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Last-modified: 2011-12-26 (月) 23:03:25 (4502d)

才人との決闘が終わり、ヴァリエール公は私室に戻り、そのままソファーにぞんざいに倒れた
ドサッ
「クソッ、平民め。情けをかけおって」
「あら、あなたも気付いたのですか」
「……ふん、正面だったからな」
「何故か発動止めましたよね」
ヴァリエール公はそう言ってソファーに埋もれ、妻たるカリーヌはそんな夫の仕種を笑っている
才人の詠唱をカリーヌは風の使い手として完全に読み、ヴァリエール公は経験から詠唱を悟ったのである
メイジでないとかは関係無い
貴族でないメイジも居るし、マジックアイテムの発動に、ルーンがキーワードかもしれないからだ
「全く、父に殴られる男の役目を、命賭けでやる男も珍しい」
「だから不愉快だと言っておる!!これでは、エレオノールの想いに応えねば、俺が廃るではないか!!」
「あなた、口調が昔に戻ってますわ」
「う…む…」
若い気に当てられ、つい昔に戻ってしまったのだろう
ヴァリエール公がソファーで仰向けになり、傍でカリーヌが膝立ちになり、ヴァリエール公の汗を拭っている
「随分買ってましたね。最初から二本出すとは思いませんでしたわ」
「…お前でも手加減はせんだろう?」
「…えぇ」
「お前もそう思うか?」
「はい」
「…そうか」
ヴァリエール公は、そのままカリーヌの手を引き抱き締める
「あっ…」
「今更……くれてやるものか」
「あら、嬉しい」
カリーヌはそのまま夫に口付けし、ヴァリエール公も応じる
「…ねぇ、あなた。子供達は全員私に似てますね」
「…出来れば、同じ男に三人一緒は止めて欲しいものだ」
「無理でしょう?だって、あなたの娘で私の娘達ですよ?」
「……全く、頭が痛い。受け継がなくて良い伝統だけは、全員受け継ぎおって」
カリーヌはくすりと笑うとヴァリエール公に跨がり
「あなた、興奮してますわよ?」
「あぁ、あんなギリギリの闘い、久し振りだ」
そう言って、夫婦の営みに突入した

*  *  *
才人はエレオノールの部屋で寝かされており、ルイズは立入禁止処分が下されている
理由は交渉決裂のお仕置きだ
「姉さま、サイトの看病あたしもやります」
そう言うルイズの胸に指を突き付けたエレオノールは、才人と仲良くなる前の、非常にキツイ表情で宣告したのだ
「はぁ?何言ってるの?あんた、交渉決裂の原因なんだから駄目。打ち首モノの失態犯して、ペナルティ無しなんか有り得ない。引っ込んでなさい」
「……はい」
封建貴族で自身が最高責任者で王の使者への歓待を怠り、どちらにも不愉快且つ不利益な決裂を招いた。普通は打ち首である
家族だから、長時間のこってりした説教で済んでいる
最早、ルイズの信用はズタボロだ
で、それとは関係無いキュルケやタバサが手伝うのも、やんわりとエレオノールは断りをいれる
「二人共、手伝ってくれるのは有難いけど、ヴァリエールでは私に任せて」
「負傷の看病迄追い出さないでよ、ヴァリエール」
「ツェルプストーじゃ我慢するから。お願い!」
そう言って、エレオノールがキュルケに頭を下げたのだ
思わずキュルケが硬直する
ヴァリエールがツェルプストーに頭を下げる事などあり得ないし、逆もまた然り
つまり、本当に真摯にお願いしてるのである
ツェルプストーであるキュルケはその仕草に困った顔をし、少し頭をかいてから応えた
才人の仕草がいつの間にか感染っている
「……全く、向こうじゃ仕事以外駄目よ?プライベートは全部持って行くからね」
「良いわよ」
「どういう風の吹き回し?」
「私はね、父様の前で誓ったの。もうね、コイツに賭けるしかないの。コイツが望んだの。ツェルプストーとヴァリエールが、殺し合いして欲しくないって」
その言葉に嘘は無い
キュルケが頷く
「…良いわ、任せる。その代わり、全快させないと許さないからね」
「えぇ」
「タバサ、ツェルプストー迄我慢だ」
