XX1-565
Last-modified: 2013-06-26 (水) 21:07:36 (3951d)

才人とルイズは、補給部隊の護衛も兼ねて最前線のサウスゴータに馬車で向かう事になった
馬車の護衛は驚くほど少なく、才人は補給部隊が心配になって来る
「おいおい、護衛が殆ど居ないじゃねぇか」「あたしもビックリだわ…」
その声に反応した者が出た
「その声…やっぱり才人だ!よう、才人!」
声を掛けられて振り向くと、「レイナールじゃないか!久し振りだな!」そう言ってレイナールと肩を叩き合い、再会を喜んだ
ひとしきり再会の挨拶が済むと、レイナールが疑問を投げかけ「ルイズ迄居るじゃないか。一体どうしたんだよ?」
その声に、ルイズが答える「あたし達が護衛の増援よ」「たった…二人だけ?」
レイナールがガックリ来たのを見て、才人が問い正す
「あんま良い話聞かないが、酷いのか?」「…ま、ね。ここ数日は、二日に一回は補給物資やられてる。才人は知らないだろうけどさ、魔法学院の在校生が結構殺られちゃって。ほら、補給隊だから、前線に出ないと思われて結構配属されてて、それが仇になっちゃったんだ」
「そうなんだ…」ルイズはそう答えるだけで、レイナールの気落ちした肩を慰めるにはちょっと足りない事を自覚し、胸を張って自信満々に言ったのだ
「大丈夫よ。あたしとサイトが居れば千人力なんだから、大船に乗った積もりで安心しなさい!」
ルイズの励ましに、レイナールは「船底に穴が開いて無い事を祈ってるよ」
そう皮肉るに留めた。仲間の死を見過ぎて来たのだろう

*  *  *
才人達を乗せた補給部隊が出発し、上空には偵察用に竜騎士が一騎、就いて居る
補給をきちんとしないと、前線は戦えない。だが、補給部隊に展開出来る余力も、トリステイン=ゲルマニア同盟側には無い事が窺え、才人は首を傾げる
「ゼロ級の運用はこう云う時の為に有るんだが、参謀連中は何考えてんだ」
御者台に乗っかってる才人はそう言って一人ご機嫌ナナメであり、同じく御者台に乗ってるルイズが食いついた
「サイト、どう言う事?」「参謀本部の連中、敵竜騎士が怖いせいで、ゼロ級を展開出来ないらしいぜ」
才人の言い分にルイズはポンと拳で掌を打って納得する
それ以外にも理由が有る。簡単に言うと、参謀本部はゼロ級を持て余してるのだ
基本、早いだけの輸送船と見ていて、風竜には追い付かれるし、ブレスを食らえば他の船同様、火災沈没する。武装は艦載される竜騎士達が担ってる為、前線に出しても意味は無いと判断していて、判断自体はあながち間違いでもない
だが、せっかく使える物が有るのに使わないのは、才人には納得し難い
勿論理由はある。例えコピー不可でも、敵に鹵獲される方が、絶大な損失である。現代人の才人には、所詮有り触れた技術の寄せ集めに過ぎなくても、ハルケギニアから見た場合の価値に気付かないのだ。出し惜しむには、納得出来る理由なのだが、才人からすれば、また作れば良いやになってしまう為、両者の溝は永遠に埋まらないだろう
そんな状態で、ゴトゴト揺られ、才人は思わず口ずさむ
「ドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜、子牛をの〜せ〜て〜」「何よ、その歌?」「幌の無い荷馬車に乗る時のお約束」「はあ?」
ルイズの怪訝な顔に答えず、ひたすら口ずさみ、ルイズは洗脳されて、気付いたら一緒に歌っている
「あ〜る〜晴れた〜ひ〜る〜下がり〜」「い〜ち〜ば〜へ続〜くみち〜」
何せ、ハルケギニアにぴったりだ。ルイズも歌詞の内容が身近なのであっさりと覚えて、楽しそうに歌っている。ドナドナを明るく歌えるのは、ルイズだけだろう
