XX1-814
Last-modified: 2017-11-05 (日) 19:16:12 (2356d)
『すごいすごいすごい!サイト、わたしの事怖がらなかった。こんな人初めて』
そう思いながら自分の部屋に飛び込んだテファは、才人の装備品を持ち出そうとがちゃがちゃやっている
テファの部屋に置いてるのは、デルフにどれもこれも危険すぎるから子供の手の届かない所に置いてくれと厳命されたからだ
納屋に入れたらいたずらに持ち出される恐れがあり、自分の部屋なら鍵が掛けられるからだ
装備を一つ一つ調べる。ズボンのポケットにたまたま残っていた曲がった金貨、変な望遠鏡が付いた使い込まれた痕のある長銃、変な形の弦が切れて跳ねてる弓、グリップに焼け焦げた痕のある短銃、20発も無い変な形の弾薬、見た事無い装飾が柄に施されてるが既に装飾もボロボロの曲がった剣、中には柄に弾痕まである切れ味の鋭そうなナイフ複数、原型を留めていない堅い服。痛んでる高そうな革のベルト、長物武器を背負う為の収納ラック付きのやはり高そうな革の肩ベルト、だが、ダメージを受けててあちこち切れそうになっている。くたびれて表面にひびの入った牛革製の短銃用のベルト用ホルスター。ベルト用の凹んだ傷だらけの薄い鉄の弾薬入れ、矢を使い切った裂けた部分も有る傷だらけの矢筒。既に擦り切れて、切れてる部分も有る擦り切れて寿命の来た革手。全てがぼろぼろの衣服の中、指先に穴は開いてるが奇跡的に無事な靴下。ブーツは彼の部屋だ
「こんなに沢山持ち歩いてる人も初めてだなぁ」
テファには牛革以外道具の区別が出来ないので、ほうとかう〜んとか唸る事しか出来ない
「なんでわたし、さっきは起きてからすぐに離れなかったんだろ?」
革を鼻に持って行ってつい匂いを嗅ぐと、革の匂いに彼の匂いが染みついてるのが判り、耳の先端が垂れ下がっていく
「えへへ、いい匂い」
ぼうっとしながら彼の胸で嗅いだ匂いを思い出す。正直、ずっと嗅いで居たかった。浸ってるとはっと我に返って耳がピンと跳ね、きょろきょろと辺りを見回す
「あ、そうだ、装備返さなきゃ」
いっぺんには持って行けないので、とりあえず銃と弾薬、曲がった剣を抱えて部屋を出た。鞘を持つように剣に言われてるので、理由は解らないが守っている
パタンと扉を閉めて廊下を歩いていると、子供達の歓声が聞こえて来る
<きゃははははははははは>
歓声の方角がどうも変だ「あれ?まさか…」
急いで小走りになりながら彼の部屋の扉を開けると子供達が勢揃いで、病み上がりの才人に乗っかったり、才人にくすぐられてけらけら笑ってる光景が繰り広げられていた
「生意気な事言う奴はこうだ!」「きゃははははサイト兄ちゃんヤメテ!?笑い死ぬぅぅうぅぅ」
『えっと、わたし、浸ってた時間思ったより長かったの?』
はい、その通りです。テファは呆然と目の前の光景を眺めていて、はっと我に返る
「ちょっとアナタ達、サイトは病み上がりなんだからそんな事しちゃ駄目でしょ!」
テファが窘めると
「いいんだもん。テファ姉ちゃんもやってたから、やっていいんだもん」そう言って女のコがべっとテファに舌を出す
「あう」テファが固まり、もうどびっくりだ
「テファ姉ちゃんが大声あげたから皆で見に来たんだよ。ほら、何時もだと大変だろ?」
毛布を下半身に掛けてベッドに起きているサイトの上でそう言って少年がくすぐられた姿勢のまま答えると、テファも思わず頷いてしまう「うん。そだね」
「皆で窓からカーテンずらして覗いたんだよね。そしたらさ」「えっちなことしてた!」
ずびしっと女のコに指を指されて更に「「「えっちなことしてた!!!」」」
他の子供達に迄同じ事を言われてしまい「あうあうあうあう」返事も出来ずにどもってしまうテファ
才人はその姿を見て苦笑していて、助けになりそうにない