タバサがコクりと頷くと、二人は家内の者の案内で客室に戻って行き、エレオノールはレビテーションで才人を浮かし、その隣をシエスタとカトレアが随伴し、ルイズは訓練場に一人残された
「……あたしの……馬鹿」
本当に言い訳が利かない為、ルイズはしゃがみ込んでひたすら落ち込み、暫くすると部屋に帰って行った
今はとにかく、反省の時である

*  *  *
看病と言っても、エレオノールはカトレアの額に、水を含ませた手拭いを乗せる位しかした事無い為、シエスタの号令の下、ヴァリエール姉妹二人で手分けしててきぱきと動いている
「じゃあ、私の指示に従って下さい」
「ちょっとメイド。あんたメイドの癖に「黙りなさい!看病素人が偉そうにしない!返事は?」
そう言って腕を組んで貫禄を見せ付けるシエスタに対し、カトレアがおずおずと
「あの、私は動物さん相手で看病経験は…」
「才人さんを、動物相手と同じにしないで下さい!」
シエスタの怒号と凄みに負けた二人がぴしりとし、思わず答礼する
「「は、はい!」」
カリーヌ直伝の苛烈な教育は、こんな所で顔を出す
「宜しい。では傷薬は有りますか?」
「あ、はい。私の部屋に」
カトレアが応じると
「では、持てるだけ持って来る、駆けあ〜し!行け!」
「はいっ!」
カトレアがパタパタと出ていき
「私達は全裸にして身体を綺麗にします。傷口があったら広げない様に注意です。着物は才人さんの武装ですから、破壊は厳禁。今日もきちんと鎧として機能してたみたいですし、壊したら、才人さんの命が縮まりますよ?良いですね?」
その言葉にエレオノールがコクりと頷く
「ミスは浄化使えますか?」
「治癒より得意ね」
「では服の血を脱がしたら浄化願います。後は傷口にも」
「了解」
そう言って、てきぱきと二人で脱がし、全裸の才人の血を拭い、傷の有無を確認しながら拭いていく
ガチャ
「持って来ました」
「塗り薬?飲み薬?」「両方です」
「じゃあ飲み薬下さい。塗り薬はちょっと待って。ミス、治癒用意」
その言葉にエレオノールが頷き、カトレアも杖を持つと
「ミスフォンティーヌは自重願います。才人さんが起きた時に倒れてたら、意味が有りません」
「ですけど、私は治癒は得意「駄目です」
きっぱりとシエスタが拒否し
「才人さんの心配事を増やす事は、私が許しません。以前の致命傷に比べたら軽いです。だから大丈夫です」
そう言って微笑み、カトレアは頷いた
「ではどうすれば?」
カトレアが聞いてる間に、シエスタが飲み薬を才人に口移しで飲ませ、嚥下を確認するとエレオノールが治癒を詠唱し、更にシエスタが才人を俯せにし、塗り薬を取るとカトレアにも渡す
「はい、一緒にやりましょう」
治癒の詠唱を続けるエレオノールと、薬を塗るシエスタとカトレアに分かれ、処置を終え、再度仰向けにすると、カトレアが赤くなりながら才人の股間を凝視している
「あっ、殿方の」
「はいそこ。私達にとって、一番大事なモノですから丁寧に扱うんです。良いですね?」
カトレアが、かあぁぁとなりながら
「あの、どうすれば?」
シエスタがてきぱきと、しかも念入りに拭いていき、感心しながら二人は見ている
「股間は一番汚れますからね」
シエスタが手馴れた手付きで完了し、二人は感心している
「才人さんと一緒なら、看病はきちんと覚えて下さい。才人さんはこの通り、怪我が絶えません。才人さんの事が大事なら、私達周りがしっかりしないと、あっさり死にますよ?」
「え、えぇ」
エレオノールが深く頷き、同意する
そしてシエスタが才人の体温を触って確かめ
「ん〜、ちょっと体温低いですね?」
すると、あっさり脱ぎだし、そのまま全裸で添い寝する
「ちょっとメイド」
「体温低いです。つべこべ言わずに暖める。良いですね?」
シエスタの気迫に押されて、エレオノールは躊躇った後、服を脱ぎ捨ててベッドに入り、同じく肌を合わせ
「あの、私は?」
「殿方と肌を合わせた事が無いなら、やらなくて良いです」
聞いたカトレアに対し、シエスタは素っ気ない
シエスタの最優先順位は才人の為、才人の看病に覚悟が出来ない人は邪魔なのである
