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Last-modified: 2011-12-16 (金) 02:06:09 (4514d)

運命の翌日
父たる公爵が竜籠に乗って帰宅し、朝食に家族のみでバルコニーに呼ばれ、キュルケとタバサは食堂で取っている
そして、才人は朝食も提供されず、ルイズの背後で使い魔として立っている
今日は早朝にカトレアの部屋に行って、二人が寝てる間にデルフとジャケットを取り戻し、完全武装で臨んでいる
既に才人の異変を察知した三人姉妹は、気が気でない
この男は、一触即発の爆弾である
最も、そんな状態なのに、公爵夫妻は涼しい顔をしている
「懐かしいな。戦場の気配だな。なぁカリーヌ」
「そうですわね、あなた」
やはりこの二人には、この程度は想定内なのだろう
ジェロームですら、気配に息を飲んでいる
才人には努めて近付かず、丁寧に給仕を心掛ける
戦場の気配を叩き出してるのは、ルイズの使い魔なのである
「あの、お父さま。お願いがございます」
「お父様、私も話が」
「おや、何だ今日は二人して。先ずは、ただいまの挨拶をしてくれないかな?娘達」
そう言ったモノクルを掛けた白髪の初老の男に、二人して頬にキスをして挨拶をする
「で、どちらから聞こうかの?」
「では、あたしからお願いします」
ルイズが力説し、公爵が頷く
「言ってみなさい」
「は、はい。私、陛下に必要と言われました。出兵の許可を下さい」
肉を切り分けて口に運んでたヴァリエール公爵が、ぴたりと止まる
「馬鹿を言っちゃいけない。戦場は女が出て良い場所じゃない。あれは、女子供が見るべき代物じゃない」
カリーヌが頷く
「なら、何でお母さまは軍人だったのですか?お母さまは良くて、あたしが駄目だなんて都合が良すぎです」
「それは、魔法の実力が天地の差が有るからで……ルイズ、とうとう、得意な系統に目覚めたね?」
ヴァリエール公爵が眼を光らせて聞く
その瞳は鋭く、全ての嘘を見抜くと伝えている
ルイズは力強く頷いた
「そうか、おめでとうルイズ。では大事な質問だ。良いかい?間違えてはいけないよ?大事な大事な質問だ。陛下は、ルイズの力が必要って言ったのだね?」
「はい」
「……そうか、名誉な事だ。非常に名誉な事だ。だが、もう一つ質問だ。目覚めた系統は何かね?」
ルイズは唇を噛み締め、決意して言い放った
「火です」
ヴァリエール公爵の顔は優れない
「そうか……火か。お祖父様と同じ系統か。罪深い、非常に罪深い系統だ。ルイズが戦に惹かれてしまうのも、仕方ないのかも知れぬ」
一度言葉を区切り、ヴァリエール公爵は首を振る
「だが駄目だ。私の小さいルイズを戦に出す訳には行かぬ。ルイズ、婿を取れ」
「!?」
目が大きく見開かれ、ルイズは声が出ない
「戦に行こうなどと言うのも、結婚すれば変わるだろう。それまで一歩も領地から出ぬ様に。ジェローム、ルイズを塔に案内しなさい」
「かしこまりました」
そう言って、ジェロームがルイズを連れて行こうと手を触れようとすると、喉元に刃が有り、硬直する
「何の真似だ?」
ジェロームが辛うじてそう言うと
「何の真似?使い魔の仕事してるだけだぜ、俺は。俺の仕事はルイズを守る事、何勝手に触ろうしてんだこら。死にたく無かったら失せろ。俺は今、虫の居所が悪いんだ」
「ジェローム、良いから連れて行け」
「は、しかし」
ジェロームは冷や汗を垂らし、動けない
ヒュン、チン
辺りに霧を撒き散らしながら才人は村雨を収め、ジェロームは安堵の溜め息を付く
「ふん、やはり貴族には逆らえぬか。無駄な事をしおって」
「そんな、サイトやっぱり…」
ジェロームが吐き捨て、ルイズが落胆した途端
ブツ
ジェロームのネクタイが跳び
ブツ
上着のボタン事、生地が落ち
ブツ
ベルトが切れ、ズボンがずり落ちる
「お、おわぁ!?」
「次は、首を知らない内に落としてやる。嫌ならメイド事失せろ」
才人の威嚇に堪らず、とうとう使用人達が大挙して逃げ出した
バルコニーに残ったのは、ヴァリエール一族と才人のみで有り、既にその場は完全に戦場と化している
カトレアは放心し、ルイズはおろおろ、エレオノールは自身の不甲斐なさが招いた事態に歯軋りし、両親たる二人は表面上、特に変わらない様に見える
