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Last-modified: 2012-06-03 (日) 00:58:16 (4339d)

ゼロ級0番艦オストラントは船籍はトリステイン、所有はゼロ機関の実験練習艦だ
次の1番艦から国軍所有になり、作戦行動に随伴させる様になる
既に1番艦は急ピッチで作業が行われており、慣れた作業者達により進空したオストラントが出た後に2番艦の建造も始まった
進空したオストラントは何をしているかというと、空軍から特にからくりに興味の高い者とメイジを組み合わせて選抜し、二つの艦の運用人数を全部搭載して練習を行なっている
職務上、機関長と機関士が新設され、ゼロ級の心臓を携わる栄誉を一身に受けた船乗り達は感激した
実際に動かすには、10人程度で済むという恐ろしい船である
その代わり、覚える内容は更に増え、皆が艦内で生活しながら一生懸命に習得していった
オストラントは今はグラモン伯領にて、新型装備の受領を受けていた
竜母艦としての運用訓練開始である
艦首が開いて続々と新型装備が搬入されていき、更に零戦用武装と固定化を掛けた樽にグラモン伯領で頑張ってくれたメイジにより、ガソリンも搬入されている
そう、オストラントは空中空母である
最初から、零戦の運用が想定されていた
「では、離陸致しますぞ。補機始動、補給ハッチ閉め」
〈補機始動、補給ハッチ閉鎖開始〉
ゴゴゴゴン
鉄フレームが軋む音がなりながらハッチが閉まり。甲板員がロック作業を開始する
〈ロック終了〉
「宜しいですぞ。では主機始動、補機閉鎖。風石稼働開始」
コルベールが着々と指示を下して、全員がばたばたと動いている
「アッパーデッキ前後柵外せ!左右柵の確認急げ!」
甲板がフルフラットの為に、皆が全力で走っている
「前後柵取り外し終了!格納入ります」
甲板員が柵を持って走ると、ハッチが開いてそこに居る人員に柵を渡して、自分達は更に確認作業に走る
「副艦長。離発着準備完了」
様子を見てた士官が報告し、コルベールが頷いた
「では離陸ですぞ」
〈風石稼働出力最大。発進〉
重量が増えた為に、重厚に浮き上がるオストラント
「左舷プロペラ逆進、右舷プロペラ微速前進。超振地旋回」
「左舷プロペラ逆進、右舷プロペラ微速前進、ようそろ」
浮き上がりながら、その場で向きをくるりと変えるオストラント
「進路、トリステイン魔法学院」
「進路トリステイン魔法学院ようそろ」
「では、後は皆さん、存分に訓練して下さい」
「有り難うございます副艦長。指揮を引き継ぐぞ。左舷プロペラ微速前進」
「左舷プロペラ微速前進ようそろ」
左舷ピッチハンドルをくるくる回して角度調整をする操舵手
操舵は三人で5個の舵輪と二種のピッチハンドルを操作し、一辺に全員が訓練出来る
才人なら一人でやるが、設計者の長である
「前進開始後、ピッチ両舷最大」
「ウィ、前進開始後ピッチ両舷最大」
二人が同時にピッチを弄ると、機関室から声が掛かった
〈こちら機関室。抵抗が大きい。ピッチ角落としてくれ。現在回転数下降中。不味い、500切った。圧力まだ25だ〉
「糞、空荷の時とは違うな。ピッチ微速戻し」
「ウィ、ピッチ微速戻し」
そんな彼らを邪魔しない様に、コルベールは艦橋から降りて行き、副艦長室に収まった
船舶は完全な階級式であり、艦長が一番広い部屋で、階級が下がる度に下がり、最下級は4人部屋でベッドが上下にあるだけだ
オストラントに於いても同様である
差別ではなく、有限なスペースを活用しなければならない為に厳格に設定されている
オストラントはゼロ機関所属艦の為に、才人が艦長、コルベールが副艦長、機関長がエレオノールで司厨長がシエスタだ