「……やります」
「でしたら交代でしましょう。体温上がるか、目が覚める迄です」
そう言って、シエスタは身体を絡ませながら眼を閉じ、エレオノールの身体とも触れ合った
「…参った。メイドは大したメイドだ」
そう言ってエレオノールがシエスタを賞賛し、二人は意識を手放した

*  *  *
「寒い」
才人はそう言って、身体を震わせる
寒くて暗い所に何故か居る
だが、心地好い柔らかで暖かな感触が背中から感じ、更に目の前からも感じる
『寒いですか?』
聴こえてきた声に頷いて、柔らかなモノに顔を埋め
『はぁ、もう』
そう言いつつ、先程の声が自分を手繰り寄せてくれるので、逆らわず、更に柔らかな膨らみの突起に気付き、口に含む
『はっ、寝てるのに……何を、んん』
どうやら自分は寝ているらしい
「夢か……」
なら、前方から来る甘い匂いと、柔らかな感触は全て貪って良い訳だ
非常に柔らかい魅力的な肌をまさぐり、股間に指を這わせていく
『はっ……そんな、駄目です』
誘ってる
才人には寝ながらそう思い、口に含んだ突起を舌先で転がしつつ、更に身体を力で引き寄せ、有無を言わさずに指を侵入させ、遠く聴こえて来る甘い声を楽しむ
『は、ん、だ、だめ、そんなこと、んあっ』
才人の頭に吐息がかかり、ハッハッハと荒い呼吸が聴こえて来る
「随分リアルな夢…」
才人はそのまま柔らかい身体に手を這わせ、更に蜜壷を撫でてみる
『ふうっ、ん』
声が反応し、身体がピクピクと震え、指先が大量に濡れる
既に息子はギンギンだ
「才人さん、寝ながら何をやってるんです?」
「…えっ?」
その声に急速に覚醒していき、ぱちりと眼を開く才人
口は、初めて見る乳房を食わえていて、更に背中から胸を押し付けつつ息子を握ってるのは、黒髪の少女だ
そのまま上を見ると、カトレアが頬を真っ赤にして愛撫に耐えている
「はっはっはっはっ」
荒い呼吸はカトレアだ
「あ、ゴメン」
カトレアがふるふると顔を振ると、そのまま才人の頭を抱え込んでしまう
「…えっと、確か決闘で負けて…」
「負傷してまた体温下がったから、三人で交代で添い寝してました」
「そっか、有り難うシエスタ」
そう言ってる間も、シエスタは息子への愛撫を続けている
前後を才人が大好きな大きい胸が刺激を与えて、才人自身もちっとも収まらない
特に最近は香やら何やら使われてるせいで、身体が非常に正直である
「才人さん、ご褒美、下さい」
シエスタがそう言って、才人の首筋を舐めつつ耳たぶを甘噛みする
「ふあっ」
才人が思わず声を出してしまい
「ね、良いでしょ?私、頑張りましたよ?」
そう言って、すりすりすりすり
身体と手がそのまま才人を刺激すると、カトレアが更に抱き寄せる
「わ、私も……しま……した」
男としては凄く嬉しい
でも良く良く体調を確かめると力があまり入らない
「…あんま力入らない」
「そうですよね。結局2日寝てましたし」
「あぁ、そんなに寝てたのか……公爵は?」
キィッ
扉が開いてエレオノールが入室して来た
「やっと起きたの。父様はまた出て行ったわ。父様には、覚悟しておけって言われたわ」
つまり、手加減抜きでやるぞとの警告である
「その代わり、何も見なかった……ですって」
不問にするとのお達しである
「一体どうなってんだ?」
才人が疑問に思うと、エレオノールがぴしゃりと「知らなくて良いわ。後、もう一つ条件付けられた」
「何?」
「カトレアの遊び相手になって欲しいだって」
それを聞いたカトレアが「本当ですか?姉様」
「えぇ、ま、詳しいのは後」
つかつか寄って、エレオノールが美女二人に挟まれた才人の頬をつねる
「いだだだだだ」
「平民、女と朝食どっちが先?カトレア、コイツで良いのなら、絶対に成就出来る様に出来るけど、どうする?」
その言葉にシエスタが眼を爛々に輝かせる
「本当ですか?ミス?」
「でも、まだ体力無さそうよね。朝食からにしましょう」
カトレアが返事する前にてきぱきと進め、呼び鈴を鳴らして朝食が運び込まれて来る
全裸の才人とカトレアがベッドに居るのを、年配のメイドが見咎めるが