「何をしたか解っておるのか?使い魔」
「あ?早く次の連中呼んだらどうだ?全員遺書書かせて来い」
「つまり、次からは威嚇無しか?」
「そうだ」
「全滅すると解ってて呼べるか、戯け」
才人は完全に敵対する路を選んだらしい
『平民、ルイズにかこつけて意趣返ししている。マズイマズイマズイ』
余りに無力。才人が本気なら、瞬きの一瞬で父の首が跳ね飛ぶ
動きを見せたら、其がスイッチになりかねない
絶大な精神の過負荷に大量の汗をかき、呼吸も瞬きもきちんとしてるか解らない
「とりあえず飯食ったらどうだ?話が進まないだろ?」
才人がそう言った先には、シエスタがヴァリエール一家に新しい紅茶を注いでいる
才人の一言で夫人が促し、食事を再開する
「良く味わいなさい」「は、はい」
ルイズには味が全く解らない状態で、何を食べたかも解らない
それ位、背後の才人が怖かった
今の才人は、ヴァリエールに対する怒りで満ちている
その対象に自分も含まれている
何故、才人を敵に回したキュルケやタバサが腰を抜かしたか、今痛感している
カトレアは味わった事の無い、自身も対象のプレッシャーで、明らかにガタガタ震えている
此処まであからさまな敵意は、両親以外は初めて味わった
それ位、今迄ヴァリエールの名に甘えていたのである
皆の食事が終わり、食後のお茶がシエスタにより提供され、ヴァリエール夫妻は当然の如く飲んでいる
やはり、胆力は娘達の比ではない
「そろそろ良かろう。要求は何だ?」
「ルイズの行動の自由。使い魔としては譲れんね」
「ふん、貴様に責任取れるのか?」
「何で使い魔が主人の責任取らなきゃならないんだよ?逆だろうが」
確かにそうである
使い魔の主人が使い魔に対して責任を持つのであって、逆ではない
「ふん、確かにそうだな。だが、貴様の行動をルイズが責任を負えるとも思えん」
「別に責任なんざ取らなくたって構わねぇよ。俺は俺の責任で動いてる」
「甘い事だな、使い魔」
「女には甘いのよ、俺」
「他には無いのか?」才人は少し考え、聞く事にした
「何処まで情報を集めた?」
「グラモン、モンモランシ、トリスタニア、ラ=ロシェールは、現地に足を運んでいる」
「…お願いしようかと思ってたが気が変わった。ゼロ機関の活動の妨害しなきゃ、それでいい」
「ほぅ、硝子職人が欲しいと聞いて来たが良いのか?」
「要らねぇよ。トリスタニアの職人に頼むわ」
才人からの不干渉決別宣言
流石にエレオノールが立ち上がり、才人に抗議をする
「ちょっと平民待ちなさい!あんた、ヴァリエールを除け者にする気?」
「違うね。除け者にするんじゃない。自ら距離を取りたいと言ってんだよ。あのあからさまな扱いと情報収集の差を判断してみろ。どうすれば俺が怒るか迄、きちんと推測してんだ、この親父」
その言葉に娘達が父に注目し、父は紅茶を優雅に飲んでいる
「第一俺はまだ親父相手には自己紹介してない。なのにきちんと聞きたい事に答えた。つまり、収集は終えてんだ」
「えっと、どういう事なの?サイト」
ルイズの問いに
「一言で言ってしまえば、平民風情が気に食わない。じゃねぇの?」
「その通りだ。貴族の伝統に、平民は出しゃばる必要は無い」
ヴァリエール公爵の言葉に、才人も吐き捨てた
「此方も願い下げだ、馬鹿野郎。秘書、不干渉契約を作る。今すぐ紙を用意しろ」
「な、こんな事に契約なんて」
「良いからやれ。一応此方は姫様直属だ。王命に協力しない場合の制約が必要なんだよ」
「……解ったわよ」
エレオノールが立ち上がり、紙を取りに部屋に去っていく
才人はヴァリエール公を睨み付けるが、ヴァリエール公は涼しい顔のままだ
「サイト、お願い、ヴァリエールに」
「本人が拒否した。歩み寄りの余地は無い。諦めろ、ルイズ」
仕事上の交渉とは非情なものだ
そもそも女王直属とはいえ、何処かで必ず、貴族の平民への反発は絶対に来る
それが今なだけである
「ヴァリエールが反発すりゃ、女王批判派を糾合出来るな。それが狙いか?」
「平民が余計な事を考えるな」
「ふん。宮廷政治にゃ興味ねぇ。勝手にやってくれ、ヴァリエール公」
「余計な詮索だ。貴様は貴様の仕事をするんだな」
ガチャ
バルコニーの窓を開けてエレオノールが入って来る
