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Last-modified: 2012-01-19 (木) 18:43:27 (4478d)

「…どうしてこうなった?」
「さぁねぇ?」
「何で俺、往年の零戦パイロットと同じ事してんだよ?」
「さぁねぇ?」
「俺……何かしたか?」
「イロイロ」
「泣いていい?」
「勝ったらな」
「いやん冷たい!」
「たまにはそうしたくなるってもんだぜ、お前」
「……馬鹿犬、いい加減黙りなさい」
「…へい」「…あいよ」
今、才人は零戦で北に向かって飛んでいる
後部座席にはルイズが陣取っている
理由は単純、重量が軽いからだ
最軽量はタバサだが、ルイズにあっさり譲っている
ちょっぴりトラウマになってるらしい
才人一人で飛行させないのは理由があって、地形と星の位置、太陽の位置が解らないからだ
つまり、ルイズが頼りないが、ナビゲーター役なのである
方位磁石片手に地図を睨み、眼下の地形から進行方向を観測し、修正を加える
一応竜籠部隊に連なって飛行しているが、航法を覚える立候補をルイズがした
練習には最適な環境である
星の位置が解らない才人に、星から憶えていくのは大変過ぎる
「そろそろ、右に6度修正入るわよ」
「了解」
高度3000で飛んでおり、しかも北上していく為にどんどん気温が下がっていく
ルイズはマントをぴっちり閉じ、手だけをちょこっと出している
才人はグローブをしていて、別段寒そうにはしていない
バイク乗りには慣れてる気温である
才人はグローブをルイズに渡そうとしたのだが
「要らない。操縦で手がかじかんだら、私迄落ちる。だからサイトがしなさい」
「イエス、マイロード」
久し振りの威厳あるご主人様の復活である
戦に向かってるのだから当然だろう
「そう言えばルイズは大使だろ?戦争に加担は不味くないか?」
「馬鹿犬だけで、戦場には行かせないわよ」
「…左様で」
そういうしか無かったのである
「次、左30度」
「あいよ」
先程からの進路変更は哨戒範囲を回避しての航路設定であり、真っ直ぐ飛ぶと云う訳には、いかないからである
「更に左3度」
「了解」
才人がクンクンと操舵し、零戦は問題なく飛んでいる
既に5時間、中継地に着くと火竜が何処からともなく上がって来て、籠を空中で綱を切り替え、空輸で消耗した火竜達が中継地に降り、何も見えなくなる
そんな事を繰り返していた
既に才人も左手のルーンは光ってない
何度も操縦した為、飛行は既に熟練したので問題無い
着陸や離陸も、ルーン無しでやってみせるだろう
パスパスパス
プロペラが不規則になり
「やべ、増槽切れた。主槽に切り替え」
いきなりがくんとなった零戦を、主槽に切り替えたエンジンが暫くブスブス言いながら回り始めた
「ふぅ、助かった」
「全くだぁね。墜落なんざ洒落にならんね」
そのまま更に数時間飛行し、ルイズが言ったのだ
「目的地付近到着、サイト、迎えが来たわよ」
「あぁ、俺にも見える」
火竜が二頭飛び上がり網が二頭に渡って広がっていた
風に煽られた網が急に大人しくなる
すると、青い身体の風竜が才人達の前に飛び出て来た
『シルフィード、ナイスアシスト』
ニヤリとしながら才人は火竜達と同調し、機体が真ん中に位置するとフラップを倒して降下
ギシッ
網に力が掛かったのを確認してエンジンを切る
そのまま、火竜達が中継地に向かって降りて行き、才人達は零戦の運用方法にまた一つ実践データを得たのである

