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607 名前:テファの憂鬱[sage] 投稿日:2008/01/22(火) 00:07:29 ID:D6e39aiM
「サイト、ちょっと聞きたいことがあるの。いい?」
「ああ。俺に答えられることなら、なんでも聞いてくれよ」
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何の気なしに軽くそう答えて、才人は次の言葉を待った。
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ティファニアに呼び止められたのは、ある夜のこと。
風呂から部屋に戻る途中、困り顔をしていた彼女にばったり出会ったのである。
彼女はそわそわ落ち着きなく周囲を見回すが、廊下には他に誰もいない。
深呼吸して、それから意を決したような顔をして、こう言い放った。
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「あの……あのね? 最近、おへその下がむずむずするの。これってヘンだよね?」
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……へその、下?
彼女の言葉に応じて、目を合わせていた才人の視線がつーっと下降した。
規格外の胸。くびれた腰。けしからん曲線の、さらにその下へ。
……布を隔てた向こう側は、彼女の言う、へその下。
そこには、女性の未知の部分……くらいしか、ないわけで。
かっと一瞬で血の上った頭がクラクラして、才人はよろけた。
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「……あー、なんだ。テファ。そんなこと男に聞いちゃいけません」
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あまりの発言に思わず鼻を押さえて、しかしどうにか佇まいを崩さずに言う。
なぜなら、彼女の表情に浮かんでいたのが、色気でなく怯えだったから。
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「でも……クラスのみんなはこんなお話してないの。わたしだけなのかな、って」
「そ、そんな事ないって。病気じゃねえし、生理的な事だから心配ないよ」
「そうなの? ……じゃあ、これって、どうすれば治るの?」
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ど、どうすれば? って……俺に言われてもね……。
そう答えようとした才人の脳裏に、一瞬、すばらしい光景が花開いた。
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ベッドの上。テファは困惑したような表情だが、ほんのり頬を染めていて。
自らその革命者をふにふにと揉んで……そう、あの時のあの感触を自分で味わって。
さらに怯えと期待の色の入り混じった目で、スカートの裾を指先でつまんで、そーっと、
ゆっくり、じっくり、たくし上げてみたりして……。
それからそこを下着越しに指で……。
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……って、友だちのテファが悩んでるのに、こんな妄想してちゃダメだろ、俺!
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我に返った才人はばたばたと大きく腕を振って、妄想を追い払う。
妙な行動をしている才人を、ティファニアは心底不思議そうな顔で見つめた。
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「……バカっ! ヘンな事聞くなよ!」
「あ、そ、そうだよね。ごめんね。迷惑だよね……。本当にごめんね……」
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叫ぶような声に元来気の弱い彼女はびくんと身をすくませた。
それから泣きそうにしょんぼりしたのを見て、才人は慌て、自分の軽率さを後悔した。
彼女にとって、今この学院で心を許せる相手は少ない。怯えさせてはかわいそうだ。
だから、罪滅ぼしとばかりに、できるだけ優しい笑顔と声を作って、答える。
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「あのさ、大声だして悪かったよ。迷惑とかはいいけどさ、男にはわからない事なんだ」
「?……でも、こんな話できるのは、サイトくらいなの」
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確かに、こんな話をできるほどの仲の相手は、まださすがにいないだろう。
何しろ編入してから、さして日が経っていない。
……かと言ってこんな事を素直に自分が教えるわけにもいかない。才人はうなった。
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そうだ、信頼のおける、かつテファと馴染みの深い誰かに託そう。それしかない。
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「テファ、ルイズなら平気だろ? 知ってるかわかんねえけど、聞いてみたら?」
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608 名前:テファの憂鬱[sage] 投稿日:2008/01/22(火) 00:08:16 ID:D6e39aiM
「あ。……うん。聞いてみるね」
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にっこり顔を綻ばせたテファは、すぐさま才人の横を駆け抜けた。
あれ、今日はずいぶんせっかちだな。今すぐ知りたいとは、またエロ……い……。
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ほっとした才人が、ティファニアの背中を見送ろうと、笑顔で振り返ったその先。
彼女の影からはみ出しふわりと揺れたのは、桃色の髪だった。
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才人の笑顔はそのまま凍りつき、ざーーっと音たてて、顔から血の気が引いた。
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「ルイズ。あのね、ちょっと聞きたいことがあるの」
「どうしたの?」
「最近、おへその下がむずむずして困ってるの」
「…………おへその下?」
「さっきサイトに聞いてみたんだけど、怒られちゃったの」
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それは言わないでくれ、テファーーー!!
才人は内心で、思い切り叫んだ。
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……なんでさっきちゃんと口止めしなかったのかと、自分に問いたい。
ああ、俺死んだネ。うん、今日死んだ。確定した……。
どんな痛い攻撃を食らうのか、連鎖的に想像した才人の肩が震えだした。
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「どうしてそんなことで怒るのよ?」
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……ん?
ルイズの不可解な反応に、才人は恐怖をわすれ、耳を傾ける。
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「だって、かゆいなら……ホラ、こうやって掻けばいいんじゃない?」
「でもそれだと、この辺はかいた跡が残っちゃうの……」
「そういう時は叩くといいって聞いたわよ」
「…………あ。少しだけど、かゆくなくなったみたい」
「でしょう?」
「ありがとう、ルイズ!」
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……もしかして、それはあれですか? ただの、じんましんってやつですか?
あぁ、そうだよな……テファって、どれが恥ずかしいのか、どれが聞いちゃまずいのか、
そういや、まだよくわかってなかったんだよなあ……。
あはは。あははは。俺、バカだなぁ。…………い、今のうちに逃げよう。
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襲い来る嫌な予感に、抜き足差し足、この場から遠ざかろうと思ったその時。
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「サイトってば、どうしてこんな事でテファに怒ったのかしら?」
「こういう事は男に聞いちゃだめ、って言ってたけど……わたし、よくわからないわ」
「…………男に? …………へぇー。ふぅーん。なるほどねぇ」
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ルイズの声が、にわかに冷ややかな響きを帯びた。
それから、かつんかつんと響きだした靴の音が、才人の目の前で止まる。
二人は、お互いに凍りついたような引きつった笑顔で対峙した。
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「……わたし、いま機嫌がいいの。申し開きがあるなら、聞いてあげてもいいわよ、犬」
「えっと……彼女は突拍子もない質問をすることがあるので、良かれと思いまして」
「そう。でも、そんな勘違いしたんだもの、想像の一つくらいしたのよね、この駄犬は?」
「ふ、不可抗力です」
「そんな不可抗力は認めません。主人である私が認めないので、これは重罪です」
「そ、そうですよ、ね…………た、助けて! テファ!」
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思わず駆け出し、逃げながらティファニアに救いを求めた声は、既に悲鳴。
しかし、直後発動した爆発によって数メイルふっとび、衝突した壁に頭がめり込んだ。
人の話はよく聞こうと……。彼は壁の中でまさに「痛」感したのであった。