XX1-437
Last-modified: 2013-02-27 (水) 20:55:01 (4070d)
カトレアはオストラントの艦上で日向ぼっこをしながら、二人のメイドと共に艦内の清掃や洗濯、料理の仕込みや調理等、ヴァリエールに居た時よりも働いており、甲斐々々しく働きながら常に笑みを絶やさない姿はゼロ機関の男達にとって正に高嶺の花であり、恋慕ではなく崇拝の対象になってしまっていた
家事と言えども肉体労働は殆んどした事が無かったカトレアだが、ダルシニ達から花嫁修業だと言われて、率先して働いては、疲れてバタンと軽くベッドに突っ伏しを繰り返している。少しずつだが、体力も付いて来たと実感していて、日々楽しそうである
「くうぅ、フォンティーヌ嬢のあの笑顔、なんであの野郎が独占なんだよ?」
「しゃあねぇだろ?あの兄ちゃん、口だけじゃねえし。強えぇわ、頭切れるわ、行動は桁外れだわ。神は本当に不公平だ」
「いいなあ、俺も彼女欲しいぜ」「双子メイドちゃんなんかどうよ?二人共、すんげぇ美人じゃね?性格もフォンティーヌ嬢に負けず劣らず良いじゃん」
「もうアタックしたっての。一人は結婚済み。もう一人は婚約者有りだってよ」
「…この世に救いはねえのか?ド畜生。衛士隊現役時代は、これでもモテたんだがなぁ…」
「何回も振られたの間違いだろうが」
「…ホントの事言うなよ…」
以上、いつも交わされる野郎共の愚痴である
そんな彼等に笑顔を振り撒きながら労う3人の美女達のお陰で、仕事自体はやたらに効率が良くなってしまっていた。男とは、とても悲しいナマモノである
「あらあらまあまあ、殿方がこんな所で愚痴らないで下さいな」
休憩中の彼等にお茶を持ってやって来た3人からお茶を貰い、更にぶちぶちと零し始める
「フォンティーヌ嬢。ここだけの話っすよ?」「はい。何でしょう?」
ニコニコしながら聞くカトレアに、心底真剣な顔をしたトビが、ずいっと顔を近づけ、カトレアが思わず引き気味になる
「結婚して下さい!」
「…あらあら、まあまあ。またプロポーズされてしまいましたわ。ミスタトビも懲りませんわね」
そう言ってカトレアがころころ笑っていて、トビがちぇっと舌打ちしている
「やっぱ駄目かぁ」「ダルシニやアミアスにも言ってるの、知ってましてよ?」
カトレアの言葉に、休憩していた男達が思わず吹いてしまう
「ブフッ。手当たり次第か、お前は?」
「ちげぇよ。3人共大当たりじゃねぇか」「…ま、確かに」
「船暮らしも良いけどよ、たまには遊びに出てぇぜ」
そんな感じで毎日を過ごしていて、トリステイン魔法学院襲撃の報には全員色めき立ち、歓声が上がってしまったのは、仕方ないと言うべきか、良くも悪くも喧嘩好きな救えない連中と言うべきか、さて、どちらだろう?
