「ヒック、ヒック」
「すっきりした?」
「‥‥はい。お上手ですのね」
「…泣いた子は良く相手してたもんで。本当に辛い時は、泣く事すら出来なくなる」
「‥‥はい」
やっと才人の胸から顔を上げ、泣き腫らした顔を見せ、アンリエッタは涙を拭いながらはにかむ
「私は、女王ですが、その前に一人の女です。私の事を女王と見て下さる方は沢山おりますが、私を女として相手してくれたのは、二人だけです」
「へぇ、誰かな?」
「一人はウェールズ王子」
「ふむ、じゃあ、もう一人は母親かな?」
アンリエッタは寂しそうに微笑む
「違いますわ。私達王族にとって、子供は王位継承の道具に過ぎません。母親としての愛情より、国母としての責務の方が重いのです」
「……そうか。じゃあ父親?」
「‥‥いえ、父は私から見ると、雲の上の方でした。娘として、きちんと接して下さった時間は有りませぬ」
「…そうなのか」
「はい。ですから、幼少の頃はルイズの所に遊びに行くのが楽しくて楽しくて。カトレア姉様は優しいし、エレオノール姉様は厳しい仕草でルイズが消えた途端に、茶目っ気出してくれたり。あの頃は、本当に楽しかった」
「……」
「私とて女です。人恋しい時も有ります。女王では、それすら許されないのでしょうか?」
「……そんな事無いさ」
「そう言って下さると、思ってましたわ」
アンリエッタはにこりと、才人を見て微笑む
「先程、私の事を一人の女として見てくれた方が、もう一人居ると言いましたよね?」
「…あぁ」
「貴方ですよ、サイト殿」
そう言い、才人の胸にフワリと飛び込み、才人は思わず受け止めてしまう
「……やられた。謀ったな?アン」
「謀られる方が悪いのです」
そう言って、才人の胸に顔を埋める
「‥‥私は、悪い女ですか?」
「……いんや、可愛い女さ」
「‥今からもっと、悪い事を致しますわ。我が名はアンリエッタ=ド=トリステイン。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔と成せ」
アンリエッタが杖を用いて唱えたコモンマジックに、才人はドキリと硬直すると、アンリエッタはそのまま才人に口付けを交わす
「何も……起きない?」
唇が離れた時点で才人がそう言い、アンリエッタが落胆する
「‥‥まだ、私の願いが足りませんか。もっと、狂える程に欲しないと無理なのですね。‥‥‥ルイズの様に」
「……ルイズの様に?」
「はい。使い魔が召喚出来なかった時点で学院を退学し、ルイズの一生はヴァリエール領から一歩も出ずに、父親の望む相手に嫁ぎ、一生を過ごす事が決まってました。正に、自分自身の人生を切り開く、狂える程に望んだ使い魔が、サイト殿なのです」
「……俺が……ルイズの一生を変えたのか」
ルイズの、才人に対する異常とも言える執着の一端をアンリッタから語られ、反応が返せなくなる才人
「召喚出来なかったら、私はルイズと距離を取り、今の様にはならなかったでしょう。私もルイズも、諦感の顔を友達に見せたくは有りませぬ」
「…」
「ですが、今は、ルイズの一生を変えた、貴方が‥‥‥欲しいのです。友を裏切る事になったとしても、煉獄に落ちると解っていても。私の人生をも、変える力と、安らぎを‥‥‥」
「…アン」
アンリエッタは背中に回す腕に力を込め、才人の顎を舐める
「私は、魅力が有りませんか?」
「……いや」
「今だけでも‥‥只の女として‥‥一夜だけの夢でも‥‥私に‥‥思い出を‥‥」
アンリエッタは才人の顔を両手で挟み、逃がさない様に唇を食む
チュッチュッチュッ
ワザと音を立て、上唇と下唇を交互に食み、更に舌を使ってぺろりと舐める
とうとう根負けした才人が、アンリエッタをとさりとベッドに倒す
「アン」
「はい」
「今から抱くのは、町娘のアンだ」
「はい」
「アンが悪い女なら、俺は酷い男さ」
「あら、最低男と最低女の組み合わせなら、掛け合わさって、最高になりますわね」
そう言うと、アンリエッタは才人の頭を抱き寄せ、才人はされるがまま唇を重ねつつ、アンリエッタの服のボタンを外していく
アンリエッタは唇を離す事無く、才人の服を捲り、ジーンズのベルトとボタンを外し、ファスナーを下げ、才人の物を手で包む
才人から唇を離すと、アンリエッタから才人を追い、頭をかき抱く
「‥‥もっと」
「すこぉし我慢して」
才人がそう言うと、そのままアンリエッタの服を脱がし、スカートを下着事ついっと脱がし、全裸にする