才人の何気なく自分の国の文化を出すのがルイズには楽しくて、つい声が弾んでしまう
もう何度リピートしたか判らないが、竜騎士のホイッスルで、だだっ広い牧草が茂る平原で、のんびりした行程を消化していた補給隊に緊張が走る
「お客さんか…デルフ」「あいよ」がちっと自ら飛び出しデルフが楽しそうに相棒に声を向ける
「よう、相棒。あんまりつれない事しないでくれよ。寂しくて寂しくて死ぬかと思ったわ」「静かで良いな、それ」
「ああん、つれない」「冗談はそこまで。どっちだ?」
才人の要求に、デルフは素直に答える
「進行方向0時として、7時。距離800位か?」「後方か、ったく厄介な」言いながら、才人は03式を装備し、荷台に乗ってる荷物を利用して寝転がりつつ、スコープを取り付けつつ、指示を下す
「ルイズは距離200切ったらエクスプロージョン詠唱開始。防御用のディスペルは任意」「ん、判った」
「デルフ、距離500で狙撃する。観測頼む」「あいよ」
ゴーレムの御者は何も考えずに低速で石畳の道路をのんびり走り、部隊は慌しく武装の音と指示が飛ぶが、才人は雑音を無視し、スコープを覗いている
「才人、ルイズ。敵襲だ!早く体勢整えて!」
レイナールが慌ててやって来て注意を促すが、戦闘態勢に入ってる才人の代わりに、ルイズが答える
「もうしてるわよ。良いから、サイトの前には来ないでよ?皆殺しちゃうわ」「わ、解った。指示を飛ばすよ」
レイナールが馬で隊に伝令する為に去ると、デルフがカウントダウンを始める
「相棒、来るぜ?700…」がちりと撃鉄が起きる
「600…」ルイズの生唾が飲み込む音が聞こえて来る
「500」デルフの声に才人が引き金を引き、盛大な射撃音が轟いた
ダアァン
先頭に走る騎馬に命中し、転倒と落馬、それに続いて隊列の密集が災いして、次々と落馬と転倒の連鎖が起き、襲撃の撃退にあっさり成功してしまう
「ありゃま、運が良い事」「いや、全くだぁね。まさか一発で終わるたぁな」
暫く見ていたが、立て直しの為に一旦退却していくのが見え、才人は武装を解いてると「やはり、貴様か!」言いながらブレイドの刃が才人の背後から刺そうとし、風魔法で逸らされ、才人は振り向き様裏拳を放つ。が、あっさり避けられ、件の男が荷物の上に立ち、才人と睨み合う
「ワルドか。ついぞ、縁が有んな」
そう言いながら鯉口に左手を添え、いつでも抜刀出来る様にするが、ワルドは身を翻すと消えてしまう
「偏在か」
挨拶代りで仲間と共に退却したと見え、才人が息を吐くと隣でルイズも杖を手に同じく息を吐いている
「参ったね、どうも。ワルドに存在知られちまった」「対策されちゃ、キツくなるやね」
常に才人の存在は、アルビオン側の作戦失敗の原因になっている。警戒感は半端無いであろう事は想像に難くない
頭をがりがりしながら再び御者台に座るとルイズも座り、寄り掛かってだらけているとレイナールが馬でやって来て興奮した口調で話し掛けて来る
「才人、凄いじゃないか!たった一発で撃退するなんて信じられないよ!」「運が良かっただけだよ」
才人はそう言って軽くあしらい、ルイズも頷いて補強する
「運が良かったのは事実ね。でも言ったでしょ?大船に乗ったつもりで居なさいって」
才人の戦闘指示が段階を追っていたのはルイズも知る所で有り、今回はたまたま初弾で決まったに過ぎない
命中しなければ、最終的にルイズのエクスプロージョンで吹き飛ばす所迄行っただろう
だが、傍目から見たらあっさり撃退したのも事実である為、レイナールが興奮するのも理解出来る
一旦退却したのだから、再編には時間が掛かると見ているが、メイジの場合、予想以上に再編が早いかも知れない