「看病よ、疚しい事は考えない事ね」
そうエレオノールが答え、メイドが黙って頭を下げる
この男が公爵とギリギリの闘いを繰り広げたのは、既に邸宅内に幅広く知られ、ヴァリエール同様、怒らせてはいけないリストに、追加されているのである
才人が起きると、ガウンが人数分エレオノールに渡されて才人が纏い、服が出て来ない
「服は?」
「錬金の調整に手間取ってるの、アンタの服はハルケギニアの布と糸じゃ、上手く修復出来ないからね。壊して無いから安心して。後、靴がもう駄目みたい。靴職人呼んだから、靴を作りなさいな」
「あぁ、悪い。金は」ぴしり
エレオノールのデコピンが才人の額に直撃し
「二度と言うな」
「…はい」
革靴はハルケギニアでは裕福な者と貴族でしか得られない貴重な靴で、平民は木靴か、布を巻いただけか、下手すれば裸足である
才人の戦闘能力に靴は欠かせない
度重なる訓練と戦闘で、すっかり磨り減ったスニーカーを見て、エレオノールは決断したのである
「じゃあ、食べましょう。メイドは追い出したから、全部関係無いわ」

*  *  *
才人が食事を綺麗に平らげ、息を付いていると、シエスタが人数分の緑茶を淹れている
「お、緑茶か」
「知ってるの?」
「俺の国の特産だぜ?」
「え?嘘?折角のロバ・アル・カイリエ産で驚かそうとしたのに」
エレオノールが驚かそうとして失敗し、シエスタは笑っている
「えっへっへ。実は、魔法学院でやろうとして失敗してるんですよね〜。それ所か、美味しい淹れ方まで伝授されちゃいました」
「…やられたわ」
そう言って、エレオノールは緑茶を飲み、感嘆の溜め息を付く
「やだ、美味しいじゃない」
「本当ですわ」
ヴァリエール姉妹のお誉めの言葉にシエスタは得意気で、才人はズズーと啜って、二人が顔をしかめる
「ちょっと平民、はしたない」
「そうですよ」
エレオノールとカトレアがたしなめるが
「あぁ、緑茶はこういう飲み方も有るんだよ。熱々の玉露はこうやって飲むのさ。つまり俺の国の作法だね」
「そうなの?」
「そうなのよ」
才人が身振りで湯呑みを示して飲むジェスチャーをすると、不思議そうに二人は見ている
「へぇ、面白い作法ね」
「まぁね。お茶が出た時以外はやらんよ」
エレオノールが感心し、二人がそれを聞いて真似しようとするが、上手くいかない
「上手くいかないわ」「結構難しいですわ」
「外国人には難しいって話だし、無理して真似せんで良いぞ?」
そう言って、今度は音を立てずに才人は緑茶を飲み、二人に合わせた

食後のお茶も楽しみ、腹が落ち着いた所で、カトレアが話を切り出した
「姉様、先程の話ですけど?」
エレオノールが自身の鏡台に向かい、引き出しを開けて幾つか取り出し、テーブルの上に置き、才人は顔が青くなる
禁断の秘薬がテーブルに乗ったからだ
「コイツの女の一人が調合した奴と、友達がくれた奴。効果は抜群。既に逃げ場は塞いだわ。で、カトレア、聞くわ」
「はい」
「コイツの事好き?まだ会って間もないし、怒りを向けられた恐怖は身に染みた筈よ?コイツは父様や母様並に怖い。はっきり言って、アンタなら選り取りみどり。平民に拘る必要すらない」
そして、キッと真顔で睨む
「私達をからかう為だったら、止めて欲しいのよ。真剣に答えて」
カトレアはエレオノールの問いに真剣に考え、ゆっくりと答えだした
「…実は、良く解らないのです」
エレオノールはじっと聞く
「確かに、使い魔さんは非常に怖いお方です。でも、動物さん達に、とても懐かれました。父様や母様ではあり得ません」
「添い寝した時、嫌じゃ無かったんです。それに、触れていたいなって思ってしまって」
両の手で拳を握り、太ももの上に置き、ぽつぽつと話すカトレア
才人は気まずい雰囲気で声も出せず、ただ聞き入っている
「人目見たとき、人種が違うお方で驚きました。父様の強さに拮抗出来る方で、更に驚きました」
「父様が、語ってくれたんです。私は奴に手加減されたんだ。って」
そして更にキッと、エレオノールを睨む
「どうしてですか?姉様には、命懸けで応えて下さる殿方が現れてくださったのに、私には、私には…………」