「用意したわ、紙とペン」
「じゃ、口頭で伝えるから書いてくれ」
エレオノールは既に準備している
「一、ヴァリエール公爵は、王直属のゼロ機関に協力しない」
「一、ヴァリエール公爵はゼロ機関が生産する、如何なる物品の購入並びに貸借の権利を失する」
「一、ヴァリエール公爵は、ゼロ機関の製作に必要な人員を、ゼロ機関に提供する事を拒否出来る」
「一、ゼロ機関に協力してる、他の貴族平民との取引は自由」
「一、双方合意の元、ゼロ機関とヴァリエール公爵は、この契約の見直しが出来る」
エレオノールが書いていき、真っ青になる
「平民、止めて!」
「駄目だ。ヴァリエール公、追加文面が有れば言ってくれ」
「ふむ……いきなりで中々の契約書を作るな……特に無い。ルイズはどうなる?」
「今は学生だし無関係だ。実際に仕事は一つもやらせてない。卒業したら進路次第だろう?」
「その時は、ヴァリエールに列なる者になって構わぬな?」
「好きにしろ」
「ではルイズは此方側だ。一つもやらせるな。エレオノールは既に入ってるから好きにしろ。カトレアは名目上フォンティーヌだ。別貴族だから契約とは無関係だ」
「お互い妥協点が見えたな。サインを」
才人に関係する娘達の立ち位置が二人に定まり、才人がサインしようとするのを、エレオノールが腕を掴んで首を振る
「お願い……」
「駄目だ。解ってるだろう?だから駄目だ」
「だからよ!!こんな事で……こんな事で……!!お願い、もっと真面目に交渉して!!」
エレオノールの耳元に口を近付けて囁き、するとエレオノールがグッと唇を噛み締めて頷く
「信じるわよ」
「父親の方をな」
エレオノールが、キッと父に振り向き宣言する
「父様、敵対に近い状態になります。どうかお覚悟を」
「要らぬ世話だ。精々揉まれて来い」
「はい」
エレオノールは毅然と立ち、自身の立ち位置を確認する
「馴れ合いと謗られたら、ヴァリエールの名折れ。今回が最後の滞在になります。お父様、お母様。今迄………お世話になりました」
そうしてぺこりと頭を下げる
「…解った。必要な物が有れば、今の内に準備するんだな」
「はい」
余りに慈悲と友好、家族の絆とは無縁な決別の交渉を見て、ルイズは悲しくなってしまい
「ねぇ、お父さま、考え直して下さい。姉さま、出ていくって、嘘ですよね?サイトが平民だから駄目なんですか?ねぇお父さま、そしたら今すぐサイトを貴族にしますから。ほら、陛下に手紙渡せば直ぐにでも出来ます」
「ねぇ、だから考え直して……こんなの、こんなのって無いよ。訳解んない。此が大人なんですか?貴族なんですか?こんなの絶対おかしいです!ねぇ、ちい姉さまも何か言って下さい!!」
カトレアは、困った様に首を振る
「私にも、今の交渉が解らないの」
ならば
「お母さま!」
後は、最後の砦たる母である
「貴女のお父様は鬼謀の人です。お父様を信じなさい」
何十年と連れ添った者への信頼に揺るがない
だが、それでは、ルイズは解らない
「解らない解らない解らない!こんなの嫌よ!!絶対に間違ってる!!何でサイトとお父様は仲良くして下さらないのですか?何で?何で?平民だから?使い魔だから?ヴァリエール公爵だから?こんなの………こんなの嫌よぉぉぉぉ!!」
既にシエスタが食器を片付けたテーブルに突っ伏し、泣き出すルイズ
才人はそんなルイズを見て
「ルイズ、俺さ、朝飯も食えてないんだけど。きちんとやってから言ってくんない?」
ピシッ
ルイズが固まる
「…私の名誉の為に言っておくが、使い魔の飯を抜けなどと、こすい指示等下さぬ。第一、情報収集で暫く離れておったのだ、無理に決まっておろう」
ピシシッ
ルイズは顔を上げられない
「じゃあ、俺が空きっ腹で頭にきてんのは」
「…我が末娘のせいだな」
ピシシシッ
ルイズは突っ伏したまま、流すものを涙から汗に切り替える
つまり、全員ヴァリエール公爵が決裂に仕向ける為に、仕込みを入れていたと才人含めて勘違いしてたのだが、実はルイズの怠慢であった訳で
「いきなり驚いたぞ。初対面で殺気出されまくっててな」
「……申し訳ない。もしかして、協力も視野に入ってた?」
「無論だ。商売のネタは、多い方が良いからな」
「つまり、今回の決裂は……」
「……我が末娘のせいだな」