流石にそこまでは才人には解らないので、レイナールに聞いてみる
「なぁ、レイナール。落馬で総崩れになった部隊、再編に時間掛かりそうか?」
顎に手を当てて考え込んだレイナールは、お気楽に答える
「脚折れたら、軍馬と言えどお釈迦だから、治療に魔力を使わざるを得ないね。水使いの魔力減って攻撃して来ないと思うよ?水使いの魔力は部隊の生命線だからね」
「普通はそうだよな。ちょっと寝るから、何かあったら起こしてくれ。体力回復な」「ん、分ったよ」
レイナールが部隊の見回りに去ると、才人は御者台に背中を預けて寝る体勢に入り、ルイズもチョコンとマントを閉じて才人に寄り掛かって目を閉じる
才人はガンダールヴの補給、ルイズは精神力と魔力の維持と回復だ
戦力として、いざという時に備える。ミスゼロは、現在補給部隊の護衛の要と言う事を理解した行為である

*  *  *
一旦退却した鉄騎兵連隊の中でワルドは非常に難しい顔をしている。部隊は愛馬の傷を癒す為に、積極的に魔法とポーションが使われている。自身も幻獣騎兵のワルドはグリフォンから降りて眺めている。止める事は出来ない。騎兵が騎馬を失う痛みは自分が一番知っている。しかも、彼らの指揮権はワルドに無い
トリスタニア侵略戦失敗の責任を取り、ワルドは指揮官職を自ら降り、連隊長のジョン=ハムデンが総指揮を執っている
だが、ハムデン側からは客員将軍として扱われていて、意見は尊重されている。トリステインの内情を知るには、やはりトリステイン人が一番だからだ
「ハムデン殿、向こうに凄腕が一人、例の黒髪の男が確認されました。波状攻撃したい所ですが」
「ワルド殿も分るであろう。この状態では無理だ。500メイルから狙撃されるのでは、何人死ぬか解ったものではない」
「…ならば、動ける者だけ貸して頂きたい。奴を私が抑えれば襲撃出来る筈だ」
補給線破壊はアルビオンに於ける最大の作戦案件である。鉄騎兵が投入されてるのは、一番成功率が高いからに他ならない。その言葉に、暫し考え込んだハムデンは頷き、注文を付けた
「良いだろう。50騎貸す。私掠を諦め、物資の破壊に専念。一撃離脱のみ許可、深追い厳禁、部下を無駄に死なせるな」「イエス・サー」
ワルドの敬礼に返礼し、ワルドがフーケを伴って去って行き、動ける者を中心に編制してるのをしてるのを見ていると、部下が声を掛けてきた
「宜しいですか?」「構わん。確かに奴の言う通り、あの男の排除はあらゆる作戦の成否に関係して来る。お前も自身が参加してる任務が、悉くたった一人に邪魔されたら、ああなるだろうよ」
「…そうですね」部下はそう言っただけだった
一方、ワルドに付き従ったフーケは不満たらたらだ、少々やつれていて、げんなりと言った状態である
「そりゃあさ、ここら辺はあたしの庭も同然だけど、森の中に騎馬が走れる街道作れとか、斥候に走れとか、あんたちょっと人使い荒過ぎじゃない?」
ワルドに不平たらたらにするが、ワルドも負けてない
「高い給料貰ってるなら、今が働き時だ」「給料、先月から未払いなんだけど…」
「私もそうだ。なら、これやる」ワルドの懐から出されたのは、政府発行の支払い約束手形、通称軍票だ。給料代わりに発行されてるものである
「要らないよ、そんなもん。あたいも持ってるし、換金すると商人連中7掛けとか吹っかけて来るんだよ?ふざけんじゃないわよ」「銀行に持って行け」
「銀行だって8掛けじゃないか!なんであんなにあった資金が無くなってんのよ?」「知るか」