*  *  *
マジックアイテムにより擬装された中継地の下に天幕が張られ、ツェルプストー伯が作戦会議を執り行っている
「竜籠補給部隊の運用は兵数300が限度だ。それ以上は、空輸に使う火竜の数が保持出来ん。今回は幻獣騎兵を連れてるので、100人分削っている、内訳は擲弾兵200、ヒポグリフ騎兵20、火竜騎士12、イーヴァルディ1、ヴァリエール2、ツェルプストー2、ガリアシュヴァリエ1だ。公国程度は落とせる規模だな」
ツェルプストー伯がそう言って部隊長や才人達を見回し、口の端を歪める
「お前達、ツェルプストーとヴァリエールが共闘し、イーヴァルディと轡を並べて戦えるなんざ、一生に一度も無いぞ?生涯の語り草になる位、派手にやろうじゃないか」
「「おぉ!」」
才人はイーヴァルディに祭り上げられ、苦笑している
ツェルプストー伯は士気を上げる為にやってるのが解る為、敢えて何も言わなかった
そんな中、エレオノールが天幕に入って来る
「あぁもう、いきなり戦争だなんてふざけないでよ。とりあえずレビテーションシュート100用意したわ、後、指揮官とイーヴァルディに魔法通信機渡しとく」
補給物資から革を引っ張り出して擲弾兵に縫わせ、自身はマジックアイテムを作り続けていたエレオノール
「竜挺降下だなんて無茶苦茶するわね。もう寝るわ。魔力切れたから続きは明日作るわ」
「エレオノールさんお疲れ」
「まだよ。勝ちなさい」
「おうよ。俺っちと相棒に任せな」
才人に声をかけられたエレオノールは杖をふふんと振りながら、休む為に天幕を出て行った
「ヴァリエールが、我がツェルプストー兵の安全を確保する為に働いてる。明日未明迄絶対に起こすな」
「「ヤー」」
ツェルプストー伯に敬礼をした指揮官達
「では、最終打ち合わせだ。今回威力偵察を先行した竜騎士隊が行った結果、火竜騎士20、臼砲12、装甲擲弾兵100、銃兵200が確認された。明らかに我々の空挺部隊対策だ」
陣地図の中に次々と配置を書いていくツェルプストー伯
「こちらが気をつける部分は勿論竜騎士と臼砲だ。擲弾兵を竜挺降下される前に撃墜するのを目的とした布陣だな。で、我が方は何時も通り、火竜一騎に20名乗り降下。火竜騎士二騎が直掩、ヒポグリフ騎兵が遊撃。そして、敵竜騎士を全てイーヴァルディに引き受けて貰う」
流石に一気にざわつく
「…出来るのか?」
「タルブ戦のスコアは、竜騎士26撃墜、ロイヤルソブリン級中破だぁね」
デルフがそう言って実績を示し、周りがおぉと感嘆に包まれる
「出来るな?イーヴァルディ」
「対空ミサイルあっから、前より楽に出来ると思うぞ。装備試験に丁度良い。ヒポグリフの予備有るかい?」
「有るが非メイジでは無理だ。乗れん」
「私が騎乗します」
ルイズが挙手をして主張する
「大使殿には、前線に出向いて欲しくないのだが?」
「私の使い魔が要求したと云う事は、乗り換えて行動する積もりです。恐らく、更なる活躍が期待出来るでしょう。私は元々使い魔の後部座席に航法士として乗る予定です。私が適任と存じます」
ツェルプストー伯が渋面をしたが結局は頷いた
「ではお願いする。乗り換えは補給部隊がサポートする様に、出来るな?」
補給部隊の隊長がカッと踵を合わせて敬礼する
「無論です、閣下」
「キュルケとシュヴァリエと私は敵臼砲を潰す。後は降下したら敵を殲滅する部隊と指令部を制圧する部隊に分ける。残りは臨機応変だ」
隊長の一人がグラスを人数分配り、更に別の隊長がグラスにワインを注いでいく
そして全員に行き渡ると、ツェルプストー伯が杯を掲げ、皆も同じ様に掲げる
当然キュルケ、ルイズ、タバサ、才人も掲げた
「この戦、勝つぞ!プロージット!」
「「「プロージット!」」」
乾杯の声が唱和され、全員一息に飲み、そしてグラスから手を放した
カシャシャーン
ここに全員が己の利益の為に、戦う事を決意したのである

