X5-612
Last-modified: 2012-03-08 (木) 21:45:10 (4428d)

○月×日
さて、ジェシカはジュリアンに付き合って、ミミも頑張って張り付いてます
う〜ん、人の恋路は本当に見てて面白い
ジュリアンは両方に等しく接してるし、内心全く出さないわね
ちょっと感心しちゃったわ
ジュリアンが走って汗を垂らしてると、ジェシカが上からぱさりと手拭いを被せるんですよね
なるべく粗雑な感じで
「ありがと、ジェシカ姉さん」
「頑張ってる男を見るのは好きなんだ。何でそんなに頑張ってるんだい?」
「…僕はこの前の戦争じゃ、何の役にも立たなかった。もう、何も出来ずに口惜しがるのは止めたんだ。だって、口惜しがるより、やれば出来るんだって、実践した人が居るんだ。僕は、その人みたいになりたい」
「へぇ、どんな人だい?」
「竜の羽衣を大空に飛ばした人だ。ひい爺さんは、何も間違って無かった。だから僕も、今は無理でも、将来はそんな男になってやるって、決めた」
あ、ジェシカが驚いてる
まぁ、驚くよね
「そいつぁ、驚きだ。私も見たかったなぁ」
「見せてくれるよ、きっと。僕達に、大空を縦横無尽に飛ぶのは、貴族の独占じゃないって、教えてくれたから」
「名前は……止めた。聞かないでおこう」
「何でさ?」
「私も出来れば、実物を見てからにしたいからさ」
「そっか」
「楽しみってのは、取っておくから楽しいのさ?だろ?」
「真理だね」
ジェシカとジュリアンが笑って、一休みしたジュリアンがまた走り回ってる
「…男ってのは、一気に成長するんだね。降臨際の時は、まだまだガキだったってのに」
「…そうだね」
「本当に楽しみになって来たじゃない。ミミちゃん、悪いけど、ジュリアンが私にプロポーズしたら泣いてね?」
「泣くのは、ジェシカさんの方です」
「あっはっはっは、そうだねぇ。私みたいなあばずれより、清楚で若い女のコの方が有利だもんねぇ」
そう言って、あっけらかんと笑ってるわ
全く、ジェシカも自虐止めれば良いのに
私はそのままお母さんのお昼作りの方に寄ってみると、ちびっことジュリーがお手伝いしてました
ちなみに、私には手伝わせてくれません
何でかって言うと
「今度才人お兄ちゃんが来た時に、私が手料理をご馳走するの。お姉ちゃんは邪魔しないで」
「…はい」
って理由で、私は締め出されてますよ、えぇ
「お母さん」
「才人さんのお陰で、色々子供達が変わったのよ。もう皆、竜の羽衣ごっことかしてるのよ。村の子供達の英雄になっちゃったわ。特に家の子達は鼻高々で、今迄が今迄だしねぇ」
「それもそうか」
「だから言ったのよ。威張り散らしてると才人さんに嫌われるわよって言ったら、ぴたりと収まったわ。躾が随分楽になったわぁ」
恐るべし、才人さんの影響力
何処に行っても、才人さんの事聞かれるもんなぁ
「おぅ、シエスタ。タルブの英雄は今回来てないのか?」
「仕事なんです。お願いしたので、時間が出来たら来てくれると思います」
「仕事じゃしょうがないな。来る時、絶対に報せろよ?村全体で宴するって決めてんだからな」
「はい、必ず」
何処に行ってもこんな感じ
ははは、タルブに永住してくれないかな?
寧ろ、アストン伯譲って貰えないかしらん?
そう言えば、後継はどうなってんだろ?
迎撃して死んじゃったの見たからなぁ
次のアストン伯も、そういう貴族だと良いなぁ
あんな立派な貴族様、実は珍しいって、魔法学院行ったせいで、散々に思い知らされてしまった
さてさて、そんな感じで日記を書いてたら、窓をコツコツ叩く梟が
おっと梟便だ
「毎度ご苦労様」
ホゥって鳴いて、手紙を私が受けとったら飛んで行っちゃった
裏面を見ると
「やた!才人さんだ」
逸る気持ちを抑えてペーパーナイフで封を開けてと
む?この香水の匂い、誰のだ?
便箋には、書き慣れてない才人さん独特の文字が書き連ねてました

前略
悪い、仕事の見通しがまだ立たない。暫く行けそうにない

      才人

ハルケギニアの文字と才人さんの国の文字を使って署名してる
これで才人って読むのか、不思議な文字だよなぁ
あれ?こんな所に文章が浮いて来た
何で裏面に?

