退廃と哀歓の休暇〈下〉(前編)  ボルボX氏

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 その窓のすぐ外には薔薇のしげみがあって、ひらいた夏の花が人の目を楽しませている。
 けれど西に面した書斎の窓辺にたたずむアンリエッタは、眼下の花壇を観賞しているわけではない。
 開いた窓の横わくに肩をあずけるようにもたれて、横向きに外に視線を向けてはいたが、その双眸は何を見るでもなくぼうっとたゆたっていた。

 女王の離宮滞在も半月を越している。

 予定ではそろそろ王宮に帰る準備をはじめるころだが、どうにもアンリエッタは身が入っていないようだった。
 書斎の机に置かれたティーカップでは、飲みかけた二杯目の茶が冷めてしまっている。

 休暇とはいえ仕事をしないわけではないが、午前中にちょっと決済が必要な書類を片づけてしまえば、あとは特に予定はない日だった。
 だからではあろうが、午後をつうじてアンリエッタがやったことといえば書斎でぼんやりしていただけである。
 いちおう、机についているときは棚から持ちだした図鑑を開いたりしていたが、それとてほとんど読んでいない。視線は文字の上をただすべるのみだった。
 ときおり今のように、急に立ってしばらく窓辺で外をながめたりしている。

 夕刻のはじめ、おちついた古色をかもし出す煉瓦の室内。
 トパーズ色の淡い陽光を浴びて、いつもの白いドレスのたたずまいが窓辺でほんのり浮きあがって見えていた。

 ぬるい風が一陣、髪を吹き散らして窓からふきこむ。
 紫のラシャのカーテンが動き、机では広げられた図鑑がぱたぱたとページをめくられる。
 クルミ材の机に置かれた、幾何学文様のある白磁のカップの中では、琥珀色の紅茶がちいさく波紋を起こす。
 壁には黒の額縁にはまったトロンプ・ルイユ(だまし絵風)の小さな絵画がかかっている。

 幻想的な空間となっている夕方の書斎のなかで、アンリエッタが何度目かのため息をついた。
 その頬は、夕陽のためだけでなくうす赤く染まっている。
 窓の下からたちのぼる薔薇の香に、つやめく息がふわりと混じる。

 心ここにあらずの主君からやや離れた場所にひかえ、用を言いつかるのを待つ召使や侍女たちのささやきには「最近、なんだかますますお美しくなられて」と感嘆が混じっている。
 それに気づくこともなく、アンリエッタはわずかにあえぎをもらし、左手で右のひじをきゅっとつかむ。
 寄せられる形になった乳房が、ドレス胸部を張りつめさせて盛りあがりを強調し、うるみをたたえた瞳が物憂く揺らめいた。
 切なさをこらえるように自分の体を片腕で抱きしめる少女は、たしかに離宮に来る前より色香が増しているようだった。

 連日、徹底的に「女」であることを刺激されている体は、より扇情的に成長してさえいる。
 元から柔らかな重みをたたえていた胸元は、最近ふっくらと量感を増してきたし、腰から形よい尻にかけての曲線も同様に張りだしている。
 ほかの箇所はやつれたのか肉が落ち、細腰のくびれなどは深まった感さえあるのに、女らしい部分はむっちりと豊麗に育っているのである。
 もともと華奢な少女の体ながら、それらの要所要所はじゅうぶんに出ていたが……この官能の日々のなかでさらに性的成熟が進み、女体のメリハリが以前より目立ちだしていた。

 くわえて本人は無自覚ながら、最近はその立ち居ふるまいの一つ一つが、周囲の召使いたちをもじもじさせている。
 新鮮な甘い香りで人を誘って、摘みとられるのを待つ若い花のような、白くも妖しい美しさ。それを周囲に感じさせているのだった。
 無垢な淫魔のごとき、透きとおった淫靡さがしたたっていた。

 彼女が着ているのはいつもと同じ白ドレスだが、いま歩けばいつもとは周囲の評価がちがうだろう。
 張りつめた胸や尻が、一歩ごとに体をひねるたびドレスの下で悩ましくうねり、隣り合った肉の双球がプリプリこすれてむにゅんと柔らかくゆがむ。
 その妖艶さに満ちた肉感的な情景を、すれちがった者に簡単に連想させて顔を赤らめさせてしまう少女が、今のアンリエッタなのである。

 彼女は公務のときは凛と張っていた雰囲気を、しどけなく弛緩させてしまっていた。
 桃色におぼろめく月、たとえるならそんなところだった。
 そんな艶麗そのもののたたずまいで、ぼんやり花壇を見下ろしていたアンリエッタだが、ぴくりと顔をあげた。
 視界のすみで、離宮の門が開いたのである。

 前庭のかなたにある鍛鉄の格子門が開き、荷物をかかえた黒髪の少年がそこをくぐりぬけてきた。
 彼は仲良くなった門の守衛となにか言葉を交わして笑いあい、手をふりながら後ろむきに石の敷きつめられた歩道を歩いてくる。

 その姿を見るや窓辺から離れ、ふらふらとした足取りで書斎から出て行ったアンリエッタの後ろでは、侍女たちが顔を見あわせている。

…………………………
………………
……

 その部屋の煉瓦の色は暗い赤。
 窓からの光をある程度さえぎっているのは朽葉色のカーテン、床には古いが清潔な毛氈。
 部屋の中央、やや窓寄りには革張りの肘かけ椅子がある。古風な様式の、茶色の年代ものだった。

 夕方の薄暗い室内、ドアのかたわらの壁によりかかりながら、少年と少女は唇を重ねている。

「ぁむ、ぅ……ぷぁ、姫さま……ちょっと落ち着いて」

 アンリエッタの頬を両手でつつんで離し、才人が苦笑いした。
 離宮の外での用事をすませて戻ってくると、廊下をいくらも行かないうちに一人きりの女王に出迎えられた。
 そのまま、すぐ近くにあったこの部屋に連れ込まれたのだった。

 才人の首に腕をまわして抱きつき、背伸びして唇を奪っていた少女が、押し殺した熱っぽい声で間近からささやく。

「大丈夫です、ちゃんとドアには鍵をかけましたもの……」

「いや、だからって急にこんな……」

 言いさしたところで、少女に下唇をちろりと舐められる。
 才人は黙った。口づけを要求するこの合図は、彼自身が教えたものだった。
 要求された側は、相手の唇と舌に奉仕しなければならない。
 ……一見してまどろっこしい手順だが、あいだに一幕おいて「相手からするよう要求する」形のキスは、有無をいわせず自分から奪うのとはまた別のおもむきがある。