出撃の際に艦長代理をしたのはカトレアであり、カトレアの部屋は、艦長室を根城にしていた
カトレアは自ら黒髪の男のモノである事を内外に示し、予防線を張っている。絶世の美女には、人には解らない苦労が有る訳だ
すっかり艦長室はカトレアの匂いと趣味で内装を替えられていて、才人が入ったら驚くだろう
「ふんふんふ〜ん」
鼻唄を出しながらカトレアはにこにこしつつ、未だ帰らぬ主人を驚かせるべく、本人には楽しい楽しい企みをしている
才人はこういった飾りつけには無頓着だと云うのは、言わずとも分るからだ
だが、シンプルを好む男性に、自分の趣味全開で押し付ける訳にもいかない。その見極めが、カトレアの楽しい悩みになっている
「船だから、天蓋付きって、訳にもいかないですし、どうしましょう?カーテンでも付けようかしら?」
「…魔法不燃処理カーテン、高いですよ?」
艦長室でルンルン気分のカトレアにダルシニの突っ込みが入るが、カトレアはめげない
「大丈夫です。お給金はまだあります」
「…また、魔法薬発注したじゃないですか。支払い殆んどそっちに跳んでますけど?」
「あうぅう…」
アミアスの突っ込みに頭を抱えてしまうカトレア。自身で生計を立てた事が無い為、金の使い方が非常に大雑把なのだ
「所で、私達のお給金は大丈夫ですか?」
ダルシニが突っ込むと、ぶんぶん頷いた
「大丈夫です。きちんとフォンティーヌの収入から払えてますから…そうだ!フォンティーヌの方のお金から」
パンと叩いたカトレアにアミアスのジト目で突っ込みがまた入る
「…で、貴族の大盤振る舞い振りを見せつけて、イーヴァルディとの格差を見せると…」
カトレアは、その突っ込みにズズンと倒れて落ち込む。暗い雰囲気を纏いつつ、えぐえぐとやり始めた
「どうせ、どうせ、私は生活力皆無ですよ。切り盛りなんか、姉様みたいには出来ませんよ〜」
流石にちょっと可哀想かと思ったのか、ダルシニから声をかけられる
「まぁまぁ、お嬢様は、自分で生計立てるのは今回が初めてなんですから、ぼちぼち出来る様になれば良いですって。今回こちらに滞在なさる分の生活は、全て自分の給金で賄うと決めた姿勢は、大変素晴らしいと思いますよ」
「…でも」
「初めから、何でも出来る方は居ませんよ?」「そうですよ」
二人に励まされ何とか立ち上がるカトレア
「でも、イーヴァルディだけは、初めからやりそうですけど」「そうだね」
その言葉に、ぼふんとベッドに突っ伏してしまった
「私にも、姉様並の生活力が欲しい!」
……その内、身に付くと思うんだが?
* * *
そんな感じで毎日を過ごしていると、オストラントに一通の手紙が届いた
カトレア達が、トリステイン魔法学院襲撃後、アニエスを途中迄馬車事運んだ後、通常
営業に戻った時である
「これは…才人殿!」
梟便で届いた手紙に思わず胸で抱えて大はしゃぎするカトレア。三姉妹の真ん中は、可愛いと言えるレベルで、上と下の痛い部分を持ってるらしい
「ええっと、何々?王党派の女性で、レコンキスタに隷属されていた女性達を雇用?モンモランシで適性を見極めて、適時配属すべし、と。追伸は…全員嫁ぎ先を所望との事。彼女達は娼館に拘束されていた。野郎共に、甲斐性見せてみろと言ってやれって……ぷ、あはははははははは!」
カトレアは、その書き方に盛大に笑ってしまった。だから、私は惹かれたんだなって、再確認したのだ
カトレアは足取り軽く、工場棟に出向いて全員手を止めさせて、皆に伝える
「みなさ〜ん!お嫁さん欲しいですか〜?」「「「欲しい!」」」
カトレアの言葉に即答する男達。まぁ、気持ちは解らんでもない
「えっとですね、所長からお手紙が届きまして、王党派の貴婦人達を雇ったんだそうです」
おおお!?どよめきが起き、静かになったのを見計らって、深呼吸したカトレアが喋り出した
「でですね、平民の方や貴族の方も居て、全員結婚希望だそうで、皆さんにお会いしたいと言ってるそうなんです」
「うひょ〜〜〜〜〜〜!」「よっしゃ〜〜〜〜!!」「あの野郎、今回ばかりは褒めてやらぁ!」
散々に歓声を上げてる彼らに、続きの言葉はきついが、隠さず必ず伝える様に書かれていたので、彼らの興奮のざわめきが落ち着いてから、カトレアは隠さず語り出した
「但し、彼女達は全員、娼館に拘束されていたそうです。後は解りますね?」
その瞬間、水を打ったようにしんと静まり返った。最後にカトレアは才人の言葉を繋げたのだ
「所長からの伝言です。『手前等、全員甲斐性見せてみろ』ですって」