彼らへの敬意の為に、訓練中に於いてもその座は固定されており、誰かが勝手に代理を名乗る事は無い
才人辺りは別に構わないと言ったのだが、軍人達が全員首を振ってしまったのだ
「例え艦長が所用で不在であっても、オストラントの艦長はサイト=ヒラガであります。我らは来る一番艦と二番艦で名乗らせて頂きます」
全員がそう言って才人に敬礼し、才人は礼を返すしか無かった
「訓練で存分に使い倒してくれ。各部品の慣らしもあっから過負荷に気をつけてな。回転落ちたら過負荷の証拠だ。覚えておいてくれ」
「了解致しました。艦長」
ザッと敬礼を返されて、才人は苦笑しながら礼を返したのである

*  *  *
オストラントに居なかった才人は、今は本部から零戦を発進させようとしていた
エレオノールが魔法で一気にプロペラを回して才人が火を入れる
ブロロロロ
そしてすかさず才人の後ろにという訳ではなく、後ろにはルイズが乗っていた
きちんとした女官ヴァリエールのお仕事、ミスゼロの参戦訓練である
「今回はタッチダウン数回と同調ブレーキ着陸にエレベーター格納迄やるからな。慌てて動いて空から落ちるなよ?ルイズ。なんせ、竜騎士隊と合同だ。今の内に顔を会わせとこうって話らしいぜ」
「サイトこそ肝心な所でミスらないでよ」
「ほいほい、気をつけますよっと」
零戦の離陸の為に、広場を拡張してエレオノールが壁を崩して建て直している
エレオノールがまるを作って合図すると、才人は一気に助走して飛び立って行った
後には、エレオノールとシエスタが残っている
「さ、メイド。仕事するわよ」
「…はい」
「新しいズボンプレゼントしたいんでしょ?ミシンでさっさと縫った」
「そうですね。私が出来る事やれば良いだけでした」
「さてと。私も弾を作っておかないとね」
そう言って、二人は中に入って行った

*  *  *
才人達がルイズの航法指示で目的地付近に来ると、竜騎士隊が大量に飛んでいた
「ピュウ、壮観だねぇ。肝心のオストラントはっと?」
才人とルイズがキョロキョロと探すが見当たらない
「何だ?来てねぇの?デルフ、どうだ?」
カチッとデルフが出てくる
「ん〜。5000メイルで飛んでる奴じゃね?」
「はぁ?」
才人とルイズが上空を見ると、確かに居た
「おいおい、上手く調整出来て無いな?コルベール先生一人じゃキツイ。乗り込むぞ」
「わかった」
才人が零戦の機首を上げて一気に上昇していくのを見た竜騎士達が、目標の船を見た途端に諦めた
5000メイル上空じゃ無理だからだ
才人が艦尾からぶわっと姿を現すと、強風と寒さに震えた甲板員達がそれでも着艦訓練に入った
才人が車輪を出して高度差1メイルの低空で着艦を試み、一気にブレーキを掛け始めた
ガクンとオストラントの速度が同調して落ちる
「操舵手は仕事してんな」
丁度エレベーター付近で止まり、更にゆっくり移動してエレベーターに収まった
信号手が旗を交叉して範囲内を示して、才人はそのまま親指を下に向けて下げろと命令する
ガクンと下がって行き艦内を入り込むと、風防を開けて二振りを持って降り、ルイズを下ろした
「艦長〜〜!助かりましたぁ」
「零戦格納作業入れ。そしたらエレベーター上げろ」
「ウィ。お前達、動かすぞ」
一斉に取り付いて人力で押し始めたのを背に、才人は艦橋に向けて歩いて行く
「艦橋に行く。甲板員下げて暖房効いてる部屋に叩き込め、酒を出すの忘れるな。今5000メイルに居るぞ。竜騎士も発着出来ねぇ。報告を今の内に纏めとけ。ルイズ、行くぞ」
「うん」
才人の確かな足取りにルイズが付いて行き
船員達は安堵の溜め息を付いた
「どうなるかと思ったわ」
「おい、艦長からの命令だ。お前達全員降りて来い」