 渇望がアンリエッタのうるんだ瞳の奥に秘められ、妖しいかがやきとなっている。
 魅入られたようについ目が離せず、才人はそろそろと顔を寄せていく。

 先ほどのキスで湿っていた柔らかな唇がふっくらと開き、少年の舌を受け入れた。
 少女は自分から要求した深いキスを与えられ、夢中になって応える。

「ちゅっ、んむぅ、ん、ん、サイト殿ぉ……はむ、はふ」

 蜂蜜漬けの甘い声。
 彼の胸板にたおやかな体をあずけ、唇を「奪って」もらう。
 合間合間に甘えきった声で何度も彼の名を呼び、才人に抱きしめられると情感のうずきに耐えかねて、頬を上気させて腕の中で身を震わせる。

 指一本分だけ唇がはなれる。
 あえぐ桜桃の唇を、今度は少女が舐められた。
 熱い息を唇と唇の間からときおりこぼしながら、アンリエッタは才人の首を抱く両の腕に力をこめ、背をそらす。
 また軽く背伸びして上向き、少年をふわりと引き寄せて積極的な口づけをしていく。

 白ドレスの下で張り詰めた双乳を、意識せず少年の胸板にすりつけるように押しつぶしたとたん、ひくんと乳首が勃ちはじめたのがわかった。
 同時にじゅわっと下腹部が熱くなり、切なく鼻を鳴らす。

 きつく抱きつくようにして、少年に当てた胸をむにゅっといっそう押し付けると、乳肉が甘悦の電流を流した。
 鼓動とともに、乳房といっしょに押しつぶされた乳首が、ドレス下でさらにヒクヒク勃っていく。
 少年のものか自分のものか、伝え合う鼓動がうるさく頭のなかにまで響いてくる。

 才人が少女の腰にまわしていた両手を、そろそろと少し下におろす。
 スカートの上からいきなり両の尻房をつかまれ、ぐいと上に引きあげるように引っ張られて、アンリエッタは思わず唇を離して真っ赤な顔で鳴いた。
 布地の上からでも指が沈むほど柔らかい、魅惑的な尻をわしづかみにされて揉みあげられる。

 男の手の感触に、脊髄をぞわりとしたものが駆け抜ける。
 反射的に服の下できゅっと桃尻の谷間を閉じると、陰唇も締まり、じわんとした新しい疼きを点火してくる。
 アンリエッタはとろんとした顔をうつむけ、才人に体の前面をぺたんとくっつけた。
 たった今まで外出していた少年の体臭を間近でかぐと、子宮が痺れた気がした。

 それに、才人のズボンの前面はとうに大きく盛り上がっている。それを下腹に感じた瞬間、はっきりと女の肉情が煮立った。
 発情の汗がアンリエッタの雪肌に噴く。体の淫熱が高まるのと比例して、理性が薄れていく。
 冬のオコジョのように優美な白ドレスの上体を、火照る双乳を押しこねまわすように、自分から妖艶にくねらせさえしてしまった。

 とたんに尻肉をもっと強くつかまれ、引き寄せられて腰の前面を完全に密着させられ、真っ赤な顔で「あうっ」と叫ぶ。
 少年のズボンの固い盛り上がりが、少女の柔らかい恥丘をぐにゅと圧してきていた。すっかり血管を浮かせてがちがちになっている男根が、裏側の幹を押しつけてくる。
 乳首に遅れて反応しかけていたクリトリスが、何枚もの布をへだてて肉棒に圧迫されると、腰がくだけかけた。

 前のめりに爪先立ちになって体重を才人にかけ、その首にすがる。
 頬を少年の肩に埋めながら瞳をとろかし、ゆるんだ唇をひきむすんで必死に声を殺す。

「んんぅ――……っ」

 誘う花のような少女の甘い香りにくらくらしそうになりながら、才人も興奮を強めていっている。
 腕のなかにあるアンリエッタの柔らかい女体が、尻をむにむにとこねるだけで艶めく息をはずませ、密着したままうちわななくのを感じる。そのたびに血が燃えるようだった。
 才人は、血の色を透かした少女の耳たぶに口を寄せ、呼気で愛撫するようにささやく。

「……また我慢できねーんだ?」

 アンリエッタが、甘い蜜をからめた怨嗟の声で返事する。

「放っておかれたからです、あなたのせいだわ、
 わたくしにあ、あれだけのことをしておいて、いきなり何もしなくなるから……わたくし、もう……」

「なーに言ってんだ。何もしてないってことはないだろ、そっちからおねだりしに来るしな」

 鼻で笑った才人が、すこし確かめるような声を出した。

「そのう、いま、シたい気分になったんですよね?」

「い、いまじゃ、ないわ……」

 きわめて小声で、熱に浮かされたようにつぶやく。
 聞き取れなかったらしく「え? なんか言いました?」と首をひねる才人にもたれて、千々に震える息をつく。
 いまどころか、夜毎に抱かれることがなくなったこの四日間ずっと。
 体が火照りっぱなしなのである。

 一昨日からは夢まで「あのこと」で埋め尽くされていた。文字どおりの淫夢で、才人に抱かれる夢である。それだけといえばそれだけなのだけれど、体の芯から切なくなるのだ。
 今までされたときの情景――嬲られるように抱かれるかと思えば、優しく扱われることもあった――がつぎつぎ現れて、快楽に溶けていく自分のすすり泣きや甘い叫びも生々しい。
 そのせいで昨日の朝も今朝もアンリエッタは、目が覚めたときベッドの上で胎児のような格好に体をまるめて横たわり、閉じた太ももの間に両手を差し入れてしまっていた。
 薄手の夜着の上から恥丘下部をぐっと押さえ、ネグリジェの前をお漏らししたように愛液で濡らしてしまっているのである。


 思い返して恥ずかしさに目を閉じ、羞恥を忘れようとするかのようにますます強く少年に体を押し付ける。
 こんな状態は明らかにおかしい。それは自分でもわかっている。

 それでも「あのこと」しか考えられない。理性が情欲に席をゆずってしまっている。
 アンリエッタは発情の色に瞳をうっとり溶かし、才人の耳たぶを桜色の唇にくわえて、ねぶるように愛撫した。
 ひゃ、と少年がくすぐったそうな声をあげている。
 その耳を甘噛みしてくいくい引っ張り、押しつける心音を高まっていく興奮でどんどん速めながら、恨みがましい声で問う。