デフレが極まり、市場から現金が無くなると、約束手形を発行する。手形で手形を回す段階は、貨幣経済の最終段階に突入である。先に有るのはデフォルト(債務不履行)か悪性インフレ(スタグフレーション含む)、最終的にはハイパーインフレ(年13000%以上のインフレ)だ。ちなみに、日本は江戸時代以降、ハイパーインフレは第二次大戦敗戦時含めて、一度も無い
インフレは金の総量が一定である為、金本位では起きにくいと言われてるが、欧州諸国や江戸幕府自体、改鋳により何度もコントロールしている。実際には起きえる事態だ
経済封鎖した上で、わざと高値で物資を売りつけ、資金を抜く。トリステインの通貨攻撃は、暗鬱な空気を白の国にもたらしていた
貨幣流通が滞るのは、大丈夫なのかこの国と、全員が実感出来る異常事態。解決手段は勝つ以外に無い。軍人が腹を括らねば、誰も説得出来はしないのだ
現在の異常事態を引き起こしたのはガリアだと云う事に、アルビオンはおろか、トリステインすら気付いていなかった。そう、トリステインに便乗したガリアの息が掛かった商人達が、高値でアルビオンの資金を抜いていたからこそ、こうも上手く攻撃が嵌ったのだ
話は戻り、フーケがワルドの手形をワルドの胸に押し返し、ワルドは感慨も無くしまう
「で、行くのかい?アイツとはやらないって契約だよ?」「分かってる。ゴーレムで牽制出来るか?」
「無理だね。散々魔力使わされてるんだ。もう空っぽだよ」魔力の無いフーケは、只の佳い女だ。戦場を連れ歩くのは危険である
「戻って来たら、連中を労ってくれ。出る」ワルドはそう言って、部隊を引き連れて出撃して行った

*  *  *
風は冷たく、しかも、大陸が移動するせいで、常に吹いている
才人はルイズお手製のセーターに袖を通し、ルイズの首には、シエスタが編んだマフラーが巻かれている
あの事件後にシエスタがお礼に編んでくれたもので、防寒に疎いルイズには、大変有り難い
なんせ、地上3000メイルの冬の厳しさを完全に舐めてたからだ。富士山の頂上で、常に風に吹かれながら戦うと思えば話は早い。それでも才人から見ると非常に薄着なのだが、白人系は寒さに非常に強い為、ハルケギニアに住まう者達も、寒さに強いのかも知れない
事実、ロシア人は日本の冬をTシャツ一枚で過ごせたりするらしい
そんなこんなでぱかぱか移動していると、特に何事も無くサウスゴータに着きそうで、部隊の雰囲気は非常に明るい
「いや、あの兄ちゃんのお陰で、無事着きそうだな」「本人寝てるぜ。いい気なもんだな」「全くだ。こちとら、物資届けるまで気が気じゃ無いっての」
ぶちぶち文句言ってる他の護衛に噛み付いたのは、レイナールだ
「一仕事したんだから構わないだろ?寝てるのだって、あの二人には仕事なんだよ。僕達メイジは、寝ると精神力と魔力が回復するんだ。また来たら全開で戦える様にしてるんだから、あからさまに言わないでくれよ」「へぇへぇ、お貴族様には敵いませんね」
レイナールは平民の揶揄に晒され続けた事は今回が初めてだ
只でさえ、補給部隊が何度も襲撃され、仲間を喪ってるのにそれは無いだろっと言いたい所だが、平民兵の被害は洒落にならない状態で、多少の皮肉は我慢するべきと黙っている
実際襲撃されたら、平民も貴族も関係無く死ぬ。彼らは死ぬ時だけは平等だ
「くっそ、平民達がこんなに使い辛いだなんて。やっぱ、若いせいで舐められてんのかなぁ?」
そんな時、哨戒当たっていた竜騎士に三騎の竜騎士が接近し、魔法で撃墜されたのを、竜の墜落でやっとレイナール達が気付き、警戒の声が上がる
「竜騎士が撃墜された。畜生、前線の哨戒ライン抜けられたのか?来るぞ!」「冗談じゃねぇよ、飯マズ野郎共め」
口々に悪態を吐きながらガチャガチャと装備を帯びる音が鳴り、襲撃の報が部隊に轟き、才人達が襲撃の声に目を覚まし、手近の者に規模を聞く
