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Last-modified: 2012-03-08 (木) 21:49:49 (4425d)

新学期が始まった
だが、学院は女生徒ばかりになってしまい、例外はコルベールとオスマンと料理人達だけになってしまい、授業も半分以上休講になり、残された女学生は学院の中で暇を持て余した
ちなみに才人は使い魔である訳で、最初から員数外だ
男が居なくなると、非常にだらしなくなるのが女である
正確には、男の目が無いと、恥も外聞も無くなるって所だ
「つまらん!非常につまらん!」
オスマンが学院長の机をばんばん叩いている
「どうしたんですか?オールドオスマン」
仕方無く、ミセスシュヴルーズが聞く事にした
只のリップサービスなのだが、それでもオスマンは食い付いた
「良くぞ聞いてくれた!ミセスシュヴルーズ。最近の女生徒は全くけしからん!」
「…何がけしからんのでしょう?」
どうせ下らない事だと思いながら、一応は聞いてみる
「うむ。皆恥じらいが無くなってしまったのだよ。あれはイカン、イカンぞ!こう、恥ずかしがって隠すからこその絶対領域で有るにも関わらず、おっぴろげおって、実に嘆かわしい」
思わず身体を傾げてしまったシュヴルーズ
「あのですね」
「カァァァァァ!聞けい!」
くわっぱと大口を開けながら、オスマンは更に力説する
「そう、恥じらい、恥じらいだ!羞恥心に軽く頬が染まってる所をこうやって絶対領域に挑戦し、掻き分けて覗くのが楽しみなのであって、それがこう、胸をドキドキワクワクさせてくれると言うのが分からんのか!」
分かるのは、変態紳士だけだ。基本的に駄目爺である
本当に、何で学院長をやっているのだろう?
シュヴルーズは思わず杖を振って、粘土を大口開けてるオスマンに突っ込んだ
「ちょっと、ヴァルハラ行って下さい」
「も、もが」
そのまま目を回したオスマンを確認して、ミセスシュヴルーズは粘土を取り払った
「ま、しかし、学院長の言い分にも確かに一理有ります。やはり淑女は何時如何なる時も淑女で無ければなりません。私からも訓示しましょう」
そう言って、シュヴルーズが席を立った

*  *  *
「相棒…」
「……今日は何人だ?」
「7人だぁね」
才人が森で稽古しに行くと、暗殺者が待っている
「おいおい、毎回違う連中か?下調べ位してるだろ?毎度毎度馬鹿じゃないのかよ?」
そう言って、才人は肩を竦めつつ、木の上の暗殺者に話し掛けた
「バレてんだから帰った方が良いぞ?おっさん達」
そう言ってデルフも声を掛け、暗殺者側に動揺が広がるが、去る気配を見せない
「どうせ平民だから大した事ないって、依頼者に言いくるめられたんだろ?マジ帰った方が良いって」
舐められたと判断したか、帰る気配が無い
そのまま才人が稽古場所に寄ると、ばさぁと網が下から才人を持ち上げた
「うわっ!?」
網のお陰で村雨すら抜けない、一気に釣り上げられた才人に、クロスボウで一斉に弓が放たれた
「ちょい身体右」
キキキキン
才人に四方から来た矢が投げナイフを持った才人に切り分けられ、或いは受けられ、そして背後からの矢はデルフが受け止めた
ガンダールヴによる曲芸も、慣れて来たデルフと才人である
ブツッ
網の縄目を一気に切断した才人が、そのまま落下しながら一気に投げナイフを四方に放った
今の投げナイフは攻撃力を増強する為に、タバサの風魔法が掛かっている強化版で、非常に危険な代物である
当たった者達はそのまま落下し、背後からの者だけ残った
更に着地した才人は短銃を取り出して無造作に引金を引く
パン
「アグッ」
七人が墜落するのに、時間はかからなかった
「さてと、生き残りは居るかなっと」
「居るかねぇ?皆自殺すんだもんよ」
「きっちり報告入れて対策しろよ、全く」