そのまま、自身もばさりと脱ぎ、全裸になった
身体には、ハルケギニアに来て以来の稽古や闘いでの細かい傷が大分出来ており、背中にはタルブ戦で開いた穴の痕が残っている
才人の背中にアンリエッタが指を這わせ、傷痕に気付くと眉を寄せる
「申し訳有りません。傷‥‥残ってしまいました」
「いや、助けてくれただけで恩の字だ」
そう言って、才人からキスをすると、アンリエッタは身体をくねらせつつ応じる
そのまま、才人に胸を当てつつ、脚を開いて才人を脚でも抱き締め才人の唇を存分に饕る
チュク、チュッ
時折二人の唇から音が漏れ、アンリエッタの身体から、香水以外の牡を問答無用で狂わせる匂いが漂い、才人は勃起が痛い位になる
二人が存分にキスをしてから離れると、アンリエッタの顔はとろんとして才人を見つめる
「素敵‥‥身体も素敵。肌を合わせてるだけで、興奮が治まりません」
「いや、此方の台詞。すんげぇ色気、ちょっと我慢きかねぇ」
「アンは、悪い女ですか?」
「あぁ、男を狂わせる、悪い女だ」
「私は‥‥今にも狂いそうです。貴方の匂いと肌触りは、私を狂わせますわ。本当に悪い男」
才人を決して離そうとしないアンリエッタに何とか離れようとする才人
「駄目です、駄目。離れちゃ、駄目」
アンリエッタの切ない懇願
「ちょっと我慢して」
「あ、やぁ」
アンリエッタの抱擁を解くと、アンリエッタの胸をついばみつつ、蜜を垂らす花に蜜蜂が舞い降り、花粉と蜜を集め始める
「あっ、やぁ!?こんなの、ひっひぅ!?」
才人の蜜蜂は蜜にまみれつつ、花の入口を行ったり来たりしながら、花弁を擽り、身体に花粉をたっぷり付ける
既に中はとろとろで、官能的な芳香を放ちつつ、針の一刺しを求め、蜜蜂を締め上げ、奥に誘う
そのまま才人は股間に移動し、蜜をたっぷりと吸い始めた
「ん、美味い。アンのは良いな、綺麗だしとってもスケベだ。たまんね」
「やぁ、焦らさないで、焦らさないでぇ!?酷い、酷い、ひどいぃ!?」
頭を振り、涙を流しながら懇願するアンリエッタ
才人も我慢してたので、針を花に当てる
「行くよ」
アンリエッタがこくりと頷くと、才人の腰が進む
にゅう
「うはっ、キツッ!?」
ビクッとアンリエッタが反応するが、才人はそのまま腰を進め、アンリエッタの中に全て収まる
「……やべぇ。これ、すげぇ」
「〜〜〜!?」
アンリエッタは声すら出せず、才人にしがみ付いている
「…痛い?」
アンリエッタは首を振る
「はっはっはっ、少し‥‥このままで」
才人はそのままゆっくりと動き出す
「ひっ、やぁ、動いちゃ」
グチュ、グチュ
結合部から音が洩れ、才人が更に腰を動かす
「ごめん無理。我慢出来ない」
腰を小刻みに動かし出す才人
「いやぁ!?動かしたら、おかしくなっちゃう!?」
才人の腕を掴み目をギュッと瞑り、首を振る
「ふう゛ぅぅ、ふう゛ぅぅ」
才人がそのまま腰を打ち付け、一番奥で固定し、身体を震わせる
「お……タマンね」
「あ゛ぁぁぁぁ!?」
才人の身体を抱き寄せ、背中に爪を立てるアンリエッタ
そのまま、才人の射精を受け止め、脚を開いたまま放心する
「ふぅふぅふぅ。流石……アンだね。スゲー良いわ」
「‥‥う、動かないでって、言ったのに‥‥」
「痛かった?」
「いえ、我慢出来ます。その‥‥おかしくなりそうで」
才人を抱き締める腕を決して離さず、アンリエッタが恥ずかしそうにしながら、才人の耳に自らの気持ちを告白し、そのまま才人の耳を甘噛む
そして、脚迄才人を離さない様に組み、腰を更に密着させるべく、クイッと動かす
「うぁ!?ちょっと」
「気持ち良いですか?私、もう駄目ですの。お願いです、今夜はずっと‥‥‥」
そのまま才人に腰を押し付けると、才人の方が唸り出す
「うわっ、何でこんなに、吸い付いて、動かし、はうぅ!?」
腰を動かす事無く、才人が痙攣し、針がビクビクと動きアンリエッタの奥に精が広がって行く
「はぁ、スゴい。来てます、来てますぅ!?これが殿方!!水の流れが解り過ぎて‥‥ひぃぃぃ!?」
アンリエッタが堪らず痙攣し、そのまま才人の唇に饕りつく
後は欲望の限りアンリッタが求め、才人が応え、才人が求め、アンリエッタが応える
アンリエッタの人恋しい隙間が、完全に治まる一夜
その肌触りをアンリエッタは決して離す事は無く、全てを受け入れる女の悦びを、水使いとしての感性で感じてしまい、深みにハマっていく