ふっふっふっふ、才人は気付かない魔法仕掛けの便箋です
今は僕の所だよ
たっぷり可愛がって貰ってるもんね
どうだ?羨ましいだろう?
     ギーシュ

………むきぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!
ミスグラモンの馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!!!!
お、思わず破ってしまった
く、冷静だぁ、冷静になれ、シエスタ
と、とにかくどうしよっかな?
そうだ、私もスカロン叔父さんにお礼言いに行けば良いのか
ちょっと、お母さんに相談してみよう
またまた厨房に寄って、お母さんに声をかけます
「ねぇねぇお母さん。才人さん仕事詰まってて、まだ来れないって。だから私、家族を代表してスカロン叔父さんに、お礼言いに行きたいんだけど?」
「あら、良い案ね。お土産持って行って来なさいな」
「うん、ジェシカに声を掛けて来る」
「序でに昼だから皆呼びなさい」
「はぁい」
私はそう言ってジュリアン達の所に行ったら、ジュリアンはミミの攻撃に遭ってました
ジェシカは笑ってるなぁ
「何で私だと嫌がるんですか?」
「嫌がってない。嫌がってないから」
「だって、後退りするじゃないですか?」
確かに、ジュリアンがジリジリ後退りしてるわ
「近すぎるだけだって。昨日はこんなに近寄らなかったじゃないか」
「胸ですか?やっぱり胸が良いんですか?」
「だから違うって」
「揉めば大きくなるって聞いてます!ジュリアンが揉んで下さい!」
「だあぁぁぁ!?」
「あはははは!く、苦しい!ひぃひぃ」
うん、確かに面白い
ジェシカが腹を抱えて爆笑するのも解るわ
「皆、お昼よ」
「あ、ミミ、お昼だって」
「ジュリアン一緒に行きましょう」
「わわわわ」
あ〜あ、ずりずり引っ張って行っちゃった
「ずっとトレーニングしてたの?」
「そうね、あんまりやっても逆効果だよって言って、抑えさせたけど。じゃないと、鍛え上げる前に壊れちゃうわよ。張り切り過ぎね」
「ふうん。軍人になる積もりだし、今の内に身体作っておこうって腹積りかぁ」
「嘘?ジュリアン軍人になっちゃうの?」
「そうよ、志願はするって決めたみたい」
「えぇ〜。死んだら嫌じゃん。下っぱなんか、死ぬのが仕事だよ」
あ、やっぱり顔をしかめてるわ
私達も歩き始めます
「憧れた人が滅茶苦茶強い人だからね。その人に追い付くには、軍人になるのが一番の近道なのよ」
あ、溜め息付いてるわ
「はぁ、仕方ないかぁ。良し、今夜はジェシカ姉さんが、たっぷりサービスしちゃおう」
「何する積もり?」
「嫌だなぁ。筆下ろしに決まってるじゃない。私の貫通式でも有るけどね」
へ?貫通式?
「…あんな商売やってるのに……未経験?」
「馬鹿ね。本当の売れっ子は、身体は使わないのよ」
「おみそれしました」うん、本当に恐れ入ったわ
「そうそう、私さ、スカロン叔父さんにお礼言いに行きたいんだけど?」
「そう?じゃあ、一緒に行こっか?」
「いつ出発するの?」
「3日位滞在しようかと思ってたんだけど」
「じゃあ、予定一杯迄居なよ。皆喜ぶわ」
特にジュリアンがね
「うふっ、解ってるわよ」
そう言ってウインクしたジェシカ
ジュリアンが好きになるのも解るなぁ、うん
「で、ミミはどう思う?」
「ジュリアンととってもお似合い。私相手より、ずっと良いわね」
「そっかぁ。ま、ジュリアンに甲斐性発揮して貰うのも有りよ?」「あっはっはっは、出世したらお願いしよっかな?」
お願いされてしまえ、この悪戯好きめ
「あ、そうだ」
「何?」
「ジェシカの好きな人って、誰?居るの?」
そしたらぴたりと止まっちゃって、人差し指を立てて、悪戯っぽくウインクしちゃった
「な・い・し・ょ」
本当に、この従姉妹には敵わないな、全く