「相棒、後ろだ」
言われた瞬間に投げナイフを抜いた才人が振り返り、一気に投じた
ガツン
狙いは微妙に逸れ、木の幹に深く突き刺さる
「ヒッ」
腰を抜かして尻餅を付いたのは、ルイズだった
「こんの……馬鹿たれ!だから仕事中は寄るなって言っただろうが!」
ガチガチ震えてるルイズ
そりゃそうだ
後一歩で自らの使い魔に殺される所だったのだ
完全に腰が抜けてしまった
「なっなっなっなっ」
言葉にならないルイズ
才人は倒した相手を検分し、致命傷でない相手も死んでる事に溜め息を付いた
「この調子だと、こいつら全滅すんぞ?」
「一人でアサシン壊滅させたら、伝説にならぁな」
「あぁ、やだやだ。出来ない奴の嫉妬って本当に醜いわ」
「相棒、また引き渡すのか?」
「しゃあねぇしなぁ。アニエスさん逆に喜んでるぜ。ドンドン数が減ってるって。俺は掃除役だってよ」
そこまで言って、ナイフを回収してジャケットの内側に収める
今の才人は、全身武器の塊だ
そうしないと、生き残りが出来ない
やっとルイズに歩み寄ったルイズに話し掛ける才人
声音は非常に冷やかだ
「何故来た?」
「……サイトが気になって」
「もう、使い魔だからなんだの話じゃ無くなってる。生きるか死ぬかだ。下手に寄ると巻き添え食うぞ?」
「こんな事になったの……あたしのせい?」
「いんや、何れなった。早いか遅いかの違いだ」
ルイズは俯く
才人は更に言い放った
「奴らは学院を巻き込む事はしない。何故か解るか?自分達の子息や敵に回したくない貴族に塁が及ぶからな。だから学院に籠っていれば安全だ。良いな?」
ルイズは頷くしか出来なかった
結局、今の事態には無力だった
事態を悪化させる方向に掻き回すしか能の無い自分が、とにかく嫌だった
「あたし……」
「ルイズ、良い事教えてやろうか?」
そう言って、ルイズを抱き起こして立たせる才人
「何?」
「俺はさ、ルイズ位の時は成績の悪い平凡な学生だったのさ。だから、ルイズの方が俺より凄いんだぞ?」
「嘘だ」
「本当本当。いやぁ、社会人になってから勉強したもんなぁ。後悔しまくったぜ。何で学生の時に、もっと勉強しなかったんだって」
そう言って、ルイズの頭をぽんぽん叩きながら撫でる
「ルイズは、俺よりずっと凄くなる。だって、俺が経験してない波乱万丈な経験を既に積んでるんだ。きっと将来は凄い女になるぞ。だからほら、笑顔だ笑顔」
自分の使い魔にくしゃくしゃ頭を撫でられて、何とか前を向くルイズ
「ととと当然よ。私はルイズ=ド=ラ=ヴァリエールなんだから」
「流石です、マイロード。ではどちらに参りましょう?」
「夕食に行くわ、付き合いなさい、犬」
「わん」
そして才人の言葉は、後々間違っていたとルイズは痛感し、才人でも読めない事は有ると学習するのである
でも、今のルイズには、才人の言葉は絶対に聞こえた

そう、絶対に…人は盲信に気付かない、嫌、気付けない

*  *  *
ヴァリエール公は自領に戻らず、トリスタニアに滞在していた
拠点にしてる邸宅は、元々公館として確保してた遊休施設を期間限定で借り上げたものだ
その中に、ヴァリエール公に顔を憶えて貰おうと、大量にサロンの参加者達が出入りしていた
ヴァリエール公は誰にも公表した覚えはないのだが、噂が廻るのが異常に早い
その中で、何人かの顔見知りが二人きりで話をしたいとアポを取ったので、部屋の中でやりあっている
「どういう事だヴァリエール!貴様、公然と陛下に楯突く気か?我が領に迄、アサシンの出入りが報告されているぞ?目標は全てあのゼロ機関の所長……いや、平民だと言うではないか!こんなふざけた話が有るか?たかが平民が陛下の酔狂に付き合うだけで、何故暗殺者迄出る騒ぎになる!?」
「落ち着け、モンモランシ」
立って激昂してるモンモランシ伯に着席を促し、ブランデーを自ら注ぎ、モンモランシに渡すヴァリエール
