88 :ある吟遊詩人の手記 ◆mQKcT9WQPM :2007/02/21(水) 16:05:18 ID:+r65gcO1 
これは、ある男の、悲劇の物語。 
己を犠牲にし、世界を守った、ある男の、悲劇の物語−−−−。 




…そうして、世界は平和になりましたとさ。オシマイ。 
え?各国が常時睨みあってる今の世界のどこが平和だ、って? 
アナタなかなか皮肉家ねえ。 
たしかににらみ合ってるけど。 
アナタその原因知ってる? 
…ふむふむ。版図拡大に経済侵略、民族対立ときたか。 
ぜーんぶハズレ。 
じゃあお姉さんがいいことおしえたげる。 
各国がにらみ合いしてるのは、とある男を手に入れるため。 
…んな馬鹿な、って…。 
ホントだからしょうがないじゃない? 
じゃあもう一個おしえたげる。 
列強各国の第一王位継承者、実は全員兄弟だって知ってた? 
目が点になったね。あはは、大ボラもたいがいにしろ、って? 
ホントよ? 
トリステインの第一王子が長男かな?一番年上だし。 
そそ、その魔法騎士。彼が剣を修めたのは、実の父に喧嘩売るためだってもっぱらの噂よ。 
次が、ガリアの三つ子姫たち。有名でしょ? 
そ、水と風と火の巫女。こっちはちょっと違って、すっごいファザコンらしいんだわ。母親の教育らしいけど。 
そんで次が、エルフの統領の息子。 
…エルフの統領がなんで?って顔ね。まあ、今の統領は半分人間らしいし。そのへん絡んでるんじゃない? 
ゲルマニアはガリアに統治されちゃったし、このアルビオンも今はトリステインのものになっちゃったし。 
この三国が、ある男を血眼になって捜してんのよ。 
…っていうか、各国の王様が、よね。みんな女王だけど。 
…やっとわかった? 
そ。そういうこと。 
三人の女王に手を出した命知らずの馬鹿がいるのね。 
しかも、ご丁寧に全員に種つけちゃったわけ。笑える話よね。 
で。なんで逃げてるのかって? 
理由は簡単よ。彼、ある女性に『飼われて』んの。 
何?文字通りよ?含みもなーんもなしで。 
その女性に頭が上がらないから、逃げてるわけ。 
まあ、もしどこかの国が彼を手に入れたりしたら…。間違いなく全面戦争ね。 
ほら、あんたも衛視の詰め所かなんかで見たことあるでしょ? 
『黒髪の男』の賞金首。アレよアレ。 
…はは、ものすごい金額だから冗談だろうって思ってたって? 
そーねー、確かにすごい額よねアレ。あの金額あったら、軍隊編成できるもんね。 
でも、あんた見たところ旅人みたいだけど…。 
彼に喧嘩売るのだけは止めたほうがいいわよ? 
あの賞金が冗談じゃないってわかるから。 
彼はかつて、たった一人で七万の軍勢を一人で止めて、一人で三万の軍を敗走させて、一万の軍隊を率いて戦った英雄よ。 
…そ。かつての『トリステインの盾』。 
今じゃ『最強の種馬』なんて呼ばれてるけどね。 


89 :ある吟遊詩人の手記 ◆mQKcT9WQPM :2007/02/21(水) 16:07:26 ID:+r65gcO1 
…あ、いらっしゃーい。ってお兄ちゃん。 
…何?また嫁と喧嘩?はいはい、馬小屋なら開いてるから自由にどうぞ? 
ん?今の?昔世話になった人。今はこっちが世話してんだけど。 
時々夫婦喧嘩してここに逃げてくるの。まー、嫁に頭が上がらない典型的なダメ夫ね。 
で、なんだっけ。 
ああ、なんで行方がわからないのかって?魔法で探せないか、ってか。 
それは無理。その飼い主の女性が実は、『虚無の担い手』でね。魔法の追尾を虚無の魔法で切っちゃうのよ。 
…いらっしゃーい。あらルイズさん。 
…来てないですよー、馬小屋も空ですからねー。 
そ、今のがさっきの人の妻。…ひどいんじゃないかって? 
…宿屋ごと魔法で消し飛ばされるよかマシだって…。被害は最小限に留めたいじゃない? 
…おー、今日もよく響く断末魔だこと。 
…ん?結構こういうことあるのかって?…そーねー、半年に2回はあるかな? 
あんたも気をつけなさい。気の強い女を嫁にすると大変よ? 
あー、あなたー?町にいくなら仕入れもお願いねー?あと娘の誕生日プレゼント忘れないでね? 
忘れたらくびり殺すから♪ 
…あ、ごめんなさいねー。あの宿六、釘さしとかないとすーぐ忘れるのよ。 
で、なんだっけ。 
ああそうそう、宿帳だったっけね。はいこれ。 
ん?この宿屋の名前の由来? 
あはは、そんなのないない。元は旦那の持ち物でね、『鹿角亭』っていったんだけど。今風じゃないじゃない? 
だから、私の名前で、『タニアズ・イン』にしたの。洒落てるでしょ? 
…はい、まいどー。一泊ね?も少し泊ってけばいいのに。 
え?急ぎなの?そりゃあ仕方ないわねえ。 
一週間も泊ってけば、ウエストウッド名物の天下分け目の痴話げんかが見られるのに。 
…疲れた顔してどーしたの?若いのにだらしないわねえ〜。 

〜放浪の吟遊詩人・ヒースクリフ記す〜 

後に、彼のこの体験を記した著書のタイトルは、ハルケギニアの歴史に刻まれることになる。 
『気の強い女に手を出すな』

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