X5-784
Last-modified: 2012-04-20 (金) 17:44:23 (4388d)

ゼロ機関に働く様になったシエスタの朝一の仕事は、ボイラーに火を入れる事だ
才人達は黄燐マッチを開発し、販売を始めた所、あちこちから引き合いに出されて、主力製品になっている
雷管や火薬研究の副産物である
中々にホクホク状態で、木材を提供してるモンモランシ伯も船舶需要が一段落した後の端材で作られるマッチに大いに期待している
何せ、火打石か魔法の着火がメインであり、こんなに簡単に火を起こせる道具は無かったのだ
才人達は武器やエンジンだけやっている訳ではない
既に輸出も始まっており、寒い地域に大量に出荷され始めている
為替条約のお陰でぼろ儲けだ
買うにはキツイが、売るのは正にウハウハになるのが為替条約である
モンモランシ伯の木工職人達も収入が増えて大歓迎だ
シエスタは機関室にてマッチで火を付けて、松明に移して火室に松明を投げ込み、余熱を持ってた石炭が一気に燃え上がった
「えっと、青い炎、青い炎」
くいくいとファンや弁を動かして青い炎にする
パンパンと拍手をしてから拝み出した
「今日も硝石と硫黄、沢山取れます様に」
シエスタのひい爺さんがタルブで広めた慣習だ
シエスタは意味は良く知らない
そしてボイラーから更に水のタンクの水温計を見て温まって行くのを確認すると、ホースを延ばして洗濯場に持っていった
「皆ぁ!お湯出るよ〜〜!」
「待ってました!」
そう、ボイラーの余熱で蒸気配管から水タンクを温めて、洗濯に使ってるのだ
お陰で汚れが良く落ちて、メイド達も喜んでいる
きゃっきゃっと洗濯してるメイド達の傍を通過してホースを井戸に垂らして後にし、また本部に戻って、給水ポンプの作動準備をしつつ、気温をチェック
「う〜ん、ちょっと朝は肌寒くなってきたなぁ」
そう言って、各部屋の蒸気配管をクイって開けた
シュウゥゥゥゥ
蒸気が走る音が木霊し、一気に各部屋が暖まる
地面下に蒸気配管が走っており、床暖房になってるのだ
「こんなもんかな。朝一から仕事するからねぇ」
キュッて閉めると今度は圧力計を見た
「アイドリングしないと」
更にキュッとバルブを開け閉めし、旋盤とフライス盤がカバーを付けたまま、クルクル周り出した
蒸気式の場合、アイドリングをして配管内に結露した水を排出しないと駄目なのだ
更に温めて、グリスを溶かして作動可能状態で待機させる役割もある
カンカンカカン
ウォーターハンマーが配管を叩く音が暫く木霊し、そして蒸気の走る音のみになる
倉庫兼作業場には零戦が鎮座し、更に開発中の足踏みミシンに似たガラス箱が乗っかった台があった
更に何故か足踏みミシンもある
とにかく、応用産業品迄開発してるのだ
はっきり言って、何でも屋である
「良しっと、作業準備完了」
シエスタはパタパタ走って仮眠室のドアを鍵を使ってガチャって開けて声を掛けた
「ミスヴァリエール、才人さん、起きて下さい」
仮眠室のベッドに二人、実はシエスタ含めて三人で寝ており、シエスタの声で才人がむくりと起き出した
二人共に全裸である
「あ〜お早う」
そう言ってもそもそと着替えると、フル装備で外に出て準備運動をしてから走り出した
朝練である
それから暫くして、くしゅんとしてからエレオノールが起き出した
宙を見てぼーっとしている
「ほらほら、昨日は大分遅かったのは解りますから、シャワー浴びて来て下さい」
「ん……」
エレオノールは生返事一つで入って行く
才人が一時間走って戻って来ると、エレオノールがシャワーから出て髪を乾かしている
何気ない仕草が実に映える
「浴びて来なさい」
「あぁ」
そう言って、才人が入ってシャワーを浴びてさっさと出て来ると、ダダダダダって全力疾走する音がゼロ機関本部に向かってやって来た
「姉さまのバカ〜〜〜!サイトは夜には帰すって、約束したじゃない!」
「るっさいわね。昨日は深夜迄作業してたのよ。メイドに聞いてみなさい」
ぜぇぜぇ言いながら、休憩室にたむろしてるメンバーを見据えて怒鳴るルイズ
エレオノールは本当に面倒くさそうにあしらった
「シエスタ、本当でしょうね?」
ギロリとルイズがシエスタを睨むと、シエスタがにこりと答えた
「本当ですよ。正直働き過ぎです。私としては、全員休みが必要ではと思うんですが」
そう言ってシエスタが困った様に笑う
「言っておくけど、ルイズの居ない時は夏休み中ずっとこうだったわ。ルイズが居た時は、才人がセーブしてたのよ」