「…貴様の酒好きは治らずか」
「あぁ、好きで飲んでる訳じゃない」
「ったく」
ドカッと席に付いたモンモランシ伯がブランデーを一気に流し込んだ
喉を焼くアルコールの感覚が心地好い
「理由を聞こうか」
「そんな指示等、下しておらん」
「…何?」
「別に、サロンの連中にこう言っただけだ。あの平民を負かす事が出来たら、次のヴァリエール公に推挙する、とな」
「……阿呆か貴様?」
モンモランシ伯は思わず絶句し、辛うじてそう言うので精一杯だった
「序でに我が娘の内、誰でも好きなの持っていけと条件を付けた」
「何を考えておる?」
「別に……言葉通りだが?」
そう言って、ヴァリエール公はブランデーを煽る
「その勿体ぶった言い方、何とかしろ!領内が傍迷惑だ。モンモランシは、貴卿の遊び場ではない!」
「あの平民の遊び場か?モンモランシ」
図星を突かれ、思わず詰まるモンモランシ伯
「……奴は我が領の利益を上げておる。少なくとも、奴の遊びは容認出来る!いい加減にしろ!」
ヴァリエール公は、そんなモンモランシ伯にブスリと剣を刺す
「平民に頼るとは、堕ちたもんだな、モンモランシ」
ガタッ
思わず立ち上がって、わなわな震えるモンモランシ伯
「きっさっまっ!」
だが、ヴァリエール公は涼しい顔だ
「さっきから言っておる通り、私は一切手出しをしておらん。せいぜい奴が勝つ方にレイズするんだな」
「……マルガリタに危害が及べば、貴様の首を貰うぞ、ヴァリエール」
「好きにしろ」
二人の交渉は物別れに終わり、モンモランシ伯は勢いを付けて扉を荒々しく閉じた
バタン
次にノックをして入って来たのは、線の細い貴族だ。目線が病的なそれを示しており、大丈夫なのか非常に怪しい
「何か用かな?アストン伯」
「……この前言った事、二言は無きかの確認です」
「無い」
ニタァと笑みを浮かべたアストン伯のその表情は、生理的嫌悪を起こすには充分だ
「ヒァッハッハッハッハ。やっと、僕にも運が向いて来た!あの目障りな親父が死に、僕を置いて後継に指名された弟も死んだ!」
ヴァリエール公は黙って聞いている
「しかも、僕の領地での………こりゃ愉快だ!絶対にこのチャンス、モノにしますよ。ついては娘さん三人、全員頂きましょう」
「好きにしろ。しかし、卿に御する事が出来るかな?」
「そんなの簡単ですよ。女なんざ、ちょろっと痛い目見せれば、直ぐに大人しくなるもんです」
本当に愉快そうに笑い、アストン伯は身体を揺すっている
「なあに、一月後はヴァリエール公になってます。見てて下さい」ヴァリエール公は、内心は全く表に出さなかった

*  *  *
ゼロ機関としての活動は、頻繁に移動を重ねる状態で、才人とエレオノール、コルベールは、時間が出来るとモンモランシやグラモンに飛び、すかさず学院に戻ると言う事を繰り返している
最近での特筆すべき出来事は、負傷退役した者や、元から障害を負った者がモンモランシに集って来た事だ
コルベールの紹介で才人はその人達に引き会わされ、その熱意に逆に驚いたのだ
「おい、アンタに従えば、女王陛下の仕事が出来るって、本当か?」
「あぁ、だが、大丈夫か?」
才人の問いに、代表の男が熱心に語り出した
「俺達は見ての通り、最前線じゃ戦えねぇ。戦っちまったら、逆に戦友を死なせちまう。だけどよ、口惜しいんだよ。俺達だってまだまだ働ける。まだ頭は動く、まだ腕も動く、身体も動く。魔力も有る!魔法も使える!」
「魔法が使えねぇ奴だって、手先は動く。両足が有る奴なら踏ん張れる!お願いだ!働かせてくれ!」
才人はその熱意に考えを廻らし、隣のエレオノールを見た
「前代未聞ね」
「やっぱりか。誰から聞いて来た?」
「戦友からだ。メイジを欲しがってる奴が居る。そいつを助けてくれ。そいつはトリステインを、絶対に勝たせてくれるってな」