「う………あ………もぅ……何回目?」
アンリエッタの抱擁が解かれない為、ずっと同じ姿勢でアンリエッタを貫いている才人
回数など忘れてしまった
「はぁ、知りませぬ、今はずっと‥‥‥ずっとぉ!?」
余りに良いので、ちょっと動いただけで射精してしまい、動くに動けない
「正直……拷問だ」
「嫌です、いやです、もっと、お情けを、もっともっともっとぉ!?」
グチュ
ちょっと動いただけで、精と愛の混合液が鳴り、アンリッタは豊かな胸を才人に押し付けると、才人の勃起が強くなる為、決して離れようとせず、動く事よりくっついている方を優先し、脚も決して離さない
其でも、何回痙攣をしたか解らない
そのまま、快楽と疲労と睡魔の間にまどろみ、二人はゆっくりと眠りに落ちて行く

*  *  *
チュピ、チュッ
「プハッ、どう?」
「全然なってない。こうだ、こう」
チュッ
「〜〜〜〜〜!?」
ルイズの身体が跳ね、痙攣する
「ぷあっ。ハァハァハァ」
既にお互い全裸で、相手を気持ち良くする術を修得するべく、ルイズは一生懸命なのだが、如何せん不器用オブ不器用の称号は、性愛に於いても健在らしい
「……ちょっと、聞きたいんだけど?」
「何だ?駄目生徒」
「女相手じゃ駄目なんじゃ?」
「個人の体質も有るがな、男も女も感じる所は大して変わらん。ただ、入れるか受けるかの違いだ。私のキスはどうだった?」
「………良かった」
「だろう?男の槍に変わる物は此処だ」
ついっと指を滑らせ、ルイズの核をつるつると指先で弄ぶ
「あひっ!?や、止めて!?」
「ほら、そんな反応を、男に出させる事も出来るんだぞ?更にな」
アニエスがルイズの乳首をぬるっと舐める
「ひぁっ!?」
「男も乳首は感じる。弱点と言っても良い」
「は、はい」
更にアニエスは肛門と隠唇の間指先で触れつつ
顔を持っていき、舐める
「ふぁっ?何これ?」
「男も此処は弱いぞ?」
「は、はいぃぃぃ」
そんなこんなで、アニエスにすっかり翻弄されたルイズ
ベッドの上ですっかり涙目だ
「良かったろ?」
アニエスが済まして言い、ルイズが枕で殴り付け、アニエスが笑う
「クックックック。美味かっぞ」
「な、まさか、あんたそっちの気有るんじゃ?」
「さぁてね。さてと、一眠りしたら、最後の仕上げだ。寝るぞ」
「う、うん」
『う〜女同士だから、ノ、ノーカンよノーカン。第一今回は、勉強よ……勉強……多分』
何となく騙された感じがするが、自分の行動がアニエスから見ると、色々見てられないのも事実なんだろう
『はぁ、頭の上がらない相手ばっかり増えていくわ。ヴァリエールの名前って、本当に役立たずなんだから』
そんな事を思いつつ、夜は流石に肌寒いので、アニエスに引っ付いて毛布を被った

*  *  *
才人が目覚めると、身体の下にアンリエッタが居る
「…重かったんじゃ?」
才人の動きに反応したのか、アンリエッタも目覚めた
「‥‥ふぁ、あ、おはようございます」
「おはよう。重く無かった?」
「はい、凄く重くて動けませんでした。ちょっと、辛いですわ」
「あぁ、ごめん」
才人が離れようとすると、また両手両足が才人に絡まる
「ちょっと…」
「駄目です。私が疲れてしまったので、運んで下さいまし」
「…了解」
アンリエッタを抱き上げると、肌が擦れ感触の良さから、睡眠中に抜けてた欲望が朝勃ちを越える硬さを発揮し、アンリエッタがそのまま合わせて挿入する
「はぁ、素敵ぃ」
「……まだやるの?」「だって、まだ時間は有りますの。だから、好きに動いて下さいまし」
座位で繋った状態でアンリエッタが言い、才人がそれならとアンリッタを抱え上げて立ち上がる
「きゃっ!?」
「ほら、体重全部で沈み込んでる」
そのまま、身体を揺さぶり始めた
「ハッハッハッ、ハヒッ!?」
「やべ、また出そう。良すぎ」
才人が痙攣しているアンリエッタをベッドに降ろし、一度抜くとそのまま回転させ、ベッドに膝立てして尻を向けさせると、才人は立ったまま挿入する
「あ、違う所、えぐれて、ふう゛ぅぅ」
パンパンパン
才人がリズミカルに叩き付け、一際強い一撃を奥に固定し、搾り取る膣と子宮の反応に合わせて射精する
ドクンドクン
『アンのマンコはスゲーな。エレオノールさんも洒落にならない程良かった。癖になりそうだ。俺、ドツボにハマってるなぁ』