うぐっと詰まるルイズ
それでも、せっつかれているんだから、本当に大変なのだろう
余計な開発してるせいって話も有るが、同じ物を一つ作るも二つ作るも、試作の場合時間的に大して変わらない場合がある
部品共通の場合はもろにそうだ
だから同一のシステムの時は、転換可能な物を作ってみるという回り道をしている
魔法は本当に便利だ

「お早う、皆」
「お早う、先生」「お早うございます、ミスタ」
コルベールも起きて入って来た
そこでシエスタが仕切って朝礼を始める
進捗ボードに書き込み始め、ルイズは思わず見物だ
シエスタが仕切っているのは、全員寝惚け眼が酷いからである
「朝礼を始めます。では各地の進捗状況です。ラ=ロシェールでフレームの組み立ては現在70%。エンジン搭載迄最速5日と回答が来てます。二番艦は修復してたロイヤルソブリン級が発艦した為、竣工開始。三番艦、更に商用迄、順次竣工予定の為に、ドックは満杯だそうです」
「ツェルプストーでのフレーム工程は、所長の寸法狂いのクレームに、ざけんなこの野郎、と回答が来ました。才人さんの懸念通り、船舶では1サント狂いは当たり前だそうです」
「やっぱりか」
そう言って才人が苦笑する
「エンジン部品は、モンモランシにて2号主機が作業ミスでクラッシュした為、急ピッチで作業中。ボイラーは担当メイジの教育が済んで、現在順調です。7.6ミリ弾丸の補給要請が現在頻繁に起きており、慣熟訓練は順調と回答が来てます」
「01式並びに02式マスケットライフルは現在銃士隊用を加工中、グラモン鋳造ラインではゲルマニア向けがスタートしてます」
「擲弾は01式〜03式迄順調に生産中。対艦焼夷ロケット弾、対空誘導弾並びに無誘導弾も順調。作戦時迄には要求量は確保出来ると、グラモン伯からの回答です」
「マッチ棒に付いては、ガリア、ゲルマニア、トリステイン軍が購入を打診。更に民間の注文が殺到しており、現在モンモランシで急ピッチで作業してます。どこもコピーしたくても出来ないと口惜しがってます。ざまみろって感じですね」
シエスタがそう言って、エレオノールがフフンと得意気だ
「当然よ。自然発火対策に、配合は本当に気を使ってるんだから」「羊蝋見えないレベルで被せてるだけじゃねぇか」
「言うな馬鹿」
才人が突っ込むとエレオノールが噛みつき、コルベールとルイズが、そのやり取りに思わず吹く
ごく微量の蝋の種類迄解析は流石に難しい。羊蝋以外の蝋では融点が黄燐の発火点を超えるし、温度管理は温度計が無いと出来ない
つまり、温度管理を知らない相手なら、此だけでコピー不可になる
「レビテーションシュート用アッセンブリはケース、皮革、ガラス共に15%、作業依頼の遅れが響いてます」
「魔法通信機に付いては専属メイジの配置により順調。作戦開始迄には余裕で間に合うと、モンモランシに配置してる担当メイジから回答が来てます」
「現在開発中の、仮称03式シングルアクションドレッドノート弾、並びに足踏みミシンは本日仕上げる予定で行きましょう」
「収支に付いては、秘薬の購入と石炭の搬入でマッチ棒の収入が相殺。各種魔法薬の材料をミスモンモランシと買い付けに出た所、私、出入り禁止食らってました。他のメイド仲間に頼んでしまいました」
頭をかりかりして舌を出したシエスタ
思わず皆が笑う
「現在の不足分は各精霊石ですね。市場購入では資金が掛かりすぎます。出来れば産出領主と直接取引が望ましいです。これに付いてはツェルプストー伯が動いてくれてますが、余り期待するなだそうです」
「更に繊維関係より手紙が来てます。トリスタニアの各ギルドの紹介で足踏みミシンの試作を見に来た所が購入を打診してきました。後、機織り機も、何か良いの無いかだそうです」
「機織りかよ……」
才人がそう言って苦笑する
シエスタにエレオノールがあれこれ教えたら、シエスタはあっという間に覚えてしまった
元々利発なのだろう
事件後、明らかにシエスタは変わった
以前の朗らかさに加え、意思の強さを秘めた眼をする様になった
ちょくちょく見てた事に加え、多分その部分が仕事に対する急速な修得に繋がっているのだろう
「で、総括すると概ね順調。私は皆さんの健康の為に、全員休暇を主張します」
そう言って、健康管理の責任者として、シエスタが主張して締めた
「ふむ……確かに働きづくめだ。休めるなら休んだ方が良いのでは無いか?」