ハッチから怒鳴って、甲板員が震えながら降りて来た
「艦長なら5000メイルでも来るから耐えろって言われたから頑張ったけど、マジで来たわ」
「お疲れだ。酒を飲んで暖まれだとさ。ほら、一番暖房効いてる部屋に行って来い」
「話の解る艦長だぜ。暖房完備のオストラント様々だ」
正に新型艦の恩恵である

*  *  *
才人が艦橋に行くと、コルベールと航海長がパニックに陥っていた
「どうやっても高度が下がりませんぞ!」
「あぁ、試せるのは全部試したのに」
「何してんだ?二人して?」
「才人君、やっと来てくれた。蒸気風石稼働装置の出力が下がらずに、ずっと上昇しようとしっぱなしなのです」
才人は聞いた瞬間に指示を下した
「機関室並びに機関員。緊急訓練だ。走らない奴は後で5000メイルで素っ裸で立たせるぞ。良いな?」
〈了解〉
「今から命令する手順を、マニュアルを見ながら確実に操作しろ」
〈了解〉
「機関一次三次バイパス解放」
〈一次三次バイパス解放ヨシ〉
「吸排気全閉。吸気を閉めてから排気を閉める」
〈吸排気全閉。吸気を閉めてから排気を閉める。ヨシ〉
「圧力、火室燃焼報告
〈現在一次5キロ。火室消火確認〉
「三次管風石稼働配管を探って閉鎖。確か7番送管じゃなかったか?」
〈ビンゴです。7番送管閉鎖〉
「7番帰管閉鎖。閉鎖系統ゆっくりブローしろ。但し蒸気に注意。冷気魔法持ち向かえ」
〈了解。走れ、行け〉「艦長。高度低下中。4800…4500…どんどん下がります」
「風石稼働室。手動開始。働け」
〈了解、手動開始。お前ら仕事だ〉
「各員に告ぐ。手透きの者は先程出てた甲板員以外、風石稼働室に手伝いに行け。ばてたら墜落するぞ?」
〈こちら倉庫了解。行くぞ〉
〈7番ブロー完了。怪我人無し〉
「良くやった。操作バルブ交換しろ。きちんと同じ番手の奴がショップにストックしてある」
〈了解〉
才人の指示でどんどんと対処が進み、皆が額に汗を足らして見守る
「艦長。艦内温度低下中。ボイラーの始動を」
「馬鹿かお前は?修理中にボイラーに火を入れたら、修理してる人間が死ぬだろうが!お前は部下を殺したいのか?」
そう言われて、ピシッと直立不動になる
「失礼しましたぁ!」
「俺は軍人じゃないからあんたは殴らん。気合いが欲しけりゃ、殺そうとした部下にやって貰え」
「はっ!終わり次第、そうさせて頂きます」
才人の厳しさは、軍に通じるものが有るのだろう
「まだかね?才人君」
「ここは黙って待つのが仕事です」
「中々キツいな。我々が行けばすぐなのに、敢えて全てやらせてるのだろう?」
「解りますか?やっぱり」
ルイズはその様を見て、トラブルすら利用して訓練に使ってる才人に驚いた
しかも、マジものの墜落の危機対処である
〈交換……完了!〉
オオオオ
艦橋に歓声が上がるが、サイトは一人厳しい顔をしている
「交換はボルトナットだな?」
〈そうです。錬金一体型じゃ有りません〉
「ガスケットの確認をしろ。座面に挟む奴だ」
〈了解。確認……駄目だ、忘れてる〉
「やり直せ。お前が死ぬぞ」
〈ウィ。やり直し入ります〉
「成る程。初心者がやるミスを想定してたのだね?」
「そゆこと」
そしてまた待ち
〈今度こそ、完了!〉
「良し、増し締めしなきゃならないからそのまま待機しろ」
〈ウィ〉
「機関室バイパス閉鎖。加熱点火開始」
〈了解、点火開始…圧力上昇……糞、上がり辛い〉
「空気薄いから、吸気ファンが回る迄我慢だ」
〈了解〉
「両舷ピッチニュートラル」
「両舷ピッチニュートラル、ようそろ」
〈圧力5キロ。アイドリング来ました。空気流入。10キロ行けます〉
「7番送帰開放」
〈送帰開放ヨシ〉
〈こちら操作、漏れてます、あちちち〉
