失策、策謀、反撃
封鎖戦が開始されて一週間が経過している
「戦況はどうなっている?」
「はっ、現在芳しく有りません。敵の封鎖を時々抜ける商船が命綱です」
「だから、其を何とかしろと言っておるのだ!!」
バン!!
机を叩いて激昂するクロムウェル
当然である
苦労して物資を運んで貰うと、トリステインの哨戒網を抜ける商船に非常に高い金を払わされるのだ
さっさと包囲を解かねばならない
「ですが、通常型戦列艦には、竜騎士を搭載するスペースが有りません。輸送艦を出せば良い的になり、竜騎士単体で飛行させて追随させると、戦場に着く前に消耗してしまい、幻獣騎兵の的になってしまいます。竜騎士の巡航以下の低速は、逆に消耗するんですよ」
生物にも、元来快適な移動速度が有る
低速は上昇気流を掴めない場合、旋回待機であっても、常に羽ばたく必要が有る
戦場で上手く上昇気流が有れば良いが、下降気流の場合も有る
ホバリングでも燃料を消費するヘリやVTOL機と、生物と言えども変わらない訳である
「ならば、輸送艦を後方に待機させて使え。少しでも距離を縮めろ」
「イエス・サー」
「威力偵察の結果はどうなっている?」
「はっ。ゲルマニア側がハルデンベルグ。ラ=ロシェールがド=グラモン。ガリア側がド=ポワチエが指揮官と判明。ゲルマニアは艦艇、竜騎士共に多く、手出し出来ません」
「ポワチエとグラモンの技量はどうだ?」
「はっ、ポワチエは堅実、グラモンは有機的艦隊運用を得意としており、どちらも攻めるには中々キツイかと」
「やり易いのはどれだ?」
「はっ、セオリーから外れないポワチエかと。グラモンは、何をやらかすか分かりません」
実際に、イビられまくった事を思い出したのだろう
額に縦筋が浮いている
「ふん、やはりラ=ロシェールの壁は厚いか」
ガチャ
ノックもせずにシェフィールドが入室し、クロムウェルに書類を渡す
すると、読んだクロムウェルの顔に、笑みが浮かんで来る
「次の指示が有るまで、そのまま定期的に竜騎士も用いて攻め立てろ」
「サー、イエス・サー」
カッ
報告士官が敬礼して退室すると、シェフィールドに指示を下す
「ホレイショとワルドを呼べ」
頷き、退出するシェフィールド
暫くすると、ロイヤルソブリン級機動艦隊司令ホレイショと、同機動竜騎士隊隊長ワルドを、シェフィールドが案内して入室してくる
本来ホレイショはレキシントン参謀だったのだが、改装に合わせた出張中にレキシントンが出撃し、そのまま敗北してしまった為に空位になってた所を、その後の新造艦隊建艦の際、司令に任命されている
長引いた内戦で、士官不足は深刻なのだ
一々更迭などしてたら、兵を指揮する者が居なくなる
「僕をお呼びですか?総司令」
ワルドは無言で、ホレイショの後ろに付いている
「貴官の前任艦である、レキシントンの敵討ちの日程が決まったぞ。艤装はどうなっている?」
「そうですね、二番艦にして旗艦ヨークは終了。物資の積み込みだけです。三番艦ゴータは砲搭載70%、四番艦ハンプシャーは、左砲のみ終了って所です」
「先ずは急がせて、ゴータ、ハンプシャーを竜母艦にしてバランスを取れ。それで何とか出撃しろ」
流石に司令としては承服しかねる
ホレイショは当然抗議をする
「ちょっと無謀です。そんなに急ぎですか?」
「急ぎだ。此を見ろ」
二人はその書類を読み進める内に、納得する
「成程。此は予定日の変更が利かない」