暫く押し黙っていた一団に、手を挙げた者が出た
「ミスタパレ。どうぞ」「ああ。彼女達の健康状態は?」
「大丈夫だそうです」「了解した。ならいい」
また、おずおずと手を上げる者が出た
「ミスタロイ。どうぞ」「彼女達…美人?」
「所長基準で美人ばかりだそうです。お前らには勿体無いんで、文句言ったら他の甲斐性持ちに紹介するって、書いてますよ?衛士隊にでも紹介すっかな、ですって」「待て待て待て!見て会って、会話してからでも遅くないだろ?な!」
周りの連中が次々頷く様を見て、 カトレアはくすりとしてしまう。やはり、現役の衛士隊は敵として強力すぎる。しかも、所長的には、その方が良いのだ
なんせ、今働いている彼らを紹介したのは、衛士隊なのである。衛士隊は、独身貴族が非常に多い。才人自身は全くその気は無いのだが、女王派としての取り込みに、結果としてなり始めている
結局は、全員が歓迎すると決めて、彼女達の来訪に掛る日数を考慮して、自ら迎えに行く事を提案したのは、トビである
「なあなあ。移動費用は誰が出すの?」「勿論、ゼロ機関ですね。従業員ですから」
カトレアの言葉にトビが答えた
「だったらさ、オストラントで迎えに行こうぜ。経費節約だ」「ちょっと待て、仕事どうすんだ?この前の出撃騒ぎで、大分遅れているぞ?」
「フィリップ班長。堅い事言いっこ無しで行きましょうよう」「…トビ。お前はいっつもその調子だな」
「褒めないで下さいよ」「褒めてねぇよ、馬鹿」
どんぶり勘定だが、カトレアは何とか考えてみる。50人分の移動費用とオストラントの移動費用。それに、移動時の工場停止の損害分である
どう考えても、ゼロ級運用費の方が安いが、工場非稼働分の損害はちょっと無視出来ない
此処にエレオノールとシエスタが居ればと思いつつ、提案してみた
「…二班に分けましょうか?」「反対!」「絶対反対!」「置いてけぼりは無し!反乱すんぞ!」
皆が皆、自分以外は全部敵としているのは丸判りだ。出遅れは非常に不味いと全員が目で訴えている
『二班に分けたら、本当に反乱起きちゃいます…』
カトレアは、ふぅと溜息を吐いて頷いたのだ
「しょうがないですね。全員で迎えに行きましょう。その代わり、戻って来たら全員残業地獄です。良いですね?」「「「よっしゃぁ〜〜〜〜〜!!」」」
* * *
カトレアから手紙が届いたエレオノールは、中身を読んだ瞬間に、机に肘を付き、頭を抱えて盛大に溜息を吐いている
「はぁ〜〜〜〜。あんの馬鹿共、嫁候補に会いたくて仕事サボるですってぇ!?」
自身の事は棚に上げてのたまうエレオノール。当然シエスタは気付いていたが、笑って相槌を打ってみた
「あはははははは。才人さんも何してるんでしょうね?」
学院が襲撃後閉鎖され、二人だけの為に他の平民達迄滞在させるには費用が持たないと判断した二人は、アカデミーゼロ機関分室に居を移して仕事をしていた
書類仕事から、才人からの手紙の指示で、今回迎える従業員の給料と配置等、他の領主達(代官含む)と手紙でやりあってた状態での一コマである
更にコルベールの遺品の内、学院で有用な物は寄贈し、研究で受け継げそうなのは、エレオノールが研究メモから推察し、才人が完成させたモノを除いて受け継いでいる
「全くもう、何やってんだか?」
そう言いながら、エレオノールは半分に割った檸檬に亜鉛と銅を刺して、被覆した銅線を鉄芯に巻いてそれぞれの電極に繋げて砂鉄の中に突っ込んで、引っ付く様を面白そうに見ている
「へぇ、コイツが電磁石って奴か。コルベール先生の遺した研究テーマの一つが、電気の活用法だったわね。まさか、才人が知ってるとはね…」
「才人さんは、本当に何でも知ってますねぇ」
そう言いながら、シエスタは算盤片手にぱちぱちと弾きながら、ずっと書類とにらめっこをしている
こちらはこちらで、中々に忙しそうだった
「ったく、早く帰って来なさいよ」
電磁石をオンオフしながら、砂鉄の吸い付き具合に感心しつつ、ぐちぐち零すエレオノール。シエスタは澄まして答えた
「夜泣きしまくって辛いですもんね〜〜」「…何よ?」
「別に〜〜?」「ふん、人の事言えない癖に」
走ってたペンがぴたりと止まるシエスタ
「ミスが毎夜才人さんの名前呼びながら、5回はしてますよねぇ」
真っ赤になるエレオノール。だが、エレオノールも負けてない
「そう言うメイドも、4回はしてるじゃない?」「失礼な。3回です」
「変わんないじゃない!」「ち〜が〜い〜ま〜す〜。私は、ミスみたいに猿じゃないですよ〜。下手すりゃ一晩中じゃないですか?私の太ももや胸は才人さんのモノであって、ミスの大人の玩具じゃないですよ」