*  *  *
キュルケとタバサとルイズは、全員魔法処理された革鎧を貸与され、天幕の中で調整している
擲弾兵の装備品の余りを支給されたのだ
ツェルプストー伯はお抱えメイジに安穏と働く事を許さず、軽量簡素な魔法鎧の開発を命じたりして、非メイジ兵のサバイバビリティ向上に余念が無い
ディテクトマジックに反応するので隠密行動には向かないが、今回の様に強襲作戦に於いては威力を発揮する
才人はジャケットのままであり、革鎧を断った
理由は、機動戦闘がメインの才人には、革鎧とて邪魔なのである
ジャケットの方が邪魔そうだが、気温の低い北国の為に防寒を兼ねるジャケットの方が良い
そして才人はキュルケ達と同じ天幕で、自身の得物類をチェックしている
「01式並びに02式銃の弾丸と薬包は50発分、01式擲弾を3発、投げナイフ10本、デルフに村雨と。スンゲー重装備」
「流石に重いか?相棒」
「まぁな。でも普通に運べるわ。体力ついたなぁ」
才人はベルトに擲弾、村雨、弾薬を吊り、投げナイフは懐に、デルフの鞘に01式マスケットライフルをセットして、一度背負って吊るしベルトのバックルの調整している
「ん、良し。こんなもんか」
「…上着貸して」
タバサがそう言って要求するので才人は背負ったデルフを外し、ジャケットを脱いで渡す
タバサが詠唱を始め、杖を振り下ろすとジャケットが光に包まれた
「銃弾回避の風魔法。大体30発迄」
タバサがそう言い、才人が感心している
装甲擲弾兵に銃兵
相手は銃を大量に使用する。ガンダールヴと言えど、銃弾の雨あられは回避出来ない
「へぇ、こんな事も出来るのか」
「真似した」
「真似?」
才人がおうむ返しに聞くと
「この革鎧に掛かってる魔法ね。弱い風魔法や火魔法も反らすわよ、ジャベリンみたいな破壊力の有るライン以上は辛いし、大質量の土魔法はドットでも無理だけど。当然砲弾や榴弾は無理」
「サンキュー。助かるわ」
此で準備は整った
明日の為に、後は寝るだけである
全員が全員、装備を外して静かに就寝した

*  *  *
翌朝、朝日が昇る前に緊張と軽い高揚感に包まれていた全員が時間前にきっちりと目覚め、朝食を取ってると、目の下に隈を作ってボロボロのなりでエレオノールが天幕に入って来た
「ま……間に合った。平民にルイズ。あんた達も受け取りなさい」そう言って、テーブルにコトって音を立てて置く
「エレオノールさん、グッジョブ」
「私は出ないわよ。もう無理」
そう言って折り畳み椅子を引っ張り出して座り、才人が立ち上がって朝食を取りに出た
既に全員戦支度は終えている
そして才人が食事を持って来て、エレオノールが一人遅れて朝食を取ってると、ツェルプストー伯の怒声が響いてきた
「時間だ。出るぞ」
ガタタ
全員が顔を引き締め、出撃していく
キュルケとタバサはシルフィードに乗り、火竜に擲弾兵が続々と乗っている
才人とルイズは網の下に木箱で支えられてる零戦に乗り込み、才人は村雨とデルフを置き、ルイズが遠話装置を耳にセットし、通話確認をする
「こちらイーヴァルディ。各隊、聞こえてる?」
《こちらツェルプストー、良く聞こえておる。コイツは便利だ。家にも売ってくれんかの…ザッ》
「イーヴァルディと交渉して下さい。補給部隊、応答願います」
《…こちら補給部隊》
「準備完了。先行して竜騎士を叩きます。離陸宜しく」
《ヤー、ザッ》
この応答を合図に、木々にかけられた不可視の布が兵達によって畳まれ、夜明け前の朝焼けの鮮やかなオレンジの空が顔を出し、双月が丁度月没間近であり、非常に美しい
竜騎士達が手綱を叩いて火竜達が羽ばたき、綱がグンと引かれて、ゆっくりと離陸していった
上空500メイルで上昇気流を掴んだ火竜達が一気に上昇し、プロペラが風で回り始めたのを契機に、今迄操縦捍を握りもしなかった才人が点火する
ブブ、ブ、ブロォォォ
才人が親指を立てて合図を送ると、火竜達が一気に降下し、零戦は飛行し始めた
「さぁてと、何故か戦争になっちまったなぁ。ルイズ、こういう小競り合いって頻繁なのか?」
才人の問いに、ルイズが答えた
「えぇ、一昔前は、ちょっと往来でぶつかっただけで発生してたらしいわ。何処もかしこも数十人から数百人単位でぶつかって。何の利益も無いのに、頻繁に死んでた。きちんとした権益の奪い合いだから、まだましじゃないかしら?」
「デルフ」
カチ
デルフが自ら出て来て保証する
「あいよ。嬢ちゃんの言う通りだぁね。相棒みたいに、なるべく死なせずにって考えは、珍しいわなぁ。決闘で殺さなくなったのは最近だぜ?」
「全く……日本の戦国時代みたいだな」
「戦国?」
ルイズの問いに才人が答える
「日本にもしょっちゅう戦ってた時代があったのさ。大体400年以上前だな。その時の主力武器はマスケット銃と弓矢と槍、刀はサブ武器。魔法も騎乗出来る飛行生物も居なかったから基本地上戦と海戦のみ。それに比べると、三次元で考えなきゃならないハルケギニアは大変だな」
その言葉にルイズが渡された地形図と陣地図を見て唸る
「む〜。進路変更、12度取り舵」
「了解」
くいっと、哨戒地を迂回する零戦
《こちら後続、竜挺部隊並びにヒポグリフ隊。今出撃した》
「イーヴァルディ了解」
ルイズが無線に返事をした後、配置図を睨みながら才人に返す
「山の斜面の銃眼と臼砲群は厄介ね。こいつで叩けない?」
「残弾が20mm60発しか無い。7.7mmは対地に向かないよ。先ず竜騎士叩いて、余裕があったらだ。それとルイズ」
「何?」
「エクスプロージョンは使い所を考えろ。基本は、ディスペルで味方兵への魔法攻撃の防御だ。装甲擲弾兵ってのは武装メイジ兵らしい。魔法が唸る程飛んで来るぞ?」
「解った」
そう、戦力比でメイジ比率はヒンデンブルグ伯軍が上回る
才人達が参戦しても、制空権が確保出来なければ負けるのだ