「毎晩あれだけしていたのに、なんでいまさら……この前まで無理やりしてきたではありませんか」

 才人が、少女の腰のなめらかな曲線を愛しむような手つきで撫でながら、笑い未満の意地悪げな表情を浮かべて白々しく答える。

「それですよ。ついこの前まで無茶しちゃってましたから。
 反省して、このへんで少しつつしむべきかなと」

「うそつき……そんなの信じられるわけがないでしょう……」

 すねた声にかまわず、才人が少女の腰にまわしていた腕をほどき、体を離した。
 とまどうアンリエッタに、彼は命令した。

「――後ろを向いて。スカートを自分で広げて」

 少女はわずかにためらいながらも、言われるままに後ろを向く。ドレスのスカート部分を自分の手でつまみ、持ち上げるように開いて広げた。
 ドレスに隠されていた下半身の前面、白い下着とニーソックスにくるまれた肌があらわになる。

「こうでしょうか、……あっ……サ、サイト殿……」

 後ろからあらためて優美な肢体を抱かれる。
 ぎゅうっときつく抱きしめられ、肩越しに少年をふりむいた麗貌が、ご褒美をもらったように陶然となる。

 服ごしに勃起した男根が、こんどは桃尻の谷間に押し付けられるのを感じた。
 男そのものの熱さと硬さが伝わってきた気がして、無意識に少女の腰がくねる。
 ドレスの上から妖艶な丸みをみせる尻が、誘うように肉棒をこすりあげてしまう。

 前に回された才人の腕が動いた。
 すっ、と左手が、ドレス裾の深いスリットから差し入れられてきた。
 太ももに指を当てられ、つぅぅっと白のガーターベルトの横をなぞり上げられる。
 アンリエッタの首筋がぞわっとした。

 少年の指がミルク色の綺麗な肌をなぞりあげ、下着やガーターなど薄い布地の上を越えて、太ももからへその下まで移動してくる。
 その指が止まったのはすべやかな下腹の中央である。そこは下着の上端でもあった。
 指の当てられたアンリエッタの下腹に、細腰ごと微細に震えが走る。
 おびえと期待のこもった妖しいそのわななきは、子宮で起こり脊髄をかけのぼって全身に伝わっていく。

 が、予想に反して男の手はすぐには責めてこなかった。
 背中に密着した才人がふと、いったんまさぐる動きを中断して訊いてきたのである。

「だいたいさ。なんでわざわざこの部屋まで来たんです?」

 その問いにアンリエッタが答える間もなく、心得顔で才人がうなずいた。

「……ほんとはわかってるけどさ。『あれ』だろ?」

 後ろからアンリエッタの肩を抱きしめるように回されていた少年の手が、少女のあごの下に添えられて、ある方向に顔を向けさせる。
 「あれ」を目にさせられて、少女は恥じらいに呼吸を乱した。
 それは部屋の中央にある、古風な様式の肘かけ椅子である。

「昨日はそこの椅子の上で、アンのたまった欲求を優しくヌいてやったよな。
 ここに俺を連れ込めばまたしてもらえると思ったんだ?
 忘れられなかったわけね、気持ちよさそうだったもんなあ……」

 揶揄をこめた声。
 あごを持っていた手が上にすべってきた。剣ダコのあるやや硬い手が、そっと少女の頬をなでる。
 柔らかくなめらかな頬をごくごく繊細になであげられ、アンリエッタの唇から濡れたしめやかな息が漏れた。
 昨日乱れた、というのは事実である。
 とぎれとぎれの思考で言い訳をつむぐ。

(だ、だって、我慢できなかった、もの……)

 今のように、高まるばかりの淫情にこらえかねて、何度もためらったあとで才人の袖を引いたのである。
 そしてこの部屋で、指で「欲求の処理」をしてもらった。

 すぐそこにある肘かけ椅子に上がらされ、後ろ向きの膝立ちになって背もたれにしがみつく格好をとらされた。
 純白の果実のような尻を少年のほうに突き出し、ドレスの裾をまくりあげられ白い下着を引きおろされて、たっぷり指で蜜壺をなぐさめてもらった。

 肘かけ椅子の背もたれ――赤い上等の子牛革張り――を抱きしめ、アンリエッタは鳴き続けたのだった。
 こぼした官能の汗やよだれで、椅子の革に染みをつくっていないか後から心配になるくらいに。
 潮は何度も噴かされた。粘っこく蕩けて吸い付くように反応する蜜壺を、じっくりと指で刺激されつづけたのである。

 後ろに陣取った少年がいちいち「お豆の裏っかわのおま○こ壁、ほんとに反応いいですね。何度お潮ふいちゃってもかまわないからな、ほら、いっぱい噴いてスッキリしちまえ」のように呼びかけてくるのだった。
 こころえたもので才人は木綿のタオルを持ってきていた。
 背もたれにしがみついたアンリエッタがぶるぶると胴震いして絶頂の先触れを見せるたびに、尻を後ろに突き出すように言い、タオルを丸めて秘部にあてがってくれたのである。
 おかげで潮を漏らしても、すぐさま当てられたタオルに吸い取られて下にこぼれることはなかったし、内股を垂れ落ちる愛液をもふき取ったりと丹念に世話してくれたのだけれど……

 それがあるからこそ、いたたまれないほどの恥ずかしさと快楽の記憶がよみがえる。

 「お潮漏らしそうなときは言ってくれよ」とうながされながら、恥ずかしくヒクンと後方に桃尻を突き出させられ、ヒクつく尿道口のあたりにタオルをクシュクシュと押し付けられてすぐ上のクリトリスごと刺激される。
 熟れとろけてにゅるにゅるになった蜜壺をかき回されて、尿道の裏をなぞるように丁寧に掻かれていき、やがては指の動きに導かれるままタオルの中に潮を漏らしてしまうのである。
 その自分が拡散してしまうような快楽の時間のなかで、潮液とともに理性まで指で抜き取られていき、終わりのほうでは(いつものことだが)ひどい痴態をさらしていた。

 夢見心地で椅子の背を抱きながら、喜悦の涙の幕をはったうつろな瞳を肩ごしに才人に向けて、「またイクぅ、お漏らししながらイきますっ」と甘叫びで報告していた気がする。
 昼間にこちらから誘って、してもらっているという状況が背徳感を刺激し、アンリエッタは夢中になってしまったのだった。
 いつのまにかクリトリスの包皮まで指で剥きあげられていたのに、肉豆ごと尿道口周辺を押さえてくるタオルに自分から敏感な粘膜をすりつけさえしていた。
 もっともっととせがむように、腰を微妙にゆすって。