「全くだ。少しは、我々の事を考えてくれれば良いのだが」
二人の言い分は、軍人としてはもっともである
だが外交上、無理を通さないといけない時が有るのだ
「贅沢を言うな。表面上は中立国の側面支援だ。そこまでこちらの思惑通りには、進められる訳無かろう?」
「今は苦しい時ですね」
ホレイショが恰幅の良い身体を揺すって笑い
ワルドは無言で対応する
「命令だ、この日迄に出撃準備を行い、足りなかった場合はそのまま出撃しろ。今は作業員を使い潰しても構わん。奴らにはこの急場を凌いだら、休暇を取って良いと伝えろ」
「「サー、イエス・サー」」
カッ
踵を合わせ、二人は敬礼して退出する
カッカッカッカッ
廊下を軍靴が蹴る音が響き、退出したホレイショとワルドが並んで歩いている
「ワルド殿、貴殿の竜騎士隊は、トリステイン式に弄りましたか?」
「いえ、止めました。彼らはアルビオン式に慣れきっていて、変更するとバランスが崩れて、騎竜操作が危うくなります。ランスが一番必要な、格闘機動の阻害になるんじゃ、本末転倒です」
「あはは、一朝一夕には上手く行きませんね」
ホレイショがそう言って笑い、ワルドも苦笑する
「まぁ、僕達は下手すれば、ボーウッド殿と戦うかも知れませんねぇ」
「ほぅ、何故です?」
「ボーウッド殿は、王党派だったのですよ。捕虜になってしまえば、レコンキスタの命令に従わなくて済むから、万々歳って思ってるかも」
「それは、捕虜交換でも、帰って来そうに無いですな」
ワルドも笑い、互いが育った互いの敵陣営に身を寄せる皮肉を感じている
「では、僕らは部下と作業員に酷い命令をして恨まれた後は、酒と女で出撃迄は溺れましょう。暫くは、禁欲生活ですからね」
「ですな」

*  *  *
ホレイショとワルドは部下と作業員達に命令を下し、半舷上陸と出撃迄の馬鹿騒ぎを許可した後、ホレイショは娼館に向かい、ワルドは自分自身の官舎に戻る
ホレイショは、数少ない娼館を使う高級士官である
ガチャ
「お帰りなさいませ、ワルド様」
そう言って、いち早くレイチェルが小走りで寄って来て、ワルドのマントと軍杖を受け取り、ソフィーが冷やしたワインを持って来る
ワルドは受け取るなり一気に流し込み、もう一人が居ない事に気付く
「ローザは?」
「買い物です。私達も、大分節約生活に慣れて来ました」
ソフィーはそう言って笑い、ワルドも苦笑する
「一応高級士官扱いだから、給料はそこそこな筈だが?」
「あら、女は色々物要りなんですよ?」
レイチェルがそう言ってコロコロ笑い、ワルドは苦笑する
ワルドは女達の明るさに、ともすれば自身のトラウマの部分を思い出し固くなる所を何度も救われた様に感じている
それに、考える余裕も与えてくれなかったりするのだが
「…飯は?」
「ローザが帰って来てからです」
「俺が主人では無いのか?」
「まかりません。一緒に食べないと駄目です」
ソフィーはそう言って、断固拒否する
「判った判った。此じゃ、どっちが主か解りゃしない……うぁっ!?」
チュピ
いつの間にかレイチェルがワルドの股間に顔を埋め、ワルドの息子を頬張っている
「お先に頂いております。ワルド様」
そう言って、レイチェルは股間からワルドの顔を見上げ、にこりと微笑む
「…好きにしろ」
「はい!」
色事に付いては、この女達は全く言う事を聞かない
流石に辟易して止めろと言って杖を持ち出したら、三人がかりで逆に制圧されてしまい、寝る事すら許されなかった時以来、好きにさせるのが、一番被害が少ないと学習したのである