*  *  *
ヒンデンブルグ伯家の所有する鉱山では、ヒンデンブルグ伯その人が現地入りしていた
ゲルマニア帝政府の裁定で、ツェルプストーが勝利した場合の権利譲渡を円滑に進めるべしと言い渡されてしまったからだ
ちなみにツェルプストーをヒンデンブルグが殺しても戦場では合法の為、正に殺害のチャンスである
逆にツェルプストーはヒンデンブルグを殺せない
権利譲渡する相手が、おらねばならないからだ
勿論生きてサインか血判が押せれば良いので、五体満足である必要は無い
「7年越しか……遂に来たぞ、この時が。総員に告ぐ、ツェルプストーを殺した者には報奨は思いのままだ!何なら、我が娘をくれてやる!」
「「「おおぉ!!」」」
ヒンデンブルグ中央伯の娘との婚姻は、ヒンデンブルグ伯家の後ろ楯を得、そのまま次期皇帝への階段でもある
此に沸き立たない兵も貴族も居ない
何故なら約束を違う事は、貴族の貴族たる所以を失うからだ
兵が付いてこなくなれば、ヒンデンブルグ伯家ですら没落する
没落したら、皇帝三家が持つ独占利権たる金鉱山すら、手離せねばならなくなるだろう
貴族の見栄とは、其ほどに大事なのである
「だからお前達の活躍を期待する。リヒテンシュタイン、後は任せる」
「はっ、閣下」
カッ
一礼した鉄鉱山守備隊司令リヒテンシュタイン兵達に向き直った
「先日ツェルプストーが伯家から出撃したと偵察から報告があった。一両日中にはこちらへ襲撃するだろう」
「銃兵と砲兵は銃眼と臼砲に配置、増援たる装甲擲弾兵は装甲擲弾兵中隊指揮官に一任する。銃眼に君らが入れるスペースは無い。君らの破壊力は、我々の指揮下では発揮し辛いだろう。集団戦の手本を見せてくれる事を期待する。火竜騎士隊は既に配置済みだ。敵襲があり次第、離陸迎撃を行う」
「今回は防衛戦だ。ツェルプストー伯軍が撤退すれば我々の勝「敵襲〜〜〜〜!」
バババッ
伝令の大声に、銃兵と砲兵が一気に持ち場に散って行く
報告を」
「は、一騎です。ツェルプストー伯旗を確認。しかし妙です」
「妙?」
「百合と剣の紋章も確認しています。トリステインでは?」
「……同盟国だし援軍を頼んだか?私も監視所に行く」
リヒテンシュタインも走り出し、装甲擲弾兵も中隊指揮官の号令の元、一気に走り始めた

*  *  *
才人達搭乗の零戦は、火竜騎士が全部離陸する迄旋回しながら待っていた
別に騎士道精神からではなく、あくまで騎士が乗った状態じゃないと、愉快な蛇君のホーミング対象にならないからだ
当然追っ掛けっこになり、才人は逃げ回っている
「デルフ、騎数確認」
「おぅ、18、19、20…全騎来たぜ」
「射界500メイル前方だ。上手く収めるぞ。ルイズ、後続と連絡取って、1リーグ以内に寄るなって言ってくれ」
「解ったわ。こちらイーヴァルディ、応答願います」
マイクスイッチを投入して呼び掛けるルイズ
受信は常時だが、送信を任意にして、魔力消費を抑えている
《こちらツェルプストー。何だ?ザッ》
「現在交戦開始。1リーグ以内に近付かないで下さい。誤射します」
《ヤー。ザッ》