私達が戻ったら、お父さんも戻ってて、皆で楽しく昼食です
「わ〜い、ヨシェナヴェだぁ!私、これ大好きなのよ」
そう言ってジェシカがぱくぱく食べ始めちゃいました
「ん〜美味しい。今日は誰が作ったの?」
「はいはい!私とお母さん」
そう言って、ジュリーが手を上げてます
「お〜ジュリー、腕を上げたね。美味しいわぁ」
「こっちも食べてみて。新しい料理、テンプラって言うの。最近、タルブの村で流行ってるのよ」
「へぇ、どれどれ」
そう言って、パクりと食べて
「やだ、美味しい!叔母さん、レシピ教えて!」
「シエスタに聞きなさいな。シエスタが持ち込んだ料理だから」
「そうなの?シエスタ、厨房で教えてね」
「任せて」
どんて胸を叩いて保証します
うん、私も教えて貰ったけど、気分良いわぁ
「所でジェシカはどれ位居るんだ?」
あ、お父さんが聞いてる
「3日予定してるよ。泊まるのは後二日だね」
「そうか。仕事休んで迄来たんだから、思う存分羽を伸ばして行きなさい」
「了解了解。秋の収穫祭はどうする?」
「来てくれると助かるな。葡萄潰しは若い女の仕事だ」
「はいは〜い。予定入れとくねぇ。シエスタも仕事休みなよ〜」
「解ってるわよ」
そう、秋の収穫祭のワインの仕込みに行う葡萄潰しは、若い女のコがやるしきたりで、未婚の女のコ限定なのだ
勿論行き遅れは対象外です
要は、可愛い女のコが仕込むと酒が美味しく熟成されるという、験担ぎなのだ
当然、私やジュリーが該当して、ジェシカもお手伝いに来てくれてるって訳
お母さんは村に来た最初から結婚しちゃってたので、実は一度も参加した事が無かったりする
「私の方が、若くて綺麗なのに……」
「あはははは!叔母さん、毎年言ってるよね?」
「最早風物詩だな」
「アナタ」
あ、睨まれてお父さんが食べ物に目を向けた
「私も、お手伝いに来て良いですか?」
「ミミちゃんもかい?若い女のコは大歓迎だが、仕事を休んで大丈夫なのかい?学院メイドは、きちんとした身元紹介を受けなきゃなれない高級職だろう?シエスタも、実績上げる迄二年位休めなかった位なんだが?」
あ、しまったって顔をしてる
「…私、まだ一年目でした」
「せっかくの高級職を棒に振るのはいただけないな。気持ちは有難いが、今回は遠慮させてくれ」
「はい」
「じゃあ、ミミちゃんの分迄私が披露してしんぜよう。安心するが良い」
あらま、そう言って、ジェシカが胸を張ってる
「私の分は私がやります!」
「まま、今回は私に譲って、本当に学院メイド頑張りなさいな。私もやろうとしたんだけど、紹介者用意出来なかったのよ。トリスタニアって、ほらあれじゃない?王家直轄だし、人口多いので逆に学院に繋がってる紹介者が見付からないのよね」
「地方だと、領主様次第だよね」
「そうだよね〜。私もお父さんがお得意の貴族様に卒業生が居たからお願いしたんだけど、私を見た瞬間に、貴族様が『可愛い娘ちゃんを口説く機会減らす訳ねぇだろ?全部妨害したるわ』って」
うわぁ、そんな事が有ったのか
「まさか、本当に妨害されたの?」
「さぁ?当時はまだまだ地位が低い貴族様だったし、そんな事出来るとも思えなかったけどね。基本陰険な立回り嫌いな人だから、お願いしたんだし」
「はぁ、大変なのね〜」
「そ、大変なのよ〜。妬いた?ジュリアン」
にまりんと笑ったジェシカがジュリアンに話を振って、あっ、ジュリアンがブって吹いた
「ゲホッゲホッ、な、何の」
そう言って紅茶を飲んで、落ち着こうとしてたけど
