マザリーニがガリアに到着する数日前 此方はゲルマニアの皇宮 建築様式から内装迄ごった煮になっていて、いまいち統一感がないのが特徴である 会議室にて交渉のテーブルに着いてるのは、ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世、対面はトリステイン女王アンリエッタ、其に使節団の面々と背後に護衛としてアニエスである 最も、銃は内股にしまい、儀礼用のレイピアを下げただけで、ドレスを着させられたアニエスは、何処かの貴婦人然としている アルブレヒト三世は二人の姿を見た時点で、鼻の下が正確に5ミリ下がった 大抵の男性なら、アルブレヒトの気持ちを支持するだろう トリステイン女王は、美貌すら外交の道具として使う気まんまんである 「では、同盟同士の詰めを行いましょう、此方をご覧下さい」 アニエスが書類を両使節に渡して行く中、すかさずアニエスに小さい文を渡すゲルマニア側の役人が居るが、黙ってアニエスは受け取るだけで、そのまま配って行く トリステイン側のペースで始まった模様だ 「ほう、侵攻計画ですか」 アルブレヒト三世が、書類の束を見て内容を確認していく 「はい、私共が矢面に立ちましょう、ゲルマニア側は側面支援をお願い致します」 「成程、封鎖作戦を敢行してから上陸か。負けがたい作戦ですな」 「はい。アルビオンは強大です。やはり一戦するならば、勝たねばなりません。ならば、準備は怠らない方が良いでしょう」 「どうすれば勝ちですかな?」 「レコンキスタ総指令クロムウェルの捕縛、あるいは殺害です。度々我が国に侵攻しており、あの条約破りをそのままにはしておけませぬ」 「成程。出兵理由としては、充分ですな」 アルブレヒトは重々しく頷く 領土を他国軍が何度も侵攻するならば、反撃しなければ国としての義務を果たせない アンリエッタの言い分は正に正当だ アルブレヒト三世は同盟の求めに応じる必要が出来た事を、率直に認める 「トリステインが矢面に立つと言っても、我が国も軍事同盟の条約に従い、出兵しましょう」 「有り難うございます。では此方をご覧下さい」 渡したもう一つの書類をゲルマニア側に示し、ゲルマニア側が読み進める内に、ざわつきが起きる 新旧エキュー固定に伴う為替条約の希望だ 「これはこれは、思い切りましたなぁ」 アルブレヒトは思わず苦笑を浮かべ、アンリエッタの手腕に内心舌を巻く 何故なら、国内資金の調達を理由に、同盟国に為替固定を要求するのは理に叶っている 「いやいや、こんな要求された事は初めてですが、いや、此は中々……我が国と違って金が産出しないとは、大変ですな」 トリステインとアルビオンは金が産出しない 産出地域はゲルマニアとガリア ロマリアも産出していたが、既存の金鉱脈は既に堀り尽してしまっている 「同盟国として、承認して頂けますね?」 アンリエッタが色気を伴い、にこりと微笑む 「……まぁ、良いでしょう。他国とのレート固定が条件ですな、レートに付いては更に協議と言う事で」 「良いでしょう。では一度会議を中断で」 アンリエッタがそう言うと、全員立ち上がり各々の控え室に帰って行く * * * 控え室では、ゲルマニア側並びにトリステイン側が、情報の交換を積極的に進めている 「クソッ、あの小娘め。まさか為替をいじりに来るとは思わんかったわい」 控え室でバンと机を叩き、憤慨するアルブレヒト三世 「中々やるようですな。今回の女王は」 経済軍事に精通しており、トリステインとの最前線に位置するツェルプストー伯は、今回皇帝の呼び出しにより、会議に参列している 「クックックッ、アッハッハッハ!!貴卿を呼んで良かったぞ。その通りに運べ。あっさり決めるなよ?