*  *  *
監視所に来て、零戦の奇妙な風体と一切の攻撃意思の無いのらりくらりに、リヒテンシュタインは眉を潜めている
「…何だあれは?」
「解りません」
「……確かに解らんとしか、答え様が無いな」
零戦の胴体には、ツェルプストー旗が魔法で無理矢理貼り付けられている
つまり攻撃対象だ
ドンドンドン
臼砲が散弾ではなく榴弾を上空に向かって撃っており、振動が監視所迄伝わって来る
鉄鉱山の山の斜面を利用し、鉱夫に序でに掘らせた銃眼と、外に設置され、防盾で保護された臼砲、それに平地に展開する野営宿舎と火薬庫
それが鉱山の入り口を取り囲んでいる
今回の様な戦争が無い場合は兵数は50前後で回すのだが、紛争地という事で、今回増援が来ている
普段は野盗や他貴族、魔獣や幻獣対策であり、鉄鉱石の横取りを狙う連中を銃眼からの射撃と臼砲で撃退する訳だ
火薬庫が鉱山内に無いのは、ひとえに安全対策であり、火薬の暴発で落盤や粉塵爆発を誘発しない為である
一般に出回らないだけで、流石に鉱山内では粉塵爆発の危険性は周知されてるのだ
「…何故魔法を撃たない?」
「流石に不明です」
リヒテンシュタインの問いに誰も答えられず、かなり余裕に20騎相手に逃げ回っている
「…あれは陽動だな。火竜騎士に伝達、後続の本隊を叩け。奴が来た方角に本隊が居るぞ」
実際に本隊が見えている為、そうリヒテンシュタインが命令し、火竜騎士達が全員踵を返したのである

*  *  *
「ちょっとサイト。全騎本隊に行ってしまうわ」
追いかけっこに合わせて滅茶苦茶な機動されたにも関わらず、ルイズは平然としている
「良し、追うぞ」
ゴーグルの下でニヤリとした才人が一気に回転を上げて、彼らの後ろについた
「相棒、全騎射界に収まったぞ?」
「待ってたよ」
通常の攻撃魔法では届かない距離500メイル
実際には300メイルに迄近寄り、才人は増設された左下の投下レバーの内、右側のレバーを引き倒したのである
パシュシュシュ
ラック事空飛ぶ蛇君が落下し、ラックの外れがスイッチとなり、次々に蛇君が竜騎士達に飛んで行く
ババババン
一際派手な音が木霊すると同時に黒煙が立ち込め、その黒煙の下から、全騎が墜落していったのである
「……全騎……撃墜」
「……何なのだ?あれは」
リヒテンシュタイン達が監視所から双眼鏡で結果を見て唖然とし、更に旋回を決めた零戦が、銃砲陣地に照準を切り替えたのである
ドンドンドン
臼砲が散弾を連発して攻撃するが届かない
そんな中、アウトレンジから左翼の蛇君が投下され、陣地に向かって飛んで来たのだ
「不味い、落とせ!!」
言われなくても兵達は解っている
パパパパパパン
マスケット銃の音と砲弾の狂想曲がリヒテンシュタインの耳を奏で、更に蛇君の爆発が、陣地を揺るがしたのである
ドドドドーン
天井から土砂が降り砂だらけになりながら、リヒテンシュタインは更に指示を下している
「被害報告、急げ!」
「臼砲6門破壊!砲兵の戦死確認」
「火薬庫吹っ飛びました。手持ち弾薬で最後です!」
「何!?」
火薬庫を頑丈にする為に魔法を施したのが仇になり、蛇君の攻撃対象になってしまった
まだまだ被害報告は続く
「銃眼損壊10。中の銃兵は絶望」
「人的損害50を下りません!」
「敵の攻撃、10本中2本迎撃成功!」
「な……8割の攻撃力で此だと?」
リヒテンシュタインは驚愕に眼を開かせる
「敵本隊接近……ドラッケングレネーダー。来ます!」
「くっ、生き残った臼砲と装甲擲弾兵に迎撃させろ」
「ヤー!」
「敵魔法兵器。撤退します!」
「弾切れか?有り難い。なら勝負は五分だ。ここから押し返せ!」「「「おお!!」」」