「相手は?」「竜騎士三騎、あそこだ!」指を指されて上空を睨んだ才人は、すかさず03式を取り出してルーンが輝き、狙いを定める
「くっそ、飛んでる竜騎士狙いはやった事ねえ」「相棒、弾は?」デルフが聞くので答える
「頼んでるがサボってるせいでまだ届いてない。赤弾20、緑弾72」「厳しいやね」「全くだ」
デルフが先に指示を飛ばす
「相棒、竜騎士が攻撃コースに乗った時が狙撃ラインだ。解ってるな?やる事はゼロ戦の時と変わらねえ」「わぁってるよ」
スコープを覗きながら才人は突入コースに乗った竜騎士に狙いを定め、引き金を引く
ダアァン
弾頭が赤熱したせいで射線が見え、竜騎士から狙いが逸れていく
「くっそ、当たらねぇ!」遠距離狙撃に於いて考慮しなきゃならない要素は、重力、風力、コリオリ力、更にアルビオンでは大地の公転力が加わる。幾らガンダールヴとはいえ、そう簡単に当たるモノではない
才人は吐き捨てながら次弾を装填し、続けて撃った
ダアァン
竜騎士から見たそれは、マズルフラッシュの光が見えるだけで、竜騎士達は侮蔑の笑みを隠さない
「馬鹿め、この距離で当たるか」竜騎士はニヤリとしながらも、少々早めに詠唱を開始し、生意気な狙撃者に、真の狙撃を見せてやろうとし、手信号で伝える為に僚騎を見たら居る筈のポジションに居ない
「一体どうした?」まさかと思っていたら自身の乗騎も項垂れ、そのまま墜落軌道を取り、必死に立て直すがうんともすんとも言わない
「馬鹿な…狙撃されたと言うのか?」
竜騎士が脱出するのを見ながら、才人は全く気を弛めない
「後一騎!」ガチンと撃鉄を起こし引き金を引く
ダアァン
また外れ、外れる度に距離が接近し、才人の身体にぞわっと戦慄が走る
「相棒、ちゃんと狙え!」「やってるわ!」
排莢しながら悪態を吐きつつ、ガチンと銃身をセットして狙いを定めると、才人の耳に詠唱が聞こえて来た
「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ」才人の隣では、御者台に立ったルイズが魔力で髪を逆立てつつ、マントをはだけて杖を持った手を滑らかに動かし、彫像の如く超然と屹立している
詠唱を聞いた瞬間に、才人の集中力が回復し、スコープを覗く目に冷静さが戻る
目の前の竜騎士が相次ぐ僚騎の撃墜にも回避行動を取らず、攻撃行動を取る姿は感服するしかない。回避行動を取ったら、相手に与えた圧力がおじゃんになるからだ
急降下した竜騎士の射程に入り、マジックミサイルが放たれると同時に、才人の03式も火を噴いた
ダアァン
竜がブレスの準備をしていた所に弾丸が吸い込まれ、咽の可燃物を貫いて頭部が爆発する
が、巨体はそのまま才人達に向かって落ちて行き、流石に才人03式を手放し、デルフを抜きながらルイズの前に出た時、眼を閉じてたルイズの目が見開き、杖を振り上げながら途中で詠唱を切り上げたのだ
「オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド!」
墜落して来る竜の直下で光と同時に爆発が起き、竜の巨体が空中でバウンドし、補給隊を飛び越えてあらぬ方向に墜ち、腹部は抉れて内臓が飛び出している
才人とルイズは結末を見て、才人はデルフを杖に腰を落とし、ルイズは凛と立っていた
流石はご主人様である。いざという時の胆の据わり具合は、正にヴァリエールの正統後継者と言える
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ。いや、当たんねぇから、もう死ぬかと」「おう。流石に今回は俺っちも、諸共お陀仏かと思ったわ」
