X4-714
Last-modified: 2011-09-15 (木) 02:04:40 (4600d)

才人が擲弾を受け取ると、一緒に作って貰ってた革製のラックにベルトを通して吊り下げた
弾は各三発ずつ、計六発である
そして、準備を終えた才人達がシルフィードに乗った時に、イルククゥは居なかった
「あれ?イルククゥはどした?シルフィード」
「きゅい」
首を傾げるシルフィード
「ちょっと、早くしなさいよ。イルククゥちゃん置いて行けないじゃない」
シルフィードは、非常に悩んだ表情を見せる
とかく、人間臭い風竜である
「もう隠せないのね。私がシルフィードでイルククゥなのね〜、きゅいきゅい」
「…竜が喋った」
キュルケが絶句する
「珍しいのか?」
「珍しいも何も、伝説の韻竜しか喋る………韻竜!?韻竜なの、アナタ?」
「そうなのね、由緒正しき古代種たる風韻竜なのね。きゅいきゅい」
「デルフ」
カチ
「あいよ」
「風韻竜って知ってるか?」
「知ってるよ。この竜の嬢ちゃんは、風韻竜じゃねぇか。相棒はともかく、ゲルマニアの姉ちゃんも判らなかったのか?」
「韻竜って、絶滅してたんじゃないの?」
韻竜の実物を見て、キュルケがすっかり動転している
「あぁ、そりゃ人間が勝手に言ってるデマだデマ。結構空飛んでんぞ?」
「……嘘」
「まぁ、連中見つからない様に先住魔法で身体隠してるし、先住魔法使って一万メイル上空だから、見つからないのも解らんでも無いがね」
「……びっくりした」
「へぇ、エンシェントドラゴンか。ちっとも有り難みがない竜だな」
「伝説の古代種たるシルフィに、そんな言い方失礼なのね、きゅい」
シルフィードがプイッと顔を背け、不満を表明する
本当に人間臭い
「伝説が何で腐ったか、色々と聞きたい事が有るが、とにかく今はタバサの所だ。シルフィード、頼む」
「了解なのね。機関最大戦速、目的地はイスカンダルなのね〜〜」
「だから、何で知ってんだよ?」
才人の問いには答えず、シルフィードは一路タバサの元に飛び立った

*  *  *
タバサは家の周りの木々と茂みの中を縫い回り、木を背に息を殺している
『手強い』
ずっと攻めて来ているのに関わらず、攻めきらずにやたら引き延ばしをしてる感じがする
そう、相手は獲物を相手に遊ぶ猫の性だ
『私をなぶってる。でも、だからこそチャンス。シルフィード、お願い、間に合って』
魔力の立ち上がりを感知し、一瞬躊躇うが直ぐに決断
『デル・ウィンデ』
ウィンドカッターを唱えて、周囲を窺う
ガサッ
動き出した相手に、音を頼りに振り返り、無言で杖を振るい、ウィンドカッターを叩き込むと、すかさず茂みに身を隠しながら移動する
小柄なタバサはこういう時には便利だ
「おっと、良い勘してる」
回避した敵が、のんびりとした様子で、隠れてるタバサに声をかけた
「なぁ、そろそろ終わりにしない?僕も隠れんぼは飽きちゃったよ。兄さん、やっちゃって良い?」
「ったく、堪え性が無いな、ドゥードゥー。良い機会だ、きちんと勉強させて貰え」
「ちぇー」
向こうは複数居るのにも関わらず、たった一人で攻撃している
そうじゃ無ければ、とうの昔にケリが付いた筈だ
勿論タバサの死という形で
わざわざ、毎日襲撃の終了を宣告して、食事を取る時間すら用意する、大盤振る舞いである
明らかに、タバサで遊んでいるのだ
『誰の差し金?私をいたぶる事自体が目的?』
そんな事するのは一人、心当たりが有る