出来るだけ勿体ぶれ」 「御意」 * * * 「ふぅ、やはりあの男は苦手です」 ドサリと椅子に腰掛け、溜め息をつくアンリエッタ アニエスも座り、難しい顔をしている 「陛下。私をなんだと思っておるのですか?私は剣ですよ?使い方を間違っております!」 「何を言っておるのです?剣そのものが美しいのなら、使える物は使うべきです。そうですね、才人殿が持つ剣みたいに美しいですよ?」 思わずアニエスは口をつぐみ、ミシェルは無表情で立っている 後は事務方のスタッフ達だ 「で、どうですか?感触は?」 アンリエッタに聞かれた為、スタッフが答える 「感触としては5分ですね。向こうも為替固定条約は寝耳に水らしく、驚きを隠せない模様でして」 「長引きそうですか?」 「まぁ、2〜3日は覚悟しましょう」 「良いでしょう。マザリーニがガリアに到着する迄、まだ時間が有りますし。先程アニエスは、何を受け取ったのです?」 アニエスはぴくりとする 「…良くお気づきで」 「たまたま、角度的に見えただけです」 「そうなのですか、では………あ〜参ったな」 アニエスは読んだ後、渋面を浮かべている 「何が書いてあったのです?」 「今夜のダンスの申し込み……要はナンパです。ったく、これだからゲルマニアの男は……」 トリステイン女王の来訪という事で、舞踏会が設定されてるのだ 特に珍しい事ではない 「あらあら、ロマリアなら10倍になりますわね」 そう言って、アンリエッタはクスクス笑う アニエスにしては、迷惑極まりない 「私としては、良くぞ引っかかってくれたと言うべきですね」 「はっ?」 アニエスが、思わず間抜けな声を出す 「トリステインの外交の本番は舞踏会です。我が国に咲き誇る花々に、果たしてゲルマニアの蜜蜂は黙っていられるかしら?」 * * * トリステインの使節団が舞踏会に招かれ、思い思いのドレスに身を包んだ女性達が登場し、ゲルマニアの男女共に歓声が上がる 護衛で連れて来ている銃士隊の、特に粒の良い隊員を選抜して、今回のゲルマニア行に同行させているのだ 何気に隊長と副隊長が、選抜であっさり選出されている 選抜したのは衛士隊と国軍の兵士で、練兵場が美女達の競演の場になり、大いに盛り上がったのである 喜々として仕切ったのは、勿論ジェラール率いるヒポグリフ隊である ミスコンと呼ばないのは、ミセスも含まれて選抜されてるからだ 選抜会場を閲覧したアンリエッタは、余りの熱気に呆れたものである 「なんなんですか?この盛り上がり?」 「いやぁ、陛下。やっぱり普段制服ばっかだから素の彼女達を見たいって野郎が多くて」 「‥はぁ」 ジェラールの物言いに、アンリエッタも曖昧に返す 「…はい、次は鋼の隊長ことアニエス……おおお!?」 例のセーラー服姿で登場したアニエス 「なんと、水兵服で登場………しかしこれは………なんてけしからん!!」 歓声が一気に跳ね上がり、アニエスは戸惑いの表情を浮かべる 「…やっぱりやり過ぎたか……」 「ばばぁ、結婚してくれ〜〜〜!!」 その声を聞いた瞬間、ジェラールが意を汲んで石を渡し、アニエスが投げつけ、見事に当たる 「ストライ〜ク。いやぁ、アニエス殿。随分思い切りましたな、これは誰のアイデアで?」 司会進行役のジェラールが興味津々で聞くと 「男だ。残念ながら私は売約済みだ。