「サ、サイト。わ、わたし、えっちな事してないよね?ね?」縋り付く様な目を才人に向けるが、才人は
「テファ姉ちゃんはえっちだね」「おう、えっちだな。俺っちもそう思うぜ」「「「やっぱりえっちだぁ〜〜〜!!」」」皆で悪ノリである
皆でけらけら笑ってるので怒るに怒れず、恥ずかしさに顔が真っ赤に染まって行くテファ
「そこの坊主なんてすげえぞ。テファ姉ちゃんは僕のだぞって相棒に喧嘩売ってぶっ叩こうとしたら、とっ捕まって今の状態になるまでくすぐり喰らってなあ。それ見て皆大笑いよ」
からから笑うデルフに子供達も一緒に笑っている。誰にも懐かなかった子供達がこうも簡単に馴染んだ事にテファはとにかく驚いた
「相棒はがきんちょキラーだぜ?相棒に手懐けられねえがきんちょは居ねえよ」
そう言って、デルフが自慢げに話すのをテファはびっくりしたまま頷けずにいると、才人が持って来た物に視線を移し、子供達に言ったのだ
「悪い、ちび達はちょっと出ててくれないか。やんなきゃいけない事が有るんだ」
「え〜やだ。もっと遊んでぇ」「終わったらな。それなら良いか?」そう言って、皆を見回すと全員不満気だ「ホントだよ?約束だよ?」「あぁ、約束だ」
「しょうがないな。いくぞ皆、テファ姉ちゃんがエッチな事したいんだって」「「「は〜い」」」「ちょっ違っ、あう」
テファが否定するにも関わらず、ぶすっと新しい遊び相手が出来たのをテファに取られるのを幼い子ほど顔に出し、テファにべっと舌を出してから出て行った
出て行く様を見送ってから、テファは才人にジト目で抗議する
「もう、サイト悪乗りし過ぎ」「いや、ゴメンゴメン。ちょっと頼み有るんだけど聞いてくれる?」「…どうしよっかな」
耳がぴこぴこして感情の起伏に反応しているらしく、才人も気付いて指摘する「もしかして、耳が感情で動くの?」「え?うん、自分では動かせないんだけどね、だから嘘とか苦手なの。すぐばれちゃう。お母さんは自分で動かせたけど、普段は動かさなかったし」
そう言って、自分の耳を摘まもうとして両手に荷物抱えてるのに気付いてベッド迄歩いてどさりとベッドに放り出した。先程の軽い腹いせである
人間にも耳を動かせるのは居るので、才人はテファの回答に納得し、ぞんざいに扱われた道具にちょっと苦言を呈そうとしたが黙る事にし、もう一度両手を合わせて拝んで頼み込む
「いや、今の状態じゃないと駄目なんだ。頼むよ」「ふうん?」
手を後ろ手に組んで上体を軽く倒し、顔を才人の顔に近づけるテファ。耳がぴこぴこ動き、目と表情は何か思いついたような顔だ
才人からは素晴らしい魅惑の谷間が見えている。テファは視線に気付いたが、口が何かを言おうとして少し戦慄き、唇が渇いてるのに気付いて舌で軽く湿らせる。才人には獲物の前で舌舐めずりする肉食獣に見えた。ハルケギニアで学んだ事は、美女や美少女と呼ばれる女は、自身の魅力を武器にするのに躊躇いを感じない事だ『コイツは…多分マズイ』
才人がそう思ってると、テファがきゅっと息を飲むのが見え、何か決意したようにみえ、そのまま喋り出した「サイト」「うん?」「わたし、怖くない?」「…?いや、全然」
そこまで回答を得ると、覗き込みの姿勢からくるりと反転し、耳がピンと跳ねつつガッツポーズをしてるのが見える。『あぁ、裏表出来ないから気にしないのか』若しくはそこまで考えてないか、両方か、またくるりと振り返って両手を後ろ手に回して、胸を強調…と思ったが、単に胸が邪魔で前で腕を組むのが大変なんだなと、才人は気が付いた
「サイトのね、頼みなんだけど」「うん?」「わたしのね、頼みをね、一つ聞いてくれたら、わたしも頼み聞いてあげる。それならおあいこだから良いでしょ?」「そうだな。良いよ、どんな頼み?」「んっと、サイトはお友達とかいる?」才人はそこで彼女が何を言いたいか大体予想出来た。そして、自分には唾棄すべき事をお願いしようとしている