『でも、今回は地下水の時と違って複数。しかも、手を出して無い連中の方が実力は上みたい』
「うん、飽きた。ちょっとスリル増す位は良いよね?」
「それ位なら良いぞ」
下草をサクサク踏みながら、その男、ドゥードゥーと呼ばれた少年は、詠唱を始めて杖を無造作に振るう
鞭の様に唸りを上げた杖には、20メイルはあろうかと云う、巨大なブレイドが形成された
「それじゃ、避けないと死ぬよ〜。そらっ」
ぶん
横薙ぎにブレイドを払い、その軌道上の木々事、全てを薙ぎ払った
バキバキバキバキ
幹を切断された木々が、盛大な音を発てて倒れていく
ズズン
「あれ?やっちゃったかな?」
少年がぽりぽり頬を掻いていると
「馬鹿、上だ!!」
その声に上を扇いだ少年は、フライで飛んだ後解除して、落下しながらウィンディアイシクルを纏って連射を始めるタバサを視界に捉える
ビスビスビスビス
全ての氷の矢が少年に命中し、タバサが着地する
スタッ
『取った』
シールドを展開してはいない、完全にタバサは勝利を確信したが、相手は倒れていない
「いやぁ、参った参った。流石雪風。今のはヒヤッとしたよ」
少年が受けた氷の矢がぽろぽろと落ち、その下から硬化した皮膚が顔を覗く
『駄目!?不味い、誘われた!!』
少年はタバサが出るのを待って居たのだ
すかさずブレイドを展開しながら駆け出し、タバサに接近する
『才人より速い!?』
風を纏って袈裟懸けに斬り込まれた初太刀は回避するが、態勢が崩された
今攻撃されたら、手足所か、首を跳ねられる
ゴオッ!!
突然、上から盛大に風が叩き付けられ、二人を地面に押し付けた
「むぎゅっ。何だよこれ?」
「きゅいっ、きゅいっ、きゅいっ」
そして、一体の風竜が、ズズンとタバサと少年の間に着地し、高らかに口上を謳い上げた
「天知る地知る竜ぞ知る。悪の野望を打ち砕くこのイルククゥ。背中に乗る才人が怖く無ければ、かかって来るのね〜きゅいきゅい」
「何で、そう知ってんだお前は?しかも他力本願じゃねぇかっ!!」
才人の突っ込みに、やはりシルフィードは無視し、タバサに声をかけた
「お姉様、大丈夫なのね?才人が来たからもう大丈夫なのね〜、きゅい」
埃を払い、無表情に立つタバサ
少年は、一旦距離を取っている
「ちっ、使い魔の風竜か。喋れたのか?」
「それじゃ挨拶なのね」
そのまま背中に乗ってた才人を、かぷっと喰わえたシルフィード
「ちょっ、ちょっと待てシルフィード。何する積もりだよ?」
そして、首を振るってぐるぐる回しだした
「おわっ!?止めろ、馬鹿!?」
ブンブンブンブン、ブン!!
勢いを付けて回した才人をそのまま少年に向けて投げるシルフィード
「どわぁぁぁぁ!?」
「大車輪サイトパンチなのね〜」
ドカッ!?
意表を付かれた少年が、村雨に手を掛けた才人のラリアットを食らってKOされる
「痛ててて、こんの馬鹿たれ!!俺はマジンガーの腕かよ!?」
右腕は見事に脱臼している
「風よ、才人を運ぶのね」
「ちょっ待て。お前更になんかやる気か!?」
才人がシルフィードに運ばれて、口元に問答無用で移動する中、シルフィードは更に陽気に歌う
「才人の力を借りて、今必殺の、サイトアタック!!なのね、きゅい」
才人は真っ青になる
「よ、よせ、止めろ。死ぬから、絶対死ぬから!?」
才人の意見を無視し、再び才人を喰わえたシルフィードは、後ろに居たゴツい大男に向かって、才人を投げ付けた
「おわぁぁぁぁ!?」
「無茶苦茶だぁ!?」
ドカッ!!