そんな事を考えつつ、まだ萎えないので、二発目をベッドに乗り開始する
アンリエッタは跳ねる身体を、才人に何とか合わせる為に腰をうねらせては才人に密着し、あえぐと言うより、快楽に必死に耐える唸り声を上げ、それでも短時間に痙攣を繰り返し、どんどんハマっていく
水の流れが解ってしまう水使いである為に、才人が射精する瞬間迄把握出来てしまい、射精を受け止める悦びに、身体が震えるのを抑えられない
「‥お」
「ふぅふぅふぅ、何?」
才人が射精後に覆い被さり、胸を揉みしだきながら、アンリエッタが何か言い出したので、顔を近付け、耳を舐めながら聞く
「‥‥お母様は‥沢山愛して下さったと言っていたけど‥‥沢山愛されたくなります‥‥こんなの‥‥一回きりじゃイヤです!?」
「……」
「私では、おいやですか?」
才人に顔を向け、男なら誰もが欲情する顔を向けられ、才人は参る
「いや、そんな事無い」
「では、共に堕ちましょう。あの娘を出し抜く謀の泥沼へ‥‥一番大事な親友を裏切るが故の‥‥果てなき悦びへ‥‥」
そう言って、アンリエッタは口付けを求め、才人は応じる



そう、堕落の契約の口付けに

*  *  *
アンリエッタを護衛した才人が来た場所は、タニアージュ・ロワイアル座という、観劇場である
「此処は?」
「観劇場ですわ。先程の報告で、焙り出した虫が此方に逃げ込んだと、入りましたの」
「成程ね」
才人は左手で抱いてたアンリエッタをそのままに、右手でデルフの柄を握り少し抜くとすぐに戻す
「陛下」
先に到着してたアニエスがアンリエッタに寄って来た
隣にはルイズが居る
「アニエス、ご苦労様でした。あら、ルイズもご一緒なの?」
「あ、はい。あの、鼠取りって、何ですか?」
「くす、貴女の任務とは、直接は関係有りませんわ。ですが、使い魔さんを借りてしまって、ごめんなさいね。どうしても、使い魔さん程の腕の立つ護衛が、欲しかったモノですから」
「こんな犬でも役に立つなら、今後も使って構いませんわ、姫様」
「有り難う、ルイズ。やっぱり貴女は一番の『オトモダチ』貴女は今後も仲良くして下さいますね?」
「勿論ですわ、姫様」
微笑んだ瞳に謀の光を読み取ったのは、常に横にいたアニエスと、先程の事をしっかり憶えている才人である
「で、犬」
「何だ?」
「何時まで肩を抱いてるのよ?」
「今の俺はアンの彼氏」
才人がうそぶくと、案の定ルイズが一気に沸騰する
「あぁああんたいい加減に「では行きましょう、サイト殿。仕上げですわ」
「了解、アン」
すたすたとカップルが歩いて行き、ルイズがぽつんと残され、アニエスが今まで堪えてた笑いを、とうとう吹き出した
「あっはっはっはっ。流石のルイズ嬢も、あの二人が澄まして動くと空振りだなぁ。クックックックッ」
「ちょっと、何言ってるのよ?サイトから姫様の香水匂ってたわよ?良いの?」
「別に構わんが?私の任務に、陛下のプライバシー迄、侵す権利は無い。それに、ルイズの身体からも、私の香水が匂って来てるから、才人は気付いてるぞ?」
「……あ!?」
「突っ込みかけない二人に感謝するんだな。どうやって弁明する積もりだったんだ?」
「う……」
ルイズが唸っていると、ミシェルが徒歩で駆けて来て、空から衛士隊が降りて来る
「アニエス。陛下は無事か?」
「何だ、ジェラールか。ゼッザール殿を呼んだ筈だが?」
「ゼッザール殿は、今手が離せんのはアニエスも知ってるだろうが。俺で我慢しろ」
「そうか、陛下からの命令だ。タニアージュ・ロワイアル座を衛士隊で閉鎖。使い魔の可能性含めて、鼠一匹見逃すな」
「了解した、糞。後で教えろよ?」
「何、只の鼠取りだ。ミシェル、配置に付くぞ」
「ウィ」
二人して配置に付く為に劇場に向かって行くと、ジェラールが声をかけた
「ミシェル!!」
「何だ?ジェラール。任務中だ」
「最近暗いぞ?無理すんなよ?この任務終わったら、打ち上げ行こうぜ」
「大きなお世話だ。女の尻でも追い掛けてろ、アホウが」
「だから追い掛けてんじゃねぇか」
「ふん」
二人して中に入って行くと、ジェラールがブツブツ言っている
「ったく………俺がどれだけお前の為に……あんの馬鹿、俺が酒奢るのはお前だけだって、気付いて無いだろ?」
「ったく………俺がどれだけお前の為に……あんの馬鹿、俺が酒奢るのはお前だけだって、気付いて無いだろ?」 