 ――けれど最後まで、挿入されることはなかった。
 快楽に疲れて椅子にへたりこみながら、「わたくしの淫らな体をなぐさめていただいてありがとうございました」ともつれた舌でお礼を言わされ、自分自身の愛液をべっとりからめた才人の指を口で清めさせられて終わり。
 くすぶる肉情の火種までは消してもらえず、夜にはまた救いようのないほどはしたない夢を見た。

「……さきほど言ったではありませんか、あなたのせいです……」

 ドレスをかたく握り締めて全身をふるふる震わせつつ、愛欲にうるんだ声で甘く責める。

「あんな毎晩いやらしいことをしておいて、いきなり、あ、相手してくれなくなるから……」

「ちょっと待てよ。
 ていうかさ、おま○こしてないっていっても、たったの四日じゃねえか。
 それに、ち○ぽ入れてないだけで、いろいろ可愛がってあげただろ。そっちが俺に奉仕させてたようなもんだよな」

「で……ですけれど……中途半端では……」

「明瞭に言ったら?
 ちょっとおま○こされなかっただけで、いやらしい体が夜泣きしてますってさ。
 おま○こにち○ぽ入れられてグシュグシュ磨かれて、子宮を精液で叩かれたいんだろ。
 それって、もう完全に淫乱じゃねえの?」

 突き放す口調で言葉を浴びせられる。
 同時に小蛇のようにするんと、下着のなかに才人の指が入ってきた。
 言われたことをとっさに否定するより先に、「ひぁん」と甘い声をあげてしまい、アンリエッタはさらに真っ赤に頬を燃やした。

 恥丘のふくらみを撫で、少女のさらさらした恥毛をしゃりしゃりもてあそんでから、才人の指がごくごく優しくその下のクリトリスに触れてくる。
 八割がた勃起していた快楽の芽を、包皮の上から人さし指と中指でほとんど力をいれずつまむ。というより周囲の肉を押さえることで、包皮をゆっくりゆっくり剥いていく。
 それに合わせて少女の脳裏に、熱い感覚がジンジンとしみとおっていく。

「ぁ、あふ」

 腰がぷるぷる震えるのが、もう止められなくなっていた。それでいて、自分で開いたドレスのスリットを閉じてはいない。やめてほしくないと体が訴えていた。
 そんな様子を見とおしたように、少女の顔の横で才人が薄く笑う。
 アンリエッタは上気した横顔を彼からそむけて、切なげに唇をひきむすぼうとした。けれどたやすく唇はゆるみ、やはり押し殺したあえぎがもれてしまう。

 くにゅる……と肉豆の根元まで、完全に包皮をずり下ろされる。
 反射的にきゅっと尻がかたく締まり、かかとがはねてつま先立ちになりかけた。
 叫びをこらえたのは奇跡的だったけれども、その努力を次の瞬間に無駄にさせられた。

「なに我慢してんだよ、声を出したほうが可愛いんだからさ。
 さ、よがってみろよ」

「ひんっ!」

 指の腹を剥けでた肉豆にあてがわれた。じわんと青の瞳が淫蕩にうるむ。
 くにくにと快楽器官をあやされだすと、「〜くっ、ひぅ、や、あっ」と鳴きながら内股をすりよせ、腰を落としそうになってしまう。
 背後から抱きしめられたまま愛撫され、やすやすと肉体を操作されていた。少年の思惑どおり、牝の反応を存分に見せてしまっている。

 満足したように指が離れ、さらに下りていく。
 肉体の興奮にふっくら盛り上がった大陰唇をすりすりとさすり、折り重なった小陰唇をかきわけ、官能の源泉に埋められていく。
 すぐに濡れそぼった肉が指にうがたれる淫靡な音がたちのぼった。それと同時に、アンリエッタの鳴き声がますます高まる。

「またこんな熱くぐちゃぐちゃにしちゃってる……ったく、しょうがねえなあ。
 昨日のようにスッキリさせとこうな。今日も指でしてほしい?」

 才人が耳元でささやきながら、下着にすべりこませた手を卑猥に動かしてきた。
 膣口のあたりを浅くくちくちと男の指に責められ、子宮がきゅんと収縮してしこる。
 抱きしめてくる手はいつのまにかドレスの上から、重く張った乳房をこねまわしている。
 アンリエッタの汗ばむ肌から甘い淫気がむわっとあがった。媚声をこぼして唇をつややかに濡らし、首筋まで赤くする。

 あえぎながら長いまつ毛をしっとりと伏せたアンリエッタは、男の問いに夢中でこくこくとうなずく。
 が、すぐに才人のほうが首をひねって「いや、そうだな……」と言い出した。

「今日は口でしてあげますよ。昨日とまったく同じじゃ芸がねえし。
 椅子に座って」

…………………………
………………
……

 室内はしだいに暗くなっていくが、ほどこされる愛戯にアンリエッタは時間を忘れていた。
 背は椅子の座席の上に乗っている。座った肘かけ椅子からずりおちかけたような窮屈な格好である。
 白いニーソックスの美脚は大きく扇のように開かれて、ふくらはぎが左右の肘かけにそれぞれ乗っていた。
 脚の間にはかがみこんだ才人の頭が埋められている。

 「んんん」とアンリエッタは目をほそめて天井を見上げ、うっとり浸るような鼻声を出した。

 自分の腰が、愛液をすすり飲まれる肉の杯になった気がしている。
 下着を取られたあとに、肘かけ椅子のうえでひっくり返った体勢をとらされた。
 円い牝尻に少年の両手をかけられ、ふんわりした尻房を持ち上げられ、やや上向いた女の秘部を口で愛してもらっている。

 少年の目に女の陰部のすべてをさらけ出して、舌や指で快楽を与えてもらうのはいつものことだが、もちろん羞恥がないわけではない。
 けれどそれすらもう甘酸っぱい愛悦の一部だった。

 乱暴な快楽ではない。
 もどかしいほどに、大切に悦びを育てられていく。

 最初は艶やかに薄く紅潮した内ももから会陰部までに、舌を丹念に這わされた。そうすると、つぼみが開くように大陰唇がわずかに広がってしまう。
 自分の指で広げるように命じられ、火がつきそうなほど耳を赤くしながら、アンリエッタは両手で大陰唇を広げた。
 膣前庭の粘膜の肉色をさらけ出させられると、そこに才人が顔を埋めてきた。