ヴァリエール相手にこの口調。最早シエスタには怖いものが無いとみえる
「あんたね。ヴァリエール相手に」「何でもかんでもヴァリエールヴァリエールって、名前出せば萎縮すると思ってるんですか?人間裸になっちゃえば一緒ですよ?」
そして、エレオノールが詰まってる間に追い打ちを繋げる
「そんな事言ってると、もう一緒に寝てあげません」
エレオノールはその言葉に詰まった。困った事に最近一人寝が嫌なのだ。特に、感覚を共有した相手と一緒に寝るのは、才人程では無いが安心感がある
今の寂寥感を和らげているのは、間違いなくシエスタの功績である
『私があいつの子供産んだら、本当にこのメイドが乳母決定ね』
もうすぐその時がやってくる。そう、この戦役が終われば、晴れてあいつは貴族だ
そうしたらもう、一直線で子作り開始。その時はもうすぐそこだ
「…ちょっとは我慢する」
そう言うのが精一杯のエレオノール。シエスタは笑顔で頷いた
「いっぱいして大丈夫ですよ。その代り、才人さんが帰って来たら」
「解ってる。妊娠解禁ね」「やった!」「但し、貴族叙勲が条件よ」「は〜い」
着々と、才人の足場が出来つつあるのを、知らぬは才人ばかりである
* * *
才人は、航空部隊の中で、唯一待機を命じられていた。理由は幾つかある。一つ目、市街戦では、追加装備の破壊力が有り過ぎる事。市民を殺し過ぎては、レコンキスタからの解放と云う大義名分が崩れる。二つ目、竜騎士みたいに垂直離着陸が不可能で、市街戦支援では不利な事。三つ目、戦果的には、大戦果と呼べる成果を既に充分に果たしてる為、女王のお気に入りがこんな所で戦死する様な事が有っては、自身の出世に悪影響が出かねない事。特に、これからもまだまだ開発予定品が山積みと言外に語っており、娼館のメイジを雇った事は、ゼロ機関の陣容の補強と参謀達には直ぐに判った
そして、娼館の閉鎖を女王の命で王党派を保護と云う様に名目を整えた。つまり、才人とルイズの手柄の横取りだ
才人は特に何も言わず、だが、ルイズは娼館の前で触れを見た瞬間に激昂したのだ
「何よ何よ何よ?総司令部はこの件は何もしてないじゃない!!なんでサイトとあたしの手柄が、総司令部の騎士道精神の発露になっちゃったの?ずるいよこんなの!納得出来ない!!!」
「放っとけ」
「サイトは悔しくないの?」
「どうでもいい。手柄なんかくれてやるよ。俺は既に報酬を貰ったしね」
そう言って、才人は閉鎖された娼館の扉を開くと、男の声が届いたのだ
「ようこそ、親方様」「アバネシーさんお早う。皆、準備できてる?」
「まだ、と云う感じですかな?」「昼までには終わらせる様に言ってくれ。舞い上がったウチの野郎連中が、空船使って迎えに来るそうだ。夕方には着くと思う」
その言葉に、支配人として彼女達を纏めていた、ジョン=アバネシーが驚く
「嘘でしょう?」「本当だよ。ゼロ機関は、今迄の常識は通用しない事が多々有るから、今の内に慣れて頂戴」
「はあ…」
ルイズはそんなやり取りを見ながら、才人が言った報酬が何なのか、辺りを見回してみた
特に何か有る様には見えない。そんな中、女性が一人軽やかに降りてきた
トントントンと、軽やかなリズムである
「支配人、親方様、お早うございます。あ、そちらの可愛いミスもね」
ついでの扱いに不満バリバリであるが、相次いで挨拶する二人に合わせてルイズも挨拶する「お早うございます、ミス」
そう、非常に晴れやかな表情だったのだ。次いで才人を見ると満足そうに頷いている
「あんたまさか、あの人達の笑顔が報酬だ、なんて…言わないでしょうね?」
「お、流石ルイズ。良く解ったな?」
「似合わない事するな、馬鹿犬」
拳が非常に軽く顔面に当たったに過ぎないのだが、才人は鼻っ柱に軽く当たっただけで、蹲ったのである
「…ってぇ、もうちょい手加減してくれよ、ルイズ」
「…えっ?」
才人の蹲りに、その場に居た全員が驚いた。どう見ても、軽く触れるじゃれあい程度だったからだ
だが、才人は本気で痛がっており、鼻は赤くなっていた。ルイズは、その結果に言い知れぬ悪寒を覚え、背筋が寒くなったのである
『どういう事?使い魔の…呪い?』
以前から、ルイズの折檻には非常に痛がっていたのだが、今のは、明らかにおかしかった
自分の知らない内に、何かが進行している。そう、取り返しの付かない何かが
今、ここに居る才人は、人なのだろうか?それとも、他の喋れる使い魔同様、ただの知恵持つ使い魔なのだろうか?