ルイズはそんな事とは無関係にぽつねんと残され、封鎖命令のせいで帰る事も出来ず、事が終わる迄衛士隊に付き合う事になった

*  *  *
「ちっ、何時まで待たせるのだアイツは」
リッシュモンは苛立ちを隠す事なく、指でトントンと肘掛けを叩き、約束の刻限になっても来ない相手を待っている
今日の観劇は歌劇イーヴァルディ、丁度オーク達に追われた二人の王子と臣下達と、流れの剣士イーヴァルディが遭遇し、傭兵として雇わないかと問答してる最中、オークが追い付き、イーヴァルディがオーク達を全て斬り捨て、にこりと笑って契約を交した場面である
「くそっ、あのオーク共め、しつこい」
「こちらが全員魔力切れの時に遭遇とは、全く不運ですな、王子」
其所に舞台袖から一人の女剣士がてくてく歩いて来て、団体に話しかけた
「よう、なんかお困りみたいだね?あたいを雇わない?」
「ふざけるな!!女剣士だと!?女はさっさと逃げろ!!相手はオークだぞ!!」
王子がそう言ってる間にオークが追い付いてしまうと、腰に差した剣を抜いて女が軽やかにオークに駆け出し、あっという間に斬り伏せていき、オーク達の屍の上でもう一度喋った
「どう?雇わない?亜人魔獣退治に重宝するよ?」
王子達は息を飲み、頷いた
「雇おう、名前は?」
「イーヴァルディだよ。お大尽様」

基本的に冒険譚なのだが、ラブロマンスが多分に含まれてるので、女性に非常に人気が高い
なんせ、メイジでない女性がメイジに劣らぬ働きをしながら、王子二人に言い寄られまくるという、両手に花なお話だ
一度幕が引かれ、場面が切り替わる
今回は役者が大根揃いと言われており、イーヴァ(劇中の愛称)の踊りが最悪と酷評されているが、それでも定番である為、若い女性達が大勢詰め掛けている
場面は一隊を預けられたイーヴァが、先頭切って亜人の群れに突入し部隊が快勝する所で、副官として配置された男が、その軽やかに舞う姿に心底惚れる場面である
リッシュモンは暇つぶしに見ているが、待ち人はまだ来ない
そんなおり、一人の女性客が隣に座り込む
「ミス、そちらは既に予約されてましてな。まだ、来ておりませんが、出来れば別の場所に移動願えませんか?」
「いえ、あってると思いますわ」
その声にリッシュモンが振り向くと、平民の服を纏ったアンリエッタが居て驚く
その声にリッシュモンが振り向くと、平民の服を纏ったアンリエッタが居て驚く 
「此は此は陛下。御隠れになられたと聞いてましたが、此方に来る積もりでしたか」
「えぇ、たまには、皆を驚かしてみたくなるものですわ」
「さてさて、私は陛下の事では驚かされっぱなしですな。あの様な戦列艦と輸送艦の建設費用に、新旧エキューの通貨価値の統合なぞ、土台無理な話しでしょう?」
「あら、貴方の側から見ればそうでしょうね。なんせ、受け取る金(Au)の量が減りますものね」
その言葉に、リッシュモンは息を飲む
「……何時からご存知で」
「即位する前から。王不在でしたが、それでも政は回さねばなりません。ですから、資金繰りはずっと調べてましたのよ。まぁ、資金の流れで把握は出来ても、証拠が無くては逮捕は出来ませぬ。そうでは有りませんか?高等法院長」
「うむ、実に素晴らしい。その通りですな。陛下、私も若い時分よりトリステイン王家に仕えて来て、御幼少のみぎりより陛下を見て来まして、今程感激した事はございませぬ」
「私、トリステインに杖さえ向けなければ、不問にする積もりでしたの。何せ、リッシュモンは私の教師の一人ですし、祖国に忠誠を誓って働いて下さるなら、細かい事迄言う積もりは有りませぬ」
「実に寛大ですな、陛下。このリッシュモン、感激に打ち震えておりますぞ!」
実際に震えている
演技か本音かアンリエッタにも判断はつかない。が、視線は劇に投じたまま、更に言葉を紡ぐ
「アルビオンに幾ら貰ったのです?前回の私の誘拐の件、貴方が手引きしたと、証拠が上がりました」
「ほう、何処にですかな?」
「私が座ってる席の方ですわ」
「……本当に成長致しましたな。陛下」
「高等法院長リッシュモン。貴方を女王権限で罷免し、逮捕拘留致します。罪状は、女王誘拐並びに大逆罪。無罪の主張は裁判で行いなさい。大人しく、杖をお渡し下さいまし」
そう言って、初めてリッシュモンに振り向き、杖を渡す様に要求する
「確かに成長なされた。法に基づく完璧な行政手腕は見事に尽きますな。ですが、行為を成すにはまだまだお甘い!!」
パンパン!!