娼館に比べれば、遥かに楽且つ安心出来る為か、ワルドは休ませて貰えない
娼館滞在時の話はタブーだ
ソフィーもローザも口が堅く、レイチェルも多くは語らない
ワルドも特に聞き出さぬまま、好調に関係が続いてる様に見える
ワルドが勃起すると、レイチェルはいそいそと向きを変えてスカートをめくり、何も穿いてない尻を押し付けた後、ワルドの一物を掴んで案内し、一気に挿入する
「ふっ、ん」
ズチュ、ズチュ
レイチェルが自ら尻を振り、ワルドに押し付ける
すると、我慢出来なくなったワルドがレイチェルの腰を掴んで振り始める
「ふっふっふっふっ、うぉ」
ワルドがレイチェルの腰を固定して硬直してると、ローザが帰って来た
「ただいまっと。ワルド様、お帰りなさいまし」
「……あぁ、ふぅぅぅ」
レイチェルはそのまま膣を締め上げ、ワルドのモノを誘い、動き出す
「ん……もっと」
翻弄されているワルドにそのままキスをすると、ローザはソフィーに食材と買って来た物を渡す
「はい、掘り出し物手に入ったわよ?なんと、ガリアの香水よ?」
「え?嘘?トリステインと開戦して以来、品薄なのにどうして?」
「偶々よ偶々。型落ちの在庫処分品が格安で手に入ったの」
そう言って、二人してきゃいきゃいしながら、料理を始める
三人の内、一人がワルドの相手をし、後の二人が家事をする
この状態でずっとやっており、ベッドの上だけ4人一緒だ
そして食事が出来ると、ワルドにのみワインが供され、少々質素だが、栄養充分な夕食を取る
問題は、不味い事であり、目下のワルドの悩みの種である
トリステイン人のワルドの舌には、非常に粗末なのだ
だが、朝食だけは美味いので
「朝食は美味いな。毎回朝食出してくれないか?」
ワルドがそう言って、三人は満面の笑みで毎回同じメニューを一週間続けて出し、ワルドがとうとう降参したのだ
「…私が悪かった。味は要修行で構わんから、もうちょいバリエーション増やしてくれ」
アルビオン人に食事の味を期待してはいけないのを、痛烈に感じたワルドである

*  *  *
今日はレイチェルの日であり、レイチェルと一緒に風呂に入って、小柄なレイチェルを上にしながら湯船に浸かり、レイチェルは義手を外して綺麗に洗い、接続部の腕も綺麗にした後は、ワルドの上でちゃぷちゃぷやっている
「ねぇ、ワルド様」
「何だ?」
「戦争……勝てますよね?」
「無論だ」
「そうですよね?何て言っても、ワルド様が参戦してるんですもの。もう、無いですよね?また、無くしたりしないですよね?また……家……ひっく、ひっく」
話してる内に、感極まってしまったのだろう
レイチェルはえづいてしまい、言葉にならない
「大丈夫だ。我が野望は、まだまだ此からだ。こんな所で、躓いたりしない」
レイチェルはその言葉に、はにかみながら笑みを浮かべ、新しい家族を産み出す営みに、精を傾ける

*  *  *
ベッドの上では、四人共に全裸であり、肌を寄せ合っている
地上3000メイルの高地では、真夏とて夜は気温が一桁になり、寒い
そして、女の柔肌と香水の匂い、それに複数の女の匂いが混ざり合い、ワルド本人の意思を無視して、軍杖は常に戦闘態勢を誇る
男の生理は、複数の女相手だと、本人の意思はともかく、非常に勃起し易い
「ワルド様……」
お互いに語る事は少なく、口は相手の性感帯を啄む為に動かし、吐息とくぐもった喘ぎ声が寝室に響く