才人はその言葉で、軍の連中が善意で寄越したと判断した
多分、才人の仕事振りなら、労ってくれると、勘違いしたのだろう
実際は真逆だ
「空軍、衛士隊、竜騎士隊って、所か?」
「そうだ。皆、一度は同じ船や隊で苦楽を共にしてきた戦友だ」
才人は表情を消す
そんな戦場では必要な戦友の労り合いは、仕事に於いては無駄だからだ
「採用基準は明確だ。使えねぇ奴はクビ、貴族だろうが平民だろうが関係ない。そして今からだと、アンタ達は全員前から居る職人達の下、つまり最下層からだ」
「貴族がどうの、兵士がどうの言う奴は要らねぇ。逆に功績上げれば、昇進に於いては貴族平民、障害の程度関係なく考慮する。出来る奴だけ残れ。言っておくが俺は厳しいぞ?エレオノール」
才人の発言は、自身の扱いを言えと言っている
エレオノールは過不足なく判断し、姓名を正直に明かした
「私はゼロ機関所長秘書、エレオノール=アルベルティーヌ=ル=ブラン=ド=ラ=ブロワ=ド=ラ=ヴァリエール。コイツの扱いはコイツの言う通り、非常に厳しい。私も本来は三日でクビを宣告されている。はっきり言って、女だから目溢しされた」
一気に周りがざわつき始める
「おいおい、ヴァリエールをクビ?何考えてんだ?この兄ちゃん」
「それだけ厳しいって事よ。家名なんか関係無い。貴族も平民も関係無い。ついて来れない奴は、誰であろうとばっさり切り捨てる。職人も最初50人居て、40人がクビになってる。あんた達にそれが出来るの?手足が無い分は、やり方を絶対に考えてくれるのは私が保証する。でも、何時まで経っても出来ない奴はばっさりクビ」
全員静まりかえる
「役に立ちたかったら、歯を食いしばって、何糞と泥水を啜りなさい。そしたら、今迄誰もやらなかった事を、造り上げる遊びに参加させてあげる。もう一番艦のフレームは作り始めている。各種材料は着々と揃ってる。あんた達、ついて来れるの?」
男達は黙って聴き、そして問い掛けた
「つまり、俺達に過去の栄光は全部捨てて、下積みから一からやれって事か?」
「そうよ。これを見なさい」
バッと出したマザリーニとデムリの役職名義の推薦状。つまり、その能力を認められた証である
「タルブの英雄の話は聞いてる?コイツの事よ」
そう言って才人の胸をバンと叩く
「嘘だと思うなら、全員今すぐ命を掛けて杖を抜きなさい。誰もを均しくヴァルハラに連れて行ってくれるわ」
「判った……やる」
だが、全員ではなかった
半分位は踵を反したのである
「そんな嘘みたいな話が有るか。ヴァリエール公じゃあるまいし。やってらんねぇ」
そんな中、デルフが反応した
「相棒、右二列目、五番」
すかさず、才人がデルフを抜いて走って跳躍した
そのまま刃を構えて刺突の態勢で目標に飛び込む
「グァッ」
突然の才人の凶行に、周りがざわついた
「な、何しやがる。てめぇ、気でも狂ったのか?」
「良く見ろ、コイツは五体満足だ。負傷退役者じゃねぇ」
デルフがそう言って、周りに注意を促す
「はぁ?心を病んだ奴かも知れないじゃねぇか?」
その言葉にエレオノールが繋げた
「アサシンよ。この通り、コイツの命が欲しい連中がごまんと居る」
「アサシン?」
「多分毒を持ってるわ、あんた達の中に水使い居るでしょ?確かめて見なさい」
そう言われて、水使いが調べて眉を潜める
「確かにあった。持ってる刃物全てに塗られている」
一気にざわついて来る
こんなに危ない案件だとは、誰も思いはしなかったのである
「ついて来る?楽しいわよ?私達の敵は封建貴族。筆頭は我が父、ヴァリエール公。さぁ、でかい相手と戦争よ。元軍人なら、燃えて来るんじゃない?」
そう言って発破をかけるエレオノールに、代表者が問い掛けた
「もしかして、いけ好かねぇ封建貴族に、一撃加えられるんで?」
「そうよ。私はあの父にビンタが出来る。あんた達はあいつらを見返せる。どう?やる?」