*  *  *
「こちらイーヴァルディ。攻撃終了。乗り換えします」
《こちら補給部隊。後方1.5リーグ、高度1500で滞空中。ヒポグリフも待機してる。高空から一気に滑空出来るぞ。ザッ》
半径2リーグに収まる様に、連絡を取り合って、円滑に作戦が進んで行く
《こちらツェルプストー。本隊前進開始。パーティーのご馳走残してるだろうな?。ザッ》
ルイズは気の効いた返事をしようとして、ちょっと考えた後
「勿論よ。私達が転進する迄、全部食べないでよ?クックベリーパイは6つ残ってるわ」
《そいつは豪勢だ。全部頂くぞ。ザッ》
そうして、才人達が撤退する下を竜挺部隊が交差して前進していき、擲弾兵達が敬礼していったのである
才人も親指を立てて見送った

補給部隊とランデブーした才人達は零戦を空中で受け止めて貰い、更にレビテーションで二人とも持ち上げられ、火竜の背中に繋がれてたヒポグリフにルイズが騎手、才人が後部として乗り込み、戦果を確認した補給隊の騎士達が敬礼する
「大戦果有り難うございます!更なる御武運を!」
「零戦は任せた。後は頼む!」
「ヤー!」
「行くわよ!犬」
「オーライ」
バッ
今度はルイズが騎手として、大空に馳せたのである

*  *  *
ツェルプストー伯の攻撃は巧みだった
竜挺部隊に臼砲の狙いを付けさせ、自身は遊撃部隊のヒポグリフ隊と自身のヒポグリフ、それにタバサとキュルケの乗るシルフィードを、山頂側から滑る様に滑空し、臼砲群を狙ったのである
臼砲は、山頂側に羽ばたくヒポグリフ達を追う為の旋回が出来なかった
「敵が別れます!ヒポグリフ達の目標は我々です!」
「臆すな!一合を耐えきろ!あくまで狙いは竜挺部隊だ」
「ヤー」
そう言って砲手以外は全員マスケット銃を手にヒポグリフ達の突撃に備え、山頂に向けて銃を構えると、ヒポグリフ達が滑空してきた
「風よ、大いなる風よ、我々を護りたまえなのね。きゅいきゅい」
シルフィードが詠唱すると精霊の力が皆を包むが、生憎飛行音の風切り音と精霊魔法はメイジに感知されない為に、誰にも気付かれない
「タバサ、コンボランスは飛行中は無理。個別に射撃するわよ」
タバサはコクンと頷いて、一番飛行力の有るシルフィードが先頭に踊り出た
「ラグース・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース」
「ウル・カーノ・イーサ・ティール・ギョーフ」
キュルケとタバサがそれぞれ狙いを付け、ジャベリンとファイアランスが、シルフィードと臼砲が交錯した瞬間に、臼砲に突き刺さった
パパパンパパンパパン
更に遅れて、銃声を背にヒポグリフ隊とツェルプストー伯が、それぞれ臼砲にツェルプストー伯は一人で、他の隊員は敢えて合同で攻撃し、通過と同時に臼砲に魔法が突き刺さる
更に遅れて、爆発が相次いだ
ドドドドーン!
「臼砲破壊、完了……何!?」
そこに驚愕の事態がツェルプストー伯に起きた
先程通過した先から装甲擲弾兵の一隊が飛び出し、二人がかりでフライを唱えて一人を運搬し、その一人が攻撃の詠唱をし、ジャベリンで竜挺部隊が二頭撃墜されたのだ
空中に投げ出された擲弾兵
全員墜落死かと思われたが、全員渡されたレビテーションシュートを発動させる
パリンパリパリン
硝子玉が割れる音が聞こえて来て、ゆっくり落下していく擲弾兵達は、そのまま先程の装甲擲弾兵にマスケット銃を構えた
ババババン!
都合40発の一斉射撃を受け、三人程墜落していく
更に擲弾兵は腰から擲弾を取り出し、黄燐を染み込ませた火縄をシュッと摩擦で火を着けて、装甲擲弾兵部隊に全員で投げ付けた

