34 名前: 雪風の誘い [sage] 投稿日: 2007/10/09(火) 23:50:01 ID:JvrfybVF
 はああぁぁぁぁぁ〜……………………。 
 朝の魔法学院。その部屋の主であるタバサの口から、今日何度目かわからないため息が飛び出す。 
 考えているのは、昨日の大失態。サイトを癒していたところ、自分でもわからぬままにサイトに魔法で攻撃していた。 
 何であんなことしたんだろう……。 
 よ〜く考えてみた結果、原因は自分の欲だとわかった。自制しなきゃならなかったのに、欲が暴走した結果、あんなことになってしまった。 
 幸いサイトの怪我はたいしたことなくて、サイトの悲鳴を聞いて駆けつけたルイズにモンモランシーを呼んでもらって、事なきを得た。その後の言い訳は大変だったけど……。 
 言い訳の結果、サイトの悲鳴は私が起こした事故のせいということになった。モンモランシーは『タバサが失敗するなんて珍しいわね』と言ってた。個人的には、そっちのほうが助かる。欲が暴走したなんて、恥ずかしすぎて誰にも言えない。 
 サイトが怪我をしたのは、事故のせい。私たちの間では、そういうことになった。だったら、事故を起こした張本人である私が謝りにいっても、別に不思議なことじゃない。 
 そう考えたのは、三十秒前のこと。気がついたら、私は部屋から出てルイズの部屋に向かって歩いていた。 
 事故を起こした張本人の私が、被害者のサイトに謝りにいっても不思議じゃない。そして、謝罪の際にお詫びとして謝罪の品を買いに行くことを提案しても、不思議じゃない。 
 ……謝罪の印であって、決してサイトと出かけたいっていうわけじゃない……はず……だけど……。 
 その場面を想像すると、どうにも口元が緩んでしまう。 
 いけないいけない。自制しなきゃ。また暴走したら大変。 
 考えているうちに、ルイズの部屋の前に到着。深呼吸を一つして、気持ちを落ち着かせた後に、ノックをする。 
 返事はない。 
 もう一度ノック。 
 やっぱり返事がない。扉に手をかけると、鍵はかかってなかった。 
 何処に行ったんだろう。とりあえず部屋の中を見回すけど、誰もいない。わかりきってることだけど。 
 部屋に入って窓から外を眺めても、ルイズとサイトの姿は見えない。いったい、何処にいるんだろう。 
「ん? 何してんだ、タバサ?」 
 心臓が飛び出るかと思った。 
 私の背後――扉のほうから聞こえてきた彼の声。私が慕い、守ると誓った彼がそこにいた。手には、大量の洗濯物の入ったかごを抱えている。 
 洗濯してたんだ。だから、部屋にいなかったんだ。 
「何か用か?」 
「謝りに来た」 
 なるべくいつも通りに。淡々とした口調で。サイトに会えたのは嬉しいけど、それは隠して。怪しまれるから。 
「謝りにって、あれは事故だったんだろ? その時に俺に謝ってくれたからいいよ」 
「駄目。私が納得できない」 
 押して押す。サイトはこれに弱い。優しいから。あと、優柔不断だから。 
「でもな……」 
「だから、お詫びに何かあげたい」 
 サイトが困惑した表情を見せる。でも、気にしない。 
「それでタバサが納得できるって言うなら……」 
「そうしないと納得できない」 
 まだ悩んでいるみたいだけど、ここまできたらあと一押し。もう少しで私の勝ち。サイトとのらぶらぶでぇと……じゃなくて、お詫びのお買い物が待ってる。 
 でも、いつまで悩むつもりだろう。うんうんと唸るばかりで、サイトは返事をしてくれない。 

35 名前: 雪風の誘い [sage] 投稿日: 2007/10/09(火) 23:51:18 ID:JvrfybVF
「……私と行くのが嫌なら、無理に来なくてもいい」 
「あ、いや、行くよ!」 
 勝った。 
「じゃあすぐに用意して」 
 心の中で勝利の雄叫びをあげる。でも、やっぱりそれは顔に出さないし、実行しない。いきなり雄叫びなんて上げたら、ただの変な人。 
 サイトはあ〜、とかう〜、とか唸ってたけど、観念したのか洗濯物の入ったかごを床に置いた。 