呆気に取られてた男が我に返り、咄嗟に全身硬化し、飛ばされた才人が激突し、お互いに脳震盪を起こしてふらつく
それでも、才人はよろけながら逃げ出した
「イルククゥくらーっしゅ!!なのね」
幼竜とはいえ、7メイルの巨体が跳び上がり、羽を畳んで、そのどでかい後ろ足が揃って男に落ちて来た
ズズン
土埃が舞い、キュルケとタバサと他にも居た敵方の二人が、シルフィードの活躍をポカンと見ている
「……やると思った。絶対やると思った。逃げて良かった」
「相棒、何なんだありゃ?」
ぶっ倒れてゼイゼイ言ってる才人に、デルフが聞くと
「世の中、知らない方が幸せな事も有るんだよ」
「何だよそりゃ」
その先で、シルフィードが高らかに謳っている
「成敗!なのね〜きゅいきゅい」
ずしずし歩き、タバサに近付き、タバサに褒めて貰おうと寄り
「お姉様お姉様。やっぱり才人が居ると楽チンなのね。褒めて褒めてなのね〜」
頭を下げたシルフィードに杖の一撃が炸裂する
ボカッ
「い、痛いのね酷いのね。シルフィ悪い事してないのね!?」
「…才人が負傷してる」
「せっかくだから、シルフィの遊びで才人と遊んだのね。才人も楽しんだのね」
ボカッ
更に叩かれるシルフィード
すっかり涙目になってうるうるし、両前脚で頭を抱えている
「酷いのね痛いのね。このちびすけ助ける為に、イルククゥ頑張ったのね〜〜」
「シルフィード、竜と人の体力考えなさいな」
流石に気の毒になったのだろう、きゅいきゅい泣いてるシルフィードにキュルケが助け船を出す
「水入りのお陰で、二人やられちゃいましたね。今日は此処までにしましょう」
向こうから声を掛けられ、脳震盪から復活した才人が立ち上がり、睨む
「今日?」
「えぇ、こちらも仕事でして、個人的な恨みは全く無いんですよ。一応タバサさんが降伏するか、我々が負けを認めるか、気長にやれとの指示でして」
相手は10歳前後の児童だが、話す内容は外見を裏切っている
才人は警戒を解かない
「…何だそりゃ?」
「まぁそういう事ですので、ジャック、ドゥードゥー、帰りますよ」
すると、KOされた少年はおろか、潰された大男迄立ち上がる
「おいおい、あれ食らって生きてんのかよ」
「まぁ、あの程度じゃ死ねないんでね」
足跡の下に、漫画の様に人型が出来ている
地面の固さより、硬化の強度が勝ったのだろう
林で土が柔らかいとはいえ、やはりメイジは一筋縄ではいかない
「明日はきちんと遊ぼうぜ、あんなの無しな。もしお前達が勝てたら撤退するわ。良いだろ?兄さん。正直俺も飽きてるし」
「ん〜そうですね。勝利ボーナスは勿体無いけど、敗北ペナルティも無いし。良いですよ」
児童の言い分に、才人はあからさまに態度が悪くなる
「……何なんだコイツら?お前らに取っては遊びかよ?」
「遊びだよ、遊び。制限掛かりまくってて、詰まらねぇのなんの」
ジャックと呼ばれた大男がそう言って、肩を竦める
「よっし、明日は全力だ。じゃあ、しっかり休んでね、僕も楽しみにしてるよ。ジャネット行くよ」
「はぁい。出番無くてつまんないですわ」
「そうそう、僕達は元素の兄弟って言われてるんだ。たまには生き証人残さないとね。じゃあ、また明日、合図は僕達からするよ」
そう言って、少年が手をひらひら振って歩いて行く
「デルフ、追撃」
「止めとけ。隙がねぇよ、ありゃ」
デルフの意見に溜め息を付いた才人が、ゴキリと肩をはめて顔をしかめた後、タバサに向かって歩いて行く
「悪い、タバサ。遅れて済まない」
才人が目の前に来るとタバサは臨戦態勢を解き、その瞬間腰が砕け、地面にぺたんと尻を付いた
「大丈夫かタバサ?」ふるふる首を振るタバサ
才人はそんなタバサを背負い、歩き出した
「大変だったな。相手、強かったか?」
「…才人より速いし、メイジとしても異常に強い」
「うわぁ、キツいなそりゃ」
才人も歩きながら、相槌を打つ