「はぁ…うん」
ローザがワルドの上に重なり、ひたすら腰を動かし、ワルドは堪らず射精する
「うぁ、出る」
ワルドが腰を掴むと、ワルドの気やりに合わせて固定する
「はぁ……もっと下さい」
「いや、勘弁してくれ」
すると膣がうねりだし、ワルドの身体を両サイドから二人が攻め
袋をソフィーが舐めつつ、更に尻の穴迄触られ、一気にいきり勃つ
「うぁ!?」
「はい、交代交代」
とん
「やん」
ちゅぽん
ソフィーがローザをとんと押しどかすと、音をたてながら離れ、すかさずソフィーが挿入する
「あ、ん」
そのまま一気に腰を艶めかしく動かし、ワルドが余りの刺激に身体がガクガク震え、構わず三人で攻め立て、ワルドはそのまま射精する
「はぁ…素敵ぃ」
ワルドはそのまま、口を開く
「おぁ、相変わらず激しいな。出撃が決まった」
「いつですか?」
「1週間後だ」
三人はそのまま無言で、ローザが口を開く
「御武運を」
「………あぁ」

*  *  *
「ったく、アイツ、いつの間に女作ってんのよ?」
フーケがブツブツ言いながら、竜騎士隊の出撃準備の為に、物資の手配と搬入経路、作業員の確保でロサイスの機動艦隊の係留バースに立ち寄っている
その隣をゴーレムとメイジのコンビが砲身と弾薬、砲弾の箱を大量に運んでおり、軍港は非常に活気に満ちており、進空後に工事している艦からは、トンテンカンテン槌の音が鳴り響く
そんな中、旗艦ヨークの司令室に向かい、ノックすると、司令は居たようだ
「入れ」
ガチャ
「失礼します。機動竜騎士隊隊長副官フーケ、竜騎士隊の件で物資の納入の打合せに参りました」
部屋に入ると、猛烈に女の香水が漂っている
どうやら司令から漂って来てる
『ったく、どいつもこいつも』
フーケが入ると先客が居たらしい
顔面に火傷の痕を持った筋骨隆々の、一目でそれと判る雰囲気を漂わせている男が居た
『こいつ……傭兵。しかも歴戦だ』
「ワルド子爵は?」
「遅刻と連絡入りました。どうも、腰痛らしいです」
「そうですか。ワルド子爵も大変でしたか。ですが困りましたね。こうやって、顔合わせの為にメンヌヴィル殿に待って頂いたんですが」
その言葉に、フーケは驚く
「白炎……では、この男が、伝説の傭兵メイジ」
「えぇ、今回我が艦隊の海兵隊として、所属して頂いてます」
思わずフーケは息を飲む
伝説で、全てを焼くと噂される危険なメイジだ
邪魔すれば、敵味方関係無いとも言われている
「待ち人は未だ来ずか、仕方がない。まだ待機するから、燃やすモノを用意してくれるか?」
そう言って、フーケを見るメンヌヴィル
その視線は目に光が無いが、フーケの背筋を凍らせるには充分だ
「味方は燃やさないで頂けます?きちんと、貴方方が活躍出来る舞台は用意します」
フーケの様子を見て、ホレイショが苦笑する
「俺は炎が燃やす時の臭いが堪らなく好きでね、あの臭いを嗅ぐとどうにもいきり勃つ。この女は旨い臭いが嗅げそうだ」
『う、コイツ、パイロマニアだ。燃やされながら犯されるのは、ゴメンだよ』
思わず真っ青になりながら杖を構えて、後退りするフーケ
一応メンヌヴィルなりの称賛なのだが、そんな事はフーケに伝わる訳がない
「メンヌヴィル殿、貴方の冗談は笑えないので、ミスが真っ青になってますよ?」
「ふん、この程度でビビるんじゃ、この先付き合いきれんぞ?何せ、竜騎士隊との合同作戦の予定だろう?」
「…本当かい?司令」
思わずフーケが問い質し、ホレイショが頷く