エレオノールの挑発的な笑みに、元軍人達は乗っかった
敵はでかい方が、遣り甲斐がある
「面白ぇ。やる、やってやる。命令は?」
「命令系統はトップが才人、次がミスタコルベール、そして私が三番目。その後に、古参の職人10人。あんた達はその下」
「了解だ、何て呼べば良い?」
その時、コルベールに連れられ、職人達がやって来た
「職人の棟梁は親方って言うんだ。トップのムカつく野郎が親方。こちらの貴族は旦那。あちらのキッツイ美人は姐さんだ。良いな?」
「了解だ。あんた達は?」
「好きな様に呼べ。10組に分ける。適当に選抜すっから、付いて来い」
「お、おぅ」

こうして、手足が無い分を魔法や機械で補助しながらの作業者の確保が決まり、元軍人達も軍とは違う種類の厳しさに、泣きを入れる事になった

*  *  *
才人達はコルベールの研究室の中で、自作薬莢と団栗型の7.6ミリ弾丸と黒色火薬、更に01式と02式のセパレートを分割して、本来のチャンバーを開放し、才人が二人に説明していた
「つまりこのチャンバーに薬莢を弾丸事突っ込んでから閉じて、後ろの雷官を撃鉄でぶん殴って火を付けるって訳です」
「ほうほう、威力は上がるのかね?」
「一応7.7mm機銃と同等は目指します。加工精度が悪いから、クリアランスは0.2mm〜0.35mm、はっきり言ってガタガタ。嵌め合い交差は本来0.1mm〜0.2mmでやるんだけどね」

「ふむ。で、火花はフリントロックのと、同様で構わないのかね?」
「火花が出るなら何でも良いです。逆に衝撃で点火出来るなら最高」
暫くコルベールが考えると、エレオノールに指示を下した
「愚者の黄金を頼む」
「了解。イル・アース・デル」
エレオノールが錬金で出したのは、黄金と見た目が良く似た物質が錬金され、才人が質感を触る事で確認し、ふんふん頷いている
「鉄より硬いな……なんだこれ?」
「黄鉄鉱だよ、知らないかね?才人君」
「普段使わない金属だなぁ」
「塩酸から硫酸が、これから作れるんだが」
「硫酸……硫化鉄か?」
「見ててくれ」
そう言ってコルベールは、鉄のハンマーを黄鉄鉱にふるい、接触部分から火花が飛び散る
キィン
そして、勢い良く跳ねた火花が黒色火薬に飛び火し、ボンと火薬が吹っ飛び、全員が呆然とする
「……火薬有るの、忘れてましたね?」
才人が真っ黒になりながら聞くと、コルベールも煤にまみれて答えた
「……済まん」
エレオノールも真っ黒になっており、普段のクール美人が台無しだ
「……火花の具合としては良いでしょ?」
「……あぁ」
そして、これを念頭に、固形式雷官の試作が出来た
雷官は軟鋼性で、それにドーナツ型にした黄鉄鉱を嵌め込み、真ん中に黒色火薬
一発目、才人がチャンバーにセットし、機関閉鎖を行い、撃鉄を起こしてから引き金を引く
カチン……不発
また折り、薬莢を外して確認したら、黒色火薬が落ちていた
「駄目だ、固定しないと、融点低い接着剤……何か」
「羊蝋はどう?燃えるわよ?」
「じゃあ、ソイツで、錬金出来る?」
「えぇ、錬金でも余裕でしょ?あんま不純物関係無いし」
そう言って錬金し、火薬パウダーをドーナツ中央に撒いた上から、羊蝋で固める
二発目、引き金を引くと
バン
「……良し、弾丸と装薬装填する」
雷官を新しいのに付け替え、適当に作った粒をコロコロと詰め、弾丸をプレスで圧入する
ガチンと嵌めるとルーンが輝き、性能を教えてくれる。つまり、発射可能と言う訳だ
「射程350か…」
「凄いじゃない。外に撃ちに行く?」
「あぁ」
外に出ていき、広場に才人は端に立ち、エレオノールが反対側に的を置き、銃を構えると、エレオノールが退避をする
自ら撃鉄を起こし、引き金を引くと撃鉄が雷官をぶっ叩き、火を入れる
余計な動作を省いた、シンプルなシングルアクション
才人が引き金を引き、弾丸が一気に飛び出した
ダァン!