「7番送管閉鎖」
〈ウィ〉
そして、修理に走った人間に才人は伝声管越しに怒鳴った
報告入れる暇ありゃ逃げろ馬鹿たれ!全員蒸し焼きになんぞ下手くそが。締めたからさっさと増し締めしろ」
〈すいません!……良し、今度こそ〉
「次漏れたら、そこで手伝ってる連中に謝れよ」
〈はい〉
「7番開放」
〈7番開放良し〉
〈稼働室。漏れてません〉
「良し。手動停止と同時にバルブ開放だ」
〈了解。手動停止。バルブ開放……良し〉
「そこからゆっくり絞れ」
〈ゆっくり絞ります〉「高度報告
「4500…4600…4650」「今」
〈放しました〉
「更に絞れ」
〈了解〉
「高度4600…4500。順調に下降してます」
「良し。そこで止めろ」
〈ウィ〉
「総員、修理完了だ!お疲れ!」
うわぁぁぁぁぁ
一気に歓声が上がり、皆が喜ぶ
「壊れたバルブをショップに持って来い。点検する」
〈了解です〉
「訓練に戻れ。俺はコルベール先生と原因探りに行く」
全員が敬礼したのを才人はそのまま通過し、機関室に向かったのを、ルイズがちょこちょこ付いて行った

機関室の部品ショップで故障の原因を見て才人は溜め息をつく
「ゴミかよ」
「こんな小さなゴミ一つで、バルブが動かなくなるのかね?」
「良くある話です。慣らしを増やしましょう。空中で同じトラブルはヤバい」
「そうだな。しかし才人君が来てくれて助かった」
「補給して艦載量増えてたのが幸いしましたね。空荷なら、全員凍りつく8000メイル以上に上がったかもしれない」
そして、ズシンズシンと振動が響いて来た
「お、始まったか」
「艦長」
「何?」
呼ばれたので振り向くと、航海長が頬を腫らして立っていた
「助けて頂き、有り難うございました」
「丁度いいや。原因見ていって」
「はっ」
そう言って才人がバルブに挟まったゴミを見せる
「俺達は、こんなゴミに殺されそうになったのさ」
「この程度で!?」
「誰かが製作過程でゴミを落とすってのは良くある。気をつけてても、絶対に起きる。むしろ、良い訓練になったろ?」
「はっ、確かに危機状況そのものでした」
「絶対は無いんだ。常に気をつけてくれ」
「肝に命じます」
才人の危機指導はそのままマニュアルに載り、更なるデータを得る事に成功した

*  *  *
「何だこの空船?」
傭兵部隊である第三第六竜騎士中隊
その第三竜騎士中隊長に模擬戦の結果勝ち取ったジュリオは、今まで見た事が無い形状をした空船に面白そうににやりとした
「成る程ね。コイツがあり得ざる工芸品の生産者の作品か」
今回は第一から第三が普段の演習空域からオストラントに来ていた
そしてジュリオ達は順次先行した第一第二とは違い、遅めに出発している
理由は着艦作業で詰まるからであり、特段疑問の余地は無いが、お陰でオストラントの上昇しっぱなし事故を見逃した
竜の身体には、常に身に付けろと言われたラックが鞍と一緒に付けられ、傭兵や遊歴竜騎士達には実に不評だ
但、正規軍の竜騎士達には非常に好評で、何故かは良く解らない傭兵隊の連中は首を傾げるしか無かったし、ジュリオもその一人だ
そして、今回どうやらその秘密を見せてくれると見え、ワクワクしている
全騎が甲板に降り立つと、甲板員が怒鳴った
「もっと優しく降りろ!この傭兵ども!お前達以外にも、使う相手がいるんだぞ!」
「竜母なんだから構わないだろ?」
ジュリオが疑問に思って言い返す
「違う!オストラントは竜母じゃねぇ!空母だ!竜騎士側が間借りなんだ!手前らなんぞに艦長の船を傷付ける権利はねぇ!」
ひらりと飛び降りたジュリオが疑問に思って問い掛ける
「軍艦じゃないのか?これ?」
「軍艦は建造中だ。オストラントは同型艦の0番艦。つまり制式じゃない実験練習艦なんだよ。所属も軍じゃない」