 小陰唇も尿道口も、恥ずかしげにきつく収縮して閉じた膣口の上も舐められ、身をよじってあふあふと色っぽい呼気を速めてしまう。
 うごめいて男を誘う濃ピンクの膣口からくぷ……と新たな愛液が出てくると、待っていたようにそこにとがらせた舌を挿入された。
 ゆっくり舌をくねらせられると、アンリエッタの背筋に甘美な波がかけのぼり、自分の股に埋められた少年の頭をかかえて指を黒髪にさしこみたいという衝動がおこる。

 クリトリスに吸い付かれ、男の舌と唇だけで延々と愛撫されると、肘かけ椅子にのせたハイヒールのつま先をぴんと伸ばしてしまう。
 脚をはねあげなかったのは激烈な刺激ではなく、あくまでもゆるやかに触れられているからだった。
 とろりとろりと上り詰めそうになって、「ふゃぁぁ」とお腹いっぱいの子猫のようなうっとりした声を出すと、見すましたように敏感な部位から口が離れ、また大陰唇あたりから舐めだされる。 

 蜂蜜を砂糖菓子にかけまわしたような濃い甘さの官能が、とくとく注がれて溜まっていく。腰を溶かされているようだった。
 充血した粘膜を柔らかく舐めしゃぶられるのは、こんなにも気持ちがいい。
 決定的なところでは責めを中断され、なかなか達することができず焦らされているのだけれど……
 そのもどかしさも、いまはまだ甘受できている。

 才人の舌が広げられた膣前庭をつつと移動し、潮を噴きそうに持ち上がった尿口をつつき、ヌルヌルとほじくりだした。
 脳裏をひりひりさせる悩ましい感覚に酔い痴れ、アンリエッタは嬉しげに鳴いてしまった。
 もっと舌が欲しくて、自分で広げた大陰唇をくにゅっとさらに左右に押し開いてしまう。
 花弁が開いたあとから、剥き身になった肉花がより鮮明にあらわれ、くちゅりと湿った音をたてて淫艶なさまを見せ付ける。

 温かい湯気がたつほど熱くうるおった蜜壺の入り口に、また舌をくぷくぷと差し入れられる。
 少年に持たれた尻がわなないてぐぐっと上がり、淫麗な肉の杯を才人の口にますます押し付けてしまう。
 ピンク色の膣口が、才人の舌に浅く犯されて卑猥にうごめき、締まって舌を外に絞り出すような動きを見せる。

 ぴとっと膣口に唇をつけられて音を立てて愛液をすすられ、色づくアンリエッタの全身が骨ぬきになったように柔らかくなっていく。
 少年のほどこす濃厚な口唇愛撫に、温まった生クリームの風呂に入っているような官能にひたらされていた。
 才人に口でされるのはもちろん初めてではないけれど、ここまでじんわりと感じさせられたのは初めてだった。

 恍惚の涙ににじむアンリエッタの視界のむこうで、顔をあげた少年の舌先と、息づき濡れた女の源泉を、愛液の銀糸が細くつないでいる。才人がその舌をひっこめて、上げた袖で口元をぬぐって言った。

「ぷぁ……後からどんどんお肉の汁でてくる。
 無理ねえか。俺もそうだけど病みつきになっちゃうんだよな、口でされるのはさ。
 ところで、ただよがってるだけじゃなくて、いつもみたいに何か言ってみろよ。お礼でもおねだりでも何でもいいから、自分で考えながら、さ」

「あ……」

 どんなことを言えばいいのか、これまでの経験が教えてくれた。
 責められながら、卑猥なことを言わされる。アンリエッタが何度もさせられてきたことである。
 それでもためらいを覚え、もじもじする。その煮え切らない態度はあるいは恥じらいだけでなく、もしかしたら無意識に後押しを期待していたのかもしれなかった。

 期待していたとしたら、それは与えられた。
 少年が「言えっての」とうながしてからまたクリトリスをついばみ、ゆっくり責め立てだしたのである。
 紅玉のような快楽器官をそっと唇でくるまれ、やわやわねろねろと舌を使われる。優しい愛撫でも、椅子の上でビクンッと肢体が勝手にはね悶えてしまう。
 官能が高められ続け、さすがにここらで限界が来そうだった。
 アンリエッタは悩ましいすすり泣きをもらしながら、要求されたことをあえぎ混じりに口にしはじめる。

 女王として臣下に接するときのはっきりした語調とはほど遠い、男に可愛がられる悦びに緩みきってほつれてしまった声。

「『わ……わたくしの、はしたない女の欲求を、お口で鎮めていただいてぇ……あふ、うれしいです……
 ぺろぺろしてもらって気持ちいいの……ひっ、そこ、お豆……はしたなく勃起した、め、牝ちんちん……
 皮を剥いてもらって、ぷくって膨らんだのをちゅうちゅうされると、んんっ、あたまがすぐ白くなってしまって……』
 ……ゃあ、もう駄目、だめぇっ! んうぅん、イくっ、イっ――」

 そこで唇をはなされた。
 今日で最初の絶頂を味わえる、その直前だった。
 また焦らされた少女はくったり椅子に身を沈めつつ、汗の浮いた美貌に、かすかに不満げな色を浮かべた。

 アンリエッタに劣らないほど情欲を瞳に宿し、ただしそれを巧妙に制御しながら才人が笑う。

「……姫さまのすけべ」

 わざと呆れをふくませた少年のからかいの言葉に、少女の羞恥心が沸騰した。
 思わず力んだ抗議の声を、自分の股のあいだにある少年の顔に投げつける。

「あ、あなたが言わせてきたことでしょう! それに毎回あんなに言わされていれば、いやでも覚えますわ!
 そんなことを言うのであれば……あ、や、やぁ……ン……」

 陰唇をくつろげた秘部の粘膜にキスされると、それだけで肉の反応にあわせて声も表情もとろけてしまう。

「ちゅ、ちゅ……ごめんごめん、お詫びにもっとぺろぺろしてやるからさ。
 だからほら、姫さまもやらしーこと、もっと言って。もっと聞きたい」

「んっ……ううっ、ふぁん、し、しかたのない方ぁ……あんっ……
 言ってあげますから、あの、わたくしを……」

「わかってるって。きっちり最後までイかせてあげるから。
 ちょっと広げますよ」

 少年の両手の人さし指が膣口に入ってきた。それぞれの指が中で鉤のように折り曲げられる。
 突然に節くれだった指をむかえ、反射的に緊縮しようとする蜜壺の柔肉を、みちっと横に引き伸ばされた。
 横に少し伸び広げられて暗い膣内をのぞかせ、水気たっぷりに、くちゃり、と温かい銀糸をひいた入り口。