コルベールが同調し、才人はエレオノールを見る
「俺はこれが何時もの状態だから平気だけど、エレオノールは?」
「正直言うと、二〜三日休みたい」
エレオノールが一番体力が無いのでそう主張し、才人は頷いた
「シエスタ、休みは何日取れそう?」
「4日ですね。ラ=ロシェールの予定を放置は出来ません」
「じゃあ、今日の作業とっとと終らせて、その期間休みにすっか」
そう才人が締めるとコルベールが答えた
「たまには良いでしょう。職人達の家族の安否はどうですか?シエスタ君」
「連絡取れない方が一人出たので、ミスタバサに協力して貰って才人さんが急行したんですが、風邪で倒れていただけでした」
「それは良かった」
そう言って、皆が立ち上がった
朝食である

*  *  *
ゼロ機関本部休憩室は開放されており、学生や教師でも好きに使える様になっていて、物好きが来ると、そのまま居着く事が起きている
理由は冷暖房完備だからだ
ハルケギニアに暖房はともかく、冷房は無いと言っていい
魔法式は実に性能が悪く、不評なのだ
「ちょっと暑くなってきたわ。シエスタ、お願い」
「はい、ただいま」
シエスタがキュルケのお願いにパタパタ走って機関室でバルブを操作すると、蒸気駆動ポンプが稼働し、天井ファンが回り始めて、冷気が天井から降りて来る
地下に2トン程水が蓄えられていて、冷水循環冷房が付いてるのだ
住環境実験設備を兼ねて、才人の注文をエレオノールとコルベールが忠実に応じた結果だ
お陰でハルケギニアでは最先端の空調施設が付いている
そう、コルベールの夢である、炎による人の幸せの追求が文字通り形になり始め、コルベールは歓喜しまくりだ
「才人君、何で君は私の夢をごく当たり前の様にやるのかね?楽しすぎて、全てにはいと言ってしまうではないか」
「ん〜?石炭燃やすだけじゃ、勿体無いだけですからねぇ。それにこれ、ゼロ級の船室実験も兼ねてます」
「ゼロ機関とは正にゼロから色々造るな。何という素晴らしい名前だ!陛下も素晴らしい名前を付けてくれたものだ」
コルベールは上機嫌だ
で、タバサは環境が良いので、本を平積みにしてテーブルを一つ占拠してずっと読書をしている
実は魔法ランプを敢えて使わず、休憩室では通常ランプを使っている
魔法ランプは作業場オンリーだ
理由は才人が
「作業には一定の光源が良いけど、普通のランプの方が揺らぎが出て雰囲気が良い」
余りに身近過ぎて気付かなかったエレオノール達は、光源を取り替えて過ごしてみて、才人の言う通りだと気付き、選択している
特にベッド下のランプは非常に艶が出て、自分達の裸身が美しく陰影が灯るのを、ちょっと自慢したい気分だ

そんな一般住宅にはあり得ない改造しまくりの本部だが、殆どコルベールとエレオノールの魔法で建築しちゃった為に、お金は備品にしかかかってない、非常に安上がりな建物だ
一家に一人、土メイジが欲しいかもしれない
そしてシエスタがミシンをキコキコ動かしてテストで衣類を縫っていて、隣にシェルターを立てた状態でエレオノールがやはりキコキコ動かして分厚いガラス容器に圧力を掛けている
圧力計を見ると10キロだ
中には薬莢が弾丸装填状態で雷管だけ外れて治具に複数セットされ、片側から雷管をハンドルを回してネジの原理で嵌め込みの最中だ
空気漏れの分は足踏みでクランクを回して常にピストンが作動して圧力を加え続けていて、圧力が低下しないようにしながら調整バルブで上限圧力をコントロールする
エレオノールは杖を持って詠唱し、効果に手応えを感じるとブローバルブを開いた
プシュ
ゴムでパッキングされた蓋のバックルをバチンと開いて弾丸を取り出す
「良し、出来た。ドレッドノート弾よ」
旋盤で薬莢と弾頭を削ってた才人がその声で旋盤を止めて、エレオノールの所にやって来る
「空気加圧弾頭なんざ、魔法が無きゃ絶対無理だな。種類は作ってるな?」
「勿論よ。各圧力で火薬量三種ずつ」
「良し、試し撃ちだ」才人とエレオノールが外に出た

*  *  *
才人達は射線上には人払いをして鉄板に書いた的を壁沿いに置き
03式をエレオノールが出した台に固定し、狙いを調整した後、更に分厚い硝子を錬金して三方を囲った
銃身破裂の可能性が有るので、シェルターだ
トリガーに適当に作ったリンクを付けてワイヤーで手元に繋いでいる
才人がワイヤーを引き、何度も試射を繰り返し、エレオノールがバインダーに挟んだ紙にデータを書き込んでいる
ダァン!