「要は一艦しかないから優しく扱えって事?」
「人のもん壊して、修理出来るなら構わんぞ。言っておくが、お前ら傭兵風情には絶対に直せねぇ」
「そうかい、せいぜい気をつけるよ。で、竜は外に繋いでおくのかい?先行した2隊が見えないけど」
「信号手の指示に従ってくれよ。向こうで合図してんじゃねえか」
そう言って指を指してる方向を見て、ジュリオがガリガリ頭をかいた
「ありゃ、見落としてた。ごめんごめん」
ジュリオがそのまま歩いてアズーロが付いて行き、信号手の指示の場所にアズーロを置いた
「おい。もう一頭来てくれ。こっちだ」
良く見ると、四角線が書いてあり、その枠に収めるらしい
もう一頭が枠に収まり、信号手がジュリオに声をかけた
「あんた、騎竜に乗ってくれ。初めてだと大抵ビビるから、落ち着かせてくれよ」
「はぁ?」
指示に従えと言われてるので黙って乗り、すると信号手が何やら合図を艦橋に送っている
ガコン
「きゅいぃぃぃ!?」
確かに竜がびっくりして軽く暴れてるので、ジュリオも手綱を押さえて大人しくさせつつ、自分も驚く
「昇降装置。しかも船に乗るレベルのか!?」
キャリキャリキャリとチェーンが回る音が鳴り響いて、竜達の待機所には、先行した二隊の竜騎士達が居た
「おぉ、流石の傭兵部隊も驚いてるぞ」
「トリステインの新兵器群にかかりゃ、今までの戦いが馬鹿に思えるぜ、なぁ?」
そう言って、先行した二隊の騎士達がたむろしながら笑っている
「ほら、早く退いて上げないと収容作業の邪魔だぜ?」
「あ、そうだった」
ジュリオ達が退くとまたキャリキャリ音を立てて昇り、竜を全員収容する
「驚いたな。なんて船なんだ」
「まだ驚くぜ?お前寒いか?」
言われて気付く
「…暖かい」
「だろ?すげぇよな。暖房完備だぜ?暖房完備。俺達に滅茶苦茶優しい船だよな」
「しかも帆がないせいか大して揺れない。いや、本気で凄いよ」
ジュリオも完全に同意して頷いた
「船室はもっと暖かいんだと。も、最高だよ」
「そんなに居心地良いなら、何で君達は船室に行かないんだ?」
「そりゃ、歴戦の傭兵隊に見て欲しいモノが有るからだよ、なぁ」
そう言って、皆が頷いた
「言っておくけど、集まった連中は全員純粋な興味だよ?君達の意見も聞きたいんだ」
その意見に、第三中隊の全員が怪訝な顔をした
「付いて来てくれよ」
そう言って手招きするので向かうと、妙な代物が鎮座していた
「これさ、何だと思う?」
その代物をバンバン叩いて案内した小太りの少年に言われ、全員呆気に取られた
「何だこりゃ?新種の生き物か?」
そう言って、皆が確かに面白いモノを見て頭を捻っていて、その少年ルネは正解を言おうと息を思い切り吸い込んでバンと叩いて
「良いかい?コイツが」
ガン!
ルネの背後からしこたまに叩かれて、ルネが前のめりに倒れる
「誰だいきなり!何するんだ!」
「何するんだは此方の台詞だ馬鹿ルネが!お前には、叩くなって言っただろうが!頑丈なジュラルミンでも、所詮アルミなんだ馬鹿たれ!」
「才人!?ごめん、つい自慢したくて」
「だったら、あんときのチャージ決めたのと、一騎撃墜の方が余程自慢出来るじゃねぇか」
「いや、だってあれは出来すぎでさぁ」
てれてれしてるルネに、逆に傭兵含めて集まってきた
「ちょっと待ってくれ、そのチャージ話聞かせてくれよ!凄いじゃねぇか」
特に傭兵の食い付きが良い
「チャージなんて、トリステイン騎兵の基本攻撃なんだけど?」
思わずぽかんとするルネに、傭兵隊の連中が更に食い付く
「杖持ちながらランス構えてチャージだなんて馬鹿くせぇってのが俺達傭兵ってか、ハルケギニアの竜騎士の常識じゃねぇか、逆のその話聞かせてくれよ。すんげぇ興味有るわ」