ピシシシシッ
ダッシュで逃げようとしたルイズは、母のレビテーションで取っ捕まり
そんな様をシエスタを含めて、皆で生暖かい眼差しで眺め
「……やっぱり譲るわ。塔でもなんでも幽閉して良いや」
「…今更迷惑だ。きちんと引き取れ」
「…再交渉すっか?」
「…吐いた唾は飲めるか?使い魔」
「…無理」
二人は暫く顔を合わせた後
「「はぁ〜〜〜」」
深い深い溜め息を付き、決裂の成果を叩き出した元凶を見据え
「ごめんなさいルイズ。私も、ちょおっとフォロー出来ないわ」
カトレアがそう言ってニコニコ笑い、エレオノールが怒気で魔力が立ち上がって髪が逆立ち、ルイズの正面に立つと、両の頬っぺたを引っ張った
「ル〜イ〜ズ〜!このちびルイズ!!こんのおちび!!あんたのせいで、ややこしくなったでしょうがぁ!!謝れ!平民に謝れ!お父様に謝れ!私に謝れ!こんのお馬鹿ぁ!!!!」
「ほ、ほへんなひゃい、ほへんなひゃい、ほへんなひゃい〜〜」

ゼロ機関とヴァリエール公爵との交渉

ルイズのおかげで 決 裂

*  *  *
「あ〜糞、どうすんだよ?この契約」
才人は契約書を見て唸っている
「やっちゃったもんは仕方ないじゃない。お父様も大丈夫って言ってたでしょ?」
「ったく、親馬鹿で助かるわ。エレオノールさんの為に、汚れ仕事買ってくれたからなぁ」
「きちんと成果出したら、さっさと再交渉するわよ」
「…全くだ」
今、二人はエレオノールの部屋である
ルイズは母親に取っ捕まって、長い長い説教の最中だ
「反対派の旗振りやってくれるから、大部助かるわ」
「最初耳打ちされた時は驚いたわよ。お父様が反対派をコントロールする為に、決裂して旗印になるって」
「実際そいつも親父さんの想定に入ってたろ?」
「…ふぅ、平民とお父様だけだと、とんとん拍子で話が進むんだもの。驚いちゃったわ」
「いや、マジ勝てねぇ。あれが年の功って奴だな」
「かえすがえすもちびルイズのせいで……あ〜腹立つ。私、暫く帰れないじゃない」
「俺も悪かったかなぁと、思わなくもない」そう言って、腹を満たした後の才人は、エレオノールのベッドで二人で全裸で肌を合わせている
「しょうがないじゃない。私でも、何食か抜かれた上に高圧的にされたら爆発するわ」
そう言ったエレオノールは、才人の唇を啄んだ
既に下半身は繋がっている
なんせ、ツェルプストーに行ったら、エレオノールの行動は制限される
今の内に、情をたっぷり補給である
「ね、そろそろ本気で」
「あぁ」
才人が上に乗ってたエレオノールを抱えて、わざと手荒にくるりと返す
「乱暴者」
口ではそう言って抗議するが、エレオノールは自身が一番嫌いな格好、つまり膝立ちした尻だけ持ち上げた状態に進んでなり、そのまま才人が再び挿入する
ぬぷぷぷ
「うぉ」
「ひぃ……んん〜〜」
パン
「あひっ」
パン
「ひっ」
パン
「ひっいっ」
語尾が跳ね上がり、そのまま痙攣し、才人の息子を強烈に吸引し、才人も堪らず射精する
「出る……」
「あ……来てる……堪らない……もっとぉ」
「いや、ちょっと勘弁。カトレアさんがまだ講習したいって」
「……もぅ」
にゅぽん
音を立てて逸物が引き抜かれ、エレオノールが不満気に呟く
すっかり貪欲なエレオノールに、才人は引き気味だ
「あんまり此処でやると、親父さんがおっかなそうだ」
「ふん、決闘位しなさい」
私の為にという言葉は飲み込み、エレオノールは才人を見据える
才人が不満足なエレオノールの服を取って、下着から何から着せていき、エレオノールは当然といった感じで身に付けさせる
貴族だからではなく、才人だからやらせている
「さてと、じゃあ、行こうか」
「…ん」
エレオノールは腕を才人に絡め、二人して部屋を出ると、カトレアが扉の前に立っていた
「あれ?カトレアさん」
「あら、どうしたの?カトレア。今から行く所だったのよ」
ごく自然に才人に腕を絡めてるエレオノールを見て、カトレアは微笑んでいる
「入ろうとしたのですけど、入れなかったんです。凄い強力なロックが掛かってるんですもの」
「…そう」
エレオノールが少々気まずそうだ
「私、姉様に聞きたい事がありまして、それで参ったのですが」
「何?」
エレオノールが返事をすると、カトレアが微笑みながら
パーン!!