銃口から文字通り炎が吹き、的に当たる
「結構持つな。7.7mm機銃より肉厚上げてるせいもあっけど」
更に、シングルアクションという、頑丈簡素な機構のお陰でもある
「ん〜、データ的には5キロ、炸薬1/3以降が煙出ないわね」
「そうか」
才人が考案したのは、弾薬に於ける過吸化(ターボ並びにスーパーチャージ)だ
本来の火薬は、無酸素状況でニトロ化合物の酸素を用いて燃焼させる
才人がやったのはエンジンの爆発燃焼の応用だ
酸素さえあれば可燃物は燃える
薬莢内に圧縮固定した風魔法は、火薬の爆発で破壊する
炭素は爆発する物質だ。酸素を過吸する事により、未燃炭素を完全に燃焼させる訳だ
そこに空気の未燃物迄燃焼の膨張圧力に使う事により、通常ではあり得ない初速を得られる凶悪な弾頭である
対物ライフルより凶悪なライフルといった所か?
何せ銃身長は100口径ある。存分に加速出来るのだ
そんな風に才人達がテストしてると、校門から一人の女性がラフな格好でやって来た
腰に剣を帯びて、荷物袋を肩から背中に下げ、パンツルックのシルエットで、モデル体型の身体をキビキビとした動作で才人に向かって来た
ダァン!
「何だ?銃のテストか?お前はいっつも何かやってるな」
才人が声をかけられて振り向いた
「アニエスさんか。私服でどうしたの?」
「休暇だ休暇。付き合え」
「仕事終わったらね。ゼロ機関も、偶然にもこの作業終わったら4日休み」
アニエスはニヤリとする
「奇遇だな。私も5日休みだ」
「それじゃ、ちょっと待っててね」
そう言って才人が台座に固定された03式の銃身を折って薬莢を排出、そしてまた新しい弾をセットした
「何だその銃は?変な弾丸だな」
「元々作ろうとしてた方だよ。本来01式02式ともこういう仕様なの」
そう言って、才人がワイヤーを引いたらとうとう起きてしまった
バガァン!!