「私、こう見えても、トリスタニアでは私の事狙ってる男が沢山居るの。ジュリアンが私の騎士になってくれたら嬉しいなぁ」
そう言って、両手を組んで上目遣いでジュリアンをキラキラした眼で救いを求めて凝視してるわ
あのね、ジュリアンがむせた時に、目薬素早く指したの全員見てるわよ?
お父さんもお母さんも笑いを堪えて見物してて、ミミやジュリーはその身代わりの早さに、思わず感心しちゃってるわ
んで、私はと言うと、勿論何も言わないで見物です。だって面白いじゃない
「ぼ、僕」「うん、僕?」ジェシカが神妙に聞き入れて
「ジェシカの……」「私の?」「ねぇねぇ、ジェシカ姉ちゃん。さっきの目薬なに〜?」
ありゃりゃ、ちびっこが邪魔しちゃったよ
あ〜、ジュリアンがぷるぷる震えてる
「ジェシカ姉さん!またからかったなぁ!!」
「きゃ〜〜!?ジュリアンが怒ったぁ〜〜〜〜!!」
ガタッって立ち上がってジェシカが逃げ出して、ジュリアンが追い掛けて行っちゃった
「ふぅ、やれやれだ。お前達、残り全部食ってしまえ」
「「「は〜い」」」
「ジャノ、駄目じゃない。ジェシカの演技邪魔しちゃ」
「だってぇ、気になったんだもん」
お母さんがメってちびっこの一人に言ったけど、不満気だねぇ
あっはっはっは、面白かったなぁ
んで、私は片付けすら追い出されたので、二人が何処に行ったかな〜?って、てくてく外に出て行ったら、草原の方から声が聴こえて来て
「待て、ジェシカ姉さん。今日という今日は許さん」
「んべっ。だったら捕まえてみろ、ヘタレ坊主」
「こんにゃろ」「あはははは、きゃあきゃあきゃあ!!」
あらあら、元気だねぇ
ジェシカの走りに追い付いたジュリアンが、後ろからジェシカを引っ張って、そのまま二人でもつれて転んじゃったよ
草に隠れちゃったなぁ
私はゆっくりと近付いて、あ、声が聴こえて来た
「…何でからかうんだよ?」
「いたたた。からかってないよ」
「目薬迄使ってさ。あれ、店での手口だろ?」
「そうだよ。ジュリアンにもばっちり効いてるじゃんか」
「だから何で?」
「教えてやらないよ。このヘタレ」
「…」
あ〜あ、ジュリアンが黙っちゃった
がさりと草が鳴って、態勢が変わったのかな?
私は黙ってしゃがんでます
「なぁ、ジュリアン。軍人になるの止めないか?」
「…ジェシカ姉さんのお願いでも駄目」
「止めるなら、私付けるよ?それでもかい?」
「ジェシカ姉さん、自分をモノ扱いすんのは止めてくれよ!むぐっ」
ちゅっちゅって、粘着質の音が聴こえて来た、キスしてるね
あはは、また出歯亀してるよ、私ってば
「ジュリアン、死ななないでくれよ」
「うん」
「半年会わない内に、いい男になったね」
「本当?」
「あぁ、本当さ。だからさ、必ず帰って来なよ?約束だぞ?ジェシカ姉さんとの約束破るなよ?破ったら、泣いちゃうからな?」
「うん、約束する」
「じゃ、もう一回」
ちゅっちゅって音が聴こえて来た
あはは、動くと音が鳴るし、動けませんわぁ
「あ、ん、ジュリアンちょっと待って」
「ジェシカ姉さん…」「あん。待って、ね?お願い。二人きりなら良いから」
「二人きりだよ」
「違うの……出歯亀が居るの……ね、シエスタ」
ギクギクギク、バレてましたか?
立ち上がるのもなんだし黙ってたら
「あら、鼠が居るわ」
「ちゅ、ちゅうちゅう」
はっ、つい、何やってんだ私は?
私は笑いながら立ち上がって
「あはは、ご、ごゆっくり〜〜〜」
「……姉さんの……馬鹿たれ〜〜〜〜!!」
服をはだけてたジェシカが笑いながら舌打ちしてたのを見ながら、私はダッシュで逃げ出しちゃいました