周りが歓声を上げる中、二人して感想を言い合い、ルイズにが腰を落とさないのに感心して声を掛ける
「流石ルイズだな。全然平気かよ。やっぱ、マイロードは違うね」「ヒュウヒュウ。嬢ちゃん見直したぜ」
そんな才人達に向けた目は、思い切り涙が溜まっていて、才人達は呆気にとられる
「う……動けないの」良く見ると、身体がぷるぷる震えていて、脚はガタガタ震えている
「目を開けたら、墜落して来る竜騎士が居るんだもん」
ぷっとしてから才人が促そうとした時である
「才人!」
警戒の声に気付いた時には手遅れだった。ルイズの背後にワルドが迫り、レイピアをルイズに突立て様とした所に、ワルドに炎の矢が襲い掛かり、ワルドは飛び退いた
「ナイスだ、レイナール!」才人が跳躍して、ワルドに飛び掛かりながらデルフを叩きつけてると、騎馬に乗ったレイナールが大汗を掻きながら、ルイズの安否を確認し安堵の息を吐いている
「良かったルイズ、無事だったか」「ありがと。助かったわ」
「二人共、まだ終わってない!二次攻撃だ」
レイナールの声にルイズは顔を引き締め、才人はワルドと睨み合いながら部隊の後方に向けて疾走していた
「ワルド!毎回邪魔すんな!」「邪魔してるのはお前だ!」
キイン、ギィン
風使いの風を纏った疾走とガンダールヴの人外の疾走が、補給部隊を障害物として剣劇が交わされ、あちこちで金属の響きが轟く
「させねぇよ!」「馬鹿め!」ワルドがニヤリと笑ったのを、才人はすかさず頭を巡らし、自身の失態に気付く
「てめぇ、分身か?」ワルドの笑みが深くなり、デルフが大声を上げたのだ
「誰か嬢ちゃんに連絡しろ!デカいのが来るぞ〜〜〜!」
デルフの怒声に走り去ろうとした騎兵の首が落ち、才人が正面に見据えたワルドの他に、もう一人のワルドが杖を向けていた
「ったく、風使いってのは反則だ」才人が吐き捨てると、ワルドも吐き捨てる
「貴様が言うな!」声には本気で嫌そうな感情が滲んでおり、才人は思わず口を苦笑いの形に歪めてしまう
そして、才人から動いた、目指すは引き離されたルイズの元である。周りでは、鉄騎兵が魔法を撃ちながら補給隊の横合いから駆け抜けている
勿論そんな事は百も承知のワルドが、行かせずと妨害をし、才人は形振り構ってはいられない
デルフで袈裟懸けに打ち下ろし、ワルドが風で逸らせると、デルフを地面に叩き付け、めり込ませる。と、デルフを離し懐に手を入れ、半身になった身体で左足で地面を思い切り蹴りつつ懐からナイフを取り出し、フェンシングの突きの要領で一気に突き入れる
円の攻撃から点の攻撃に虚を突かれたワルドは、ガンダールヴの反応に対応出来ず、ナイフに喉を貫かれる
「ゴボッ」声に血の音を滲ませつつ消えていくのを見ずに、才人は次の行動に出た。左手が懐に既に忍び込んでおり、投擲したナイフは風を切ってワルドに向かい、自身はデルフを拾うと一気に駆け抜け出した
「くっくっくっ、もう遅い」エアシールドでナイフを払ったワルドは、追う事を
せずに才人の行動を薄ら笑っていた

*  *  *
一方、ルイズは才人が離れた中、レイナールの支援でディスペルを連発して、物資に攻撃を専念する鉄騎兵から補給隊を守っている
「ルイズ、危ない!総員ルイズを援護だ!」
レイナールの指示が飛び、ルイズの周囲に騎兵が散開して弓と銃で応戦しているが、シールドに阻まれ、有効打が出ていない。鉄騎兵はそのまま駆け抜けて行き、騎兵射撃による一撃旋回離脱のカラコールを行いつつあった
「カラコールだ!奴ら腐抜けやがった!」「全身鎧は伊達かよ、へたれ共!」