装甲擲弾兵の集団に擲弾が炸裂する
ババババン
しかし、今度は大したダメージが与えられなかった
防御魔法を重ね掛けしてたのである
空中で緩やかな落下をする擲弾兵は、はっきり言って的だ
銃眼と装甲擲弾兵達が銃を構えて一斉射撃が始まり、あっという間に魔法鎧の回避耐性を越え、一人また一人と討たれていく
そして生き残った竜挺部隊の本格的な降下が始まった
「急げ急げ急げ、走れ走れ走れ。銃眼を全部潰すぞ」
斜面を滑り降りながら擲弾兵達が上から降りて、銃眼に取り付き、擲弾を放り込んで一つ一つ潰していく
ボン、ボン
「装甲擲弾兵二段射撃。アイン、ファイエル!」
ババババン
銃眼を攻撃し始めた擲弾兵に向かって銃が放たれ、過負荷になった不運な兵がバタバタと倒れていく
「ツヴァイ、ファイエル!」
ババババン
また一掃され
「アイン、ファイエル!」
ババババン
連続射撃で各個撃破される擲弾兵
そこに支援攻撃が来た
制空権を完全に握ったタバサとキュルケ、それにツェルプストー伯である
「さぁてと、あんた達、死ぬわよ?」
キュルケとタバサがコンボランスを用意する為に滞空し、そこに的となって射撃が来るが、シルフィードの風魔法で全弾当たらない
「喰らいなさい!ファイエル!」
生き残った銃眼にコンボランスが突き刺さり、盛大に爆発した
ドォン!!
更に一度上空に羽ばたいたヒポグリフからまた滑空したツェルプストー伯が詠唱をしながら急降下して、一気に通過する
「ウル・カーノ・ソウイル・ベルカナ・ハガラース。我が白炎、受けてみよ!」
カッ
装甲擲弾兵の部隊に白く輝く閃光を伴った炎が出撃したが、障壁を重ね掛けした装甲擲弾兵達が、精神力切れを起こして倒れる者を出しながら、遂に防ぎきり、ツェルプストー伯が舌打ちする
「ちっ、流石は装甲擲弾兵。ゲルマニア最強部隊な訳はある」
そして撃ち終わりを指揮官に狙われた
「目標、あのヒポグリフ」ビスッ
終わり迄言う前に、兜事貫通し、指揮官が倒れる
「な、我々の魔法の出し終わりを狙った?」
また一騎、桃髪の騎士が、後方に黒髪の騎士を同乗させて現れたのである
才人が構えた銃口は、今しがたの狙撃で黒煙を吐いている
才人はガンダールヴで素早く朔杖を持って装填作業を通常の半分未満で終わらせ、すかさず構え、引金を引く
パァン!!
ビスッ
また一人、あっさり倒され、目標が才人達に向いた
「気分はシモヘイへ〜」
「何言ってんだ?相棒?」
そのまま装甲擲弾兵の上空にルイズは降下し、才人がバッと飛び降りた
降りてる最中に01式を格納しデルフを抜いて手近な敵を蹴り飛ばし、着地する
「行くぜ!ゼロの使い魔の本領は、こっからが本番だ!おおぉ!」
雄叫びを上げて才人がデルフを叩き付け、数人が鎧がひしゃげ、そのまま倒れていく
いきなりの白兵に慌てた装甲擲弾兵だが、ブレイドを構えて同じく襲いかかったのである
「単騎で我々を潰せるか!殺れぇぇぇ!」
更に横薙ぎにデルフを振って数人を打ち倒し、間合いが出来た瞬間に踏み込み、すかさずデルフを左手で持ち、一気に村雨を抜刀
そして抜刀した瞬間にまた一人、兵が倒れる
上空では才人が突撃をしてる最中、ルイズが巧みに弧を描きながら詠唱を始めた
「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンヤクサ」
才人の身体に力が乗る
敵の動きが最早駒送りに見える
二本の太刀筋が別々に動き、片手で金属の塊を両断出来る凶悪な太刀筋が、装甲擲弾兵の装甲を紙の様に斬り裂いていく
「オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド」
才人の突撃にまた数人倒され、装甲擲弾兵達が圧倒的な剣技に怯む
「ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ」
気付いた兵から警告が上がる
「不味い、防御詠唱!」
次々とシールドが張られ、ルイズが杖を振り下ろした
生き残っていた兵の中央に光が発生し、次いで衝撃が空気を押し出し半球形に雲が出来て消え、才人は詠唱の終わりに気付いて跳躍し、効果範囲から逃れ、盛大な爆発が轟いた
ドォォォォォン!
装甲擲弾兵の50人以上が一発で防御事吹き飛び、才人は衝撃で高く飛ばされる
「おわっ!?飛び過ぎ!?」
「今回は、中々派手な威力だねぇ」
墜落死寸前で才人もレビテーションシュートを発動させて着地し、残りの兵を見据えた
「此処が使い所!イル・ウォータル・デル・パース・ウィアド」
一瞬で加速した才人が生き残りの中を通過し、周りに霧が残された
遅れて糸が切れた様に血飛沫を上げて倒れていく装甲擲弾兵
才人がぶんと村雨を抜いて収め、更にデルフも収めた
チン
そしてその場に尻餅を付き、両手で身体を支える
「あぁ、きっついわぁ」
「……ぐっ……何…者」
どうやら一撃で殺せなかった様だ
「あ、悪い。痛いだろ?トドメ要るか?」
兵が頷きながらまた問い掛けた
「討った御身の名を…」
才人は投げナイフを取り出しつつ接近し、兵に囁いた
「イーヴァルディ。君を殺したのはイーヴァルディだ。ヴァルハラで皆に自慢してやれ。俺は、イーヴァルディと堂々と戦ったんだってね」
兵は微笑み、才人のトドメを受け、そのまま絶命した