「友達か…その言葉は正確に答えたいけど良いか?」「?うん」テファは、はてなを出しながら頷いたので、才人は答えた
「俺は友達と言う言葉には薄っぺらさしか感じないから嫌いだ。友達と呼べる人間は居ない」
テファは回答に絶句するが、才人はそのまま言葉を紡ぐ「だけど、仕事仲間とかはいる。俺にとって、仕事仲間は友達より貴重だ。よって、友達は必要ない。仕事ばっかで、遊ぶ時間も取れなかったしな」「…えっと、そう…なんだ」
あからさまにしゅんとなり、耳も垂れ下がるテファ。そんなテファに更に才人は言葉を紡いだ
「でも、仲よくする事自体は構わないし、恐らく彼女の子供であろう君の事を頼まれてもいるし、故人が化けて出ない様にはしたいと思ってる」才人の言葉にテファの耳がむくりと起き上がる「えっと、それって?」「こんな俺で良ければ、先程言おうとしてた事を言葉を変えて言ってくれれば良いかな」
「…なんか面倒くさい」「友達には嫌な思い出しか無いんだ」「そっかって、なんでわたしが言おうとしてた事が判ったの?」
テファが多少驚いたみたいで聞いて来るので、才人は「おっさんですから、年の功って奴」「むう……お友達を使わなきゃ良いんだよね?」「ああ」
テファはちょっと考えてから、んっとまた息を込めて耳が跳ねる。本当に判り易い。本人の言う通り、嘘など付けそうにない
「わたしと、仲よくして下さい。出来れば、ずっと」「良いよ、宜しく」
才人が答えた瞬間、テファが才人の頭に抱き付き、きゃあ〜と嬉しい悲鳴をあげたのだ
その麗しい胸に埋もれ才人は悲鳴を上げたいのを必死に我慢する。子供達と遊んでた時もそうだったが、実は痛みなど全く引いていない。寧ろ酷くなってきている。だが、この状態こそが必要なのだ
「テファ、俺の頼みは」「嬉しい〜〜〜〜!!サイトこれからずっとよろしくね!」胸の谷間でくぐもってしまい、きちんと伝わらない様だ。嬉しいがちょっと困る。対処は1乳を揉む2尻を揉む3無理やりひっぺがす。先程と違い、体力があまり残って無いので3はぺけ。胸ばかり視線が集まるが、実は太ももとお尻もパーフェクトなので、色々イタズラしたいのを我慢しなきゃならない程だ。判り易くする為に、敢えて1で逝く事にする。右手で軽く触れる様に左の乳に触り、乳首を指先で探し、こねこねさわさわ。思わずビクンとするテファ、そのまま顔が真っ赤になりながら耳が跳ねた後に垂れ下がって行き、眼が細くなって呼吸が少しずつ早くなっていく
「サイト…何を…」「俺のお願いは?」「あ、そっかごめんなさい」
やっと才人が解放され、離れたテファは真っ赤になりながら才人と今揉まれた胸を交互に見て更に赤くなっている
テファが口を開く前に、才人が口を開いた。さっさと終わらせたいからだ
「悪いけど、デルフを抜いて俺に構えた状態で待機してくれ」「…え?剣さんを」「そう」
頼みを聞くと約束したので、言われた通りにデルフを受け取り、長い鞘を上手く抜けないので床に転がした状態で抜き、才人に向かってへっぴり腰で構えて向かい合った。テファの細腕にははっきり言って長さが仇になって重すぎて5分保ちそうにない
「サイト、剣さん重いよ。直ぐに限界来ちゃう」「頼むぜデルフ」「おうよ。嬢ちゃん、俺っちがやれって言ったら、その通りに動け、良いな」「わたしじゃ無理だと思う」
才人は直ぐに終わらせる為、すかさず村雨を手に取りベッドに腰掛けた状態でスラリと抜いたのだ。辺りに霧が舞い、テファが驚くが、腕がきつくてそれ所じゃない
「何だお前?ガンダールヴじゃなくなっても俺に付き合うのか。酔狂な奴だな、お前も」曲がった剣に才人が話しかけるのをテファは不思議そうに見て、デルフがテファに言ったのだ「もういいぞ嬢ちゃん。俺っちしまって大丈夫だ」「え?うん」
テファがデルフを鞘に収めていると、更に才人が剣に話しかけた