見てはいけなかったもの、でも、目を逸らしてはいけないものの様に感じた
追及しなきゃいけない。だが、果たしてこの使い魔が言う事を聞くか?答えはノンだ
それは、ルイズがまだまだ未熟な証、だが、成長を待つほど、余裕が無い様に感じたのだ
『姉さまなら何か知ってる。でも、姉さまはあたしなんかに、サイトのおかしい部分なんか絶対に教えてくれない』
まだまだ自分には耐えられないと判断しての事だろう事は、想像に難くない。あれで姉は自分の事を、とても心配してくれてるのは、いくら不器用なルイズにだって判るのだ
『でも、あたしは、サイトの主人として、サイトを知らないといけない』
だが、未だにルイズには、謎の多い使い魔だった。使い魔なんてそんなもの、と、思えれば楽なのだが、まだまだ夢見る事の多い少女で大貴族のお嬢様には、住んでた世界すら違い、更に男だと云う自身の使い魔は、ルイズには重すぎる難題だった
* * *
その日の昼食は、新しくゼロ機関の従業員になった彼女達とそのまとめ役、ジョン=アバネシーと一緒に取り彼女達からの質問が才人に集中する
内容は、殆ど野郎の話題だ。仕事の件はアバネシー以外聞いてこない
「ねぇねぇ親方様。ゼロ機関の殿方って、どんな方?」
スプーン片手に問われ、スープとパンだけの質素な食事の中、変な顔をするルイズを傍らに、才人は興味津々の彼女達に答える
「ん〜、そうだな。まずは馬鹿。そりゃもう、大馬鹿揃い」
がくんと傾く女性達、才人はその様をくすりとしながら更に言葉を繋ぐ
「で、どうしようもない喧嘩好き。あいつら、命のやり取りを遊びにしか思ってねぇ」
ハルケギニアに於ける、典型的な男の考えだ。守るモノが出来た時、変わるのかも知れない
「それで?」
「責任感だけは人一倍。安い給料だってのに、良く働いてくれてるよ。平均的な給料出すので手一杯だ。もうチョイ、奴らに給料上げたいんだがなぁ。投資案件が多すぎて、使う訳にもいかないし」
才人の言い分に、彼女達は目を輝かせる。平均的な給料、つまりトリステインに帰属すれば、貴族年金の支給と相まって、貴族の対面を保ちつつ、余裕の生活が送れるのだ
平民の女性達も目をらんらんと輝かせる。自分の稼ぎと合わせれば、ちょっとした小金持ちになれるのだ。しかも、仕事だけは沢山あると来てる。食いっ逸れが無い
「まあ、一番はこいつかな?」
そう言って、手紙にでかでかと書いてた野郎の文字を彼女達に見せたのだ
俺達の総意だ!甲斐性見せてやらぁ!