ごめんよジュリアン
千載一遇のチャンスをふいにした姉さんが悪かったぁ!
本当にゴメン

○月×日
さてさて、今これを書いてるのはスカロン叔父さんの店兼スカロン叔父さんとジェシカの家、魅惑の妖精亭の屋根裏部屋の一室です
え?あの後二人がどうなったかだって?
反省して邪魔してないから知らないわよ
一応聞いたけど、ジェシカってば
「んっふっふっふ、べ〜つ〜に〜?」
明らかに機嫌が良いけど、ジェシカの場合は何処から何処まで演技か解らないから、さっぱりなのよ
ミミの頑張りは報われるのかしらん?
ま、それはともかくとして、私達が裏口からお土産の葡萄持って入ったんだけど
「ただいま〜、皆仕事頑張ってる〜?」
「お帰りジェシカ。その娘は?」
「ん?従姉妹のシエスタだよ。シエスタ」
「うん、初めまして皆さん。私ジェシカの従姉妹のシエスタです。タルブのお土産持って来たから、皆食べて」
「有難う〜。早速使わせて貰うね。誰かミ・マドモアゼル呼んで来て」
その言葉に頷いた人を見て、私は指を差して固まっちゃいました
「み・み・み・み」
慌てた相手が私の口を思い切り塞いで、そのまま影にずりずりずり
「今のあたしは妖精のルイズ。良いわね?」
確かに可愛いから妖精と呼んでも良いかな?
でも雰囲気が駄目駄目です
「雰囲気が妖精じゃないですよ」
「るっさいわね。とにかく、今はルイズ。絶対に家名言っちゃ駄目よ?」
「何かやんごとなき事情が?」
「そうよ」
「解りました。ではルイズさん、才人さんにはどうします?」
あ、すんごいバツが悪そうな顔をしてる
「何かやらかしましたね?」
「何も無いわよ」
「別に良いですよ、言わなくたって。スカロン叔父さんに聞けば一発ですし、どうせ予想通りでしょうし」
「わわわ解ったわよ。仕事終わったら話すわ」
「了解です」
私達が影から出て来たら、ジェシカが仕事着に着替えてて、報告受けてますね
「あらシエスタ。その新人の娘と知り合いなの?」
「えぇ。だから思わず驚いちゃって、ねぇルイズさん」
「そそそそうなの。まさか、シエスタの知り合いの店だとは知らなくて」
「知り合いだからといっても手加減しないよ。さぁさぁ、仕事頑張って」
パンパンパンと手を叩いて、仕事始めちゃいました。良くやるなぁ
で、私はスカロン叔父さんを見付けて経理部屋に回ります
「スカロン叔父さん、父と母に代わって有難うございます」
「あぁ、良いの良いの。あのお金、カジノの勝ち金だからね。久し振りに小切手に換金したわぁ」
流石スカロン叔父さんだ
「凄いなぁ。私もそれ位勝てたらなぁ」
「シエスタは止めときなさい。ギャンブルに向いてないわ。人間向き不向きが有るからね」
「うん」
スカロン叔父さんの眼力は確かだ
私はスカロン叔父さん同伴で、遊ぶのがせいぜいです
多分ミスヴァリエールもカジノで見付けたのかな?
「スカロン叔父さん。新人のルイズさんて、カジノで見付けたんですか?」
「正解。後は言わなくても判るでしょ?」
「すこぶる負けて、巨額の借金こさえてって所ですか」
「まぁね」
スカロン叔父さんが肩を竦めちゃった