リッシュモンが手を叩くと、舞台で舞踏会で着飾った役者達が一斉に杖に向ける
「「「「キャー!!」」」」
「騒ぐな女共!!騒いだら殺すぞ!!」
リッシュモンのその言葉に、女達は沈黙する
「全く、大根役者ばかりなのは見てられませんわ。代役を希望致します」
そう言って、アンリエッタはため息を尽き、肩をすくめる
そう言って、アンリエッタはため息を尽き、肩をすくめる 
「何を言ってますかな?何れも劣らぬ使い手揃いですぞ、陛下?」
「ですから、代役を希望致しますわ。主役のイーヴァにね」
何故か舞踏会の音楽が演奏され始め、背中が大きく開いた真紅のドレスを纏った女優が一人、レイピアを両手に持って、舞台中央に歩み寄って行くと、気付いたアルビオンの連中が杖を向けようとした途端、一気に劇が加速する
ドレスを纏った短い金髪の女優は、メイジ達の懐に飛込むや、一気に相手の急所を的確に突き、他のメイジを盾にしながら魔法をかわし、次々に討ち取っていく
先程の女優と切り替わった事に、リッシュモンも気付く
「な……!?」
「やはり、イーヴァ役はトリステイン一番の剣士が、ふさわしいですわね」
そう言ってアンリエッタが微笑むと、全て討ち取った女優が優雅にアンリッタに一礼し、やっとリッシュモンも気付く
「……粉引き風情が!?メイジ殺しだと!?」
ガンダールヴの状態を常に見て、才人との稽古を繰り広げたアニエスには、メイジの動きなぞ余裕で見切れる
魔法回避訓練をして来た為、予測を越える行動をメイジ達がしてこなかったのだ
「さぁ、カーテンコールですわ」
ジャガガ
今まで怯えてた女性達が一斉に銃を構え、銃口を向ける
「……此は此は、素晴らしい脚本家になりましたな、陛下」
「では、杖を渡して頂けて?」
そう言って、アンリッタは既に杖を握っている
「だが、まだまだお甘い!!」
その言葉を契機に、アンリッタがしゃがんでウォーターシールドを展開するのと、多数の発砲音、それにリッシュモンの姿が消えるのが同時に起こる
ババババーン!!
後には黒煙が立ち込め、アンリッタはリッシュモンが逃げ出した事を確認し、ウォーターシールドに幾つか弾丸が当たっているのを確認し、身震いする
「ちょっと、身を晒し過ぎましたか。まぁ、後はあの三人に任せましょう」

*  *  *
「ふぅ、ふぅ、流石に肝を冷やした」
シールドの展開が遅れた為、かすった弾で、頭髪が少々持っていかれてる
緊急脱出路を速歩きで行くリッシュモン
流石に歳なので、走るのはキツイ
「だが、こんな事もあろうかと、こんな道を用意してるとは思わなかったみたいだな」
「らしいぜ、相棒」
「みたいだねぇ」
インテリジェンスソードを抜いて地面に刺している、見慣れぬ異国の装束を纏った男が立ち塞がっている
「退け、平民」
「嫌なこった。無理矢理押し通れ。アンタが隊長殿程強ければ、突破出来んぜ?」
「嫌なこった。無理矢理押し通れ。アンタが隊長殿程強ければ、突破出来んぜ?」 
「相棒は、姉ちゃんの珠の肌に傷が付くのが嫌なんだよ。素直に受け取れや」
その言葉を聞くと、デルフを抜いて構えるアニエス。長いがメイジ相手なら関係無いだろう
「貴様が後者を選んでくれて助かった。だから、堂々と私怨を果たせる」
「私怨、何の事だ?」
「タングルテール」
「タングルテール?………そうか貴様、あの村の生き残りか?わっはっはっは、こんな所迄追って来るとはな、だが、最早此処までの様だな?なぁ、ラ=ミラン?」
「此処までなのは貴様だ!!行くぞ、ミシェル!!」
「だ、そうだぞ?ミシェル」
リッシュモンの言葉に怪訝な顔を浮かべるアニエス
様子がおかしい事に気付き、柄に手をかけ走り出した才人
サーベルを抜いたミシェルが、アニエスの背中に振り下ろす動作が重なった
ドン!!