ビシビシ
硝子に破片が当たって硝子がひび割れる
「15キロ2/3炸薬で銃身破裂ね。才人はどの段階を採用するの?」
エレオノールは冷静に聞き、アニエスはびっくりしている
「そうだな……通常ドレッドノートは5キロ1/3にしよう。安全率1/3だ」
「了解よ」
「……銃身が耐えられないとは、何れだけの威力だ?」
「多分、人間の身体が当たった場所から後ろは全部無くなる。ま、対シールド使用メイジ、竜、エルフ用って所か?」
アニエスは絶句してしまった
才人は本部に歩いて行ってしまい、エレオノールが話しかける
「所でミラン。何で貴女マントしないのよ?貴族ならしなさいよ」
「どうにも苦手でね。仕事中は仕方ないが、プライベート迄はしたくなくてなぁ」
「脱いで良いのはベッドの上と机の前だけよ?何時までも平民気分は止めなさい」
「全く、ヴァリエールは小言が多い」
そう言ってアニエスは、しかめっ面をしている
そして、エレオノールはやっと本題を切り出した
「で、貴女、才人の何?」
「剣の師匠、って答えは期待してないだろ?」
エレオノールはジッとアニエスを睨んでいるのか、見つめているのかちょっと微妙だ
「アイツの女の一人。これで良いか?今日は慰めに来た」
エレオノールはその言葉に若干戸惑い
「才人に慰めなんて」
「涙見たこと無いのか?私は有るぞ」
エレオノールは完全に固まった。才人に涙?エレオノールには、にわかに信じがたい
「やっぱり頼ってばっかか。アイツは相手が望む姿しか見せないからな」
「……」
そう、不安な時は全部ぶつけて受け止めてくれた。誰よりも安心させてくれた
そして自分には黙って、ケリをつけてしまった
だけど、いつも才人が悩んでる所は仕事の中味以外では見たことが無い
「口に出さないだけで相当参ってる。多分仕事に逃げてるだけだ。暫く何も考えさせない方が良い」
ちょっと悔しいが、付き合いはアニエスのが少し長い
エレオノールは頷いた
「……わかった。どうするの?」
「女漬けってのはどうだ?私も嬉しいし、ベッドの上でお互いに仲良くしておきたい」
喧嘩も取り合いもする気無しだから、お互いに譲歩しようとの提案だ
エレオノールも既に複数プレイはしてる為に、抵抗は無い
「ふ〜ん、ま、良いわ。どうやってルイズ外すかが問題なんだけど?」
エレオノールとアニエスが並んで立っており、お互いの顔を見ていない
エレオノールはデータに視線を移して、更に書き込みをしている
「……おいおい、まだなのか!?」
アニエスが驚き、エレオノールは態度は変わらない
「そうよ。才人がどうも避けてる。ルイズの事、好みの癖にね。知ってる?ルイズが来ると態度変わるのよ?」
常に視界の中にルイズを収める様に動いてたのは、エレオノールには頭にくる事実だ
主人のアドバンテージは、想像以上らしい
「そういう理由じゃ仕方ないな。どっか出るか。学生なら授業あるから、付いて来れないだろ?」
「そんな所ね。うちのメイド連れてくわよ。あの娘も才人が支えなの」
「メイド?ゼロ機関で雇ったのか?」
「えぇ、あの事件で巻き込まれて学園メイドをクビになったから、うちで雇ったのよ。拡張しなきゃならなかったし、丁度良かったわ」
アニエスは言葉が切れると破裂した銃身を見る為に銃に寄って行き、暫くしたら才人がシエスタを連れて、新しい銃を持って来た
「ミスヴァリエール。才人さんが永続硬化して欲しいそうです」
「解ったわ」
エレオノールが歩み寄って銃を受け取ると、詠唱して杖を銃に向けて軽く振った
「完了よ。固定化もする?錆びないわよ」
「頼むわ」
エレオノールがもう一度詠唱し、完成する
「んじゃ、続き行くか」
才人がそう言って破裂した03式を外して、新しいのをセットし、15キロフルの弾頭をセットし、銃把を戻した
エレオノールはまた硝子を錬金し直してシェルターを作り直す
そして才人が治具を用いて引金を引き、銃口から火を吹き、銃声が轟いた
ダアァン!
「03式硬化仕様でフルスペックドレッドノート可能と」
エレオノールがそう言って、記録を追加する
「んじゃ、持ってやりますか」
才人の声でエレオノールはシェルターと台座を土に戻して、採用したノーマルドレッドノートを弾丸区分から取り出して渡し、才人がガチンと用意し、ルーンが輝いた
「射程800メイルと。完全に狙撃銃だな」
アニエスが、その声にポカンと呆気に取られる
「何だ?その化物銃」
「射程2リーグが目標だから、まだまだだ」
アニエスは絶句してしまう
そして才人が構えて撃鉄を起こし、引金を引いた
ダァン!
肩にかなりの反動が来る
1サントの厚みの鉄板が撃ち抜かれ、穴だらけの状態を見せている
「次、フルスペック」
才人がそう言って手を出すと、エレオノールが頷いてフルスペックを渡した
才人が排莢してフルスペックをセットし、ルーンが教える
「射程1500メイルか。ま、これ以上は現状じゃ無理だな」
才人が構えて撃鉄を起こし、引金を引いた
ダアァン!