「……でも才人」
「何だ?」
「…家、逆方向」
才人は立ち止まり、180゜の方向転換を行った

*  *  *
才人達が家に着くと、老執事と料理人が揃って出迎えた
「お帰りなさいませ、シャルロット様、シルフィード様。いらっしゃいませ、ツェルプストー様に……」
「才人」
「…サイトーン様ですか?」
背負われたタバサから一言で言われて、次に平民がシャルロット王女を背負っている事に憤慨したのだろう
ペルスランが才人に当たり始めた
「シャルロット様を助けて頂いたのは感謝致しますが、平民風情が高貴なるシャルロット様に触れる等、無礼千万。即刻離れなさい」
「夫」
そう言って、タバサは才人を促し、歩かせる
「なっ、シャルロット様。幾ら何でも今のは聞き捨て出来ませぬぞ?お待ち下され」
「タバサ、キツイ冗談は止めた方が」
「…本気」
才人に対してあっさり言い、その時、館に悲鳴が響いた
「いやぁぁぁぁぁ!!」
才人が真顔になって駆け出し、キュルケが後を追い、シルフィードがポンと人間に化けてころころ転がる
「きゅいきゅい、準備運動しないと、上手く動かないのね。執事のお爺さん、シルフィの着る服を持って来るのね」
「あ、かしこまりました。シルフィード様」この連日の襲撃で屋内警備をシルフィードが担当しており、既に韻竜である事がバレている
そして、自分達の主人が伝説の韻竜を使い魔として使役している事実に感激し、一層の忠誠を見せている
シルフィードは美味しいご飯にありつけ、正に良好な関係が築かれつつあった
ただ一つの問題は、タバサの母である
悲鳴が出てる部屋の前に着くと、タバサが背負われたまま、身体を固くするのが才人に伝わる
「タバサの母さんか?例の?」
タバサが頷く
「大丈夫だ」
ガチャ
才人が扉を開けると、人形を抱えた青髪の夫人が、やつれて肉が落ちている
そんな状態で、才人達を見て更に騒ぎ始めた
「来た、また来たのですね?シャルロットは絶対に渡しません!!帰って、帰りなさいこの悪魔!!夫の様に殺すのですね?来ないで、来ないで〜〜〜〜〜〜!!」
そのまま人形をぎゅっと胸元で握り、ガタガタ震えている
そして、水差しを才人に投げ付けた
ガシッ
才人はそのまま受け、タバサを下ろす
「何時もこうなのか?」
「…襲撃され始めてから、酷くなった」
キュルケは思わず顔を背けている
そして、扉の後ろから、執事と料理人が駆け付けているが、入って来ない
普段取り押さえるのは、二人の仕事である
「飯食ってるか?」
「殆ど食べない。二人がかりで無理矢理」
「…そうか」
「何か反応するのは?」
「イーヴァルディ。でも、襲撃されてからは、それも駄目」
「…成る程ね」
そして、才人はツカツカと歩みより、夫人の目の前で膝を付いた
「初めてお目にかかります、夫人。俺は旅の剣士、イーヴァルディと云う者です」
才人の演技にタバサは驚くが表には出さない
少しピクンとするが、そのまままた騒ぎ出した
「う、嘘です。イーヴァルディが私の所に来る筈が有りません。どうせシャルロットを亡き者にしようする敵の暗殺者でしょう。近付かないで!!」
そう言って、才人を蹴る
しかし、才人は平然としている
訓練を受けず、しかも痩せ細った身体では、威力のある蹴りは出せない
最も、力は理性の箍が外れてる狂人らしく、強そうだ
「お疑いごもっとも。でも俺は、ほら、貴女の大事な大事な娘さんの、シャルロットちゃんからお願いされたんです。お母様を助けてってね。ほら、メイジはこんな剣使わないでしょう?」
カチ
そうしてデルフを出すと、デルフは陽気に挨拶する
「おぅ、俺っちはインテリジェンスソードのデルフリンガーだ。杖じゃねぇぞ?」
カチン
「本当に、イーヴァルディ?」
少しだけ目に光が戻るが、直ぐに狂乱の光が宿る
「う、嘘です。来ないで化物!!悪魔!!人殺し!!うっ、けほっけほっ」
「大丈夫ですか?」