盛大な音を立てて、エレオノールの頬に手形が残る
いきなり叩かれたエレオノールは、呆然としている
「良く解らないのですが、もの凄く叩きたくなりましたの。何ででしょう?」
「い……いきなり何すんのよ?」
パン
更に逆方向に叩かれ、エレオノールはいきなりのカトレアの叩きに驚き、才人は声すら出せない
「何かこう、ドロドロしたものが渦巻いて、姉様の立場が、何と言ったら良いのでしょう?悪意?そう、私が外に出れて、姉様が病気だったら良かったのにとか、思ってしまって……」
コップに張力一杯迄張った水にコインが投じられた
コインの名称は、多分黒髪の使い魔だ
「…八つ当たり?だったら、たまには受けて上げるわ。カトレアの八つ当たりなんて、初めてじゃない?」
そう言って、エレオノールはカトレアを睨む
「そうですわね…まだ有るのですが」
「…何よ?」
「何時まで腕を組んでるんですの?才人殿は、これから私の所で講習をして下さるのでしょう?私の講師を接待するのは、私の役目です。離れて下さい」
「……へぇ」
カトレアの感情剥き出しの様に、エレオノールがつい笑みを浮かべる
「良かった。カトレアは笑ってばっかで、てっきり感情無くしてたかと心配だったのよ」
「私が笑顔じゃないのは、意外ですか?」
「もう意外も意外。面白いモノ見れちゃった」
「それもこれも、私に仕事と欲をお裾分けして下さった、姉様と才人殿のお陰ですわ」
姉妹の睨み合いに才人は身震いする
「流石ヴァリエール。睨み合いも怖ぇ」
ついついおどけてみせるが
「何言ってるのよ、平民。さっきの朝食の席は、処刑台に載せられた気分だったわ」
「……心臓が止まるかと思いましたわ」
二人に言い返され、才人はどもる
「あぁまぁ、あれは……ね。何時もは、あそこ迄キレないからなぁ。じゃあ、立ち話もなんだし、カトレアさんの所に行こうか」
そう言って、廊下を歩いて行くと
ガシリと後ろから、誰かに才人の肩を掴まれた
才人は振り向くと、さぁっと青醒める
今一番会いたくない人、ヴァリエール公爵その人だ
「…随分と我が娘と仲良さそうだな、平民」
「…お陰様で」
「うむ。突然気が変わる事は、結構有るとは思わないかね?ん?」
「…えぇ、そうですね」
「陛下の臣下だから、平民とて一応は気を使おうかと思ってたが、やはり平民は平民だな。お前、打ち首」
汚物を見る目で才人を見るヴァリエール公
「…辞退申し上げる」
「ならば、実力で押し通せ」
くいって顎をしゃくり、付いて来いと踵を返したヴァリエール公
「逃げっかな……」
そう言った才人の脇をエレオノールががしりと抱え込み、眼を爛々と輝かせている
「行きなさい平民!あんたの実力を、今こそ示すのよ!」
「私も、お父様の本気や、才人殿の実力を見たいですわね」
母の圧倒的な折檻には覚えがある娘達だが、娘の為には修羅と化すヴァリエール公の、その現場を見た事は、娘達には無いのである
あの母が自身以上の使い手と評する父の実力は、謎なのだ
こうして、才人は引きずられて行き、決闘の現場たる室内演習場に、客とヴァリエール一族が勢ぞろいする事になる

*  *  *
「…どうしてこうなった?」
「そりゃ、おめぇ、手当たり次第に食ったらそうならぁな」
演習場に立っている才人が落ち込みながら顔を上げて嘆くと、デルフがカタカタ笑いながら、相棒の下半身無双振りを笑っている
正面のヴァリエール公爵は無表情に立っている