「悪いが、ガンダールヴじゃなくなった分、デルフ共々手を貸してくれるか?」答えは、腕だけでテファの目に留まらない素早い振りを才人が行い、そのままの速度で剣が鞘にチンと収まったのだ
「助かるよ、村雨丸」才人はそう言って、枕元に刀を置き、テファはデルフも渡す為に持って行き、才人が受け取り同じ様に立て掛けた
「サイト、そちらの剣さんも意思有るの?」「あぁ、気に入らねえ奴は皆殺しにする厄介な奴だよ。子供達にも触らせない様にしてくれ」「うん、判った」
* * *
テファが預かってた装備を返す為にまた部屋を出、戻って来たら才人に巻いてた包帯から滲んでるのが見える。起きてから直ぐに動いてしまった為に、体液やら血液が包帯に滲み出、テファは驚いて才人に本人としては非常にキツイ口調で叱りつける
「サイト!もう、傷が開いてるよ!!いきなり動いちゃ駄目じゃない!!」両手を腰に当ててぷんぷんしてるのだが、才人には全く効かず寧ろ微笑みまで浮かべられてしまい、ピンと跳ねた耳がまた不安げに垂れ下がり、途端に自身無さそうにしてしまう
「何で笑うの?わたし、変…かな?」「いや、全然。可愛いなって思っただけさ」
才人の言葉に顔を紅くしながら耳が起き上がり、才人は百面相に思わずくすっとしてしまう
『いやあ、初心だね。可愛いね。からかう積もり無いのに反応が一々可愛いのな』才人としては本当に他意が無いのに、ある意味困ったものだ
「あのね、テファ」「な、なに?」またテファの耳がピンと立ち、才人は彼女の過剰反応に困惑してしまう
「いっつも、そんな感じ?」「う、ううん。わたし見て怖がらなかった人、初めてだから、つい、緊張しちゃって」「あ、そうなんだ。じゃあ、早く慣れてくれるかな?」「う、うん。頑張るね」
慌てる様に首を振りながら両手まで使って胸の前で両手を開いて振る所作に内心呆れながら、頑張らなくても良い事に両手を握りしめながら、んっと息を詰めながら頑張ると答えた事に、暫くかかりそうだなと思った事は口にしないで置く事にし、初対面を終了する事にしたのだ
* * *
才人はその後、子供達の相手を約束通り行って、テファのややたれ目が精一杯吊り上げてもたれ目のまま才人と子供達にプンスカ怒ったが、子供達が誰もテファの言う事を聞いてくれず、才人が声を掛けたらあっさり聞いたのをブスッとしながら見て文句を言い、才人は笑って聞き流し、ぶつぶつ言いながら食事の準備の為に席を外し、才人も一人になった所でデルフに当時の事情を聴きだした
才人が腹に穴を開けられて死にながら敵将軍の腕と脚を貰った所迄は覚えているがそこで死に、意識が途切れてからの事だ
腹の穴を開けられた時点で既に身体は事切れていたのは自覚していて、腕が村雨を触れたのが才人の最後の行動だ。その後は村雨が身体を動かしてぶった切った後、倒れた
デルフに尋問したら、村雨と二振り掛かりで死体を動かし、西の方に走ったは良いが、木の陰で力尽きた所テファが面倒を見ていた女の子にたまたま見つかったとの事
以下当時の状況
「おい、相棒。まだ死ぬな。なぁ?俺っちに相棒のガキ見せてくれるんじゃ無かったのかよ?なぁ?誰か居ねぇのか?俺っちの相棒が死にそうなんだよ!誰か助けてくれよ。いや、実は死んでんだがね。でも先住ならまだ何とかなんだよ。誰かぁ、先住使いは居ませんかぁ?助けた礼は俺っちの相棒上げちゃう。何にでも使える、使い勝手の良い男だぜ?試しに使ってみませんかぁ?今なら俺っちも付いて更にお得度二倍ですわ、奥様」
森の木々に虚しくデルフの声は木霊した
「おくさまってだぁれ?剣がしゃべってる。おもしろ〜い」
ひょいと木の陰から出た影は、幼い女のコだった
「お、可愛い嬢ちゃん、良い所に来てくれた。俺っちの相棒助けてくんない?誰か大人に伝えてくんないかな?」「ん、いいよ〜。テファ姉ちゃん呼んで来るね」