「あぅ!?」
アニエスが突き飛ばされ、その場で見たものは、サーベルに身を呈して投げ出し、右腕と右肩を犠牲に受け止め、血を流す才人である
左手は村雨に手を掛けっぱなしであり、何故か抜いてない
「無冠の騎士か、邪魔するな!!」
「いんや、邪魔するね。何か知らんが、俺はどちらにも傷付いて欲しくない。アニエスさん、さっさとリッシュモンを叩け。逃げ出すぞ?」
「し、承知!!」
アニエスが負傷した才人の背中に回り、リッシュモンをデルフを構えて睨み返す
「くっく、厄介な無冠の騎士は負傷した。後は貴様を片すだけだ」
「貴様、ミシェルに何を吹き込んだ?」
「何、本当の事を伝えただけだとも。粉引きを匿ったせいで、ミシェルの両親は刑死したとね。しかも粉引きはそんな平民を裏切り、自ら貴族になったと伝えただけさ。クックックックッ、こんな愉快な事は有るかね?ハッハッハッ」
「……殺す」
「死ぬのは貴様だ、ラ=ミラン」
背中合わせの才人は左手一本で村雨を抜き、左手でそのままサーベルを斬り捨てる
あっさりとミシェルは飛び退き、短銃を構える
ポタ、ポタ
地面に出血の痕が広がっていく
「今の聞いたろ?」
「無論だ」
「誤解がある、銃口を下げてくれ」
「何故しなきゃならない?」
「何故?」
「そうだ!!私の両親が死んだのは、あのアニエスのせいだ!!私は仇を討たねばならないんだ!!どけ!!退かぬのなら、貴様から殺す!!」
ミシェルが復讐に燃える目で才人を睨む
「復讐を果たしたいのは痛い位に解る。だが、本来の果たすべき相手は、そんな原因を作った相手だろう?」
「復讐を果たしたいのは痛い位に解る。だが、本来の果たすべき相手は、そんな原因を作った相手だろう?」 
「そんな事は既に知れている!!だが、アニエスも許せないんだ!!退けぇ!!」
狙いを定め、引金を引く
ダァン!!
銃口が火を吹き、才人が銃弾を受け止める
「くぅ、痛ぇな、畜生。使い魔でも、きっついわぁ」
痛みが引かないのは心が震えないからであり、其でも問題無く動けるのは、ガンダールヴだからである
「な、貴様なら避けれた筈」
「馬っ鹿、アニエスさんに当たったら、アンタが申し開き出来ないだろうが」
そう言って、腹に銃弾を食らったまま、一気に接近し、二丁目を構えたミシェルの右腕を右手で掴んで引っ張り、村雨を落としながら左手で右顎に掌打を打ち、そのまま右腕の関節を決めながら前に倒し、背中に乗って関節を決めながら制圧する
固め方は少林寺拳法の裏固めに近い
「あぅ!?」
「悪い、終わる迄我慢してくれ」
身体から脂汗と血を流しつつ、ミシェルに懇願する才人
ミシェルは、才人の血に染まって行く
そんな才人達の目の前で、アニエス達の決着が付いた
「タングルテールの民達の怨み、受け取れ!!」
「ふざけるな!!ラ=ミラン」
リッシュモンから魔法が放たれ、刺突の構えでデルフを構えたアニエスには魔法が届かず、剣が全て吸い込んで行く
「何だ?そのインテリジェンスソードは?」
カッカッカッカ、ドシュッ!!