怒りを魔力に転化してるのだろう
「デルフから見てどうだ?」
「解らん」
「はっ?」
「魔力が漏れてねぇ。ここ迄完璧に制御出来るメイジなんざ、見た事ねぇ」
「おいおい、って事は?」
「精神力が異常なタイプだ。今迄の魔力ごり押しとは、訳が違わぁ」
才人は顔を引き締める
「こいつがメイジエリートのヴァリエール公爵か……」
「気を付けろ。今迄のメイジ相手とは違うぜ」
そう、あの虚無のルイズや桁違いの魔力を誇るエレオノールの父なのだ
普通であるのはおかしいと見るべきだろう
そんな二人を見て、妻たるカリーヌが笑っている
「あらあら、あの人ったら本気だわ。あの平民も気の毒に」
そんなカリーヌは、杖を二振り手に持っている
ルイズとエレオノールの杖だ
二人の様子を見た瞬間に母の勘で気付き、有無を言わさず取り上げたのである
「貴女達の杖は取り上げます。水を差しかねないわ」
母に逆らえない二人は、大人しく取られた
キュルケとタバサは面白そうに見ている
タバサは無表情だが、キュルケにはきちんと気付いていて、興味津々なのが丸判りだ
「へぇ、まさか父様に聞いたヴァリエール公爵のブレイド捌きが見られるとはね。楽しみだわぁ」
勿論、才人の勝ちにベットしての発言である
「そろそろ様子見は良いか?平民」
「…どうぞ。やりたくないけど」
そう言った瞬間、空中に一気に水分が凝結し、氷の矢が出来、一気に才人目掛けて襲いかかった
ヒュヒュヒュヒュ
才人はノーモーションで繰り出されたウィンディアイシクルに意表をつかれつつ、右手でデルフを握って横っ飛びに回避し、そのままぶんと抜き放ちながら、追撃の矢を斬り落とした
「詠唱すら解らん、準備から行使迄のラグがねぇ!?」
「なんつう使い手だ。水か?風か?」
才人もデルフも驚きつつ、其でも間合いを詰める為にかわしつつ接近すると、水が窓から流れて来て、一気に杖に絡み付き、水の鞭になる
「外の堀から引っ張って来やがった。相棒、水だ!」
「やり易い……とは思えねぇ!!」
ヴァリエール公がそのままウォーターウィップを打ち据えると、才人がデルフ事強かに叩かれ、壁に背中から叩きつけられた
ダァン!!
「ゴフッ!?」
「相棒、なんでかわさねぇ?」
「…馬鹿野郎、鞭の先端は音速越えんだ!…そう簡単にかわせるか!」
ジャケットのお陰で、酷いダメージではない
口の中の血をペッと吐き捨て、才人は睨み据える
「戦場なら刃にするんだが、一応手加減はしておいた」
「そりゃ、どうも」
事実だろう
水の高圧化の破壊力を知ってる現代人の才人には、ヴァリエール公の言動が本当である事を理解する
「ちょっと、何よこれ?ダーリンが苦戦?」
キュルケが呆気に取られている
元素の兄弟との決闘紛いの苦戦時でも、常に勝つ予感はあった
今は、感じない
それ程に、魔法一つ一つの練り上げが半端ではない
ダン
才人の脚が地面を蹴り、一気に加速して迫る所を、また水の鞭が振り払う
だが、今度は才人はきちんと対応し、デルフを絡み付かせて跳躍し、そのまま村雨を抜いて霧を散らしつつ斬り掛かった
だが、ヴァリエール公は跳んだ才人を見た時には、 もう一振りの杖 を抜き放ち、ブレイドを唱えて、才人の太刀を綺麗に受け流したのである
「杖が……二振り!?」
「嘘だろ?冗談じゃねぇ!?」
受け流された才人がよろけ、その隙をヴァリエールが斬りかかり、才人が受け止めた
ガキィ!!