こくりと頷くと走って去って行く幼女に願いを託し、一縷の望みをデルフは待った
すると、暫くしてから、デルフは大当たりを引いた、待ち望んだ先住使いのエルフの女性が現れたのだ
「…ってぇこった。悪運に恵まれてんな相棒」「…疫病神に憑かれてるとしか思えんわ」才人はうんざりしながら答えて、デルフはかんらかんら笑っている
「でさ、デルフ、お前、何か取引したりしてないだろうな?」「…」暫く返事が来なかったトラブルメーカーを猜疑の目でみる「…何言ってんだ相棒。俺っちが相棒の意思を尊重しないなんざありえねえだろ?な?」「…お前、前科何十犯よ?」「そんな昔のこたぁ忘れたね。細けぇ事気にしてっと禿げるぜ、相棒」「…あのな」
本来の調子が出まくってるデルフに、才人は追及を諦めた。惚けるデルフに詰め寄っても時間の無駄だからだ
「…それにしても、お前も身体動かせたのかよ」「俺っちの場合、ちぃっと条件がある。魔力が必要だが、無理すりゃ精神力でも動かせる。精神力切れのメイジはひっくり返るだろ?」「あぁ」「俺っちも精神力が切れるとひっくり返る。魔力無しは多用出来ねえ。気をつけろ」「普段は村雨頼りか」「そういうこった」「魔力ってのは?」才人は先住かメイジの魔力かを聞いたのはデルフにも分ったので、直ぐに回答する
「先住でもメイジでもどちらでも構わねえ。自身の生命力を基礎にしてるか、自然に散在するモノを使うかの違いでしかねぇからな」「なる、自然に散在してるから、ディテクトマジックでは反応しないのか。じゃあ、自然から魔力回収出来ないのか?」「圧縮された魔法っつう食い物ならともかく、薄い水じゃあな」「成程。判り易い例えだ」
才人はデルフの言葉に頷いた。今後の戦術に必要な情報なので、きっちり頭に詰め込むとテファが食事を持って来た
「サイト、ご飯持って来たね」「有り難う、頂き…?」
テファが歩いてベッドの他にある唯一の家具の机に盆を置き、椅子に座って木の匙でスープを掬い才人に差し出した
「はい、あ〜ん」彼女なりに心配してるのは分るので、好きにさせるかと判断し「…あ〜ン…」口に入ったスープにじゃりっと砂が入ってるのに驚き、更に不味さに思わず黙ってしまう。塩が全然足りないし、旨味が全く無く、スープなのにぼそぼそと言った表現が相応しいほどだ
「…テファ、砂利が入ってる」「え?上手く取ったと思ったんだけどな」
そう言ったテファにまさかと思って聞いてみる
「テファ、塩に砂混じってる?」「うん、お店の人が行程の都合で混じるって言ってたよ?そうなんでしょ?」「塩田なら、選り分けが悪いなら可能性は否定出来ないけど…」
塩田なら、確かに選り分けが悪ければ混じる。ハルケギニアなら混じっても気にしない可能性は高い。だが、最も高い可能性は、塩に砂を混ぜて水増しして売る事だ。日本ですら塩が安定供給される様になったのはここ100年で、専売が外れたのも1990年代になってからだ。塩は命であり、塩は生命線そのものだ。才人は塩はてっきり足りてる物だと思ってたし、国家専売だが統計でも足りてると発表書類上はなっていた。その辺は業務で消費量が多いし、慣れてるシエスタに一任してたが故に気付かなかった。今後、業務拡大と共に、深刻な問題になりかねない。と言うか、絶対になる。重工業に従事する人間は、全身から塩を吹く位大量に塩分を消費するのは才人自身が一番知ってるからだ。才人自身、夏場の最大補給量は一日100gは補給しても問題無い。他の人間なら絶対病気になる量を普通に消費するのが重工業の溶接士や製鉄、ボイラー機関士である。塩田の確保を選択肢に加える必要がある。純水確保にも使うし、需要は工業用含めてうなぎ上りになるのは確定事項だ
「今度の買い物俺も一緒に行くよ。いい?」「え?本当?嬉しい!一人だと大変だったんだ」