火薬量が増えた為に、銃口から洒落にならない黒煙が吹いている
「…前が見えねぇ」
「しっかりど真ん中よ!威力も桁外れね。鉄板用意したのに、貫通したわ」
「そうか」
才人は黒煙の問題に頭を悩ませる事になり、エレオノール程素直に喜べない
まだまだ改良の余地は有りそうだった

*  *  *
才人は研究室で黒煙を指に救い上げて感触を確かめている
「カーボンだな」
エレオノールはその言葉におうむ返しに聞く
「カーボン?」
「炭素だよ、不完全燃焼が多い証拠だ………待てよ?不完全燃焼なら完全燃焼すれば」
才人はいきなりメモ用紙に化学式をガリガリ書き、唸っている
C+S+?NO3
「ん〜と、硝石。ニトロバクターの反応で出す硝酸塩に陽イオン材料結合塩だから……カリウムかナトリウムか?じゃないと、NOxガスと燃焼灰での硝石結晶は出来ないから確定だな」
更に頭をガリガリやって
C+S+KNO3と書く
「……いや、違うな。カーボンが大量に出てるんだから、炭素量が多すぎで酸素が足りて……そうか、純酸素。畜生、無理に決まってる!」
そう言って才人は更に唸っている
「一体何なのよ?平民」
「酸素が足りないんだよ。酸素が」
そう言って、ギシッと背もたれに身体を預ける才人
そんな才人にエレオノールは上から覗き込む
「酸素?空気の組成だっけ?」
「そっ」
「なら、沢山空気送り込めば良いじゃない。こうやって」
そう言って、エレオノールが才人の唇に唇を合わせ、ふぅと思い切り空気を吹き込んだ
空気を才人に送り込んだエレオノールの顔が真っ赤になって来たので、才人はエレオノールに空気を送り返し、そのまま舌を絡める
「ん……もっと」
ガチャ
「やっと空き時間……おっと失礼した」
バタン
コルベールが黄鉄鉱を出した後は授業に出ており、今帰って来たのだが、思い切り目撃されてしまった
エレオノールは更に紅くなったが、あっさり開き直る
「ミスタも、あぁ言った事だし」
「いや、今すぐトリスタニアに向かう。竜籠用意してくれ」
「思い付いた?」
「あぁ、とびっきりの案がね。流石俺の秘書。行くぞ」
「えぇ」
二人は席を立ち、扉を開くと、コルベールが所在無さげに立って居た
「おや、ミスヴァリエールの魔力と精神力の補給では無いのかね?」
「コルベール先生……何で知ってるんですか?」
「何、私もメイジだと云う事さ。女性は愛される事に感情の振幅が非常に影響されるからね。仮説は簡単に立ったよ。何せ、実例が目の前に有るしね」
そう言って、コルベールはすっとぼけている
エレオノールは、自分がバレバレな状態なのを恐縮してしまった
「全く、ハルケギニアの親父連中はおっかねぇなぁ」
「何、君のその手腕を是非とも教授願いたいものだ。で、どちらに?」
「トリスタニア。ちょっと行って来ます」
「何処に行くにも気を付けてくれたまえ。生徒達は、我々教師に任せてくれ」
「頼みます」

*  *  *
才人達は竜籠で王宮に到着すると、アニエスに面会を求め、アニエスがすっ飛んで来て、互いの情報を交換しつつ、対策を練る
余りに頭が痛いのだ
既に新学期が始まって二週間が経っており、一向に襲撃が止まないのだ
正に手当たり次第という、洒落にならない事態になっている
三人が会議室にて互いの近況を話し、廊下では、内勤の衛士が立っている
「アニエスさん、どう?」
「…駄目だ。全く的が絞れん」