 奥の子宮口が見えそうなほど広げられて羞恥の鳴き声をあげる間もなく、そこにふうっと少年の息を吹きこまれた。
 子宮まで息が届いた気がしたとたん、鮮紅色の濡れた肉洞が入り口から奥までいやらしくわなないた。

「ひゃぁっ! ……んふぅっ、んんん、ぁやぅぅっ……
 『い、今おま○こを、広げられて、ふーっとされて……おなかの奥がビクっとなりました……
 サ……サイト殿、そこをそんなまじまじと見ないでくださいまし、あまり広げないで……
 どうか、ただこのまま気をやらせて……切なくてたまらないの……』」

 アンリエッタのささやきはあきらかに、才人の要求にかこつけて心の声を解放しているだけだが、恥じらいながらのしめやかな口調は十分に淫靡さを感じさせた。
 才人はそえに直接答えず、閉じようとうごめく膣口をひっかけた指で引き伸ばしたまま、鮮やかな女肉の穴に舌を入れて抜き差しする。
 アンリエッタの肌がますます紅潮し、薔薇の色を頬に散らして上体をよじる。
 今度は、入り口近くの膣壁横手にある敏感なポイントの一つを、踊る舌にくじられていた。

 少女は自分の陰唇から両手を離した。秘部を開くのを男の手のみにまかせ、豊満にドレスを押しあげる乳房の下できつく腕を組む。
 自身の体をぎゅっとかきいだき、けんめいに羞恥と快楽に耐えるような格好。

「っ〜〜、うぅっ……
 『抱かれていないと、さみしくてたまらないのです……
 おま○この穴、奥まであなたのもので愛していただきたくて、こんなに浅ましくドロドロにしてしまいました……
 ぁふ、あぁん、ふわふわします……もっと……して、もっとお口でしてくださいまし……』」

 その言葉にあわせて自分の股ぐらからピチャ、プチャと恥ずかしい音が聞こえてきた。アンリエッタは手で耳をふさぐか顔をおおってしまいたくなる。
 甘露をあふれさせた蜜壺が、空気と愛液を内部でまじらせて鳴っているのである。
 指をひっかけられた入り口を、コインくらいに穴が開くまで軽く引き伸ばされたまま、濡れた肉の洞が内部からヒクついていたためだった。

 才人が引き伸ばしていた膣口から指を抜く。その入り口は生き物のように一瞬で閉じた。
 彼はこんどは両側の小陰唇のあたりに親指を置いて、むきゅっと広げた。うるみ光る膣前庭がせりあがるように、また淫猥な剥き身をさらす。
 膣穴の周縁部からクリトリス下の尿口まで、熱をはらんだ肉色の秘部粘膜をまんべんなく舌にせせられ、少女の口から「は、ぁふ」と千々に震える陶酔の息がもれる。

 アンリエッタは目を細めて繊細なまつ毛を重ね、われ知らず下唇をちろりと艶っぽく舐めた。
 全身に快美のおののきがはしり、尻がもぞもぞとかすかにくねる。

 本当はアンリエッタにもわかっている。しかたない女なのは自分だった。
 いまの自分は彼の前でころんとひっくり返って恥部をすべて見せ、安心しきって甘えた態度を少年にむけて取り、素直に快楽に鳴いている。
 宮廷の官僚たちや貴族など、たばねるべき臣下にはけっして見せられない、弱く淫らな女の顔をさらしている。

 まるで飼い犬になった気がした。主人に甘えて、服従のポーズをとって、愛撫をねだる犬。
 あるいは楽器。管楽器のように唇と舌で奏でられ、また弦楽器のように指によって震わされる。澄んだ快楽の鳴き声を、少年に聞かせるために存在しているような。
 今回は才人に奉仕されている――とは言うものの、どちらが主導権を持っているかは明白だった。

 才人が「指、一本だけ入れるからな」と声をかけてきた。
 そのときにはすでに少年の中指が、熱くぬめった膣口をくじり、締め付けをえぐりながらぬぷぬぷと侵入してきている。
 くいっとその指を膣内で曲げられて、恥骨裏の肉壁に指腹をあてられた刹那、それがどんな責めかアンリエッタの体が頭より先に理解した。
 瞬時に、小さく叫び声をあげて括約筋を締め、蜜壺の肉で男の指を食いしばってしまう。

「あ、あ、それは、そのやり方は、わたくし……っ」

「どうなんの?」

 才人が楽しそうに、指で膣壁に弱い刺激を送りこんでくる。こするというより、リズミカルに押さえて揉みこむような動きだった。
 何を言わせられようとしているのかアンリエッタも悟り、栗色の髪先をふるふると淡く震わせながら口にする。

「『そこを指でこすられたらいっぱい、お、お潮を漏らしてしまいます……』」

「ほんとはお漏らししたいんじゃないの? すっきりお潮出しながらイっちまいたいんだろ? 昨日みたいにさ。
 正直に言えたら、ご褒美あげますよ」

 間髪いれず才人がそう言ってきた。確認というより、次の淫語をうながす口調である。
 くちくちと快楽ポイントを押し揉みされ、発情した体を巧みに絶頂寸前の状態にとどめ置かれて、アンリエッタは逆らえなくなった。
 (どうあっても言わされるのだもの)と自分の矜持に言い訳して、沸騰しそうになりながら言葉をつむぐ。

「『はい、そうです……昨日のようにしてほしいわ……
 指でされて、気をやって、あなたにタオルを当てられてお漏らししたのが、とても気持ちよかったのです……』
 サ、サイト殿っ、そこ駄目ぇ、あ、あっ、息がぁ……!」

 才人が指を使いながら、赤くしこったクリトリスに至近距離から息をふーっ、ふーっと吹きかけていた。妖美な肉の粒が、空気の流れを当てられただけでヒクヒク反応する。
 的確に膣内のポイントを刺激する指の動きが、丁寧なままやや速まっていく。
 存分に肉豆を息だけで嬲られてから――そこにちゅっと吸い付かれた。

「ひゃうん……っ!」

 もう何度目かのクリトリスへの責めで、またすぐ焦らされるかと思っていた。
 けれど、今度は違った。あいかわらず唇と舌だけには違いないが、ついばむようなやり方ではない。
 快楽神経の密集した器官を、アメ玉を転がすように執拗にしゃぶりたてられていく。粘膜で粘膜を愛撫される濃厚な愛撫。
 すでに剥けた肉豆から、さらに舌で薄皮をくりくり剥こうとするようなねちっこい責めだった。
 そろそろご褒美にしてやるよといわんばかりに、才人が、女にとどめをさすための責めに切り替えたのである。