「こう云う馬鹿共だね」
そう言って、才人は笑って見せると、彼女達がきゃぁきゃぁ騒ぎ出し、一気に喧騒に包まれた
「どうしよどうしよ?服みんな無くなっちゃった。おめかししたいのに!」「ねぇねぇ、化粧道具貸してよ。私の、ケバイのしかない」「一時間後ね。念入りにやるんだから」「あ〜ん、いけずぅ」
そう言いながら一斉にどたどたと走り去り、才人とアバネシーが苦笑しながら、その様を見送ったのだ
「こっちじゃ、結婚って大変なんだね」「彼女達は特に…ですな」
「アバネシーさんは?」「私は、内戦で妻と子供、それに妾も失いました。今では、彼女達が子供ですよ」
「そっか」才人はそれ以上追及せず、ルイズは不味い食事はともかく、成り行きを見て溜息を吐いた
『やっぱり、結婚って、大変なんだなぁ…。一生独り身で、子供無しは嫌だなぁ』
男性独り占めは、やっぱり良く無い事なんだな、と、噛み締めてしまった
* * *
幾らロサイスが軍港として整備されていると言っても、既に停泊していて手一杯の所に、停泊なんざ出来る訳が無い
オストラントの最大艦速を叩き出した乗組員は、艦上からロサイスの込み具合を見て頭を捻っており、そんなオストラントを見つけた竜騎士が警戒に飛んで来た
「オストラント、お前の入港は聞いて無い!停泊場所なんか無いぞ!」
「新しい従業員迎えに来ただけだ。直ぐに帰る!上空待機を許可してくれ!」
その言葉に竜騎士が一度戻ってまた飛来し、許可を出すと上空でその威容を見せつつ待機してると、騒ぎになったのに気付いた才人が出て来て、彼に連れられて女性がぞろぞろと出て来る。その様を見て、トビが伝声管に向けて、大声を出した
「カッター用意しろ!お客さんを乗せるぞ!」<了解>
50人程のお客さんを乗せてアッパーデッキに下すと階段で全員降り、手隙の者達が、全員サロンに集合していて、彼女達が通された。暖房完備の空船等、聞いた事が無い女性達はぽかんとしていて、艦長代理として、カトレアが女性達を歓迎する
「オストラントにようこそ、皆さん。今日からこの船が、皆さんの家になります。そして、ゼロ機関にようこそ。私はカトレア=イヴェット=ラ=ボーム=ル=ブラン=ド=ラ=フォンティーヌ。所長の代理としては役者不足になりますが、艦長代理として歓迎します。私の立場はゼロ機関の事務職員、そして、所長たるサイト=ヒラガのアマン(愛人)。私も、貴女達と同様に、所長に助けられた女です」
その言葉に、女達の間に火花が散った。そう、カトレアの彼女達に対する宣戦布告であり、彼女達は過不足なく受け取ったのだ
男達には全く分からない火花が笑顔の中で、飛び散っている
カトレアは堂々と言ったのである。私よりも女として上じゃないと才人は靡かないのよ、であり、最早挑発以外の何物でもない。貴族の立場で、平民の男の膝に乗って堂々としているのは、意外を通り越して異常と言える。実は才人に目を付けていた女性は結構居て、強烈なストレートを彼女達に叩き込んだ。カトレアは素早く見回して才人に注がれる視線に気付いて、勝負を堂々と申し込んだのだ
「我が所長は、部下達のお嫁さん候補には、絶対に手を出さないでしょう。そうですよね?」
そう言って才人に視線を向けると、才人はぼりぼり頭を掻き、カトレアに寄るとこつんと軽く拳を頭に当てる
「あん、何でですかぁ?」「まぁ、色々と…俺が愛人に仕事投げてる屑って図が出来るし、そんな事言う必要無いでしょ?」
「だってだって、言わないと駄目なんです!才人殿は彼女達の目が解らないんですか?虎視眈々と、私の才人殿を狙ってるじゃないですか!」
そう言って、片手の拳を握りしめて片手をぶんぶん振りながら女性達を指し示して訴えるカトレア。昔はもうちょい、時と場所を弁えて居た筈なのだが、どうも駄目な方向に行っている。それ位、カトレアに取って重大事件なのだ。カトレアには、自分以外に居場所は無い。危機感は洒落にならないと才人も頷いて、カトレアの望み通りの言葉を伝えたのだ
「これ以上抱えられないんで、俺は対象外な」「えぇ〜〜!?」
ブーイングの声に、今度は野郎達から声が上がる
「てめぇ、また、モテてんのかぁ!!いい加減にしやがれ!!」「知るか!俺だって訳解らん!じゃ、後頼む!」
そう言って逃げ出そうとすると、がしりとカトレアに腕を掴まれる
「あの、本当に連絡事項が山積みなんです。二時間程滞在して下さい」
才人はその言葉に、ルイズを下に置いて来たのを思い出して、頭を抱えながら頷いた
「またお仕置きかよ…」
仕事でありながら、才人は何故か気が重かった
* * *