏線だから構わないって父様が。本命は此だって」
そう言って、ツェルプストー伯爵家の家押が押された手紙を、才人に手渡す
才人は読み進める内に苦笑する
「成る程ねぇ。ゲルマニアでの、ツェルプストーによる新技術独占と技術提供の代わりに、ツェルプストーから従来価格での鉄鉱石の取引並びに、新艦建造に纏わる鉄パイプの輸出か」
才人はその手紙に舌を巻く
そして、追伸の所は誰にも喋らない
中身を知ってるのか、キュルケはそんな才人をにこにこしながら見ている
新進気鋭とは、正にこの事なんだろう
ゲルマニアが、何故権勢を誇っているかが、ありありと才人には解る
「どう?ダーリン」
「鉄パイプは何れくらいの長さで作れる?」
「100メイルで出来るわ」
「…マジかよ。日本じゃ定尺6m、特注品でも最長12mだっつうのに…」
ハルケギニアの技術は、魔法を含め、所々日本の技術を凌いでいる部分が有る
「……悪いが工場の技術指導は時間が無いから無理だし、姫様との契約に違反するな。製鉄技術と、操舵システム程度なら抵触しないかな?」
「じゃあ、新造艦の独占販売契約で。同盟の範囲内じゃないかしら?」
「ちょっと、俺だけじゃ無理だな、姫様に相談しないと」
才人は、交渉手腕がゼロ機関の上の政治力が必要になったのを理解し、ジョルジュを見ると、ジョルジュは鉄鉱石の販売に反応する
「頼む、兄弟。是非とも交渉してくれ」
「俺も交渉の余地は多分に有ると思う。でも後だ後、先にこっちに行かないとな」
そう言って、さっきからきゅいきゅい言いながら服を着た後、お菓子を平らげてるイルククゥを見る
「その娘、誰?」
「イルククゥ。タバサの義妹なんだと」
「…初めて見たわ。でもタバサは?」
「実家で戦闘中で、救援を俺に求めて来た」
バシィン!!
言った直後に、才人が思い切り頬を平手で叩かれた
「先に言いなさいよ!!馬鹿ぁ!!」
キュルケが本気で怒っている
そんな顔すら美しい
「……悪い」
「勿論行くんでしょ?」
「当たり前だ」
「じゃあ行くわよ。さっさと用意しなさい」
「あぁ、二人共ちょっと待ってくれ」
ジョルジュが声を掛け、立ち上がった二人が振り返る
「兄弟に渡す玩具が有る。用意する間に飯を食ってくれ」
「…武器か?」
「ゼロ機関設計の新式擲弾だ。01式と03式の量産試作が出来てる。持っていけ。02式はもうちょい時間が掛かる」
「解った。玩具は多い方が良いな。キュルケ、腹ごしらえしてから出るぞ」
「了解。腹が減っては、戦は出来ないものね」

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Last-modified: 2011-09-05 (月) 11:52:54 (4616d)

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