「あんっ――うあぁ、ひん、あぅっ」

 嬌声が止められない。
 こりこりとしこった肉壁の上側を、鉤状に曲げられた中指がシャクトリムシのような動きで追い詰めていく。膀胱に潮がどんどん溜まっていく。
 アンリエッタの腰がぶるりと大きくわななき、そしてひゅくひゅくと小さく上下に動き始めた。

「え、な、何なの、これっ、あ、ああっ!?」

 少女の肉体が、少年の指に翻弄される操り人形のように、アンリエッタ自身の意思をはなれて動いていた。焦らされて高まって――興奮しきった体が、暴走しているのだった。
 自分ではどうにもならない卑猥な空腰を使いながら、当惑に目を見開いて鳴き声をあげる。肉豆を吸引され、熱病患者のように総身をガクガクさせる。
 肉豆をきつく吸いあげられて、ちゅぽんっ、と唇を外されたときにアンリエッタの脊髄を閃光がかけのぼった。

「あ、あっ、イきます、あんんっ、イクぅ……っ!!」

「あ……姫さまのおしっこ穴、ぱくぱくしてる。お潮出そうなんだ」

 クリトリスから口を離した才人がそうつぶやき、顔を寄せて今度は、ヒクヒクあえぎだした尿口をヂュッと吸引した。
 アンリエッタの脳裏に白いうるみが生まれ、それが急速にふくらんで弾けるような感覚がもたらされる。

「……ひいいいいっ……!!」

 先ほどまではゆるやかに高められていた快楽曲線が急にはねあがり、助走をつけて跳んだように軽々と肉の高みに到達した。
 ニーソックスを履いた脚のひざから先が、開かされたままはね上がって宙に固定され、ピンと伸びたハイヒールのつま先まで絶頂のわななきが駆け抜ける。剥きだされた蜜壺がきゅ、きゅっと収縮して、愛液をびゅると絞りだす。
 指に導かれて、潮が尿道を走って出ていく。そのほとばしりを加速させるように、出る片端からジュルジュルと吸い上げられ、腰が溶けていくような快美感を与えられていく。

 眩めくほどに激しいけれども、たまらない甘美の極みだった。
 少女は与えられた絶頂に、組んだ両腕を目隠しのように顔に当てて耐える。
 奥歯をかみしめて「……くっ……ふぅっ……くっ……」と悩ましいうめきをこぼし、叫びをどうにかこらえていった。

 ――至福の深みから戻ってきたあとも、アンリエッタは夢うつつのまま起き上がる気になれず、温流のようにたゆたう余韻にひたっていた。
 椅子の上でぐったり沈み込むように脚を開いたまま、心身を甘くときほぐされた感覚をかみ締め、茹だったように上気した肌をときおりゆるく痙攣させる。
 潮をさんざん吸い上げられた尿道が、妖しい官能に内部からひくんひくんして痺れっぱなしなのだった。

「いつも俺が姫さまに口でせーえき抜いてもらうときは、たいてい最後まで飲んでもらってますからね。
 たまには逆の立場もいいだろ。ところでどう、すこしは落ち着いた?」

 そう言って、才人が口をぬぐいつつ立ち上がった。
 アンリエッタは彼を見る。淫楽のなごりで朦朧としてはいたが、拡散しがちな視線がふと一点に吸い寄せられた。
 少年のズボンの前は、最初から大きく張ったままである。

(……サイト殿もずっと興奮してらっしゃるのね……我慢しているの?
 あんなに大きくして……つらくないのかしら……)

 我慢などしなくてもいいのに。
 そう思ってしまった自分に気づいて、アンリエッタの意識に濃い羞恥が浮かびあがった。
 少年への気づかいもあるけれど、やはり少し――自分の体にも心にも不満が残っている。
 そのことを意識して恥じながらも、淫らな渇望がおさまらず続けて考えてしまう。

(とても良かったけれど……でも、いつもならもっと何度もしてくれたのに)

 今日はたった一度だけの絶頂である。
 前戯だけなのは昨日もおなじだが、昨日は疲弊して突っ伏してしまうまでやってもらったのである。
 もちろん、才人は意識して責めの趣向を変えたのだろう。丁寧に丁寧に押し上げて、最後の快楽を大きく純粋なものにするための焦らし愛撫だった。
 それはアンリエッタにもわかっているし、実際に素敵な恍惚の時間を与えてもらったのだけれど。

 昨日でさえ夜には我慢できなくなっていたのだ。前戯だけしか与えられないなら、せめてもっと――

(まだ、したいわ……もっとしてほしい……)

 白ドレスの下でじっとり汗ばんだ玉の肌が、新たな火照りに色づいていく。ほとんど触れられていない乳房まで、手をかけて愛してほしいと張っている。
 息が、わずかにせわしなくなる。血管のうちをとどめられない淫情がかけめぐっている。一度絶頂を与えられたことで、かえって体に火がついたようだった。
 なぜ最近ここまで自分の体が貪欲になっているのか疑問ではあったが、それさえ後回しでよかった。

 部屋の夕闇は濃くなっており、視界は明瞭ではない。大胆なことをしてもはっきりとは見られないであろうことが、アンリエッタの背を押した。

 ……M字に開いた美脚のひざ裏を持って、もっと頭のほうに引き付ける。
 体を折りたたんだため桃尻が淫美に丸みを増し、熱くうるむ股間がせりあがる。
 アンリエッタはそれから大陰唇にほそやかな指をそっと当て、二ひらの肉片をもう一度、みずから押しわけた。
 見て、とばかりに。

 薄闇のなか、強調させられた少女の恥部を才人が見たのがわかった。
 はっきりとは見えないがその驚きの表情と、自分の股間に釘付けになった視線が、アンリエッタに強烈な羞恥まじりの倒錯した快感をよびおこす。
 膣口が開閉して濡れた淫靡な音がわずかに立ち、新たに分泌された蜜がこぷっと吐き出され、とろりとこぼれて尻の谷間を伝っていく。
 茫洋としながらも静かに誘う少女から、甘い発情の香りがほのかにくゆる。

 ごくりと少年が固唾を飲む音が聞こえた。その視線がちくちくと刺さりそうなほど、今しがた口唇愛撫したばかりの女性器をひたと見すえている。
 男の強烈な情欲が、油断していたところに不意打ちを食らって燃え盛り始めたらしい。どれだけ精神力で封じこめていても、雄の欲求自体が消えるわけではなかった。
 もともと性欲旺盛な年頃なのである。

