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- 14-27 へ行く。
ルイズの部屋の暗がりの中、サイトは立て膝でルイズのベッドの側に座っている。
そして、ただ黙ってルイズの暴虐を受け止めつづけていた。
「あんた犬の癖に、……それに平民とキスするなんて生意気よ!」
サイトはその腫れ上がった顔に笑顔を浮かべる。
「ああ、俺って愛されてるんだなあ……。」
ルイズはそんなサイトの言葉を聞き、思わず蹴り飛ばす。
サイトはもんどりうって飛ばされる。
重い椅子にでもぶつかったのであろうか、ゴトリ、と鈍い音が部屋に響いた。
「バカ!もう知らない!」
やりすぎた、とルイズは思ったが言えなかった。
明日謝ろうと思い、そのまま布団をかぶるとベッドに潜り込んだ。
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その日、サイトは厨房へと行って飯を食べていた。
ルイズに食事を抜かれたわけではなく、シエスタに誘われたからであった。
食事が終わり口を拭いたあと、シエスタは強引にサイトの唇を奪った。
運悪く、そこをルイズに見られてしまった。
「あの犬! ……あいつの食事の用意がしてないと思ったらやっぱり!」
ルイズは悔し涙を浮かべて歯噛みする。
「平民になんか盗られてたまるものですか!」
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今日の出来事を夢に見ていたルイズは、刺激臭によって目を覚ました。
サイトの方を見ると、藁束のベッドも使わずにそのまま寝ている。
ルイズはいびきをかいて寝ているサイトの側に近寄った。
「このにおい、おもらししたの!? 早く起きて掃除なさい!」
ルイズはサイトを揺さぶる。 だが反応はなく、いびきをかきつづけている。
少し不信に思ったルイズは部屋の灯りをつけた。
「ひっ」と声をあげ、ルイズは声を引きつらせる。
灯りに映ったサイトの顔は腫れ上がり、目は虚ろなままだった。
鼻や耳からは血が流れた跡が残り、
石の床には乾きかけた血溜まりと、失禁のあとが池を作っている。
「だれか! 誰か先生を呼んで来て!」
ルイズはそう叫んだ。
…
「どうして、こんな風になっちゃったんだろう?」
ルイズはため息をつくと、ベッドに寝ているサイトを見た。
寮の空き部屋にサイトは運び込まれ、魔法による治療を四日間受けつづけていた。
教師たちは学生に与える影響を考え、その部屋にはルイズと医師意外の者を寄せ付けぬよう
隠匿の魔法をかけた。
最初に部屋にやってきたのはスクエア・クラスの力を持つ医師であったが、
サイトの状況を見るなり顔色を曇らせた。
医師は「これは……。」といったきり黙って魔法をかけ続けた。
あらかたの治療を終えると、教師が交代で魔法をかけることになり、現在へと至っている。
そして今日、最初の医師により最終的な判断が下されることになった。
…
「一命は取り留めました。生死には関わらないでしょう。」
医師の一言にルイズは顔を輝かせる。
「ですが、今後普通に日常生活を送るのは無理です。
頭部に…おそらく床に強く打ちつけのでしょうが…、なにより処置が遅すぎたようです。
おそらくあの状態で一時間半ほど放置されていたようです。」
無力感に溢れた表情をして、医師は立ち去った。
医師が去ったあと、オールド・オスマンはルイズを一目見るとこう言った。
「安心しなさい、使い魔をどうしようと裁く法はない。」
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さらに数日が過ぎた。
シエスタは学園から姿を消したサイトを探しつづけていた。
でも、どこを探しても姿が見当たらない。 ルイズも「知らない」というばかり。
シエスタは空を見上げると、「サイトさん、もう元の場所へ帰ってしまったのですか?」と呟いた。
ぼんやりと裏門のほうを眺めていると、誰か知らないメイドが学園へと入っていくのが見えた。
シエスタはよく分からないが、何かサイトにつながっている気がして、後をつけていくことにした。
…シエスタは、メイドが何もない壁の中に入っていくのが見えた。
いや、壁に見えるそこに、見えないけどドアが確実にあり、中からはルイズの声が聞こえてくる。
ドアノブを探り静かに開け、隙間から様子をうかがう。
「サイト、目が醒めたならさっさと働きなさい。 命令よ!」
その声に反応し、ベッドから這い出たサイトは床に転がった。
「あはは、転がっちまったな。 あれ、おかしいな。 右手と右足がうごかねえや。」
「もっと頑張りなさいよ。 私は何日かあなたの汚物の処理をしなくちゃいけなかったんだから」
そう言うとルイズは転んだサイトを踏みつけた。
もう、ルイズはサイトのことを疎ましく思っていたのだった。
その様子を見たシエスタは、サイトを哀れに思い嗚咽を漏らした。
「誰!?」
ルイズはドアの方へ振り向いたが、そこには誰もいなかった。