エレオノールはその眼を正面から睨み返す
今は絶対に背けてはいけない、カトレアの正直な心情が洩れてる時だ
「コイツ、いつか帰るわよ。私達を捨てて」
「本当……ですか?」
才人が頷く。事実なので、諦めてくれた方が楽だからだ
「姉様は、それでも?」
「えぇ、私はそれでもやるの。もうね、私は結婚出来ないのなんかほぼ決まってるし、だったらこの先、平民が成し遂げる事に、人生使った方が面白いもの」
「子供が出来たらどうするのですか?」
「産んで育てるに決まってるでしょ?次のヴァリエール公を、育てないって選択は無し」
「メイジの血統は?」
カトレアに取っても、ヴァリエールにとっても大切な疑問だ
エレオノールは研究者たる知的観点から、冷徹に下す
「私達ヴァリエールの血は、腐り始めている。カトレア、貴女の存在や私達全員が女である事が証明してる。ツェルプストーの存続方法を私は取り入れる。血が濃くなりすぎた時は平民を用いて適度に薄める。外国人で別人種たるコイツは、そう言った意味でも最適。血縁関係に、拘る必要が何にも無い」
恋愛の観点以外にも、才人を受け入れる利点を語るエレオノール
「つまり、私は結婚しないでも、次世代だけは必ず産む。コイツの子をね。だけど、コイツが貴族になったら、話は別」
「妾か正妻かは知らないなけど、堂々と隣を歩くわ。徒手空拳のコイツには、非常に強いバックが必要。つまり、ヴァリエールの名前がね」
緑茶を飲み、唇を湿らせ、断言する
「つまり、個人的、血族的、それに仕事上でも、私はコイツが必要。受け入れない理由なんか、一つも無いわ」
完全に断言され、才人が手を額に持っていき、天井を仰ぐ
最早、エレオノールの攻勢には、才人は完全降服するのみだ
しかも、今は才人に発言権は無い
雰囲気から許されない
「姉様、でしたら私にも」
「そう、貴女にもこの理由は適用される。だから、カトレアの気持ち次第。私はアンタの我が侭に応じるわ。私の可愛い妹の、初めての我が侭。姉として、全力で応えてあげる」
また緑茶を飲み、更に言葉を紡ぐ
「例え、同じ男のモノになりたいって事でもね。どうする?」
カトレアは真剣に考え、才人を見る
才人は困った様にしていて、何も言わない
試しに席上隣であった才人の腕を取り、そのまま胸で抱え込む
「……やっぱり、こうしていたいです」
カトレアの答えに、エレオノールは溜め息を付く
「それ、どういう意味か知ってる?」
対面に座ってるエレオノールに、首を振るカトレア
「女がね、触れても構わない、もっと触れたい、触れて欲しいって相手はね、とっても好きって事よ?」
カトレアはその言葉に驚き
「そうなのですか?」
「えぇ、何処が良いのよ?この鈍感種馬男。はっきり言って、女が沢山居るわよ?それも厄介な女ばっか。厄介でないのは、そのメイド位よ」
「なら、私一人位増えても」
「全く問題無いわよ。えぇ、全く。腹立つ位に。寧ろ、美女でがんじがらめにした方が楔になるわ」
「姉様、好きな人には、どうすれば良いのでしょう?」
その質問にエレオノールは正直に答える
「キスをしたくなる。肌を合わせたくなる。そして、とても交じりあいたくなる。匂いが欲しくなる。温もりが欲しくなる。毎日、可愛がって欲しくなる」
自分の気持ちを切々と語るエレオノール
「証拠は匂いを嗅いでみなさい。嗅いで心地好いならコイツの事が好き。キスを舌を絡めてしてみなさい。更にして欲しくなったら、コイツの事が好き。胸を触らせてみなさい。触らせてもっと触って欲しかったら、コイツの事が好き。自身の女を触れてみなさい。濡れてぬるぬるになってたら、アンタはコイツの事が好き」
「コイツの事が好きなら、本気で求愛しなさい。中途半端な求愛なんざしないで、堂々と求めなさい。メイドもその方が良いでしょ?」
シエスタは話を振られて暫し考え、頷く
「はい。やっぱり、本気の方以外、才人さんの相手はして欲しくないです」
「平民、私のカトレアの求愛拒んだら、解ってるでしょうね?」
才人は汗を垂らしながら頷く、その時は人生終了の時である