思わず才人が背中を擦る為に身体に触れると、肌がガサガサだ
水分すら満足に取れてない
「触らないで人殺し。シャルロットには、絶対に触れさせません!!」
才人の腕を払って憎々しく睨み付ける
「…本当にギリギリだな。どうしようも無い時は?」
「睡眠薬か魔法で眠らせてる」
「…成る程ね。料理人さん、滋養たっぷりな消化の良いスープお願い。何時も作ってる奴で良いや。温めで」
「あっ、はい」
言われて料理人が厨房に去って行き
「タバサ。悪いけど、少し手荒にすっけど、良いか?」
「…何とかなるの?」
「食事位ならね。こんなに身体でかい相手は、初めてだけど」
「…お願い」
「解った」
才人はそのまま立ち上がり、夫人の手を掴む
「い、いやぁ。離しなさい!!シャルロットシャルロットは渡さない、嫌よ嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」
暴れ出した夫人の腕を、あっさり両腕を後ろ手にして片手で固定する
関節を極められたら、どんなに力があっても無理だ
すると、才人の首筋に噛み付いた
「っつぅ。美人の熱烈なキスは堪んないね。水差し」
隣に近寄ったタバサが、両手で才人の傍に水差しを差し出す
「ふぅふぅふぅふぅ」
才人は噛まれたままになっている
そして顎が疲れたのだろう、あんまり時間が掛からずに首筋から離れる
才人の首にはくっきりと歯形が残り、出血もしている
その時を見計らったのか、水差しから水を含むと、素早く顎に手をかけ、口付けを交わし、水を送り込んだ
左手で両手を抑え、右手は後頭部の後ろを押さえ、逃げれない様にする
こくんこくん
喉が動き、水を飲み込んだのをタバサが確認する
「飲んだ」
すると、才人が離れ、もう一度水を要求し、素早くタバサが才人に含ませると、すかさずキスで送り込む
こくんこくん
「…何で?」
自分達では常にどたばただ
操りも母親相手では、集中が乱れて上手く出来ない
杖を振るうと尋常じゃない恐慌を来して、後々状態が悪くなるのが常だった
ガリッ
「って」
唇に噛み付かれ、才人が血を流す
「ふぅふぅふぅ」
夫人の目は獣の目だ、才人を目の敵にしている
「大丈夫、俺はイーヴァルディ。貴女を傷付けたりしない」
そう言って、イーヴァルディはそのまま夫人を引き寄せ、首筋を舐める
「あっはっやっ」
ビクビク身体を奮わせて眼を瞑る夫人
才人の愛撫を受け、段々と力が抜けていく
「ん、余分な力が抜けたな」
力が抜けて頬に赤みがさす
「ふぅ、ん」
才人の愛撫を受けビクビクする母を、タバサは真っ赤な顔して見守る
そんなのを見せられたペルスランは猛然と寄ろうとしたが、タバサに杖を横に出されて止められた
「シャルロット様……」
「手段はどうあれ、母様が大人しくなった。さ……イーヴァルディに任せる」
ペルスランも観念したのだろう。一礼して引き下がる
イーヴァルディは理性の箍が外れてると判断し、本能に訴えた
人の欲求は中枢が破壊されない限り、本能からは逃れられない
そして理性が外れると、本能がその分顔を出す
「大丈夫。シャルロットちゃんも、このイーヴァルディが守りますから、怖がらないで」
「……ま…も…る…?」
「えぇ、シャルロットちゃんが貴女の事心配してますよ。母様がご飯食べてくれないって。大丈夫、誰も貴女を傷付けない。さぁ、先ず食事をしましょう」
「シャルロット…私の可愛いシャルロット。駄目、貴女は私が守る。絶対、誰にも渡さない。は……離れ、むぐ」
才人が唇を塞ぎ、舌を絡める
カラカラとワゴンの音がなり、料理人が食事を持って来ると、キュルケが受け取り、彼を部屋に入れず才人の傍に持って行く
「プハッ、ハァハァハァ」
すっかり艶が出て、官能の吐息を吐き出すが、イーヴァルディがスープを口に含むと、そのまま彼女に口移しで飲ませ始めた
こくんこくん
夫人の喉がなり、スープを飲み込んで行く