他の連中を選んでくれ」 その言葉に、会場中ががっくりしたのである そして、2位との間にダブルスコアを叩き出してしまった つまり、現在の舞踏会に居るのは、誰が見ても振り返る美女達である 本来は平民が舞踏会に出席するのは叶わない筈なのだが、ゲルマニアは平民から貴族になれるお国柄であり、舞踏会主賓のトリステイン使節団である点を、アンリエッタは最大限に利用した さて、此処からが、銃士隊の調査能力の完全発揮である 寄って来た男達からダンスを申し込まれると、受けてそのまま踊りだす そして、一人一人からダンスの合間に少しずつ、情報を聞き出すのだ 最も、この手の調査がとっても苦手な二人、アニエスとミシェルの調査能力は殆どない 相手から勝手に喋り出すのを待つだけである それ以前に、アニエスは男に手を取られると鳥肌が立ち、ミシェルは思わず顎に一発叩き込んだ それを見たアンリエッタは、密かに溜め息をつく 「随分と、荒々しい花が混じっておりますな」 「あら、ツェルプストー伯」 アンリエッタに、ダンスを申し込む勇者は出ていない 完全に、別格扱いである そんな中、ツェルプストー伯がグラス片手に寄って来たのだ 褐色の肌に分厚い胸板、赤い髪に赤い髭 そして、頬に刀傷 貴族と言えども、常に戦場で立ってた証である 当然、主な相手はヴァリエールである 「いやぁ、こうしてゲルマニアとトリステインが、同じテーブルに着くのは感慨深いですな、陛下」 「そうですわね。特に貴方にはそう感じるでしょう?私もツェルプストー伯の勇猛な戦話は、聞いておりまする。先代ヴァリエール公を、討ち取られたとか」 「はっはっは、あれは運が良かっただけですな。まかり間違えば、討ち取られたのは私の方だったでしょう」 謙遜ではなく、気負いも無い ただ事実を事実として話している 「それにあの時は更なる手練と遭遇しましてな。奴に見逃されなければ、我がツェルプストーが終わっていたでしょう。ほれ、この傷がその時のです」 そう言って、頬の傷を指で撫ぜる 「こうして戦の生き証人と話すのは、とても勉強になりますわ。今後も仲良くして下さいまし。特にヴァリエールとお願いしますわ」 すると、顔をしかめるツェルプストー伯 「奴とは、戦場でついぞ、決着が着きませなんだ。出来れば、あの時の続きをしたいと、思ってる次第なのですよ」 「ゲルマニアの武人は、歳をとっても血気盛んですのね」 アンリエッタがクスクス笑いながら返すと、ツェルプストー伯も笑いを返す 「奴のブレイド捌きは素晴らしかった。あれを越える騎士は見たこと無い」 「まぁ、ヴァリエール公も凄いお方でしたのね」 好敵手を褒める言葉に偽りはない 例え宿敵だろうとも、いや、宿敵だから良い所が分かるのだろう 「基本的にツェルプストーの発展はヴァリエールのお陰ですからな。奴らが強かったので、我らも先祖の頃より、あがいた結果なのですよ」 世間話をしながら、相手の腹を探る狐と狸の化かし合い そんな中、一旦音楽が切れ、ダンスをしていた男女がテーブルや隅、それにバルコニーに散る そしてタイトなドレスに身を包んだアニエスが中央に進み出、両手にレイピアを持っている そしてふわりと柔らかく身体を沈めると、ポロンと音が響き、それに合わせて華麗に剣の舞姫が舞い始める 其を傍らで見ていたツェルプストー伯とアンリエッタ 「ほう、正に物語通りの余興ですな。トリステインも、凝った仕掛けをして下さる」 「あら、ツェルプストー伯、原作をお読みになった事が?」 「えぇ、一時期ハマったものですよ。ですので、先の事もわからなくも無いですな。誰か…」 ボーイを呼び、指示を伝えるとボーイが下がり、別の男の元に向かうのが見える 「あら、でしたら、この先はゲルマニア次第と言うのも解りまして?」 