余りに硬い衝突音は、水にそれだけ圧力がかかり、非常に硬い状態で有る事を示唆している
才人には、それだけで冷や汗ものだ
「ほぅ、俺のブレイドを受け止める剣とはな。中々の業物だ」
「…あんたのブレイド、固体全部切り裂くだろ?」
「良く解るな、その通りだ。だから不思議だ」
ババッ
二人して距離を取り、才人もヴァリエール公も汗を垂らしている
「その霧、水に見えるが、水ではないな。そちらのインテリジェンスソード同様、何らかの魔法剣だろう?」
才人はその言葉に愕然とし、立ち尽くす
「何惚けてんだ、相棒!早く俺を拾いやがれ!!」
デルフがカタカタ震えて主張し、才人が気付いた時には遅かった
ヴァリエール公は片方の杖でフライを唱えながら、もう片方の杖でウォーターウィップも唱えたのである
「……嘘でしょ?」
キュルケやタバサはおろか、エレオノール達すら驚愕に声が出ない
二つの杖と契約自体異例も異例、到底出来る芸当ではない
なのに、目の前のヴァリエール公はそれが出来ている
しかも、並の使い手では絶対に叶わない、フライ中の詠唱すらしてみせたのである
正に器用さと精神力による制御の極致
魔力ばかりが注目されるメイジ達にとって、到達出来うるもう一つの到達点の実例が、目の前で猛威を奮っている
才人を越える機動力に空中と地面を縦横に使い、才人目掛けて水の鞭が複数、襲いかかった
ドスドスドスドス
地面に鞭の尖端が次々に突き刺さり、才人はかわしながらデルフを拾い、デルフで目の前の水の鞭を払いながら吸い込む
「悲惨だ畜生!機動性で完全に上回れた!!殺られる!!」
「対空手段ねぇのか?相棒」
「跳んだ瞬間狙い撃ちだ、馬鹿」
ガンダールヴの武器が完全に殺され、天井すれすれを馬と同等以上の速度で飛行しながら、次々と鞭を振るうヴァリエール公の攻撃に、更にウィンディアイシクルが追加され、鞭と同時に才人に弾幕を提供する
ドドドドドッ
「だぁ!?洒落になんねぇ!?」
一方的な展開になる中、才人は村雨を地面に刺すと左手を後ろに回し、更にデルフの柄頭で取り出した物を叩き、デルフを地面に刺す
「全開防御」
「おうさ!!」
デルフが全力で魔法を吸い込み、才人が位置を替えるヴァリエール公との間にデルフが入る様にデルフ中心で周り、狙いを付けて取り出した物、擲弾をヴァリエール公に向かって、野球のピッチングの要領で投げ出した
「平賀選手、第一球を、投げたぁ!!」
ぶん
唸りを上げて、擲弾がガンダールヴの力でヴァリエール公正面に投擲される
本来の擲弾の使い方だ
ヴァリエール公は咄嗟にウォーターウィップを纏めて擲弾を水の中に捕らえたが、時間差を置かず
バン!!
水の鞭を巻き添えに擲弾が炸裂し、ヴァリエール公の胆が冷える
「水のお陰で助かっ……何!?」
すかさずデルフが投げられ、首を傾げたヴァリエール公の頬をデルフが斬り裂き、更に才人が村雨を握って同時に跳躍し、振りかぶって叩き付けた
ギィン!!
ヴァリエール公は両手の杖で受け止め、才人の体重と衝撃を受け止めてバランスを崩し、二人諸共に墜落する
ダダァン
墜落したとは言ってもフライを切ってた訳ではないので、二人共にダメージは殆ど無いので跳ね起き、すかさず間合いを取って睨み合う
「…本当に年寄りかよ?」
「まだまだ若いもんには負けん」
才人の実力を知る者は、ヴァリエール公の実力に驚愕し、ヴァリエール公の実力を知るカリーヌは、才人の実力に眼を見張る
「お父さま……強い」
「嘘……何で杖が二振り使えるの?フライと同時詠唱って、どれだけの使い手よ?」
ルイズとエレオノールが驚愕し、自身の父が実力でもトリステイン有数の使い手で有る事に驚き、カトレアは愉しそうに笑っている
「あらあら、まぁまぁ。お父様も才人殿も、非常に強いんですのね?」
「…タバサ、フライ中に詠唱出来る?」
キュルケの問いにタバサは首を振り
「杖二本と契約は?」
「…無理」
「…何でツェルプストーがヴァリエールを倒せないか、良く解ったわ」
キュルケは、目の前のヴァリエール公爵がどんな者なのかを確認し、父の炎が何故届かなかったかを理解したのである
ダン!