そう言いながら今度はパンをちぎって才人に食べさせた。才人はパンの不味さも何も言わずに良く噛みこんで飲み込んだ。此処はハルケギニア、日本の常識等通用しない。食えるだけましなのである
* * *
才人が殿軍で奮闘している間、本隊は民間人を先に輸送船団に載せ、港湾で最終防衛線を引き、装備放棄した前線部隊も順次進発させており、本隊をゼロ級最終便で引き上げる様にピストン輸送を行っていた。ロサイスが戦場になる予想は夕刻から夜だったが、幸い遅滞戦闘は成功したらしく、撤退の時間は稼げている
本日到着しないなら翌朝の総攻撃になるので、一切の気が抜けず、ずっと緊張していたが、結局翌日夜明け前の最終便出発までアルビオン軍は出現せず、思った以上に整然と撤退出来た事に総司令ウィンプフェン以下司令部の面々は胸を撫で下ろし、更に裏切った味方も見捨てて帰還の途に着いたのだ
そして、部隊報告書には、青くなる一文が乗せられていた
ド・ヴィヌイーユ独立銃歩兵大隊、イーヴァルディに殿軍を命じ、イーヴァルディの殿軍遂行を第3竜騎士隊隊長ジュリオが確認す
尚、この一文は司令部全員によって握り潰され、才人は撤退中行方不明と言う扱いになり、司令部は当座の女王の怒りを放り投げる事に成功したのだ。ばれたらどうする?軍から逃げれば良いだけだ。その為の時間稼ぎなのである
* * *
アンリエッタは、輸送艦に乗り換えせずにずっとオストラントに乗ってたが為に一番早く帰還したルイズを前に、謁見の間で杖をきつく握り締め、唇が戦慄いていて、報告に聞き間違えが有ると聞き返した
「ルイズ‥良く聞こえなかったわ。嫌だわ私、耳が遠くなってしまったみたい。もう一度仰って下さる?」「…ですから、サイトが殿を引き受け、民間人を護衛しつつ撤退しました」
「‥またそんな笑えない冗談だなんて、貴女も人が悪いのね」そう言って、黒の喪服とヴェールだった装いが、新年と言う事で何時もより豪華な白のドレスに身を包みながら、くすくす笑うアンリエッタ
右手に握った杖は軽く震えており、左手で扇子を口に当てて、笑いながら口元を隠す「嘘よ」短く言った声は、ルイズが、と言うより誰も聞いた事が無い混じり気無しの本音の声、聞いた事が有るのはあの男だけだ。ルイズには、アンリエッタの声が聞こえなかった
「ルイズ、貴女の冗談は本当に笑えないの。頼むから、本っ当の報告をお願い出来るかしら?」
「サイトが殿引き受けて帰って来てません」ルイズも無表情で、繰り返し同じ事を言うのみだ
「また、そんな事言って驚かす積もりでしょう?」「サイトが殿引き受けて帰って来てません」ルイズは無表情、アンリエッタも扇子の下で表情が固まる「‥」「サイトが殿引き受けて帰って来てません」「‥」「サイトが殿「もういいです。貴方も疲れたでしょう、戻って休みなさい」
ルイズは一応礼をしてから出て行き、アンリエッタが衛兵と共に残された
朝は新年で皆で戦勝祈願で昨夜から続いたパーティーだったのが、急報でこうなってしまった。きちんと休戦が続くなら現地入りも予定してたのに、全ておじゃんになってしまった
「あれだけやったのに、負け‥ですか」
お祭りの夢は終わってしまった。明日から残酷な現実の目覚めである。アンリエッタはゆっくり立ち上がり、強く握り締めた右手から、血が滲んでいるのに気が付いていなかった
「休みます、後はお願い」「解りました」
部屋に戻ってから、まだまだ才人の匂いが残るベッドにドレスを脱ぎ捨てて、そのままぼふんと飛び込み、彼の匂いが染みついた枕をぎゅっと抱えてぶつぶつ言い始めた
「大丈夫、まだ死んだと決まってない。まだ死んでない。あの人は死なない。大丈夫。凱旋して貴族になってくれる。私の、私だけのシュヴァリエになってくれる。大丈夫、死なない。だって、意地汚いもの。スケベだもの。貴方のスケベなお願い全部聞くのは私だけ。貴方が望むなら、皆の前でもお勤め果たすもの。私は、貴方の愛の奴隷だもの」
* * *