やいのやいのやり始めたルネを尻目に、ひたすら零戦に見入ってる金髪の少年に声をかけた
「やっぱり珍しいか」
「あぁ」
そこで少年が振り返ると、絶世が付く美貌具合に才人が驚いた
「あらまオッドアイか、珍しいね」
「お陰で女のコにモテて困ってるんだ」
「そうかい。じゃあ、触んなきゃ見てても構わないから、それだけ言いに来たんだわ」
「サイト、戻ろう。航海長や機関士達がやたら質問攻めして、コルベール先生困ってるよ?」
「その為に居て貰ってんだけど?解らないのだけ俺に持って来ると」
「ん〜、今まで働き過ぎだったから、それで丁度いっか」
「流石はマイロード。使い魔の身を案じて下さって、この使い魔、感涙に耐えません」
「せめて泣いて言え」
蹴りが軽く入って、二人が行こうとするのを思わずジュリオが呼び止めた
「もし、そこの貴婦人」
「何?」
振り向いた瞬間の美少年
ルイズの好みど真ん中だ
『あら、美形だわ』
さて、ルイズに取って、使い魔と別腹の美少年どっちが重要なのだろう
「余りの美しさに僕は暫く感嘆の為に言葉を発する事が出来なかった。未熟非才の身の上では、貴女を称える唄を歌う事も出来ない。美の奴隷たるこの私に一抹の慈悲を与えて下さらないか?」
そう言って手を取ろうとして、気が付いたら刃が霧を発して彼女と自分の前にあった
「…何の真似だい?」
「俺の仕事。一応使い魔でね。彼女守るのが仕事なんよ」
「はぁ?ちょっと手の甲にキスする位」
「やった瞬間に、お前の首は床に転がっている」
静かな威圧に、ジュリオが顔を真顔に持って行く
「サイト……」
この前の告白は本気だ
「君はそんな簡単に人を殺せるのか?」
「残念ながら殺し過ぎた。あんた一人増えた所で、罪が更に一つ増えるだけだ」
殺しに慣れてしまった男の発言だ
「僕にも、貴婦人への挨拶という大義名分があるんだが?」
「やれば?命懸けで。ハルケギニアじゃ、命懸けがルールなんだろ?」
ルイズは、才人が自分が決めたルールに沿ってしか動かないのを散々に知っている
結局、こう言った
「サイトは、私を守る為には手段を選びません。あたしに触れた瞬間、貴方の人生が終わります。どうかご自重を」
「へぇ、面白いな。何人殺したの?」
「150人以上よ。そして、あたしの為に、今度は万人殺すわ。貴方がその中の一人にならない事を祈ります」
流石にジュリオが呆れる
「君の使い魔は何なんだい?」
「只の悪魔よ」
去って行くルイズは、更にこう心の中で付け加えた
『そんな悪魔に魅入られたのは……私』

*  *  *
そして、才人達がきちんと顔合わせする為に、サロンに集められた
「良く集まってくれた。今度の出兵前に全員顔合わせしておこうと思ってな」
そう言って、作戦指令ウィンプフェンが発言する
「何で訓練中に司令が乗ってるんだ?」
才人の疑問はごく当然だが、誰も答えない
「今回の訓練は武装の速やかな装着と、整然とした離発着を行う為のモノだ。全員本番と思って務めて欲しい」
竜騎士達が全員敬礼し、才人はやらない
そんな才人をルイズが小突いた
「ちょっと」
「いや、俺今、軍人じゃねぇし」
「…言われて見ればそうね」
そして才人を見た途端、ウィンプフェンが逆に敬礼した
「艦長、素晴らしい船ですな。新艦が出来る迄の間、借りさせて頂きます」
「あぁ、宜しく」
そんな才人に、ジュリオが興味深そうに話しかけた
「何だい、君の船なのかい?しかも軍人じゃないのか?」
「実はそうなんだよ」
才人への発言は取っ掛かりに過ぎず、すぐに本命に身体を向けたジュリオ
「それにしても、やはり君の美しさは何にも代えがたい、是非とも」
ジュリオが懲りずにルイズの手を取ろうとし
バギィン!