その後も何度も繰り返し、彼女のお腹にスープが収まった
そして、デザートにあった林檎を才人が頬ばり、軽く咀嚼すると、やはり口移しで彼女に送り込む
彼女の顎から咀嚼の音が聞こえ、飲み込んだ
「満足しました?」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ」
「では、また後で」
才人が離れると、彼女は静かに喋り出した
「イ」
「はい?」
才人が振り返り、にこりと微笑む
「イーヴァルディ?本当に?」
「えぇ、貴女の為に、この剣を捧げましょう」
「シャルロットを、シャルロットを守って」
「勿論です、夫人」
パタン

才人達が扉を閉めると、才人はそのまま扉に寄りかかって、ずり落ちた
「ふぅぅぅ。久し振りだし、大人相手は非常に疲れた。力が強いのなんの」
そんな才人を、タバサが真っ赤な顔して涙を溜めて見ている
「タバサ、悪い。あれ位しか、思い付かなかった」
「…母様にそういう事しないで」
「だから、悪かったって」
「…責任取って」
「…責任?」
「そう、責任」
才人は暫く考え、答えを出す
「…タバサが俺の娘になるのか?」
ボカッ
才人に杖の一撃が見舞われ、タバサはプンスカしながら歩き去り、ペルスランはそんな才人を睨み付けてから、同じく去る
「全く、ダーリンってば余計な事言っちゃって」
「ってぇ。俺、ちゃんとやったよなぁ?」
「やり過ぎなのよ、全く。アレじゃ睦あいじゃない」
「よっと」
才人が掛け声をかけて立ち上がり、キュルケと共に歩き出す
「んな事言っても、他に方法知らねぇし」
「その内酷い目に遇うわよ?」
「介護で文句言われるとはなぁ」
「違うのよ。ダーリンだから駄目なのよ」
「はぁ?」
『自分の母親が想い人にあんな姿を見せて、冷静でいられる訳無いじゃない。本当に馬鹿なんだから』
その後の、ペルスランの才人に対する扱いは最悪だった
露骨に無視したのである
食事も同席させず、食事も与えない
流石にタバサが怒ったので、主人の手前一応出したが、露骨に量も種類も減らしたのだ
風呂にも入れず部屋すら提供されず、才人が困ってると、キュルケがそんな才人をちょいちょいと手招きする
「ダーリンダーリン。お風呂一緒に入りましょ」
「え、でもキュルケ」
「いやぁね、今更恥ずかしがる間柄?」
「……まぁな」

*  *  *
風呂に一緒に入り、さっぱりした二人は別れて、才人は火照りを冷ます為にバルコニーに向かった
手には村雨を持っている
そのままバルコニーの手摺に腰掛け、ラグドリアン湖に広がる森を見ていると、声が掛かった
「イーヴァルディ様」
才人が振り返ると、老執事が立っている
「…えっと執事の」
「ペルスランと申します」
「ペルスランさんか。さっきの抗議かい?」
「それもございますが、お聞きしたい事が」
「…答えられる事なら」
そう言って、才人はペルスランの表情を注意深く見守るが、双月の灯りでも、才人には表情が読み取れない
「何故、イーヴァルディをお名乗りに?」
「タバサ…じゃないな、シャルロットの母さんが、イーヴァルディの勇者に反応するって聞いたからさ。理由はそれだけだ」
「左様でございますか。お願いがございます、イーヴァルディ様」
「…その名で呼ばれると、ちょっとな」
「いえ、イーヴァルディ様と呼ばせて下さい。せめて、この館に滞在中は、イーヴァルディを演じて頂きたいのです」
「…何で?」
「私めは、奥様とはご幼少のみぎりより、シャルル様との遊び相手として、お世話をさせて頂いたものです。奥様は、それはそれはイーヴァルディが大好きでございました」
「シャルル?」
「シャルロット様の御父上、この館の前の主人でございます」
「成程」
才人の頷きで、ペルスランは話を続ける