「でしょうな」 二人共、音楽に合わせて舞うアニエスを見ている そこで音楽がバイオリンソロに切り替わる瞬間、アニエスは素早く周囲を見渡し、レイピアを中空に放る パシッ 受け取った男は、赤毛の長身の青年である そのまま青年が進み出ると、アニエスとレイピアを合わせて、同じく舞い始めた カシィィィン アニエスの舞に合わせてレイピアでの剣劇 本来の舞姫は、原典は男女で踊るものである そして忠実に再現された舞に込められた意味を、ツェルプストー伯がいち早く知り、指示を下した訳である 踊りの意味は、ゲルマニアとトリステインの融和 だから相手は、ゲルマニア人でなければならなかったのである そして男が舞ながら離れ、またアニエス一人になり、フィナーレを決める そして歓声と拍手の音が鳴り響いた 「「ブラボーッ!!」」パチパチパチパチ 歓声と拍手のなりやまぬ中、相方を努めた相手に握手を求めるアニエス 赤毛の青年は、気さくに交わす 「助かった。実は誰も応じないかと、ヒヤヒヤもんだった」 「いえ、私も貴女の様な方と踊れて嬉しかった。出来れば名前をお伺いしたい。私の名はカール」 「姓を名乗らぬのか?私はアニエス=シュヴァリエ=ド=ミランだ」 「まだ修業中の身でね、名乗りを挙げられる程では無いんだ。貴殿がトリステイン初の平民上がりの貴族か。では、お近づきの印に、この後二人きりで祝杯でも」 そう言って、肩に手を掛けようとしたのだが、アニエスがするりと身をかわす 「残念だが任務もあるし、間に合っている」 「こんな素晴らしい女性を荒使いするとは、トリステイン女王も人使いが荒い」 不発に終わったカールは、そのまま肩をすくめて大げさに溜め息をつく 「悪くは無いぞ、カール。出会う順番が悪かったな」 「おや、先約が居るのか?」 「まぁな」 「そいつは燃える」 そう言われたアニエスは、そのままレイピアをボーイに渡すとアンリエッタの前に進み、スカートを持ち上げて礼をする 「良くぞ、舞ってくれました」 「いえ、あのカールという男のお陰です」 「素晴らしい舞でしたな、ミス」 ツェルプストー伯が称賛の声を贈ると、アニエスがツェルプストー伯に一礼する 「アニエス、此方がツェルプストー伯爵です」 「貴卿が……娘さんには、お世話になりました」 「ほう、キュルケに会ったのですか」 思わず眉を上げて応じるツェルプストー伯 「はい、任務で助けられる事、しばしばでした。トリステインとゲルマニアの同盟の賜でしょう」 「中々に上手ですな。あの色恋にしか興味ない娘がどの様に役に立ったか、私も知りたい所ですな」 振り返るとアンリエッタが頷いている 「では…」 そう言うと、アニエスとツェルプストー伯が離れて行く アンリエッタは自分が撒いた花々が、上手く咲く事を期待して、ゲルマニア名物の黒い麦酒を煽った * * * 翌日 朝方に帰って来た隊員とそうじゃない隊員 それにスタッフ達とアンリエッタが集合し、朝食を取りながら、情報のまとめを行っている 「私の所はハズレ。何も無し」 「同じく〜」 「隊長は?」 「何か一方的に話してた気がする。ツェルプストー伯に、上手く利用されたかも知れん」 「隊長そう言うの、本当に下手くそねぇ」 皆で、かんらかんら笑いながら、アニエスのお粗末さを笑っている 「はいは〜い。交渉の時のスタッフと接触出来たよ〜。飲む方向で検討みたい」 「良し!!」 スタッフ達が思わずガッツポーズをする ガチャ 「ただいま〜。あ〜眠い」 一人の銃士隊員がドレスを纏ったまま、眠い目を擦りながら入って来る 「アメリーお帰り。収穫は?」 「財務卿と朝までコースだよ。あんの髭親父、寝かしてくれないんだもん」 「具体的には?」 アニエスが聞くと、アメリーがニコッとしながら答える 「やだ隊長、そんなに褥の中味聞きたいの?」 その言葉に、スタッフ達がドヨッとする 「情報の方だ、たわけ」 「んもう、ばっちり。焦らして焦らして焦らせまくったら、ペラペラ喋ってくれましたよっと。罠に掛ける気満々みたいよ」 「具体的には?」 