*  *  *
ツェルプストー伯は生き残りの擲弾兵と共に陣地内に突入し、擲弾兵達が次々と反撃を受けながらも掃討していき、遂に監視所に辿り着いた
捕らえた兵から場所を聞き出し、案内させたのである
バァン
「抵抗は無意味だ、降伏しろ!」
擲弾兵が一気に突入して、司令に銃を放射状に展開して突き付ける
「…派手に敗けたな。何故だ?ツェルプストー。地の利はこちらにあり、兵数も貴様達は寡兵では無いか?守備戦の常識を、何故覆せる?」
通常、攻撃は守備の4倍は必要とされている
300を攻め落とすには、1200が必要なのだ
「何、答えは簡単だ。一騎当千の助っ人が味方したからだ。でなければ、我々が敗けたろうよ」
リヒテンシュタインが苦々しく頷いた
「最初に制空権を奪われたのが痛かった。一体何を味方にしたのだ?」
「イーヴァルディを味方にした。どうだ?納得だろう?」
虚を付かれたリヒテンシュタインはきょとんとし、そして笑いの発作を始め、笑いだした
「クックックッ。イーヴァルディか……あのお伽噺のね………アッハッハッハッ!敗けだ敗けだ!完敗だ!戦闘中止を要請する。降伏するぞ」
そのリヒテンシュタインの声を受け、ツェルプストー伯が号令をかける
「戦闘中止!ツェルプストーの勝利だ!敵味方総員戦闘を中止しろ!伝令を借りるぞ、リヒテンシュタイン」
「あぁ、全員持っていけ。ツェルプストー。お前をヒンデンブルグ伯に案内する、来い」

*  *  *
才人が大の字になって血塗れで伸びており、ルイズはう〜と唸りながら自身の使い魔の傍に立ってあっちを見ては杖を構え、こっちを見ては杖を構えを繰り返し、とにかく落ち着かなかったが、戦闘中止の報を聞いてストンと腰が落ちた
「嬢ちゃんよ、俺っちが見張ると言ったろ?」
「自分の目で見ないと安心出来ないのよ」
「ま、最後の一撃にビビって、誰も近寄らないって」
更にシルフィードが降りて来た
「きゅい!」
キュルケとタバサが飛び降り、一目散に駆けて来る
「ダーリン負傷したの?」
「いんやぁ?力を使いきって伸びてるだけだぜ?」
キュルケ達もホッとして、シルフィードに才人を積み込んだ
「ツェルプストーは行かなくて良いの?」
「お父様が上手くやるわよ、それよりあんたもさっさと下がりなさい。アンタの介入はヤバいのよ。何でダーリンがコードネームで呼ばれてるか、理解しなさい」
言われてルイズはぽんと手を叩き、ヒポグリフに跳び乗った
「さっさと参上、すたこら退場。全く、相棒達は忙しいねぇ」
デルフがそう締め、
ツェルプストー伯軍
火竜8
ヒポグリフ10
擲弾兵117
の損害
ヒンデンブルグ伯軍
火竜20
臼砲12
装甲擲弾兵88
銃兵209
の損害を出しつつ、鉄鉱山攻略戦はツェルプストー伯の勝利に終わり、自ら要求した杖の使用に失敗し、帝政府の裁定によりヒンデンブルグ伯家は鉄鉱山を失い、首都ウィンドボナを有し、金鉱山を持つヒンデンブルグ伯家としても、少なくない損害を出したのである

*  *  *


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Last-modified: 2012-01-19 (木) 18:43:27 (4478d)

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