「ですから、ワルド子爵を待ってたんですがね」
「うちの隊長の不手際を謝罪するよ。代わりに、あたいが打ち合わせを代行する。実際に、事務関係はあたいが全部やっているからね」
フーケがそう言うと、メンヌヴィルは光の無い目でフーケを睨み、挨拶を交わす
「では宜しくだ。マチルダさんよ」
「!?」
フーケが驚くと、メンヌヴィルがつまらなそうに応じる
「クロムウェルに知られているんだから、特に驚く事でも無いだろう?」
「…結構有名なんかな?あたいって」
「では打ち合わせと行くか」
メンヌヴィルの発言で、ホレイショと共に、フーケは打ち合わせを行い始めた

*  *  *
哨戒行動中のガリア方面軍
ド=ポワチエは有能とは言い難いが、空陸双方に於いて、無難な指揮を用いる凡庸な指揮官との評価である
だが、出世欲は人一倍強く、現在の地位に収まったと言われ、戦死したラ=ラメーと共に、軍を代表する将軍ではある
今回の作戦司令に選ばれたのは、グラモンと同じく、軍内部の派閥紛争の結果である

「では、今回の封鎖作戦の司令官の選出に付いて、候補はこの面子だ」
議長を元帥格筆頭のゼッザールが行う
作戦会議での名前には、ゼッザール、グラモン、ミラン、ポワチエ、ウィンプフェン、更にトリステインに帰順の意思を示した、ボーウッドの名前が上がっている
「私は辞退申し上げる」
集まった将官達の中からアニエスが発言し、皆の注目が集まる
「ミラン殿、理由は?」
議長のゼッザールが促す
「確かに近衛隊長として私は元帥格だが、今回の作戦は空軍主体だ。私は陸軍出身であり、不適と判断する」
「ミラン殿の意見は最もですな。反対の方は?」
ポワチエがすかさず発言し、誰も反対しない
アニエスの意見は至極真っ当であり、反対を唱えられないのだ
「私も辞退する」
「ボーウッド客員提督。理由を」
「私はまだ、トリステイン軍に慣れていない。先の戦で敵対したアルビオン人に指揮を任せていられる程、トリステイン軍人に誇りが無いとは思えん」
ボーウッドの意見も最もだ
こうして、有能だが癖のある二人が外され、更に会議が進行する
「では、空軍からとして、ポワチエ閣下と私、ウィンプフェン辺りで」
「却下!却下却下却下だ!」
すかさずジェラールが発言し、空気が緊張する
この男は空軍出身現陸軍、近衛隊長にして元帥格
そして性格は、快楽主義の皮肉屋だ
なまじ有能だけに、始末に終えないのである
発言権は、同じ元帥格である年長のゼッザールに次いで強い
その男が猛烈に反対したのだ
ゼッザールが場の事を考えて、議長役に徹してるのとは真反対である
「理由を」
かろうじてウィンプフェンが声を出し、ジェラールが机の上に、その長い両足をドカッと乗せ、喋り始める
「空軍出身?関係ねぇな。有能且つ強い人間が、指揮官を務めるべきだ。有能さなら多分、ボーウッド殿が一番だ。だが本人が言う通り、トリステインにまだ馴染んでない。だから、ゼッザール隊長と参謀にボーウッド殿の組み合わせで、ラ=ロシェールを任せて、空軍出身の俺がガリア方面に出張った方が良い」
要するに、ジェラールは二人が嫌いなのである
「俺なら空軍の仕組みに詳しいぞ?何せ元空軍だからな」
「ジェラール、せめて足を降ろせ」
アニエスが咎めると、ジェラールは嫌ぁな顔をする
「だってよ、コイツらに任せたら兵が無駄に死んじまう。俺があん時、ラ=ラメーの所に居れば、全滅しなくて済んだっての!!」
ダン!