「ツェルプストー伯とアルブレヒト三世しか、知らないみたい」 するとアニエスに視線が集中し、アニエスが渋い顔をする 「スマン、どうやらやられたらしい」 「ええぇ〜〜〜?私、やられ損?」 アメリーが、恨めしげにアニエスを見る 「本当に悪い」 「やっぱり、海千山千の歴戦貴族は手強いですわね」 ここでアンリエッタが発言し、皆の注目が集まる 「アメリー。貴女だけ、大変な任務をこなして頂きました。礼を言わせて下さい」 「あぁ、構わないですわ、陛下。何だかんだで、私も楽しんだし。スタミナバリバリだったもんね、あのおっさん」 「さて陛下、どうします?」 スタッフから聞かれ、アンリエッタは結論を出す 「勿論、毒事喰らいます。我らには、それしか道が有りませぬ」 「「「「ウィ!!」」」」 ガタタ 全員が食事を中断して立ち上がり、一斉にアンリエッタに対して敬礼を行った * * * 以降の会議は引き延ばしと利率の調整である 「では仮に締結するとして、レートはどの位ですかな?」 「では0.9で如何でしょう?」 アルブレヒト三世が聞くとアンリエッタがニコリと返す 同席しているツェルプストー伯や財務卿は思わず息を飲み、そしてツェルプストー伯は笑いを噛み締め始めた 「クックックッ、中々どうして」 だが、面食らったアルブレヒト三世はそれ所ではない 「ふ、ふざけないで頂きたい」 「あら、飲んで頂けるなら、私共としては万々歳なのですが」 トリステインのメインの輸入物資は硫黄,鉄鉱石,石炭,更に風石,綿に麻である 国内産出分では賄えない量を、ガリア並びにゲルマニアから輸入している 当然価値が上がった方が、輸入には有利であるが、輸出には不利になる 輸出品は主にワイン、小麦,羊,牛,豚等だ 農産物がメインであり、高緯度であるゲルマニアの食料生産を補助する分が、輸出されている 現在トリステインが欲しいのは産業分野である為、為替高騰は歓迎される だが、ゲルマニアには堪らない交渉だ 只でさえ、新レートベースで考えると2/3の値段で買い叩かれ、農産物は1.5倍の値段で買うハメになる 更に為替条約の交渉で0.9倍したら、1.67倍の値上げと、4割引での販売になってしまう ガリアから輸入するのもありだが、運賃の関係でトリステインから輸入するのと余り変わらず、それにガリアは現王の方針か、ゲルマニアとの貿易はそれほど熱心ではない 空路は無論、海路でもだ 陸路では隣接部からの貿易は野盗に邪魔される為、小国であるが為に、ある程度警備の届いてるトリステイン程、安全に運搬出来ないのだ ハルケギニアの輸送手段は、基本的に命がけである 雇った護衛が野盗である事もしばしばだ 奪われた荷物は野盗を経由して卸される為、かさが減り値段が釣り上がる くれてやるよりか格段に良いが、やってる事は横暴そのものだ 最も、外交とは5が必要とすると、10を要求して6〜7得られれば大儲けが基本なので、トリステイン側の要求は別段不自然ではない だが、金本位をひっくり返す目論見で行われる交渉は初めてであり、流石に意表を付かれた訳である 「……一旦、協議させて貰う」 アルブレヒト三世がかろうじて、そう言い 「では同盟国として、素晴らしい返事を期待してますわ」 アンリエッタが返す 交渉は更に続きそうだ * * * 一旦別れた両国は、協議を行っている 「クルデンホルフ使節団から報告。1.25で締結」 「あら、ヴァリエール公ともあろうお方が、随分手加減なされてますわね」 アンリエッタの言い分に、スタッフが意見をする 「妥当と思いますが」 「‥理由を」 「はい、短期利益より、長期利益を優先したんだと判断します」 「つまり、交際費用ですか?」 「はい、それにクルデンホルフの資産は膨大です。我が国の国庫に大量の金が転がり込むでしょう。