こうして、賽は振られた
カトレアが頷き、おずおずと才人の胸に顔をを寄せる
「ん、良い匂い」
才人のガウンの胸元を開き、すんすん嗅いで答える
自身のガウンが乱れるのもそのまま、キスを交わし、暫くそのままでいて、おずおずと言われた通り舌を絡めてみると、才人が応え、舌と舌が軟体動物の如く重なり合い、一気にカトレアの頬が紅潮する
そのまま才人の首に腕を回し、存分に楽しんだ後、音を立てて離れる
ちゅぽっ
すっかり真っ赤になったカトレアの胸は既にはだけており、才人の胸に胸が当たっている
「……はぁ、凄いです」
「鍛えられたもんで」
二人のラブシーンをエレオノールは顔色も変えず、シエスタは思わず拳を握って見ている
「どう、カトレア?」
「…もっと欲しい」
「自身の女に触れてみなさい」
「はい」
試しに股間に手を持っていくと、ぬるりとしたものが、カトレアの指に纏わり付いた
「何ですか?これ?」
「平民をね、欲しがってるのよ。欲しくない場合はならないわ。キスも嫌だし、触れるなんざ悪寒が走る。実はね、触れる前に悪寒が走った婚約者も、中には居たのよ」
そう言って、エレオノールは自身の経験を吐露する
姉妹の感性は似てる部分がある、カトレアは素直に頷いた
「って訳で決まり。平民、カトレアはか弱いから、優しくするのよ?私相手みたいに、わざと乱暴しちゃ駄目。良いわね?」
「…はい」
「メイド、出るわよ。そうね、一時間はあげる。その後は私も入るから、良いわね?」
一旦薬を回収し、エレオノールはガウンのままのシエスタに気付き、すかさずメイド服に替えさせ、素直に出ていった
音もせずに扉が閉まり、サイレンスの効果範囲である事が伺える
つまり、ロックもしっかり掛かってるだろう
才人は残してあったワインを手に持ち、グラスを棚から失敬してカトレアに注ぎ、自身はらっぱ飲みする
「無理しなくて良いよ。まだ会って三日目だ」
「違います」
「え?」
「私、四ヶ月待ちました」
「はぁ?」
カトレアがクイッとワインを一気飲みし、切々と話し始める
「ルイズの手紙来るまで、使い魔召喚で人が来るなんて、思いもしませんでした」
才人は立って飲んでたのを、隣に座って黙って聞く
「私も、人の使い魔さんが欲しかった」
「…」
「…私も、運命の人が欲しかった」
「運命……ね」
「貴方にはそうでなくても、使い魔と主人は、どう足掻いても一心同体なんです」
「…そっか」
「そう…なんです」
ちゃぷ
瓶を煽って飲み、中の液体が音を立てる
そしてカトレアにもそのまま注ぐ
本来貴族にはあり得ない粗野な振る舞い
だが、カトレアは何も言わなかった
「運命で現れた使い魔さん。私は、ルイズの事が羨ましかった」
「…うん」
「そんな人は、聞いた事が有りません」
「そうだね」
「でも、使い魔さんにも、今まで生きて来た、生活が有ったんですよね」
「そうだね」
「そんな当たり前な事を、私は考える事を失念してました」
「…」
才人が見てると、またクイッと煽るカトレア
そして、フラフラと立ち上がり、才人の頭を両手で抱え込んで微笑んだ
「貴方も、迷い込んだ小鳥さんと一緒だったんですね?ねぇ、今だけは、全部吐いちゃいましょう。私、貴方のお姉さんになってあげる」
「いや、しかし、そもそも俺の方が歳上」
「細かい事は言いっこ無し。ほら」
「いや……」
その胸の感触は柔らかく安心して、そして才人は知らずに涙を流していた
「……あれ?」
「今だけは……何でも聞いてあげます。ねぇ、貴方も私で休みましょう」
「何で……涙?」
才人はカトレアの胸に抱えられ、自身の流した涙に唖然としている
「良いんですよ?今は、取り繕いは無しで。苦しい胸の内も、全部出してしまいましょう」
全てを包み込む慈愛
そう、母性が持つ慈愛
涙を見られぬ様に、才人は胸に顔を埋める
「ははは、まさか、こんなにあっさり泣くとはね」
「…帰りたいですか?」
囁く様に聞くカトレアに、胸の感触に包まれた才人が答える
「あぁ、帰りたい。あいつにただいまって……言いたいなぁ」
「恋人?」
「……姪だ」