大理石で出来たテーブルが綺麗に裂けた
「……で?」
「いや……何でもないです」
才人の威嚇に、ジュリオが手を引っ込めた
「……自分の船をどう使おうと自由だがね」
「竜騎士減らすよりは良いでしょ」
「…まぁ、そうだな。見ての通りだ。ミスゼロは最重要人物である。彼女に手を出した場合、使い魔がヴァルハラに連れて行ってくれるそうだ。その覚悟が有るもののみ、手を出したまえ」
ウィンプフェンがそう言い、剣閃が全く見えなかった騎士達は、全員冷や汗を垂らした

*  *  *
模擬弾を装着させる為に、竜騎士達が竜に話し掛けつつ、クルーが竜達の間を台車を使ってガラガラ歩いている「昇降機側から順次装着し、した奴は上に上げろ」
次々に指示が飛んで装着した竜騎士達が降りたエレベーターに乗って昇っていく
才人達は一番奥なので最後だ
キャリキャリキャリ、ゴン
エレベーターが上がりきった音がし、ジュリオは信号手の合図を待った
信号手が旗を一気に振り上げて離陸の指示を下し、ジュリオはアズーロの手綱をぴしりと叩いて翼が広がり、一気に飛び上がった
「いや、面白い船だな。一体何なんだあの男?」
空中で編隊を組んで滞空してるとどんどん離陸していって、最後に零戦が昇降機で上がって来た
甲板上では、指示が飛びまくっている
「艦速50リーグに上げろ!」
才人が怒鳴って信号手が手旗信号で艦橋に伝えて、ぐぐんと速度が上がり、プロペラが回り出した
「ラッキー、コイツだ」
ブロロロロ
才人が親指を立てると信号手が前方クリアを指示し旗を前に振る
才人は風防を閉めながら零戦のブレーキを外して走り出し、艦速で一気に離陸速度に達して離陸した
才人も無誘導弾を装着して編隊の後尾に付き、そのまま演習場に皆で飛んでいく
的が見え始めたら、第一と第二の隊が一斉に降下を始めて、装弾を手放した
模擬弾に火が付いて目標に向かって着弾し、油がぶちまけられる
その様を見て、初の訓練参加の傭兵隊も同じ様に行っている
そして最後は才人だ
才人も射程に入ってラック三つ全て投下し、一気に火が付いて目標に炸裂した
轟音と共に大炎上を起こす
何時もの訓練とは違う一際派手な幕に、竜騎士達が全員騎竜の上で喝采を上げ、才人が並走すると才人の親指を立てた仕草を返す
こういう時のジェスチャーは簡単に受け入れられるらしい
ルイズも思わず驚いた
「何なの?この威力」
「油大量に撒いて火を点けただけ。火薬で点火したって所。焼夷戦術は嫌われっけど有効なんだよなぁ。何せ俺の国じゃ、敵国の焼夷弾攻撃で一晩で10万人位死んだし」
「虐殺じゃない」
「そうだよ。戦争だろ?ルイズ」
「…貴族の戦争と全然違う」
「そうさ。俺の国は、常に殺し合いでは世界に名だたる国さ。平和な癖にな」
「変な国」
「離れて感じる異常性。俺もそう思う」
そう言いながら、大きな弧を描いて滞空してるオストラントが見えて来た
チカチカと点滅してるのが見える
「発光信号だ。読めねぇ」
今の才人に軍用信号や航法を学ぶ暇なぞ無い
才人がそう言って渋面を浮かべると、ルイズがマニュアルを取り出した
航法と連絡手段たる信号マニュアルは、初心者航法士のルイズには手放せない
手旗信号も、マニュアル片手に頑張って読むだろう
「大丈夫。あたしが読むわ。えっと、ちょっと待って、繰り返してる……ミスゼロチャッカンサレタシ」
「了解。じゃあ、お先に下がるか」
才人が零戦の機首を巡らせて、艦尾から着陸体制に入った
その頃、オストラントでは艦橋でひたすら訓練の怒声が走っていた
報告、ミスゼロ着艦体制に入りました!」
「艦速30リーグに落とす!右舷主尾翼水平、両舷ピッチ逆進。ブレーキだ。風石室高度維持しろ」
「右舷主尾翼水平、両舷ピッチ逆進ようそろ」
〈風石室高度維持ようそろ〉
水平でゆったりとした弧を描く場合、外周側ピッチを増やし(増速)、内周ピッチを微速(減速)にし、外周が増速分浮力で浮くので、その分を外周側翼が下降舵を取るか、内周側翼を上昇舵を取る。それを直進に舵を戻して同時に速度に逆進ブレーキをかける指示だ
主舵をきるのは、回転半径を狭くする場合だ
空中静止状態は風石の消耗が一番激しいので、浮力の発生する飛行を維持している
風石より石炭の方がずっと安いのだ
「着艦誘導灯、今度はきちんと付けろ!」
「誘導灯点けろ!急げ!」
甲板員がバタバタ走って誘導灯の鉄板で出来た蓋をひっくり返して点火合図を送って魔法ランプが次々に灯っていく
夜間着陸時には絶対に必要なので、竜母にも搭載が決まってる