「それって?」
エレオノールが確認すると、アニエスは両手を上げた
「要するに、アサシン同士で的の狙い合いで競争が始まっている。指揮系統なんざない。遺体と遺留品から調べても、一匹狼から組織迄、職業アサシンに傭兵、ちょっとしたバイト」
「依頼者もどうやら封建貴族の大部分と言って良い状態だ。容疑者が多すぎて、捜査能力を越えている」
そう言って、アニエスは銃士隊の捜査能力を越えた事をあっさり暴露する
「だから、当たり構わずな無茶苦茶な襲撃なのかよ」
はぁ、と溜め息をつく才人。既に30人以上は、自身の手にかけた
「あぁ、何せ相手は平民だからな。メイジ殺すのと違って楽チンだ。それに普段は提示されない莫大な賞金を掛けられれば、自ずとこうなる」
そう言って、現状を話すアニエス
「つまり、俺の首は賞金以上の価値が有るって事か。払って貰えるとは限らないのによ」
才人の言葉に二人も頷く
封建貴族がアサシンを雇った形跡なぞ、残す筈が無い
「同感だ。闇から闇に葬られて終わりだ。才人、襲撃した奴は全員殺せ。さすれば恐れて襲って来なくなる。結果的に、犠牲者が減るぞ?」
「ふぅ、了解」
ハルケギニアでは、死体を量産するのも、見せしめに必要なのだ
正に泥沼、更に誰に誇れる訳でもない、暗闘だ
知らない内に、才人は殺しの腕をドンドン上げていってしまっている。現代日本人の才人としては、余りに容認し難い現実だ
「もう殺したくねぇよ。一体何人殺せば良いんだよ?」
「奴らが諦める迄だ」
才人はその言葉に、一番の解決策を提示する
「…ちっ、誰か封建貴族を、文字通り俺の手で吊し上げなきゃ駄目って事か」
「そういう事だ。自身の身に振り掛かると知れない限り、この状態は続く。賞金がどんどんハネ上がってるらしいぞ?モテモテで羨ましいな、おい」
アニエスがそう言って笑っている
「俺が死ぬとは考えてねぇだろ?」
「いんや?現状お前が餌になってくれてるお陰で、国内の犯罪発生が同時期に比べて減っている。国内治安を担当する者としては万々歳だ。頑張れよ、餌。終わったら、休暇貰って労いに行くからな」
そう言ったアニエスは、才人の背中をバンバンと叩き、一つキスをしてから去って行く
「絶対死ぬと考えてねぇな。あれ」
才人の物言いに、エレオノールも頷いた
「ガンダールヴの才人は洒落にならないから、メイジ相手じゃない限り平気って、考えてるんじゃない?」
「数で襲われちゃ、流石に無理だっての。俺は伝説の勇者じゃねぇ」
「黙んなさい。伝説の使い魔」
そうエレオノールに言われ、才人は黙ってしまった
全く、伝説の使い魔が伝説の剣に、誰にも扱えない妖刀迄扱っているのだ
どう見ても、傍目には伝説の勇者である
そして勇者とは、一番の殺戮者の事を指すのは、RPGを経験したモノには周知の事実である

*  *  *
才人達がトリスタニアの雑踏に入ると、またデルフが反応した
「相棒、尾行二人」
はぁぁぁぁと、深い溜め息を付く才人
「エレオノール、フライ、屋根」
「了解」
才人の言葉に詠唱し、一気に飛ぶエレオノール
才人の武器重量と併せて重いのを、才人がエレオノールを抱き抱える事により、エレオノールは振り落とす事なく、屋根に飛ぶ
カカッ
二人の靴が屋根を踏み、音を立てるとそのまま乗馬ブーツを改良した才人用投げナイフ仕込みブーツに才人は手をかけ、即抜きが出来る様に構える