「帰ってきたら何か言われるかもな」 
 ため息をついて、サイトは頭を掻いてる。 
「これしまったら行くからさ、ちょっと待っててくれよ」 
 私は素直に頷いた。早く行きたいけど、サイトにもサイトの仕事があるから、ここは我慢。それにしても、サイトの手際は異常なほどいい。使い魔としての生活が長いからだと思うけど、下手なメイドよりも手際がいいと思う。 
 うん、やっぱり手際がいい。仕事の効率がいい。これだったら、どこの貴族の世話も出来ると思う。 
『よっと……終わったぞ、タバサ。洗濯物しまうからな』 
『……』 
『しかしタバサも可愛い下着はいてるよな』 
『余計なこと言わなくていい』 
「終わったぞ、タバサ」 
 その声で、私は強制的に現実に引き戻された。 
 いけないいけない。サイトに変な子だって思われちゃう。サイトの仕事ぶりを見て、自分の世話をすることになったらなんてことを妄想するなんて、私はどうかしてる。 
「ついてきて」 
 サイトの顔を見ないで、私は歩き出した。今サイトの顔を見たら、絶対に頬が緩む自信がある。そんなみっともない顔、サイトには見せたくない。 
 前を歩く私の後を、サイトは黙ってついてくる。黙ってるだけで、何も話しかけてこない。私が無口だからかな? だったら、もうちょっと話すようにしたほうがいいかな。サイトともっとお話したいから。 
 でも、そう思っても私は何も行動できない。というよりも、話題が思いつかない。 
 必死に考えても、思いつくのは本のことばかり。あまり人と話さないで、本ばかり読んできたから、こんなところで影響してくる。 
「サイトは本を読まないの?」 
 とりあえず聞いてみるけれど、答えはわかってる。 
「あっちだとあんまり興味なかったから読まなかったな。こっちの本は読んでみたいな。でも無理だ。文字読めねえもん」 
 やっぱり……。サイトはこっちの文字が読めないから、本を読めるはずがない。せめて、サイトが文字を読めたら私のお勧めの本も……。 
 ……サイトが文字を読めたら? 
「じゃあ、私が文字を教える」 
「はい?」 
「損はないはず。文字が読めないと、色々不便」 
 サイトが悩んでる。嫌なのかな? 私に文字を習うの、嫌なのかな? 私が嫌いだから、習いたくないのかな? 
 不安が生まれてくる。不安がどんどん増殖する。その不安に潰されてしまいそう。 
 どうしてだろう。サイトに拒否されるのを、私は凄く恐れてる。別にこんなことを断られても、たいしたことないのに。サイトと一緒にいたいからかな。だから、私はこんなに怖いのかな。サイトと、離れたくないから……。 
「迷惑じゃないか?」 
「迷惑じゃない」 
「じゃあ、お願いしようかな」 
 その言葉で、私の不安は一気に消えた。その代わり、心の中は歓喜でいっぱいになる。 
 こんな単純なことで一喜一憂するなんて、私も結構単純……。でも、それも仕方ない。前から薄々思ってたけど、確信できた。私は、サイトを……。 
 塔から外に出て、シルフィードを呼ぶ。呼ぶとすぐに来てくれるあたり、なかなか便利。でも、結構うるさいのが玉に瑕。 
 私がシルフィードに乗った後、サイトも続く。その後に私が合図をして、王都に出発。 
「でも、何を買うつもりなんだ?」 
「サイトが望むものなら何でも」 
「そう言われると決めにくいな」 
「なら私が決める」 
 それだとただのプレゼントみたいになっちゃう。でも、お詫びの品ってそういうものかな。……そうだ、今度サイトに何かプレゼントしようかな。例えば、サイトが剣を持つときに滑らないような何かとか。……今度考えておこう。 
「それじゃあ、そうしてくれよ。急には思いつかないからさ」 
 コクリと私は頷いた。 
 ……お詫びの品物……何にしようかな? 
 そう考える私の心はとても弾んでいて……これ以上ないほど、楽しみな気分になっていた。

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