誘導灯のお陰で進路誘導された零戦は、相対速度40リーグで近付いてゆっくりと降り立った
降りて甲板を走り始めたのを確認すると更に指示が飛ぶ
「艦速10リーグ。逆進ブレーキ」
「逆進ブレーキようそろ」
またガクンと落ちると、エレベーターハッチに向かって信号手が両旗を後方に肘から上で後ろに振りながら後ろ歩きで誘導し、両旗を胸の前で交叉して停止させ、片手で上げた旗を左右に振って艦橋を呼び出し、もう片方の旗を降ろしてくるくる回して降下動作を指示する
「補機始動。エレベーター降下」
〈補機始動、エレベーター降下開始〉
機関室がバルブを操作すると、ロアデッキの操縦士がレバーを降下に向けてセットしてクラッチを繋ぐ
補機の回転数をギヤで減速して繋いでる為に、トルク重視でゆっくりチェーンが回り始めた
ガコンと最初にロックが外れてキャリキャリキャリとチェーンが鳴り響いて下降していき、零戦がロアデッキに姿を現す
ゴゴン
階下に到着すると、ロアデッキに一体化した
才人はブレーキを解除すると声をかける
「押してくれ」
「了解」
才人含めて皆で押し、エレベーターから退くと操縦士がまた動かし、エレベーターが昇った
「どうでしたか訓練は?」
「初めて参加したけど、派手だったよ」
「そりゃ本番が楽しみだ、期待してますぜ」
皆が明るい。ゼロ級が有れば空軍は更に強くなると皆が信じ、しかもその最初の一人になれるのだ
才人達が零戦をロープで固縛を行なっていると、次々に竜騎士達が降りて来た
「才人〜〜〜!今日の訓練一際派手だったね!」
「お〜ルネ、帰って来るの速いじゃないか」
「着艦は第一から、発艦は第三からって決めてるんだよ。第三の竜騎士は、僕らと違って成竜ばっかで体力有るからね」
「あ、成る程。傭兵に対する嫌がらせとか、そんなじゃ無いのか」
「失礼な!多少は否定しないけどさ、寧ろ船室の等級は僕らが二人部屋なのに、彼らは一人部屋だよ?彼らの方が強いって理由だから、嫌々だろうと全員納得してるんだ」
固縛作業をしながら思わず才人が感心する
「結構まともな軍隊なんだな。ちょっと驚いた」
「トリステインの伝統を馬鹿にしないでくれ」
「その通りよサイト」
横で才人がロープで南京結びをして絞って固縛してるのを、摩訶不思議な結びを不思議そうに見てたルイズがえっへんと答える
「じゃ、伝統とやらで南京結びやってみ?」
才人がそう言ってロープを渡すと、甲板員達がゲラゲラ笑い出した
「艦長、あんた結構意地悪だな、おい」
出来る甲板員達が、素人では出来ない事を知ってる為に、盛大に笑っている
「うぅ〜、良いわ、見てなさい!ここここんな結び位あたしにかかれば」
ルイズがそう言うので、才人が練習用にフレームのステーから縄を通して状況を作り、ルイズに手渡した
皆が敢えて教えない
どうなるか解ってて、どんな有り様になるのか期待してるのだ
「えっとここでこうやって……」
ルイズの足元にロープの束が転がっており、ルイズが何故か立ち位置をくるくる回って身体にロープが絡んでいく

*  *  *
ジュリオ達が着艦し、ジュリオは隊長として、最後に収容された
発艦時に最初に飛び立つ為だ
「全く何だあの演習は?油を撒いて点火だけで、とんでもない炎上しやがった」
そうブツブツ言いながら騎竜から降りると、歓声が聴こえて来た
オオオォォォ!!
「何だ?」
気になったので輪を掻き分けて行くと、あられもない姿で縄に絡まった美少女が涙目になって転がっていた
「…一体何が起きたんだ?」
「トリステインの伝統技、自縄自縛だそうだ」
言ったのは才人である
「何で助けないんだい?こんな可憐な少女が、助けを求めてるじゃないか」
「芸術とは鑑賞するモノだ。違うか?」
キュピンと目を光らせて、顎に手を持っていき、もう片方で肘を支える才人
同じ姿勢を取ったジュリオが、ルイズを暫く見て頷いた
「……確かに、芸術だ」
「だろう?芸術鑑賞は皆でしないとな、なぁ?」
皆してうんうん頷いて、全員の視線に晒されて、ぷるぷる震えてたルイズは思い切り叫んだ
「サイトのバカ〜〜〜!!!」

*  *  *


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Last-modified: 2012-06-03 (日) 00:58:16 (4339d)

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