…………全く、確かに才人さんには伝え難い内容だよなぁ
「もしかして知り合い?」
「えぇ」
「ちょっと、困ってるのよね。あの娘、今迄見てきた中で一番使えないわ。クビにしようかと思ってるんだけど」
ま、不味いです。今ミスヴァリエールが路頭に迷ってしまったら……しかも、私縁の場所だと知れたら……才人さんの逆鱗に触れてしまう
それだけは、何としても避けなければ
「多分まだまだ馴れてないだけですって。ね?私の友達にチャンスを与えて下さい!」
拝み倒してしまえ、うん
「う〜ん……シエスタがそう言うならもう少し様子見するけど。正直損害が洒落にならないのよ」
「そこを何とか!私の顔を立てると思って!お願いします!」
「じゃシエスタが接客」「それは嫌だなぁ」
「……ふ〜ん。交換条件が甘いわよ〜?」
あぁ、スカロン叔父さんの説得に失敗しそうだ
う、何とかせねば。必死に頭を廻らせて
そだ!
「スカロン叔父さん。竜の羽衣って、飛ぶと思います?」
「何よ?いきなり。あんなの飛ぶ訳無いじゃない」
「答えはバツです。この前のタルブの戦で、竜の羽衣が空を飛んで、私達を助けてくれました」
ガタリ
あ、叔父さんが椅子からずり落ちた
「そんな……馬鹿な」
「もう戦から一ヶ月経ってますよ?噂はトリスタニアには流れてないんですか?」
「えぇと、謎の魔法兵器がトリステインを救ったって、専らの噂だけど?」
「ビンゴ!それです」
「……」
あ、呆然としちゃった
良し、今の内に畳み掛けてしまえ
「あのですね。その竜の羽衣を飛ばした人とルイズさんは兄妹と言える間柄なんです。私達家族にとっても大事な人なので、もう少しだけ、様子見してくれませんか?」
「昨日手紙を送ったんですけど、ルイズさんがこんな事になってるの知らない筈ですから、また手紙送って来て貰いますよ。その人が来てくれれば、ルイズさんも元気になって、バリバリ働いてくれますから。私が保証します!」
良し、胸をどんと叩いて自信を示すぞ
「……シエスタもすんごい人と知り合いになってるわね。まぁ、そう言う事情なら、私の恩人でも有るわけね。恩人の妹さんなら、無下には出来ないわ。シエスタの言う通り、暫く様子見しましょ」
「有難う。スカロン叔父さん」
よっしゃよっしゃ、我ながら偉いぞ、シエシエ
「その代わり」「はい?」
まだ条件有るの?
「さっさと来て貰いなさい。皆の稼ぎの粗利分が、ルイズちゃんの粗相で吹っ飛んでるのよ」
「わっかりましたぁ!直ちに速達認めます!」
どえらいこっちゃあ!お店がミスヴァリエールの粗相で潰れてしまう!
私は便箋と封筒を叔父さんから貰って、ダッシュで部屋に籠ってガリガリ書いて、梟便の合図を窓に掛けたら、やって来ました、年中無休の梟さん
今、私は最高に感謝してます!
「すいません、速達で。はい、割増し料金」
ちゃりんと喉元の支払いに入れたら、ホゥホゥと機嫌良く鳴いて飛び立ってくれました
何時も不思議に思うけど、どうやって渡す人選別してるんだろ?魔法は本当に不思議だ
これ、ハルケギニア全土の個人に届くもんなぁ
経営してるの誰なんだろ?