ハイヒールが床を打ち鳴らす音から肉を刃物が貫く音
そして、返り血に染まって行くアニエス
真紅のドレスに更に赤い血が色鮮やかに染まって行く
「ゴフッ」
そのまま口からも血を吐き、崩れ落ちるリッシュモン
「終わったか?姉ちゃん」
「あぁ、デルフを渡してくれたお陰で、無傷で済んだ」
「その代り、相棒死にそうだねぇ」
「何!?」
アニエスが振り向くと、才人は青い顔して微笑んでいた
「馬鹿、なにやってるんだ!?」
カッカッカッカ
アニエスが近寄ると才人は首を振る
そのまま近くに転がってた村雨を片手で鞘に収めると、デルフを受け取り、力が戻る
「ミシェル、何であんな事を」
「……仇を、討ちたかっただけだ」
「今でもか?」
「そうだ」
「…私もだ。丁度良い、才人も聞いてくれ。この前の掛けの行使だ」
「…判った」
「タングルテールが全滅したあの日、私を助けてくれたのは誰か知らんが、首筋に火傷の痕がある男だ」
「その男が私を預けた孤児院はな、その男は知らなかったみたいだが、実態は売春宿と人身売買の巣窟だったのさ」
ミシェルもアニエスも黙って聞いている
「何年か経って10歳位の時か?商品にされるのが判って、気付いた時には逃げ出した。それで何日も森の中でさ迷った。その時に虫を食らって生き延びてた」
「幸運にも幻獣にも遭遇せずに何とか抜けて、一つの民家に辿り着いた。其がミシェルの家だったのさ」
「……」
「ミシェルの両親は親切だった。でも追っ手をきちんと放ってたんだな。私は捕まって、孤児院とぐるになってた法院は、ミシェルの両親を死刑にしてしまった」
「……嘘!?」
ミシェルが愕然とする
「本当だ。何故リッシュモンが詳しいか、疑わなかったのか?奴は目溢しする代わりに、商品を只で受け取って転売したり、商品の味見をしたりした屑野郎だ!!」
才人も気付く
「まさかアニエスさん」
「そうさ。奴に『味見』された後、売春宿に売り飛ばされたんだよ」
「…」
ミシェルも才人も声が出ない
「そして、違法な形態だった私が売られた売春宿を潰したのは、あの女好きのグラモン元帥だ」
「そうなのか?」
「あぁ。偶々客で来て、私の素性を聞いた伯爵に、次の日には私はグラモンの屋敷に連れて行かれた。そこで宿が潰されて、その先の人身売買組織も制圧したと言って、当時小娘だった私に、床に額付けて謝ったよ」
「…」
「『儂の領内でなんたる失策、誠に申し訳ない』ってね。その後はまぁ、生き抜く為に剣と銃をグラモンの訓練所で学んだ後は、そのまま衛兵になるのを断って、傭兵として転戦し、ミシェルと出会って、陛下に取り立てられ、今に至るって所だ」
「…」
ミシェルは完全に黙ってしまった
「ミシェル、私が憎いか?」
「……分からない」
「別にお前に討たれるのは構わない。だが、先にロマリアに礼をせねばならない。手を貸してくれ」
「私を……逮捕しないのか?」
「何を言う?私の右腕をもいだら、誰が私の右腕になるんだ?」
「…今は、謝らないぞ…」
「あぁ」
カッカッカッカ
軍靴が地面を蹴る音が聞こえ、一人の男が駆けて来る
「おい、銃声があった。大丈夫か………てめぇ!!ミシェルに何してんだぁぁぁぁ!!」
才人がミシェルの背中に乗り、制圧してる姿を見たジェラールがぶちギレ、わざわざフライで低空飛行して才人を思い切りぶん殴る
ドカッ!!
ドカッ!! 
才人はそのまま吹っ飛ばされ、地面に転がり、血の染みを更に広がらせる
「あれ?何時もの奴じゃねぇな?ミシェル無事か?何処も怪我してないか?」
そう言ってミシェルを立たせ、ジェラールは何時もの調子が全て吹き飛び、焦った状態で質問する
「あぁ、大丈夫だ。私がリッシュモンの魔法で錯乱したのを、無冠の騎士が制圧しただけだ」
「あ、そうだったのか?ま、良いか。アイツだし」
「もしも〜し」
「んだよ?ボロ剣」
デルフが我慢出来ずに声を出し、ジェラールが応じる
「そろそろ手当てしてくんないと、相棒死ぬんだけど?」
全員きょとんとしてから、慌てだした
「やべ、こいつ魔法使えないんだった。余りに強ぇから、すっかり忘れてた」
「こんの馬鹿たれ!!才人が死んだら貴様を殺してくれる!!」
返り血に染まったドレスでアニエスに両襟を掴まれ、思わずニヤリとすると、ミシェルに横から小突かれた
「さっさとレビテーションで運べ、役立たず。陛下なら治せるだろう?」
「あいよ、ミシェル。美女の命令なら喜んで」
「ったく。何処まで調子が良いんだ?貴様は」
ミシェルの呆れた声に、ジェラールが喜々として働き出した


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