「……こりゃ反動が強すぎる。ガンダールヴか固定台座要るわ」
そう言って今度はアニエスに03式を渡してノーマルドレッドノートを撃たせて、威力にアニエスを白黒させた
正にドレッドノート(怖いもの知らず)弾だ
本日の作業終了しようとした所、梟便が手紙を届けにやって来て、才人の頭に止まり、才人が受け取ると飛んで行った
手紙を読んだ才人が溜め息を一つ付いて、集まった彼女達にこう報告する
「カトレアさんがストライキ起こした。俺が直接図面取りに来ないと、もうやらないってさ。交渉期間迄設定してるよ。って訳で、今からフォンティーヌだ」
エレオノールがキョトンとする
「ヴァリエールじゃなくて、フォンティーヌ?」
「あぁ、交渉中は屋敷から絶対出るなって。ほら読んでみ?俺、カトレアさんに何かしたか?」
身に覚えが全く無いので才人がはてなマークを連発し、シエスタはうんうんと頷き、アニエスにそのまま耳打ちして、アニエスも納得の頷きをする
そしてエレオノールは手紙の内容に冷や汗を垂らす
多分手紙で色々書いちゃったせいかな?っと、内心ガクブルだ
「…フォンティーヌじゃ、私の案内が必要ね」
「あ、そうだな。零戦持って行くのはどうすっかねぇ?」
空の襲撃を警戒してるのだ
「ドレッドノート持っていけば良いじゃない」
「だな。じゃ、竜籠で行くか」
「私も行くぞ」「才人さん、置いてけぼりは無しですよ?」
こうして4人で行く事が決まり、ルイズ達に知らせる為に、教室に向かって歩きだした

*  *  *
教室では、ルイズが作業終了後から才人が休みだとルンルン気分である
「えっとぉ、えっとぉ、今日から休みだからぁ、何しよっかな?そう言えばまだセーター渡して無いし、プレゼントしなきゃ駄目だよね?それで、私をリボンでラッピングして、私をプレゼント!みたいなみたいな」
思考が外に洩れてる事に、ルイズは気付いてない
その様をジトーっと、キュルケとモンモランシーに他の女生徒が見ている
久しぶりに見る妄想モードだ
「…心の声洩れてるのに気付いてないわ」
「本当に姉妹そっくりよね、あそこの家系」最早友達としても、近付くのは遠慮したい所だ
「それでそれで、才人が私を優しく抱っこして、『プレゼントありがとうルイズ。遠慮なく頂くよ』って言って、私は星になっちゃうの!」
でれぇと涎垂らして、エヘッエヘッと気持ち悪い笑いを浮かべるルイズ
「全く、姉と対峙した時は中々やるって見直したのに」
キュルケがそう言って評価を改め、モンモランシーも頷く
「あの時に私もラインに昇格したのに。何でルイズは残念になっちゃってるのよ?」
二人がげんなりしながらルイズを見ている
話題を変える為に、キュルケが祝いの言葉をかけ忘れたのを思い出した
「そう言えばモンモランシー、昇格おめでとう。すっかり忘れてたわ」
「いえいえ、どう致しまして。気持ちって、本当に大事なのね〜」そう、狂化薬のお陰か、それともシエスタを助けたいと念じた気持ちかは知らないが、モンモランシーは起きて魔法を使ってみたら、ラインになってたのに気付いた
ヴァレリーはその事例を見て、素晴らしいデータだと思わず声を上げて、助手として指名してしまった
魔法学院に来る時は更に先達として色々教えてくれる約束を取り交わし、モンモランシーは最近上機嫌である
人生、何が転ぶか判らないものだ
「そろそろあれ、現実に戻さないと」
「…あの状態は無理じゃない?」
キュルケの言にモンモランシーが匙を投げ、キュルケも諦めつつ声を掛けた
「ねぇルイズ。そろそろ戻って来なさい」
「今日からサイトは休みだから、ずっと使い魔なの。あたしの使い魔としてずっと一緒に居るの。えへっえへっ、えへえへえへ」
両肘を机に付いて手の平に顎を乗っけてえへらえへらと非常に気持ち悪い
「そっかぁ、ダーリン休みかぁ。じゃあデートしよっと」
途端にルイズがギンとキュルケを睨んだ
「何よ?主人と使い魔の触れ合い邪魔しないでよ。そう言えばツェルプストーは使い魔どうしたのよ?最近見ないじゃない」
「フレイムは知り合いに預けてるの。ん〜」
そう言ってフレイムと感覚を繋げてみるキュルケ