エレオノールのプレゼントが、ペリカン便で届いた
わざわざベルト迄付属されていて、革は贅沢に、頑丈且つ鞣しが美しく稀少な、コードバンである
才人に対し、貴族でも中々揃えられない品々を誂えるのは、エレオノールの気分がとても良い
自分の男に本物を誂えるのは、正に貴婦人のみが持つ愉しみである
暫く経っても、ちっとも来ない事に才人は拍子抜けた
「…それそろメイジが来るかと思ったんだが」
その時である
「庇え相棒!」
デルフの声でエレオノールを突飛ばしたのと銃声が重なったのである
タタターン
突飛ばされたエレオノールが屋根の上で転がっており、才人がその上に被さった
「大丈夫か?」
「痛たた…大丈夫。当たってない」
才人自身はジャケットの回避魔法でダメージは無い
「くっそ、狙撃かよ……こっちにメイジが居るの知ってて、誘い込まれた。デルフ、位置」
「傭兵だな、こいつら。距離有るぜ〜?相棒の頭0時として、1時、5時、9時だ。黒煙でバレバレ、距離200前後」
「まだ試作途中だってのに……弾くれ」
「えぇ」
エレオノールがポケットに手を突っ込み、才人に手渡しすると、才人が背中に手を持っていき、がちりとシングルアクションライフルを取り出した
寝っ転がったまま弾を装填、そして才人は気合い一発、身体を起こした
タタターン!
銃声と共に才人の至近を弾丸が通り過ぎ、ピュンピュン音が鳴る
「見えた!」
そのまま引き金を引く
ダァン!
音が鳴り響いた時には、才人は装填作業に入っていた
左手の指の間に挟んだ弾は3つ、がちりと銃身を折って親指と人差し指で排莢し、すかさず次弾を装填、銃身を戻して撃鉄を起こし、次目標に銃身を身体を捻って9時に向け、銃身を振った勢いで黒煙を払い、引き金を引く
この間僅か2秒未満
ダァン!
また同じ作業を繰り返し、身体を起こしたまま敵の攻撃が無い事を確認すると、エレオノールに指示を下す
「俺のジャケット着て上空から確認」
エレオノールは黙って頷く
才人がデルフを下ろし、ジャケットを脱ぎ、エレオノールがマントを外してジャケットを着て、二人共に伏せたままだ
「詠唱は?」
「完了よ」
「良し、アン、ドゥ、トロワ!」
才人の合図でエレオノールが一気に飛び上がった
上空から目標を確認し、才人はエレオノールを見る為に、仰向けに寝ている
エレオノールがキョロキョロと見回し、方向を指差した
「駄目!あっち生きてる!きゃあ!?」
ターン
エレオノールを狙って撃たれ、才人はその隙を見逃さない
先程の5時方向だ
すかさず身体を起こし、狙って引き金を引く
ダァン!
才人からも、飛沫が跳ぶのが見えた
「ストライク!大丈夫、頭吹き飛んだわっ!」
才人はエレオノールの発言に、銃身を下げて溜め息を付いた
「ふぃ〜、今度は狙撃戦かよ」
「いやいやいやいや。こんなに武器を使いこなさきゃならないガンダールヴも珍しいんじゃね?」
「知るか、糞」
本当に嫌そうに、才人は吐き捨てた

*  *  *


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Last-modified: 2012-03-08 (木) 21:49:49 (4425d)

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