 アンリエッタは秘部と同じく濡れとろけた瞳をしばたたき、ぼんやりと少年を見つめた。

(……なにをやっているの、わたくし……でもサイト殿、あんなに見ているわ……
 ああ……情欲を抱いてくれている……)

 自分でやっている挑発なのに、羞恥で消えたくなる。だが同時に、かあっと思考と体が熱をはらみ、さらに大胆なふるまいをしたくなる。これで才人がどのように出てくるのか、不安と期待が交錯する。
 以前みたいに、すべてを見せながら自慰することを命じられるのだろうか。
 あるいは、今度はこちらが口や胸や手を使って、女の柔らかさで男の硬い肉をふんわりくるみ、『お慰め』することを要求されるかもしれない。
 そうでなければ、きっと……数日ぶりで、交わることになるだろう。

 自制心を捨てた少年にこのまま襲われ、椅子の上でのしかかられて無茶苦茶に犯されている自分。そういう光景が浮かんだ。
 被虐的な想像で背徳感が満ちていき、じんじんと頭の中が痺れ、心悸がどくどくと速まっていく。
 美麗な赤らんだ頬に、体熱の高まりによる汗がひと筋、つぅ……と伝わった。

 けれど予想は、全部はずれた。

 迷いをふっきるように才人は首をふり、ごそごそとズボンのポケットからハンカチを取り出した。ぱさり……とその薄い布が、愛液まみれになった女の肉のうえにかぶせられる。
 縁がレースになった薄い白絹のハンカチは女物で、本来はアンリエッタの持ち物である。少年は、タオルの代わりに今日はそれを持ってきていたのだった。

 少女の股間に覆いをかけた才人が椅子の横にまわり、横手からアンリエッタの上にかがみこんだ。
 少年の左手が、もの問いたげに見上げた少女の濡れた股間に伸ばされ、ハンカチの上から秘部を押さえた。
 ぷにゅぷにゅした白い蒸したてのパンのような感触が、薄い布地を通して才人の手に伝えられる。
 「んっ」と切なそうにアンリエッタは目を細めた。
 間近でその赤らみ顔を見下ろしながら、才人が秘部を軽く圧迫するようにこねてきた。布の下で、さすられる柔らかな盛り上がりが淫猥に、くにゅ、と歪む。

「くふっ……んぅ……」

 達した直後の愛戯に快楽電流が流れ、甘声をもらして少女はなよやかに腰をよじった。
 白絹のハンカチは、濡れた瞬間にたちまち透けて恥部の肌と粘膜に張りつき、半透明の膜に変わっている。隠すための役にはまったく立っていない。
 それどころか女の肉に吸着したその薄布は、そこをより淫らに見せているかもしれない。
 ふっくら張って内股ごとほのかな桜色になった大陰唇の土手肉は、閉じてハンカチを浅く食い締め、布に縦の筋を走らせている。
 その縦筋の上端では、プクンと目立とうとする肉豆が張りつく布地を押し上げていた。

 才人がその湯気がたちそうなほど熱い女性器を、ねっとりとこねてくる。顔を寄せてきて、ついばむような軽い口付けをアンリエッタに与えてきた。
 ややかさついた男の唇が、少女の紅のさした白磁のような頬をなぞった後、耳たぶを軽く噛む。すべやかに頬をなでられ、反対側の頬に口づけされる。
 恥ずかしい格好のまま、張り付いたハンカチを通して濡れた柔肉をくにゅくにゅとこすられながら、少女は陶然とまどろむような表情でその口づけを受けていった。

 後戯にしてはやはり刺激が濃かった。が、簡単に再度の絶頂を与えられるような責めでもない。
 先ほど慰めてもらった肉体のうずきを、またふつふつと煮立てられ、アンリエッタはかすれた息をもらした。
 ゆるやかに流される股間の甘悦に、我慢できなくなる。せっかく処理してもらったのに、これでは元通りだった。

 いつのまにかアンリエッタは双の手をあげて、下から才人の頭を引き寄せていた。
 口づけを「ちゅ、ちゅ」と返し、合間に情感の高揚をこめてあえぎながら抗議する。

「ああ、こんなぁ……もどかしいのはやめて、切ないのはもう嫌ぁ……」

「……切ないんだ? 親切で拭いてやってるだけじゃねーかよ。焦らされてるみたいになっちゃうのは、そっちの体がやらしいからだろ。
 なんだよこのべとべとの股間、もうハンカチが完全にぐっちょり濡れてら。透けておま○こ全体が見えてるぜ。
 この皮が剥けたお豆なんか、布の下からはっきり浮きあがって色まで綺麗に丸見え。いつまでヒクヒク勃起させてんだよ」

 言葉責めされ、クリトリスをごく軽くつままれた。

「ゃぁんんっ! ……よ、よく言えますこと、わたくしばかりが悪いみたいに……
 こんな触り方をしているくせにぃ……あなたがそうして触るから……
 こんな、上手で意地悪な……あふ……ぅぅ……」

 鳴かされたのもつかの間、続いてキスの雨をふらされ、軽い怨みのこもった声がすぐ溶けていく。
 この休暇ではっきりさせられた嬲る側と嬲られる側という立場は、すっかりこの二人の間で情交のときの約束事のようになっていた。
 濃い背徳感のある行為を才人と共有することに、今ではアンリエッタは、秘めやかで深い喜びを感じている。こうされるのも絆の形のひとつなら、それでもいいと思えたのだ。

 影と艶が混然となった室内で交わされる、痴酔の夕の夢がたり。
 むつみあう少年と少女の、情欲の息が溶けあっている。

「さっき挑発してくれたろ。ちょっとしたお仕置きみたいなもんだと思えば?
 だいたい、してほしいことがあるならはっきり口で言えっての。
 聞いてあげなくもないですよ、ちゃんと言うならな」

 夕くれないの色に染まったわななく耳に、そっと息をふきこむようにささやかれ、ほどかれた心の奥まで少年の言葉がしたたりにじむ。
 アンリエッタは艶っぽくにらみ上げ、ほんのわずかに逡巡し――乞う言葉を低く細く、甘やかに奏でた。

「……あなたにちゃんと抱いてほしいのです……抱いてくださいまし……」

「ん、よしよし……あのさ、まだ日もあるけど、もうそっちの寝室に行っちゃわない?
 食べ物も、おやつくらいのものなら台所で取ってこれるし。今から軽く調達してくる。姫さまのほうは、ちょっと晩飯はいらないってここの人たちに言っといてください。
 部屋に戻ったら、四日ぶりでいっぱいしましょうか」



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