「特に変化無しね。」「あっそ。大食いの使い魔じゃあ、預かってる人も大変ね」
「ダーリンって使い魔を喚んだ人より楽チンよねぇ」
全くもってその通りだ
ルイズは咄嗟に言い返せない
「だってサイトは」
「ダーリンは社会をひっくり返すわよ〜?後始末は食費の比じゃ無いものね」
そう言ってルイズを現実に戻し、キュルケの作戦は成功に終わったかに思えた
「あれ?銃声が止まったわね?」
モンモランシーがそう言って、先程からパンパン鳴ってたのが、いつの間にか止まっているのに気付いた
「今日は銃の開発って言ってたから……終わりだ」
またルイズはすっかり目尻が下がってデレェっとし始め、えへらえへらと悦に入ってしまい、キュルケが肩を揺すって正気に戻そうとまた頑張る
「ちょっと、しっかりしなさいヴァリエール。あんた恥を晒しまくってるわよ?」
「サイトが休みなら、きっと一目散にあたしの所に来て、バンてドアを開いて『ルイズ休みだ。暫く放って悪かった。この休みは全部お前に使うからな』って、言ってくれるのぉ」
完全に沸いている。とうとうキュルケも諦めた
「…駄目だ。ダーリン以外の思考が入ってない」
「あの状態から戻せるの、才人だけだもんね」
モンモランシーは既に諦めて、水魔法医術の専門書を読んでいる
図書室に置いてある、ヴァレリーの推薦書だ
タバサはずっと本を読んでるので、静かなものである
そんな中、カツカツカツとブーツの床の蹴る重厚な音が重なり、音の種類でルイズはピンと来る
「サイトだ」
ガラッ
開けて入って来たのは、確かに才人だった
ルイズはガタッて立ち上がって駆け寄り、才人はルイズの頭に手をポンと乗っけて
「ルイズ、休みの予定だったんだけど急用が出来た。カトレアさんがストライキ起こしてさ、ちょっと交渉しに行かなきゃならなくなった。3〜4日留守にすっから、悪いが留守番頼むな」
ルイズが思わず固まる
「……ちい姉さまが……スト……何?」
「ストライキ。労働条件が合わないって、何でか知らんけど騒ぎ出したの。俺以外の交渉は認めないってはっきり書いてるから、行かなきゃならん。じゃ、行って来る」
そう言って才人が踵を返し、歩き去って行く
ルイズはぽつねんと残され、固まったままだ
「…確かに一目散に来たわね」
キュルケがそう言って
「でも、妄想と真逆ねぇ」
モンモランシーがそう言って、専門書から眼を離さない
ルイズはぽつぽつと呟いた
「休み……休み……4日の休み……全部……ちい姉さまが……う……う…」
余りの事態にルイズがぽろぽろと涙を溢し始め、キュルケがそんなルイズを案内して席に着かせ、ハンカチを渡す
「ルイズ、佳い女はね、男の仕事を邪魔しないモノよ?ほら、泣き止んで、ダーリンだって、何も言わずに飛び出してないんだから、ルイズの事、本当に大事にしてるわよ」
「うぅ〜〜」
「私達向けには言ってないわ。貴女いい加減にしなさい」
モンモランシーの冷たい非難に、ルイズはビクッと反応する
「……あたしだけ?」
「特別扱いは主人だから仕方ないとはいえ、はっきり言ってムカつくわね」
モンモランシーが本から眼を離さずに言い、ルイズが沈黙で返す
「とても大事にされてるのよ」
「……あたしだけ」
そう言って、ハンカチで涙を拭って、微笑み始めた
「そっか、あたしはサイトの主人だから特別だもの。やっぱり才人は解ってるわ。流石よね」
そう言ってすっかり復活したルイズに向かって、キュルケはこう付け加えた
「そりゃ、私達はルイズと違って佳い女だから、一々言わなくても大丈夫って、ダーリンも解ってるって事だもんねぇ」
キュルケがそう言ってニヤニヤしている
「……あんですって?」
「つまり貴女はお・こ・さ・ま」
ルイズがキュルケを睨んでキュルケは更に返し、ガタンと立ち上がったルイズと取っ組み合いを開始した
「あんたはいっつも一言多いのよ、ツェルプストー!」
「妄想垂れ流し聞かされる迷惑を考えなさい、ヴァリエール!」
「きぃぃぃぃぃ!」
そんな自習時間である

*  *  *


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