「シャルル様との結婚が決まった時には、はしゃいで私めにこう言ったものです『聞いてペルスラン。やっぱり私のイーヴァルディはシャルルだったの。こんなに幸せな事ってあって良いのかしら?私、二番目の恋が実ってしまったのよ?初恋はイーヴァルディだけどね。シャルルには内緒よ?』」
「…」
「私達のお世話では、シャルロット様を救う為に、自ら毒を煽った奥様を健康に保つ事は叶わず、毎日痩せ細っていくのを忸怩たる思いに、身を裂「もう良い」
才人が言葉を遮り、目には鋭い光が宿っている
「あの、ご不快になられたのであれば、先程の扱い含めて謝罪致し「違う」
改めてペルスランが見ると、才人が手摺から降りて、ペルスランの肩を手を置いた
「イーヴァルディは、たった一杯の水を分けてくれた少女の為に、命を賭けるんだろ?」
「……やはり、駄目でございますか」
たった一杯の水の為に、命を賭ける馬鹿は居ない
「イーヴァルディと呼びたければ、呼んでくれ」
そう言って才人は歩き出し、ペルスランに背中を見せながら、左手に持った村雨を掲げて見せると、振り返ったペルスランは深く、ただ深く頭を下げた

*  *  *
才人はその後きちんと寝室を与えられたが、眠れずにいる
「いやぁ、久し振りの登場しっぱなし。相棒も毎日やってくれれば良いのによ」
抜き身で立て掛けられ、デルフは上機嫌だ
「明日、どうなると思う?」
「相棒死ぬんじゃね?」
「…そうか。連中そんなにか」
「ありゃあ、幾ら何でも異常だ。竜の嬢ちゃんの全体重を乗せた一撃に硬化だけで耐えるなんざ、土のスクウェアだって、ちぃっと無理があらぁ」
「…先住使う、エルフみたいなもんか?」
「ちょろっとしか見てないから、判断出来ねぇな」
「…そうか」
「…相棒、何考えてる?」
「死なない方法」
「逃げんのが一番じゃねぇか」
「出来りゃ悩まねぇよ」
「ったく、馬鹿だねぇ。とうとう相棒も年貢の納め時かぁ。せめて5年は遊びたかったぁね」
「ま、良い思いもしたし、仕方ねぇか」
そう言って、ぼふりとベッドに倒れて、無理矢理寝入る
ガチャ
ノックもせずに扉が開き、キュルケが入って来た
「もう、ダーリン来ないから来ちゃった」
「キュルケか」
「まだ居るわよ」
そう言って、キュルケが扉を振り返ると、タバサがシルフィードに背中を押されて入って来た
「はいはぁい、濡れ場に参加するのね。雄と雌は一緒に寝て卵を産むのね、きゅい」
そう言って、シルフィードはタバサをグイグイ押していき、タバサはもじもじしながらも、抵抗らしい抵抗を見せない
「そういうのは連中撃退してから。体力使えねぇ」
才人はベッドに寝転がったまま、首だけで応じる
「昼間の連中そんなに?」
キュルケがベッドに入りながら問い質すと
「タバサなら解るだろ?」
「…だから来た」
キュルケはタバサの表情で気付く
「はぁ、そんなにかぁ。だから、風呂でもしなかったのね。じゃあ約束。撃退したらお願いね」
そう言って、才人の左隣にぽふっと収まり、才人に絡まる
そして、タバサも右隣に入って抱き締めた
才人は黙って二人に腕枕をし、さっき迄冴えてた頭が二人の匂いで靄がかかり、急速に睡魔と欲情が襲って来る
『添い寝が必要なのは、女のコじゃなくて………俺の……方か………』
才人は息子をキュルケの太ももで弄られながら、ストンと意識を失った
「もう、ダーリン寝るの早っ」
「いや、嬢ちゃん達のお陰だ。さっき迄悶々としてて、寝れなかったからな。あっさり寝ちまって、おでれーたおでれーた。相棒が明日良い仕事する為に、今日は我慢してくれや」
「だって、タバサ。……あらやだ、タバサも寝ちゃってるわ」
キュルケがタバサを見ると、安らいだ顔でタバサが眠りについていた
「お姉様も連日大変だったのね、きゅい」
「しゃあない、私もさっさと寝るか。オヤスミ」

*  *  *


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