つい口走ってしまった才人
才人の隠してた物を、カトレアの慈愛はあっさり引き出した
「どんな人?」
「生意気で……小さくて……元気で……一人じゃ何やるのもビクビクで」
グス
才人が鼻を啜ってる
「あいつさ……両親、強盗に殺されちまったんだ」
カトレアが才人の背中を擦りながら、引き寄せる
才人はつい身を任せ、涙でカトレアの胸を濡らし、カトレアはそのままだ
ガウンから胸が盛り上り、エロスを掻き立てる
「大変だったのですね」
「あぁ。片親が襲われた時に、もう片方の親に言われて隠れて、殺される現場を見てたらしくて、押し入れに隠れて必死に黙ってたら、惨たらしい現場を一部始終見ちまったらしくてな。そのショックで喋れなくなっちまった」
ヒック
才人がえづいている
涙も止まらず、カトレアの胸を濡らしている
「その後よ、喋れないのを良いことに、学校で教師にやられちまった」
「……」
「俺はそん時迎えに行ってて、事後に遭遇しちまった。人生最高に切れたぜ」
「どうしたの……ですか?」
グス
才人が一呼吸置いて、喋る
「勿論その屑教師を、力の限りボコボコにしたさ。ざまぁねぇぜ、あの屑」
「…そうですね」
「だが、そいつはその時の傷が元で、三日後には死んださ。今も後悔なんざしてねぇ」
「…」
「俺は警察に捕まって傷害の嫌疑をかけられたが、付いてくれた弁護士が親切な人でね、未成年だった事と、強姦被害者の保護者格で、正当防衛の代行と言う事ですぐに釈放された」
「良かったじゃないですか」
「良くねぇよ。大変だったのはその後。病院でフラッシュバックを繰り返した姪は、傍目から見たら半狂乱の状態。俺が居なきゃどうしようもなくて。俺は病院に寝泊まり状態」
「…」
「んで、学校のクラスメートなんか笑っちまうぜ。俺が人殺しだって事を、俺より先に知ってやがった。俺が姪に付きっきりだったから、弁護士や警察は知らせなかったらしい」
「…どうなったの……ですか?」
すると、才人の身体が震える
「クックックックッ。全員手の平返して近付かなくなったさ。何をするにも人殺しと呼ばれてさ、ありゃ傑作だったね!」
ついにカトレアを離して、笑いの発作に任せて才人は笑う
「アッハッハッハ!笑えるぜ!ダチと思ってた連中は、全員そうじゃなかった!そいつらとは、とうとう卒業迄口聞かず仕舞いだ。しかも俺は、看病に集中したせいで、大学受験も失敗した。一気に滑り落ちた気分だ。暫くやさぐれたさ」
すると、急に大人しくなり、カトレアが覗き込む
「…でもよ、駄目なんだよ。俺が笑わないと、あいつが笑えないんだ」
「そう……ですか」
「あぁ。そして片っ端からバイトから仕事から色々やった。ある時鉄の加工仕事見付けて、バイトに入ったさ」
「…」カトレアが頷き、先を促す
「鉄は……良い。何も考えずに済む。人相手より、ずっと楽だ」
才人はそのまま、涙を拭い、更に喋る
「だからのめり込んだ。免許も取って色々やった、もう必死にさ」
「頑張ったの……ですね」
「あぁ、事件から二年。俺が笑える様になった時、あいつも笑える様になってた。そして喋ったんだ。『おにいちゃん』って」
そしてとうとう膝に両肘を付き、手の平で目頭を押さえながら、頭をそこに乗せる
「悪い……おにいちゃんだよなぁ。俺、お前の所に帰れねぇよ。俺よ、お前との約束……破っちまったよ」
ぽた、ぽた
また涙が垂れていき、床に染みが出来ていく
「ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう!!!!俺があいつに救われたんだ!!俺は帰らないと!帰らないと!あああああああ!!!!」才人の慟哭をカトレアはただ抱き締め、そして何も言わなかった

*  *  *


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Last-modified: 2011-12-26 (月) 23:03:25 (4502d)

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