脚で机を叩き、周りを緊張させる
ジェラールは先年度の年度末迄、ララメーの幕僚だったのだ
その後に、ヒポグリフ隊隊長に人事異動で就任している
「ふん、今ボーウッド殿が一番有能と言ったではないか。グラモン閣下は、ボーウッド殿相手に、勝てたと言うのか?」
ポワチエが発言すると、ボーウッドが手を上げて発言を求め、ゼッザールが促し発言する
「私がトリステインに帰順した後、状況を再現した机上演習を近衛隊長や志望者と行いましてな。グラモン閣下は、確かに全滅を免れる指揮を行ってます。若いのに近衛隊長なのは、伊達では無いですな」
そう、近衛の元帥格は決して伊達ではない
アンリエッタの指名は、自分自身の手駒の強化の為に行われている
守旧派相手では、若い王女の意見は通らない
だから、可能な限りの人事権を行使して、最低でも自分自身の身の回りを強化する事にしたのである
今迄の伝統を支えて来た者
此からの未来を秘めし者
一生を賭けて、頂点に立とうと足掻く者
才覚であっさり頂点に立ちし者
爵位に対する自尊心を持つ者
爵位に無頓着な者
色々な思惑が絡み、互いが互いの利益と軍務とを天秤にかけ、自身が勝利に貢献し、名誉を受ける事を望む
所詮は軍人も人なのだ
「…あい解った。グラモン閣下の意見は、確かに正しいかも知れない。が、やはり認められん。ゼッザール閣下は、トリスタニアから離れるべきではない。ゼッザール閣下は、トリスタニアの砦だ」
ポワチエのこの言葉にウィンプフェンはおろか、参謀達迄頷く
確かに最強の戦力がトリスタニアから離れるのは、色々と不安が有るのだ
ジェラールがその様を見て大きく舌打ちし、顔をそむける
ジェラール以外にも真意は知れているが、隠さないで態度に出すのが若さだ
「確かにゼッザール殿がトリスタニアから離れるのは、承服し難いのは理解出来る。だが現実問題として、兵力の逐次投入なぞ、無駄に消耗するだけだ。現時点での最大戦力で封鎖して、その間に諸侯軍と国民軍の編成をした方が良いのでは無いか?」
アニエスが発言し、更に参謀達が頷く
この意見も理に叶っている
ジェラールに対する援護射撃だ
ジェラールは片眉を上げて、アニエスにウィンクするが、アニエスは完全に無視する
そして、ジェラールにもその方が有難いので、反応しない
近衛は近衛として、連携してるのだ
勿論ゼッザールは、近衛派である
『やはり、若い連中は活気があって良い。陛下は、中々面白い人選をして下さったものだ』
内心思うが、顔にすら出さず、議長に徹する
「そう言えば、元近衛副長はどうしてますかな?戦力としては、非常に強力と伺ってますが?」
ウィンプフェンが発言し、ボーウッドが苦い顔をする
「あれは、確かに強力でしたな」
「駄目だ。奴は今、新型艦の開発にかかりきりだ。奴以外には開発出来ん。参戦するにも、上陸作戦前後になる。現時点では参戦は無理だ」
「…あぁ、此ですか。竜騎士用の新兵器の設計製作に、全て関わってるんでしたな」
アニエスが否定すると、手元の書類を捲り、ウィンプフェンは呟く
こうして作戦会議は長引き、最終的に決定されたのが現在の布陣である
指揮能力を問題視されたポワチエだが、ボーウッドも付けず、ウィンプフェンと共に艦隊指揮を無難に行い、着々と成果を挙げている
野心のみで、現在の地位に着いた訳では無いのだ
そんな事は百も承知で、ジェラールは嫌ってる
「ったく、グラモンめ、奴の増長は度が過ぎる。まだ平民出身のミランの方が、扱い易いわい」
艦隊旗艦の作戦テーブルの上で、机上の配置を睨みながらポワチエが毒付く
「果たしてそうでしたかな?近衛は近衛で、援護してた様ですが?」