支出の仕方を考えないと、一気にインフレになります。それでは意味が有りません」 「‥成程、了解です。支出方法は?」 「産業育成と人材育成に支出が一番かと。一時金等で金を出すだけでは意味は有りません。貴族から平民に、貯蓄が移るだけです」 アンリエッタが少し考えて、言う 「では、私がやってるゼロ機関への支出は?」 「私は詳しくは存じませんが、仮に新しい産業が産まれると言うなら、成功と言えるでしょう」 「解りました。では、マザリーニは?」 「まだガリアに着いてないようです」 「成程、更に掻き回しましょう」 女王の貫禄を身に付けつつあるアンリエッタ そのまま協議を続ける * * * 「ふぅ、結婚しなくて正解だったわい」 ドサッ 乱暴に腰を下ろし、アルブレヒト三世が苦笑する 「女王として、中々やりますな」 「あれでは、尻に敷かれるわい」 ツェルプストー伯の発言に、アルブレヒト三世は汗を拭いながら吐き捨てる 「で、昨日の舞踏会では何か得られたかね?伯爵」 「そうですな、何やら新しい事をしているらしいですな。ツェルプストーとしては、一枚噛みたいものです」 「…ゲルマニアとしてでは無いのだな」 アルブレヒトの皮肉も、ツェルプストー伯は涼しげだ 所詮、利害関係のみで繋がってるのがゲルマニアであり、常に戦国の気配が香るのだ 隙を見せれば、分離独立すらあり得る 「少しは国にも融通しましょう」 「…ふん、まぁ良い。財務卿」 「はっ」 「どうだ?」 「素晴らしい一夜を」 「………やられたな、流石一筋縄ではいかぬ」 ツェルプストー伯の言い分に、アルブレヒトは財務卿を見る 「相手はトリステイン人か?」 「肯定です。陛下」 「ふん、女の使い方が上手いな。財務卿、貴卿に詳しく話さず良かったわ。お陰で楽しんだだろう?」 「肯定です、陛下。お陰で憂いなく楽しめました」 「で、トリステインの狙いは解るか?」 「はっ、大体1.0〜1.15の間かと」 「…ふむ、最大限引き上げるぞ。では、第2ラウンドと行こうか」 アルブレヒトの号令に、ゲルマニア側が立ち上がった * * * 更に翌日迄会議は白熱し、転機が訪れる マザリーニのガリア到着と、ガリア王の条約承諾発言である トリステイン側から情報がもたらされ、ゲルマニア側が一気に難しい顔をする 「ガリアでさえ承諾して下さるのですから、ゲルマニアも同盟国ですし、承諾して下さいますよね?」 アンリエッタがトドメを放つと、ゲルマニアが協議の為中座を要求し、一旦幕が降りる 「くっ、これ以上の引き延ばしは無理か」 アルブレヒトが言うと、ツェルプストー伯が心底感心して言う 「本来は三国集めてやる所を、時間の都合とは言え、2国間交渉を有機的に繋げて、互いのカードにするとは、あの宰相の仕事ですかな?」 「マザリーニか?奴ならやるだろうよ。鳥の骨と嫌われてるが、本当に嫌ってるのは、我々外国の政府だ」 その発言に、財務卿とツェルプストー伯が苦笑する コンコン 「入れ」 ツェルプストー伯が促すと、ドレスを着たアニエスが入って来る 「失礼致します、ゲルマニア政府の皆様。陛下より申し遅れた事が有ると、伝言を伝えに参りました」 「申してみよ」 アルブレヒトが応じると、アニエスは簡潔に報告する 「クルデンホルフも飲んだと」 「……了解した。下がってくれ」 パタン アニエスが去っていくと、アルブレヒトは盛大に溜め息をつく 「…詰みだな。財務卿」 「はっ」 「同盟の名の元に飲む。但し1.1だ、これだけは譲れん。じゃなきゃ、ご破算だ。書面作成後、向こうに宣言して来い」 「ヤー」 急いで取り纏めて財務卿が退出すると、ツェルプストー伯とアルブレヒトがスタッフと共に残る 「後は頼むぞ、伯爵」 「御意」 * * *