才人の踏み込む音に斬撃が重なり、ヴァリエール公は目視してからでは間に合わない才人の太刀筋を完全に見切り、ブレイドで受け流しつつ、もう一方のブレイドで流れる様に才人の胸を突き、才人はガンダールヴの反射神経で更に懐に潜って回避すると、ヴァリエール公が膝を跳ね上げ、才人の顎をカウンターで直撃する
「ガハッ」
「馬鹿め!」
脳が揺さぶられたが、痛みは無視出来る
才人はそのまま突いた左手を掴んで一本背負いをヴァリエール公に仕掛け、今度はヴァリエール公が地面に叩き付けられた
ダァン
「グッハッ」
だが、投げた途端に才人もたたらを踏んで、よろけて転ぶ
「ゼッゼッ」
肩で息をした二人が立ち上がり、お互いを睨む
「まさか、メイジが二刀流すっとはな。しかもその動き、舞姫だろ?」
「ふん、少し噛じっただけだ」
才人は呼吸を整えながら歩き、地面に落ちてたデルフを拾い、自身も二刀流になる

「オーラスね」
カリーヌがそう言って、他の者達はごくりと固唾を飲んで見守る
どちらが勝つか
どちらが負けるか
果たして、才人は奥の手を使うか?
そして、終わった時に、双方に命は有るのだろうか?
「ラグース・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」
此処で何故かヴァリエール公が朗々と詠唱を聴かせ、才人がきょとんとする
「何故?」
だが、考える間もなく、氷の矢が襲い掛かり、才人は斬り結びながら一気に間合いを縮め、もう片方でブレイドを展開したヴァリエール公が言い放った
「詰みだ、平民」
「不味い、後ろだ!!」
ドスドスドスドス
デルフは才人の身体のせいで死角になって気付かず、先程のウィンディアイシクルで外れた矢が、Uターンして才人の背中に突き刺さっている
そのまま前のめりに、才人は眼の光を失って倒れ込んだ
ドスン
才人が倒れた時には、氷の矢は全て形を失い、水に戻っている
そのまま、ヴァリエール公がブレイドを展開した杖を持ち上げ
「ではさらばだ、無礼者」
決闘である
しかも、ヴァリエール公は古い貴族
決闘には生死が付き纏う
タバサとキュルケは悲痛な面持ちで最後を見据えるべく凝視し
ルイズは思わず杖を抜いて唱え様として
「エオルー……あ」
自身の杖が取り上げられてた事に気付き
その視界に、金髪の背中が走って行くのが見えた
そして振り降ろされるブレイドに身を呈して才人に重なる一人の影に、ヴァリエール公の動きが止まる
「…退け、エレオノール」
エレオノールは涙を溜めて首を振って、そのまま覆い被さっている
「嫌です。平民を殺すなら、私共々お願いします、お父様」
「退け、お前が居れば、陛下の仕事に遅滞は無いのであろう?平民は殺しても問題ない」
其でも、エレオノールは覆い被さって動かない
ルイズは、動き出すタイミングを見失ってしまった
「嫌です。私はもう、ゼロ機関の秘書です。この男に……私の人生を賭けます!ヴァリエール公爵、私の所長を殺すと言うなら、私諸共殺しなさい!!」
キッと父を睨み付けて、敵として実の父を見据えるエレオノール
「退け」
「嫌です!」
「退けと言うのに」
「嫌です!嫌々いやイヤ!平民殺すなら私も殺して!!お願い!!」
「だから退けと言っておる!!」
ヴァリエール公の苛立ちを含んだ声に、カリーヌが笑っている
「フッフフ」
母の笑顔に娘達が驚きの眼を向け
「エレオノール、お退きなさい。早くしないと、平民が失血死しますよ?」
そう言って、レビテーションで無理矢理エレオノールを退かせ、ヴァリエール公に頷く
「あなた」
「…非常に不愉快だ」
そう言いながら治癒の詠唱をして、才人の傷を塞いでいくヴァリエール公
「お父様?」
浮いた状態から降ろされ、ヴァリエール公の行為にポカンとしたエレオノールが、服の前を血に濡らしたまま問い掛ける
「お前の所長だろう。後はお前がやれ」
「は、はいっ!!」
エレオノールが直立不動で返事をし、ヴァリエール公はカリーヌを連れて去っていく
「何だったの?あれ?」
キュルケ達が急展開に付いていけず、ぽつりと呟くと
「やっぱり、何か黒い感情が沸きますわ。お父様ったら、本当に不器用なんだから」
そう言って、笑顔のままカトレアが怒っている
「あぁ!!つまりそういう事かぁ!うんうん」
キュルケが今の発言でやっと納得し、しきりに頷いている
「えっと、どういう事?」
ルイズがやっぱりキョトンと周りを見回すが、ルイズの問いに答えてくれる、親切な者は居なかった
全員が全員、思い思いの感情を持ちつつ、決闘は才人の敗北で終わったのである

*  *  *


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Last-modified: 2011-12-16 (金) 02:06:09 (4514d)

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