とにかくお願いします
神様始祖ブリミル様ひいお爺様に悪魔様にエルフでも良い!
誰でも良いから才人さんを、明日中に魅惑の妖精亭に届けて下さい!
流石に無理なお願いだよ
がっくし

○月×日
祈りって、通じるものなんですねぇ
まさか、開店して暫くしたら才人さんが来るなんて
私、びっくりしちゃいましたよ
私が才人さんに懇切丁寧に説明すると、深い深い本っ当に深い溜め息を、才人さんが付いちゃいました
「全く、スリに遭うわ、カジノで大借金をこさえるわ、オマケに店長に救われるわ。凄い大冒険だな」
「……返す言葉もございません」
「まぁ、無事で良かったよ」
才人さん、さっきから溜め息を付きっぱなし
「ルイズ、だから言ったろ?貴族の気分で動いてたら、危ないぞって」
「……はい」
ミスヴァリエールの素直な姿って、初めて見るなぁ
コンコン
「ルイズちゃんのお兄さんが来たんですって?挨拶させてくれないかしら?」
「スカロン叔父さん」
私が開けたら、スカロン叔父さんが入って来ました
4人は狭いから、私がスカロン叔父さんに席を譲ります
ミスヴァリエールはベッドに腰掛けていて、才人さんはテーブルを挟んで、スカロン叔父さんの対面です
「あら、貴方がルイズちゃんのお兄さん?宜しく、私はスカロン。ミ・マドモアゼルと呼んでね」
「初めまして、マダム。俺は才人、ルイズの腹違いの種違いの兄です」
「あら、ミ・マドモアゼルって言ったでしょ?もう、皆マダムって言うのよねぇ。って、今言ったの、他人じゃない?」
「親の連れ子同士の結婚ですよ」
「あら、納得だわ」
ふわぁ、すらすらと良くあんな言葉がでるなぁ
この後はばっさり割愛
だって長いだけだもん
にしても、いつの間にか才人さんがお金持ちになってたのはびっくりだ
何をしてるんだろう?
そして私と才人さんがお店を手伝う事になって、ミスヴァリエールと一緒にお仕事参加です
才人さんと一緒なら、学院の時とちっとも変わんないから余裕です
「それじゃ、派手に行きましょう」
私はわざと、才人さんに食材をぽいぽい放り投げます
しぱぱぱって、あっという間に才人さんが切り分けちゃった
「いよっと。曲芸師じゃないんだがなぁ」
ざざざっと盛り付けながら苦笑する才人さん
「おおぉ?やるじゃないか兄ちゃん」
ふっふっふっふ、驚け〜私の才人さんは凄いんだぞ〜?
「魔法学院料理長をして、敵わないと言わしめる才人さんの包丁捌きをご覧あれ!そいやっ」
って、今度はお肉の塊を投げちゃいました
うん、調子に乗ってます
「ったく」
そう言って刀に手をかけて手が見えなくなって、霧が舞って、才人さんが刀の峯を上に向けたら、ぱたたたたたって、お肉が切り分けられて、引っかかったのです
うん、やっぱり凄いなぁ
「「「おおぉ〜〜」」」
切り分けた分はまた魔法冷蔵庫に入れたけど、才人さんにデコピンされてしまった
「あん、痛い」
む〜、ぶすって見返すと
「食べ物で遊ぶのは嫌いだね。判った?」
「はぁい」
ちぇ、せっかく凄い所見せようとしたのに、才人さんの馬鹿
もう良いやい、どんどん投げたれ
私は揚げ物を油がついたまんま才人さんにビッビッビッって投げちゃいます
それを才人さんが包丁で一瞬で切り分けて、あっという間に盛り付け
あ、スカロン叔父さんがしきりに頷いてるわ
どうだどうだ、才人さんは凄いだろ?って、思ってたら
「才人ちゃんとシエスタ。ちょっと此方来なさい」
「はい?」
私達が寄って行くと
「二人で包丁芸やらない?チップ稼げるわよ〜?」
あれ?才人さん、ちょっと包丁握ったら首を振っちゃった
「ごめん、時間切れ。あの芸、アバウトなんだけど、時間限定なんだ。続きは明日になる」
そう言って、くるくる自在に包丁回してるけど、確かに速くは無いなぁ
「あらあら、そうなの?」
「メイジと一緒で、ずっとは出来ないのよ」「ふうん。何か魔法がかかってるのね?」
「そんな所です」
「じゃあ仕方ないわ。普通にしてても役に立つし、お願いね」
「はい」
あ、危ない所だった。そのまま続けてたら、食材駄目にする所だった
「で、才人さん。実は出来るでしょ?」
「買い被りだって」
「はい、檸檬切り分けて」
ひょいって投げたら、しぱって一閃だけでした
綺麗に分かれた檸檬を見せて
「此が限界。あんな風に、空中で何閃も出来ないよ」
「充分凄いですよ」
皆うんうん頷いてるのに、才人さんはちっとも偉そうにしない
まぁ、そこが良い所なんですけどね
そして私と才人さんとのサービスメニュー、テンプラを皆に賄いでご馳走だ
食べたスカロン叔父さんが
「……数出来る?」
「出来るよ。小麦粉でやる揚げ物だね。塩で食べてくれ。野菜や魚介や肉類、何でも来い」
「スペシャルメニューで出すわ。頼むわよ、二人共」
「あいよ」「任せて下さい!」
「本当に美味しいのは野菜だね、野菜薦めてくれ」
「了解したわ。妖精さん達〜〜!」
パンパン手を叩いて指示を下して、注文がチョロチョロ入ったと思ったら、暫くしたらドカッて注文入って来ちゃった