カラコールは、きちんと行えば有効な一撃離脱なのだが、戦術的には役立たずと言われている。理由は単純、命が惜しいのでキチンと狙わずに旋回離脱してしまうのが通例になってしまっている。どんな魔法も射撃も、当たらなければどうと言う事は無い
相手が離脱するのを挑発しながら見送りつつ、全員が安堵の息を吐いて居た時、ルイズも安堵の息を吐いている
先程から短詠唱のディスペルを連発してヘロヘロなのだ。周囲の歓声にぺたんと座り込むルイズ「…終わったの?」
だが、終わっていなかった。補給部隊の先頭では、グリフォンに乗ったワルドと、徒歩のワルドが二人おり、徒歩のワルドが杖を重ねて掲げ、一気に振り下ろす
「終わりだ、ゼロの使い魔!」
真なる風の六乗の風が雷に切り替わり、杖から周囲に拡大し、帯電していく様は、正に『閃光』、ワルドの二つ名に相応しい、真なる閃光が出現する
雷電にやっと気付いた部隊は、全員顔が真っ青だ
「駄目だ相棒、間に合わねえ!」「クソッタレ!イル・ウォータル・デル・パース・ウィアド(水よ、代償を以て潜在能力を引き出せ)」
デルフを右肩に乗せながら走っていた才人は、閃光が拡大していく様を間に合わないと見るや、村雨に左手を添えて瞬動を唱え、ガンダールヴに更に力を乗せ、一陣の風になる
閃光が迸る中全員が戦死を覚悟したが、閃光が有るのに何も被害がない。「…どういう事だ?」
皆が眩しさに目を細める中、閃光の中に人影が一人、剣を掲げて防いでいたのである
「誰か防いでるぞ」呟いた声は、閃光のせいで空気が破裂し轟音が轟く音にかき消され、、次々に指を指す仕草でルイズも気付いた。使い魔が命を賭けて防いでいる。その瞬間ルイズが沸騰して髪が逆立ち、立ち上がりつつ杖を振るい始めたのだ
使い魔は、ルイズの為に立ち塞がる絶対の盾と化したのだ
「ウル・スリサーズ・アンスール・ケン」
求めるのは自身の使い魔の安全
「ギョーフー・ニィド・ナウシズ」
導かれる様に唱え、杖が閃光に向けてゆらゆら向き、ルイズは思いのままに紡ぐ
「エイワズ・ヤラ・ユル・エオー・イース」
ルイズの小さな身体に魔力が廻り、行き先を求めて杖に集まり、ルイズは求めるままに魔力を導いた
ディスペルの柔らかい光がサイトと閃光を包み、閃光が解除されて風に戻って行く
雷の影響を受けて、才人の皮膚が露出している部分には火傷が走っていたが、それでも立っていた
遠目で見たワルドは自身の偏在を解除した上で、グリフォンの踵を返して去って行く
「まあ、いい。消耗を誘えただけで良しとするか」

*  *  *
「…ぼう」「…まだだ、まだ…持つ」「あいぼう!!」「……んあ?」
立ったまま意識が飛んでたらしく、才人は返事が遅れ、デルフがやっと気付いた才人に歓声を上げる
「やっぱり相棒はトンでもねぇな、おい」「…悪い、もう、動けねぇ」
才人がその場で前のめりに崩れ落ちたのを、助かった部隊員が拾い上げた
ルイズは、閃光が収まったのを確認すると、才人と同じ様に崩れ落ちたのだが、才人の使い魔としての過保護ぶりを知ってるレイナールが、念力で受け止める
「やっば、ルイズが他の男に触れたと知れたら、才人に殺される」
レイナールはぞおっとしながら、息をつく
「隊長殿、こちらのミスは?」「ルイズは触っちゃ駄目。触ったのばれたら、僕ら全員才人に殺されるよ」
「あの兄ちゃん、そんなに危険なんで?」「うん、せっかく助かった命捨てたいなら任せるよ。僕は命令違反より、怒った才人の方が怖いんだ」
今の活躍を見てた兵は身震いし、敬礼して持ち場に戻って行った

*  *  *


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