同じくウィンプフェンも報告を元に、配置を着々と変更している
「所詮近衛なぞ、全隊合わせて半個連隊に届かぬ勢力ではないか」
「ですが、近衛一隊で、連隊に届く戦力です」
「だから不愉快なのだ。奴らは陛下の裁量以外からは自由だ。あの愚連隊どもめ。平時でも常に動いている我々と、同じな訳があるか!」
「ですな」
勿論ポワチエもウィンプフェンも、他に出来ない仕事を近衛隊が行い、自分達がこき下ろす程、暇してる訳では無い事自体は承知している
だがまぁ、自身の組織を最上に置き、他をこき下ろすのは、世界が変わり体制が変わろうとも一緒だ
そんな折り、伝令が作戦室に入室して来る
「報告、定期便です」
「何時も通りだ、艦長に伝えろ。相手の消耗を誘え。グリフォン隊を上手く使えとな」
「ですが、今回は竜騎士連れて来てます。数10」
「何の為に1000メイルで哨戒している?空戦高度は此方に分がある。蹴散らせ」
「ウィ」
パタン
「ふん、エアカバーに連れて来ても、数が足りんな」
ポワチエのその言葉に、ウィンプフェンも頷いた
空戦に於いては、搭乗するメイジの技量にクラス、搭乗する幻獣の種類が大きく左右する
竜騎士と衛士隊の最大の違いは、搭乗者のクラスだ
竜騎士がドットがメインでラインやトライアングルに対し、衛士隊は最低がラインで、トライアングルもゴロゴロ居る
空戦高度を幻獣騎兵に合わせた場合、そのまま射程が幻獣騎兵のが長くなる
また身軽な為に小回りが効き、回避に優れる
速度と破壊力に優れ、最大高度が高い竜騎士であっても、集団でクラスの高い連中に襲われたら堪らない
タルブ戦で幻獣騎兵相手に高度を下げなかったのは、理由が有るのだ
5倍の数の幻獣騎兵に集られたら、竜騎士と言えども、あっさり撃墜される
そして、今回の戦場は高度1000メイル、防衛はトリステイン側であり、地の利はトリステインにある
艦隊から飛び立ったグリフォン隊と、アルビオン竜騎士が空中で魔法の応酬を交わしたかと思うと竜がブレスを吐き、トリステイン側の魔法そのものを、その強力な火炎で無力化しつつ交錯する
交錯前の衛士隊の動きは、正に華麗そのものだ
お互い三騎一小隊で行動するが、竜騎士隊一小隊に対し三個小隊で当たり、小隊中の風使いにより力を増した羽ばたきで、左右と上方にかわし、そのまま急旋回での左右上方からのクロスチャージ
当然一瞬の事なので当たらないが、当たってしまったら最悪だ
交錯した竜騎士たちの内、一騎ランスに捉えられ、串刺しにされたまま血を流す
騎士には当たらなかったが、竜の首に当たってしまい、そのまま墜落していく
最も、衝撃に耐えきれず、当てた衛士も構えてた右手をだらんとしている
相対速度数100km/hの大質量の衝突である、当然と言えるだろう
見てる両陣営から歓声が上がり
敵手とは言え、交錯した一瞬で撃墜した騎士を称える
最もやられた方も黙らず、そのまま再激突する為に格闘戦に移行し、艦隊同士も撃ち合いを始める
「ようし、そのまま、敵の撃ち方誘えよ?」きちんと作戦目的に添い、敵の弾薬を消費させる為に撃ち、射程外に逃れる
グラモン程の強引な統率で指揮し、乱れず行動する程では無いが、ポワチエは各艦長の技量に任せて、行動させる方法を取っている
その為に行動に若干のラグが生じるが、特に問題は出ていない
そして、本日のお客さんも、無事にお帰り頂く事に成功したのである
「次の元帥杖は儂が頂く。グラモンなぞに邪魔されてたまるか!!」

*  *  *



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