流石、才人さんとひいお爺ちゃんの国の料理だ
今日は何時も以上に忙しいみたいで、私達厨房担当はあくせく働いてたんだけど、その時に悲鳴が聴こえて来たんです
「きゃあ!?すいません!」
ミスヴァリエール、粗相しちゃいましたね?
才人さんが出るかな?って思ったら
「トイレ」
あれ?トイレ?
そっち勝手口ですよ?
あ、スカロン叔父さんの声が聴こえて来た
成程、出る必要無しと
はぁ、何時までも守ってばっかって訳じゃないんですねぇって思ってたんだけど
スカロン叔父さんが厨房に入って来ちゃった
「才人ちゃんは?」
「トイレって言って」
私は勝手口を指し示して
「やっぱりか。他言無用よ」
「あの?何か?」
「ルイズちゃんが才人ちゃんに拘る訳が良く判るわねぇ。トレビアン!さぁ皆。暫くの赤字挽回するわよ!」
「ウィ、ミ・マドモアゼル」
その後もテンプラは売れ行き最高で、私達はずっと揚げては盛ってを繰り返し
揚げるだけなのに、才人さんの言うサクサク感を出すのって、本当に難しいんですよね
試しに挑戦したコックさんが、上手くいかなくてムキになっちゃいましたし
「兄さん、どこで見極めんだ?」
「油の温度をちょっと衣を落として確認すんですよ。こんな感じ」
って、ちょこんとやるのをふんふん頷いて勉強してますね
「ちょっと沈んで浮いて来るのが適温。後は食材で火の通り易さが違うから、そこら辺は経験だね」
「兄さん、どんどんやってくれ。学ばせて貰うわ。コイツは魅惑の妖精亭の名物料理になる」
「あいよ。油は使いすぎると不味くなるから注意ね」
「お、そんな所迄気を使うのか?」
「そだよ。古い油だと揚げ物不味くなるでしょ?」
「…確かにな」
やっぱり才人さんと一緒だとこう………良いなぁ
やっぱり才人さんが板前で、私が女将で小さい宿屋………やりたいなぁ
葡萄園の傍らで、たまに来るお客様をおもてなしするの
よぉし、私の夢は、絶対に叶えるぞ〜!
そんなこんなで閉店して、スカロン叔父さんが算盤片手にパチパチやって、にやってしてから
「皆、おめでとう!目標額達成、大幅黒!大入りよ!トレビアン!」
「やった!」「久し振り!」「皆、良く頑張ったぁ!」
パチパチパチパチ
やっぱり、ジェシカの居る居ないは全然違うんだなぁ
と、思ってたら
「今日の売り上げナンバーワンは、才人ちゃんとシエスタのテンプラ!皆拍手!」
「え?嘘?」
私がぽかんとしてると、ジェシカが飛び付いて
「流石シエスタ!やるぅ!」
で、私が拍手を受けてたら、才人さんは居ないし
全く、何でこういう時に居なくなるんだ?って思ってたら
「才人ちゃんは?」
「厨房の油鍋で、料理人達にテンプラ教えてます」
「うんうん、それは大事な仕事ね。邪魔しちゃ駄目よ?」
「はぁい」
あの人ちょっとは休んでよ!全くもう
そして、才人さんが厨房から出てきました
「あら、料理人はどうしたの?」
「もうちょい練習するって」
「あのテンプラ、絶品だったものねぇ。今夜も頼むわよ」
「はいはい」
そう良いながら、手に何か持ってシャカシャカやってるし
「少し酒貰ったよ」
「良いわよ。才人ちゃんはそれだけ働いたからね」
そう言ってスカロン叔父さんが頷いたら、ショットグラスを二つ用意して、スカロン叔父さんと自分に注いでる
「ドゾ」
「何これ?」
「カクテルっていうんだ。酒や果汁混ぜて色々な味を作る。バーテンじゃないし、適当に作ったから、味は保証しないけど」
「ふぅん……」
スカロン叔父さんが一気に飲んで、真剣な顔をし始めちゃった
「バリエーションは?」
「無限」
「ちょっと、それ本当に?」
「本当。今この時にも、新しいカクテルが産まれてるね。グラモン夫人レティシアさんが、トリステインの第一人者だね。本当に美味い酒作ってくれたよ」
「紹介してくれないかしら?」
「良いよ。ちょっと、仕事でグラモン行くから連絡しておくよ。酒の趣味は大事だもんね」
「勿論よ」
ハハハ、本当に才人さんは食には熱心ってか、何気なく拘るんだよなぁ
なのに、どんなに不味かろうが絶対に選り好みしない
私が料理を失敗して、思わずうぇってなったモノ迄、黙って食べちゃったもんなぁ
使い魔さん達含めて、皆食べなかったのに
本当に、才人さんは不思議だ
さて、この後はジェシカがちょっかい掛けて、やっぱり才人さんがミスヴァリエールにのされて、ズルズルと行ってしまった訳で
全く、あの二人のあれは最早年中行事ですね

だけど、私も負けないぞ
行くぞシエスタ、私の夢を掴む為に
頑張るぞ、おー

*  *  *


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Last-modified: 2012-03-08 (木) 21:45:10 (4428d)

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